説明

熱収縮酸素吸収性フィルムの製造方法

【課題】優れた酸素吸収性能および熱収縮性を有する酸素吸収性フィルムの製造方法の提供。
【解決手段】(i)放射線に暴露することにより酸素吸収を開始する酸素吸収性組成物をシート状に成形する工程、(ii)上記シートを少なくとも2キログレイの放射線に曝す工程、(iii)上記(ii)の工程を経たシートを延伸加工することにより、フィルム状に成形する工程、の順に一連の工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮酸素吸収性フィルムの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
包装体内の酸素濃度を下げることは、食品の色、食味、香り等の品質が維持されたり、黴の発生抑制、害虫防除、腐敗遅延効果等が期待できる。また、食品以外では、酸素暴露を制限することにより機械部品の防錆、衣服の防黴・防虫、医療器具、化粧品、押し花の退色防止、プラスチック製品の黴防止等が期待できる。
その方法として、脱酸素剤の利用、脱気包装、ガス置換包装等が行われている。
脱酸素剤としては、例えば鉄粉や亜硫酸塩等を利用した無機系主剤型及び、L−アスコルビン酸、エルソルビン酸等を利用した有機系主剤型の小袋(サッシェ)状脱酸素剤が広く利用されている。これら従来の脱酸素剤は、無機系型、有機系型を問わず、いずれも機能発現に水もしくは水分が存在することが必須であるために乾燥食品、医薬品、金属製品などの極めて共存水分の低い低湿度雰囲気で保存する必要がある物品には不向きであった。また、この小袋を包装容器内に入れるには、投入装置、手間、コスト等がかかるという問題と、誤飲・誤食、誤って小袋が破れた場合には、被包装物、包装容器、装置が汚染される可能性があるという問題もあった。
【0003】
上記問題を解決する為に、酸素吸収ポリマーや酸素吸収低分子有機化合物(以下、有機系酸素吸収材料と呼ぶ)を利用する方法が近年多数提案されている。
低湿度条件下でも酸素吸収するものとして、3級水素を含有するポリプロピレンや、分子内に二重結合を有するポリマー(アリル水素を含有するポリマー)であるポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン・ブダジエンコポリマー、ビニルシクロヘキセン重合体又は共重合体、エチレンと環状アルキレンの共重合体等や、酸素吸収低分子有機化合物としてベンゾキノン、アントラキノン、ナフトキノン、またはこれ等の誘導体などが提案されている(非特許文献1、特許文献1)。これら有機系酸素吸収材料は、紫外線や、電子線やガンマ線等の放射線や、熱線等を照射する等の処理(以下、トリガー処理と呼ぶ)を行うことによって、低水分条件下でも酸素吸収性能を発現する。
【0004】
また、これ等の化合物の酸素吸収反応促進を目的として、例えば非特許文献1、非特許文献2のように、酸化反応触媒としてコバルトなどの遷移金属を添加することや、紫外線照射によるトリガー処理ではベンゾフェノンなどの光増感剤を添加する等が提案されている。
特に、重合体の主鎖に酸素反応の活性点を持たない重合体又は共重合体は、酸素吸収反応後でも主鎖分断が起こり難く機械的物性低下が少ないので好ましい(特許文献2、特許文献3)。
更に上記有機系酸素吸収材料をフィルム化すれば、小袋という製品形態から来る誤飲・誤食等の問題点も解消される。特に、特許文献4に提案されている様な酸素バリア性のある素材と組み合わせた多層状の収縮フィルムが、脱酸素包装やガス置換包装と組み合わせることによって長期に渡り低酸素状態を維持できるので好ましい。
【0005】
ところで、ビニル・環状アルキレンを構成要素とする重合体からなる熱収縮酸素吸収性フィルムはトリガー処理して酸素吸収反応を開始させなければならないが、上記先行技術では食品や機械部品等の商品を包装する前にトリガー処理を行っている。トリガー処理を行うとフィルムは加熱又は発熱して縮んでしまい、皺になったり熱収縮特性が大幅に劣化して、満足のいく収縮包装が出来ないといった問題点があった。
【非特許文献1】コンバーテック2000.1、16〜18ページ
【非特許文献2】Rooney,M.L., “Oxygen Scavenging:A Novel Use of Rubber Photo−oxidation”(Chemical and Industry,March 20,1982,p.197)
【特許文献1】特表平8−504851号公報
【特許文献2】特表2000−506087号公報
【特許文献3】特開2001−31759号公報
【特許文献4】特表2000−514466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、酸素吸収性能を持ち、且つ熱収縮包装性に優れた熱収縮酸素吸収性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するためトリガー処理を行った後延伸を行うことによって酸素吸収性能を持ち、且つ熱収縮包装性に優れた熱収縮酸素吸収性フィルムが得られることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は
(i)放射線に暴露することにより酸素吸収を開始する酸素吸収性組成物をシート状に成形する工程、
(ii)上記シートを少なくとも2キログレイの放射線に曝す工程、
(iii)上記(ii)の工程を経たシートを延伸加工することにより、フィルム状に成形する工程、
の順に一連の工程を行うことを特徴とする熱収縮酸素吸収性フィルム製造方法である。
好ましくは、(iv)上記(iii)の工程でフィルム状に成形されたものを低酸素雰囲気下で保存及び輸送する工程を順に一連の工程を行うことである。
【発明の効果】
【0008】
本発明熱収縮酸素吸収性フィルム製造方法は、酸素吸収性能を持ち、且つ熱収縮包装性に優れた熱収縮酸素吸収性フィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明について、以下具体的に説明する。
先ず、(i)放射線に暴露することにより酸素吸収を開始する酸素吸収性組成物をシート状に成形する。この好ましい例として、まず酸素吸収性組成物を含有する層および/又は他の層を構成する樹脂をそれぞれの押出機で溶融して、ダイから押出(多層の場合は、共押出)し、急冷固化してシート状の原反を得る。押出法は、Tダイ法、サーキュラー法等を用いることが出来る。また酸素吸収性組成物を溶剤等に溶解して流延・固化する方法が挙げられる。
次に、(ii)(i)の工程により作製されたシートを少なくとも2キログレイ(kGy)の放射線に曝す。ここで放射線とは、電離性放射線(物質をイオン化する電磁波あるいは粒子)のことであり、その具体例としては、ガンマ線、エックス線、アルファ線、ベータ線、電子線、加速イオン、中性子線等が挙げられ、好ましくはガンマ線、電子線であり、さらに好ましくは電子線である。高い熱収縮性が求められるときには、フィルムの延伸倍率はより大きいことが好ましく、延伸前のシート状成形体は必然的により厚いものとなる為、トリガー処理には紫外線や熱線よりもエネルギー密度の高い放射線が必要である。
【0010】
また製品を使用する直前にトリガー処理する方法に比べ、より早い時期にトリガー処理を行う為、ユーザーが製品を入手してから酸素吸収を開始するまでの誘導期間が短縮されたり、製造中にトリガー処理を済ませたりしている為にユーザーは製品を使用する前にトリガー処理をする必要がなく、トリガー処理装置を購入・維持するコストや包装ラインに組み入れる手間などが不要となり、ユーザーにとっての負担が大幅に削減できるメリットもある。
吸収線量は、通常少なくとも2kGy以上、好ましくは5〜1000kGy、より好ましくは20〜500kGyである。これらの下限は酸素吸収反応に必要なエネルギー不足の観点から、上限は架橋反応によるゲル化の発生が原因と思われる酸素吸収性能低下の観点により制限される。特にビニル・環状アルキレンを構成要素とする重合体を用いる場合、吸収線量が100kGy以上になるとトリガー処理後1日程度で酸素吸収が開始する。
【0011】
また電子線の場合、必要となる電子線の加速電圧は、好ましくは50〜3,000keVであり、より好ましくは70〜500keVであり、さらに好ましくは150〜300keVである。
次に、(iii)(ii)の工程を経たシートを延伸加工することにより、フィルム状に成形する。延伸加工の好ましい条件としては、シートを好ましくはそのガラス転移温度以上融点以下の温度(例えば40〜200℃)に加熱又は冷却して、少なくとも一軸方向、好ましくは二軸方向に逐次または同時に面積倍率で1.1倍以上延伸する場合である。延伸倍率は、好ましくは少なくとも一軸方向に1.2倍〜15倍であり、より好ましくは2倍〜10倍である。面積倍率にして、好ましくは1.4倍〜100倍、より好ましくは少なくとも4倍〜50倍である。延伸方法としては、ロール延伸法、テンター延伸法、インフレ(ダブルバブル法を含む)等があるが、二軸延伸で製膜される方法が好ましい。延伸後、巻取工程される場合が多い。また、必要に応じ、後処理、例えば寸法安定性のためのヒートセットの他、各種フィルムとのラミネーションが行われても良い。
尚本発明は、上記(i)〜(iii)を酸素吸収性組成物が溶融した状態で金型内で行う場合や、(i)及び(ii)を金型内で行いダイレクトインフレーション法にてフィルム化する場合を含んでも良い。
【0012】
また、(iv)(iii)の工程でフィルム状に成形されたものを低酸素雰囲気で保存及び輸送されることが好ましい。このときの該フィルムは巻取されたロールの状態でも、ロールから繰出された後の状態でも構わない。低酸素雰囲気で保存または輸送する為には、例えば、バリア性包材を用いて包装し、必要に応じて不活性ガス置換法及び/又は脱酸素剤を利用して、該酸素吸収性フィルムを低酸素濃度雰囲気の状態で保存しておく方法が好ましい。ここで、低酸素濃度とは、酸素濃度が20%未満のことであり、好ましくは5%未満であり、さらに好ましくは1%未満であり、最も好ましくは0.01%未満である。低酸素雰囲気での保存の期間は、酸素吸収性組成物に応じて選択されるが、トリガー処理から酸素吸収を開始するまでの期間を超えることが好ましい。また、該酸素吸収性フィルムにおいてワインディング工程が必要な場合、酸素との接触をより効率的に避ける為に、不活性ガス(窒素、二酸化炭素及びそれらの混合物、また必要に応じ酸素を20%未満の分圧で混合したガス、等)存在下でワインディングを行う、及び/又は不活性ガスを吹きつけながらワインディングを行う工程等も含むことがある。この工程は、酸素吸収能力が衰える以前の段階でなされるのが好ましく、酸素吸収が開始する以前の段階でなされるのがより好ましい。また、該フィルムが酸素バリア性を持ち、ロール状にワインディングされている場合は、上述のようにことさらバリア性包材や脱酸素剤、不活性ガスを用いなくともよい。
【0013】
次に、本発明の熱収縮酸素吸収性フィルムの製造方法に用いられる酸素吸収性組成物は、少なくとも(ア)酸素と反応する組成物、および(イ)酸化反応を促進する触媒を含み、場合によっては(ウ)放射線による活性化を助長する反応開始剤等から構成される。
先ず(ア)の一例として、アリル水素および/または3級炭素と結合した水素を分子中に有する熱可塑性樹脂と遷移金属触媒からなる組成物等が挙げられる。例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン/イソプレンコポリマー、スチレン/ブタジエンコポリマー、イソプレン/ブタジエンコポリマー、ブタジエン/イソプレン/スチレンターポリマー、エチレン及び環状アルキレンのコポリマー、シクロヘキセン基を含有する樹脂、ポリプロピレン、エチレン/プロピレンコポリマー、MXD6ポリアミド(メタキシレン/アジピン酸ナイロン)等からなる群より選ばれる少なくともひとつを主成分とする樹脂が挙げられる。
【0014】
この中ではポリブタジエンが好ましく、酸素吸収性能の点からは特に1,2−ポリブタジエンが好ましい。ここで1,2−ポリブタジエンとは、1,3−ブタジエンモノマーから重合されたポリブタジエン中に、1,2−結合を70%以上含むポリブタジエンをいう。
また、エチレン及び環状アルキレンのコポリマー、シクロヘキセン基を含有する樹脂も好ましく、特に好ましくは、エチレン・ビニルシクロヘキセン共重合体、エチレン・シクロペンテン共重合体、エチレン・シクロペンテン・4−ビニルシクロヘキセン共重合体、エチレン/メチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートターポリマー、シクロヘキセニルメチルアクリレート/エチレンコポリマー、シクロヘキセニルメチルメタクリレート/スチレンコポリマー、シクロヘキセニルメチルアクリレートホモポリマーまたはメチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートコポリマー等が挙げられる。
【0015】
アリル水素および/または3級炭素に結合した水素を分子中に有する熱可塑性樹脂は、単独重合体であってもよく、単独で重合して該熱可塑性樹脂となるモノマーと他のモノマーとのランダム共重合体やブロック共重合体等であってもよい。また、単独で重合すると該熱可塑性樹脂を形成するモノマーユニットの下限は、酸素吸収能力の観点から好ましくは1mol%以上、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは10mol%以上用いて重合される。このモノマーユニットの下限は酸素吸収能力不足によって制限される。一方、場合によっては、成型加工性等の観点から、上限を制限されるケースもあり、その場合、好ましくは99mol%以下、より好ましくは95mol%以下である。また、アリル水素および/または3級炭素に結合した水素を分子中に有する2種類以上の熱可塑性樹脂の混合物であってもよい。アリル水素および/または3級炭素に結合した水素を分子中に有する熱可塑性樹脂は、酸化防止剤を含有していてもよいが、誘導期間短縮の観点から言えば酸化防止剤を含有しないものが好ましい。一方で誘導期間調節の観点からは積極的に使用する場合もある。また、酸素吸収性フィルムの原料の一部である酸素吸収性組成物の酸素吸収容量は、用途によってその要求レベルはまったく異なってくるが、酸素吸収性組成物1gが吸収する酸素の体積として、0.5cm3 /g以上であることが好ましく、より好ましくは、2cm3 /g以上、さらに好ましくは10cm3 /g以上、最も好ましくは50cm3 /g以上である。上限は特に制限されず、酸素吸収能力は高ければ高いほどよい。
【0016】
ここで、誘導期間とは、一般的に、酸素吸収材料が酸素に曝された時点から有用な酸素吸収を開始するまでの時間のことを言う。すなわち、「誘導期間」とは、ユーザーが酸素吸収効果を所望し酸素吸収性フィルムを使用開始してから有用な酸素吸収性能を発現し始めるまでの期間のことであり、ユーザーにおける効果発現までの待機期間のことである。この誘導期間は、用途にもよるが、一般には数時間から数日以内であることが好ましい。特に、饅頭、フルーツケーキ、人形焼、惣菜や弁当類等の傷みの速い食品等に利用する場合は、この誘導期間は短いほうがよい。
また(ア)の他の例として、酸素吸収性を有する還元性有機化合物を含有することを特徴とする組成物が挙げられる。
【0017】
「酸素吸収性を有する還元性有機化合物」は、通常の重合体、あるいは、上述の酸素吸収性組成物と混在し、該還元性有機化合物そのものが酸素吸収する(すなわち酸化する)ことにより、酸素吸収能力を発揮するものであり、例えば、ベンゾキノン、アントラキノン、ナフトキノン、またはこれらの誘導体等からなる群より選ばれる少なくともひとつが挙げられる。より好ましくは、ベンゾキノン、9,10−アントラキノン、置換9,10−アントラキノン、1,4−ナフトキノン、アゾチアジン、インジゴイド及びトリアリールメタン化合物から成る群から選ばれる化合物であり、さらに好ましくは、2−エチル−9,10−アントラキノン、2−メチル−9,10−アントラキノン及びアントラキノン−2−アルデヒドから成る群から選ばれる化合物が挙げられる。
【0018】
特に、非特許文献2、特許文献3等に開示されている重合体の主鎖に酸素反応の活性点を持たない重合体又は共重合体が、酸素吸収反応後でも主鎖分断が起こり難く機械的物性低下が少ないので好ましい。
次に(イ)としては、遷移金属触媒が含まれていることが好ましく、周期表の第1、第2または第3遷移系列から選択された金属の塩で、少なくとも2種の酸化状態の間で容易に相互転化し得るものが好ましい。具体的には、マンガン(II)または(III)、鉄(II)または(III)、コバルト(II)または(III)、ニッケル(II)または(III)、銅(I)または(II)、ロジウム(II)、(III)または(IV)およびルテニウム等が挙げられる。導入時の金属の酸化状態は、活性形状のものに限られない。この金属の適当な対イオンには塩化物イオン、酢酸イオン、ステアリン酸イオン、パルミチン酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオン、ネオデカン酸イオン、オレイン酸イオン、リノール酸イオン、リノレン酸イオンまたはナフテン酸イオン等が例示できる。これ等の塩としては、2−エチルヘキサン酸コバルト(II)、オレイン酸コバルト(II)およびネオデカン酸コバルト(II)等が例示できる。
【0019】
上記遷移金属触媒の含有量は、金属含有量(配位子、対イオン等を除く)を基準にして、上記酸素吸収性組成物成分に対して、好ましくは0.0001重量%以上、より好ましくは0.0005〜2重量%、更に好ましくは0.001〜1.5重量%の範囲である。
更に(ウ)として、酸素吸収性能の促進や制御等のために、光開始剤、熱開始剤等の開始剤や酸化防止剤のような成分を含有していても良い。
更に上記(ア)〜(ウ)に加えて、酸素吸収の開始を制御する、すなわち誘導期間の調整のために、酸化防止剤を含有していても良い。本件明細書で定義される酸化防止剤は、重合体の酸化分解または架橋を阻止する全ての物質である。この種の酸化防止剤は重合体材料の加工を容易にするため、および/または誘導期間を調整するために添加されることが好ましい。また、多層フィルムを製造する場合において、本発明による放射線照射により、架橋を生じさせたくない層に選択的に添加して、架橋を抑制することもある。
好ましい酸化防止剤としては、たとえば2,6−ジ−(t−ブチル)−4−メチルフェノール(BHT)、2,2′−メチレンビス−(6−t−ブチル−p−クレゾール)、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリス−(ノニルフェニル)およびチオジプロピオン酸ジラウリル等が挙げられる。酸化防止剤は、上記酸素吸収性組成物に対して0.01〜1重量%程度含有していることが好ましく、これにより在庫中の劣化防止や誘導期間調整をすることもできる。
【0020】
また本発明によって製造される熱収縮酸素吸収性フィルムは、上記酸素吸収性組成物のみで構成されていても良いし他の樹脂組成物(M)を1種または2種以上混合されていても良い。樹脂組成物(M)は熱可塑性のものであることが好ましい。これらはまた、酸化可能なものであってもよく、フィルム中で酸化可能な有機化合物として機能することも期待できる。樹脂組成物(M)には高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、極低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−スチレン共重合体、4−メチル−ペンテン−1系重合体、ブテン−1系共重合体、スチレン系共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、エチレン共重合体が挙げられる。たとえばエチレン重合体としてはエチレン−酢酸ビニル、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル、エチレン−(メタ)アクリル酸およびエチレン−(メタ)アクリル酸アイオノマー等が含まれるが、これらに限定されるものではない。樹脂組成物(M)は、透明性、清浄性、酸素吸収性組成物としての有効性、バリア性、機械的性質および/または物品の構造等製造すべき物品とその最終用途によって適宜選択される。その割合は酸素吸収性から言えば、酸素吸収性組成物100重量部に対して好ましくは0.1重量部以上300重量部以下であり、更に好ましくは1重量部以上100重量部以下である。
【0021】
また、本発明によって製造される熱収縮酸素吸収性フィルムは充填剤、顔料、染料、安定剤、加工助剤、可塑剤、難燃剤、防曇剤等他の添加剤を含有してもよい。
該熱収縮酸素吸収性フィルムは、酸素吸収性組成物を含有する層(L1)のみで構成されたものであってよいが、他の材料からなる少なくとも一層以上の層とから構成された積層フィルムであってもよい。特に、該酸素吸収性組成物を含有する層に高い熱収縮性を有する層(L2)が積層されてなる積層フィルムは好ましい態様である。
L2を構成する材料としては、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリオレフィン樹脂(LDPE、VLDPE、LLDPE、HDPE、プロピレン系樹脂、ブテン−1系樹脂等)、ポリアミド樹脂、塩化ビニル、スチレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル、エチレン−(メタ)アクリル酸およびエチレン−(メタ)アクリル酸アイオノマー等が挙げられる。
【0022】
また、酸素吸収性組成物層に酸素バリア性を有する層(L3)が積層されてなる積層フィルムは好ましい態様である。L1は、L3よりも、被包装物側に位置する構成であることが、特に好ましい。
L3としては、EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体)、PVDC(ポリビニリデンクロライド)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PTT(ポリテトラメチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PVA(ポリビニルアルコール)、PAN(ポリアクリロニトリル)、PA(ポリアミド)及びこれ等の共重合体等が例示出来、また例えばクレイ等の無機層状化合物を含有する樹脂組成物でも良い。また、フィルム表面あるいは中間層にバリア性有機材料や、アルミナ、シリカ、非晶質カーボンなどの無機系材料がコーティングされていても良い。
【0023】
上述の如く熱収縮酸素吸収性フィルム自身が酸素バリア性を有すると、当該フィルムがロール状にワインディングして保管され、使用前に酸素吸収性能が劣化している表層部の数周を剥離して使用される際に、剥離すべきロール表層周を減ずることが出来るため好ましい。
酸素バリア性の指標として、L3を構成する材料の酸素透過度OTR(25℃、50%RH、ASTMD1434−66にて測定。単位はcm3 /(m2 ・day・MPa)は、好ましくは5000未満、より好ましくは1000未満、更に好ましくは300未満である。
【0024】
更に、シール層(L4)/L1/L3がこの順に積層された構造を有することが好ましい。また、この順に積層された構造に加え、L4の外層を除くいずれか一箇所もしくは複数箇所に上述L2を加えた構造を有することがより好ましい。更に、L4の外層を除くいずれか一箇所もしくは複数箇所に接着剤層等他の層が積層されていても良い。
L4として、例えば低密度ポリエチレン(LDPE、VLDPE、LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂や低融点のポリエステル系共重合体等が例示出来る。
更に本発明によって製造される熱収縮酸素吸収性フィルムの厚みは、好ましくは5〜500μm、より好ましくは5〜100μm、更に好ましくは10〜40μmであり、トレイを使わずフィルムを内容物に密着させる包装に使用する場合は好ましくは20〜100μm程度である。
【0025】
またフィルムの形状は、断裁された枚葉型でも良いし、ロール状に巻かれた平らなフィルム(ウエブ)であっても良いし、チューブ状(スリーブ包装用)であっても良い。
本発明によって製造される熱収縮酸素吸収性フィルムは、120℃での熱収縮率が、フィルムのMD(Machine Direction)およびTD(Transverse Direction)においてそれぞれ15%以上が好ましく、収縮包装後に仕上がりがタイトで外観に優れ且つ包装体内の無駄な空間を減らすことにより酸素感受性製品の品質を“より”長く維持できる。
【0026】
熱収縮率は、内容物の形状やトレイや蓋付き容器等の形状、収縮前のフィルムの余裕率、収縮温度等によって最適な値は異なる。例えばピロー包装機においては、熱収縮率はMD及びTD共に少なくとも15%以上であることが好ましい。また底面が長方形・正方形ではあるが角が若干丸みを帯びている容器を包装する場合は、熱収縮率がMD及びTD共に15%以上が好ましく、底面が楕円や円形で平坦な形状の容器等の場合は熱収縮率がMDあるいはTDのいずれかが30%以上でもう一方が20%以上であるのが好ましく、また底面が球面状である丼型の容器等の場合は熱収縮率がMDあるいはTDのいずれかが40%以上でもう一方が30%以上であるのが好ましい。従って本発明によって製造される熱収縮酸素吸収性フィルムの熱収縮率は、好ましくはMD及びTM共に15%以上、より好ましくはMDあるいはTDのいずれかが30%以上でもう一方が20%以上、更に好ましくはMDあるいはTDのいずれかが40%以上でもう一方が30%以上である。熱収縮率の上限は、使用上の問題が無い限り特に制限されないが、一般的に300%以下である。
【0027】
次に本発明によって製造される熱収縮酸素吸収性フィルムの酸素吸収性能は、好ましくは0.1cm3/m2 以上であり、より好ましくは1cm3 /m2 以上である。酸素吸収性能の目安は、(1)2〜10時間で残存酸素濃度が0.1%以下になる速効型、(2)1日程度でこのレベルになる標準型、(3)このレベルになるのに1日以上かかる遅効型、という分類がされている(「ガスバリア性・保香性包装材料の新展開」東レリサーチセンター 279ページ)。足の速い被包装物(饅頭、人形焼、棹菓子、カステラ、バウムクーヘン、削り節、ピザ、半生菓子、生菓子、マドレーヌ、鮮魚切身、魚卵、一般的な惣菜や弁当類、等)などの場合は、上記(1)速効型のレベルの酸素吸収能力が適しているため、誘導期間は出来るだけ短いほうが好ましい。また、上述の足の速い食品よりは日持ちのする被包装物(米菓、米、ナッツ類、煮干し、ドーナツ、月餅、サラミ、ビーフジャーキー、ペットフード、とろろ昆布、コーヒー、お茶、乾燥野菜、香辛料、海苔、医薬品、ティーバック、等)の場合は、(2)標準型レベルのものが使用されることが好ましい。また一方で、長期保存が要求される食品(保存食、等)や機械部品などの場合、この酸素レベルが長期間(例えば一年間以上)維持できるのが好ましい。ただし、使用する温度等の環境、被包装物の体積やその内部に存在する酸素量等によって要求される酸素吸収能力は異なってくる為、上記に限らない。
また本発明によって製造される熱収縮酸素吸収性フィルムは食品の外にも、医薬品、検査キット、医療用具、鉄管、コンデンサ、乾電池等の包装、ボトルのキャップシール、シュリンクラベル等の用途へも展開できる。
【実施例】
【0028】
以下本発明について、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。
まず、本発明に用いた測定方法及び評価方法を以下にまとめて示す。
(a)熱収縮率
フィルムのMDに10cm、TDに10cmの正方形に切り出したフィルム試料を120℃に設定したエアーオーブン式恒温槽に入れ、自由に収縮する状態で30分間処理した後、MD及びTDの寸法変化量を求め、元の寸法で割った値の百分比で表した値で示した。
【0029】
(b)包装性
ご飯200gを載せたプラスチックトレイ(縦28cm、横14cm、高さ2cm)を38cm幅×100m巻のフィルムサンプルを用いて、縦、横共に余裕率15%で包んだ。次に長さ30cm、熱風温度135℃シュリンクトンネルを通過させて熱収縮させた。そして熱収縮後の包装物の外観から下記の基準を用いて包装性を判断した。
◎:フィルムの「収縮残り」が殆ど認められず、外観は非常に美しい。
○:フィルムの「収縮残り」がわずかに認められるが、実用上の支障は無い。
△:フィルムの「収縮残り」が若干認められ、実用上問題となる場合がある。
×:フィルムの「収縮残り」が顕著に現われ、外観不良の為、実質上問題となる。
【0030】
(c)酸素吸収能
135cm2 の面積のフィルムサンプルを257cm3 の体積を持つポリ塩化ビニリデン素材で出来たバリア性容器(壁面の厚み80μm、酸素透過量OTRが30cm3 /(m2 ・day・MPa)未満)に入れ、容器中を酸素1%、窒素99%の混合ガスで置換して、密封した。その後、これらの容器を所定の温度及び湿度条件下におき、PBI社製ガス濃度測定装置「Dansensor CheckMate9900」(商品名)を用いて、容器中の酸素濃度の経時変化をモニタリングした。また、誘導期間としては、測定開始時から容器中の酸素濃度が0.990%以下になるまでの期間を用いた。これは、酸素濃度が装置の有効誤差以上の減少を示すまでの時間として設定したものである。
【0031】
また、実施例における樹脂、遷移金属触媒等は次の通りである。
EVA:エチレン・酢酸ビニル共重合体。東ソー(株)社製のウルトラセン634(商品名)。
PEST:1,4−シクロヘキサンジメタノール・ジメチルテレフタル酸・エチレングリコール重縮合物(イーストマンケミカルジャパン(株)社製のEasterPETG6763コポリエステル(商品名))70重量%とポリエステル系ポリウレタン(クラレ(株)社製のクラミロンU1195(商品名))30重量%の樹脂組成物
EVOH:エチレン含有量32mol%のエチレン・ビニルアルコール共重合物。クラレ(株)社製のエバールJ102B(商品名)。
PA:ポリアミド66/6;アジピン酸・1,6−ヘキサメチレンジアミン・ε−カプロラクタム重縮合物。三菱エンジニアリングプラスチック(株)社製のノバミッド2430A(商品名)。
VL:エチレン・1−ヘキセン共重合物。宇部興産(株)社製のユメリット1520F(商品名)。
酸素吸収性組成物:エチレン・ビニルシクロヘキセン共重合体(共重合比は、エチレン90mol%、ビニルシクロヘキセン10mol%である。数平均分子量Mn=32000、Mw/Mn=1.98、融点78℃、ガラス転移温度−13℃)に、遷移金属触媒として関東化学株式会社製オレイン酸コバルトをコバルトとして0.1%含有するよう処方した組成物。該エチレン・ビニルシクロヘキセン共重合体は、Polym.Bull.、1996、36、577の製法に倣い製造した。
【0032】
[実施例1]
AとしてVL、BとしてEVA、CとしてPA、DとしてPEST、EとしてEVOH、Fとして酸素吸収性組成物、GとしてVLを7台の押出機を使用し、環状ダイスよりA/B/C/D/E/F/G=15/10/10/10/10/30/15(厚み比)の7層構成のチューブを溶融押出し、そのチューブを水冷リングを用いて15℃の水で急冷しながら引取り、500μm厚みの未延伸チューブ(原反シート)を得た。
得られた原反シートに、日新ハイボルテージ株式会社製電子線照射装置「Curetron」(商品名)を用いて、加速電圧250keV、吸収線量を320kGy(Run.No.1)、100kGy(Run.No.2)、400kGy(Run.No.3)、500kGy(Run.No.4)、の電子線をA側から連続的に照射した。
続いて未延伸チューブをインフラヒーターの輻射熱により加熱しバブル形成の直前(バブルネック部)における温度(これを延伸温度とする。)を100℃まで加熱し、管状パリソン内に空気を注入しバブルを形成させMD、TDにそれぞれ5.0倍に延伸し、エアリングからバブルに15℃の冷却風をあててフィルム表面温度を30℃にまで冷却し、1対のコーバージングロールでバブル内部に空気が残らないようにフィルムを折り畳み、直径91mmのプラスチック製の管に長さ1000m巻きつけて、厚み20μmの熱収縮性の酸素吸収性フィルムを得た。
各フィルムについて、上記方法にて評価を行った。その結果を表1に示す。
【0033】
[比較例1]
実施例1において、電子照射を行わなかった以外は実施例1と同様な操作を繰り返した(Run.No.5)。また、Run.No.5のフィルムにアイグラフィックス株式会社製UVコンベア装置(水冷式低圧水銀ランプQGL100U−3(商品名)、100W、50本)を用い、波長254nmの紫外線を照射量1500mJ/cm2 になるようG側から連続的に照射した(Run.No.6)。フィルムに升目を印刷して寸法変化を測定したところ、MDに15%、TDに25%収縮していた。そのため、その後の熱収縮率評価ではMD/TD=20/10という低い値になった。
なお、紫外線は、A側から照射するとDを構成するPETGに吸収されてしまいFの酸素吸収性組成物まで到達できないことが分かった。
各フィルムについて、上記方法にて評価を行った。その結果を表1に示す。
【0034】
[実施例2]
実施例1のフィルムを、プラスチック製管に巻きつけたままの状態で、23℃、湿度40%RHの雰囲気下で31日間保管した。
次いで、該フィルムを紙管の外側から10周分剥がし、11周目に当たる部分で、且つフィルムの幅方向における中央の部位について評価を行った(Run.No.7)。
その結果を表1に示す。
Run.No.7のフィルムは、優れた酸素吸収性能と優れた包装性を同時に発現することが判った。これはすなわち、本発明の「該酸素吸収性材料がフィルムの形状を有し且つ酸素バリア性を持つ場合等のケースでは、該酸素吸収性材料をロール状にワインディングすることで、該酸素吸収性材料のロール表層付近の部位が、同酸素吸収性材料のロール内部部位の酸素被曝を妨げる」という低酸素雰囲気保存により、得られたフィルムは長期間保管後も優れた酸素吸収性能を発現することを示している。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、熱収縮特性を有した酸素吸収性フィルムの分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)放射線に暴露することにより酸素吸収を開始する酸素吸収性組成物をシート状に成形する工程、
(ii)上記シートを少なくとも2キログレイの放射線に曝す工程、
(iii)上記(ii)の工程を経たシートを延伸加工することにより、フィルム状に成形する工程、
の順に一連の工程を行うことを特徴とする熱収縮酸素吸収性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2006−63237(P2006−63237A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249436(P2004−249436)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(303046266)旭化成ライフ&リビング株式会社 (64)
【Fターム(参考)】