説明

熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法

【課題】 高度な耐熱性、透明性、光学等方性、靭性、無欠点性を有する熱可塑性樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】 溶融製膜法により得られる熱可塑性樹脂フィルムであって、破断伸度が任意の方向で30〜70%の範囲であり、波長400〜700nmの光線に対するフィルムの厚み方向および面方向の位相差が絶対値で5nm以下であり、ヘイズ値が1.0%以下であり、厚みムラが±1.5μm/1m以下であり、厚みが5〜250μmであり、フィルム幅方向のいずれの5mm幅においてもその最大値と最小値の差が0.1μm未満である熱可塑性樹脂フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性に優れる熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂に代表される非晶性透明樹脂は電気・電子分野をはじめ広く利用されている(非特許文献1、非特許文献2)。特にポリカーボネート樹脂はコンパクトディスク等の記録メディア用基材として利用されているが、光弾性係数が大きく、複屈折が大きいという課題を有している。一方、ポリメタクリル酸メチル樹脂は、複屈折が小さく、光学特性に優れるものの、耐熱性が十分ではなく、レーザー追記型光学ディスクのような耐熱性が必要とされる用途に使用するには問題がある。
ポリメタクリル酸メチル樹脂など、アクリル系熱可塑性樹脂の耐熱性改善については、酸無水物やマレイミド化合物との共重合や、グルタルイミド構造の導入など、ポリマー骨格および組成の改良で耐熱性の向上を図る方法(例えば、特許文献1)が開示されている。
しかし近年、光学部品に用いられるアクリル系熱可塑性樹脂フィルムには、その要求が高度化、多様化し、上記耐熱性等に加えて、極めて高い透明性や無欠点性が求められるようになってきた。
【0003】
特許文献2には、アクリル系熱可塑性樹脂フィルムの耐熱性改善に加え、透明性向上の記載があるが、該特許文献2はポリマー分を溶媒に溶かして製膜する、いわゆる溶液製膜法を用いているため、溶媒除去のための工程、費用を要し、品質・物性面で、溶媒除去時の突沸欠点、残存溶媒による物性低下が生じるといった問題があった。
【0004】
アクリル系熱可塑性樹脂フィルムを溶融製膜法にて製造するに際してはその靭性を高めるため例えば特許文献3にあるようにその分子量を高分子量化することやエラストマー粒子などを添加することが提案されているが、そのために極めて高粘度となり配管などに滞留を引き起こすような突起物、例えば温度センサーや圧力センサー、配管自体のキズ、があるとその部分で樹脂が滞留を引き起こし、それがスジ状にフィルムに現れる問題があった。ダイ自体のキズやダイのリップ部分に付着した樹脂やその劣化物によって引き起こされるようなスジは例えば特許文献4に提案されているような弾性体ロール表層に金属スリーブを備えたようなロールで圧着することで解消が可能となるが、配管などの部分滞留から引き起こされるような高さ自体が微弱なスジについては解消できない問題がありその解決が急務であった。
【非特許文献1】「プラスチックフィルム・シートの現状と将来展望」、株式会社富士キメラ総研(発行人:表良吉)、2004年6月4日、p165−p168
【非特許文献2】「光学用透明樹脂」、株式会社技術情報協会(発行人:高薄一弘)、2001年12月17日、p59
【特許文献1】特開平7−268036号公報
【特許文献2】特開平18−206881号公報
【特許文献3】特開2006−283013号公報
【特許文献4】特開平3−124425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記した従来の課題を解決し、ポリメタクリル酸メチルに匹敵する優れた光学特性を有し、優れた耐熱性、透明性、光学等方性、無欠点性を有する熱可塑性樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、以下の構成を有している。
【0007】
(1)溶融製膜法により得られる熱可塑性樹脂フィルムであって、破断伸度が任意の方向で30〜70%の範囲であり、波長590nmの光線に対するフィルムの厚み方向および面方向の位相差が絶対値で5nm以下であり、ヘイズ値が1.0%以下であり、厚みムラが±1.5μm/1m以下であり、フィルム厚みが5〜250μmであり、フィルム幅方向のいずれの5mm幅においてもその厚みの最大値と最小値の差が0.1μm未満である熱可塑性樹脂フィルム。
【0008】
(2)フィルムのガラス転移温度が120℃以上である、上記(1)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0009】
(3)フィルムのb値が0.5以下である、上記(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0010】
(4)エラストマー粒子を5〜40重量%の範囲で含有している、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0011】
(5)熱可塑性樹脂が、(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、および(ii)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を有する共重合体を含んでいる、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0012】
【化1】

【0013】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
(6)前記共重合体がさらに(iii)不飽和カルボン酸単位を有している、上記(5)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0014】
(7)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(i)を30〜95重量%、グルタル酸無水物単位(ii)を5〜60重量%、不飽和カルボン酸単位(iii)を0〜5重量%含有する(ただし、各単位(i)(ii)(iii)の合計は100重量%)、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0015】
(8)不飽和カルボン酸単位(iii)の含有量が0〜1重量%である、上記(7)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0016】
(9)不飽和カルボン酸単位(iii)が、下記一般式(2)で表される構造を有する、上記(6)〜(8)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0017】
【化2】

【0018】
(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
(10)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(i)が、下記一般式(3)で表される構造を有する、上記(5)〜(9)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0019】
【化3】

【0020】
(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式の炭化水素基又は1個以上炭素数以下の数の水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式の炭化水素基を示す。)
【発明の効果】
【0021】
以下に説明するように、本発明によれば、高い透明性および無欠点性を有する靭性に優れた熱可塑性樹脂フィルムが得られる。そして、本発明で得られる熱可塑性樹脂フィルムは、優れた耐熱性と透明性を生かした、光学ディスク、ディスプレイ部材、光学レンズ、液晶バックライト用導光板などの用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムはさまざまな熱可塑性樹脂、特にポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアクリル樹脂などが用いられるが、以下に述べる特定の環状構造を有する熱可塑性樹脂(共重合体)が好適に用いられる。ここで共重合体とは、(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(ii)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を有する共重合体であることが好ましい。
【0023】
【化4】

【0024】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
より好ましくは、上記単位にさらに(iii)不飽和カルボン酸単位を有していることである。
【0025】
なお、本明細書において単に「アルキル」という場合には直鎖状及び分枝状の両者が包含される。
【0026】
上記した特定の環状構造を有する共重合体を製造する方法としては、特に制限はないが、後の加熱工程により上記グルタル酸無水物単位(ii)を与える不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸アルキルエステルを共重合させ、原重合体とした後、かかる原重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコール及び/又は脱水による分子内環化反応を行わせることにより製造することができる。この場合、典型的には、原重合体を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位(iii)のカルボキシル基が脱水されて、あるいは、隣接する不飽和カルボン酸単位(iii)と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(i)からアルコールの脱離により1単位の前記グルタル酸無水物単位(ii)が生成される。
【0027】
この際に用いられる不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、好ましい不飽和カルボン酸単量体として、下記一般式(4)
【0028】
【化5】

【0029】
(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表す)
で表される化合物、マレイン酸、及びさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。なお、上記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると下記一般式(2)で表される構造の不飽和カルボン酸単位(iii)を与える。
【0030】
【化6】

【0031】
(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
また不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては特に制限はないが、好ましい例として、下記一般式(5)で表されるものを挙げることができる。
【0032】
【化7】

【0033】
(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基であり、又は1個以上炭素数以下の数の水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基を示す)
これらのうち、炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は置換基を有する該炭化水素基を持つアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが特に好適である。なお、上記一般式(5)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると下記一般式(3)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0034】
【化8】

【0035】
(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式の炭化水素基又は1個以上炭素数以下の数の水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式の炭化水素基を示す。)
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0036】
これらの単量体を共重合する方法については特に制限はなく、ラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を用いることができる。これらの重合方法自体はこの分野において周知である。
【0037】
これらの原重合体製造時に用いられる単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100重量%として、不飽和カルボン酸系単量体が7〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%、最も好ましくは15〜40重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体は好ましくは30〜93重量%、より好ましくは30〜90重量%、最も好ましくは30〜85重量%である。
【0038】
不飽和カルボン酸系単量体量が7重量%未満の場合には、原重合体の加熱による環化反応物生成量が少なくなり、従って共重合体の耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体量が60重量%を超える場合には、原重合体の加熱による環化反応後に反応性の高い不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、非熱可逆性の結合が生成することがあるため、成形が困難になる可能性がある。
【0039】
本発明における原重合体の加熱による共重合体の製造方法は、特に制限はないが、上記原重合体を200〜300℃に昇温したベントを有する押出機に通して加熱脱揮することにより、環化反応を行う方法が好ましく用いることができる。さらに共重合体中の反応性の高い不飽和カルボン酸系単位量を減少させる方法として、2つ以上のベントを有する押出機を用いることが好ましい。なお、上記の方法により加熱脱揮する時間は特に限定されず、適宜設定可能であるが、通常、1分間〜20分間程度が適当である。
【0040】
また、原重合体を押出機に通す際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、原重合体100重量部に対し、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を0.01〜1重量部添加することが好ましい。これら酸、アルカリ、塩化合物については特に制限はなく、酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩等が挙げられ、特に水和物である塩が好ましく用いられる。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)は、120℃以上のものが好ましく、特に150℃以上のものが、耐熱性の点で好ましい。熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度を120℃以上にすることは、主構成ポリマーの共重合体中におけるグルタル酸無水物単位(ii)の量を約10重量%以上に制御することにより達成できる。なお、ガラス転移温度の上限は特に限定されないが、通常、170℃程度である。
【0042】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(共重合体)100重量%中に含まれるグルタル酸無水物単位(ii)は好ましくは5〜60重量%、最も好ましくは15〜50重量%である。グルタル酸無水物単位が5重量%以下の場合、耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。また、不飽和カルボン酸単位(iii)は0〜5重量%、より好ましくは0〜3重量%、最も好ましくは0〜1重量%である。不飽和カルボン酸単位5重量%以上の場合、非熱可逆性の結合が生成することがあるため、成形が困難になる可能性がある。
【0043】
また不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(i)は好ましくは30〜95重量%、より好ましくは30〜90重量%、最も好ましくは30〜85重量%である。
【0044】
なお、上記における各単位(i)(ii)(iii)の合計は100重量%である。
本発明で用いる熱可塑性樹脂(共重合体)は、N,N−ジメチルホルムアミドを溶媒として用い、30℃で測定した極限粘度[η]が0.35〜0.85dl/gのものが好ましく、0.45〜0.7のものが特に好ましい。
【0045】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(共重合体)の質量平均分子量は、8万〜15万であることが好ましい。質量平均分子量が、15万を超える場合、後工程の加熱脱揮時に着色する傾向が見られる。一方、質量平均分子量が、8万未満の場合、フィルムの機械的強度が低下する傾向が見られる。
【0046】
分子量制御方法については、特に制限はなく、例えば通常公知の技術を適用することができる。例えば、アクリル系樹脂の場合には、アゾ化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤の添加量、あるいはアルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤の添加量等により、制御することができる。特に、重合の安定性、取り扱いの容易さ等から、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンの添加量を制御する方法が好ましく使用することができる。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、溶融製膜法にて製造することができる。溶融製膜法は用いるダイの形状によりストレートダイ法、クロスヘッドダイ法、フラットダイ法、特殊ダイ法に分類することができ、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは特にフラットダイ法を好ましく採用できる。
【0048】
溶融製膜法には、単軸あるいは二軸の押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。そのスクリューのL/Dとしては、25〜120とすることが着色を防ぐために好ましい。溶融押出温度としては、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。溶融剪断速度としては、1,000s−1以上5,000s−1以下が好ましい。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下で、あるいは窒素気流下で溶融混練を行うことが好ましい。
【0049】
溶融押出装置等により溶融した樹脂はギヤポンプで計量された後にダイに連続的に送られる。ダイはその内部での溶融樹脂の滞留が少ない設計であればよく、フラットダイ法では、一般的に用いられる型マニホールドダイ、コートハンガーダイ、フィッシュテールダイの何れのタイプでもよい。ダイからシート状に押し出された溶融樹脂をドラムなどの冷却媒体上で冷却固化し、フィルムを得ることができる。この時、静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、バキュームノズル法、タッチロール法などでドラムなどの冷却媒体上への密着を上げることが好ましい。特に厚みムラが少なく、透明なフィルムを得るには、タッチロール法が好ましい。このような密着向上法は溶融樹脂シート全面に実施してもよく、一部に実施してもよい。また、単一方法での実施でもよく、複数の方法を組み合わせた実施でもよい。
【0050】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、フィルム幅方向のいずれの5mm幅においてもその厚みの最大値と最小値の差が0.1μm未満である。このような厚みの最大値と最小値の差が0.1μmを超える段差、すなわち“スジ”がフィルム表面に存在すると、ディスプレイに加工した際にそのスジがそのままディスプレイに映ることとなり、高品質のディスプレイに供することが困難となる。なおこれより小さな段差が存在する場合は加工の際に、例えば接着剤などに埋もれて消える場合もあるが、好ましくは、上記した最大値と最小値の差は0.05μm以下である。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムを実現するためには、例えば、滞留時間の長い樹脂をダイの直前でフィルムの製品表面部分として吐出される位置から移動、もしくは本発明における熱可塑性樹脂フィルムとして問題ない程度まで分散させる方法を用いることが好ましい。260℃での溶融粘度が5,000〜15,000Pa・sであるような高粘度の熱可塑性樹脂では溶融状態で配管などを流動する際にセンサー類などの突起物があると、その箇所で局所的に流れが滞留し、その部分の樹脂は滞留時間が長くなる。また、溶融状態で配管などを流動する樹脂は、配管の管壁近傍を流れる樹脂の方が中心部を流れる樹脂に比べ滞留時間が長い。これらの樹脂がフィルム表面部分として吐出されると、フィルムの流れ方向にスジが発生したり、フィルム表面全体の透明性が著しく損なわれたりする。これらの樹脂を分流手段によりフィルムの製品部の外、例えば両端の切断除去する部分に移動させたり、静的または動的な攪拌手段をダイ直上に設けることで該滞留部分を全体的に分散させたりすることで、フィルム表面にスジがなく、かつ、フィルム表面の透明性が優れた熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。分流手段としては、配管内に分流するための障壁を設ければよい。形状は特に制限はなく、長方形、台形、楕円形、三角形などが挙げられる。長方形、台形の障壁を用いる場合、樹脂の滞留を防止する目的で樹脂の流れ方向上流側に三角形、半円形、放物線形を組み合わせた形状とすることが好ましい。また、配管の管壁近傍を流れる滞留時間の長い樹脂と中心部を流れる滞留時間の短い樹脂を明確に分流するため、障壁の内側に隔壁を設け二重管構造にすることがより好ましい。配管の管壁近傍を流れる滞留時間の長い樹脂と中心部を流れる滞留時間の短い樹脂の割合を示す分流比は、特に制限されるものでないが、生産効率を考慮し、滞留時間の長い樹脂/滞留時間の短い樹脂の割合が、重量比で、10/90%〜30/70%であることが好ましく、より好ましくは15/85%〜25/75%である。滞留時間の長い樹脂の割合が10%未満の場合、フィルム表面のスジが充分に解消されなかったり、フィルムの透明性が低下したり、切断除去するフィルム幅が狭く破れが生じ易くなることに繋がる。壁面の樹脂の割合が30%を超えると、生産効率が低下しコスト高となってしまう。各形状、各寸法は特に制限されるものでないが、樹脂の粘度と流量によって上記分流割合が得られるように設計する。
【0052】
一方、静的または動的な攪拌手段としては、スタティックミキサーやギヤポンプやスクリュー等を用いることになるが、形状は特に制限はなく、配管や他の装置に悪影響を及ぼさない程度の樹脂圧力で、かつ、樹脂の物性に悪影響を及ぼさない程度の剪断発熱であれば市販のスタティックミキサーやギヤポンプやスクリュー等から適宜選択できる。スタティックミキサーを用いる場合、滞留時間の長い樹脂を均等に分散させるにはエレメント数を3エレメント以上にすることが好ましい。
【0053】
なお、センサー類などの突起物は、前述の滞留時間の長い樹脂を移動させる手段より下流に設置しないことが好ましく、あるいは設置する場合でもフラットダイの幅方向に対して並行〜45度の範囲で設置することが好ましい。すなわち、部分的な滞留部分をフィルム表面から移動させてもその下流に再び滞留部分があればスジを引き起こしてしまう可能性があるためである。そこで、そのような部分や部材は設置しないことが好ましいが、やむなく設置する場合にはフラットダイの幅方向に対して並行〜45度の範囲で設置すれば、該樹脂起因によるスジがフィルムの製品部ではなく端部に流れることになるからである。
【0054】
フラットダイ法による溶融製膜では、押出温度、引き取り時の引き取り速度およびダイのリップ間隙を調整することにより、所定のフィルム厚みを得ることができる。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、厚みが5〜250μmの範囲内である。フィルム厚みは、フィルム特性、ハンドリング性、目標最終厚みなどによって適宜調整されるべきものであるが、フィルム厚みが5μm未満の場合には製膜時に破れが生じ易くなるなど歩留まりを悪化させることがあり、250μmを超える場合には透明性が低下したり、部材としての厚みが大きくなり過ぎる。熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、10〜150μmの範囲内がより好ましく、20〜100μmの範囲内がさらに好ましい。
【0056】
溶融製膜時の押出温度と引き取り時の引き取り速度を調整する方法としては、押出温度を熱可塑性樹脂フィルムの構成成分である共重合体のガラス転移温度より100℃〜150℃高い温度とし、ダイのリップ間隙とフィルム平均厚みの比すなわちダイのリップ間隙(mm)/フィルム平均厚み(μm)×1,000で表される値を20以下にすることが好ましく、より好ましくは15以下となるように引き取ることが好ましい。ダイから押し出し後、ドラムなどの冷却媒体に接するまでの時間は0.05秒以上1秒以下、好ましくは0.15秒以上0.6秒以下であることが好ましい。また、ドラムなどの冷却媒体の表面温度は熱可塑性樹脂フィルムを構成する共重合体のガラス転移温度、好ましくはガラス転移温度より40℃以上低い温度とすることであるが、冷却ロールの温度を15℃以下にすると結露が発生しやすくなり、フィルムの欠点を生じやすくなる場合がある。このような条件で溶融押出することによって、本発明の目的の透明性に優れ、かつ、光学的な異方性の生じにくい熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、波長590nmの光線に対する厚み方向および面方向の位相差が絶対値として5nm以下であり、2nm以下であることがより好ましい。波長590nmの光線に対する厚み方向および面方向の位相差が5nm以下であると、偏光板や光ディスクの保護フィルムなど光学等方性が要求される用途で好適に用いることができる。このような低位相差のアクリル樹脂フィルムを得るためには、位相差が発現するような添加剤や共重合成分を導入しないようにすることなどが有効である。光学等方性が要求される用途において、面内の位相差および厚み方向位相差の絶対値は小さい方が好ましいが、現実的に下限は0.1nm程度と考えられる。このような光学等方性の熱可塑性樹脂フィルムを得るためには、上述の通り、樹脂中にグルタル酸無水物構造、ラクトン環構造、ノルボルネン構造、シクロペンタン構造等の脂環構造を含有することが最も好ましく、また、位相差を発現させる添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、製膜時の延伸倍率を低くすることなどが有効である。
【0058】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムはヘイズが1.0%以下であり、好ましくは0.6%以下である。すなわちヘイズが1.0%を超えるフィルムであれば曇った感じであり見た目にも悪くまた光散乱による光漏れが起こり液晶ディスプレイには用いられない、など光学的に価値が低いものとなるためである。熱可塑性樹脂フィルムのヘイズ値を1.0%以下にするには製膜を実施する上で可能な範囲で、(1)押出温度を低めにする、(2)分流割合を増やす、(3)押出滞留時間を短くする、(4)ダイのリップ間隙を狭くする、(5)フィルム平均厚みとダイのリップ間隙の比を小さくする、ことにより実現することができる。
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは色調b値が0.5以下であることが好ましい。そのためには製膜する上で可能な範囲で、(1)押出温度を低めにする、(2)押出滞留時間を短くする、ことにより実現することができる。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは厚みムラが±1.5μm/1m以下である。すなわち該厚みムラが±1.5μm/1mより大きいと、貼り合せなどの加工に接着剤層のムラを引き起こしたり、巻き取りロール状とした際にシワなどの変形を引き起こすことがある。この厚みムラは、長手方向、幅方向の少なくとも一方向について上記範囲が満たされていることが好ましいが、長手方向、幅方向いずれについても満たされていることが好ましい。
【0060】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みムラを±1.5μm/1m以下にするためには、幅方向においては、(1)製膜中の該フィルムの厚みをインラインで測定してその厚みプロファイルをダイにフィードバックして厚みを調整する方法、(2)ロールや雰囲気について幅方向の温度ムラを可能な限り少なくする方法、長手方向においては、(3)製造装置の振動をできるだけ抑える方法、(4)ロールの駆動ムラをできるだけ抑える方法、(5)ダイから吐出されるフィルムの雰囲気の振動をできるだけ抑える、ことが有効である。
【0061】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、昨今のディスプレイの大画面化の流れから、寸法が長い部分が1,000mm以上であることが好ましく、さらには全ての方向で1,000mm以上であることが好ましい。これにより、縦横いずれの寸法も1,000mmを超えるような大画面ディスプレイにも本発明のフィルムが対応可能となる。
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは耐熱性、透明性、光学特性に優れるが、本発明の熱可塑性樹脂フィルムにエラストマー粒子などの弾性重合体等の衝撃改良剤を添加することで、衝撃強度を飛躍的に向上させることも可能である。エラストマー粒子として、本発明で用いる共重合体と屈折率の差が小さいものを選択することにより、透明性を保ったまま、耐衝撃性や破断伸度を高めることが可能である。このようなエラストマー粒子を添加する場合、その含有量は各用途に照らして適宜選択できるが、通常、熱可塑性樹脂フィルム中に5〜40重量%の範囲で含んでいることが好ましい。このようにエラストマー粒子を含有することで熱可塑性樹脂フィルムの破断伸度を任意の方向で30〜70%の範囲であるようなハンドリングに優れたものにすることが可能となる。すなわち破断伸度が30%未満のような靭性に乏しいものであれば取り扱いの際に破断が起こり、一方70%を超えるような延びやすいものであれば柔軟すぎて使用される用途や工程が外力がかからないようなものに限定されてしまうためである。
【0063】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステラアマイドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、燐系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を含有してもよい。これらの添加剤を添加する場合、その含有量は各用途に照らして有効量を適宜選択できる。
【0064】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは使用の目的によって表面にコーティングによって帯電防止層や易接着層を設けたり、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層、三角プリズム層、マイクロレンズアレイ等を設けたり、金属や酸化金属の蒸着層や、スパッタによる透明導電層を設けたり、接着層を介して他の光学等方性フィルムや偏光子、位相差フィルム等の光学機能フィルム、ガラス基板などと積層した形で用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例の記述に先立ち、実施例で採用した各種物性の測定方法を記載する。
【0066】
(1)質量平均分子量(絶対分子量)
ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waers社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて測定した。
【0067】
(2)ガラス転移温度(Tg)
熱可塑性樹脂フィルムを約5mgとり、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製RDC220型)を用いて、窒素雰囲気下、25℃から200℃の範囲にて、20℃/分の昇温速度で測定し、1stRunの測定結果とした。ガラス転移温度の求め方は、JIS−K−7121(1987)の9.3項の中間点ガラス転移温度の求め方に従い、測定チャートの各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
【0068】
(3)フィルムの破断伸度
オリエンテック(株)製のフィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”を用いて、次の条件で測定した。
【0069】
試料サイズ:幅10mm、長さ150mm
チャック間距離50mm
引張速度:300mm/分
測定環境:23℃、65%RH、大気圧下
フィルム破断時の長さからチャック間距離を減じたものをチャック間距離で除したものに100を乗じて破断伸度とした。測定は5回行い、平均値をとった。
【0070】
(4)ヘイズ
JIS−K−6714(1995)に従い、ヘイズメーター(スガ試験機製)を用いて測定した。
【0071】
(5)面内の位相差および厚み方向の位相差
王子計測(株)社製の楕円偏光測定装置(KOBRA−WPR)と位相差測定装置KOBRA−RE(KOBRA−WR用ソフトウェア)Ver.1.21を用いた。測定は、入射角依存性測定の単独N計算モードにて、低位相差測定法を用い、遅相軸を傾斜中心軸とし、入射角40°(波長590nm)の条件にて行い、面内の位相差(Δnd)および厚み方向位相差(Rth)を得た。なお、入射角0°の時の位相差であるR0値を面内の位相差(Δnd)とした。また、測定はデシケーター中にて24時間保管したサンプルにて行い、N=5回の平均値を面内の位相差(Δnd)および厚み方向位相差(Rth)とした。
【0072】
(6)色調
JIS−Z−8722(2000)に基づき、分光式色差計(日本電色工業製SE−2000、光源 ハロゲンランプ 12V4A、0°〜−45°後分光方式)を用いて、各フィルムの色調(b値)を透過法により測定した。測定は温度23℃、相対湿度65%の雰囲気中で行った。フィルムの任意の5ヶ所を選び出して測定を行い、その平均値を採用した。
【0073】
(7)フィルムの厚みムラ
フィルムを50mmの幅で切り出し、アンリツ株式会社製「フィルムシネックス」にて測定圧0.15gの荷重にて1.5m/minの速度にて走行させながら厚みを連続的に測定し、長さ1mの範囲においてその厚みチャートから最大値と最小値の差として求めた。
【0074】
(8)フィルム幅方向の5mm幅の範囲での厚みの最大値と最小値の差の測定(フィルム表面のスジ)
上記(7)の測定において、幅方向について厚みチャートから幅方向の5mmの範囲での最大値と最小値の差を求め、以下の判定を行った。
【0075】
○:いずれの5mm幅においても最大値と最小値の差が0.05μm未満(スジは全く見られない)。
【0076】
△:いずれかの5mm幅において最大値と最小値の差が0.05μmより大きく0.1μm未満である箇所が存在するが、いずれの5mm幅においても最大値と最小値の差は0.1μm未満(薄いスジがごく一部見える)。
【0077】
×:いずれかの5mm幅において最大値と最小値の差が0.1μm以上である箇所が存在する(スジがはっきり見られる)。
【0078】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
(1)グルタル酸無水物単位を含有する共重合体(A−1−1)、(A−1−2)の製造
(A−1−1)
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、懸濁剤としてアクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体(重量比20/80、特公昭45−24151号公報実施例1記載)0.05重量部をイオン交換水165部に溶解した溶液を400rpmで攪拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質の反応系を攪拌しながら添加し、60℃に昇温し懸濁重合を開始した。
【0079】
メタクリル酸 50重量部
メタクリル酸メチル 50重量部
t−ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤) 0.3重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤) 0.4重量部
15分かけて反応温度を65℃まで昇温したのち、50分かけて100℃まで昇温した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行ない、ビーズ状のビニル系共重合体(原重合体(A−1−0))を得た。
【0080】
このビーズ状ビニル系共重合体(A−1−0)を、スクリュー径30mm、L/Dが25のベント付き同方向回転2軸押出機(池貝鉄工製 PCM−30)のホッパー口より供給して、樹脂温度250℃、スクリュー回転数100rpmで溶融押出し、ペレット状のグルタル酸無水物単位を含有する共重合体(A−1−1)を得た。得られた(A−1−1)について、DSCによるガラス転位温度(Tg)を測定した結果、173℃であった。H−NMRスペクトルを測定し、スペクトルの帰属を、0〜0.8ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、0.8〜1.6ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水、3.0ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、11.9ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素とした。スペクトルの積分比から各共重合単位の組成を計算した結果、下記のとおりであった。
【0081】
メタクリル酸単位:2.0重量%
メタクリル酸メチル単位:51.5重量%
グルタル酸無水物単位:46.5重量%
(A−1−2)
上記の(A−1−1)を再度、スクリュー径30mm、L/Dが25のベント付き同方向回転2軸押出機(池貝鉄工製 PCM−30)のホッパー口より供給して、樹脂温度250℃、スクリュー回転数100rpmで溶融押出し、ペレット状のグルタル無水物単位を含有する共重合体(A−1−2)を得た。この(A−1−2)のTgは176℃であった。また、H−NMRスペクトルの積分比より算出した、各共重合単位の組成は下記のとおりであった。
【0082】
メタクリル酸単位:0.1重量%
メタクリル酸メチル単位:50.0重量%
グルタル酸無水物単位:49.9重量%
(2)グルタル無水物単位を含有する共重合体(A−2−1)および(A−2−2)の製造
(A−2−1)
(A−1−0)と同様の方法で、モノマー組成をメタクリル酸20重量部、メタクリル酸メチル80重量部に変更してビーズ状のビニル系重合体(A−2−0)を得た。このビニル系共重合体を同様の方法で溶融混練し、ペレット状のグルタル酸無水物単位を含有する共重合体(A−2−1)を得た。この(A−2−1)のTgは141℃であった。また、H−NMRスペクトルの積分比より算出した、各共重合単位の組成は下記のとおりであった。
【0083】
メタクリル酸単位:1.3重量%
メタクリル酸メチル単位:81.0重量%
グルタル酸無水物単位:17.7重量%
(A−2−2)
上記の(A−2−1)を再度、スクリュー径30mm、L/Dが25のベント付き同方向回転2軸押出機(池貝鉄工製 PCM−30)のホッパー口より供給して、樹脂温度250℃、スクリュー回転数100rpmで溶融押出し、ペレット状のグルタル無水物単位を含有する共重合体(A−2−2)を得た。この(A−2−2)のTgは145℃であった。また、H−NMRスペクトルの積分比より算出した、各共重合単位の組成は下記のとおりであった。
【0084】
メタクリル酸単位:0.1重量%
メタクリル酸メチル単位:79.8重量%
グルタル酸無水物単位:20.1重量%
(3)グルタル無水物単位を含有する共重合体(A−3−1)の製造
(A−1−0)と同様の方法で、モノマー組成をメタクリル酸30重量部、メタクリル酸メチル70重量部に変更してビーズ状のビニル系重合体(A−3−0)を得た。このビニル系共重合体を同様の方法で溶融混練し、ペレット状のグルタル酸無水物単位を含有する共重合体(A−3−1)を得た。この(A−3−1)のTgは155℃であった。また、H−NMRスペクトルの積分比より算出した、各共重合単位の組成は下記のとおりであった。
【0085】
メタクリル酸単位:0.1重量%
メタクリル酸メチル単位:69.8重量%
グルタル酸無水物単位:30.1重量%
(4)エラストマー粒子(B)の製造方法
下記により得られたコアシェル重合体を用いた。
【0086】
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に脱イオン水120質量部、炭酸カリウム0.5質量部、スルフォコハク酸ジオクチル0.5質量部、過硫酸カリウム0.005質量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、アクリル酸ブチル53質量部、スチレン17質量部、メタクリル酸アリル(架橋剤)1質量部を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、コア層重合体を得た。次いで、メタクリル酸メチル21質量部、メタクリル酸9質量部、過硫酸カリウム0.005質量部の混合物を90分かけて連続的に添加し、更に90分間保持して、シェル層を重合させ、この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ−ダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、2層構造のアクリル弾性体粒子(B)を得た。電子顕微鏡で測定したこの重合体粒子の平均粒子径は155nmであった。
【0087】
(5)熱可塑性樹脂(A:A−1−1〜A−3−1)とエラストマー粒子(B)の混練方法
2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いてスクリュー回転数150rpm、シリンダ温度280℃で混練し、ペレット状の樹脂を得た。
【0088】
(6)製膜
(実施例1)
質量平均分子量が10万である上記熱可塑性樹脂組成物(A−1−1)とエラストマー粒子(B)を混練したペレットを80℃で8時間減圧乾燥後、ベント付φ65mm一軸押出機を使用して260℃で押し出し、ギヤポンプにより吐出量を一定とした後、25μmカットフィルターを用いて濾過し、ダイ直前において分流手段を設け、壁面と中心部の樹脂の分流量の割合を15/85重量%とし、リップ間隙0.6mmのフラットダイ(設定温度260℃)を介してシート状に吐出させた。その際に分流手段以降には圧力センサーなどは付けなかった。吐出後、表面仕上げ1Sのステンレス製冷却ロール(130℃)にシート状の溶融樹脂の両面を完全に密着させるようにして冷却した後、滞留時間の長い樹脂を含む端部を切断し、厚み100μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0089】
(実施例2〜6)
質量平均分子量、熱可塑性樹脂組成物、エラストマー粒子添加比率(重量%)、分流量の割合を変更した以外は実施例1と同様にして、表1、2に示す熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0090】
(実施例7、8)
分流手段に代えて、撹拌手段として、スタティックミキサーを用いた以外は実施例1と同様にして、表1,2に示す熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0091】
(実施例9)
分流手段とフラットダイの間に圧力センサーをフラットダイの幅方向に対して並行に取り付けた以外は実施例1と同様にして、表1、2に示す熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0092】
(実施例10)
分流手段とフラットダイの間に圧力センサーをフラットダイの幅方向に対して45度の角度で取り付けた以外は実施例1と同様にして、表1、2に示す熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0093】
(実施例11)
分流手段とフラットダイの間に圧力センサーをフラットダイの幅方向に対して50度の角度で取り付けた以外は実施例1と同様にして、表1、2に示す熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0094】
(比較例1)
実施例1において、分流手段や攪拌手段を用いることなく、リップ間隙0.6mmのフラットダイ(設定温度260℃)を介してシート状に吐出させた。吐出後、表面仕上げ1Sのステンレス製冷却ロール(130℃)にシート状の溶融樹脂の両面を完全に密着させるようにして冷却した後、厚み100μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0095】
(比較例2〜5)
熱可塑性樹脂組成物およびその分子量、エラストマー粒子添加比率(重量%)を変更した以外は比較例1と同様にして、表1、2に示す熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0096】
各熱可塑性樹脂フィルムの評価結果を表1に示した。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
表1の実施例、比較例より以下のことが明らかである。本発明の熱可塑性樹脂フィルムは分流手段や攪拌手段により滞留時間の長い樹脂の移動を行わないものと比較してフィルムの表面品位が向上している。上記の通り、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは透明性、耐熱性に優れるので、光学ディスク、ディスプレイ部材、光学レンズ、および液晶バックライト用導光板用の材料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融製膜法により得られる熱可塑性樹脂フィルムであって、破断伸度が任意の方向で30〜70%の範囲であり、波長590nmの光線に対するフィルムの厚み方向および面方向の位相差が絶対値で5nm以下であり、ヘイズ値が1.0%以下であり、厚みムラが±1.5μm/1m以下であり、フィルム厚みが5〜250μmであり、フィルム幅方向のいずれの5mm幅においてもその厚みの最大値と最小値の差が0.1μm未満である熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
フィルムのガラス転移温度が120℃以上である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
フィルムのb値が0.5以下である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
エラストマー粒子を5〜40重量%の範囲で含有している、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、および(ii)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を有する共重合体を含んでいる、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【化1】

(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【請求項6】
前記共重合体がさらに(iii)不飽和カルボン酸単位を有している、請求項5に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(i)を30〜95重量%、グルタル酸無水物単位(ii)を5〜60重量%、不飽和カルボン酸単位(iii)を0〜5重量%含有する(ただし、各単位(i)(ii)(iii)の合計は100重量%)、請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
不飽和カルボン酸単位(iii)の含有量が0〜1重量%である、請求項7に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
不飽和カルボン酸単位(iii)が、下記一般式(2)で表される構造を有する、請求項6〜8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【化2】

(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【請求項10】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(i)が、下記一般式(3)で表される構造を有する、請求項5〜9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【化3】

(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式の炭化水素基又は1個以上炭素数以下の数の水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式の炭化水素基を示す。)

【公開番号】特開2008−239740(P2008−239740A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80992(P2007−80992)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】