説明

熱可塑性樹脂の成型装置

【課題】 非加熱状態の金型を用いて、スタンピング方式での樹脂成型を可能にし、作業性を改善する。スタンピング方式を改良することで、複雑な立体形状の樹脂成型を可能にする。
【解決手段】立体成型品12の外殻部14を展開した形状の熱可塑性樹脂シート16を、軟化温度以上であって、溶融流動開始温度未満の温度に予備加熱し、非加熱状態の2以上の金型20で樹脂シート16全面を包囲して、展開した形状の樹脂シート16を折り曲げながら加圧成型して、立体成型品12を得る。常温の加熱しない金型を使用するので、プレス装置の加熱冷却制御が不要であり、成型後短時間で製品を取り出すことができる。従って、加熱プレス装置を使用する場合に比較して生産速度を十分に引き上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を金型で加圧して所望の製品を成型する熱可塑性樹脂の成型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の成型品を作るには、あらかじめ所定の形状の金型を用意してここに樹脂を流し込む、これはインジェクション方式と呼ばれる。このインジェクション方式は大量生産に適するが、樹脂の流れを考慮した設計が必要で、複雑な形状をした成型品を製造するための金型は高価になる。また、樹脂を流し込むためには押し出し機が必要になる。押し出し機を使用するには、樹脂の押し出し条件を設定するための準備作業や、精密な温度管理、作業終了後の押し出し機の清掃といった煩雑な作業が必要になる。従って、インジェクション方式は、少量の製品を試作加工するような用途には適さない。
【特許文献1】特開2006−224332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
既知の従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
インジェクション方式の他に、シート状の樹脂を2枚の金型ではさんで加工するスタンピングという技術が知られている。シート状の樹脂を一定の温度に予備加熱した後、加熱した金型で加圧する。シート状の樹脂は所定の形状まで押し広げられて製品が完成する(特許文献1参照)。この方法では、シート状の樹脂を予熱する設備と加熱プレス設備があればよい。押し出し機を使用するよりも作業工程は簡略化される。従って、少量の製品の試作に適する。
【0004】
ところが、軟化した樹脂に圧力を加えて所望の形状まで押し広げるスタンピング方式では、複雑な立体形状の成型品を製造することが難しい。また、立体的に多くの突起を持つような形状の成型品を製造することは難しい。即ち、スタンピング方式は比較的平面的な製品に対象が限定されていた。さらに、1回の成型処理のつど金型を所定の温度まで加熱して成型をし、その後金型を冷却させてから成型品を取り出すので、作業性が悪く、コスト高になるという問題があった。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
〈構成1〉
立体成型品の外殻部を展開した形状の熱可塑性樹脂シートを、軟化温度以上であって、溶融流動開始温度未満の温度に予備加熱し、非加熱状態の2以上の金型で上記樹脂シート全面を包囲して、上記展開した形状の樹脂シートを折り曲げながら加圧成型して上記立体成型品を得ることを特徴とする熱可塑性樹脂の成型装置。
【0006】
常温の加熱しない金型を使用するので、プレス装置の加熱冷却制御が不要であり、成型後短時間で製品を取り出すことができる。従って、加熱プレス装置を使用する場合に比較して生産速度を十分に引き上げることができる。立体成型品の外殻部を展開した形状の樹脂シートを折り曲げながら加圧成型して、樹脂の流れる距離を最小限にすると、樹脂シートを常温の金型でプレスしても無理なく成型ができる。さらに、無理な残留歪みも生じない。
【0007】
〈構成2〉
構成1に記載の熱可塑性樹脂の成型装置において、折り曲げられた上記樹脂シートを加圧延伸することにより、当該樹脂シートの互いに離間した部分を相互に隙間無く圧着することを特徴とする熱可塑性樹脂の成型装置。
【0008】
立体成型品の外殻部を展開した形状の樹脂シートには、立体成型したときに縫合しなければならない部分が生じる。樹脂シートを加圧延伸することにより互いに離間した部分を接近させて加圧すれば、相互に圧着させることができる。これにより、例えば、深い箱状の立体も、常温の金型でプレスできる。
【0009】
〈構成3〉
構成1または2に記載の熱可塑性樹脂の成型装置において、上記立体成型品の外殻部に連なる任意の突出部を成型するために、上記樹脂シートとは別に同一条件で予備加熱した熱可塑性樹脂ブロックを、上記金型の突出部に相当する部分に配置して、上記樹脂シートと上記樹脂ブロックとを上記2以上の金型で包囲して、上記樹脂シートと上記樹脂ブロックとを同時に加圧することにより、上記樹脂シートと上記樹脂ブロックを相互に隙間無く圧着一体化することを特徴とする熱可塑性樹脂の成型装置。
【0010】
立体成型品の外殻部に、任意の突出部が連なる複雑な形状のものも、この方法により成型ができる。
【0011】
〈構成4〉
構成3に記載の熱可塑性樹脂の成型装置において、上記立体成型品の突出部に相当する部分を成型するための、金型の対応する凹部の入り口に、上記樹脂ブロックを配置して、当該樹脂ブロックの一面が上記樹脂シートに密着するように上記樹脂シートを金型に収容してから成型することを特徴とする熱可塑性樹脂の成型装置。
【0012】
樹脂シートの一部が樹脂ブロックの一面に密着した状態で加圧成型を開始すると、樹脂ブロックの他の面が金型の凹部に流れ込む。樹脂シートの一部と樹脂ブロックとが密着した部分は金型で冷やされないから、圧力により強く一体化する。
【0013】
〈構成5〉
構成3または4に記載の熱可塑性樹脂の成型装置において、上記樹脂シートの厚みを、仕上がり時の厚みの130パーセント以下に選定することを特徴とする熱可塑性樹脂の成型装置。
【0014】
非加熱状態の金型で延伸可能な限界を越えないようにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、非加熱状態の金型を用いて、スタンピング方式での樹脂成型を可能にして作業性を大幅に改善した。また、スタンピング方式を改良することで、複雑な立体形状の樹脂成型を可能にした。以下、本発明の実施の形態を実施例毎に詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は実施例1の熱可塑性樹脂の成型装置を示す側面図である。
図の成型装置10は、加圧装置22と受台24を備えている。加圧装置22の下端には上部金型26が固定されている。また、受台24の上には下部金型28が固定されている。上部金型26も下部金型28も常温のままである。この下部金型28の上に、予備加熱した樹脂シート16を、成型後の状態を考慮して正確に位置決めして載せる。加圧装置22を所定位置まで下降させると、例えば図のような立体成型品が得られる。
【0017】
図2は成型方法の手順を説明する説明図である。
図の(a)は、この実施例の装置で製造する立体成型品の一例を示す斜視図、(b)はこの立体成型品を成型するために準備する樹脂シートの展開図、(c)は樹脂ブロックの斜視図、(d)は予備加熱のための加熱装置の縦断面図である。
図の(a)に示すように、この実施例では、深い箱形で内部に突起を有する構造の立体成型品12を製造する。このような構造の成型品は、従来のスタンピング方式では十分に樹脂を延伸しきれないから、製造が困難であった。
【0018】
この装置では、まず、(b)に示すような樹脂シート16と(c)に示すような樹脂ブロック32とを用意する。樹脂シート16は、立体成型品12の外殻部を展開した形状の熱可塑性樹脂からなる。例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリメタクレート樹脂等の熱可塑性樹脂である。任意の熱可塑性樹脂でよいが、成型性が良く、金型との剥離性の良い樹脂が適する。
【0019】
次に、樹脂シート16と樹脂ブロック32とを、(d)に示すように、熱源33を内蔵した加熱装置18により予備加熱する。加熱温度は、樹脂の軟化温度以上であって溶融流動開始温度未満に設定する。例えば、樹脂の溶融流動開始温度を摂氏160度としたとき、予備加熱温度を120度程度に選定する。加圧して延伸するには軟化温度以上でなけれはならない。しかし、溶融流動開始温度以上では金型の所定位置に正確に樹脂シート16を置くことができない。従って、上記の温度範囲で樹脂を予備加熱してから、下部金型28の上に載せる。予備加熱温度の最適値は加圧装置の性能や金型の形状等により最適化されるとよい。
【0020】
上記のように、樹脂シート16は、立体成型品12の外殻部14を展開した形状にしておく。非加熱状態の金型では、樹脂の流動性が小さいからである。また、加圧して一挙に所定の形状に成型をするために、樹脂シート16全面を包囲するように金型20を設計する。金型の数は、上下で2個とは限らない。いわゆる中子のような浮型を設けても構わない。
【0021】
以上のように、熱可塑性樹脂シート16を予備加熱し、非加熱状態の2以上の金型20で樹脂シート16全面を包囲して、展開した形状の樹脂シート16を折り曲げながら加圧成型して、立体成型品12を得る。常温の加熱しない金型20を使用するので、プレス装置の加熱冷却制御が不要であり、成型後短時間で製品を取り出すことができる。従って、加熱プレス装置を使用する場合に比較して生産速度を十分に引き上げることができる。立体成型品12の外殻部14を展開した形状の樹脂シート16を折り曲げながら加圧成型して、樹脂の流れる距離を最小限にすると、樹脂シート16を常温の金型20でプレスして、無理なく成型ができる。さらに、無理な残留歪みも生じない。
【実施例2】
【0022】
図3は実施例2の熱可塑性樹脂の成型動作を説明する説明図である。
先ず、図3の(a)に示すように、立体成型品12の外殻部14を展開したものとほぼ同程度の寸法の樹脂シート35を準備する。これを予備加熱してから、常温の金型でプレスする。余分な樹脂は金型の外側に押し出されて、図3(b)に示すような箱形の立体成型品36ができあがる。
【0023】
一方、もっと深い箱形構造の立体成型品をプレスするときには、例えば、図2の(b)に示したような、外殻部14を展開した形状の樹脂シート16を使用する。これを金型上で折り曲げる。そして、図3の(c)に示すように、折り曲げられた樹脂シート16を加圧延伸する。これにより、当該樹脂シート16の互いに離間した部分37を相互に隙間無く圧着する。これにより、図3(d)に示すような、例えば、深い箱状の立体38も、常温の金型20でプレスできる。
【0024】
樹脂は、金型20に接した部分がただちに冷却される。しかし、樹脂は断熱性が良いので、金型20に接していない部分はまだ加圧すると流動する状態にある。この部分が加圧延伸されて金型20の空隙に流れ込む。延伸されて新たに金型20に接触した部分は次々と冷却されて固化を始める。従って、十分に厚みのある樹脂シート16でないと、広く延伸することはできない。従来の方法では金型20を加熱するから、可能な限り広く延伸をすることで樹脂成型をした。これに対してこの発明では、立体成型品12の外殻部14を展開した形状の樹脂シート16を使用する。
【0025】
従って、金型20内での樹脂延伸量を出来るだけ少なくして、深井箱形のものでも良好なプレス成型が可能になる。例えば、プレス前の樹脂シート16の厚みは、仕上がり時の厚みの130パーセント以下に選定するとよい。これを越えると、押し広げられる樹脂が金型に接して冷却され、十分展開できないために亀裂等が入るおそれがある。即ち、非加熱状態の金型20で延伸可能な限界を越えないようにすることが好ましい。
【実施例3】
【0026】
図4は実施例3の熱可塑性樹脂の成型方法を示す説明図である。
図2の例では、立体成型品12の外殻部14に連なるように、その内側に比較的大きな突出部30が存在する。これは、1枚の樹脂シートを加圧しただけでは成型できない。そこで、樹脂シート16とは別に同一条件で予備加熱した熱可塑性樹脂ブロック32を用意する。熱可塑性樹脂ブロックを、金型20の突出部30に相当する部分に配置する。この状態で、樹脂シート16とブロックとを同時に加圧する。これにより、樹脂シート16とブロックを相互に隙間無く圧着することができる。そして、突出部30を無理なく成型することができる。樹脂シート16の一部がブロックの一面に密着した状態で加圧成型を開始すると、ブロックの他の面が金型20の凹部に流れ込む。樹脂シート16の一部とブロックとが密着した部分は金型20で冷やされないから、圧力により強く一体化する。
【0027】
図5は、熱可塑性樹脂の成型品例斜視図である。
図の(a)や(b)には、それぞれ複雑な形状の成型品41,42の例を示した。実験によれば、以上のように、立体成型品12の外殻部14に、任意の突出部30が連なる複雑な形状のものも、この方法により成型ができた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1の熱可塑性樹脂の成型装置を示す側面図である。
【図2】成型方法の手順を説明する説明図である。
【図3】実施例2の熱可塑性樹脂の成型動作を説明する説明図である。
【図4】実施例3の熱可塑性樹脂の成型方法を示す説明図である。
【図5】熱可塑性樹脂の成型品例斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
10 熱可塑性樹脂の成型装置
12 立体成型品
14 外殻部
16 樹脂シート
18 加熱装置
20 金型
22 加圧装置
24 熱源
30 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体成型品の外殻部を展開した形状の熱可塑性樹脂シートを、軟化温度以上であって、溶融流動開始温度未満の温度に予備加熱し、
非加熱状態の2以上の金型で前記樹脂シート全面を包囲して、
前記展開した形状の樹脂シートを折り曲げながら加圧成型して前記立体成型品を得ることを特徴とする熱可塑性樹脂の成型装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂の成型装置において、
折り曲げられた前記樹脂シートを加圧延伸することにより、当該樹脂シートの互いに離間した部分を相互に隙間無く圧着することを特徴とする熱可塑性樹脂の成型装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂の成型装置において、
前記立体成型品の外殻部に連なる任意の突出部を成型するために、
前記樹脂シートとは別に同一条件で予備加熱した熱可塑性樹脂ブロックを、
前記金型の突出部に相当する部分に配置して、
前記樹脂シートと前記樹脂ブロックとを前記2以上の金型で包囲して、前記樹脂シートと前記樹脂ブロックとを同時に加圧することにより、
前記樹脂シートと前記樹脂ブロックを相互に隙間無く圧着一体化することを特徴とする熱可塑性樹脂の成型装置。
【請求項4】
請求項3に記載の熱可塑性樹脂の成型装置において、
前記立体成型品の突出部に相当する部分を成型するための、金型の対応する凹部の入り口に、前記樹脂ブロックを配置して、
当該樹脂ブロックの一面が前記樹脂シートに密着するように前記樹脂シートを金型に収容してから成型することを特徴とする熱可塑性樹脂の成型装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の熱可塑性樹脂の成型装置において、
前記樹脂シートの厚みを、仕上がり時の厚みの130パーセント以下に選定することを特徴とする熱可塑性樹脂の成型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−56605(P2009−56605A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223376(P2007−223376)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(506314955)服部板金工業有限会社 (1)
【Fターム(参考)】