説明

焼成炉炉体構造

【課題】アルカリ金属類を多量に含む製品を焼成しても炉材が浸食されることがない、フラット天井式の焼成炉炉体構造を提供する。
【解決手段】天井壁を側壁2、2間に横架された剛性部材5で保持したフラット天井式の焼成炉である。本発明では剛性部材をSi含浸SiC製のビームとして天井壁の厚みの中間高さに位置させ、そのビームの下方にセラミックスピン9で断熱材を保持させる。これによりSi含浸SiC製の剛性部材6は断熱材の内部に埋設されることとなり、アルカリ金属蒸気を含む腐食性ガスと剛性部材6とが直接接触することがなくなる。また仮に腐食性ガスが浸入してきても、温度が低いので剛性部材6の溶融が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱時にアルカリ金属の蒸気を発生する製品を高温で仮焼したり焼成したりするために使用される焼成炉炉体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な焼成炉の天井は、耐火レンガでアーチを形成したアーチ天井である。しかしながら、このアーチ天井は専門の築炉職人しか施工することができず、施工性が悪いという問題がある。また耐火レンガ製であるために熱容量が大きく、炉の停止や立ち上げに長い時間を要するという問題がある。このため、例えば特許文献1に示すように、炉幅方向に多数の剛性ビームを横架し、これらの剛性ビームにより天井部材を保持したフラット天井が開発されている。
【0003】
このフラット天井式の炉は、アーチ天井の炉に比較して施工性が良く、築炉し易い利点がある。また、レンガ天井に比べて熱容量を大幅に減らすことが出来るため、省エネ効果も期待出来るうえ、炉停止、炉の立ち上げも短時間に行うことが出来るなどの利点がある。なお特許文献1ではキャスタブル耐火物からなる天井壁を剛性ビームから吊下げているが、剛性ビームを高温強度に優れたたSi含浸SiC製やSi製とし、その上にセラミックファイバー製の天井壁を支持した構造も広く普及している。
【0004】
しかしながら、近年、Li、Na、K等のアルカリ金属類を多量に含む製品を焼成する場合があり、これらの製品を加熱するとアルカリ金属の蒸気が発生する。この蒸気は特定温度域(例えば1000℃)に達すると炉材中のSiと反応して溶融させ、炉材の融解、剥離、強度低下、耐火断熱性の低下を起こすという問題があった。特に、Si含浸SiC製の炉材を用いた炉においてLiを含有する製品を1050℃以上の温度域で焼成する場合には、Si含浸SiC製のビーム材は酸化により表面部がSiOとなり、気化したLiと反応して液化溶融を起こすという問題があった。同様に、Si製のビーム材もまた、気化したLiと反応して液化溶融を起こすという問題があった。
【0005】
そこでこのような場合には、天井アーチ煉瓦にアルミナ純度を上げた耐火煉瓦、耐火熱煉瓦を使用した炉を用いて焼成することが考えられる。しかし、天井アーチ煉瓦のアルミナ純度を上げると煉瓦重量が増し、天井アーチが自重で垂れやすくなる。また、炉体重量が増加し、炉上げ、停止に時間がかかると共に、放熱量が多くなるという従来通りの問題が生じてしまう。
【0006】
また、Si含浸SiC製やSi製のビーム材の表面に耐食性コート材を吹き付けてLi蒸気との接触を防止することも考えられる。しかし気化したLiはコート層を通過し、コート材中のシリカと反応して溶融腐食が進行するため、定期的に炉を停止してコート材の再吹付けが必要となり、実用性に乏しいことが確認された。
【特許文献1】特開平8−136154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した従来の問題を解決し、アルカリ金属類を多量に含む製品を焼成しても炉材が浸食されることがない、フラット天井式の焼成炉炉体構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明は、天井壁を側壁間に横架された剛性部材で保持したフラット天井式の焼成炉炉体構造において、前記剛性部材をSiC製またはSi製として天井壁の厚みの中間に位置させ、その下方にセラミックスピンで断熱材を保持させることにより、前記剛性部材を断熱材の内部に埋設したことを特徴とすることを特徴とするものである。
【0009】
剛性部材をSi含浸SiC製とすることが好ましい。
【0010】
剛性部材は、アルカリ金属の蒸気を含む腐食性ガスと接しても溶融しない温度となる位置に設置することが好ましい。さらにセラミックピンはアルミナピンであり、その下端にアルミナ板を取り付け、アルミナ板の上面で断熱材を保持させた構造とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフラット天井式の焼成炉炉体構造は、天井壁を支持する剛性部材をSiC製またはSi製として天井壁の厚みの中間に位置させ、その下方にセラミックスピンで断熱材を保持させることにより、前記剛性部材を断熱材の内部に埋設した構造であるので、施工が容易で省エネルギー効果に優れるうえに、焼成する製品より発生するアルカリ金属を含む腐食ガスに剛性部材が直接曝されることがなく、溶融腐食されることを防止することができる。
【0012】
なお、剛性部材をSi含浸SiC製にすると、剛性部材の強度と剛性を向上させることが可能となる。
【0013】
特に剛性部材の設置位置を、アルカリ金属の蒸気を含む腐食性ガスと接しても溶融しない温度となる位置としておけば、断熱材の隙間から腐食性ガスが浸入しても、溶融腐食を防止することができる。さらにセラミックピンをアルミナピンとして、その下端にアルミナ板を取り付け、アルミナ板の上面で断熱材を保持させた構造とすれば、Li蒸気による浸食から剛性部材をより確実に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は本発明の実施形態を示す断面図、図2は天井部分の詳細図である。この実施形態の焼成炉は、被焼成物である製品を移動中に焼成するローラハースキルンである。
【0015】
1は炉の底部であり、耐火レンガや耐火断熱レンガで構成されている。この底部1の両端には、側壁2が立設されている。この側壁2も耐火レンガや耐火断熱レンガで構成されている。側壁2の外側は、セラミックファイバーを押し固めたセラミックボード製の外壁3で覆われている。
【0016】
4は炉内長手方向に一定ピッチで配置された製品搬送用のセラミックス製のローラであり、側壁2及び外壁3を貫通して回転可能に取り付けられている。これらのローラ4は、被焼成物の進行方向に沿って並列して取り付けられ、炉外に設けられた駆動装置(図示せず)により一定方向に回転され、被焼成物を搬送する。
【0017】
ローラ4の上下には、管状のセラミックヒータ5が側壁2及び外壁3を貫通するように取り付けられている。このセラミックヒータ5により、炉内は所定温度に加熱されている。しかし加熱源はこれに限定されるものではなく、任意の加熱手段を採用できることはいうまでもない。
【0018】
6は左右の側壁2、2間に横架されたSiC製の剛性部材であり、この実施形態の剛性部材6は、図2に示すように断面が四角形の角管状のビームである。また、この実施形態では剛性部材6はSi含浸SiC製である。Si含浸SiCはSiCの粒子間に金属Siを含浸させて通気性をなくした材料であり、空気と接触する表面が酸化するだけで内部に空気が浸入しないため、1400℃以下であれば十分な強度と剛性を有する材料である。なお、剛性部材6は、Si製であっても差し支えない。なお、側壁2の剛性部材6が横架されている部分は、凹陥した形状となっている。
【0019】
本発明においては剛性部材6により天井壁を支持している。この実施形態では剛性部材6は天井壁の厚みの中間高さの位置にあり、その上にはセラミックボード7と、セラミックファイバー製のフェルト8が載せられている。このセラミックボード7とフェルト8とは断熱性を有し、炉内から炉外への熱伝導を抑制している。
【0020】
また剛性部材6の下方には、Li、Na、K等のアルカリ金属に対して耐腐食性を有するセラミックスピン9で断熱材を保持させることにより、前記剛性部材を断熱材の内部に埋設した構造となっている。この実施形態ではセラミックスピン9はアルミナピンであり、軸部9aと軸部9aの基端に設けられた頭部9bから構成され、軸部9aの先端はネジ部9cとなっている。このピン9は剛性部材6の上部から下部に向かって、ある間隔をおいて複数貫通形成された貫通穴6aに、頭部9bを上にして上方から挿入されている。貫通穴6aの外径は、頭部9bより小さいので、頭部9bがピン9の剛性部材6からの脱落を防止している。
【0021】
10はセラミックスピン9の下端に取り付けられたアルミナ板である。このアルミナ板10には、剛性部材6に吊り下げられたピン9の間隔と等しい間隔の取付穴10aが形成されている。この取付穴10aには、ピン9の軸部9aが貫入され、セラミックワッシャー11をピン9のネジ部9cに螺入することにより、アルミナ板10をピン9で吊り下げている。なお図2に示されるように、アルミナ板10とワッシャーの間に耐熱性のクッション材12を配設することが好ましい。
【0022】
このアルミナ板10の上には、耐熱性のセラミックボード13が載せられている。図2に示すように、この実施形態ではセラミックボード13は2層構造となっている。また剛性部材6、6間にはセラミックファイバー製のブランケット14が配設されている。
【0023】
このように、剛性部材6とアルミナ板10の間に断熱材であるセラミックボード13を配設して剛性部材6を断熱材の内部に埋設した構造としたので、図2に示すように、炉内部の温度が1100℃であっても、剛性部材6の設置位置の温度は850℃であり、溶融腐食が起こる1050℃を大きく下まわり、たとえ剛性部材6がアルカリ金属を含む腐食性ガスと接触しても、溶融腐食されることを防止することが可能となる。
【0024】
しかもこの実施形態のように、剛性部材6下側に、アルカリ金属に対して耐腐食性を有するアルミナ磁器製のアルミナ板10を配設した構造とすれば、焼成する原料より発生するアルカリ金属を含む腐食ガスが剛性部材6に到達する危険性はさらに低下する。
【0025】
なお、アルミナ磁器はアルミナ純度が高いほど、Li等のアルカリ金属との反応に対して強い耐腐食性を有するが、アルミナ純度が高いほど熱衝撃に弱く、割れ易い。また、アルミナ磁器は、長さが長いほど熱衝撃に弱く、割れやすい。そこで、アルミナ板10を一定の長さで複数に分割することにより、アルカリ金属に対する耐腐食性を確保しつつ、熱衝撃に対する耐性を持たせている。
【0026】
本発明の焼成炉はこのような天井構造を採用したことにより、アルカリ金属類を多量に含む製品を焼成しても剛性部材6が浸食されることがないうえ、天井部の熱容量は小さくなり、炉の停止や立ち上げを短時間に行うことができ、また築炉も容易である。
【0027】
なお、連続焼成炉には炉内の温度分布を適正に保つために、天井壁から垂下された耐火性の仕切壁15が設けられているのが普通である。本実施形態においては、図3に示すように、仕切壁15の上部は、隣接する剛性部材6の間に配設され、剛性部材6を貫通するピン16が、仕切壁15の上部を貫通し、剛性部材6と仕切壁15の間には耐熱製のクッション部材18が配設されて、仕切壁15が剛性部材6で挟持されている。ピン16の先端にはワッシャー17が螺入されていて、ピン16の剛性部材6からの脱落を防止している。仕切壁15も熱衝撃による割れを防止するために、炉幅方向に複数枚に分割されている。
【0028】
以上に説明した実施形態の焼成炉は、セラミックヒータを使用した電気加熱方式の焼成炉であるが、本発明はガス燃焼加熱方式の焼成炉に適用できることはいうまでもない。また、連続焼成炉のみならずバッチ式の焼成炉に適用できることはいうまでもない。また、実施形態の剛性部材6は、角管形状であるが、円管状であっても、中実の円柱形状や角柱形状等であっても差し支えない。また、実施例の剛性部材6は、Si含浸SiC製であるが、SiC類として再結晶SiC、反応焼結SiCであっても差し支えない。
【0029】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う焼成炉炉体構造もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態を示す断面図である。
【図2】図1の天井部分の詳細図である。
【図3】仕切壁の取付構造である。
【符号の説明】
【0031】
1 底部
2 側壁
3 外壁
4 ローラ
5 セラミックヒータ
6 剛性部材
6a 貫通穴
7 セラミックボード
8 フェルト
9 ピン
9a 軸部
9b 頭部
9c ネジ部
10 アルミナ板
10a 取付穴
11 セラミックワッシャー
12 クッション材
13 セラミックボード
14 ブランケット
15 仕切壁
16 ピン
17 ワッシャー
18 クッション材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井壁を側壁間に横架された剛性部材で保持したフラット天井式の焼成炉炉体構造において、前記剛性部材をSiC製またはSi製として天井壁の厚みの中間に位置させ、その下方にセラミックスピンで断熱材を保持させることにより、前記剛性部材を断熱材の内部に埋設したことを特徴とする焼成炉炉体構造。
【請求項2】
剛性部材をSi含浸SiCとしたことを特徴とする請求項1に記載の焼成炉炉体構造。
【請求項3】
剛性部材を、アルカリ金属の蒸気を含む腐食性ガスと接しても溶融しない温度となる位置に設置したことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の焼成炉炉体構造。
【請求項4】
セラミックピンはアルミナピンであり、その下端にアルミナ板を取り付け、そのアルミナ板の上面で断熱材を保持させたことを特徴とする請求項1〜請求項3に記載の焼成炉炉体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−45816(P2008−45816A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221863(P2006−221863)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】