説明

焼結金属部品

【課題】潤滑油を含浸させた焼結金属摺動部材の摺動特性、特に初期摺動時における摺動特性の改善を図る。
【解決手段】焼結含油軸受1の内周には、支持すべき軸2の外周面と摺動する軸受面4が設けられる。軸受面4には多数の表面開孔5が存在すると共に、多数のディンプル6が設けられる。ディンプル6には、ディンプル6の表面開孔5を介して内部空孔3に引き込まれないような第2の潤滑剤7が保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面を有する焼結金属部品、特に潤滑油を含浸してなる焼結金属部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種機械部品、特に軸受部や動力伝達部など他の機械要素との間で摺動を伴う箇所に使用される機械部品に、焼結金属で形成され、その内部に潤滑油等を含浸させた焼結金属部品が好適に用いられている。
【0003】
例えば、情報機器用のモータスピンドルを構成する滑り軸受として、焼結金属製の軸受内部に潤滑油を含浸させてなる、いわゆる焼結含油軸受が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、液体潤滑性能と固体潤滑性能とを兼備した滑り軸受として、内部に潤滑油が含浸されると共に、黒鉛や二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤粉末を表層部に定着させてなる焼結含油軸受が知られている(例えば、特許文献2を参照)。かかる構成は、潤滑油が軸受部に不足する場合であっても安定した軸受性能を発揮することを狙ったものである。
【特許文献1】特開平10−281150号公報
【特許文献2】特開平8−20836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、潤滑油の焼結金属軸受への含浸作業は、通常、焼結金属軸受を減圧環境下で潤滑油に浸漬して行われる(いわゆる真空含浸)。この際、例えば潤滑油を加熱し、粘性抵抗を下げた状態で含浸作業を行えば、潤滑油が焼結金属軸受の内部空孔に入り込み易くなる。しかしながら、この方法による含浸を行った製品においては、初期の摺動時に軸受面に潤滑油が存在せず、潤滑油による潤滑作用が十分に得られない場合が考えられる。
【0006】
すなわち、潤滑油は、通常、金属の数百倍もの繊膨張係数を有するため、加熱した状態の潤滑油を含浸した後、製品が使用温度(例えば常温)まで冷却されることで、収縮比の大きい潤滑油が焼結軸受内に引き込まれ、軸受面上に潤滑油が残らない場合が起こり得る。これでは、軸と軸受とが接触摺動することになり、十分な潤滑効果が得られないことから、摩擦の増大を招き、軸受の摩耗をはじめ、異音や振動の発生が懸念される。
【0007】
特許文献2には、潤滑性能を確保する目的で、焼結金属成分に黒鉛や二流化モリブデンを配合したものが提案されているが、直接的な接触摺動であることに変わりはなく、十分な潤滑作用が得られているとは言い難い。
【0008】
以上の事情に鑑み、本発明では、潤滑油を含浸させた焼結金属部品の摺動特性、特に初期摺動時における摺動特性の改善を図ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、摺動面を有する焼結金属製の部品で、その内部空孔に第1の潤滑剤を含浸してなるものであって、相手部材との相対摺動に伴い、内部空孔に含浸した第1の潤滑剤が摺動面上に滲み出ることにより、相手部材と第1の潤滑剤を介して摺動するものにおいて、摺動面に凹部が形成され、凹部の表面に存在する開孔を介して内部空孔に引き込まれないような第2の潤滑剤が凹部に充填されていることを特徴とする焼結金属部品を提供する。
【0010】
このように、本発明は、焼結摺動部材の内部に含浸させて使用する潤滑剤とは異なる性状の潤滑剤(第2の潤滑剤)を、摺動面の一部に配したことを特徴とする。詳細には、摺動面に第2の潤滑剤を保持するための凹部を設けると共に、第2の潤滑剤として、凹部の表面開孔を介して内部空孔に引き込まれない性状のものを選定し、使用することを特徴とする。かかる構成によれば、定常時、焼結金属部品の内部空孔に含浸させた第1の潤滑剤(潤滑油など)により当該金属部品とその相手部材との間で摺動潤滑状態が確保されると共に、初期摺動時、凹部に保持された第2の潤滑剤により、当該金属部品と相手部材との間で摺動潤滑状態が確保される。従い、仮に第1の潤滑剤が摺動面上に残らない場合であっても、凹部に保持された第2の潤滑剤により定常時の摺動潤滑状態に近づけることができ、初期摺動時における摩耗や異音の発生を可及的に抑制することができる。
【0011】
凹部に保持される第2の潤滑剤として、凹部の表面開孔を介して内部空孔に引き込まれないものである限り、任意組成の潤滑剤を使用することができる。例えば半固体状(ゲル状など)のグリースなどを使用することができる。また、この中でも特に、高い変形抵抗を示し、かつ形態保持性に優れたゼリー状の潤滑剤が好適である。
【0012】
また、第2の潤滑剤としては、使用温度範囲内での任意の温度変化により生じる内部空孔への引き込み力に抗して凹部に留まり得るものが好ましい。既述の通り、含浸された潤滑剤と、焼結金属部品とでは大きく繊膨張係数が異なるため、含浸後の冷却に限らず、想定される使用(雰囲気)温度範囲内での温度変化により潤滑剤が内部空孔に引き込まれる可能性があるためである。
【0013】
凹部は第2の潤滑剤を充填、収容可能な形状をなすものであればよく、その形状は問わない。また、断続的か連続的かも問わない。例えば、穴状や溝状に複数の凹部を形成することもでき、これら穴部や溝部をつなげて形成することもできる。また、摺動面としての機能を考慮すれば、凹部として多数のディンプルが摺動面上に形成されていることが好ましい。摺動面上に第2の潤滑剤を配することはもちろんであるが、第1、第2双方の潤滑剤による潤滑状態および摺動状態を考慮するならば、なるべく第2の潤滑剤が摺動面上に偏ることなく均等に配されていることが好ましいからである。
【0014】
上記構成の凹部および第2の潤滑剤を備えた焼結金属部品は、例えば、内周に挿入した軸を、同じく内周に設けた摺動面で支持する用途、すなわち焼結含油軸受に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上より、本発明によれば、潤滑油を含浸させた焼結金属部品の摺動特性、特に初期摺動時における摺動特性の改善を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図1および図2に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る焼結含油軸受1を示している。同図における焼結含油軸受1は円筒状をなし、焼結金属で形成されている。また、焼結含油軸受1は多数の内部空孔3を有し、これら内部空孔3に第1の潤滑剤としての潤滑油を含浸した構成をなす。焼結含油軸受1の内周には、支持すべき軸2(同図中1点鎖線)の外周面と摺動する軸受面4が設けられる。
【0018】
図2(a)は、図1における領域Aの拡大断面図である。同図に示すように、軸受面4には多数の表面開孔5があり、軸2の相対回転に伴い、軸2の外周面と対向する軸受面4の表面開孔5を介して内部空孔3に保持されている潤滑油が滲み出すようになっている。また、軸受面4には表面開孔5の他、多数のディンプル6が設けられる。ディンプル6には、ディンプル6の表面開孔5を介して内部空孔3に引き込まれないような第2の潤滑剤7が保持されている。
【0019】
上記構成の焼結含油軸受1は、例えば原料となる金属粉末を圧粉成形する工程(a)、圧粉成形体を焼結する工程(b)、焼結体にサイジングを施す工程(c)、潤滑油を含浸する工程(d)、およびディンプルに第2の潤滑剤を充填する工程(e)とを経て製造される。なお、ここでは、サイジング工程(c)時にディンプル6を形成する。以下、各工程を詳細に説明する。
【0020】
(a)圧粉成形工程
まず、原料となる金属粉末を成形金型内部に充填し、これを圧縮成形することで完成品に近い形状の圧粉成形体を得る。なお、原料には、例えばFeあるいはFe系合金の金属粉末を主成分とするものが用いられるが、もちろんCuあるいはCu系合金の金属粉末など他の金属粉末を原料に用いることもでき、これら複数種の金属粉末を混合したものを原料として用いることもできる。また、必要に応じて黒鉛や二硫化モリブデン等の粉末状固体潤滑剤を添加したものを原料として用いても構わない。
【0021】
(b)焼結工程
上記工程(a)で得られた圧粉成形体を、原料となる金属粉末の焼結温度まで加熱することで焼結し、焼結体を得る。なお、使用する金属粉末の種類によっては、焼結による浸炭作用を避けるため、かかる焼結作業を非浸炭雰囲気下で行うことも可能である。
【0022】
(c)サイジング工程
上記工程(b)で得られた焼結体に対し、適当な金型を用いて圧迫力を付与することで、焼結体を所定形状に整形する。この実施形態では、図示は省略するが、焼結体の内周面を整形するサイジングピンの外周に、ディンプル6に対応する形状の突起部を設けたものを用いることで、焼結体の内周に適度な大きさの表面開孔5を有する軸受面4を形成すると共に、この軸受面4に潤滑剤7を保持すべき複数のディンプル6を形成する。
【0023】
(d)含浸工程
上記(a)〜(c)の工程を経て、完成品の形状(図1に示す形状)に仕上がった焼結体に潤滑油を含浸させる。具体的には、焼結体に対し適当な容器内で真空引きを施しておき、潤滑油で満たした潤滑油浴中に当該焼結体を浸漬させることで、内部空孔3に潤滑油を含浸させる。この際、潤滑油の内部空孔3への含浸を確実かつ短時間で行うため、潤滑油を加熱した状態で含浸作業を行うこともできる。
【0024】
そして、含浸作業後、適当な油除去装置を用いて油切り作業を行う。これにより、内部空孔3に含浸させた潤滑油はそのままに、表面に付着した余分な潤滑油が除去される。
【0025】
(e)ディンプルへの潤滑剤充填工程
上記工程(d)を経て得られた含油焼結体の内周に形成されたディンプル6に潤滑剤7を充填する。ディンプル6に充填する潤滑剤7には、ディンプル6の表面開孔5を介して内部空孔3に引き込まれないものを選択、使用する。この場合、表面開孔5の開孔径と潤滑剤7の引き込み作用との関係を考慮して、加工方法を含めたディンプル6の設計、および潤滑剤7の選定を行うことが肝要となる。
【0026】
上記構成の焼結含油軸受1において、軸2の相対回転に伴い、内部空孔3に保持された潤滑油が表面開孔5を介して軸受面4上に滲み出す。これにより、軸2と焼結含油軸受1との間に潤滑油の膜が形成され、この潤滑油膜を介して軸2が回転自在に支持される。
【0027】
また、図2(b)に示すように、軸2の相対回転開始時、軸受面4上のディンプル6に保持される潤滑剤7が軸2と優先的に接触することにより、相対回転する軸2との間で摺動潤滑状態が確保される。そのため、回転開始時など、潤滑油の滲み出しが不十分な場合であっても、軸2と軸受面4との直接的な接触摺動を極力避けることができ、この接触摺動による摩耗や異音の発生を可及的に抑制することができる。
【0028】
また、上述のように、焼結含油軸受1への含浸作業の都合上、含浸作業後、高温状態で含浸された潤滑油が冷却されることで内部空孔3に引き込まれ、使用開始時、特に製造後初めて使用する際には、軸受面4上に潤滑油が残らない場合もあり得る。しかし、このような場合であっても、常にディンプル6に保持された潤滑剤7の作用により軸2との摺動状態をなるべく円滑に保つことができるため、初期摺動時の摩耗や異音、振動の発生を可及的に抑えることができる。また、製造後になじみ運転等を行わずに済むため、かかる作業に要する時間およびコストの低減化を図ることができる。また、この実施形態のように、焼結含油軸受1の内周に潤滑剤7を保持する場合であれば、回転に伴う遠心力で潤滑剤7が飛散する恐れもない。
【0029】
また、このように、冷却に伴う潤滑油の引き込みを考慮するのであれば、例えば、使用温度範囲内での如何なる温度変化に対しても、ディンプル6の表面開孔5を介して内部空孔3に引き込まれないような第2の潤滑剤7を選択、使用するべきである。例えば、この種の焼結含油軸受1であれば、−40℃〜120℃の範囲で使用されることが想定されるため、この温度範囲内における最大の温度低下(冷却)を想定した場合であっても、表面開孔5を介して生じる内部空孔3への引き込み力に抗してディンプル6に留まり得る潤滑剤7を用いることが好ましい。あるいは、温度上昇により内部空孔3に保持される潤滑油が昇温膨張し、ディンプル6の表面開孔5を介して潤滑剤7を押し出す向きに作用した場合であっても、潤滑剤7が押し出されずに保持され得るものであることも重要である。
【0030】
上述の条件を満たす限りにおいて、使用可能な潤滑剤7は特に限定されず、例えば高粘度のグリース等、種々の潤滑剤を使用することができるが、その中でもゲル状の潤滑剤、特にゼリー状をなす潤滑剤が好適である。ここでいうゼリー状の潤滑剤は、高い変形抵抗を有し、かつ自己形態保持性を有するものであり、一旦ディンプル6内に保持された状態を維持し、かつ表面開孔5からの引き込み力(毛細間力)に対しても高い抵抗力を示す。もちろん、軸2と接触摺動した箇所においては、摩擦熱により液相化することで、通常の潤滑剤として機能し得る。かかるゼリー状の潤滑剤は、例えば鉱油もしくは合成油を基油とし、この基油中に粉末状態の金属石鹸(増ちょう剤)を分散攪拌した後、加熱したものを攪拌することなくそのまま冷却することにより得ることができる。
【0031】
上記ゼリー状潤滑剤の一例をその製造方法および特性と共に示す。
【0032】
まず、下記の表1に記載の特性を有する基油中に、同じく表1に記載の増ちょう剤(ここではステアリン酸リチウム)を供給し脱気しながら攪拌する。なお、脱気後、窒素ガスを導入し窒素ガス雰囲気としておく。
【0033】
【表1】

【0034】
十分に攪拌された状態であることを確認した後、ヒータで加熱する。この際の加熱温度(十分に加熱された状態での温度)は200℃〜205℃とする。
【0035】
上述の如く十分に加熱した液状の物体を、含油した状態の焼結金属軸受(焼結含油軸受)に充填する。図1でいえば、焼結含油軸受1の軸受面4に設けた複数の凹部(ディンプル6)に上記液状物体を充填する。そして、この状態で常温まで自然冷却することで、凹部に保持された状態のゼリー状潤滑剤が得られる。
【0036】
このようにした得られたゼリー状潤滑剤は、液体の如く自重により容易に自身の形状を変更するものではない。また、同じゼリー状潤滑剤を試験管内で作成した場合、試験管の天地を入れ替えたとしても落下しないようなものである。
【0037】
また、この実施形態では、潤滑剤7を保持するための凹部として複数のディンプル6を軸受面4に形成したが、かかるディンプル6は偏りなく分散していることが望ましい。ディンプル6が均等に分散して形成されていれば、焼結含油軸受1の他部品への取付け態様あるいは使用態様により、軸受面4の特定の領域に偏って軸2を支持する場合であっても、潤滑油による摺動潤滑、および潤滑剤7による摺動潤滑を共に満足することができる。
【0038】
ここで、ディンプル6は、少なくとも表面開孔5より大きくするべきである。また、軸受面4としての機能を発揮し得る大きさまでにディンプル6の大きさを制限すべきである。実質的な軸受面積を確保するためである。
【0039】
また、この実施形態では、サイジングピンでもって、焼結体の内周にディンプル6を形成するようにしたので、焼結体のサイジング(寸法サイジング)と同時にディンプル6を形成でき、ディンプル6形成のための工程を別途設けずに済む。また、サイジングピンを内周に押し付けることで多数のディンプル6を形成するのであれば、焼結体(焼結含油軸受)のサイズに関係なく、所定数かつ所定の大きさのディンプル6を形成することができる。
【0040】
もちろん、上記実施形態で説明した、サイジング工程(c)時に併せてディンプル6を形成する方法は一例に過ぎず、他の方法でディンプル6を形成することも可能である。例えば、そのサイズにもよるが、ショットブラスト等のブラスト加工(サンドブラスト、ショットピーニング等を含む)のように、粒子の衝突により外力を付与する手段を使用することで、多数のディンプル6を形成することもできる。この場合、ディンプル6の大きさ、深さ等は、ショット径やその噴射速度等で容易に調整することができる。また、本発明では、焼結金属製の多孔質体をディンプル加工の対象としているため、当該加工を受けた部分の肉は内部空孔3に吸収される形で変形する。そのため、この種の被加工物であれば、加工後の盛り上がりを憂慮することなくディンプル6を形成することができ好適な加工方法といえる。
【0041】
また、上記実施形態では、潤滑剤7を保持するための凹部としてディンプル6を設けた場合を説明したが、もちろんこれ以外の形状をなすものであってもよい。図3および図4はその一例を示すもので、同図に係る焼結含油軸受11は内周に軸2を回転支持するための軸受面14を有すると共に、軸受面14に凹部として軸方向に延びる複数の溝16を設けている。この複数の溝16には、溝16の表面開孔15を介して内部空孔13に引き込まれないような潤滑剤(第2の潤滑剤)17、例えば上記実施形態と同様のゼリー状の潤滑剤が充填される。
【0042】
上記構成の焼結含油軸受11であれば、軸2の相対回転開始時、軸受面14上の溝16に保持される潤滑剤17が軸2と優先的に接触することにより、軸2との間で摺動潤滑状態が確保される。そのため、潤滑油の滲み出しが不十分な場合であっても、軸2と軸受面14との直接的な接触摺動を極力避けることができ、この接触摺動による摩耗や異音の発生を可及的に抑制することができる。また、上述のように、焼結含油軸受11への含浸作業の都合上、使用開始時、特に製造後初めて使用する際に、軸受面14上に潤滑油が残らない場合であっても、常に複数の溝16に保持された潤滑剤17の作用により軸2との摺動状態をなるべく円滑に保つことができる。そのため、初期摺動時の摩耗や異音、振動の発生を可及的に抑えることができる。
【0043】
また、軸2が所定の回転数に到った状態(定常状態)では、軸2の相対回転に伴い、内部空孔13に保持された潤滑油が表面開孔15を介して軸受面14上に滲み出す。これにより、軸2と焼結含油軸受11との間には、潤滑油の膜が形成され、この潤滑油膜を介して軸2が回転自在に支持される。
【0044】
また、軸方向に延びる溝16を凹部として設けるのであれば、上述のサイジング工程(c)で溝16を塑性加工で形成する他、圧粉成形工程(a)の段階で溝16を形成することも可能である。このように、焼結前の段階で形成するのであれば、溝16の塑性加工により軸受面14など他の部分の成形精度に悪影響を及ぼす可能性も低いため、好ましい。もちろん、凹部としては、潤滑剤7、17をその内部に保持可能である限り、ディンプル6や溝16以外にも種々の形態、例えば螺旋状に連続した溝を軸受面の軸方向全長にわたって形成するような構成を採ることも可能である。
【0045】
なお、何れにしてもこれら凹部としてのディンプル6や溝16には、軸受面4ほどの高い面精度、寸法精度は必要とされない。従い、上述の如く種々の凹部形成手段を特に問題なく使用することができる。
【0046】
また、以上の実施形態では、摺動面を有する焼結金属製の摺動部材として、軸受面4、14を有する焼結含油軸受1、11を例示しているが、もちろんこれ以外の用途に係る焼結金属製の摺動部材についても、本発明を適用することができる。例えば、図示は省略するが、プリンタや複写機の給紙装置の駆動部等に使用されるコイルばね内臓型のトルクリミッタにおいて、このトルクリミッタを構成し、外周で内蔵されるコイルばねと摺接する内輪を焼結金属で形成しその内部に潤滑油を含浸させると共に、摺動面となる外周面にディンプル等の凹部を設け、かつこの凹部に、凹部の表面開孔を介して内部空孔に引き込まれないような潤滑剤、例えばゼリー状の潤滑剤を充填してなる構成を採ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係る焼結含油軸受の縦断面図である。
【図2】図1中の領域Aの拡大断面図であり、(a)は軸を挿入する前の状態、(b)は軸を挿入し、かつ軸が相対回転を開始した際の状態をそれぞれ示す断面図である。
【図3】他の実施形態に係る焼結含油軸受の縦断面図である。
【図4】図3に示す焼結含油軸受のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1、11 焼結含油軸受
2 軸
3、13 内部空孔
4、14 軸受面
5、15 表面開孔
6 ディンプル
7、17 潤滑剤
16 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面を有する焼結金属製の部品で、その内部空孔に第1の潤滑剤を含浸してなるものであって、相手部材との相対摺動に伴い、前記内部空孔に含浸した前記第1の潤滑剤が前記摺動面上に滲み出ることにより、前記相手部材と前記第1の潤滑剤を介して摺動するものにおいて、
前記摺動面に凹部が形成され、該凹部の表面に存在する開孔を介して前記内部空孔に引き込まれないような第2の潤滑剤が前記凹部に充填されていることを特徴とする焼結金属部品。
【請求項2】
前記第2の潤滑剤は、使用温度範囲内での任意の温度変化により生じる前記内部空孔への引き込み力に抗して前記凹部に留まり得るものである請求項1記載の焼結金属部品。
【請求項3】
前記凹部としての多数のディンプルが前記摺動面上に形成されている請求項1記載の焼結金属部品。
【請求項4】
内周に前記摺動面が設けられ、かつ内周に挿入した軸を前記摺動面で支持する請求項1〜3の何れかに記載の焼結金属部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−248975(P2008−248975A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89100(P2007−89100)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】