説明

熱可塑性エラストマー成形品及びその製造方法

【課題】 製造時の変形を抑制し、製品形状の安定化を図った熱可塑性エラストマー成形品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 射出成形により成形されたパリソン15がブロー成形されることで得られる熱可塑性エラストマー成形品10であって、射出成形時に形作られる筒状の端部12と、射出成形後のブロー成形時に形作られる、屈曲可能な蛇腹形状の胴体部11と、を有する熱可塑性エラストマー成形品10において、端部12と胴体部11との間に、射出成形時に端部12と胴体部11との間の熱伝導を抑制する、薄肉かつ筒状の熱伝導抑制部(筒状部14)を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形によりパリソンが成形された後にブロー成形により成形される熱可塑性エラストマー成形品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性エラストマーを素材とする中空の成形品(例えば、等速ジョイントブーツ)の製造方法として、射出ブロー成形が知られている。射出ブロー成形は、射出成形によりパリソンを成形して、パリソンの形状を安定させた後にブロー成形を行う方法である。また、射出ブロー成形の代表的な例として、コールドパリソン法やホットパリソン法が挙げられるが、生産性においては、ホットパリソン法の方が優れている。このホットパリソン法を用いて、等速ジョイントブーツの中間製品である成形品を成形する場合の従来例について、図11を参照して説明する。図11はホットパリソン法による製造工程図である。
【0003】
ホットパリソン法は、射出成形時の保有熱を利用して、ブローアップを行う製法である。ホットパリソン法に用いる製造装置は、図11に示すように、両端に中子101を有する回転体100を備えている。まず、中子101に対して射出成形用の第1外型200を閉じ、中子101と第1外型200により形成されるキャビティ内に、射出機構400によって流動状態の熱可塑性エラストマー501を射出する(図11(A))。キャビティ内の熱可塑性エラストマーの温度が下がると形状が安定化し、パリソン502が成形される(図11(B))。その後、パリソン502が、ある程度保有熱を有しているうちに、第1外型200を離型し、回転体100を180度回転させる(図11(C))。そして、中子101にパリソン502が付いているままの状態で、ブロー成形用の第2外型300を閉じて、ブローアップを行い、成形品503を成形する(図11(D))。その後、第2外型300を離型し、成形品503を中子101から離型する(図11(E))。
【0004】
そして、成形品503の先端部分が切断されることで、最終製品である等速ジョイントブーツ503aが得られる。図12は等速ジョイントブーツの概略図であり、(A)は底面図、(B)は縦断面図である。等速ジョイントブーツ503aは、概略、蛇腹形状の胴体部と、その両端の略円筒部から構成される。ここで、両端の略円筒部は、射出成形時に形作られ、ブロー成形時には変形しないように金型内に嵌め込まれる。これに対して、胴体部はブロー成形時に形作られる。つまり、図12において、等速ジョイントブーツ503aは、Aで示す範囲がブロー成形によって形作られ、Bで示す範囲及びCで示す範囲が射出成形によって形作られる。
【0005】
ここで、ブロー成形により所望の形状とするためには、ブローアップする部分の温度がある程度高く、流動しない程度に軟化した状態である必要がある。従って、胴体部となる図12(B)中のAで示す範囲は、ブロー成形時にある程度温度が高くなければならない。一方、ブローアップされない部分、すなわち、図12(B)中のBで示す範囲及びCで示す範囲はブロー成形時に変形しないように、十分に温度が低くなっている必要がある。
【0006】
そこで、射出成形時においては、金型内に設けられた温調機構によって、Aで示す範囲はある程度温度を高くし、B,Cで示す範囲はある程度温度を低くするようにしている。しかしながら、金型表面を構成する部材は、寸法精度を高くし、かつ強度を高くしなければならないことから、通常、熱伝導率の高い金属を用いざるを得ない。そのため、Aで示す範囲と、B,Cで示す範囲の境界付近においては、それぞれの範囲に適した温度に制御するのは困難である。従って、ブロー成形時において、胴体部の一部について温度が低す
ぎてブローアップが不十分になってしまったり、略円筒部の一部について温度が高すぎて変形してしまったりすることがある。
【0007】
特に図12に示すトリポードタイプの等速ジョイントブーツの場合には、大径の端部は、薄肉の円筒状部分に対して、内側に突出した凸部が3箇所設けられた構成であることから、Bで示す範囲では、薄肉の部分と厚肉の部分が混在する。そのため、この範囲では、特に変形が発生し易く、射出成形時の温度制御が成形品の寸法精度に大きく影響する。
【0008】
関連する技術として、特許文献1〜3に開示されたものがある。
【特許文献1】特許第2845072号公報
【特許文献2】特許第3037988号公報
【特許文献3】特開平6−206249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、製造時の変形を抑制し、製品形状の安定化を図った熱可塑性エラストマー成形品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0011】
すなわち、本発明の熱可塑性エラストマー成形品は、
射出成形により成形されたパリソンがブロー成形されることで得られる熱可塑性エラストマー成形品であって、
射出成形時に形作られる筒状の端部と、
射出成形後のブロー成形時に形作られる、屈曲可能な蛇腹形状の胴体部と、を有する熱可塑性エラストマー成形品において、
前記端部と胴体部との間に、射出成形時に該端部と胴体部との間の熱伝導を抑制する、薄肉かつ筒状の熱伝導抑制部を備えることを特徴とする。
【0012】
なお、本発明において、「胴体部」は、ブロー成形時に形作られるものであるが、パリソンにおいて、その後胴体部が形作られる部位に相当する部分についても、「胴体部」と称する。以下、同様である。本発明によれば、射出成形時及びその後の製造過程時において、端部の温度と胴体部の温度をそれぞれ所望の温度に保ち易くなる。従って、射出成形時に形作られた筒状の端部が、ブロー成形時に変形してしまうことを抑制できる。また、十分なブローアップにより胴体部が形作られる。
【0013】
前記端部は、薄肉の円筒状部分に対して、内側に突出した凸部を複数備えた形状で構成されており、
前記熱伝導抑制部の肉厚は、前記凸部の最大厚みよりも薄いとよい。
【0014】
これにより、熱伝導を効果的に抑制できる。
【0015】
また、本発明の熱可塑性エラストマー成形品の製造方法は、
射出成形によりパリソンを成形する射出成形工程と、
パリソンをブローアップして成形品を成形するブロー成形工程と、を有し、
射出成形時に筒状の端部を形作り、ブロー成形時に屈曲可能な蛇腹形状の胴体部を形作る熱可塑性エラストマー成形品の製造方法において、
射出成形工程時に前記胴体部の温度が前記端部の温度よりも高くなるように温調すると共に、前記端部と胴体部との間に薄肉かつ筒状の部分を設けておくことで、該端部と胴体
部との間の熱伝導を抑制させることを特徴とする。
【0016】
従って、射出成形工程時及びその後の製造過程時において、胴体部の温度が端部の温度よりも高く保たれることから、ブロー成形時においては、胴体部はブローアップされ易く、端部は変形しにくくなる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、製造時の変形を抑制し、製品形状の安定化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0019】
図1〜図9を参照して、本発明の実施例1に係る熱可塑性エラストマー成形品及びその製造方法について説明する。なお、本実施例では、熱可塑性エラストマー成形品の一例として、トリポードタイプの等速ジョイントブーツ(最終製品)の中間製品の場合を例にして説明する。
【0020】
<最終製品(トリポードタイプの等速ジョイントブーツ)>
まず、等速ジョイント、及び等速ジョイントブーツについて簡単に説明する。等速ジョイントは、互いの交差角度が変化可能に設けられた入力軸と出力軸を、入力軸から出力軸へ等速回転を伝えることができるようにジョイントするものである。また、等速ジョイントにおいては、一方の軸に、ベアリング部品を収納するハウジング(アウタレース)が設けられている。ハウジングについては、軽量化と静粛性の確保を目的として、必要以上の肉厚をなくすために、トリポード形状としたものが使用されるようになってきている。ここで、トリポード形状とは、円形に対して円の中心点側に曲線状(円弧状)に凹んだ凹み部が等間隔に3箇所設けられた形状である。すなわち、トリポード形状は、等間隔に設けられる3箇所の円弧部と各円弧部間にそれぞれ設けられる3箇所の凹み部とを有する形状である。
【0021】
そして、等速ジョイントには、ジョイント内部に潤滑剤(一般的には、グリース)を封じ込め、かつ、ジョイント内部への水や泥などの侵入を防ぐために、等速ジョイントブーツが装着される。そして、この等速ジョイントブーツは、その一端がハウジングに固定され、その他端が他方の軸に固定される。従って、その一端の内側は、ハウジングの外形に沿うようにトリポード形状で構成され、他端の内側は円形となるように構成される。また、等速ジョイントブーツは、軽量化を目的として、熱可塑性樹脂から成るものが開発されている。
【0022】
図1〜図3を参照して、本実施例に係るトリポードタイプの等速ジョイントブーツについて説明する。図1は本発明の実施例に係る等速ジョイントブーツの外観図である。図2は本発明の実施例に係る等速ジョイントブーツの底面図である。図3は本発明の実施例に係る等速ジョイントブーツの縦断面図(図2中、AA断面図)である。
【0023】
本実施例に係るトリポードタイプの等速ジョイントブーツ10aは熱可塑性樹脂から構成される。そして、等速ジョイントブーツ10aは、屈曲可能に構成される蛇腹形状の胴体部11と、その両端の筒状の端部12,13とを備えている。小径の端部13は円筒形
状である。一方、大径の端部12は、薄肉の円筒状部分12aに対して、内側に突出した凸部12bを3箇所備えた形状である。本実施例においては、胴体部11,小径の端部13、及び大径の端部12のうち円筒状部分12aの肉厚は、おおよそ同一となるように構成されている。なお、筒状の端部12,13は、等速ジョイントへの装着時においては、シールとして機能する部分であるので、特に高い寸法精度が要求される。
【0024】
また、本実施例においては、胴体部11と大径の端部12との間に、薄肉の筒状部(熱伝導抑制部)14が備えられている。この筒状部14の詳細については後述する。
【0025】
<熱可塑性エラストマー成形品の製造方法>
図4〜図8を参照して、本発明の実施例に係る熱可塑性エラストマー成形品の製造方法について説明する。図4は本発明の実施例に係る製造装置の模式図である。図5は本発明の実施例に係る製造装置における射出成形金型部分の概略構成図である。図6は本発明の実施例に係る製造装置における射出成形金型の一部の概略斜視図である。図7は本発明の実施例に係る製造装置における射出成形金型の一部の概略側面図(図6におけるP方向から見た図)である。なお、図5〜図7においては、金型内部に設けられている流体通路を点線にて示している。また、図8は本発明の実施例に係る製造装置におけるブロー成形金型を開いた状態を示す模式的断面図である。
【0026】
<<製造装置の概要>>
特に、図4を参照して、本発明の実施例に係る製造装置の概要について説明する。本発明の実施例に係る製造装置は、パリソン15の内側の形状を形づくる中子22を3つ備えている。また、製造装置は、3つの中子22を回転させる回転機構21を備えている。なお、中子22は、回転中心に対して、等角度(120°)に3箇所設けられている。また、製造装置は、パリソン15の外側の形状を形づくる射出成形用の第1外型30と、中子22と第1外型30により形成されるキャビティに流動状態の熱可塑性エラストマーを射出する射出機構31と、パリソン15を加熱するための加熱機構40と、成形品10の外側の形状を形づくるブロー成形用の第2外型50とを備えている。
【0027】
回転機構21は、中子22を、射出機構31と第1外型30による射出成形位置,加熱機構40による加熱位置、及びブローアップ機構と第2外型50によるブロー成形位置に回転により移動させることができるように構成されている。そして、第1外型30,加熱機構40及び第2外型50は、回転機構21により中子22が回転する場合には、当該回転を妨げない位置にまで移動できるように構成されている。
【0028】
第1外型30,加熱機構40及び第2外型50を移動させるための駆動機構については、適宜、公知技術を採用すればよいので、その説明は省略する。また、回転機構21及び射出機構31自体についても、適宜、公知技術を採用すればよいので、その説明は省略する。更に、第1外型30及び第2外型50の型締め及び型開き機構についても、適宜、公知技術を採用すればよいので、その説明は省略する。
【0029】
<<製造工程>>
次に、本発明の実施例に係る製造方法を製造工程の順に沿って説明する。本実施例に係る製造工程は、射出成形工程と加熱工程とブロー成形工程からなり、この順で成形品が製造される。
【0030】
(射出成形工程)
射出機構31によって、型締めされた中子22と第1外型30により形成されるキャビティに流動状態の熱可塑性エラストマーを射出する。このキャビティ内の熱可塑性エラストマーは、温度が低くなると、流動性がなくなって硬化し、パリソン15が成形される。
そして、パリソン15の外側表面の温度が、離型により変形しない程度まで低くなった後に、第1外型30を離型(型開き)する。
【0031】
そして、第1外型30を離型した後に、回転機構21により中子22を120°回転させて、次工程である加熱工程に移行させる。このとき、第1外型30,加熱機構40及び第2外型50は、中子22の回転を妨げない位置まで退避する。
【0032】
(加熱工程)
中子22が所定位置まで回転された後に、パリソン15の全体を覆うように、加熱機構40を被せる。そして、パリソン15を中子22に付けたまま、加熱機構40によって、パリソン15をブローアップ可能な温度まで加熱する。なお、加熱機構40は適宜公知技術を採用することができるが、例えば、赤外線などにより輻射熱を与えることができるものを好適に採用できる。
【0033】
そして、パリソン15をブローアップ可能な温度まで加熱した後、加熱機構40などを中子22の回転を妨げない位置まで退避させる。その後、回転機構21により中子22を120°回転させて、次工程であるブロー成形工程に移行させる。
【0034】
(ブロー成形工程)
中子22が所定位置まで回転された後に、第2外型50の型締めを行う。その後、中子22に付けられたままのパリソン15の内部に圧縮空気を吹き込んで膨らませ、第2外型50の内壁面に密着させる。膨らんだパリソン15は第2外型50の内壁面に密着した後に、温度が低下して、形状が安定化し、成形品10が得られる。なお、ブローアップについては、例えば、中子22に圧縮空気を送り込む通路を設けておき、中子22の内部からパリソン15の内部に圧縮空気を送り込むようにすれば良い。
【0035】
その後、成形品10のうち、先端部分(射出成形時におけるゲート側の部分)が切断されて、最終製品である等速ジョイントブーツ10aが得られる。
【0036】
<<製造装置及び製造方法の詳細>>
特に、図5〜図9を参照して、本実施例に係る製造装置及び製造方法の詳細について説明する。最終製品である等速ジョイントブーツ10aのうち、両端の筒状の端部12,13は、射出成形時に形作られ、ブロー成形時には変形しないように金型内に嵌め込まれる。従って、パリソン15の両端の部分はブロー成形時にブローアップされない。そして、端部12,13は、シール性能に影響を与える部分であるため、変形等が生じた場合には、品質が低下してしまう。そのため、端部12,13は、射出成形後に十分温度が低下されて形状が安定した後にブロー成形工程に移行されることが望まれる。
【0037】
一方、胴体部11は、ブロー成形時に形作られるため、パリソン15のうち胴体部11に相当する部分は、十分にブローアップされる必要がある。そのため、その部分は、ブロー成形時において、流動しない程度に軟化した状態となるように、十分温度が高いことが望まれる。
【0038】
従って、射出成形時においては、それぞれの部分が所望の温度となるように、各部の温度を調整する制御を行っている。図5〜図7には、射出成形用の金型における温調用の液体通路構成が示されている。なお、図6,7は外型30のうちの一部30aについて、それぞれ斜視図と側面図を示している。これらの図中、符号22aは中子22に備えられた温調用の液体通路であり、符号32は射出機構31を構成する部材の一つである射出ノズル先端であり、符号33は第1外型30に備えられた温調用の液体通路であり、符号34,35は断熱材である。
【0039】
図示のように、第1外型30には、温調用の液体通路33が複数備えられている。なお、液体通路33は、図6,7に示すように、複数の穴のうちの入口と出口を除く部分が閉塞部33aにより塞がれることにより構成される。そして、各液体通路33に、各部位に応じて、それぞれ所望の温度に設定された液体(通常、油)が流通されることによって、各部位の温度制御がなされている。
【0040】
そして、図5中、外型30におけるAで示す範囲は、その後のブロー成形時に胴体部11が形作られる部位に相当し、Bで示す範囲は端部12及び筒状部14を形作る部位に相当し、Cで示す範囲は端部13を形作る部位に相当する。そのため、射出成形時においては、Aで示す範囲は、比較的高い温度となるように制御され、B,Cで示す範囲は、比較的低い温度となるように制御される。従って、Aで示す範囲とBで示す範囲の境界付近及びAで示す範囲とCで示す範囲の境界付近には、それぞれ断熱材34,35が設けられている。
【0041】
しかしながら、背景技術の中でも説明したように、金型表面を構成する部材は、寸法精度を高くし、かつ強度を高くしなければならないことから、通常、熱伝導率の高い金属を用いざるを得ない。つまり、断熱材を金型表面まで設けることはできず、金型表面は熱伝導率の高い金属により構成される。そのため、Aで示す範囲と、B,Cで示す範囲の境界付近においては、それぞれの範囲に適した温度に制御するのは困難である。
【0042】
ここで、端部13側については、その肉厚は、胴体部11の肉厚と同程度であり、かつ薄い。従って、射出成形時に、Aで示す範囲とCで示す範囲の境界付近において、それぞれの範囲に適した温度に精度良く制御できなくても、その後のブロー成形において、変形などは生じてしまうことは少なく、寸法精度良く胴体部11及び端部13は成形される。
【0043】
一方、端部12側については、胴体部11の肉厚よりも厚肉の凸部12bを備えていることから変形し易く、温度制御の精度が寸法精度に大きく影響する。そこで、本実施例では、上記の通り、胴体部11と端部12との間に、射出成形時にこれらの間の熱伝導を抑制する熱伝導抑制部として機能する薄肉の筒状部14を設けている。この筒状部14を設けたことにより、射出成形時及びその後の製造過程時において、胴体部11(パリソン15においては、その後胴体部11が形作られる部分(以下、便宜上、いずれも胴体部11と称する。))と端部12の温度をそれぞれ所望の温度に精度良く制御することができる。つまり、胴体部11の温度を高く、端部12の温度を低くしておくことができる。従って、その後、パリソン15を加熱する加熱工程における加熱時間を短くでき、また、ブロー成形時においては、胴体部11を十分ブローアップすることにより寸法精度の高い胴体部11を成形することができ、かつ端部12の変形を抑制することができる。
【0044】
図8にはパリソン15がブロー成形用の第2外型50に収められた様子が示されている。図から分かるように、端部12,13及び筒状部14は第2外型50の内壁面に嵌め込まれ、ブロー成形時にブローアップされることはなく、胴体部11の部分のみがブローアップされることで成形される。
【0045】
<<熱伝導抑制部(筒状部)の詳細>>
図9は本発明の実施例1に係る等速ジョイントブーツの一部拡大断面図である。より詳しくは、図9は端部12における凸部12bが設けられている付近を拡大した断面図である。図示の端部12及び筒状部14は、上記の通り、射出成形時に形作られる。つまり、パリソン15,成形品10及び等速ジョイントブーツ10aのいずれについても、これらの端部12及び筒状部14を備えている。
【0046】
そして、筒状部14は、その肉厚が凸部12bの最大厚みよりも薄くなるように構成されている。なお、筒状部14は、円周方向のうち、凸部12bが設けられていない部分の肉厚は、胴体部11や端部12における円筒状部分12aの肉厚と同程度となるように構成されており、凸部12bが設けられている部分の肉厚は、胴体部11等よりも多少厚くなるように構成されている。
【0047】
なお、筒状部14の肉厚は、例えば、1.5mm〜10mmの範囲で設定される。製品のその他の部分の厚みにも因るが、筒状部14における薄肉の部分の厚みを2mmとし、厚肉部分の最大厚みを6mmで設定した場合に、筒状部14の長さを15mm程度とすることで、熱伝導を抑制する機能が十分に発揮されることが分かった。
【0048】
また、胴体部11は屈曲可能とする機能を発揮し、端部12,13はシールする機能を発揮するのに対して、筒状部14は、それらの機能には関与しない。つまり、筒状部14は、射出成形時及びその後の製造過程時において、熱伝導を抑制する機能が発揮されれば十分であり、製品としてはあまり必要のない部分である。従って、筒状部14は、勿論、等速ジョイントブーツ本来の機能である密封機能を発揮する必要はあるので、孔などが空いていると問題にはなるものの、高い寸法精度は要求されない。そのため、仮に製造時に多少の変形が生じたとしても、製品の品質には影響しない。
【0049】
<本実施例の優れた点>
以上のように、等速ジョイントブーツ10aは、中間製品であるパリソン15を射出成形する際に、胴体部11と端部12との間の熱伝導を抑制する薄肉の筒状部14を備えることで、射出成形時及びその後の製造過程時において、胴体部11と端部12の温度制御を精度良く行うことができる。これにより、射出成形時に形作られた端部12がその後の製造過程において変形してしまうことを抑制することができ、かつブロー成形時に十分なブローアップが行われることで、所望の形状の胴体部11を成形することができる。従って、寸法精度の高い成形品10及び等速ジョイントブーツ10aを得ることができる。また、途中の加熱工程における加熱時間も短くて済む。
【実施例2】
【0050】
図10には、本発明の実施例2が示されている。本実施例では、熱伝導抑制部として機能する薄肉の筒状部における肉厚を均一とする場合の構成について説明する。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0051】
図10は本発明の実施例2に係る等速ジョイントブーツの一部拡大断面図である。より詳しくは、図10は端部12における凸部12bが設けられている付近を拡大した断面図である。
【0052】
上記実施例1では、筒状部14は、円周方向のうち、凸部12bが設けられていない部分の肉厚は、胴体部11や端部12における円筒状部分12aの肉厚と同程度となるように構成されており、凸部12bが設けられている部分の肉厚は、胴体部11等よりも多少厚くなるように構成されていた。
【0053】
これに対して、本実施例における筒状部14aは、その肉厚が、均一となるように設定されている。具体的には、本実施例における筒状部14aの肉厚は、全て端部12における円筒状部分12aの肉厚と同じ肉厚となるように設定されている。これにより、より効果的に熱伝導を抑制する機能を発揮させることが可能となった。例えば、筒状部14aの全ての部分の肉厚を2mmに設定することで、筒状部14aの長さを7mm程度にすれば、熱伝導を抑制する機能が十分に発揮されることが分かった。また、これらに伴い、製品
の軽量化(1〜5%程度の軽量化)を図ることもできた。
【0054】
(その他)
上記実施例においては、射出成形工程とブロー成形工程の間にパリソンを再加熱するための加熱工程を設ける場合を例にして説明した。しかしながら、本願発明は、背景技術の中で説明したように、射出成形時の保有熱のみを利用することで、途中でパリソンを再加熱することなく成形品が成形される場合にも適用可能である。また、上記実施例においては、3ステーションで製造する場合を説明したが、それ以外にも適用できる。例えば、上記のように、再加熱を行うことなく射出成形時の保有熱のみ利用する場合には、2ステーションで製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は本発明の実施例に係る等速ジョイントブーツの外観図である。
【図2】図2は本発明の実施例に係る等速ジョイントブーツの底面図である。
【図3】図3は本発明の実施例に係る等速ジョイントブーツの縦断面図である。
【図4】図4は本発明の実施例に係る製造装置の模式図である。
【図5】図5は本発明の実施例に係る製造装置における射出成形金型部分の概略構成図である。
【図6】図6は本発明の実施例に係る製造装置における射出成形金型の一部の概略斜視図である。
【図7】図7は本発明の実施例に係る製造装置における射出成形金型の一部の概略側面図である。
【図8】図8は本発明の実施例に係る製造装置におけるブロー成形金型を開いた状態を示す模式的断面図である。
【図9】図9は本発明の実施例1に係る等速ジョイントブーツの一部拡大断面図である。
【図10】図10は本発明の実施例2に係る等速ジョイントブーツの一部拡大断面図である。
【図11】図11はホットパリソン法による製造工程図である。
【図12】図12は等速ジョイントブーツの概略図である。
【符号の説明】
【0056】
10 成形品
10a 等速ジョイントブーツ
11 胴体部
12 端部
12a 円筒状部分
12b 凸部
13 端部
14,14a 筒状部
15 パリソン
21 回転機構
22 中子
22a 液体通路
30 第1外型
31 射出機構
32 射出ノズル先端
33 液体通路
33a 閉塞部
34,35 断熱材
40 加熱機構
50 第2外型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形により成形されたパリソンがブロー成形されることで得られる熱可塑性エラストマー成形品であって、
射出成形時に形作られる筒状の端部と、
射出成形後のブロー成形時に形作られる、屈曲可能な蛇腹形状の胴体部と、を有する熱可塑性エラストマー成形品において、
前記端部と胴体部との間に、射出成形時に該端部と胴体部との間の熱伝導を抑制する、薄肉かつ筒状の熱伝導抑制部を備えることを特徴とする熱可塑性エラストマー成形品。
【請求項2】
前記端部は、薄肉の円筒状部分に対して、内側に突出した凸部を複数備えた形状で構成されており、
前記熱伝導抑制部の肉厚は、前記凸部の最大厚みよりも薄いことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性エラストマー成形品。
【請求項3】
射出成形によりパリソンを成形する射出成形工程と、
パリソンをブローアップして成形品を成形するブロー成形工程と、を有し、
射出成形時に筒状の端部を形作り、ブロー成形時に屈曲可能な蛇腹形状の胴体部を形作る熱可塑性エラストマー成形品の製造方法において、
射出成形工程時に前記胴体部の温度が前記端部の温度よりも高くなるように温調すると共に、前記端部と胴体部との間に薄肉かつ筒状の部分を設けておくことで、該端部と胴体部との間の熱伝導を抑制させることを特徴とする熱可塑性エラストマー成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−297854(P2006−297854A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126327(P2005−126327)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】