説明

照射装置

【課題】 対物レンズの製造精度を高くすることなく、線状プロファイルでの均一照射を行うことができる照射装置を提供する。
【構成】 LDアレイ1の各エミッタ1aより射出されたビームは、アレイ方向(第1方向)の成分がシリンドリカルレンズアレイ2により集光される一方、アレイ方向に垂直な方向(第2方向)の成分がシリンドリカルコリメータレンズ3によりコリメートされる。コリメートされたビームは、シリンドリカルレンズ4Aと球面レンズ系4Bで構成された対物レンズ4によって第2方向成分が被照射面5に集光される。各ビームの第1方向の成分は、シリンドリカルレンズ4Aによって、隣り合うビーム同士が被照射面5上で互いに重なり合うように集光され、線状プロファイルとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイ上に構成された半導体レーザを光源として被照射物に対してビームを照射することにより各種の処理を行う照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の照射装置は、液晶表示装置、有機EL(Electroluminescence) 表示素子の駆動回路素子、スイッチング素子などに用いられる多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造装置や、非晶質シリコン薄膜を溶融・再結晶化して薄膜トランジスタ活性層となる多結晶シリコン膜に転換させるためのレーザアニール装置に用いられている。
【0003】
従来、このような照射装置は、例えば図4(A),(B)に示したような構成を有している(特許文献1参照)。なお、図4(A)は平面構成、図4(B)は側面構成をそれぞれ表している。この照射装置では、半導体レーザアレイ(以下,LDアレイという)101は、連続発振する複数のエミッタ101aを有している。各エミッタ101aから射出されたビームBのy軸成分は、シリンドリカルコリメータレンズ102により被照射面105に集光される。一方、x軸成分については、各エミッタ101aに対応したシリンドリカルレンズ群であるシリンドリカルレンズアレイ103とコンデンサレンズ104により、各エミッタ101aから射出されたビームBが被照射面105の同一個所を照明する。これにより、この照射装置では、楕円形状のビームスポットを被照射面105に照明し、被照射面105をy軸方向に走査することで、被照射面105の全面あるいは一部を露光し、加工する。
【0004】
ところで、このような照射装置においては、加工内容によっては、被照射面上の照射強度密度を高くする必要がある。このような場合、例えば、特許文献2を例にとると、図5(A),(B)のような構成が容易に考えられる。図5においても、(A)は平面構成、(B)は側面構成をそれぞれ表している。LDアレイ111の各エミッタ111aから射出されたビームBのy軸成分は、シリンドリカルコリメータレンズ112によりコリメートされ、シリンドリカルレンズアレイ113、x軸対物レンズ(シリンドリカルレンズ114)を透過し、y 軸対物レンズ(シリンドリカルレンズ115)により被照射面116に集光される。このような構成では、対物レンズのNA(開口数)を高くすることにより照射強度密度を上げることができる。レーザ出力の現実レベルからは、レーザアニール装置を実現しようとすると、このような構成にならざるをえない。
【特許文献1】特許第2995540号明細書
【特許文献2】特開2002−72132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように図5に示した照射装置では、対物レンズのNAを高くすることにより、照射強度密度を上げることは可能であるものの、次のような問題があった。すなわち、シリンドリカルレンズ114からなるx軸対物レンズ、およびシリンドリカルレンズ115からなるy軸対物レンズに、製造公差および組み立て公差により偏心、特に光軸中心の回転が存在すると、被照射面で必要な照射スポットが得られず、必要な照明強度密度を得られないばかりが、照射ムラをも引き起こしてしまう。また、x軸対物レンズとy軸対物レンズは、現状ではそれぞれ複数枚のレンズで構成されるが、各レンズにも製造および組み立て時の光軸中心の回転偏心が存在するため、必要な照射スポットを得るには、非常に厳しい製造精度が要求される。
【0006】
更に、LDアレイ111の発散角は個体差により異なるために、LDアレイの交換等で照射面におけるプロファイルが変化することがある。また、シリンドリカルレンズアレイ113による回折が発生して、被照射面116に回折光が重畳し、所望の照射プロファイルが得られない場合もある。このように、従来の照射装置において、各軸の対物レンズにシリンドリカルレンズを使用するには、高い製造精度が要求されるという問題があった。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、対物レンズの製造精度を高くすることなく、線状プロファイルでの均一照射を行うことができる照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の照射装置は、以下の(A)〜(D)の要件を備えることにより、被照射面を線状プロファイルで均一に照射するものである。
(A)複数のエミッタを有する半導体レーザアレイ
(B)各レンズが各エミッタに一対一で対応するように第1方向(アレイ方向)に配列されると共に、エミッタから射出されたビームに対して第1方向にパワー成分を有するシリンドリカルレンズアレイ
(C)第1方向に対して垂直な第2方向(アレイ方向に垂直な方向)にパワー成分を有し、ビームの第2方向の成分をコリメートするシリンドリカルコリメータレンズ
(D)シリンドリカルコリメータレンズを介したビームの、第1方向の成分を被照射面に対してデフォーカスする一方、第2方向の成分を被照射面に対してフォーカスする対物レンズ
【0009】
対物レンズは、具体的には、第1方向にパワー成分を有するシリンドリカルレンズと球面系のレンズ系とで構成される。
【0010】
この照射装置では、半導体レーザアレイの各エミッタよりビームが発振し、各ビームは、アレイ方向(第1方向)の成分がシリンドリカルレンズアレイにより被照射面に集光される一方、アレイ方向に垂直な方向の成分(第2方向)がシリンドリカルコリメータレンズによりコリメートされ、平行光となる。コリメートされたビームは、シリンドリカルレンズと球面レンズ系で構成された対物レンズによって第2方向成分が被照射面に集光される。各ビームの第1方向の成分もまた、対物レンズにより被照射面上に照射されるが、このとき、シリンドリカルレンズアレイによる各エミッタの共役像から射出された各ビームの第1方向成分は、対物レンズを構成するシリンドリカルレンズによって、隣り合うビーム同士が被照射面上で互いに重なり合うように集光され、線状プロファイルとなる。すなわち、対物レンズに含まれるシリンドリカルレンズにより、照射面における第1方向の照射プロファイルが調整され、半導体レーザアレイの発散角の個体差の影響が補償される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の照射装置によれば、上記(A)〜(D)の要素を備えるようにしたので、対物レンズの製造精度を高くすることなく、線状プロファイルで均一に照射することができ、レーザアニール装置などに好適に用いることができるようになる。
【0012】
また、本発明の照射装置では、調整機構を設け、対物レンズに含まれるシリンドリカルレンズの光軸方向の位置を変化させることにより、被照射面上の照射プロファイルを調整することが可能になる。更に、対物レンズの前段に、シリンドリカルレンズアレイによるエミッタ共役を縮小するためのリレーレンズを配置するようにすれば、照射プロファイルを小さくすることができ、高い密度のビームを照射することが可能になる。
【0013】
また、シリンドリカルレンズアレイを半導体レーザアレイとシリンドリカルコリメータレンズとの間に配置、すなわち、半導体レーザアレイの直後にシリンドリカルレンズアレイを配置すれば、各エミッタから射出されたビームの第1方向成分がシリンドリカルレンズアレイの各レンズに、所謂蹴られを生ずることがなくすべて入射され、よって前述のような回折光の発生を抑制することができ、所望の照射プロファイルを得ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔第1の実施の形態〕
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
図1(A),(B)は本発明の第1の実施の形態に係る照射装置の構成を表すものであり、(A)は平面状態、(B)は側面から見た状態をそれぞれ示したものである。この照射装置は、複数のエミッタ1aにより構成された半導体レーザアレイ(以下,LDアレイという)1を有すると共に、LDアレイ1と被照射面5との間に、シリンドリカルレンズアレイ2、シリンドリカルコリメータレンズ3および対物レンズ4をこの順に備えている。
【0016】
LDアレイ1のエミッタ1aからは、例えば400〜410nmのビーム(光束)Bが射出されるようになっている。シリンドリカルレンズアレイ2は、各レンズが各エミッタ1aに一対一で対応するようにレーザアレイ方向(第1方向,図1(A)ではx軸方向)に配列され、アレイ方向にパワー成分を有するものである。一方、シリンドリカルコリメータレンズ3は、アレイ方向と垂直な方向(第2方向,図1(A)ではy軸方向)にパワー成分を有し、この方向のビーム成分を平行にするものである。
【0017】
対物レンズ4は、シリンドリカルレンズアレイ2を介したビームを、被照射面5に照射するもので、アレイ方向にパワー成分を有するシリンドリカルレンズ4Aと球面レンズ系4Bとにより構成されている。ここで、シリンドリカルレンズ4Aは、シリンドリカルレンズアレイ2による各エミッタ1aの共役像から射出された各ビームBが被照射面5上でそれぞれのビーム径の1/2だけずれるようなパワーを有している。すなわち、対物レンズ4により、ビームBのアレイ方向(x軸方向)の成分は被照射面5に対してデフォーカスされ、一方、アレイ方向と垂直な方向(y軸方向)の成分は被照射面5に対してフォーカスされることにより、被照射面5が線状に照射されるようになっている。
【0018】
シリンドリカルレンズ4Aには、このシリンドリカルレンズ4Aを光軸方向に位置を調整するための調整機構6が設けられており、この調整機構6によりLDアレイ1の各エミッタ1aの発散角個体差を補償するようになっている。
【0019】
このような構成を有する照射装置では、LDアレイ1の複数のエミッタ1aよりビームBが発振し、各ビームBは、x軸成分がシリンドリカルレンズアレイ2により集光される一方、各ビームBのy軸成分はシリンドリカルコリメータレンズ3によりコリメートされ、平行光となる。y軸成分がコリメートされたビームBは、シリンドリカルレンズ4Aと球面レンズ系4Bで構成された対物レンズ4に入射し、この対物レンズ4により被照射面5に集光される。一方、x軸成分に集光されたビームBも対物レンズ4により被照射面5上に照射される。このとき、シリンドリカルレンズ4Aによって被照射面5上に集光された各ビームのx軸成分は、それぞれのビーム径の1/ 2だけずれて互いに重なり合う。その結果、被照射面5上の照射プロファイルは、図2に示したように、x軸成分の特定範囲が均一な強度を有する線状の形状を有するものとなる。
【0020】
このような構成により、本実施の形態の照射装置では、被照射面5に線状プロファイルを形成することができ、例えば半導体デバイスの製造工程でのアニール装置として好適に用いることができる。また、前述の回転偏心については対物レンズ4のシリンドリカルレンズ4Aのみを考慮すればよく、例え光軸中心の回転偏心が生じて調整が必要な場合においても、シリンドリカルレンズ4Aのみを調整することにより偏心を解消することができる。よって、調整が容易であると共に、従来に比べて製造公差を緩めることができる。また、本実施の形態では、エミッタ1aに一対一で対応してレンズを有するシリンドリカルレンズアレイ2が、LDアレイ1の直後に配置されているため、LDアレイ1の各エミッタ1aから射出されたビームのx軸成分は、所謂蹴られを生ずることなく、シリンドリカルレンズアレイ2の対向するレンズにすべて入射される。よって、エミッタ1aから射出されたビームBが回折することがなくなり、所望の照射プロファイルを得ることができる。
【0021】
なお、LDアレイ1の各エミッタ1aの発散角は、LD個々で異なることが想定される。この個体差により、シリンドリカルレンズアレイ2による各エミッタ1aの共役像から射出されたそれぞれのビームBが対物レンズ4により被照射面5上に照射される際に、ビーム径のずれが1/2とはならず、照射プロファイルの均一領域が得られない場合がある。このような場合、本実施の形態では、調整機構6によりシリンドリカルレンズ4Aの光軸方向の位置を変更することによりビーム径のずれが1/2になるように調整することができ、照射プロファイルに均一領域を得ることができると共に、LDアレイ1の発散角個体差が補償される。
【0022】
〔第2の実施の形態〕
図3は本発明の第2の実施の形態に係る照射装置を表すもので、ここでも図3(A)は平面状態、図3(B)は側面から見た状態をそれぞれ示したものである。
【0023】
この照射装置は、複数のエミッタ11aにより構成されたLDアレイ11を備えると共に、このLDアレイ11と被照射面15との間に、シリンドリカルレンズアレイ12、シリンドリカルコリメータレンズ13および対物レンズ14を有し、更にシリンドリカルコリメータレンズ13と対物レンズ14との間に、レンズ17Aおよびレンズ17Bにより構成されたリレーレンズ17を有するものである。対物レンズ14は、アレイ方向にパワー成分を有するシリンドリカルレンズ14Aと球面レンズ系14Bとにより構成されている。シリンドリカルレンズ14Aには、光軸方向の調整機構16が設けられている。
【0024】
リレーレンズ17は、シリンドリカルコリメータレンズ13と対物レンズ14との間でビームBを縮小リレーするものである。その他のLDアレイ11,シリンドリカルレンズアレイ12、シリンドリカルコリメータレンズ13および対物レンズ14のそれぞれの機能は第1の実施の形態とそれと同様であるので、その説明は省略する。
【0025】
このような構成により、本実施の形態では、LDアレイ11の複数のエミッタ11aより発振した各ビームBは、第1の実施の形態と同様に、シリンドリカルレンズアレイ12、シリンドリカルコリメータレンズ13を介して、x軸方向は集光され、y 軸方向はコリメートされる。各ビームBは、更に、レンズ17A,17Bにより構成されたリレーレンズ17により縮小リレーされ、対物レンズ14に導かれる。対物レンズ14では、y 軸成分は球面レンズ系14Bにより被照射面15に集光され、x軸成分はシリンドリカルレンズ14Aと球面レンズ系14Bにより、被照射面15上で各ビームBがビーム径の1/ 2だけずれて照射される。ここで、リレーレンズ17は縮小系であるため、対物レンズ14の瞳径は第1の実施の形態の対物レンズ4に比べて小さくなる。LDアレイ11の発散角個体差の補償は第1の実施の形態と同様に光軸方向の調整機構16により行われる。
【0026】
このように本実施の形態では、対物レンズ14の瞳径を小さくでき、対物レンズの仕様を簡略化できるだけでなく、対物レンズのNAを大きくする自由度が生まれ、照射プロファイルを小さくすることができる。従って、高い密度の照射が可能となり、LDアレイ11として低出力のLDからなるLDアレイを用いて所望の照射密度で照明することが可能になる。その他の作用効果は第1の実施の形態と同様であるので、その説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る照射装置の構成を表すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図2】図1の照射装置によって得られる照射プロファイルを表す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る照射装置の構成を表すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図4】従来の照射装置を表すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図5】従来の他の照射装置を表すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【符号の説明】
【0028】
1,11…LDアレイ、2,12…シリンドリカルレンズアレイ、3, 13…シリンドリカルコリメータレンズ、4,14…対物レンズ、4A,14A…シリンドリカルレンズ、4B,14B…球面レンズ系、5,15…被照射面、6,16…調整機構、17…リレーレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエミッタを有する半導体レーザアレイと、
各レンズが前記各エミッタに一対一で対応するように第1方向に配列されると共に、前記エミッタから射出されたビームに対して第1方向にパワー成分を有するシリンドリカルレンズアレイと、
第1方向に対して垂直な第2方向にパワー成分を有し、前記ビームの第2方向の成分をコリメートするシリンドリカルコリメータレンズと、
前記シリンドリカルコリメータレンズを介したビームの、第1方向の成分を被照射面に対してデフォーカスする一方、第2方向の成分を被照射面に対してフォーカスする対物レンズとを備え、
被照射面を線状プロファイルで照射する
ことを特徴とする照射装置。
【請求項2】
前記対物レンズは、第1方向にパワー成分を有するシリンドリカルレンズと球面系のレンズ系とで構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の照射装置。
【請求項3】
前記対物レンズに含まれるシリンドリカルレンズの光軸方向の位置を調整するための調整機構を有し、前記被照射面上の照射プロファイルが調整可能である
ことを特徴とする請求項1に記載の照射装置。
【請求項4】
前記対物レンズの前段に、前記シリンドリカルレンズアレイによるエミッタ共役を縮小するためのリレーレンズが配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の照射装置。
【請求項5】
前記シリンドリカルレンズアレイは、前記半導体レーザアレイと前記シリンドリカルコリメータレンズとの間に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の照射装置。
【請求項6】
前記半導体レーザアレイにおける各エミッタの発振波長は400〜410nmである
ことを特徴とする請求項1に記載の照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−5015(P2006−5015A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177369(P2004−177369)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】