説明

照明光学系および画像表示装置

【課題】 従来の照明光学系では、スペックルノイズを低減するために装置が大きくなる、あるいは、光が損失するという不具合があった。そこで、光の損失や装置の大型化を招くことなく、スペックルを低減することができる照明光学系および画像表示装置を得ることを目的とする。
【解決手段】 直線偏光光(p偏光光)を発するレーザ光源1と、レーザ光源1から入射した光束を、光軸Cに垂直な平面内の位置によって偏光軸を異ならせて(s偏光とp偏光)出射する偏光光学素子2と、を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光を発生させる照明光学系およびこの照明光学系から発せされた照明光を用いて画像を表示する画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学式画像表示装置の光源として、レーザを利用した例が多数報告されている。一般に、レーザから射出された光は、高い指向性を有するため光利用効率の向上が見込まれ、また、その単色性は画像表示装置において必要とされる広い色再現領域を実現することが可能なため、照明用光源として有用であると考えられている。
【0003】
しかし、レーザ光源はコヒーレンス(可干渉性)が高いため、スペックル(スペックルノイズ)が発生しやすい。スペックルは、スクリーン上に形成される空間的にランダムな干渉模様のことであり、可干渉性の高い光が粗い表面から反射したり透過したりするのに伴い発生し、表示画像の画質の低下を招く。
【0004】
一般に、N個の互いにインコヒーレントで無相関なコヒーレント光のスペックルパターンを重ね合わせた時、その和は、各スペックルパターンの強度和となり、各光の強度が等しい場合、スペックルコントラストは、1/(N)1/2になることが知られている。
【0005】
したがって、レーザ光源からの光ビームをN個に分岐し、分岐された光ビームそれぞれの光路長差が可干渉性の無くなる距離(コヒーレント長)Lc以上であれば、N個の光ビームはそれぞれインコヒーレントな光とみなすことができ、スペックルコントラストを低減することができる。そこで、光軸に垂直な平面内を複数の領域に分け、領域毎に厚みの異なる光路差発生部材、または長さが互いに異なる光ファイバを束ねた光ファイババンドルを用いた照明光学装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかし、コヒーレント長以上に光路差をつけるためには、光路差発生部材の厚みを大きくする、または、光ファイバの長さを長くする必要があり、装置が大型化してしまうという問題があった。そこで、光ファイバ内での実質的な光路長を考慮して、コヒーレンス長の6割程度に長さの差を抑えた複数の多モード光ファイバを束ねた光ファイバーバンドルを介して、コヒーレント光のコヒーレンスを低減する照明装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開昭60−230629号公報(2頁左上段、第1図、4頁右上段第7図)
【特許文献2】特開平11−326653号公報(段落0050、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、複数の光ファイバを束ねた構造であるために光源から出射された光ビームのうち、光ファイバ間のすき間、あるいは光ファイバのクラッドの部分に入射した光は損失光となってしまい、光源からの光を効率よくライトバルブに導くことが困難であるという問題があった。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、光の損失や装置の大型化を招くことなく、スペックルを低減することができる照明光学系および画像表示装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る照明光学系は、直線偏光光を発する光源と、前記光源から入射した光束を、光軸に垂直な平面内の位置によって偏光軸を異ならせて出射する偏光光学素子と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る画像表示装置は、上記照明光学系と、前記照明光学系から入射した照明光を制御して画像光を形成する光変調素子と、前記光変調素子からの画像光を拡大投写する投写光学系と、前記拡大投写された画像光を表示する画像表示部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、直線偏光光を平面内の位置によって偏光軸の異なる直線偏光光を有する光束に変換することにより、光の損失や装置の大型化を招くことなく、スペックルを低減することができる照明光学系および画像表示装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1に本発明の実施の形態1に係る照明光学系、および該照明光学系を用いた画像表示装置の構成を示す。
【0014】
図において、照明光学系10は、直線偏光光(p偏光光)を発する光源であるレーザ光源1と、レーザ光源1からの光束を拡大して出射するビームエクスパンダ5と、ビームエクスパンダ5を介してレーザ光源1から入射した光束(p偏光光)を、光軸Cに垂直な平面内の位置によって偏光軸の異ならせて出射する偏光光学素子2と、偏光光学素子2から出射された光束を集光させる集光レンズ3と、集光レンズ3によって入射面4aに集光された光束を内面で複数回反射させたのち、出射面4bから出射する光伝播素子である光ファイバ4と、光ファイバ4の出射面4bから出射された断面が円形の光束をライトバルブ8の入射面の形状に相似の矩形形状に整形して出射する整形光学素子6と、整形光学素子6から出射された断面が矩形形状の光束を光変調素子であるライトバルブ8の入射面合致させるように照射するリレー光学系7とを備える。
【0015】
そして、上述した照明光学系10と、照明光学系10から入射した照明光を制御して画像光を形成する光変調素子であるライトバルブ8と、ライトバルブ8からの画像光を拡大投写する投写光学系30と、前記拡大投写された画像光を表示する画像表示部であるスクリーン40とで画像表示装置を構成している。以下に詳細を示す。
【0016】
直線偏光光を発する光源であるレーザ光源1は、略平行な直線偏光光の光ビームを出射する半導体レーザであり、直径が1mm以下の小さな発光点をひとつ備えている。発光点からは、光軸Cに略平行で、偏光軸が単一(p偏光光)、かつ、位相が揃った直線偏光光が出射される。つまり、レーザ光源1からは、ビーム径が1mm以下の略平行なコヒーレント光が出射される。
【0017】
ビームエクスパンダ5は、図示しない凹レンズと凸レンズの間隔を各レンズの焦点距離の和になるように配置(共焦点系)したもので、レーザ光源1から出射される直径が1mm以下の略平行のビームを1cm程度に拡大し、光軸Cに略平行な光として偏光光学素子2に向けて出射する。
【0018】
図2に偏光光学素子2を光軸C方向から見た平面図を示す。偏光光学素子2は、図において平板ガラスの光軸Cの中心から右半分(2b部分)の領域にλ/2板を貼ることにより形成したものであり、光軸Cに垂直な平面を2つの領域に分け、一方の領域2aには透明板を配置し、他方の領域2bにはλ/2波長板を備えたものとなる。そして、領域2bにおけるλ/2波長板の光学軸(進相軸)は、レーザ光源1から入射してくるp偏光光の偏光軸に対して45°傾けて配置している。したがって、偏光光学素子2を通過するp偏光光50のうち、左側の透明領域2aを通過した光はp偏光光のまま、右側のλ/2波長板領域2bを通過した光はs偏光光に変換されて出射し、集光レンズ3に入射する。つまり、偏光光学素子2は、レーザ光源1から発せられた光束のうち、少なくとも1種類(本実施の形態1ではレーザ光源1から発せられた全光束)の直線偏光光(p偏光光)の光束を、光軸Cに垂直な平面内の位置によって偏光軸を異ならせて出射する機能を有している。
【0019】
集光レンズ3は、偏光変換素子2を透過し、光軸Cに垂直な面内の光軸Cより右側がs偏光光で左側がp偏光光である直径が約1cmの略平行光を光伝播素子である光ファイバ4の入射面4aに向けて集光する。
【0020】
光伝播素子である光ファイバ4は、コア径が50μm、長さ20cmのマルチモード光ファイバである。光ファイバ4の入射面4a(コア径である直径50μm)から入射した光は、光ファイバ4のコアとクラッド間の境界面、つまりコアの内面で全反射を繰り返し、さまざまな経路を経た光が混合された状態で直径50μmの出射面4bから出射する。なお、光ファイバ4は柔軟性があるので、ファイバ自体は曲げた状態で設置でき、入射面4aと出射面4bとは平行である必要は無い。つまり、光ファイバ4内では光軸Cはファイバに沿った曲線状に変化することになるので、入射面4aより手前部分と出射面4bより後段部分との光軸は空間的に必ずしも一致しない。しかし、図1においては理解が容易なように、入射面4aより手前の光軸Cと出射面4bから後段の部分での光軸が一致するように、つまり、光ファイバ4が光軸Cとともに直線をなすように記載している。
【0021】
整形光学素子6は、光変調素子であるライトバルブ8の表示エリアと略相似な断面形状を有する角筒状体の内周面全体に反射膜を設けたライトパイプで構成されている。このライトパイプは、その一端の入射面6aから入射した光を、内周面の反射膜で反射しながら出射面6bに導き、出射面6bから光軸Cに垂直な断面形状が矩形で、光軸Cに垂直な平面内での光強度分布が均一な光束を出射するものである。
【0022】
リレー光学系7は、整形光学素子6とライトバルブ8との間に配置され、整形光学素子6の出射面6bとライトバルブ8とが共役な関係となるように結像させる機能を有する。そして、整形光学素子6の出射面6bから出射された断面形状の光をライトバルブ8の入射面に合致させるように伝達する。
【0023】
すなわち、整形光学素子6及びリレー光学系7は、光ファイバ4から入射した略円形の微小な光束をライトバルブ8の表示エリアと略相似の断面形状で、光軸Cに垂直な平面内での光強度分布が均一な光束としてライトバルブ8に出射する整形光学系20として機能する。
【0024】
光変調素子であるライトバルブ8は、整形光学系20から入射した光を光変調し、入力された画像信号に応じた画像光を生成して出射する。本実施の形態1では、ライトバルブ8として反射型のDMD(Digital Micro−mirror Device)を用いた場合の構成を示している。これに限らず、ライトバルブ8として透過型の液晶パネル、または反射型の液晶パネル等を使用することもできる。また、ライトバルブ8を1枚使用した単板式の他、3枚のライトバルブ8を使用した3板式等、複数のライトバルブ8を使用する構成が可能である。
【0025】
投写光学系30は、図示しない複数のレンズで構成され、ライトバルブ8とスクリーン40との間に配置され、ライトバルブ8とスクリーン40とが共役な関係になるように結像させる機能を有する。そして、ライトバルブ8からの画像光を画像表示部であるスクリーン40に拡大投写する機能を有する。
【0026】
本実施の形態1においては画像表示装置をリアプロジェクションタイプで設定しているので、画像表示部であるスクリーン40としては、透過型スクリーンを用いることになる。この場合、スクリーン40は、投写光学系30側に配置されたフレネルレンズと、観察者側に配置されたレンチキュラーレンズとを有し(図示せず)、観察者側に映像を映し出す。フレネルレンズは投写光学系30からの投写光を略平行光として出射する作用を有する。レンチキュラーレンズはフレネルレンズで略平行光となって入射した投写光を、並列されたシリンドリカルレンズ群の特性により視野角を広げて、観察者側に映像光として出射する作用を有する。
【0027】
つぎに動作について説明する。
図1において、レーザ光源1から出射された直径が1mm程度の光軸Cに略平行で位相の揃ったp偏光光は、ビームエクスパンダ5により、直径が1cm程度に拡大した光軸Cに略平行なp偏光光として偏光光学素子2に入射する。
【0028】
偏光光学素子2は、図2における光軸Cを境に左側の領域2aは単なるガラス板のみなので、左側の領域2aを通過したp偏光光はp偏光光のまま出射する。一方、右側の領域2bには、p偏光光の偏光軸に対して進相軸を45°傾けてλ/2波長板が貼付されているので、領域2bを通過したp偏光光は偏光軸が90°回転してs偏光光に変換されて出射する。このとき、光束の中心である光軸Cを境に等分するように領域2a、2bを形成し、レーザ光源1から出射された光ビーム50が領域2aと領域2bに略等分に当るように偏光光学素子2を配置したので、偏光光学素子2からはp偏光光とs偏光光とが略等量出射される。つまり、偏光光学素子2に入射したレーザ光源1から入射した直線偏光光(p偏光光)の光束は、光軸Cに垂直な平面内の位置(左右)によって偏光軸の異なる直線偏光光(p偏光光とs偏光光)となって出射する。
【0029】
偏光光学素子2から出射され、集光レンズ3によって光ファイバ4の入射面4aに集光されたs偏光光およびp偏光光は、光ファイバ4のコアの内面で全反射を繰り返すことになる。光ファイバのコア内を進む光は、集光レンズ3からの入射角度によって、反射回数が異なることになるので、出射面5aからは、さまざまな光路長を経た光が混合された状態で出射されることになる。また、p偏光光とs偏光光とでは、反射時の挙動が異なるので、p偏光光とs偏光光とでは、光路差がより一層異なった状態で出射することになる。
【0030】
なお、集光レンズ3により、光ファイバ4の入射面4aに光ビームを集光する際、ビームスポットを光ファイバ4のコア径よりも小さくする必要がある。このようにすることにより、入射面4aでの反射損失以外の光は光ファイバ4に入射させることができる。また光ファイバ4への入射光は、光ファイバ4のNA(開口数)以下の入射角で入射させることが必要である。このようにすることにより、光ファイバ4に入射した光は、コア、クラッド界面での全反射条件を満たし、光ファイバ4内を進行することができる。
【0031】
光伝播素子である光ファイバ4の直径50μmの出射面4bから出射された断面形状が略円形の微小な光束は、整形光学素子6内でさらに複数回反射した後、リレー光学系7によって光軸Cに垂直な断面形状が矩形で、光軸Cに垂直な平面内での光強度分布が均一な光束としてライトバルブ8に照射され、ライトバルブ8によって画像光に変換された後、投写光学系30によってスクリーン40に拡大投写される。
【0032】
上述したように、本実施の形態1にかかる照明光学系10では、偏光光学素子2から出射される光は光量がほぼ等しく互いに偏光方向が直交する一対の直線偏光光(p偏光光とs偏光光と)を有する光束に変換されて出射されることになる。偏光方向が直交する光は互いに相関のない光とみなすことができるので、偏光光学素子2により、レーザ光源1からの高い相関をもつひとつの光束が、2つの相関のない光束に変換されることになる。
スペックルノイズの指標として広く使われているものにスペックルコントラストがある。これは強度の1次と2次のモーメントから定義される物理量で、平均値で規格化した標準偏差で表される。この標準偏差が小さいことは平均強度からのバラツキが小さい、すなわちスペックルノイズが小さいことを意味する。ここで、おのおのの強度が等しいN個の相関のない偏光光源の重ね合わせからなるスペックルコントラストは1/√N(Nの平方根の逆数)に比例することから、一対(N=2)の直交する偏光の重ね合わせの場合1/√2となる。したがってレーザ光源1からの光によるスペックルノイズを低減することができる。なお、この偏光方向が直交する一対(N=2)の直線偏光の重ね合わせは、ひとつ(M=1)の非偏光光と考えることができる。同様にM個の相関のない非偏光光源の重ね合わせからなるスペックルコントラストは1/√(2M)(2Mの平方根の逆数)となるため、上記の例ではスペックルコントラストは1/√2となる。
【0033】
さらに、偏光光学素子2から入射したs偏光光とp偏光光との混合光が光ファイバ4内で、異なる光路長を経て出射するので、位相が不揃いとなる。そのため、さらに相関のない光に分割されることになり、スペックルノイズをより低減させることができる。
【0034】
また、整形光学素子6においても、入射した光を異なる光路長を経て出射することになるので、位相がより不揃いとなり、スペックルノイズをさらに低減させることができる。
【0035】
以上のように、本実施の形態1にかかる照明光学系によれば、直線偏光光(p偏光光)を発するレーザ光源1と、レーザ光源1から入射した光束を、光軸Cに垂直な平面内の位置によって偏光軸を異ならせて(s偏光とp偏光)出射する偏光光学素子2と、を備えるようにしたので、偏光光学素子2を含む各光学素子や各光学素子間での光の漏れや吸収等による光の損失が少なく、また装置を大型化することもなく、スペックルを低減することができる。
【0036】
とくに、偏光光学素子2は、光軸Cに垂直な平面を2つの領域に分け、一方の領域には透明板を配置し、他方の領域には光源1からの直線偏光光(p偏光光)の偏光軸と異なる進相軸のλ/2波長板を備えて構成したので、簡単な構成で有効にスペックルを低減することができる。
【0037】
さらに、光源1からの光束を拡大して偏光光学素子2に入射させるビームエクスパンダ5を備えるようにしたので、偏光光学素子2に入射するビーム径が大きくなり、偏光光学素子2内での光50を均等に領域2aと領域2bに振り分けることができるので、分割した光の強度比を容易に調整でき、スペックルをより効果的に低減できる。また、ビーム径が広がることにより、透過面積あたりの光強度が下がるので、レーザビームによるλ/2波長板での単位面積あたりの発熱量が低減され、素子の劣化を防止することができる。
【0038】
また、偏光光学素子2から入射した光を内面で複数回反射させたのちに出射する光伝播素子である光ファイバ4を備えたことにより、出射光の位相が不揃いとなり、スペックルノイズをより低減させることができる。
【0039】
そして、本実施の形態1にかかる画像表示装置によれば、上述した照明光学系と、照明光学系から入射した照明光を制御して画像光を形成する光変調素子であるライトバルブ8と、ライトバルブ8からの画像光を拡大投写する投写光学系30と、拡大投写された画像光を表示する画像表示部であるスクリーン40と、を備えるようにようにしたので、光の損失や装置の大型化を招くことなく、スペックルを低減した画像を表示することができる。
【0040】
なお、本実施の形態1では、領域2aと領域2bに入射する光量が等量となるように、各領域の照射面積を等しくなるようにした。しかし、領域2aと領域2b内での光線の吸収量の違いを考慮して、各領域から出射される光量が等しくなるよう各領域の面積を調整してもよい。例えば透明板のみの領域2aに光線50が入射する面積よりも、λ/2波長板を貼付して吸収量が多くなる領域2bに光線50が入射する面積を大きくするようにしてもよい。
【0041】
実施の形態2.
本実施の形態2では、上述した実施の形態1における照明光学系10において、偏光光学素子2の構成を変更した。つまり、図1における照明光学系10の偏光光学素子2を偏光光学素子102に入れ替えたものである。したがって偏光光学素子以外の構成については実施の形態1と同様であるので、主に変更した偏光光学素子102についてのみ説明する。
【0042】
図3は、本実施の形態2にかかる照明光学系、および画像表示装置に用いる偏光光学素子102の光軸C方向から見た平面図を示す。図において、偏光光学素子102は光束の中心である光軸Cを中心として周方向に4つの領域に分割されており、光が透過する時に偏光軸が変化しない透過領域102a(第1の透過領域)と、光が透過する時に偏光軸が60°回転するλ/2波長板からなる透過領域102b(第2の透過領域)と、光が透過する時に偏光軸が90°回転するλ/2波長板からなる透過領域102c(第3の透過領域)と、光が透過する時に偏光軸が150°回転するλ/2波長板からなる透過領域102d(第4の透過領域)とが並べて配置されている。なお、透過領域102aは光学的には入射光の偏光軸と同じ角度の進相軸のλ/2波長板とみなすことができるので、偏光光学素子102は、光軸Cに垂直な平面を光軸Cに対して点対称となる複数の領域102a、102b、102c、102dに分け、複数の領域102a、102b、102c、102d毎に進相軸の異なるλ/2波長板を備えた構成と等価といえる。
【0043】
つぎに動作について説明する。図4に光源1からの光50(ビームエクスパンダ5を経由)が透過領域102bを透過する時の偏光軸の状態を模式的に示す。レーザ光源1から出射される光が水平面内で振動する直線偏光光(p偏光光)である場合、λ/2波長板を透過する前の入射光50の偏光軸は50iで表される。λ/2波長板の進相軸50aが入射光50の偏光軸50iに対し角度θ=30°傾けられていることにより、出射光の偏光軸50eは入射光50の偏光軸50iから進相軸50aの方に向けて角度2θ=60°回転した偏光軸となる。
【0044】
このときの透過光の強度について説明する。偏光光学素子102への入射光のp偏光成分をE、s偏光成分をEとし、入射光の単位ベクトルを次の列ベクトルEで表し、強度をIで表す。
【0045】
【数1】

同様に、偏光光学素子102からの出射光のp偏光成分をE'、s偏光成分をE'とし、出射光の単位ベクトルを次の列ベクトルE'で表し、強度をIで表す。
【0046】
【数2】

また、入射光のp偏光成分の強度、s偏光成分の強度をそれぞれ、I0x、I0yとし、出射光のp偏光成分の強度、s偏光成分の強度をそれぞれ、I、Iとすると、
【0047】
【数3】

【0048】
【数4】

で表される。
【0049】
入射光が水平面内で振動する直線偏光光(p偏光光)でその強度がIの時、λ/2波長板の進相軸が入射光50の偏光軸50iに対し角度θ傾けられている場合の出射光は偏光軸が2θ回転するので出射光は次の列ベクトルE2θ'で表される。
【0050】
【数5】

また、出射光強度I2θは、
【0051】
【数6】

で表される。
【0052】
偏光光学素子102への入射光が水平面内で振動する直線偏光光(p偏光光)で光強度が1である場合、入射光は、
【0053】
【数7】

で表される。この時、入射光のp偏光成分の強度I0x、入射光のs偏光成分の強度I0yはそれぞれ、
【0054】
【数8】

で表される。
【0055】
偏光光学素子102の第1の透過領域102aを出射する光は、光が透過する時に偏光軸が変化しないので、
【0056】
【数9】

で表される。偏光光学素子102は周方向に4つの領域に略等分割されており、透過損失が無いと仮定した場合、入射光強度Iの1/4が第1の透過領域102aを透過するので、出射光強度I0°は、
【0057】
【数10】

となる。この時、出射光のp偏光成分の強度I0°x、出射光のs偏光成分の強度I0°yはそれぞれ、
【0058】
【数11】

となる。
【0059】
次に、光が透過する時に偏光軸が60°回転するλ/2波長板からなる第2の透過領域102bを出射する光は、
【0060】
【数12】

で表される。偏光光学素子102は周方向に4つの領域に略等分割されており、透過損失が無いと仮定した場合、入射光強度Iの1/4が第2の透過領域102bを透過するので、出射光強度I60°は、
【0061】
【数13】

となる。この時、出射光のp偏光成分の強度I60°x、出射光のs偏光成分の強度I60°yはそれぞれ、
【0062】
【数14】

となる。
【0063】
同様に、光が透過する時に偏光軸が90°回転するλ/2波長板からなる第3の透過領域102cを出射する光は、
【0064】
【数15】

で表される。偏光光学素子102は周方向に4つの領域に略等分割されており、透過損失が無いと仮定した場合、入射光強度Iの1/4が第3の透過領域102cを透過するので、出射光強度I90°は、
【0065】
【数16】

となる。この時、出射光のp偏光成分の強度I90°x、出射光のs偏光成分の強度I90°yはそれぞれ、
【0066】
【数17】

となる。
【0067】
また、光が透過する時に偏光軸が150°回転するλ/2波長板からなる第4の透過領域102dを出射する光は、
【0068】
【数18】

で表される。偏光光学素子102は周方向に4つの領域に略等分割されており、透過損失が無いと仮定した場合、入射光強度Iの1/4が第4の透過領域102dを透過するので、出射光強度I150°は、
【0069】
【数19】

となる。この時、出射光のp偏光成分の強度I150°x、出射光のs偏光成分の強度I150°yはそれぞれ、
【0070】
【数20】

となる。
よって、偏光光学素子102から出射される出射光のp偏光成分の強度I、出射光のs偏光成分の強度Iはそれぞれ、
【0071】
【数21】

【0072】
【数22】

となり、出射光強度Iは、
【0073】
【数23】

となる。
【0074】
このように偏光光学素子102から出射される出射光のp偏光成分の強度Ixとs偏光成分の強度Iyを等しくすることにより、互いに相関のない同一強度の光に分割することで、スペックルを低減することができる。また、第1の透過領域102aからの出射光と第3の透過領域102cからの出射光とは、互いに偏光方向が直交する対となる光束、つまり一つの非偏光光束となる。同様に第2の透過領域102bからの出射光と第4の透過領域102dからの出射光とは、互いに偏光方向が直交する対となる光束、つまりもう一つの非偏光光束となる。この2つの非偏光光束の相関が無ければ、2つ(M=2)の非偏光光源の重ね合わせからなるスペックルコントラストは1/√4(2Mの平方根の逆数)=1/2となる。
【0075】
また、偏光成分の異なる光束は後段の光ファイバ4内や整形光学素子6内で内面反射する際に異なる光路長で伝播することになり、細分化された各光束の位相が容易にずれ、スペックルを低減できるようになる。
【0076】
以上のように、本実施の形態2にかかる照明光学系によれば、偏光光学素子2として、光軸Cに垂直な平面を光軸Cに対して点対称となる複数の領域102a〜dに分け、複数の領域102a、102b、102c、102d毎に進相軸の異なるλ/2波長板を備えるように構成したので、互いに偏光方向が直交し光量が等しい光束対が複数含まれる光を利用できるようになり、スペックルを効率よく低減することができる。
【0077】
なお、スペックルの低減については、偏光光学素子102の周方向の領域を分割する分割数は多い方が望ましく、偏光光学素子102の出射光のp偏光成分の強度とs偏光成分の強度が等しくなるようにすることが望ましい。こうすることで、光学素子からの出射光は互いに偏光方向が直交し光量が等しい光束対の数がさらに増加することになる。例えば、本実施の形態2においては、レーザ光源1からの光束を4つに(2対に)分割する場合について示したが、偏光光学素子102の周方向の分割において、θ=30°の領域をさらにθ=30°の領域とθ=−30°の領域とに等分割し、θ=75°の領域をさらにθ=75°の領域とθ=−75°の領域とに等分割してもよい。
【0078】
その際、ビームエクスパンダ5によって、偏光光学素子102に入射するビーム径が大きくなるようにしたので、分割数を容易に増加することが可能となる。なお、本実施の形態2では、各領域に入射する光量を容易に均等分割できるよう、各領域を光軸Cに対して点対称となるよう周方向で分けたが、これに限る必要はない。各領域に入射する光量が当分できるのであれば、光軸Cに垂直な平面をマトリクス状に分割して形成しても良い。
【0079】
実施の形態3.
上記実施の形態1または2では透明板にλ/2波長板を貼付して偏光光学素子2、102を形成するようにしているが、偏光光学素子202として光軸Cに垂直な平面を光軸Cに対して点対称となる複数の領域に分け、複数の領域毎に異方性軸の異なるフォトニック結晶偏光子を集積したもので形成するようにしてもよい。
【0080】
この場合、各領域をμm単位のサイズで形成することができ、分割数を増加させ、より効果的にスペックルノイズを低減させることが可能となる。また、フォトニック結晶で各領域を形成すると、λ/2波長板を貼付する場合と比較して各領域の境界近傍における偏光状態の乱れが少なく、安定した照明光を出射することができる。さらに、フォトニック結晶で形成された光学素子は、200℃程度まで使用することが可能となり、高温動作が可能となるので冷却構造を簡略化することができる。
【0081】
なお、上述した各実施の形態1〜3では、レーザ光源1として半導体レーザを使用した場合について説明したが、その他に、固体レーザ、気体レーザ、色素レーザ等を用いてもよい。また、p偏光光を出射するレーザ光源について述べたが、これに限らず、s偏光光を出射するレーザ光源を用いた場合においても、同様の構成で、同様の効果が得られる。
【0082】
また、偏光光学素子に入射するビーム径を拡大するために、上記各実施の形態1〜3では、レーザ光源1と偏光光学素子2との間にビームエクスパンダ5を設置した。しかし、例えば、発散性のある直線偏光光を出射する光源を使用する場合、偏光光学素子を光源から所定の間隔をあけて配置することにより、発散性によって拡大したビーム径の光束が偏光光学素子に入射するようにしてもよい。
【0083】
また、光ファイバ4としては、マルチモード光ファイバの他、シングルモード光ファイバを用いることもできるが、マルチモード光ファイバを用いることが望ましい。これによって、異なる角度で入射した光ビーム間において光ファイバ4内で光路長差を発生させることができ、レーザ光のスペックルコントラストを低減することができ、スクリーン40に映し出される映像のスペックルを低減することができる。また、光ファイバ4としては、ガラス材料、プラスティック材料の他に液体を材料とするものも使用することができる。また、光ファイバ4の入射面4a、出射面4bに反射防止膜を施すことにより、光の利用効率をより向上させるようにしてもよい。
【0084】
また、光伝播素子として光ファイバ4を用いた場合の説明をしたが、光ファイバ4の代わりに角筒状体の内周面全体に反射膜を設けたライトパイプや、透明な角棒状体からなるロッドインテグレータを用いても良い。
【0085】
なお、整形光学素子6は、ライトバルブ8の表示エリアと略相似な断面形状を有する透明な角棒状体からなるロッドインテグレータであってもよい。ロッドインテグレータは、その一端の入射面6aから入射した光を、側面(すなわち空気層との界面)で全反射しながら出射面6bに導き、出射面6bから均一な強度分布の光として出射するものである。
【0086】
なお、上記実施の形態1〜3においては簡略化のため、1色(白黒)対応でレーザ光源1がひとつの場合について説明したが、カラー画像を得るために、赤、緑、青の各色に対応したレーザ光源1R、1G、1Bを用いた照明光学系10R、10G、10Bを少なくとも1つずつ使用してもよい。この場合、各照明光学系10R、10G、10Bの各光ファイバ4R、4G、4Bの出射面4Rb、4Gb、4Bbを光軸C上に束ねて入射面6aに近接させ、各色のレーザ光源を周期的に発振させ、その周期毎にライトバルブ8によって変調を行うことにより実現できる。また、複数のライトバルブを用いる場合には異なる波長領域の光を合成するための合成プリズム等を設けてもよい。
【0087】
また、画像表示装置をフロントプロジェクションタイプに設定する場合、画像表示部であるスクリーンとしては反射型スクリーンを用いることになる。この場合、スクリーンが略完全拡散面を有するようにし、投写光学系30からの投写光の視野角を広げて、投写光学系30側に映像光として反射するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態1に係る画像表示装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る照明光学系の部分である偏光光学素子の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る照明光学系の部分である偏光光学素子の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る照明光学系での動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0089】
1 レーザ光源、 2,102,202 偏光光学素子、 3 集光レンズ、
4 光ファイバ(光伝播素子)、4a 光ファイバ入射面、4b 光ファイバ出射面、 5 ビームエクスパンダ、 6 整形光学素子(整形光学系20)、6a 整形光学素子入射面、6b 整形光学素子出射面、 7 リレー光学系(整形光学系20)
8 ライトバルブ(光変調素子)、 10 照明光学系、 30 投写光学系、
40 スクリーン(画像表示部)、 50 光ビーム、 50i 入射光の偏光軸、 50a 進相軸、 50e 出射光の偏光軸、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏光光を発する光源と、
前記光源から入射した光束を、光軸に垂直な平面内の位置によって偏光軸を異ならせて出射する偏光光学素子と、
を備えてなる照明光学系。
【請求項2】
前記偏光光学素子は、前記光軸に垂直な平面を2つの領域に分け、一方の領域には透明板を配置し、他方の領域には前記光源からの直線偏光光の偏光軸と異なる進相軸のλ/2波長板を備えたことを特徴とする請求項1に記載の照明光学系。
【請求項3】
前記偏光光学素子は、前記光軸に垂直な平面を前記光軸に対して点対称となる複数の領域に分け、前記複数の領域毎に進相軸の異なるλ/2波長板を備えたことを特徴とする請求項1に記載の照明光学系。
【請求項4】
前記偏光光学素子は、前記光軸に垂直な平面を複数の領域に分け、前記複数の領域毎に異方性軸の異なるフォトニック結晶偏光子が集積されたものであることを特徴とする請求項1に記載の照明光学系。
【請求項5】
前記光源からの光束を拡大して前記偏光光学素子に入射させるビームエキスパンダを備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の照明光学系。
【請求項6】
前記偏光光学素子から入射した光を内面で複数回反射させたのちに出射する光伝播素子を備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の照明光学系。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の照明光学系と、
前記照明光学系から入射した照明光を制御して画像光を形成する光変調素子と、
前記光変調素子からの画像光を拡大投写する投写光学系と、
前記拡大投写された画像光を表示する画像表示部と、
を備えたことを特徴とする画像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−210987(P2009−210987A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56144(P2008−56144)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】