説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】優れた気体遮断性、低温耐久性および耐疲労性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】(I)酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)をエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(B)と溶融混練することによって、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(B)中に酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)が分散した第1の樹脂組成物を調製する工程と、(II)架橋可能なエラストマー(C)をポリアミド樹脂(D)と溶融混練しながら架橋させることによって、ポリアミド樹脂(D)中に架橋エラストマー粒子が分散した第2の樹脂組成物を調製する工程と、(III)第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物とを溶融混合する工程を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関し、より詳細には、優れた気体遮断性に加えて優れた低温耐久性および耐疲労性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法、並びに当該方法により製造された熱可塑性樹脂組成物および当該熱可塑性樹脂組成物から得られる製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、気体の透過を防止することが求められる用途(例えば、空気入りタイヤ、気体もしくは流体輸送用ホースなど)に使用される気体遮断性構造体の軽量化を図ることが求められている。例えば、空気入りタイヤの内圧を保持するためにタイヤ内面に気体透過防止層として配設されるインナーライナーには、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴム等のブチル系ゴムを主成分とするゴム組成物が使用されているが、ブチル系ゴムを主成分とするゴム組成物は気体遮断性が低いため、かかるゴム組成物を使用してインナーライナーを形成する場合には、インナーライナーの厚さを厚くする必要があった。そのため、ブチル系ゴムを主成分とするゴム組成物の使用は、自動車の燃費の向上を図るためにタイヤを軽量化する上で問題であった。
【0003】
空気入りタイヤの内圧保持性能の向上と軽量化を図るために、気体遮断性に優れることが知られているエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるフィルムを弾性表面層または接着層と積層したものをタイヤの内面に設けることが、例えば特許文献1並びに特許文献2に提案されている。しかしながら、空気入りタイヤ用のインナーライナーを構成する層としてEVOH層を用いた場合には、EVOHは空気入りタイヤに通常用いられているゴムに比べて弾性率が著しく高いため、EVOH層がタイヤ走行時に繰り返しの屈曲や引張変形を受けると、疲労によりEVOH層の気体遮断性が低下し、その結果、タイヤの内圧保持性能が低下するという問題があった。この問題を解決する手段として、特許文献3には、エチレン含有量20〜70モル%、ケン化度85%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体60〜99重量%及び疎水性可塑剤1〜40重量%からなる樹脂組成物を空気入りタイヤのインナーライナーに使用する技術が開示されている。更に、特許文献4には、エチレン含有量25〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体100重量部に対してエポキシ化合物1〜50重量部を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を空気入りタイヤのインナーライナーに使用する技術が開示されている。また、特許文献5には、上記エポキシ化合物により変性されたエチレン−ビニルアルコール共重合体からなるマトリックス中に、23℃におけるヤング率が当該変性エチレン−ビニルアルコール共重合体より小さい軟質樹脂を分散させた樹脂組成物からなる相を含むタイヤ用インナーライナーを使用する技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記の技術により得られる空気入りタイヤ用インナーライナーは、疲労後(タイヤ走行後)の内圧保持性能は十分でなく、耐疲労性をよりいっそう改善して疲労による気体遮断性の低下を低減することが依然として求められている。気体もしくは液体輸送用ホースにおいても、同様に、軽量化を図るとともに、疲労による気体遮断性の低下を低減することが求められている。さらに、EVOHは、特に低温で脆いという欠点があることも知られており、EVOHを配合した樹脂組成物において、EVOHの優れた気体遮断性を生かしつつ低温での耐久性を改善することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−314164号公報
【特許文献2】特開平6−40207号公報
【特許文献3】特開2002−52904号公報
【特許文献4】特開2004−176048号公報
【特許文献5】特開2008−24217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、優れた気体遮断性に加えて優れた低温耐久性および耐疲労性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、2種類の樹脂組成物、すなわち、酸無水物変性またはエポキシ変性ゴムをエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂中に分散させることにより得られた樹脂組成物と、架橋可能なエラストマーをポリアミド樹脂中で溶融混練しながら架橋(動的架橋)させることにより得られた樹脂組成物とを溶融混合することによって、優れた気体遮断性に加えて優れた低温耐久性を有し、しかも、疲労による気体遮断性の低下が低減された熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、
(I)酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)をエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(B)と溶融混練することによって、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(B)中に酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)が分散した第1の樹脂組成物を調製する工程と、
(II)架橋可能なエラストマー(C)をポリアミド樹脂(D)と溶融混練しながら架橋させることによって、ポリアミド樹脂(D)中に架橋エラストマー粒子が分散した第2の樹脂組成物を調製する工程と、
(III)第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物とを溶融混合する工程、
を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0009】
本発明によれば、さらに、かかる方法により得られる熱可塑性樹脂組成物、並びに当該熱可塑性樹脂組成物から製造される各種製品、例えば、当該熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤ、および当該熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムを気体遮断層に用いたホースが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、上記のとおり、第1および第2の樹脂組成物を別々に調製(工程(I)および(II))した後、得られた第1および第2の樹脂組成物を溶融混合(工程(III))するという2段階の混練・混合操作を行うことを特徴とする。このように2段階の混練・混合操作を行うことによって、1段階の混練・混合操作を行う従来の方法に比べ、より疲労前後の通気度変化率を抑えることが可能となった。
【0011】
工程(I)において第1の樹脂組成物の調製に使用される酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)は、ゴム分子の側鎖および/または末端に酸無水物基またはエポキシ含有基を有するゴムである。変性ゴム(A)に酸無水物基またはエポキシ含有基が存在することにより、変性ゴム(A)は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂(B)に対して相溶性を示し、変性ゴム(A)をEVOH樹脂(B)中に分散させることができる。変性ゴム(A)中に存在しうる酸無水物基の例としては、例えば無水マレイン酸基などのカルボン酸無水物基が挙げられ、エポキシ含有基の例としては、エポキシエチル基、グリシジル基、グリシジルエーテル基などが挙げられる。変性ゴム(A)は、公知の方法に従って調製でき、例えば、酸無水物基を有する変性ゴムは、例えば、酸無水物とペルオキシドをゴムと反応させることにより製造することができる。また、エポキシ基を有する変性ゴムは、例えば、グリシジルメタクリレートをゴムと共重合させることにより製造することができる。共重合比率は、限定するものではないが、ゴム100質量部に対し、グリシジルメタクリレート10〜50質量部である。変性ゴム(A)の好ましい例としては、エチレン−α−オレフィン共重合体およびそれらの誘導体の酸無水物変性物およびエポキシ変性物(例えば、エチレン−プロピレン共重合体の酸無水物変性物、エチレン−ブテン共重合体の酸無水物変性物)、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体およびそれらの誘導体の酸無水物変性物およびエポキシ変性物(例えば、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。上記変性ゴムのうちの1種を使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法において使用されるエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂(B)は公知の方法により調製でき、例えばエチレンと酢酸ビニルとを重合してエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を調製し、得られたEVAを加水分解することによって製造することができる。EVOH樹脂は、耐疲労性および溶融成形性の観点から、25〜50モル%のエチレン含有量を有することが好ましい。また、EVOH樹脂は、ガスバリア性および成形時の熱安定性の観点から、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上のケン化度を有する。EVOH樹脂の市販されているものの例としては、例えば日本合成化学株式会社製のソアノールH4815B(エチレン単位含有量:48モル%)、ソアノールH4412B(エチレン単位含有量:44モル%)、ソアノールE3808B(エチレン単位含有量:38モル%)およびソアノールD2908(エチレン単位含有量:29モル%)、株式会社クラレ製のEVAL−G156B(エチレン単位含有量:48モル%)、EVAL−E171B(エチレン単位含有量:44モル%)、EVAL−H171B(エチレン単位含有量:38モル%)、EVAL−F171B(エチレン単位含有量:32モル%)およびEVAL−L171B(エチレン単位含有量:27モル%)が挙げられる。1種のEVOH樹脂を使用しても、2種以上のEVOH樹脂を併用してもよい。
【0013】
変性ゴム(A)をEVOH樹脂(B)と溶融混練して変性ゴム(A)をEVOH樹脂(B)中に分散させることにより得られる第1の樹脂組成物では、分散相を構成している変性ゴム(A)に対して、熱可塑性であるEVOH樹脂(B)が連続相(マトリックス相)を構成しているために、第1の樹脂組成物は熱可塑性を示し、第1の樹脂組成物は通常の熱可塑性樹脂と同様に成形加工することが可能である。変性ゴム(A)の量は、EVOH樹脂(B)100質量部に対して、典型的には70〜180質量部、好ましくは75〜145質量部である。酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)の量が、EVOH樹脂(B)100質量部に対して70質量部未満であると、十分な耐久性を得ることができず、180質量部を超えると、変性ゴム(A)がEVOH樹脂(B)と共連続相を形成するか、あるいは、変性ゴム(A)が連続相を形成して、EVOH樹脂(B)が分散相を形成するため、得られる第1の樹脂組成物は熱可塑性を示さず、その後、第2の樹脂組成物と溶融混合することが困難になる。第1の樹脂組成物において、EVOH樹脂(B)中に分散された変性ゴム(A)は、典型的には、約1〜7μmの平均粒径を有する。
【0014】
第1の樹脂組成物には、上記変性ゴム(A)およびEVOH樹脂(B)に加えて、本発明の目的を損なわない範囲で、任意の添加剤、例えば相溶化剤、老化防止剤、架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、可塑剤、充填剤、着色剤、加工助剤を必要に応じて使用してもよい。例えば、第1の樹脂組成物に、架橋剤(または加硫剤)を加えることにより、低温耐久性をよりいっそう向上させることができる。第1の樹脂組成物の調製に使用される架橋剤(または加硫剤)の種類および配合量は、上記の変性ゴムの種類および動的架橋条件に応じて、当業者が適宜選択することができる。架橋剤の例としては、二つ以上のアミノ基を有する化合物、例えば2,2−ジチオジアニリン、4,4−ジチオジアニリン、2,2−ジアミノジフェニルエーテル、3,3−ジアミノジフェニルエーテル、4,4−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。架橋剤の配合量は、典型的には、変性ゴム(A)100質量部に対して0.1〜10質量部である。
【0015】
第1の樹脂組成物は、変性ゴム(A)、EVOH樹脂(B)および任意の添加剤を、例えばニーダー、バンバリーミキサー、一軸混練押出機、二軸混練押出機等の公知の混練機を使用して溶融混練することによって調製できるが、その生産性の高さから二軸混練押出機を使用して行うことが好ましい。混練条件は、使用される変性ゴム(A)、EVOH樹脂(B)、および任意の添加剤のタイプおよび配合量などに応じるが、溶融混練は、一般的には、約200〜約250℃の温度で約1分間〜約10分間行う。溶融混練温度の下限は、少なくともEVOH樹脂(B)の溶融温度以上であればよく、典型的には約140℃〜約250℃である。動的架橋時間(滞留時間)は、典型的には約30秒間〜約10分間である。
【0016】
第1の樹脂組成物とは別に、架橋可能なエラストマー(C)をポリアミド樹脂(D)と溶融混練しながら架橋(動的架橋)させることによって、ポリアミド樹脂(D)中に架橋エラストマー粒子が分散した第2の樹脂組成物を調製する(工程(II))。
【0017】
第2の樹脂組成物の調製に使用される架橋可能なエラストマー(C)の例としては、ジエン系ゴム及びその水添物(例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR)、オレフィン系ゴム(例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、含ハロゲンゴム(例えば臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR・CHC);クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM))、シリコンゴム(例えばメチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム)、含イオウゴム(例えばポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などの架橋可能なエラストマーが挙げられる。架橋可能なエラストマー(C)は上記の変性ゴム(A)と同じ種類のもの(すなわち同じ化学組成を有するもの)であっても、異なる種類のものであってもよい。上記の架橋可能なエラストマーのうちの1種を使用しても、2種以上を併用してもよい。架橋可能なエラストマー(C)は、加工性と耐久性の観点から、架橋可能なエラストマー(C)は、ハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化イソオレフィン−パラメチルスチレン共重合体およびこれらの組み合わせから成る群から選ばれることが好ましい。
【0018】
ポリアミド樹脂(D)の例としては、例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体が挙げられる。これらのポリアミド樹脂のうち、加工性と耐久性の観点から、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6が好ましく使用される。上記ポリアミド樹脂のうちの1種を使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
第2の樹脂組成物において、架橋可能なエラストマー(C)の量は、ポリアミド樹脂(D)100質量部に対して、典型的には70〜180質量部、好ましくは75〜145質量部である。架橋可能なエラストマー(C)の量が、ポリアミド樹脂(D)100質量部に対して70質量部未満であると、十分な耐久性を得ることができず、180質量部を超えると、架橋可能なエラストマー(C)がポリアミド樹脂(D)と共連続相を形成するか、あるいは、架橋可能なエラストマー(C)が連続相を形成して、ポリアミド樹脂(D)が分散相を形成するため、第2の樹脂組成物は熱可塑性を示さず、その後、第1の樹脂組成物と溶融混合することが困難になる。第2の樹脂組成物において、ポリアミド樹脂(D)中に分散された架橋エラストマー粒子は、典型的には、約1〜5μmの平均粒径を有する。
【0020】
第2の樹脂組成物は、架橋可能なエラストマー(C)およびポリアミド樹脂(D)を架橋剤および任意の添加剤の存在下で溶融混練しながら架橋可能なエラストマー(C)を架橋させることにより調製される。かかるプロセスは、当該技術分野で動的架橋法として知られており、架橋可能なエラストマーと熱可塑性であるポリアミド樹脂を架橋剤とともに、架橋剤による架橋が起こる温度以上で溶融混練するため、架橋可能なエラストマーを架橋させ、しかも架橋可能なエラストマーをポリアミド樹脂中に微細に分散させることができる。第2の樹脂組成物では、連続相を構成するポリアミド樹脂中に、架橋可能なエラストマー(C)に由来する架橋エラストマー粒子が微細に分散して存在するため、通常の熱可塑性樹脂と同様に成形加工することが可能である。架橋エラストマー粒子は、典型的には、約1〜5μmの平均粒径を有する。第2の樹脂組成物の調製は、第1の樹脂組成物について先に記載したのと同様に、ニーダー、バンバリーミキサー、一軸混練押出機、二軸混練押出機等の公知の混練機を使用して行うことができるが、その生産性の高さから二軸混練押出機を使用して行うことが好ましい。動的架橋の温度の下限は、少なくともポリアミド樹脂(C)の溶融温度以上かつ架橋可能なエラストマー(C)の架橋可能温度以上であればよく、動的架橋の温度は典型的には約200℃〜約250℃である。動的架橋時間(滞留時間)は典型的には約30秒間〜約10分間である。
【0021】
第2の樹脂組成物の調製に使用される架橋剤(または加硫剤)の種類および配合量は、上記の架橋可能なエラストマーの種類および動的架橋条件に応じて、当業者が適宜選択することができる。架橋剤の例としては、酸化亜鉛、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、硫黄、有機過酸化物架橋剤、2つ以上のアミノ基を有する化合物が挙げられる。架橋剤の配合量は、典型的には、架橋可能なエラストマー(C)100質量部に対して0.1〜10質量部である。さらに、第2の樹脂組成物において、ポリアミド樹脂(D)に対する架橋可能なエラストマー(C)の相溶性を高めるために、例えば無水マレイン酸変性エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンプロピレン共重合体、エチレンブテン共重合体、エチレンヘキセン共重合体およびエチレンオクテン共重合体の無水マレイン化物などの変性ポリオレフィンを相溶化剤としてポリアミド樹脂(D)と架橋可能なエラストマー(C)とナイロン樹脂(B)の混練時に配合してもよい。かかる変性ポリオレフィンの配合量には特に制限はないが、架橋可能なエラストマー(C)の総質量を基準として典型的には2〜20質量%である。
【0022】
第2の樹脂組成物の調製には、上記の架橋可能なエラストマー(C)、ポリアミド樹脂(D)および架橋剤に加えて、本発明の目的を損なわない範囲で、任意の添加剤、例えば相溶化剤、老化防止剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、可塑剤、充填剤、着色剤、加工助剤を必要に応じて使用してもよい。
【0023】
上記のように別々に調製された第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物とを溶融混合することにより本発明の熱可塑性樹脂組成物が得られる。第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物とを、典型的には、質量比で約90:10〜約10:90、好ましくは質量比で約80:20〜約20:80で溶融混合する。より好ましくは、変性ゴム(A)と架橋可能なエラストマー(C)の質量比が約90:10〜約10:90、さらに好ましくは約70:30〜約30:70になるように第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物とを溶融混合する。第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物との溶融混練は、ニーダー、バンバリーミキサー、一軸混練押出機、二軸混練押出機等の公知の混練機を使用して行うことができるが、その生産性の高さから二軸混練押出機を使用して行うことが好ましい。第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物とが溶融混合しやすいように、第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物とを溶融混合する前に、第1の樹脂組成物および第2の樹脂組成物をそれぞれペレット状、顆粒状等の形状に成形することが好ましい。第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物との溶融混合は、使用されるEVOH樹脂(B)、酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)、ポリアミド樹脂(D)および架橋可能なエラストマー(C)の種類および量に応じるが、一般的には、第1の樹脂組成物を構成するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の溶融温度以上、かつ、第2の樹脂組成物を構成するポリアミド樹脂(E)の溶融温度以上であればよく、典型的には約200℃〜約250℃の温度で約30秒間〜約5分間の時間(滞留時間)で行う。
【0024】
上記のように溶融混練した熱可塑性樹脂組成物は、次に、溶融状態で二軸混練押出機の吐出口に取り付けられたダイから通常の方法によりフィルム状、シート状またはチューブ状等の形状に押し出すか、あるいは、ストランド状に押し出し、樹脂用ペレタイザーで一旦ペレット化した後、得られたペレットを、インフレーション成形、カレンダー成形、押出成形などの通常の樹脂成形法により、用途に応じてフィルム状、シート状またはチューブ状の所望の形状に成形することができる。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、様々な用途に使用でき、例えば、空気入りタイヤ、気体もしくは流体輸送用ホースなどの用途に使用できる。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、優れた気体遮断性に加えて優れた低温耐久性および耐疲労性を示すため、空気入りタイヤのインナーライナー、ホースなどの用途に好適に使用できる。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤの製造方法としては、慣用の方法を用いることができる。例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物を所定の幅と厚さを有するフィルムに成形し、それをタイヤ成型用ドラム上に円筒状に貼り着け、その上にカーカス層、ベルト層、トレッド層等のタイヤ部材を順次貼り重ね、タイヤ成型用ドラムからグリーンタイヤを取り外す。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加硫することにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをインナーライナーに用いた所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムを気体遮断層に用いたホースの製造方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、本発明の熱可塑性樹脂組成物を、予め離型剤を塗布したマンドレル上に、押出機によりクロスヘッド押出方式で押出し、内管を形成した後、内管上に、編組機を使用して補強糸もしくは補強鋼線を編組して補強層を形成し、この補強層上にさらに熱可塑性樹脂を押出して外管を形成する。内管と補強層の間および補強層の外管の間に、必要に応じて他の熱可塑性樹脂および/または接着剤の層を設けてもよい。最後にマンドレルを引き抜くと、ホースが得られる。
【実施例】
【0028】
以下に示す実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0029】
比較例1〜7
表1に示す原料を、二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)の原料供給口からシリンダー内に導入し、温度230℃および滞留時間2分間に設定された混練ゾーンに搬送して溶融混練し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0030】
実施例1〜7
(1)第1の樹脂組成物の調製:
表2に示す変性ゴム、EVOH樹脂及び架橋剤を、比較例1〜7と同様に二軸混練押出機を使用して溶融混練(混練ゾーンの温度:230℃、滞留時間:約2分間)し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押出し、得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、第1の樹脂組成物のペレットを得た。
(2)第2の樹脂組成物の調製:
表2に示す架橋可能なエラストマー、ポリアミド樹脂、相溶化剤、酸化亜鉛、ステアリン酸およびステアリン酸亜鉛を、比較例1〜7と同様に二軸混練押出機を使用して溶融混練(混練ゾーンの温度:230℃、滞留時間:約2分間)し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押出し、得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、第2の樹脂組成物のペレットを得た。
(3)第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物の溶融混合:
上記のように得られた第1および第2の樹脂組成物のペレットを二軸混練押出機(株式会社日本製鋼製)の原料供給口からシリンダー内に導入し、温度230℃および滞留時間約2分間に設定された混練ゾーンに搬送して溶融混練し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0031】
上記の比較例1〜7および実施例1〜7の熱可塑性樹脂組成物の特性を下記の試験法により評価した。
(1)低温耐久性
ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、熱可塑性エラストマーの融点より20℃高い温度設定とした一定の条件で押し出し、平均厚み1mmのシートに成形した。次いでJIS3号ダンベル形状の試験片を打ち抜き、得られた試験片に−35℃で伸張率40%で繰り返し伸張させた。5回の測定を行い、破断した回数の平均値を算出した。
(2)耐疲労性
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物から下記(a)に示すようにフィルムを作製し、下記(b)に示すように通気度の変化率を求めることによって耐疲労性を評価した。
(a)通気度測定用フィルムの作製
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、400mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、押出温度C1/C2/C3/C4/ダイ=200/210/230/235/235℃、冷却ロール温度50℃、引き取り速度3m/分の押出条件で、平均厚み0.15mmのフィルムに成形した。次に、このフィルムを長さ20cmおよび幅20cmの寸法に切断し、150℃で3時間以上乾燥させた。次に、表3に示す配合において、加硫剤以外の原料を1.7リットルのバンバリーミキサーにて、設定温度70℃にて5分間混練してマスターバッチを得た後、8インチロールで加硫剤を混練し、0.5mm厚のフィルムに成形した。得られた未加硫ゴム組成物フィルムを、上記の乾燥させた熱可塑性樹脂組成物フィルムと積層し、180℃で10分間加硫させた。得られた積層体を切断して、長さ11cmおよび幅11cmの試験片を作製した。
(b)疲労後の通気度変化率
上記のようにして作製された試験片について、JIS K7126−1「プラスチックフィルムおよびシートの気体透過度試験方法(差圧法)」に準じて、試験気体として空気を用い、試験温度30℃で熱可塑性樹脂組成物フィルムの通気度(疲労前の通気度)を測定した。次に、試験片を、室温で伸張率20%および毎分400回の条件のもとで100万回繰り返し伸張させることにより疲労させた。疲労後の試験片について、疲労前の熱可塑性樹脂組成物フィルムの通気度と同様に熱可塑性樹脂組成物フィルムの通気度を測定し、疲労後の熱可塑性樹脂組成物フィルムの通気度を疲労前の熱可塑性樹脂組成物フィルムの通気度に対する百分率(%)で表した。
試験結果を下記表1および2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表1および表2脚注:
(1)無水マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム(三井化学(株)製のタフマーMH7020)
(2)臭素化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体(エクソンモービルケミカル社製のExxpro MDX89−4)
(3)エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学工業株式会社製のH4815B)
(4)ナイロン6/66共重合体(宇部興産(株)製の5013B)
(5)マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(三井デュポンポリケミカル(株)製のHPR AR201)
(6)3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(小西化学工業株式会社製)
(7)トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(日星産業株式会社製のタナック)
(8)正同化学(株)製の亜鉛華3号
(9)日本油脂(株)製のビーズステアリン酸
(10)堺化学工業(株)製
【0035】
【表3】

【0036】
表1および2の試験結果を比較することにより、本発明に従って調製された熱可塑性樹脂組成物が優れた気体遮断性に加えて優れた低温耐久性および耐疲労性を示すことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)をエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(B)と溶融混練することによって、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(B)中に酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)が分散した第1の樹脂組成物を調製する工程と、
(II)架橋可能なエラストマー(C)をポリアミド樹脂(D)と溶融混練しながら架橋させることによって、ポリアミド樹脂(D)中に架橋エラストマー粒子が分散した第2の樹脂組成物を調製する工程と、
(III)第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物とを溶融混合する工程、
を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)が、エチレン−α−オレフィン共重合体およびそれらの誘導体の酸無水物変性物およびエポキシ変性物、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体およびそれらの誘導体の酸無水物変性物およびエポキシ変性物、並びにこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
架橋可能なエラストマー(C)が、ハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体およびこれらの組み合わせから成る群から選ばれる、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
ポリアミド樹脂(D)が、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6およびこれらの組み合わせから成る群から選ばれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂組成物中に含まれる酸無水物変性またはエポキシ変性ゴム(A)の量が、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(B)100質量部に対して70〜180質量部である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂組成物中に含まれる架橋可能なエラストマー(C)の量が、ポリアミド樹脂(D)100質量部に対して70〜180質量部である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物とを質量比90:10〜10:90で溶融混合する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法により製造される熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤ。
【請求項10】
請求項8に記載の熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムを気体遮断層に用いたホース。

【公開番号】特開2012−57127(P2012−57127A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204312(P2010−204312)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【特許番号】特許第4862954号(P4862954)
【特許公報発行日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】