説明

熱処理装置

【課題】ガス導入管や噴出孔への副生成物の堆積を抑制しながらチューブ内の温度不均一を解消することができ、ウェハ面内の反応均一性が高い熱処理装置を提供する。
【解決手段】本発明による横型拡散炉は、キャリアガスをプロセス温度付近まで昇温させる昇温管路9と、原料ガス導入管7の噴出孔10近傍に設けられ、昇温管路9において昇温されたキャリアガスと常温のプロセスガスを混合する混合機構11を有している。これにより、原料ガスを石英チューブ1の内部に導入する直前にプロセス温度に昇温させることができるため、原料ガス導入管7や噴出孔10への副生成物の堆積が抑制される。また、プロセス温度に昇温された原料ガスを石英チューブ1に導入することにより、石英チューブ1内の温度不均一を解消することができ、ウェハ面内の反応均一性が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及び太陽光発電セル等の製造プロセスにおいて用いられる熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置及び太陽光発電セル等の製造プロセスでは、ウェハの熱酸化や拡散を目的としたプロセスにおいて生産性の高いバッチ処理方式の横型拡散炉が用いられている(図4参照)。横型拡散炉を用いたウェハの拡散プロセスでは、複数のシリコンウェハが石英ボートに装填されて石英チューブ内に横(長手)方向に挿入され、原料ガス導入管の噴出孔から原料ガスが導入される。
【0003】
一方、上記のようなバッチ処理方式の熱処理装置では、チューブ内に導入される原料ガスの温度がプロセス温度に対して低いため、チューブ内の温度が不均一となり、ガス噴出孔付近のウェハの温度が低くなる。これにより、ウェハ面内における反応均一性が低くなり、ウェハ面内においてシート抵抗や不純物プロファイルといった仕上りにばらつきが生じていた。
【0004】
原料ガスに起因した装置内の温度不均一を抑制することを目的とした先行例として、例えば特許文献1では、プロセスガスとキャリアガスを装置に導入する前に混合し、混合された原料ガスをガス供給部に導入するプロセス配管の少なくとも一部をテープヒータで加熱し、加熱された原料ガスを装置内に導入するようにしたCVD装置が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−265501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に提示されたCVD装置の構成を、拡散プロセスに用いられる熱処理装置に適用した場合、チューブ内の温度不均一は抑制される。しかし、例えばリン拡散プロセスにおいてプロセスガスとして用いられるオキシ塩化リンは、高温になると堆積と拡散が進行するため、原料ガス導入管や噴出孔において副生成物の堆積や拡散反応が進行し、パーティクルの発生による製品性能及び歩留まりの低下、さらに噴出孔の目詰まりによる仕上りのばらつき等の問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ガス導入管や噴出孔への副生成物の堆積を抑制しながらチューブ内の温度不均一を解消することができ、ウェハ面内の反応均一性が高い熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る熱処理装置は、被処理基板を収容する反応室と、キャリアガスとプロセスガスからなる原料ガスを反応室に導入する原料ガス導入管と、反応室内を所定のプロセス温度に昇温するヒータを備えた熱処理装置であって、キャリアガスをプロセス温度付近まで昇温させる昇温管路と、原料ガス導入管の噴出孔近傍に設けられ、昇温管路において昇温されたキャリアガスと常温のプロセスガスを混合する混合機構を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、昇温管路において昇温されたキャリアガスと常温のプロセスガスを混合する混合機構を、原料ガス導入管の噴出孔近傍に設けることにより、原料ガスを反応室に導入する直前に昇温させるようにしたので、原料ガス導入管や噴出孔への副生成物の堆積が抑制されると共に、反応室内の温度不均一を解消することができ、ウェハ面内の反応均一性が高い熱処理装置を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係る横型拡散炉内の構成を示す断面模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る横型拡散炉の昇温管路を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る横型拡散炉の混合機構を示す模式図である。
【図4】従来の横型拡散炉内の構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下に、本発明の実施の形態1に係る熱処理装置について、図面に基づいて説明する。図1は、本実施の形態1に係る熱処理装置であるバッチ処理方式の横型拡散炉を示している。なお、図1では、拡散炉の外形は図示を省略し、炉内の構成を示している。本実施の形態1では、単結晶シリコン太陽電池セルのN型シリコン層を形成する目的で行われるリン拡散プロセスに用いられる横型拡散炉について説明する。
【0012】
横型拡散炉の炉内に設置された反応室である石英チューブ1には、被処理基板である複数のシリコンウェハ2が石英ボード3に装填された状態で収容される。また、炉内には、石英チューブ1内を所定のプロセス温度に昇温するヒータ4、石英チューブ1にキャリアガスを導入するキャリアガス導入管5とプロセスガスを導入するプロセスガス導入管6、及びキャリアガスとプロセスガスからなる原料ガスを導入する原料ガス導入管7を備えている。
【0013】
キャリアガス導入管5とプロセスガス導入管6は、石英チューブ1内の石英ボード3下方に平行に配置されている(図1では、プロセスガス導入管6は、キャリアガス導入管5の背後にある)。また、石英チューブ1には、チューブ内のガス(酸)を排気する排気管8が設けられている。
【0014】
さらに、炉内には、キャリアガスをプロセス温度付近まで昇温させる昇温管路9が設けられている。昇温管路9は、少なくともその一部がヒータ4近傍に、ヒータ4に沿って配設され、その管端はキャリアガス導入管5に接続される。すなわち、ヒータ4は、石英チューブ1内をプロセス温度まで昇温する役割と、昇温管路9を流れるキャリアガスをプロセス温度まで昇温する役割を兼ねている。
【0015】
また、原料ガス導入管7の噴出孔近傍には、昇温管路9において昇温されたキャリアガスと常温のプロセスガスを混合する混合機構11が設けられている。原料ガス導入管7の噴出孔及び混合機構11は、石英チューブ1内の複数箇所(図1では5箇所)に設けられ、石英チューブ1内に原料ガスを導入する。混合機構11については、後に図3を用いて詳細に説明する。
【0016】
本実施の形態1に係る横型拡散炉の昇温管路9について、図2を用いて説明する。昇温管路9は、複数本の石英パイプ91及びこれらを接続するU型の石英継ぎ手92から構成される。石英パイプ91の外径は、石英継ぎ手92の内径よりも若干小さく形成され、嵌め合いにより接続される。なお、昇温管路9を構成するパイプと継ぎ手の材質は、プロセス温度に対する耐熱性や寿命を考慮して選定され、石英に限定されるものではない。
【0017】
炉内に設置された昇温管路9は、キャリアガスをプロセス温度の850℃付近まで昇温させることができるように、十分な長さを有している。また、石英パイプ91と石英継ぎ手92の嵌め合いの隙間からは、キャリアガスが炉内に僅かながら漏れ出す。これにより、炉内は高温のキャリアガスで満たされ、石英ボート3の出し入れの際に石英チューブ1が大気に触れることによる急激な温度変化が抑制される。
【0018】
次に、本実施の形態1に係る横型拡散炉の混合機構について、図3を用いて説明する。混合機構11は、キャリアガス導入管5、プロセスガス導入管6、及びオリフィス12を有する原料ガス導入管7から構成される。オリフィス12は、その径を調整することにより流体の流量を制御可能なものである。また、オリフィス12は、キャリアガスとプロセスガスを攪拌する拡散板としての機能も有している。
【0019】
図3に示すように、昇温管路9において昇温されたキャリアガスは、キャリアガス導入管5を経て混合機構11に到達し、ここでプロセスガス導入管6から導入された常温のプロセスガスと混合される。これにより、キャリアガスとプロセスガスからなる原料ガスは、プロセス温度付近まで昇温され、オリフィス12を通って原料ガス導入管7の噴出孔10から石英チューブ1に導入される。
【0020】
本実施の形態1に係る横型拡散炉を用いて、N型不純物であるリンをP型シリコン基板に拡散させるリン拡散プロセスを実施した際の動作について説明する。リン拡散プロセスでは、キャリアガスとして窒素(N)、プロセスガスとして酸素(O)とオキシ塩化リン(POCl)を、例えばN:O:POCl=10:1:2の流量比で混合した原料ガスが用いられる。
【0021】
石英チューブ1内は、ヒータ4により予めプロセス温度の850℃に熱せられている。また、シリコンウェハ2は石英ボード3に装填され、石英チューブ1内に収容されている。キャリアガスである窒素は、昇温管路9を通り、プロセス温度の850℃に昇温され、キャリアガス導入管5を経て石英ボート3下方に設けられた混合機構11に導入される。一方、プロセスガスである酸素とオキシ塩化リンは、それぞれプロセスガス導入管6を通り、常温のまま混合機構11に導入される。
【0022】
混合機構11では、プロセス温度のキャリアガス(窒素)に対し、常温のプロセスガス(酸素とオキシ塩化リン)が少量ずつ混合されるため、キャリアガスとプロセスガスが混合された原料ガスの温度は、ほぼプロセス温度と等しくなる。さらに、原料ガスは、オリフィス12により十分に混合され、適切な流量に調整されて原料ガス導入管7の噴出孔10から石英チューブ1に導入される。これにより、石英チューブ1内においてシリコンウェハ2にリンが拡散される。
【0023】
リン拡散プロセスにおいてプロセスガスとして用いられるオキシ塩化リンは、高温になると堆積と拡散が進行し、ガス配管の目詰まりを引き起こす。このため、本実施の形態1では、石英チューブ1に原料ガスを導入する直前に、プロセス温度に昇温されたキャリアガスと常温のプロセスガスを混合機構11において混合することにより、原料ガス導入管7及び噴出孔10への副生成物の堆積を抑制し、目詰まりやパーティクルの発生を防止している。
【0024】
さらに、本実施の形態1に係る横型拡散炉では、プロセス温度付近に昇温された原料ガスが石英チューブ1に導入されるため、噴出孔10に近いシリコンウェハ2下部と、噴出孔10から遠いシリコンウェハ2上部とで温度の差が生じない。このように、石英チューブ1内の温度不均一が発生しないため、拡散の進行が均一に進み、ウェハ面内の反応均一性が高いものとなる。
【0025】
比較例として、従来の横型拡散炉の構成について図4を用いて説明する。なお、図4中、図1と同一、相当部分には同一符号を付している。従来の横型拡散炉においては、原料ガス導入管13から導入される原料ガスの温度は、室温から100℃程度であり、石英チューブ1に導入された後、ヒータ4により加熱され、プロセス温度の850℃付近まで昇温されていた。
【0026】
このため、ガス導入管13の噴出孔14に近いシリコンウェハ2下部は、ヒータ4により加熱された原料ガスが接触しやすいシリコンウェハ2の上部に比べて温度が低くなり、拡散の進行がウェハ面内で不均一であった。すなわち、シリコンウェハ2下部では上部に比べて拡散の進行が遅くなり、シート抵抗が高くなっていた。また、不純物プロファイルもウェハ面内においてばらつきが生じていた。
【0027】
本実施の形態1によれば、昇温管路9において昇温されたキャリアガスと常温のプロセスガスを混合する混合機構11を、原料ガス導入管7の噴出孔10近傍に設けることにより、原料ガスを石英チューブ1に導入する直前に昇温させるようにしたので、原料ガス導入管7や噴出孔10への副生成物の堆積が抑制されると共に、石英チューブ1内の温度不均一を解消することができ、ウェハ面内の反応均一性が高い熱処理装置を得ることができる。
【0028】
また、昇温管路9を構成する石英パイプ91と石英継ぎ手92は、嵌め合いにより容易に組み立てられるため、製造コストが抑えられメンテナンス性にも優れている。また、嵌め合いの隙間からキャリアガスが炉内に漏れることにより、炉内が高温のキャリアガスで満たされ、石英ボート3の出し入れの際の石英チューブ1の急激な温度変化による熱応力が緩和される。これにより、熱応力に起因した石英チューブ1の破損や寿命の低下を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、半導体装置及び太陽光発電セル等の製造プロセスにおいて用いられる横型拡散炉のような熱処理装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 石英チューブ、2 シリコンウェハ、3 石英ボート、4 ヒータ、
5 キャリアガス導入管、6 プロセスガス導入管、7、13 原料ガス導入管、
8 排気管、9 昇温管路、10、14 噴出孔、11 混合機構、12 オリフィス、91 石英パイプ、92 石英継ぎ手。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板を収容する反応室と、キャリアガスとプロセスガスからなる原料ガスを前記反応室に導入する原料ガス導入管と、前記反応室内を所定のプロセス温度に昇温するヒータを備えた熱処理装置であって、
キャリアガスを前記プロセス温度付近まで昇温させる昇温管路と、前記原料ガス導入管の噴出孔近傍に設けられ、前記昇温管路において昇温されたキャリアガスと常温のプロセスガスを混合する混合機構を有することを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
前記昇温管路は、少なくともその一部が前記ヒータ近傍に前記ヒータに沿って配設されることを特徴とする請求項1記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記昇温管路は、複数本のパイプ及びこれらを接続する継ぎ手からなることを特徴とする請求項1記載の熱処理装置。
【請求項4】
前記パイプ及び前記継ぎ手は、石英からなることを特徴とする請求項3記載の熱処理装置。
【請求項5】
前記パイプと前記継ぎ手は、嵌め合いにより接続されていることを特徴とする請求項3記載の熱処理装置。
【請求項6】
前記原料ガス導入管の前記噴出孔及び前記混合機構は、前記反応室内の複数箇所に設けられていることを特徴とする請求項1記載の熱処理装置。
【請求項7】
前記混合機構は、オリフィスを有することを特徴とする請求項1記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−26435(P2013−26435A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159689(P2011−159689)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】