説明

焼結体の製造方法および焼結体

【課題】例えば、用いる金属粉末が凝集し易い微小なものであっても、優れた機械的特性を有する焼結体を確実に製造可能な焼結体の製造方法、およびかかる製造方法により製造され、優れた機械的特性を有する焼結体を提供すること。
【解決手段】本発明の焼結体の製造方法は、金属を主成分とし、表面に金属の酸化物の被膜を有する一次粒子を用意する一次粒子準備工程(第1の工程)1と、一次粒子の表面の少なくとも一部を、酸化物を還元し得る還元剤で被覆して還元剤被覆粒子を得る還元剤被覆粒子形成工程(第2の工程)2と、還元剤被覆粒子と有機バインダーとを含む組成物を成形し、成形体を得る成形工程(第3の工程)3と、成形体に脱脂処理を施して脱脂体を得る脱脂工程4と、脱脂体を焼成することにより、酸化物と還元剤とを反応させて生じたガスを、脱脂体中から排出しつつ、脱脂体を焼結させて、焼結体を得る焼成工程(第4の工程)5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体の製造方法および焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属粉末を含む成形体を焼結させて金属製品を製造する場合、例えば、金属粉末と有機バインダーとを混合・混練し、得られた混練物を所定の形状に成形した成形体を形成する。次いで、この成形体に脱脂処理を施して有機バインダーを除去し、脱脂体を得る。そして、この脱脂体を焼成することにより、目的とする形状の金属製品(焼結体)が得られる。
【0003】
ところが、このようにして得られた金属製品は、製造条件によっては、機械的強度が十分ではなく、大きな荷重が加わる部位に使用された場合、破壊するおそれがある。
その原因の1つとして、金属製品内に多量の不純物が含まれることが挙げられる。一般に、金属粉末中の金属粒子の表面には、外気との接触により金属酸化物の被膜が形成されるが、このような金属酸化物は、金属粒子同士の焼結を阻害し、焼結体の機械的強度の低下を招く。すなわち、この金属酸化物が、前述の不純物となり得る。
【0004】
かかる問題点に対して、特許文献1には、還元剤粉末を懸濁させたバインダー溶液を用いて金属粉末を造粒して造粒粉末を得、この造粒粉末を成形して成形体を得た後、成形体を焼成する方法が開示されている。
この方法では、還元剤の作用により、金属酸化物を金属に還元することができ、金属粒子の金属酸化物の一部を除去することができる。
【0005】
ところが、微小な金属粒子は、その形状作用により造粒の際に凝集し易く、造粒粉末中では、金属粒子の凝集物の周囲に、還元剤粉末が付着した状態となる。このため、各金属粒子に対して、還元剤を確実に作用させることができず、金属粒子の表面に存在する金属酸化物の除去を十分に行うことができない。したがって、最終的に得られる焼結体中に金属酸化物が残留することとなり、これが不純物となって焼結体の機械的強度の低下を招く。
【0006】
【特許文献1】特開平11−315304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、例えば、用いる金属粉末が凝集し易い微小なものであっても、優れた機械的特性を有する焼結体を確実に製造可能な焼結体の製造方法、およびかかる製造方法により製造され、優れた機械的特性を有する焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の焼結体の製造方法は、金属を主成分とし、表面に前記金属の酸化物の被膜を有する一次粒子を用意する第1の工程と、
該一次粒子の表面の少なくとも一部を、前記酸化物を還元し得る還元剤で被覆し、還元剤被覆粒子を得る第2の工程と、
該還元剤被覆粒子を含む組成物を、所定の形状に成形し、成形体を得る第3の工程と、
該成形体を焼成することにより、前記酸化物と前記還元剤とを反応させて生じたガスを、前記成形体中から排出しつつ、前記成形体を焼結させて、焼結体を得る第4の工程とを有することを特徴とする。
これにより、例えば、用いる金属粉末が凝集し易い微小なものであっても、優れた機械的特性を有する焼結体を確実に製造することができる。
【0009】
本発明の焼結体の製造方法では、前記還元剤は、炭素を主成分とするものであることが好ましい。
これにより、還元剤のほとんどを酸化物に対して作用させることができ、COガスを発生させることができる。その結果、COガスの発生に寄与しない元素の含有量を抑制し、この元素に起因する残留物の生成を抑制することができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記還元剤が、粉末状をなしていることが好ましい。
これにより、一次粒子を還元剤で均一に効率よく被覆することができる。
【0010】
本発明の焼結体の製造方法では、前記粉末状の還元剤の平均粒径は、前記一次粒子の平均粒径の1/3以下であることが好ましい。
これにより、還元剤で一次粒子の表面を隙間なく確実に被覆することができる。これにより、一次粒子中の酸化物に還元剤を確実に接触させることができ、これらの反応をより促進することができる。
【0011】
本発明の焼結体の製造方法では、前記第2の工程は、各前記一次粒子に、前記還元剤を衝突させることにより行われることが好ましい。
これにより、一次粒子の表面付近に、還元剤を付着または埋入させることができ、還元剤被覆粒子を確実に得ることができる。また、このような状態の還元剤被覆粒子は、一次粒子と還元剤とが確実に接触した状態になっているので、第4の工程において、酸化物と還元剤との反応をより効率よく行うことができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記衝突は、そのエネルギーが、前記一次粒子1kg当たり10万〜1000万J/kgとなるように行われることが好ましい。
これにより、一次粒子が破壊されるのを防止しつつ、一次粒子の表面付近に還元剤を確実に付着または埋入させることができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記第2の工程において、前記酸化物中の酸素の含有量に応じて、用いる前記還元剤の量を設定することが好ましい。
これにより、最終的に得られる焼結体中に残存する酸素の含有量を、容易に調整することができる。
【0012】
本発明の焼結体の製造方法では、前記組成物は、さらに有機バインダーを含んでおり、
前記第3の工程と前記第4の工程との間に、前記成形体中から前記有機バインダーを除去する工程を有することが好ましい。
これにより、焼成の際に、有機バインダーをも確実に外部に排出して除去することができる。これにより、有機バインダーの含有が確実に抑制された焼結体を得ることができる。
本発明の焼結体の製造方法では、第4の工程における焼成温度は、1100〜1400℃であることが好ましい。
焼成温度が前記範囲内の値であることにより、金属粉末の拡散、粒成長が最適化され、優れた特性(機械的強度、寸法精度、外観等)を有する焼結体を得ることができる。
【0013】
本発明の焼結体の製造方法では、前記第4の工程において、前記酸化物と前記還元剤とが反応する温度付近の温度で、前記成形体を一定時間保持することが好ましい。
これにより、隣接する還元剤被覆粒子同士の間に、間隙が形成された状態を維持することができ、酸化物と還元剤との反応により生じたガスや、残留した有機バインダーが、間隙を介して成形体の外部に排出されるのに十分な時間を確保することができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記温度に保持する時間は、10〜90分であることが好ましい。
これにより、焼結体を得るのに要する時間が著しく長時間化されることなく、ガスや有機バインダーの成形体の外部への排出を確実に行うことができる。
【0014】
本発明の焼結体の製造方法では、前記一次粒子は、前記金属を溶融した溶融金属を水アトマイズ法により粉末化して得られたものであることが好ましい。
水アトマイズ法によれば、極めて微小な一次粒子を効率よく製造することができる。そして、このような微小な一次粒子を用いることにより、微細な結晶組織を有し、機械的特性に優れた焼結体を得ることができる。また、水アトマイズ法では、前述したような金属を溶融した溶融金属に水を接触させることにより一次粒子を製造するため、一次粒子の表面付近に酸化物が形成され易い傾向にある。したがって、本発明は、このような水アトマイズ法で製造された一次粒子に対して、その効果をより有効に発揮させることができる。
【0015】
本発明の焼結体の製造方法では、前記一次粒子は、その平均粒径が2〜10μmであることが好ましい。
このような粒径の一次粒子は、互いに凝集し易い傾向を示すが、本発明の焼結体の製造方法は、凝集した一次粒子に対しても効果的に適用することができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記焼結体中の金属結晶の粒径が10μm以下であることが好ましい。
結晶粒径が前記範囲内であれば、焼結体は、機械的強度において特に優れたものとなる。
【0016】
本発明の焼結体は、本発明の焼結体の製造方法により製造されたことを特徴とする。
これにより、優れた機械的特性を有する焼結体が得られる。
本発明の焼結体では、相対密度が98%以上であることが好ましい。
相対密度が前記範囲内の焼結体は、機械的強度、寸法精度、外観等の特性において、特に優れたものとなる。
本発明の焼結体では、酸素の含有率が50ppm以下であることが好ましい。
酸素の含有率が前記範囲内の焼結体は、溶製材(鋳造材、鍛造材等)のように純金属が本来有する電気的特性、熱的特性、化学的特性および機械的特性等の各種特性に、極めて近い優れた特性を示すものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の焼結体の製造方法および焼結体について、詳細に説明する。
図1は、本発明の焼結体の製造方法の実施形態を示す工程図、図2は、本発明の焼結体の製造方法の実施形態で用いる一次粒子および還元剤被覆粒子の縦断面をそれぞれ模式的に示す図、図3は、本発明の焼結体の製造方法の実施形態で用いる混練物(組成物)の縦断面を模式的に示す図、図4は、本発明の焼結体の製造方法の実施形態で得られた成形体の縦断面を模式的に示す図、図5は、本発明の焼結体の製造方法の実施形態で得られた脱脂体の縦断面を模式的に示す図、図6は、本発明の焼結体の製造方法の実施形態における脱脂体の焼成時の挙動を模式的に示す図、図7は、本発明の焼結体の縦断面を模式的に示す図である。
図1に示す焼結体の製造方法は、一次粒子を用意する一次粒子準備工程と、還元剤被覆粒子を得る還元剤被覆粒子形成工程と、成形体を製造する成形工程と、脱脂処理を行う脱脂工程と、焼成を行う焼成工程とを有する。以下、これらの工程の順にしたがって説明する。
【0018】
[1]一次粒子準備工程(第1の工程)
まず、図2(a)に示すような一次粒子10を用意する。
一次粒子10は、金属を主成分とし、表面にこの金属の酸化物11の被膜を有するものである。
この金属としては、例えば、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属材料が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、組成の異なる2種類以上の一次粒子10を混合して用いてもよい。これにより、従来、鋳造では製造できなかった合金組成の焼結体をも製造することができる。また、新規な機能や多機能を有する焼結体が容易に製造でき、焼結体の機能・用途の拡大を図ることができる。
【0019】
このような金属材料で構成された一次粒子10は、一般に製造時または保管時等において、大気中の酸素や水分と反応することにより、表面に金属酸化物の被膜が形成される。
また、本発明によれば、比較的微小な一次粒子10を用いても、確実に焼結体を製造することができる。具体的には、一次粒子10の平均粒径は、2〜10μm程度であるのが好ましく、2〜5μm程度であるのがより好ましい。このような粒径の一次粒子は、互いに凝集し易い傾向を示すが、本発明の焼結体の製造方法は、後に詳述するが、凝集した一次粒子に対しても効果的に適用することができる。
【0020】
このような一次粒子は、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法のような各種アトマイズ法、還元法、カルボニル法、粉砕法等により製造されたものを用いることができるが、水アトマイズ法により製造されたものであるのが好ましい。水アトマイズ法によれば、極めて微小な一次粒子を効率よく製造することができる。そして、このような微小な一次粒子を用いることにより、微細な結晶組織を有し、機械的特性に優れた焼結体を得ることができる。
【0021】
また、水アトマイズ法では、前述したような金属を溶融した溶融金属に水を接触させることにより一次粒子10を製造するため、図2(a)に示すように、一次粒子10の表面付近に酸化物11が形成され易い傾向にある。したがって、本発明は、このような水アトマイズ法で製造された一次粒子に対して、その効果をより有効に発揮させることができる。
さらに、アトマイズ法で製造された一次粒子10は、真球に近い球形状をなしているため分散性や流動性に優れており、例えば、一次粒子10を含む組成物を成形型に充填する際、その充填性を高めることもできる。
【0022】
[2]還元剤被覆粒子形成工程(第2の工程)
次に、一次粒子10の表面の少なくとも一部を、酸化物11を還元する機能を有する還元剤15で被覆して、図2(b)に示すような還元剤被覆粒子20を形成する。
一次粒子10を還元剤15で被覆する方法としては、例えば、一次粒子10に還元剤15を衝突させる方法、一次粒子10に還元剤15を含む液体に接触させる方法等が挙げられる。
【0023】
このうち、一次粒子10に還元剤15を衝突させる方法が好ましい。これにより、一次粒子10の表面付近に、還元剤15を付着または埋入させることができ、図2(b)に示すような還元剤被覆粒子20を確実に得ることができる。
このような状態の還元剤被覆粒子20は、一次粒子10と還元剤15とが確実に接触した状態になっているので、後述する第4の工程において、酸化物11と還元剤15との反応をより効率よく行うことができる。
【0024】
また、このような一次粒子10と還元剤15との衝突は、一次粒子10と還元剤15との混合物に対して、機械的なエネルギーを付与することにより効率よく行うことができる。
具体的には、前記エネルギーの付与を、例えば、前記混合物をブレードやケーシングと衝突させる方法、前記混合物に圧縮力およびせん断力を作用させる方法等により行うことができる。そして、エネルギー付与の方法に応じて、ハイブリダイゼーション、メカノフュージョン、シーターコンポーザー、ロールクラッシャー、コロイドミル、ローターミル、ローラーミル、振動ミル、ジェットミル、機械的渦流粉砕機、ボールミル、万能攪拌機、ヤコブソンミル、ヘンシェルミキサー等の各種混合機または各種粉砕機等を用いることができる。
また、衝突による機械的なエネルギーは、一次粒子1kg当たり10万〜1000万J/kg程度であるのが好ましく、50万〜500万J/kg程度であるのがより好ましい。これにより、一次粒子10が破壊されるのを防止しつつ、一次粒子10の表面付近に還元剤15を確実に付着または埋入させることができる。
【0025】
還元剤15は、酸化物11を還元(酸化物11と反応)して、ガスを発生させる機能を有するものである。
還元剤15としては、例えば、炭素を含んだ材料を用いることができ、具体的には、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト等の各種炭素系材料、炭化水素系の樹脂材料等が挙げられる。
【0026】
これらの中でも、還元剤15は、炭素を主成分とするものが好ましい。これにより、後述する第4の工程において、還元剤15のほとんどを酸化物11に対して作用させることができ、COガスを発生させることができる。その結果、COガスの発生に寄与しない元素の含有量を抑制し、この元素に起因する残留物の生成を抑制することができる。
また、炭素は、耐熱性に優れ、取り扱いが容易であるため、還元剤15として好適に用いることができる。
このような炭素を主成分とする還元剤15としては、例えば、前述の各種炭素系材料が挙げられる。
【0027】
また、還元剤15は、粉末状、顆粒状、塊状等のいかなる形状をなしていてもよいが、粉末状をなしているのが好ましい。これにより、一次粒子10を還元剤15で均一に効率よく被覆することができる。さらに、粉末状の還元剤15は、一次粒子10の表面に薄い被膜状に分布することとなる。このため、還元剤15と一次粒子10との反応性を高め、酸化物11と還元剤15との反応に要する時間の短縮を図ることができる。その結果、後述する第4の工程において、ガスの排出を確実に行うことができる。
【0028】
この場合、粉末状の還元剤15の平均粒径は、0.01〜5μm程度であるのが好ましく、0.03〜1μm程度であるのがより好ましい。これにより、一次粒子10に対してより均一に還元剤15を被覆することができる。なお、還元剤15の平均粒径は前記下限値を下回っていてもよいが、形状作用に伴う還元剤15の活性が大きくなり、還元剤15の取り扱いに手間を要する場合がある。
【0029】
さらに、粉末状の還元剤15の平均粒径は、一次粒子10の平均粒径の1/3以下であるのが好ましく、1/10以下であるのがより好ましい。還元剤15が一次粒子10に対して、前記範囲内のような粒径の関係を有していると、還元剤15で一次粒子10の表面を隙間なく確実に被覆することができる。これにより、一次粒子10中の酸化物11に還元剤15を確実に接触させることができ、これらの反応をより促進することができる。
また、一次粒子10と還元剤15の界面付近において、これらの一部が化合しているのが好ましい。これにより、後述する第4の工程において、酸化物11と還元剤15との反応を特に効率よく行うことができる。
【0030】
さらに、還元剤15は、一次粒子10に対して作用することにより、一次粒子10の拡散を促進する機能を有する元素を含んでいてもよい。これにより、後述する第4の工程において、還元剤被覆粒子同士の間により確実に架橋構造(ネッキング)を形成することができる。
かかる材料としては、例えば、炭素、ホウ素、リン等が挙げられる。
【0031】
また、還元剤15の添加量は、酸化物11中の酸素の含有量に応じて設定されるのが好ましい。これにより、最終的に得られる焼結体中に残存する酸素の含有量を、容易に調整することができる。
さらに、この場合、還元剤15中の酸化物11の還元に寄与する元素が、後述する第4の工程において、酸化物11中の酸素に対して過不足なく作用する量であるのが好ましい。
【0032】
例えば、還元剤15が炭素を主成分とする場合、還元剤15中の炭素のモル量が、酸化物11中の酸素の化学量論比に相当するモル量の0.4〜1.1(0.75±0.35)倍程度であるのが好ましく、0.6〜0.9(0.75±0.15)倍程度であるのがより好ましい。これにより、後述する第4の工程において、酸化物11中の酸素に対して過不足なく作用して、酸化物11を確実に還元するとともに、炭素(還元剤15)の過剰分が残留するのを防止することができる。その結果、最終的に得られる焼結体は、酸素の含有率および炭素の含有率が、それぞれ極めて低いものとなる。
【0033】
なお、一次粒子10中に還元剤となり得る成分を含んでいる場合には、この成分も酸化物11の還元に寄与させることができる。この場合、一次粒子10中の還元剤となり得る成分の含有量も考慮して、前述の還元剤15の量を調整すればよい。これにより、後述する第4の工程において、酸化物11中の酸素と還元剤とが、より正確に過不足なく反応することができ、余分な酸素および還元剤成分が残留するのを確実に防止することができる。
【0034】
[3]成形工程(第3の工程)
成形体の製造方法(成形方法)は、特に限定されず、例えば、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法、圧縮成形(圧粉成形)法、押出成形法等が挙げられるが、この中でも、MIM法または圧縮成形法が好ましい。
MIM法は、比較的小型のものや、複雑で微細な形状の成形体をニアネット(最終形状に近い形状)で製造することができ、用いる一次粒子10の特性を十分に生かすことができるという利点を有する。このため、本発明を適用する上でその効果が有効に発揮されることとなる。
【0035】
以下、MIM法による成形体の製造について説明する。
まず、複数個の還元剤被覆粒子20と有機バインダー25とを混練機により混練し、図3に示すような混練物(組成物)30を得る。
この混練物(コンパウンド)30中では、還元剤被覆粒子20が均一に分散している。
有機バインダー25としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、またはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸(例:ステアリン酸)、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
また、有機バインダー25の含有量は、混練物30全体の2〜20wt%程度であるのが好ましく、5〜10wt%程度であるのがより好ましい。有機バインダー25の含有率が前記範囲内であることにより、成形性よく成形体を形成することができるとともに、密度を高め、成形体の形状の安定性等を特に優れたものとすることができる。また、これにより、成形体と脱脂体との大きさの差、いわゆる収縮率を小さくすることができる。その結果、脱脂体および焼結体の寸法精度を向上させることができる。
【0037】
また、混練物30中に、可塑剤が添加されていてもよい。この可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル(例:DOP、DEP、DBP)、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、セバシン酸エステル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
さらに、混練物30中には、還元剤被覆粒子20、有機バインダー25、可塑剤の他に、例えば、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物を必要に応じ添加することができる。
【0038】
混練条件は、用いる還元剤被覆粒子20の組成や粒径、有機バインダー25の組成、およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、混練温度:50〜200℃程度、混練時間:15〜210分程度とすることができる。
また、混練物30は、必要に応じ、ペレット(小塊)化される。ペレットの粒径は、例えば、1〜15mm程度とされる。
【0039】
次に、混練物30を成形して、目的の焼結体と同形状の成形体を製造する。
前述のようにして得られた混練物30または混練物30より造粒されたペレットを用いて、射出成形機により射出成形し、所望の形状、寸法の成形体40を製造する。この場合、成形型の選択により、複雑な形状の成形体40をも容易に製造することができる。
このようにして得られた成形体40は、図3に示すように、有機バインダー25中に、還元剤被覆粒子20がほぼ均一に分散した状態となっている。
なお、製造される成形体40の形状寸法は、以後の脱脂および焼結による成形体40の収縮分を見込んで決定される。
【0040】
射出成形の成形条件としては、用いる一次粒子10の組成や粒径、有機バインダー25の組成およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、材料温度は、好ましくは80〜200℃程度、射出圧力は、好ましくは2〜29MPa(20〜300kgf/cm)程度とされる。
また、圧縮成形(プレス成形)法によれば、成形に要する時間が非常に短いため、効率よく成形体を得ることができる。
【0041】
以下、圧縮成形法による成形体の製造について説明する。
まず、還元剤被覆粒子20と有機バインダー25との混合物に対して、各種造粒法により造粒粉末を作製する。造粒粉末は、流動性に優れるため、成形時に成形型への充填性を高めることができる。
造粒法には、例えば、撹拌混合造粒法、転動造粒法、流動層造粒法、転動流動造粒法、押し出し造粒法、破砕造粒法、噴霧乾燥造粒法、溶融造粒法、圧縮造粒法、真空凍結造粒法、懸濁凝集造粒法等を用いることができる。
【0042】
次に、成形型に、造粒粉末を充填し、圧縮して成形する。これにより、成形体40が得られる。
なお、製造される成形体40の形状寸法は、MIM法の場合と同様に、以後の脱脂および焼結による成形体40の収縮分を見込んで決定される。
また、圧縮成形の成形条件としては、用いる一次粒子10の組成や粒径、造粒粉末の粒径、有機バインダー25の組成およびこれらの配合量の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、プレス圧力は、好ましくは98〜1470MPa(1〜15t/cm)程度とされる。
【0043】
[4]脱脂工程
前記工程[3]で得られた成形体40に対し、脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。
この脱脂処理は、例えば、大気、酸素のような酸化性ガス、水素、一酸化炭素のような還元性ガス、窒素、ヘリウム、アルゴンのような不活性ガス、またはこれらの1種または2種以上を含有する混合ガス等を含む雰囲気中、または減圧雰囲気中で、熱処理を行うことによりなされる。
この場合、熱処理の条件は、有機バインダーの分解開始温度等によって若干異なるが、好ましくは温度100〜750℃程度で0.5〜40時間程度、より好ましくは温度150〜600℃程度で1〜24時間程度とされる。
【0044】
また、このような熱処理による脱脂は、種々の目的(例えば、脱脂時間の短縮等の目的)で、複数の工程(段階)に分けて行ってもよい。この場合、例えば、前半を低温で、後半を高温で脱脂するような方法や、低温と高温を繰り返し行う方法等が挙げられる。
また、脱脂処理は、有機バインダーや添加剤中の特定成分を所定の溶媒(液体、気体等の流体)を用いて溶出させることにより行うようにしてもよい。
【0045】
このようにして有機バインダー25を除去し、図5に示すような脱脂体50を得る。
なお、有機バインダー25は、脱脂処理によって完全に除去されなくてもよく、例えば、脱脂処理の完了時点で、その一部が残存していてもよい。
また、本工程は必要に応じて行えばよく、後述する第4の工程において、有機バインダー25の除去を行う場合には省略することもできる。
【0046】
[5]焼成工程(第4の工程)
前記工程[4]で得られた脱脂体50を、焼成炉で焼成して焼結させ、焼結体を得る。
脱脂体50を焼成して、所定の熱エネルギーが付与されると、還元剤15と酸化物11が反応し、COガスが発生する。これにより、一次粒子10の表面付近では、酸化物11が金属に還元される。
【0047】
このような酸化物11の還元は、一次粒子10の表面側から内部に向かって徐々に進行する。すなわち、表面付近において優先的に起こるものである。
そして、隣接する還元剤被覆粒子20同士の間では、この間隙に、一次粒子10の表面付近に位置する金属原子が移動(拡散)して、還元剤被覆粒子20同士を繋ぐように架橋構造55を形成する(ネッキングが生じる)と考えられる。
また、還元剤15が一次粒子10の拡散を促進する機能を有する場合、前記金属原子の移動が促進され、より速やか、かつ確実に架橋構造55が形成されることとなる。
【0048】
ところで、この架橋構造55は、還元剤被覆粒子20の表面付近に位置する金属原子が移動して形成されたものであるため、隣接する還元剤被覆粒子20同士の全体が相互に拡散して粒成長する通常の焼結状態において形成される架橋構造よりも細く、体積の小さいものであると推察される。
また、架橋構造55は、焼成の進行に伴い、架橋している複数個の還元剤被覆粒子20に対して、これらを互いに引き寄せるような力を及ぼす。ところが、架橋構造55は、その体積が小さいことから、通常の焼結状態における架橋構造よりも還元剤被覆粒子20同士を互いに引き寄せる力が小さいと考えられる。このため、還元剤被覆粒子20同士の間隔は、比較的大きい状態で維持されることとなり、隣接する還元剤被覆粒子20同士の間に、図6に示すような間隙56が形成されていると考えられる。
【0049】
また、本発明では、一次粒子10の表面が還元剤15で被覆されているため、複数個の還元剤被覆粒子20において、いずれも酸化物11と還元剤15とが接近した状態にあると推察される。このため、脱脂体50を焼成すると、脱脂体50の全体において、酸化物11と還元剤15との反応が極短時間に、かつ、ほぼ同時に生じることとなる。これにより、間隙56は、脱脂体50の全体にわたってほぼ均一に分布することとなり、その結果、形成された複数の間隙56は、相互に連通するとともに、脱脂体50の外部とも連通したものとなる。
また、酸化物11に対して還元剤15が作用すると、前述のような架橋構造55および間隙56の形成とともに、ガスが生じる。例えば、還元剤15が炭素を主成分とする場合、このガスは前述したようにCOガスである。
【0050】
そして、このガスは、前述した間隙56を介して脱脂体50の外部に排出される。前述したように、間隙56は、相互に連通するとともに、脱脂体50の外部とも連通したものであるため、ガスの排出が効率よく行われ、脱脂体50中にガスが残留することによる空隙(ポア)の形成を確実に防止することができる。
さらに、ガスの排出に伴って、脱脂体50中の酸化物11の含有率が徐々に低下することとなる。
【0051】
その後、脱脂体50の焼成がさらに進行すると、隣接する複数個の還元剤被覆粒子20同士は、架橋構造55によって、互いにさらに引き寄せられる。これにより、還元剤被覆粒子20同士の間では、内部に位置する原子も相互に拡散して粒成長が生じる。その結果、最終的には、脱脂体50が焼結して、図7に示すような結晶組織61で構成された焼結体60が得られる。
このようにして得られた焼結体60は、空隙(ポア)および酸化物の含有が抑制され、金属の純度が極めて高いものとなる。
【0052】
ところで、従来も、還元剤を用いて酸化物を除去する試みがなされていた。しかしながら、一次粒子の粒径によっては、その効果が十分に発揮されない場合があり、特に微小な一次粒子を用いた場合には、還元剤が十分に作用しないという問題があった。
すなわち、微小な一次粒子は、極めて凝集し易い傾向を示すにもかかわらず、従来は、各一次粒子を還元剤で被覆することはなされていなかった。このため、一次粒子が凝集した場合には、凝集物の周囲に還元剤が付着した状態となり、凝集物の内部に対しては、還元剤が十分に作用せず、還元剤と酸化物との反応が不均一になるという問題が生じていた。
【0053】
このような状態では、脱脂体中に、外部と連通する間隙が形成されず、酸化物と還元剤との反応により生じたガスの排出が十分に行われない。このため、焼結体中にガスが残存し、この残存したガスに起因する空隙の生成を招いていた。また、このような空隙は、焼結体に応力が付与された場合に、破壊の起点となり得るものであり、焼結体の機械的特性の低下を招くものであった。
【0054】
さらに、還元剤と酸化物との反応が不均一になると、酸化物が還元されない部分が生じるため、脱脂体中に酸化物が残存するという問題も生じていた。この酸化物は、脱脂体の焼結を阻害するため、焼結が不十分となって、前述と同様に、焼結体の機械的特性を招いていた。
これに対し、本発明では、一次粒子10に対して予め還元剤15を被覆して還元剤被覆粒子20を形成しているので、仮に、複数個の還元剤被覆粒子20が凝集した場合でも、酸化物11と還元剤15との反応が確実に行われることとなる。その結果、空隙および酸化物11の含有が抑制された焼結体60を得ることができる。
また、本発明によれば、脱脂体50中に有機バインダー25が残留していた場合、または、脱脂工程を省略して成形体40を焼成した場合に、間隙56を介して、有機バインダー25をも確実に外部に排出して除去することができる。これにより、有機バインダー25の含有が確実に抑制された焼結体60を得ることができる。
【0055】
さらに、このような場合、本発明では、還元剤被覆粒子20の表面付近に位置する原子が優先的に拡散するため、最終的に、内部に位置する原子が拡散して焼結に至るまで、比較的長時間を要することとなる。このため、残留していた有機バインダー25が分解して排出されるのに要する時間を十分に確保することができ、有機バインダー25の除去を確実に行うことができるという利点もある。
【0056】
本工程における焼成温度は、一次粒子10を構成する金属の組成等により若干異なるが、例えば、1100〜1400℃程度であるのが好ましく、1100〜1300℃程度であるのがより好ましい。焼成温度が前記範囲内の値であることにより、金属粉末の拡散、粒成長が最適化され、優れた特性(機械的強度、寸法精度、外観等)を有する焼結体60を得ることができる。
また、特に、一次粒子10がFeを主材料とし、その平均粒径が2〜5μm程度である場合には、焼成温度は、1000〜1200℃程度であるのが好ましく、1000〜1100℃程度であるのがより好ましい。これにより、結晶組織61の粒径が非常に小さい焼結体60を得ることができる。
【0057】
このような焼成工程を経て得られた焼結体60は、結晶組織61の粒径が、10μm以下であるのが好ましく、5μm以下であるのがより好ましい。結晶粒径が10μmを超える場合、結晶粒界に不純物や低融点物質が偏析し、その焼結体の破壊機構は、主に結晶粒界を起点とした破壊が支配的であったが、結晶粒径が10μm以下となると、結晶粒界は健全であり、前述の結晶粒界での破壊機構は抑制される。したがって、結晶粒径が前述のような範囲内であれば、焼結体60は、機械的強度において特に優れたものとなる。
なお、焼成工程における焼結温度は、前述した範囲内または範囲外で、経時的に変動(上昇または下降)してもよい。
【0058】
焼成時間は、0.5〜5時間程度であるのが好ましく、1〜3時間程度であるのがより好ましい。これにより、脱脂体50の焼結を最適化して、結晶組織の肥大化を防止しつつ焼結させることができる。その結果、機械的特性に優れた焼結体60を得ることができる。
また、焼成の際の雰囲気は、特に限定されないが、水素、一酸化炭素のような還元性雰囲気、窒素、ヘリウム、アルゴンのような不活性雰囲気、これら各雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
【0059】
なお、本焼成工程では、焼成炉内の温度を、室温から前記焼成温度に向かって徐々に上昇させるが、その温度を、酸化物11と還元剤15とが反応する温度付近で一定時間保持するのが好ましい。これにより、隣接する還元剤被覆粒子20同士の間に、図6に示すような間隙56が形成された状態を維持することができ、酸化物11と還元剤15との反応により生じたガスや、残留した有機バインダー25が、間隙56を介して脱脂体50の外部に排出されるのに十分な時間を確保することができる。
【0060】
この場合、焼成炉内の温度を、酸化物11と還元剤15とが反応する温度付近で維持する時間としては、10〜90分程度であるのが好ましく、30〜60分程度であるのがより好ましい。これにより、焼結体を得るのに要する時間が著しく長時間化されることなく、前記ガスや有機バインダー25の脱脂体50の外部への排出を確実に行うことができる。
【0061】
以上のような焼結体の製造方法により、優れた特性を有する焼結体60を得ることができる。
また、前述したような焼結体の製造方法は、その相対密度(空孔率)が、好ましくは98%以上(2%未満)、より好ましくは99%以上(1%未満)の焼結体60を製造する場合に、その効果を特に有効に発揮することができる。相対密度が前記範囲内の焼結体60は、前述したような機械的強度、寸法精度、外観等の特性において、特に優れたものとなる。
【0062】
また、前述したような焼結体の製造方法は、その酸素の含有率が、好ましくは50ppm以下、より好ましくは30ppm以下の焼結体60を製造する場合に、その効果を特に有効に発揮することができる。酸素の含有率が前記範囲内の焼結体60は、純金属が本来有する電気的特性、熱的特性、化学的特性および機械的特性等の各種特性に、極めて近い優れた特性を示すものとなる。
以上、本発明の焼結体の製造方法および焼結体について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、焼結体の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
【実施例】
【0063】
1.焼結体の製造
以下では、焼結体をそれぞれ10個ずつ製造した。
(実施例1)
[1A]まず、水アトマイズ法により製造された、平均粒径2.3μmのステンレス鋼SUS−316L粉末(エプソンアトミックス社製、PF−2F)を用意した。この金属粉末中の一次粒子を切断し、切断面について電子線マイクロアナライザ(EPMA)により組成分析を行ったところ、粒子の表面付近に、SUS−316Lの組成とともに酸素の偏在、すなわち酸化物層が認められた。
また、燃焼法による酸素窒素同時分析装置(Leco社製)を用いて一次粒子に含まれる酸素量を測定したところ、4960ppmであった。
【0064】
[2A]次に、この金属粉末1kgと、カーボンブラック(還元剤、平均粒径50nm)との混合物を、混合機(ホソカワミクロン社製、メカノフュージョン)に投入し、混合した。これにより、金属粉末とカーボンブラックとを衝突させ、金属粉末中の一次粒子をカーボンブラックにより被覆してなる還元剤被覆粒子を得た。
ここで、カーボンブラックの添加量は、炭素のモル量が、一次粒子中の酸素に対する化学量論比の1倍になるよう設定した。なお、SUS−316L粉末の一次粒子中には、炭素が0.03wt%含まれているため、この炭素分を差し引いた量をカーボンブラックの添加量とした。すなわち、これらを考慮して、カーボンブラックの添加量を3.42gとした。
また、混合機により混合物に付与されたエネルギーは、金属粉末1kg当たり100万J/kgであった。
【0065】
[3A]次に、ポリビニルピロリドン(有機バインダー)と水とを、質量比で3:97となるように秤量して、バインダー溶液を得た。
[4A]次に、得られた還元剤被覆粒子を、転動流動造粒装置((株)パウレック社製))内に投入し、回転ディスク部を回転させつつ、装置内にバインダー溶液を連続的に供給して、造粒を行った。これにより、造粒粉末を得た。
【0066】
[5A]次に、この造粒粉末を、以下に示す成形条件で、圧縮成形(プレス成形)機にて成形を行い、成形体を作製した。
<成形条件>
・プレス圧力:490MPa(5t/cm
[6A]次に、得られた成形体に対して、以下に示す脱脂条件で熱処理(脱脂処理)を施し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・加熱温度 :500℃
・加熱時間 :2時間
・加熱雰囲気:窒素ガス
【0067】
[7A]次に、得られた脱脂体を、以下に示す焼成条件で焼成した。これにより、焼結体を得た。
<焼成条件>
・焼成温度 :1100℃
・焼成時間 :3時間
・焼成雰囲気:水素ガス
【0068】
(実施例2〜8)
金属粉末の種類(平均粒径)、カーボンブラックの添加量、および焼成温度を表1に示すようにした以外は、それぞれ、前記実施例1と同様にして焼結体を得た。
(実施例9)
前記工程[7A]において、焼成炉の温度を焼成温度まで昇温する際に、酸化物層と還元剤とが反応する温度(950〜1050℃)付近で、60分間維持した以外は、前記実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0069】
(比較例1)
[1B]まず、前記工程[1A]で得られた金属粉末1kgを用意した。
[2B]次に、ポリビニルピロリドン(有機バインダー)と水とを、質量比で3:97となるように秤量して、バインダー溶液を得た。
[3B]次に、バインダー溶液に、カーボンブラック(還元剤、平均粒径50nm)3.42gを添加し、還元剤添加バインダー溶液を得た。
[4B]次に、得られた金属粉末と還元剤添加バインダー溶液とを用い、転動流動造粒装置((株)パウレック社製)により造粒を行った。これにより、造粒粉末を得た。
[5B]次に、前記工程[5A]〜[7A]と同様にして、造粒粉末を成形、脱脂、および焼成して、焼結体を得た。
(比較例2〜7)
前記工程[2A]を省略し、すなわち還元剤の添加を省略し、金属粉末の種類(平均粒径)および焼成条件を表1に示すようにした以外は、それぞれ、前記実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0070】
2.焼結体の評価
2.1 結晶組織の評価
各実施例および比較例の焼結体の結晶組織を、金属顕微鏡により観察した。
その結果、各実施例および比較例の焼結体では、いずれも、結晶組織の粒径が10μm以下であった。
【0071】
2.2 相対密度の評価
各実施例および比較例の焼結体について、それぞれ密度を測定した。なお、密度の測定は、アルキメデス法(JIS Z 2505に規定)により、10個の焼結体についてそれぞれ行い、その平均値を測定値とした。
そして、各測定値から焼結体の相対密度を算出した。なお、相対密度の算出にあたっては、相対基準として、SUS−316Lの真密度7.98g/cmを用いた。
【0072】
2.3 酸素の含有率の評価
各実施例および比較例の焼結体について、それぞれ焼結体中の酸素の含有率を測定した。なお、測定は、燃焼法による酸素窒素同時分析装置(Leco社製)により、10個の焼結体についてそれぞれ行い、その平均値を測定値とした。
2.4 引張強さの評価
各実施例および比較例の焼結体について、それぞれ引張強さをJIS Z 2241にしたがって測定した。
以上、2.2〜2.4の評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、各実施例の焼結体は、いずれも相対密度が99%を超えており、非常に高密度であった。一方、比較例の焼結体では、相対密度が97%未満しかなかった。
また、各実施例の焼結体では、いずれも酸素の含有率が50ppm%以下であったのに対し、比較例の焼結体では、2520〜4900程度の酸素を含んでいた。特に、平均粒径が5μm以下の金属粉末では、その比表面積が著しく大きくなるため、粒子1個当たりの酸素の含有率が高くなる傾向にあるが、各実施例の焼結体では、そのような金属粉末を用いて製造された焼結体においても、酸素の確実な除去が図られていた。
また、各実施例の焼結体および各比較例の焼結体のいずれにおいても、金属粉末(一次粒子)の平均粒径の小径化に伴い、その引張強さの向上が認められた。さらに、同等の平均粒径で比較したところ、各実施例の焼結体の引張強さは、いずれも各比較例の焼結体の引張強さを上回っていた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の焼結体の製造方法の実施形態を示す工程図である。
【図2】本発明の焼結体の製造方法の実施形態で用いる一次粒子および還元剤被覆粒子の縦断面を模式的に示す図である。
【図3】本発明の焼結体の製造方法の実施形態で用いる混練物(組成物)の縦断面を模式的に示す図である。
【図4】本発明の焼結体の製造方法の実施形態で得られた成形体の縦断面を模式的に示す図である。
【図5】本発明の焼結体の製造方法の実施形態で得られた脱脂体の縦断面を模式的に示す図である。
【図6】本発明の焼結体の製造方法の実施形態における脱脂体の焼成時の挙動を模式的に示す図である。
【図7】本発明の焼結体の縦断面を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1……一次粒子準備工程 2……還元剤被覆粒子形成工程 3……成形工程 4……脱脂工程 5……焼成工程 10……一次粒子 11……酸化物 15……還元剤 20……還元剤被覆粒子 25……有機バインダー 30……混練物(組成物) 40……成形体 50……脱脂体 55……架橋構造 56……間隙 60……焼結体 61……結晶組織

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を主成分とし、表面に前記金属の酸化物の被膜を有する一次粒子を用意する第1の工程と、
該一次粒子の表面の少なくとも一部を、前記酸化物を還元し得る還元剤で被覆し、還元剤被覆粒子を得る第2の工程と、
該還元剤被覆粒子を含む組成物を、所定の形状に成形し、成形体を得る第3の工程と、
該成形体を焼成することにより、前記酸化物と前記還元剤とを反応させて生じたガスを、前記成形体中から排出しつつ、前記成形体を焼結させて、焼結体を得る第4の工程とを有することを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記還元剤は、炭素を主成分とするものである請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記還元剤が、粉末状をなしている請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記粉末状の還元剤の平均粒径は、前記一次粒子の平均粒径の1/3以下である請求項3に記載の焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程は、各前記一次粒子に、前記還元剤を衝突させることにより行われる請求項1ないし4のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記衝突は、そのエネルギーが、前記一次粒子1kg当たり10万〜1000万J/kgとなるように行われる請求項5に記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記第2の工程において、前記酸化物中の酸素の含有量に応じて、用いる前記還元剤の量を設定する請求項1ないし6のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記組成物は、さらに有機バインダーを含んでおり、
前記第3の工程と前記第4の工程との間に、前記成形体中から前記有機バインダーを除去する工程を有する請求項1ないし7のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項9】
第4の工程における焼成温度は、1100〜1400℃である請求項1ないし8のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記第4の工程において、前記酸化物と前記還元剤とが反応する温度付近の温度で、前記成形体を一定時間保持する請求項1ないし9のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記温度に保持する時間は、10〜90分である請求項10に記載の焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記一次粒子は、前記金属を溶融した溶融金属を水アトマイズ法により粉末化して得られたものである請求項1ないし11のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記一次粒子は、その平均粒径が2〜10μmである請求項1ないし12のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項14】
前記焼結体中の金属結晶の粒径が10μm以下である請求項13に記載の焼結体の製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の焼結体の製造方法により製造されたことを特徴とする焼結体。
【請求項16】
相対密度が98%以上である請求項15に記載の焼結体。
【請求項17】
酸素の含有率が50ppm以下である請求項15または16に記載の焼結体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−189980(P2008−189980A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24690(P2007−24690)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】