説明

熱可塑性エラストマー組成物

【課題】エチレン−ビニルアルコール系共重合体の長所である気体、有機液体等に対する遮断性とともに柔軟性にも優れ、しかも金属成分の汚染が少ない熱可塑性エラストマー組成物とその成形品を提供する。
【解決手段】(A)エチレン−ビニルアルコール系共重合体10〜90質量部、(B)エラストマー10〜90質量部、及び(C)有機過酸化物又はフェノール樹脂系である架橋剤0.01〜20質量部(但し、(A)と(B)の合計100質量部に対し)を、溶融条件下で動的に架橋処理することにより得られる熱可塑性エラストマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、及びイソブチレン−イソプレン共重合ゴム(ブチルゴム)、やエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合などのエラストマーを特定の架橋剤を用いて動的架橋してなる熱可塑性エラストマー組成物とその熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体は、気体、有機液体等に対して高度の遮断性を有し、しかも、塩化ビニリデン樹脂や塩化ビニル樹脂のように焼却処分時に有害なガスを発生することがないため、食品包装材等の種々の用途に利用されている。しかしながら、エチレン−ビニルアルコール系共重合体は柔軟性に劣るため、ポリオレフィン等の軟質樹脂との組成物(特許文献1を参照)、または積層体の形で使用されるのが知られている。
【0003】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体と他の樹脂とは、通常、親和性が低く相溶性が不良であるために、エチレン−ビニルアルコール系共重合体に軟質樹脂を配合してなる組成物では、柔軟性、遮断性の両立が不十分である。また、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の層に対して軟質樹脂の層を積層してなる積層体においては、該エチレン−ビニルアルコール系共重合体層単独に比較して柔軟性が向上しているものの、用途に応じてはまだ柔軟性が不足している場合がある。
【0004】
そこで、最近になって、エチレン−ビニルアルコール系共重合体にエラストマーを含み、架橋剤の存在下に動的架橋してなる熱可塑性エラストマー組成物とその成形品が提案されている(特許文献2を参照)。この熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品は遮断性と柔軟性の両方に優れるものであるが、使用する架橋剤の種類によっては含有するナトリウム、カリウムなどの金属成分が所定以上に多くなり、電子部品などの用途には不都合となるという問題があった。
【特許文献1】特開平4−164947号公報
【特許文献2】特開2002−60500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、上記した従来の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の長所である気体、有機液体等に対する遮断性とともに柔軟性にも優れ、しかも金属成分の汚染が少ない熱可塑性エラストマー組成物とその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、エラストマー、および特定の架橋剤を動的架橋することにより、架橋されたエラストマーがエチレン−ビニルアルコール系共重合体中に均一に分散して、非汚染で、遮断性と柔軟性を両立した熱可塑性エラストマー組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば、(A)エチレン−ビニルアルコール系共重合体10〜90質量部、(B)エラストマー10〜90質量部、及び(C)有機過酸化物又はフェノール樹脂系の架橋剤0.01〜20質量部(但し、(A)と(B)の合計100質量部に対し)を、溶融条件下で動的に架橋処理することにより得られる熱可塑性エラストマー組成物が提供される。
【0008】
本発明においては、(B)エラストマーとしては、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴム、ブタジエンゴム、無水マレイン酸変性のエチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、無水マレイン酸変性のエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴム、無水マレイン酸変性のイソブチレン−イソプレン共重合ゴム、無水マレイン酸変性のブタジエンゴム、エチレン、炭素数が3〜10のα−オレフィン、下記一般式(1)で表される官能性環状単量体、及び必要に応じて非共役ジエンが共重合されてなるオレフィン系ランダム共重合体、から選ばれた少なくとも一種を用いることが好ましい。
【化1】

[一般式(1)において、Rは、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、Y、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又は−COOHを示し、Y、Y及びYのうち少なくとも1つは−COOHであり、また、Y、Y及びYのうち2つ以上が−COOHである場合は、それらは互いに連結して形成された酸無水物(−CO−O−CO−)であってもよい。oは0〜2の整数であり、pは0〜5の整数である。]
【0009】
また、本発明によれば、(A)エチレン−ビニルアルコール系共重合体10〜90質量部、(B)エラストマー10〜90質量部、及び(C)有機過酸化物又はフェノール樹脂系である架橋剤0.01〜20質量部(但し、(A)と(B)の合計100質量部に対し)を、溶融条件下で動的に架橋処理することにより、熱可塑性エラストマー組成物を得る、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法が提供される。
さらに、本発明によれば、上記の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形品が提供される。
さらにまた、上記の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなるシール材またはチューブ材は、コンデンサ用、バッテリー用、トナーケース用、インクジェットプリンター用(インクカートリッジを含む)、フラットパネルディスプレイ用、又は筐体用として好ましく適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。まず、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物を構成する各成分について説明する。
(A)エチレン−ビニルアルコール系共重合体:
本発明におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)は、主としてエチレン単位(−CHCH−)とビニルアルコール単位(−CH−CH(OH)−)とからなる共重合体である。本発明において使用されるエチレン−ビニルアルコール系共重合体としては、特に限定されることなく、例えば、成形用途で使用されるような公知のものを挙げることができる。ただし、エチレン−ビニルアルコール系共重合体のエチレン単位の含有量は、気体、有機液体等に対する遮断性の高さと成形加工性の良好さの点から、10〜99モル%であることが好ましく、20〜75モル%であることがより好ましく、25〜60モル%であることがさらに好ましく、25〜50モル%であることが特に好ましい。
【0011】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体は、後述するように、代表的にはエチレン−脂肪酸ビニルエステル系共重合体ケン化物であるが、エチレン−脂肪酸ビニルエステル系共重合体ケン化物の場合、脂肪酸ビニルエステル単位のケン化度は、得られるエチレン−ビニルアルコール系共重合体の遮断性と熱安定性の高さの点から、50モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、98モル%以上であることが特に好ましい。エチレン−ビニルアルコール系共重合体のメルトフローレート(温度210℃、荷重2.16kgの条件下に、JIS K7210に記載の方法で測定)は、成形加工性の良好さの点から、0.1〜100g/10分であることが好ましく、0.5〜50g/10分であることがより好ましく、1〜20g/10分であることが特に好ましい。また、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の極限粘度は、フェノール85重量%および水15重量%の混合溶媒中、30℃の温度において、0.1〜5dl/gであることが好ましく、0.2〜2dl/gであることがより好ましい。
【0012】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体には、エチレン単位およびビニルアルコール単位に加えて、少量(好ましくは、全構成単位に対して10モル%以下)であれば、他の構成単位を有していてもよい。他の構成単位としては、プロピレン、イソブチレン、4−メチルペンテン−1、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン;酢酸ビニルエステル、プロピオン酸ビニルエステル、バーサチック酸ビニルエステル、ピバリン酸ビニルエステル、バレリン酸ビニルエステル、カプリン酸ビニルエステル、安息香酸ビニルエステル等のカルボン酸ビニルエステル;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸またはその誘導体(例:塩、エステル、ニトリル、アミド、無水物など);ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;N−メチルピロリドン;等から誘導される単位を挙げることができる。またエチレン−ビニルアルコール系共重合体は、アルキルチオ基などの官能基を末端に有していてもよい。
【0013】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、公知の方法に従って、エチレン−脂肪酸ビニルエステル系共重合体を製造し、次いで、これをケン化することによってエチレン−ビニルアルコール系共重合体を製造することができる。エチレン−脂肪酸ビニルエステル系共重合体は、例えば、主としてエチレンと脂肪酸ビニルエステルとからなるモノマーを、メタノール、t−ブチルアルコール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒中、加圧下に、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル重合開始剤を用いて重合させることによって得られる。該脂肪酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニルエステル、プロピオン酸ビニルエステル、バーサチック酸ビニルエステル、ピバリン酸ビニルエステル、バレリン酸ビニルエステル、カプリン酸ビニルエステルなどを使用することができるが、これら中でも酢酸ビニルエステルが好ましい。エチレン−脂肪酸ビニルエステル系共重合体のケン化には、酸触媒またはアルカリ触媒を使用することができる。
【0014】
(B)エラストマー:
本発明において用いられるエラストマー(B)は、エチレン−α−オレフィン・−非共役ジエン共重合ゴム、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(ブチルゴム)、ブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムポリブタジエン、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、クロロプレンゴム、アクリルゴム、天然ゴム等が挙げられる。これらのうち、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(ブチル)、エチレン−α−オレフィン・−非共役ジエン共重合ゴム、ブタジエンが好ましく、特にイソブチレン−イソプレン共重合ゴム(ブチル)、エチレン−α−オレフィン・−非共役ジエン共重合ゴムが好ましい。
【0015】
(エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴム)
エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムは、エチレンに由来する構成単位(a1)と、α−オレフィンに由来する構成単位(a2)とを含む共重合体であれば特に限定されない。従って、エチレン−α―オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムは、構成単位(a1)と構成単位(a2)とを含む二元共重合体の他に、他の単量体に由来する構成単位(a3)を更に含む三元共重合体であってもよい。更には、構成単位(a1)、及び構成単位(a2)を含むものであれば、4以上の異なる構成単位を含む多元共重合体であってもよい。なお、エチレン−α―オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムに含まれる構成単位(a1)の割合は、全構成単位を100mol%とした場合に、35mol%以上であることが好ましい。構成単位(a1)の割合が35mol%未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が不十分となる傾向にある。なお、構成単位(a1)の割合が多過ぎる場合には、得られる熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性が不十分となる傾向にある。従って、エチレン−α―オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムに含まれる構成単位(a1)の割合は、全構成単位を100mol%とした場合に、40〜90mol%であることが更に好ましく、45〜85mol%であることが特に好ましい。
【0017】
構成単位(a2)を構成するα−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、3−メチルブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ウンデセン等を挙げることができる。なかでも、プロピレン、1−ブテンが好ましい。これらのα−オレフィンを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムに含まれる構成単位(a2)の割合は、全構成単位を100mol%とした場合に、5〜65mol%であることが好ましく、10〜45mol%であることが更に好ましく、15〜40mol%であることが特に好ましい。構成単位(a2)の割合が5mol%未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物が所望とするゴム弾性を発揮し難くなる傾向にある。一方、構成単位(a2)の割合が65mol%超であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐久性が低下する傾向にある。
【0019】
エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムが、構成単位(a3)を含むものである場合に、この構成単位(a3)を構成する単量体としては、非共役ジエン化合物を挙げることができる。非共役ジエン化合物の具体例としては、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン等の直鎖の非環状ジエン化合物;5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、5,7−ジメチルオクタ−1,6−ジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、7−メチルオクタ−1,6−ジエン、ジヒドロミルセン等の分岐連鎖の非環状ジエン化合物;テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]−ヘプタ−2,5−ジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン等の脂環式ジエン化合物等を挙げることができる。なかでも、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンが好ましい。これらの比較例共役ジエン化合物を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムが、構成単位(a3)を含むものである場合に、このエチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムに含まれる構成単位(a3)の割合は、全構成単位を100mol%とした場合に、10mol%以下であることが好ましく、1〜8mol%であることが更に好ましい。構成単位(a3)の割合が10mol%超であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐久性が低下する傾向にある。
【0021】
更に、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムとして、これまで述べてきたエチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体に不飽和モノマーを重合して得られるグラフト重合体を用いることもできる。不飽和モノマーとしては、酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸誘導体;マレイン酸;無水マレイン酸、マレイミド、マレイン酸ジメチル等のマレイン酸誘導体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン化合物等を挙げることができる。
【0022】
エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムの、X線回折測定による結晶化度は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることが更に好ましい。エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体の結晶化度が20%超であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性が低下する傾向にある。
【0023】
エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムのヨウ素価は、5〜30であることが好ましく、7〜20であることが更に好ましい。エチレン−α―オレフィン−非共役ジエン共重合体のヨウ素価が5未満であると、熱可塑性エラストマー組成物の架橋密度が低下し、機械的物性が低下する傾向にある。一方、エチレン−α―オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムのヨウ素価が30超であると、熱可塑性エラストマー組成物の架橋密度が過度に上昇し、機械的物性が低下する傾向にある。
【0024】
また、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムとして、これまで述べてきたエチレン−プロピレン−非共役ジエン系共重合ゴムに鉱物油系軟化剤が添加された油展ゴムを用いることもできる。このような油展ゴムは。取り扱いが容易なものである。従って、油展ゴムをエチレン−α−オレフィン−非共役系ジエン共重合ゴムとして用いると、熱可塑性エラストマー組成物の製造が容易になるために好ましい。なお、油展ゴムに含有される、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムと鉱物油系軟化剤の割合は、油展ゴム全体を100質量%とした場合に、それぞれ20〜80質量%であることが好ましく、25〜75質量%であることが更に好ましく、30〜70質量%であることが特に好ましい。
【0025】
エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムの極限粘度(デカリン溶媒中、135℃で測定)は、1.8dl/g以上であることが好ましい。エチレン−α―オレフィン−非共役ジエン共重合体の極限粘度が1.8dl/g未満であると、機械的強度、ゴム弾性が低下する傾向にある。一方、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体の極限粘度が大き過ぎると、成形加工性が低下する傾向にある。従って、エチレン−α―オレフィン−非共役ジエン系共重合ゴムの極限粘度は、2.0〜7.0dl/gであることが更に好ましく、2.0〜6.0dl/gであることが特に好ましい。
【0026】
(イソブチレン−イソプレン共重合ゴム)
イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(以下、「ブチルゴム」ともいう)は、イソブチレンに由来する構成単位と、イソプレンに由来する構成単位とを含む、不飽和度の低いゴム状無晶形共重合体である。このイソブチレン−イソプレン共重合ゴムは、例えば、イソブチレンと少量のイソプレンを、メチルクロリド中で、無水塩化アルミニウムを触媒として使用して−100℃程度の低温でスラリー重合した後、乾燥することにより得ることができる。
【0027】
イソブチレン−イソプレン共重合ゴムに含まれる、イソプレンに由来する構成単位の割合は、全構成単位を100mol%とした場合に、0.5〜15mol%であることが好ましく、0.8〜5.0mol%であることが更に好ましい。イソプレンに由来する構成単位の割合が0.5mol%未満であると、架橋反応が遅延する傾向にあり、機械的強度が十分でない場合がある。一方、イソプレンに由来する構成単位の割合が15mol%超であると、熱可塑性エラストマー組成物の架橋密度が過度に上昇し、シール材の機械的物性が低下する傾向にある。
【0028】
不飽和カルボン酸変性系重合ゴムとしては、重合ゴムへα、β−不飽和カルボン酸、またはその酸無水物を付加反応させた変性体(グラフト変性体)を挙げることができる。ここでα、β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
【0029】
グラフト変性体の場合に好適な重合ゴムとしては、エチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−ブテン−1共重合ゴム、エチレン−ヘキセン−1共重合ゴム、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合ゴム、エチレン−オクテン−1共重合ゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−オクテン共重合ゴム、エチレン−ブテン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合ゴム、エチレン−オクテン−非共役ジエン共重合ゴム、エチレン−ブテン−非共役ジエン共重合ゴム等を挙げることができる。
これらの不飽和カルボン酸化合物により変性された重合ゴムは、1種に限らず2種以上を混合して使用することもできる。また、変性重合ゴム中の不飽和カルボン酸化合物の量は、一般に0.1〜20重量%程度である。
【0030】
[エチレン、炭素数が3〜10のα−オレフィン、官能性環状単量体、及び必要に応じて非共役ジエンが共重合されてなるオレフィン系ランダム共重合体]
本実施の発明で使用する、エチレン、炭素数が3〜10のα−オレフィン、官能性環状単量体、及び必要に応じて非共役ジエンが共重合されてなるオレフィン系ランダム共重合体は、単量体として、エチレンを用いる。エチレンの使用割合は、単量体全体の35〜94.99モル%であることが好ましく、より好ましくは40〜89.99モル%、特に好ましくは45〜84.99モル%である。エチレンの使用割合が35モル%未満である場合には、後述する官能性環状化合物を共重合することが困難となることがある。一方、エチレンの使用割合が94.99モル%を超えるエラストマーとの相溶性が悪化する傾向にある。
【0031】
【化2】

【0032】
エチレン、炭素数が3〜10のα−オレフィン、官能性環状単量体、及び必要に応じて非共役ジエンが共重合されてなるオレフィン系ランダム共重合体は、単量体として、炭素数が3〜10のα−オレフィン(以下、「特定のα−オレフィン」ということがある。)を用いる。炭素数が10以下のα−オレフィンを用いることにより、当該α−オレフィンとそれ以外の単量体との共重合性が良好となる。特定のα−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−ペンテン−1,1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン等を挙げることができる。これらの中では、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく、プロピレン、1−ブテンが更に好ましい。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記特定のα−オレフィンの使用割合は、単量体全体の5〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは10〜45モル%、特に好ましくは15〜40モル%である。特定のα−オレフィンの使用割合が5モル%未満である場合には、得られる本発明の熱可塑性エラストマーのゴム弾性が悪化することがある。一方、特定のα−オレフィンの使用割合が50モル%を超える場合には、得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐久性が低いものとなることがある。
【0034】
上記オレフィン系ランダム共重合体は、単量体として、上記一般式(2)で表される官能性環状化合物を用いる。上記一般式(2)において、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基であり、好ましくは水素原子又は炭素数が1〜20の炭化水素基である。ここで、炭素数が1〜20の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、ブチル基等の脂肪族炭化水素基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基、ベンジル基などの芳香族炭化水素基が挙げられる。これらの中でも、R〜Rの全てがエチル基、又は1つがtert−ブチル基(t−ブチル基)で2つがメチル基であることが特に好ましい。また、Rは、R〜Rとは独立して水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基であり、好ましくは炭素数が1〜20の炭化水素基、より好ましくはメチル基である。また、繰り返し数nの値は0又は1であり、好ましくは1である。
【0035】
官能性環状化合物の具体例としては、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリメチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリエチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリ−n−ブチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸n−ブチルジメチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸シクロヘキシルジメチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリベンジルシリル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリメチルシリル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリエチルシリル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリ−n−ブチルシリル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸n−ブチルジメチルシリル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸シクロヘキシルジメチルシリル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリベンジルシリル、
2−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリメチルシリル、
2−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリエチルシリル、
2−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル、
2−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリ−n−ブチルシリル、
2−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸n−ブチルジメチルシリル、
2−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸シクロヘキシルジメチルシリル、
2−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリベンジルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリエチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸n−ブチルジメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸シクロヘキシルジメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸アリルジクロロシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸ジアリルクロロシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸ビニルジメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸クロロメチルジメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸t−ブチルフェニルクロロシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリベンジルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸ジメチルシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリメチルシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリエチルシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸n−ブチルジメチルシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸シクロヘキシルジメチルシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸アリルジクロロシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸ジアリルクロロシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸ビニルジメチルシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸クロロメチルジメチルシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸t−ブチルフェニルクロロシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリベンジルシリル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸ジメチルシリル、
4−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリメチルシリル、
4−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル、
4−クロロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリメチルシリル、
4−クロロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル、
4−メトキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリメチルシリル、
4−メトキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル
等を挙げることができる。これらの官能性環状化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
これらの中では、官能性環状化合物の重合性及び得られるアイオノマーの安定性などの観点から、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリメチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリエチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリ−n−ブチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸n−ブチルジメチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸シクロヘキシルジメチルシリル、
2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリベンジルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリエチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸n−ブチルジメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸シクロヘキシルジメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリベンジルシリル
が好ましく、特に好ましいものとしては、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリエチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸t−ブチルジメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸n−ブチルジメチルシリル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸シクロヘキシルジメチルシリル、
を挙げることができる。
【0037】
上述した官能性環状化合物は、カルボキシル基を有する環状化合物の当該カルボキシル基がシリル化されて得られた化合物であるため、マスキング及び脱マスキングをすることなく、官能基含有オレフィン系ランダム共重合体が製造できる。
【0038】
官能性環状化合物の使用割合は、単量体全体の0.01〜5モル%であることが好ましく、0.01〜4モル%であることが更に好ましい。官能性環状化合物の使用割合が前記の範囲を超えると相溶性が悪化する傾向にある。
【0039】
オレフィン系ランダム共重合体において、上記の単量体以外に、任意の単量体として非共役ジエンを用いることができる。この非共役ジエンの具体例としては、1,4−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン等の直鎖の非環状ジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、5,7−ジメチルオクタ−1,6−ジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、7−メチルオクタ−1,6−ジエン、ジヒドロミルセン等の分岐連鎖の非環状ジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2,5−ジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン等の脂環式ジエン等を挙げることができる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記の非共役ジエンのうち好ましいものとしては、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等を挙げることができる。非共役ジエンの使用割合は、全単量体成分の0〜10モル%であることが好ましい。この共役ジエンの使用割合が10モル%を超える場合には、得られる熱可塑性エラストマー組成物は耐久性が低いものとなることがある。
【0040】
オレフィン系ランダム共重合体は、上述の、エチレン、炭素数が3〜10のα−オレフィン、及び上記一般式(2)で表される官能性環状化合物を付加重合処理することにより得られる。付加重合処理は、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気下で、反応容器内にエチレン、炭素数が3〜10のα−オレフィン、官能性環状化合物及び必要に応じて用いられる共役ジエンを供給し、適宜の溶媒又は希釈剤の存在下で、反応系の温度が0〜150℃となる条件下で行うことが好ましい。反応系の温度は、10〜100℃であることが更に好ましい。
【0041】
付加重合処理を行うための触媒としては、官能性環状化合物と、エチレンと、α−オレフィンと、必要に応じて用いられる非共役ポリエンとの共重合反応において、各単量体に由来する構造単位が比較的ランダムに配列された共重合体が得られるオレフィン系共重合触媒を用いることが好ましい。このようなオレフィン系共重合触媒としては、遷移金属化合物、好ましくは周期表第4族及び第5族から選ばれた金属の化合物と、有機アルミニウム化合物とからなるものを用いることが好ましく、具体的な触媒系としては、以下のものを挙げることができる。
【0042】
(1)炭化水素化合物に可溶なバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒系であって、バナジウム化合物及び有機アルミニウム化合物のいずれか一方又は両方に塩素原子を少なくとも1つ含むものを挙げることができる。ここで、バナジウム化合物としては、下記一般式(3−1)で表される化合物、VCl、VO(acac)、V(acac)(ここで、「acac」は、アセチルアセトナト基を示す。)、下記一般式(3−2)で表される化合物などを用いることができる。
【0043】
一般式(3−1):O=VCl(OR113−k
(式中、R11はエチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などの炭化水素基を示す。kは0〜3の整数を示す。)
一般式(3−2):VCl・mZ
(式中、Zは、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、2−メトキシメチル−テトラヒドロフラン、ジメチルピリジンなどの炭化水素化合物に可溶な錯体を形成し得るルイス塩基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0044】
有機アルミニウム化合物としては、下記一般式(3−3)で表されるトリアルキルアルミニウム化合物、下記一般式(3−4)又は下記一般式(3−5)で表される水素化アルキルアルミニウム、下記一般式(3−6)、下記一般式(3−7)又は一般式(3−8)で表される塩素化アルキルアルミニウム、下記一般式(3−9)又は下記一般式(3−10)で表されるアルコキシ又はフェノキシ置換有機アルミニウム、水と上記トリアルキルアルミニウム化合物との反応によって得られるメチルアルモキサン(MAO)、エチルアルモキサン、ブチルアルモキサンなどを用いることができる。
【0045】
一般式(3−3):AlR12
一般式(3−4):HAlR12
一般式(3−5):HAlR12
一般式(3−6):R12AlCl
一般式(3−7):R12AlCl
一般式(3−8):R12AlCl、
一般式(3−9):R12Al(OR13)、
一般式(3−10):R12Al(OR13
(一般式(3−3)〜一般式(3−10)において、R12は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などの炭化水素基を示す。R13は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、フェニル基、トリルキシリル基、2,6−ジ−t−ブチルフェニル基、4−メチル−2,6−ジ−t−ブチルフェニル基又は2,6−ジメチルフェニル基、4−メチル−2,6−ジメチルフェニル基を示す。)
【0046】
また、この触媒系においては、上記のバナジウム化合物及び有機アルミニウム化合物に、更に有機酸若しくは無機酸のエステル、エーテル、アミン、ケトン、アルコキシシランなどの含酸素若しくは含窒素電子供与体を添加することができる。
【0047】
(2)シリカ又は塩化マグネシウムよりなる担体上に担持されたハロゲン化チタニウム又はハロゲン化ジルコニウムと、有機アルミニウム化合物とからなる触媒系を挙げることができる。ここで、ハロゲン化チタニウム又はハロゲン化ジルコニウムとしては、四塩化チタニウム、四臭化チタニウム、四塩化ジルコニウムなどを用いることができる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、メチルアルモキサンなどを用いることができる。また、この触媒系においては、上記の化合物に、更にジオクチルフタレート、テトラアルコキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどを添加することができる。
【0048】
(3)配位子として、水素、アルキル基及びアリル基から選ばれた置換基を有するシクロペンタジエニル基又はインデニル基を1つ又は2つ有する、チタニウム、ジルコニウム、ハーフニウムから選ばれた金属の遷移金属化合物と、メチルアルモキサンを少なくとも50モル%含有する有機アルミニウム化合物とからなる触媒系を挙げることができる。
【0049】
上記遷移金属化合物の具体例としては、ビス(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、ビス(シクロペンタジエニル)ジエチルジルコニウム、ビス(シクロペンタジエニル)メチルジルコニウムモノクロライド、エチレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(シクロペンタジエニル)メチルジルコニウムモノクロライド、メチレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(インデニル)ジメチルジルコニウム、エチレンビス(インデニル)ジフェニルジルコニウム、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)ジメチルジルコニウム、エチレンビス(4−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(2,3−ジメチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリルビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリルビス(ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルメチル(フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチル(フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシリルビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリルビス(2−メチル−4−フェニル−インデニル)ジルコニウムジクロライド、ビス(シクロペンタジエニル)ジメチルチタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)メチルチタニウムモノクロライド、エチレンビス(インデニル)チタニウムジクロライド、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)チタニウムジクロライド、メチレンビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド、η1:η5−{[(tert−ブチル−アミド)ジメチルシリル](2,3,4,5−テトラメチル−1−シクロペンタジエニル)}チタニウムジクロライドなどを挙げることができる。
【0050】
(4)ビスアルキル置換又はN−アルキル置換サリチルアルドイミンを配位子とする周期表第4族遷移金属錯体とメチルアルモキサン(MAO)とからなる触媒系。
【0051】
付加重合処理を行うための溶媒又は希釈剤としては、例えば脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類及びこれらのハロゲン化物を用いることができる。具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、2−ブテン、2−メチル−2−ブテン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどが挙げられる。これら溶媒又は希釈剤は、蒸留処理又は吸着処理によって水分濃度が20ppm以下となった状態で用いることが好ましい。
【0052】
このような付加重合処理において、得られる特定の付加共重合体の分子量の調節は、分子量調節剤の添加、重合触媒の量の調整、重合温度の制御、重合体への添加率の調整などの方法によって行うことができる。分子量調節剤としては、水素、ジエチル亜鉛、水素化ジイソブチルアルミニウムなどを用いることができる。また、付加重合処理を行うための反応器は、バッチ式及び連続式のいずれであってもよい。連続式の反応器としては、チューブ型反応器、塔型反応器、槽型反応器などを用いることができる。
【0053】
オレフィン系ランダム共重合体は、上記付加重合処理後の重合溶液に水蒸気を吹き込むことにより、溶媒の除去処理を行った後、得られるスラリーから固形物を分離し、更にスクリュータイプの絞り機、押出機、加熱ロールなどを用いて脱水・乾燥することによって得られる。あるいは、上記重合溶液を加熱することによって濃縮し、その後、ベント付き押出機を用いて乾燥処理することによって得られる。また、必要に応じて、上記重合溶液に対して重合触媒残さの分離・除去処理を行うことができる。このような分離・除去処理の具体的な方法としては、シリカ、アルミナ、ケイソウ土などが充填された吸着カラムに通過させる方法、重合溶液に、水、アルコールなどを多量に添加して洗浄する方法を利用することができる。
【0054】
このようにして得られるオレフィン系ランダム共重合体は、o−ジクロロベンゼンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算重量平均分子量が1,000〜3,000,000であることが好ましく、より好ましくは3,000〜1,000,000、特に好ましくは5,000〜700,000である。また、オレフィン系ランダム共重合体のガラス転移温度は、−90〜50℃、特に−70〜10℃であることが好ましく、これにより、十分な弾性を有するアイオノマーが得られる。ここで、ガラス転移温度は、走査型示差熱分析計(DSC)により測定することができる。
【0055】
(B)成分のエラストマーとしては、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴム、ブタジエンゴム、無水マレイン酸変性のエチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、無水マレイン酸変性のエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴム、無水マレイン酸変性のイソブチレン−イソプレン共重合ゴム、無水マレイン酸変性のブタジエンゴム、エチレン、炭素数が3〜10のα−オレフィン、下記一般式(1)で表される官能性環状単量体、及び必要に応じて非共役ジエンが共重合されてなるオレフィン系ランダム共重合体から選ばれた少なくとも1種を持ちいればよいが、官能基を有していない(B)エラストマーを使用する場合は、極性基含有(B)エラストマー成分とブレンドして使用したほうが好ましい。具体的には、イソブチレン−イソプレン共重合ゴムと無水マレイン酸変性のエチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、イソブチレン−イソプレン共重合ゴムと無水マレイン酸変性のエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴム、イソブチレン−イソプレン共重合ゴムと無水マレイン酸変性のイソブチレン−イソプレン共重合ゴム、イソブチレン−イソプレン共重合ゴムとエチレン、炭素数が3〜10のα−オレフィン、下記一般式(1)で表される官能性環状単量体、及び必要に応じて非共役ジエンが共重合されてなるオレフィン系ランダム共重合体、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴムと無水マレイン酸変性のエチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴムと無水マレイン酸変性のエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴムと無水マレイン酸変性のイソブチレン−イソプレン共重合ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴムとエチレン、炭素数が3〜10のα−オレフィン、下記一般式(1)で表される官能性環状単量体、及び必要に応じて非共役ジエンが共重合されてなるオレフィン系ランダム共重合体、の組み合わせが好ましい。ブレンド比率は、官能基無含有(B)成分/官能基含有(B)成分=99/1以上が好ましい。1重量部未満では機械物性が低下する傾向がある。
【0056】
(C)架橋剤:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を製造するために用いられる(C)成分は、特に限定されないが、動的熱処理により、少なくともエラストマーを架橋できる化合物が好ましい架橋剤である。
【0057】
(C)成分の具体例としては、有機過酸化物、フェノール樹脂架橋剤、硫黄、硫黄化合物、p−キノン、p−キノンジオキシムの誘導体、ビスマレイミド化合物、エポキシ化合物、シラン化合物、ポリオール架橋剤、トリアジン化合物等を挙げることができる。なかでも、有機過酸化物、フェノール樹脂架橋剤が好ましい。これらを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
有機過酸化物としては、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,2’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−イソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシド、p−メンタンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジラウロイルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジ(t−ブチルパーオキシ)パーベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等を挙げることができる。なかでも、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジーt−ブチルパーオキサイドが好ましい。これらを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
フェノール樹脂架橋剤としては、例えば、下記一般式(3)で表されるp−置換フェノール系化合物、o−置換フェノール・アルデヒド縮合物、m−置換フェノール・アルデヒド縮合物、臭素化アルキルフェノール・アルデヒド縮合物等を挙げることができる。なかでも、p−置換フェノール系化合物が好ましい。これらを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
【化3】

【0061】
前記一般式(3)中、Xはヒドロキシル基であり、Rは炭素数1〜15の飽和炭化水素基であり、nは0〜10の整数である。なお、p−置換フェノール系化合物は、アルカリ触媒の存在下における、p−置換フェノールとアルデヒド(好ましくはホルムアルデヒド)との縮合反応により得ることができる。
【0062】
上記フェノール系架橋剤の製品例としては、タッキロール201(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、タッキロール250−I(臭素化率4%の臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、タッキロール250−III(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、PR−4507(群栄化学工業社製)、ST137X(ローム&ハース社製)、スミライトレジンPR−22193(住友デュレズ社製)、タマノル531(荒川化学社製)、SP1059(スケネクタディ社製)、SP1045(スケネクタディ社製)、SP1055(スケネクタディ社製社製)、SP1056(スケネクタディ社製)、CRM−0803(昭和ユニオン合成社製)が挙げられ、その中でもタッキロール201(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)が好ましく使用される。
【0063】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物における(A)成分、および(B)各成分の配合割合は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が10〜90質量部、好ましくは15〜85質量部、更に好ましくは20〜85質量部、エラストマー(B)が10〜90質量部、好ましくは15〜85質量部、更に好ましくは20〜85質量部の範囲である。(但し、A+B=100質量部)
【0064】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が10質量部未満、又はエラストマー(B)が90質量部超であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の相構造(モルホロジー)が、動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物の特徴である良好な海島構造(熱可塑性樹脂が海(マトリックス)、架橋したゴムの粒子が島(ドメイン)になり難く、流動性及び成形加工性が低下する傾向にある。エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が90質量部超、又はエラストマー(B)が10質量部未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性及びゴム弾性が低下する傾向にある。
【0065】
また、架橋剤(C)の使用量は、熱可塑性エラストマー組成物を製造するための原料組成物に含まれる(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、0.01〜20質量部であり、好ましくは0.3〜15質量部であり、更に好ましくは1.0〜10質量部である。
【0066】
架橋剤として有機過酸化物を使用する場合において、この有機過酸化物の使用量は、熱可塑性エラストマー組成物を製造するための原料組成物に含まれる(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、0.05〜10質量部とすることが好ましく、0.1〜5質量部とすることが更に好ましい。有機過酸化物の使用量が10質量部超であると、架橋度が過度に高くなり、成形加工性が低下し、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性が低下する傾向にある。一方、有機過酸化物の使用量が0.05質量部未満であると、架橋度が不足し、得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性及び機械的強度が低下する傾向にある。
【0067】
また、架橋剤としてフェノール樹脂架橋剤を使用する場合において、このフェノール樹脂架橋剤の使用量は、熱可塑性エラストマー組成物を製造するための原料組成物に含まれる(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、0.2〜10質量部とすることが好ましく、0.5〜5質量部とすることが更に好ましい。フェノール樹脂架橋剤の使用量が10質量部超であると、成形加工性が低下する傾向にある。一方、フェノール樹脂架橋剤の使用量が0.2質量部未満であると、架橋度が不足し、得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性及び機械的強度が低下する傾向にある。
【0068】
架橋剤とともに、架橋助剤及び/又は架橋促進剤を用いると、架橋反応を穏やかに行うことができ、均一な架橋を形成することができるために好ましい。架橋剤として有機過酸化物を用いる場合には、架橋助剤として、硫黄、硫黄化合物(粉末硫黄、コロイド硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、表面処理硫黄、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等)、オキシム化合物(p−キノンオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンオキシム等)、多官能性モノマー類(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−トルイレンビスマレイミド、無水マレイン酸、ジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛等)等を用いることが好ましい。なかでも、p,p’−ジベンゾイルキノンオキシム、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジビニルベンゼンが好ましい。これらを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、N,N’−m−フェニレンビスマレイミドは、架橋剤としての作用を示すものであるため、架橋剤として単独で使用することもできる。
【0069】
架橋剤として、フェノール樹脂架橋剤を用いる場合には、架橋促進剤として、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、二塩化ススなどを用いてもよい。
【0070】
架橋剤として有機過酸化物を使用する場合における、架橋助剤の使用量は、原料組成物に含まれる(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、0.2〜5質量部とすることが更に好ましい。架橋助剤の使用量が10質量部超であると、架橋度が過度に高くなり、成形加工性が低下し、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性が低下する傾向にある。
【0071】
汚染が発生するため、アミン系の架橋剤(例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、N,N´−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサジアミンなどが挙げられる)やアミン系の老化防止剤の使用は好ましくない。
【0072】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記した各成分(A)〜(C)を、溶融条件下で動的に架橋処理することにより得られる。この工程は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)、エラストマー(B)とを溶融混練して微細かつ均一に分散させ、さらに架橋剤(C)によりエラストマー(B)に架橋結合を生じせしめることからなる。溶融混練には、各成分を均一に混合し得る溶融混練装置であればいずれの装置を使用してもよく、そのような溶融混練装置としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを挙げることができ、中でも混練中の剪断力が大きく連続的に運転できる二軸押出機を使用するのが好ましい。
【0073】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、具体例として次のような加工工程を経由して製造することが出来る。すなわち、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)エラストマー(B)を混合し、押出機のホッパーに投入する。エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)は、一部を押出機の途中から添加してもよい。架橋剤(C)は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)およびエラストマー(B)とともに当初から添加してもよいし、押出機の途中から添加してもよい。さらに、2台以上の押出機を使用し、段階的に順次溶融混練してもよい。溶融混練温度は約160〜280℃であるのが好ましく、200℃〜240℃であるのがより好ましい。溶融混練時間は約30秒〜5分間であるのが好ましい。
【0074】
上記のようにして得られる熱可塑性エラストマー組成物は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のマトリックス中に、架橋剤(C)により架橋されたエラストマー(B)が分散した構造を有するものであり、架橋されたエラストマーの分散粒子径は、直径0.1μm〜50μmであるのが好ましく、0.1μm〜30μmであるのがより好ましい。
【0075】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、(A)成分と(B)成分の相構造を安定化させるために、必要に応じて相溶化材を添加することができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物の相構造を安定化させるために必要な成分であって、(A)エチレン−ビニルアルコール系共重合体への(B)エラストマーの分散安定化をなし得るものであれば特に限定されない。このような相溶化剤としては、例えば、分子内の主鎖中または側鎖に極性基を導入したオレフィン系樹脂、水添ジエン系重合体、分子内の主鎖中または側鎖に極性基を導入した水添ジエン系重合体、ビニル系重合体のグラフト共重合体などを挙げることができる。一般に極性基としては、例えば、酸ハイドライド、カルボキシル基、酸無水物、酸アミド、カルボン酸エステル、酸アジド、スルフォン基、ニトリル基、シアノ基、イソシアン酸エステル、アミノ基、イミド基、水酸基、エポキシ基、オキサゾリン基、チオール基等が挙げられるが、本発明に使用される相溶化剤の好ましい極性基は、カルボキシル基、酸無水物、カルボン酸エステル、イソシアン酸エステル、エポキシ基、オキサゾリン基であり、なかでもカルボキシル基、酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ基が好ましい。かかる相溶化剤は、その骨格であるオレフィン系樹脂、又はビニル系重合体が(B)成分のエラストマーと相溶し、極性基が(A)成分のエチレン−ビニルアルコール系共重合体と反応を起すために、(A)成分中への(B)成分の安定した分散形態を形成させることが可能である。
【0076】
上記相溶化剤の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計量100重量部あたり、0〜20重量部、好ましくは0.1〜15重量部、更に好ましくは0.5〜10重量部とすることができる。20重量部を超えると最終的に得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性が低下する傾向にある。
【0077】
(軟化剤および/または可塑剤)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記(A)成分〜(C)成分のほかに、さらに必要に応じ軟化剤および/または可塑剤を配合することができる。
本発明に用いられる軟化剤としては、アロマティック油、ナフテン油、パラフィン油、ホワイトオイル、ペトロラタム、ギルソナイトのような石油系軟化剤、ひまし油、綿実油、菜種油、パーム油、椰子油、ロジンのような植物油系軟化剤が挙げられる。
【0078】
また、本発明に用いられる可塑剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ブチルオクチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸エステル類、ジメチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、オクチルデシルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソブチルアゼレート、ジブチルセバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート、ジイソオクチルセバケート等の脂肪酸エステル類、トリメッリト酸イソデシルエステル、トリメッリト酸オクチルエステル、トリメッリト酸n−オクチルエステル、トリメッリト酸系イソノニルエステル等のトリメリット酸エステル類の他、ジ−(2−エチルヘキシル)フマレート、ジエチレングリコールモノオレート、グリセリルモノリシノレート、トリラウリルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、エポキシ化大豆油、ポリエーテルエステル等の可塑剤が挙げられる。本発明を実施するにあたり、上記軟化剤および/または可塑剤は単独または2種以上を併用することが出来る。
また、上記軟化剤および/または可塑剤は、熱可塑性エラストマー組成物製造時に(A)成分と(B)成分に添加してもよいし、(A)成分の重合時に添加してもよい。
【0079】
上記軟化剤および/または可塑剤の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計量100重量部あたり、100重量部以下とすることができ、好ましくは95重量部以下、より好ましくは90重量部以下とすることができる。100重量部を超えると最終的に得られる熱可塑性エラストマー組成物から軟化剤がブリードアウトしたり、機械的強度及びゴム弾性が低下する傾向にある。
【0080】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記した成分の他に、必要に応じて、本発明の効果を実質的に損なわない範囲で、他の重合体を含有していてもよい。配合し得る他の重合体の例としては、アイオノマー、アミノアクリルアミド重合体、ポリイソブチレン、塩化ビニル重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキサイド、エチレンアクリル酸共重合体、塩素化ポリプロピレン、4−メチルペンテン−1樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ACS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ビニルアルコール樹脂、ビニルアセタール樹脂、メチルメタアクリレート樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリル酸エステル、ポリアミド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリ尿素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリブテン−1、メチルペンテン樹脂、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。
【0081】
さらに、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、補強、増量、着色などの目的で、必要に応じて無機充填剤や顔料などを含有することができる。無機充填剤や染顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、合成珪素、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウムなどを挙げることができる。無機充填剤や染顔料の配合量は、熱可塑性エラストマー組成物の気体、有機液体等への遮断性が損なわれない範囲であることが好ましく、一般にはエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)とエラストマー(B)の合計100質量部に対して50質量部以下であるのが好ましい。
【0082】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記した成分以外に、必要に応じて滑剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、シリコーンオイル、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料などの他の成分の1種または2種以上を含有していてもよい。
【0083】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ペレット、粉末などの任意の形態にしておいて、成形材料として使用することができる。さらに本発明のエラストマー組成物は、熱可塑性を有するので、一般の熱可塑性重合体に対して用いられている通常の成形加工方法や成形加工装置を用いて成形加工することができる。成形加工法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの任意の方法を採用することができる。このような方法で製造される本発明のエラストマー組成物からなる成形品にはパイプ、シート、フィルム、円板、リング、袋状物、びん状物、紐状物、繊維状物などの多種多様の形状のものが包含され、また、他の素材との積層構造体または複合構造体も包含される。他の素材との積層構造を採用することによって、成形品に、耐湿性、機械的特性など、他の素材の有する特性を導入することが可能である。
【0084】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる少なくとも1つの層と他の素材からなる少なくとも1つの層との積層構造を有する成形品において、該他の素材は、要求される特性、予定される用途などに応じて適切なものを選択すればよい。該他の素材としては、例えば、ポリオレフィン(例:高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン等)、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エステル共重合体(EEA)、ポリスチレン(PS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)などの熱可塑性重合体などを挙げることができる。
【0085】
該積層構造を有する成形品においては、本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる層と他の素材からなる基材層との間に接着剤層を介在させてもよい。接着剤層を介在させることによって、その両側の本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる層と他の素材からなる基材層とを強固に接合一体化させることができる。接着剤層において使用される接着剤としては、ジエン系重合体の酸無水物変性物;ポリオレフィンの酸無水物変性物;高分子ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール化合物とアジピン酸等の二塩基酸とを重縮合して得られるポリエステルポリオール;酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体の部分ケン化物など)とポリイソシアネート化合物(例えば、1,6−ヘキサメチレングリコール等のグリコール化合物と2,4−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対2の反応生成物;トリメチロールプロパン等のトリオール化合物と2,4−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対3の反応生成物など)との混合物等を使用することができる。なお、積層構造形成のために、共押出、共射出、押出コーティング等の公知の方法を使用することもできる。
【0086】
本発明のエラストマー組成物からなる成形品は、多くの気体、有機液体等に対する優れた遮断性と優れた柔軟性とを兼備し、かつ圧縮永久歪み(ゴム弾性)にも優れ、しかも架橋剤としてアミン化合物を使用しないので、熱可塑性エラストマー組成物は、一般加工品にも幅広く利用することができる。一般加工品としては、例えば、自動車のバンパー、外装用モール、ウィンドシール用ガスケット、ドアシール用ガスケット、トランクシール用ガスケット、ルーフサイドレール、エンブレム、内外装表皮材、ウェザーストリップ等、航空機・船舶用のシール材及び内外装表皮材等、土木・建築用のシール材、内外装表皮材又は防水シート材等、一般機械・装置用のシール材等、弱電部品・フラットパネルディスプレイ・液晶パネル・燃料電池・インクジェットプリンター部品のパッキン又ハウジング等、日用雑貨品、及びスポーツ用品等が挙げられる。
【0087】
なお、本発明のエラストマー組成物からなる成形品は、廃棄の際に、溶融させて再使用することができるという利点も有する。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0089】
[酸素透過係数]
以下の実施例、比較例で製造した熱可塑性エラストマー組成物のペレットを用いて、そのペレットを圧縮成形機により加熱下に圧縮成形し、厚さ500μmのシート状試験片を作製し、これらを用いて酸素透過係数の測定を行なった。酸素透過係数の測定はJIS K7126のA法(気圧法)に準拠して、酸素圧1気圧、温度40℃、湿度90%RHの条件で行なった。
【0090】
[硬度]
JIS K6253に準拠して、デュロD硬度における測定開始10秒後の硬度を測定し、柔軟性の指標とした。
【0091】
[引張試験]
JIS K6251に準拠して、100%モジュラスM100(MPa)、引張強度T(MPa)、及び引張伸びE(%)を測定した。
【0092】
[圧縮永久ひずみ]
JIS K6262に準拠して70℃×22hの条件で測定し、ゴム弾性の指標とした。
【0093】
[汚染性]
JIS K6267の接触及び移行汚染試験 加熱促進法に準拠し、非汚染材に白色塗装板を用い、温度70℃、加熱時間24時間、二次暴露無しの条件で試験を行い、試験後の非汚染材の汚染度合を目視で評価した。尚、汚染の無いものを「○」、汚染があるものを「×」で示した。
【0094】
[エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)]
エチレン単位含有量率が44モル%、温度210℃、荷重2.16kgの条件下で測定したメルトフローレートが12g/10分であるエチレン−酢酸ビニルエステル共重合体のケン化物:日本合成化学社製「ソアノールA4412」。
[エラストマー(B−1)]
イソブチレン−イソプレン共重合ゴム:JSR社製「IIR268」。
[エラストマー(B−2)]
エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴム:JSR社製「EP57C」。
[エラストマー(B−3)]
無水マレイン酸により変性されたエチレン・α−オレフィン系共重合ゴム:JSR社製「T7761P」。
[エラストマー(B−4)]
十分に窒素置換した300mL三口フラスコ内に、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸32.8g(150mmol)、乾燥テトラヒドロフラン200mL及び乾燥ピリジン13.1g(165mmol)を入れ、この反応系に、温度0℃にてトリエチルクロロシラン24.9g(165mmol)をゆっくり滴下し、滴下終了後、室温にて5時間撹拌した。次いで、反応液をろ過し、ろ液を濃縮した後、n−ヘキサン100mlを加えて1時間撹拌し、その後、この溶液をろ過した。次いで、ろ液を濃縮し、143〜147℃、1.5mmHgの条件で減圧蒸留することにより、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリエチルシリルを得た。
【0095】
窒素置換した2Lセパラブルフラスコ内に、溶媒としてヘキサン1000mLと、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリエチルシリルの1.0mol/Lヘキサン溶液3.5mLと、5−エチリデン−2−ノルボルネン2mlとを入れ、20℃にてエチレン(供給量:5.0L/min.)/プロピレン(供給量:4.5L/min.)/水素(供給量:0.6L/min.)混合ガスを連続的に供給し、5分後に2Lセパラブルフラスコ内にVOClの0.32mol/Lヘキサン溶液3.66mLを加え、更に5分後に2Lセパラブルフラスコ内にAl(CClの0.41mol/Lヘキサン溶液20.7mLを添加し、単量体の付加重合処理を開始した。25℃で10分間の条件で付加重合処理を行った後、反応系に酢酸4.8mLを加えて重合反応を停止した。
【0096】
得られた重合溶液を水500mLで洗浄した後、多量のメタノール中に注ぐことにより、共重合体を析出させ、これを真空乾燥することにより、白色のオレフィン系ランダム共重合体(F)21.1gを得た。
【0097】
このオレフィン系ランダム共重合体を分析したところ、エチレンに由来する構造単位の含有割合が73.18モル%、プロピレンに由来する構造単位の含有割合が25.50モル%、5−エチリデン−2−ノルボルネンに由来する構造単位の含有割合が0.94モル%、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリエチルシリルに由来する構造単位の含有割合が0.38モル%であった。また、o−ジクロロベンゼンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は25.5×10であった。
【0098】
[エラストマー(B−5)]
ポリスチレン−水添ポリブタジエンブロック−ポリスチレンブロックからなり無水マレイン酸により変性されたトリブロック共重合体:旭化成社製「タフテックM1943」。
【0099】
[架橋剤(C−1)]
アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂:田岡化学工業社製「タッキロール201」。
[架橋剤(C−2)]
2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3とシリカとの混合物:日本油脂社製「パーヘキシン25B−40」。
[架橋剤(C−3)]
1,6−ヘキサンジアミン。
[架橋助剤(D)]
新日鐵化学社製「ジビニルベンゼン(濃度81%)」。
【0100】
(実施例1)
160℃に加熱した加圧型ニーダー(容量10リットル、モリヤマ社製)にエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)30部、エラストマー(B−1)50部、及びエラストマー(B−3)20部の割合で投入した。エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)が溶融して各成分が均一に分散するまで、40rpm(ずり速度200/sec)で15分間混練することにより、溶融状態の混練物を得た。得られた溶融状態の混練物を、フィーダールーダー(モリヤマ社製)を用いてペレット化した混練物を得た。ペレット化した混練物100部、架橋剤(C−1)2部をヘンシェルミキサーに投入し、30秒間混合した。その後、二軸押出機(同方向完全噛合い型スクリュー、L/D=33.5、池貝社製)を使用し、200℃、滞留時間1分30秒、300rpm、(ずり速度400/sec)で動的熱処理を行いながら押し出して、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(実施例1)を得た。
【0101】
得られた熱可塑性エラストマー組成物を、射出成型機(型番「N−100」、日本製鋼所社製)を使用して射出成型することによって、120mm×120mm×2mmのシート状の、物性評価用の試験片を作製した。実施例1により得られた熱可塑性エラストマー組成物を用い作製した試験片の酸素透過係数は31ml・20μm/m・day・atm、硬度は34、100%モジュラスM100は8.0MPa、引張強度Tは10.5MPa、引張伸びEは230%、ゴム弾性(圧縮永久ひずみ)は45%、及び汚染性の評価結果は「○」であった。
【0102】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
表1に示す配合処方とすること以外は、前述の実施例1の場合と同様にして、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(実施例2〜4、比較例1〜3)を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物を、前述の実施例1の場合と同様にして射出成型することにより、物性評価用の試験片を作製した。作製した試験片の各種物性値の測定結果、及び特性の評価結果を表1に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
(結果)
表1に示された結果から以下のことが明らかである。
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)、エラストマー(B−1)若しくはエラストマー(B−2)、架橋剤(C−1)若しくは架橋剤(C−2)、架橋剤(C−2)を用いる場合は架橋助剤(D)を用いて製造した実施例1〜3の熱可塑性エラストマー組成物を用いると、酸素透過性、柔軟性、ゴム弾性の優れた、非汚染性材料が得られることがわかる。
一方、エラストマー(B−5)を含有した熱可塑性エラストマー組成物(比較例1、2)は柔軟性、ゴム弾性に劣っており、架橋剤(C−3)を含有した熱可塑性エラストマー組成物(比較例1、3)は汚染の問題があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、気体、有機液体等に対する遮断性及び柔軟性に優れ、しかも非汚染性も良好であるため、これらの性質が要求される飲食品用包装材、容器、容器用パッキングなどの用途のほか、特に電子部品用途として有効に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン−ビニルアルコール系共重合体10〜90質量部、
(B)エラストマー10〜90質量部、及び
(C)有機過酸化物又はフェノール樹脂系である架橋剤0.01〜20質量部(但し、(A)と(B)の合計100質量部に対し)
を、溶融条件下で動的に架橋処理することにより得られる熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
(B)エラストマーが、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴム、ブタジエンゴム、無水マレイン酸変性のエチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、無水マレイン酸変性のエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン系共重合ゴム、無水マレイン酸変性のイソブチレン−イソプレン共重合ゴム、無水マレイン酸変性のブタジエンゴム、エチレン、炭素数が3〜10のα−オレフィン、下記一般式(1)で表される官能性環状単量体、及び必要に応じて非共役ジエンが共重合されてなるオレフィン系ランダム共重合体、から選ばれた少なくとも一種である請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【化1】

[一般式(1)において、Rは、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、Y、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又は−COOHを示し、Y、Y及びYのうち少なくとも1つは−COOHであり、また、Y、Y及びYのうち2つ以上が−COOHである場合は、それらは互いに連結して形成された酸無水物(−CO−O−CO−)であってもよい。oは0〜2の整数であり、pは0〜5の整数である。]
【請求項3】
(A)エチレン−ビニルアルコール系共重合体10〜90質量部、(B)エラストマー10〜90質量部、及び(C)有機過酸化物又はフェノール樹脂系である架橋剤0.01〜20質量部(但し、(A)と(B)の合計100質量部に対し)を、溶融条件下で動的に架橋処理することにより、熱可塑性エラストマー組成物を得る、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形品。
【請求項5】
コンデンサ用、バッテリー用、トナーケース用、インクジェットプリンター用(インクカートリッジを含む)、フラットパネルディスプレイ用、又は筐体用である請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなるシール材。
【請求項6】
コンデンサ用、バッテリー用、トナーケース用、インクジェットプリンター用(インクカートリッジを含む)、フラットパネルディスプレイ用、又は筐体用である請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなるチューブ材。

【公開番号】特開2007−211059(P2007−211059A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30292(P2006−30292)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】