説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】 機械的性質が良い成形体が得られる熱可塑性樹脂組成物の提供、
【解決手段】 (A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、(B)セルロース繊維3〜300質量部と、(C)ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維から選ばれる1種以上の有機繊維1〜300質量部を含有する、熱可塑性樹脂組成物。セルロース繊維(B)と、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維から選ばれる1種以上の有機繊維(C)との配合比(B/C,質量比)が、1/10〜30/1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度の高い成形体が得られる熱可塑性樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体の機械的強度を高めるため、ガラス繊維等の無機繊維を配合したものが汎用されている(特許文献1〜4)。しかし、無機繊維が配合された樹脂成形体は、焼却時に無機繊維に由来する残渣が発生して、この残渣を埋め立て処理等する必要があるため、無機繊維を使用しない樹脂成形体が求められている。
【特許文献1】特開平7−80834号公報
【特許文献2】特開平8−207068号公報
【特許文献3】特開2003−245967号公報
【特許文献4】特公平3−52342号公報
【特許文献5】特開平7−329232号公報
【特許文献6】特開2005−60689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献5、6の発明では無機繊維を使用していない。しかし、特許文献5の発明では、熱可塑性樹脂発泡体の一面に植物繊維補強熱可塑性シートを貼り付けたものが開示されており、製造工程が煩雑であり、機械的強度も充分ではない。また、特許文献6の発明では、植物資源由来の樹脂や天然由来の有機充填材を配合した樹脂組成物の発泡体が開示されているが、製造工程が煩雑であり、機械的強度も充分ではない。
【0004】
本発明は、無機繊維を含有しておらず、機械的強度の高い成形体が得られる、熱可塑性樹脂組成物及びその成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、課題の解決手段として、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、(B)セルロース繊維3〜300質量部と、(C)ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維から選ばれる1種以上の有機繊維1〜300質量部を含有する、熱可塑性樹脂組成物、及びその成形体を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体は、機械的強度が良好であり、特に曲げ弾性率とシャルピー衝撃強さの両方が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<(A)成分>
(A)成分の熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂(好ましくはポリプロピレン)、スチレン系樹脂(ホモポリマー、AS樹脂、HIPS等)、ゴム含有スチレン系樹脂(ABS樹脂、AES樹脂、ABSM樹脂、AAS樹脂等)、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610等)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、非結晶(透明)ナイロン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等を挙げることができ、これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0008】
また、これらの重合体を主体とする共重合体若しくは混合物、これらにゴム又はゴム状樹脂等のエラストマーを配合した熱可塑性樹脂、及びこれらの樹脂を10質量%以上含有するポリマーアロイ等も挙げることができる。
【0009】
<(B)成分>
(B)成分のセルロース繊維としては、麻繊維、竹繊維、綿繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナツ繊維等を挙げることができる。セルロース繊維は、熱安定性が高い点から、αセルロース含有量が高いものが好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0010】
セルロース繊維の平均繊維径は、0.1〜1000μmが好ましく、1〜500μmがより好ましく、5〜200μmが更に好ましく、10〜50μmが特に好ましい。
【0011】
セルロース繊維の平均繊維長さは、0.01〜100mmが好ましく、0.01〜50mmがより好ましく、0.1〜10mmが更に好ましく、0.1〜5mmが特に好ましい。
【0012】
セルロース繊維のアスペクト比(長さ/径)は、2〜1000が好ましく、3〜500がより好ましく、5〜200が更に好ましく、5〜100が特に好ましい。
【0013】
セルロース繊維は、カップリング剤(アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基、グリシジル基等の官能基を有するシランカップリング剤)で表面処理されていてもよい。
【0014】
<(C)成分>
(C)成分の有機繊維は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維から選ばれる1種以上のものであるが、セルロース繊維や全芳香族ポリアミド繊維(例えば、アラミド繊維)は含まれない。
【0015】
有機繊維の平均繊維径は、0.1〜1000μmが好ましく、1〜500μmがより好ましく、5〜200μmが更に好ましく、10〜50μmが特に好ましい。
【0016】
有機繊維の平均繊維長さは、0.1〜100mmが好ましく、0.1〜50mmがより好ましく、0.1〜20mmが更に好ましく、0.1〜10mmが特に好ましい。
【0017】
有機繊維のアスペクト比(長さ/径)は、2〜1000が好ましく、3〜500がより好ましく、5〜500が更に好ましく、10〜500が特に好ましい。
【0018】
有機繊維は、カップリング剤(アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基、グリシジル基等の官能基を有するシランカップリング剤)で表面処理されていてもよい。
【0019】
<(A)〜(C)成分の含有量>
(A)成分の熱可塑性樹脂100質量部に対する(B)成分及び(C)成分の含有量は、次のとおりである。
【0020】
(B)成分のセルロース繊維の含有量は、成形体の機械的強度を高めるため、3〜300質量部が好ましく、5〜200質量部がより好ましく、10〜150質量部が更に好ましい。
【0021】
(C)成分の有機繊維の含有量は、成形体の機械的強度を高めるため、1〜300質量部が好ましく、3〜200質量部がより好ましく、5〜100質量部が更に好ましい。
【0022】
(B)成分のセルロース繊維と(C)成分の有機繊維の含有割合(B/C,質量比)は、成形体の機械的強度を高めるため、1/10〜30/1が好ましく、1/5〜20/1がより好ましく、1/3〜10/1が更に好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、有機顔料、染料、分散剤、安定剤、可塑剤、改質剤、紫外線吸収剤又は光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、結晶促進剤、結晶核剤等を配合することができる。なお、本発明の課題を解決する観点から、無機繊維、金属繊維、無機顔料は配合しないことが好ましいが、熱可塑性樹脂組成物の用途に応じて、少量を配合してもよい。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、(A)成分の熱可塑性樹脂、(B)成分のセルロース繊維及び(C)成分の有機繊維、必要に応じて他の添加剤をミキサー等の公知の混合手段を用いて混合して熱可塑性樹脂組成物を得た後、公知の樹脂成形法(押出成形、射出成形等)を適用して製造することができる。また、本発明の熱可塑性樹脂成形体は、発泡体にしてもよい。
【0025】
なお、(B)成分のセルロース繊維は、解繊した上で、(A)成分の熱可塑性樹脂と(C)成分の有機繊維に分散させることが好ましい。このような解繊を用いた方法の具体例としては、下記の方法1と方法2を挙げることができる。
【0026】
(方法1)
(A)成分の熱可塑性樹脂、(B)成分のセルロース繊維、(C)成分の有機繊維を上記比率範囲で使用し(望ましくは予め予備混合する)、これらをヘンシェルミキサー(例えば、三井鉱山社製、ヒーター付き)に投入し、攪拌しながら加温する。このときの条件は次のとおりである。
【0027】
混合槽容量20Lのミキサー内に、A)成分の熱可塑性樹脂、(B)成分のセルロース繊維、(C)成分の有機繊維の合計1000〜3000gを投入し、使用した樹脂の溶融温度近傍にて、周速10〜50m/secで、10〜30分間混練する。
【0028】
(方法2)
A)成分の熱可塑性樹脂、(B)成分のセルロース繊維、(C)成分の有機繊維を予備混合したもの50kgを、2軸高混練型押出機〔例えば、シーティーイー社製,HTM65,スクリュー径65mm、ホットカット(水中)カット付き〕に投入し、使用した樹脂の溶融温度近傍にて、スクリュー回転数200〜800r/mで溶融混練する。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、曲げ弾性率(実施例に記載の方法で測定されたもの)が2000MPa以上のものが好ましく、2200MPa以上のものがより好ましく、2300MPa以上のものが更に好ましい。
【0030】
また、本発明の熱可塑性樹脂成形体は、シャルピー衝撃強さ(実施例に記載の方法で測定されたもの)が4kJ/m以上のものが好ましく、5kJ/m以上のものがより好ましく、6kJ/m以上のものが更に好ましい。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、電気・電子部品の梱包材料、建築資材(壁材等)、土木資材、農業資材、自動車部品(内装材、外装材)、包装資材(容器、緩衝材等)、生活資材(日用品等)に適用することができる。
【実施例】
【0032】
実施例1〜5、比較例1〜4
表1に示す各成分を用い、上記の方法1により、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0033】
(表1の成分)
(A)成分
PP1:ポリプロピレン,サンアロマー(株)製のPMB60A
PP2:ポリプロピレン,三井化学(株)製のJ139
(B)成分
セルロース繊維:日本製紙(株)製のパルプNDP−T,平均繊維径約30μm、平均繊維長さ約2mm,アスペクト比約70,αセルロース含有量90%
(C)成分
ポリエステル繊維1:中部パイル工業所製のテトロンカットファイバー,平均繊維径約14μm,平均繊維長さ約5mm,アスペクト比約360
ポリエステル繊維2:International Fiber Corporation製のポリエステルフロック125WPF,平均繊維径約20μm,平均繊維長さ約2.5mm,アスペクト比約125
(その他)
ガラス繊維:日本電気硝子(株)製のECS03T−129
MPP:酸変性ポリプロピレン,三洋化成工業(株)製のユーメックス1010
(試験方法)
(1)曲げ強さ(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
【0034】
(2)曲げ弾性率(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
【0035】
(3)シャルピー衝撃強さ(kJ/m
179/1eAに準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
【0036】
(4)熱変形温度(℃)
ISO75に準拠して、荷重1.8MPaで測定した。
【0037】
(5)燃焼残渣
熱可塑性樹脂のペレット3gを800℃のオーブン中に5分間入れ、燃焼させた。燃焼残渣がある場合には回収して、初期質量に対する燃焼残渣の割合(質量%)を求めた。燃焼残渣がない場合には0%となる。
【0038】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、(B)セルロース繊維3〜300質量部と、(C)ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維から選ばれる1種以上の有機繊維1〜300質量部を含有する、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
セルロース繊維(B)と、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維から選ばれる1種以上の有機繊維(C)との配合比(B/C,質量比)が、1/10〜30/1である、請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
セルロース繊維の平均繊維長さが0.01〜100mmで、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維から選ばれる1種以上の有機繊維の平均繊維長さが0.1〜100mmである、請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体であり、曲げ弾性率が2000MPa以上で、シャルピー衝撃強さが4kJ/m以上である、熱可塑性樹脂成形体。




【公開番号】特開2007−56202(P2007−56202A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245772(P2005−245772)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】