説明

熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法および製造装置

【課題】簡単な構成で高転写率の熱可塑性樹脂製エンボスシートを製造する。
【解決手段】溶融状態の熱可塑性樹脂シート11を、周面にエンボスパターンを有した第3ロール16と金属製エンドレスベルト15との間に導入し、金属製エンドレスベルト15の第一の温度制御手段30Aにより熱可塑性樹脂シート11片面側から冷却した後、第3ロール16と第4ロール19間に加わる線圧にて熱可塑性樹脂シート11にエンボスパターンを転写させる。その後、金属エンドレスベルト15の第二の温度制御手段30Bにより転写後の熱可塑性樹脂シート11を金属製エンドレスベルト15および第3ロール16から剥離させ、反り矯正ロール17にて反りを矯正し、熱可塑性樹脂製エンボスシート21を得る。エンボスパターンを転写する熱可塑性樹脂シート11が比較的に肉厚でも、バンク不良などの外観不良を生じることなくエンボスパターンを高転写率で効率よく形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂シートの表面にエンボスパターンを設ける熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光拡散シートとして、無機系微粒子や有機ポリマー微粒子を配合したものが知られている。
ところで、画像表示装置では、高解像度の画質が要求されている。このような画像表示装置で用いられる光拡散シートでは、光拡散状態が画質に影響を及ぼすことから、従来の微粒子を用いる構成に比して、微細な構造のプリズム効果を呈するパターンを有した光拡散シートが望まれている。
このようなパターンを有するシートとして、各種の構成が知られている(特許文献1〜5参照)。
【0003】
特許文献1に記載のものは、複数のステンレス板が連結され構成されたエンドレスベルトを外周面が互いに対向する状態に一対配設している。一方のエンドレスベルトの外周面には、微細な畝状模様の逆型を設け、一対のエンドレスベルト間にフィルムを搬送して畝状模様を転写する構成が採られている。
しかしながら、この特許文献1に記載の構成では、逆型を表面に有しステンレス板を連結した一対のエンドレスベルト間で押圧成形するので、設備が大型で比較的に広い設置空間を必要とし、設置に制約を要するとともに、エンドレスベルトの耐久性の向上も望まれている。
【0004】
特許文献2に記載のものは、シングルベルト方式のダイレクト製膜方法で、エンボスパターンを外周面に有した第3ロールと、外周面に弾性材料を被覆した第1ロールに掛け渡された金属製エンドレスベルトとの間に、熱可塑性樹脂シートを第1ロールの弾性材料を弾性変形しつつ搬送させ、第3ロールのエンボスパターンを転写する構成が採られている。
しなしながら、この特許文献2に記載の構成では、熱可塑性樹脂シートがある程度厚くなると、バンク不良が発生するおそれがあり、バンク不良が生じないように転写時の面圧を弱くすると転写が不十分となるおそれがあり、ある程度の厚さでも歩留まりよく製造できることが望まれている。
【0005】
特許文献3に記載のものは、表面にエンボス加工用の凹凸形状が設けられた固定ロールと金属ベルトとの間に、溶融状態の熱可塑性樹脂を挾圧してエンボスパターンを転写し、厚さ50〜130μmのエンボスシートを成形する構成が採られている。
しかしながら、この特許文献3に記載の構成では、比較的に薄いシートを成形するものであり、ある程度の厚さのエンボスシートでも成形できる構成が望まれている。
【0006】
特許文献4に記載のものは、溶融状態の膜状の樹脂を、エンボスロールと無端金属ベルトとの間に搬送して面圧を掛けるとともに、エンボスロールと引き取りロールとにより挾圧して線圧を掛ける。このようにして、樹脂を冷却するとともにエンボス形状を転写する構成が採られている。
しかしながら、この特許文献4に記載の構成では、高転写率を得るために線圧を高くすると、バンク不良が生じるおそれがあり、比較的に厚いシートでも良好に製造する構成が望まれる。
【0007】
特許文献5に記載のものは、外周面に転写用の陰刻を有した彫刻ロールと、この彫刻ロールの外周面の一部に円弧状に当接回転する無端ベルト状の圧着ドラムとの間に、原反シートを挾圧しつつ搬送し、陰刻を転写型付けする構成が採られている。
しかしながら、この特許文献5に記載のものは、オフラインで転写する構成であり、製造効率の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−157310号公報
【特許文献2】特開平9−295346号公報
【特許文献3】特開2007−245700号公報
【特許文献4】特開平9−164592号公報
【特許文献5】特開平9−141739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、上記従来の樹脂シートにパターン転写する構成では、比較的に厚いシートでも簡単な構成で高転写率が得られる構成が望まれている。
本発明は、このような点に鑑み、効率よく高転写率が得られる熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に記載の熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法は、周面に金属製のベルトが掛け渡された第1ロールおよび第2ロールと、周面にエンボスパターンが形成され、当該周面が前記第1ロールの周面に前記ベルトを介して対向配置された第3ロールと、周面が前記第3ロールの周面に前記ベルトを介して対向配置された第4ロールと、前記第3ロールおよび前記第4ロール間に加わる線圧を制御する線圧制御手段と、前記ベルトの表面温度を制御するベルト温度制御手段と、を備えた製造装置を用い、溶融状態の熱可塑性樹脂シートを、前記第1ロールおよび第3ロール間を通過させた後に前記第3ロールおよび前記第4ロール間を通過させて、前記熱可塑性樹脂シートにエンボスパターンを転写して熱可塑性樹脂製エンボスシートを製造する熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法であって、前記線圧を加える前の前記ベルトの表面温度を制御した後、前記第3ロールおよび前記第4ロール間に加わる線圧により、前記熱可塑性樹脂シートにエンボスパターンを転写形成することを特徴とする。
【0011】
そして、本発明では、前記線圧を加える前の前記ベルトの表面温度を、(Tg−20)℃以下に制御する構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記線圧を加えた後の前記ベルトの表面温度をさらに制御する構成とすることが好ましい。
さらに、本発明では、前記線圧を加えた後の前記ベルトの表面温度を、(Tg−30)℃以下に制御する構成とすることが好ましい。
そして、本発明では、前記第3ロールの表面温度を、(Tg−20)℃以上(Tg+30)℃以下に制御する構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記第3ロールおよび前記第4ロール間に加わる線圧を、50kg/cm以上250kg/cm以下に制御する構成とすることが好ましい。
そして、本発明では、前記エンボスパターンが転写された前記熱可塑性樹脂製エンボスシートを、前記ベルトから剥離させた後、反り矯正ロールに掛け渡して搬送する構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記反り矯正ロールの表面温度を、(Tg−30)℃以上(Tg+10)℃以下に制御する構成とすることが好ましい。
【0012】
本発明に記載の熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造装置は、周面に金属製のベルトが掛け渡された第1ロールおよび第2ロールと、周面にエンボスパターンが形成され、当該周面が前記第1ロールの周面に前記ベルトを介して対向配置された第3ロールと、周面が前記第3ロールの周面に前記ベルトを介して対向配置された第4ロールと、前記第3ロールおよび前記第4ロール間に加わる線圧を制御する線圧制御手段と、少なくとも前記第3ロールおよび前記第4ロール間に線圧が加わる前の前記ベルトの表面温度を制御するベルト温度制御手段と、を備え、前記第1ロールおよび前記第3ロール間を通過して搬送された溶融状態の熱可塑性樹脂シートに、前記第3ロールおよび前記第4ロール間に加わる線圧でエンボスパターンを転写形成することを特徴とする。
【0013】
そして、本発明では、前記ベルト温度制御手段は、前記線圧を加えた後の前記ベルトの表面温度をさらに制御する構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第3ロールおよび第4ロール間に線圧が加わる前のベルトの表面温度を制御して、熱可塑性樹脂シートの第3ロールの接触面とは反対側の面を冷却固化させた後にエンボスパターンを転写することで、エンボスパターンを転写する熱可塑性樹脂シートが比較的肉厚でも、バンク不良などの外観不良を生じることなく、エンボスパターンを高転写率で効率よく転写形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂製エンボスシートを製造する製造装置を示す一部を切り欠いた概略図である。
【図2】本発明を説明するための参考例の製造装置を示す一部を切り欠いた概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明における熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態では、表面にエンボスパターンを転写する熱可塑性樹脂シート11として、転写面層と基材層からなる2層のシート構成を例示するが、2層に限られるものではなく、単層や多層でも適用できる。
【0017】
[製造装置の構成]
図1において、100は製造装置で、この製造装置100は、熱可塑性樹脂シート11にエンボスパターンを転写形成して、熱可塑性樹脂製エンボスシート21を、ダイレクト製膜するシングルベルト方式の装置である。
そして、製造装置100は、押出機のTダイ12と、第1ロール13、第2ロール14および補助ロール18とに巻装された金属製エンドレスベルト15と、この金属製エンドレスベルト15を介して第1ロール13と接触するエンボスパターン形成用の第3ロール16と、第3ロール16の近傍に設けられた反り矯正ロール17と、第3ロール16の周面に熱可塑性樹脂シート11および金属製エンドレスベルト15を介して接触し、第3ロール16との間に線圧を加える第4ロール19と、複数の搬送ロール20と、図示しない線圧制御手段と、温度制御手段30と、を備えて構成されている。
【0018】
第1ロール13は、金属ロールであっても、その表面にシリコーンゴム等の弾性材25が被覆されていてもよい。
【0019】
金属製エンドレスベルト15は、例えばステンレス等よりなる。
金属製エンドレスベルト15は、厚さは任意であるが、例えば0.1mm〜1.5mmが好ましい。すなわち、0.1mmより薄いと、強度が弱くなり、耐久性が悪化する。1.5mmより厚いと、金属製エンドレスベルト15が巻装されている、第1ロール13、第2ロール14および補助ロール18の径を大きくする必要があり、装置が大型化する。また、加熱、冷却の効率が悪くなって、製造コストが上昇する。これらのことから、厚さ寸法を0.1mm〜1.5mmに設定することが好ましい。
そして、第1ロール13、第2ロール14および補助ロール18の少なくともいずれか1つは、その回転軸が回転駆動手段(図示せず)と連結され、金属製エンドレスベルト15を回行移動させる。
【0020】
エンボスパターン形成用の第3ロール16は、その外周面にエンボスパターンを形成するための型32が形成されている。この型32は、例えば、150μmピッチ、頂角90°、深さ75μmの三角柱に対応した凹凸形状である。
そして、この第3ロール16は、その外周面の一部に金属製エンドレスベルト15を抱き込むように、第1ロール13と第2ロール14との間の金属製エンドレスベルト15が内側に窪む位置に配置されている。すなわち、熱可塑性樹脂製エンボスシート21の製造時において、第1ロール13と第2ロール14との間の金属製エンドレスベルト15を、第3ロール16の外周面の一部に巻き付くように蛇行させている。
第3ロール16は、表面温度が、(Tg−20)℃以上(Tg+30)℃以下に制御されていることが好ましい。
すなわち、(Tg−20)℃より低くなるとエンボスパターンが転写される側の樹脂の流動性が低くなって高転写率が得られなくなるおそれがあり、(Tg+30)℃より高くなると第3ロール16からの剥離に支障が出るおそれがあるためである。
なお、温度制御する具体的な構成としては、内部に流体などが流通可能に構成し、流体の流通により表面温度を制御する構成などを適用するとよい。
【0021】
第4ロール19は、熱可塑性樹脂シート11を、金属製エンドレスベルト15の裏面側からエンボスパターン形成用の第3ロール16に対して押圧するように配置されている。
この第4ロール19には、図示しない線圧制御手段が設けられている。この線圧制御手段は、第4ロール19を押圧する圧力を制御するものである。
線圧制御手段は、例えば油圧式や空圧式などの第4ロール19を軸支するシリンダーを有し、シリンダーの制御により第4ロール19を押圧する。
第4ロール19の押圧条件は、線圧で50kg/cm以上250kg/cm以下であることが好ましい。
すなわち、線圧が50kg/cmより低くなると十分に転写されずに高転写率が得られなくなるおそれがあり、線圧が250kg/cmより高くなると第4ロール19の撓みなどを考慮する必要があり設備が大型化するおそれがあるためである。
【0022】
温度制御手段30は、第3ロール16と第4ロール19との接触面よりもシート搬送方向上流側に設けられた第一の温度制御手段30Aと、第3ロール16と第4ロール19との接触面よりもシート搬送方向下流側に配置された第二の温度制御手段30Bと、を備えている。
第一の温度制御手段30Aは、第1ロール13および第3ロール16間の接触面から、第3ロール16および第4ロール19間の接触面までの間(つまり、第3ロール16および第4ロール19間に線圧を加える前)の金属製エンドレスベルト15の表面温度を、(Tg−20)℃以下に制御する。
すなわち、この位置での金属製エンドレスベルト15の表面温度が(Tg−20)℃より高くなると、比較的に肉厚の熱可塑性樹脂シート11にエンボスパターンを転写形成する場合、バンクマークなどの外観不良が発生して歩留まりの向上が図れなくなるとともに、熱可塑性樹脂シート11の冷却固化が十分に行なわれず、押圧力の伝播が悪くなって転写率が低くなるおそれがあるためである。
また、第二の温度制御手段30Bは、第3ロール16および第4ロール19間の接触面の位置よりも熱可塑性樹脂シート11の搬送方向の下流側(つまり、第3ロール16および第4ロール19間で線圧を加えた後)における金属製エンドレスベルト15の表面温度を、(Tg−30)℃以下に制御する。
すなわち、この位置での金属製エンドレスベルト15の表面温度が(Tg−30)℃より高くなると、熱可塑性樹脂シート11の冷却固化が十分に行なわれず、転写したエンボスパターン、特にプリズム形状が歪んだり、一旦転写した後のエンボスパターンが弾性回復して転写率が低下したりするおそれがあるとともに、第3ロールから剥離する際に剥離マークなどの外観不良が発生するおそれがあるためである。
【0023】
反り矯正ロール17は、エンボスパターンが転写された熱可塑性樹脂シート11を第3ロール16から剥離させ、第3ロール16への巻き付きに対して反対側に巻き取る状態に配設されている。
この反り矯正ロール17は、例えば内部を流体が流通可能に構成され、流通する流体により外周面が所定の温度に調整可能に構成されている。
この反り矯正ロール17の表面温度は、(Tg−30)℃以上(Tg+10)℃以下、好ましくは(Tg−25)℃以上(Tg+5)℃以下に設定することが好ましい。
すなわち、反り矯正ロール17の表面温度が(Tg−30)℃より低くなると反り矯正が不十分となるおそれがあり、(Tg+10)℃より高くなると反り矯正が過多となったり、反り矯正ロール17の表面への付着が発生したりするおそれがあるためである。
【0024】
[熱可塑性樹脂シートの構成]
次に、本実施形態において熱可塑性樹脂製エンボスシート21を転写形成する熱可塑性樹脂シート11について説明する。
熱可塑性樹脂シート11は、熱可塑性樹脂製の基材層と、この基材層に積層形成され表面にエンボスパターンが転写により設けられる転写面を有した転写面層とを備えた積層シートである。この熱可塑性樹脂シート11の転写面層に、上記製造装置100によりエンボスパターンが転写されて、熱可塑性樹脂製エンボスシート21が製造される。
熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、環状ポリオレフィン(COC(Cyclo-Olefin Copolymer),COP(Cycro-Olefin Polymer))など非晶性熱可塑性樹脂、ポリプロピンなどの結晶性熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、非晶性熱可塑性樹脂が好適である。
なお、基材層と、転写面層とは、同一の熱可塑性樹脂を用いる場合に限らず、異なる材料を用いてもよい。
【0025】
そして、熱可塑性樹脂シート11は、転写率を向上させるために、転写面層のガラス転移点(Tg)が基材層のTgよりも1℃以上低い材料のものを用いてもよい。
ここで、基材層より転写面層のガラス転移点を下げる方法としては、基材層と同一の熱可塑性樹脂にガラス転移点降下剤を添加する他、基材層と異なる熱可塑性樹脂を転写面層に用いてもよい。具体的には、基材層にポリカーボネートを用いる場合には転写面層にポリスチレンを用い、基材層に環状ポリオレフィン(COC)を用いた場合には転写面層に環状ポリオレフィン(COP)を用いることが好ましい。
また、熱可塑性樹脂シート11は、転写率を向上させるために、転写層のTgを基材層のTgよりも1℃以上低い材料を用いるのではなく、質量比で熱可塑性樹脂100に対して易滑性添加剤を0.05以上0.5以下、好ましくは0.06以上0.4以下で含有したものを用いてもよい。
すなわち、熱可塑性樹脂100に対して質量比で易滑性添加剤が0.05より少ない場合には、転写時の熱可塑性樹脂シート11における転写面層の樹脂の移動性が損なわれ、転写効率の向上が望めなくなり、熱可塑性樹脂100に対して質量比で易滑性添加剤が0.5より多い場合にはブリードによる外観不良が発生するおそれがあるためである。
易滑性添加剤としては、例えば、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、置換脂肪酸アミド、ビス脂肪酸アミドなどを用いることができる。
なお、熱可塑性樹脂シート11の転写率をさらに向上させるためには、転写層のTgを基材層のTgよりも1℃以上低く、かつ、易滑性添加剤を上記範囲で含有させることが好ましい。
【0026】
また、基材層としては、例えば、Tgが50℃以上200℃以下、好ましくは60℃以上190℃以下の熱可塑性樹脂を主成分としたものが好適である。
すなわち、基材層のTgが50℃より低いと耐熱性が劣るという不都合を生じるおそれがあり、200℃より高いと押出製膜自体困難になるという不都合を生じるおそれがあるためである。
そして、このような基材層および転写面層を備える熱可塑性樹脂シート11としては、例えば熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂やポリカーボネート樹脂が用いられ、易滑性添加剤としては脂肪酸アミドが好適に用いられる。
【0027】
ここで、ガラス転移点降下剤を配合する場合、熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂が用いられる時には、ガラス転移点降下剤として流動パラフィンが好適に用いられる。この場合、転写面層が質量比でポリスチレン系樹脂100に対してガラス転移点温度を0.3以上5以下、好ましくは0.35以上4.95以下で含有したものを用いるとよい。すなわち、ガラス転移点降下剤が質量比でポリスチレン系樹脂100に対して0.3より少なくなると、転写時の熱可塑性樹脂シート11における転写面層の流動性が損なわれ、転写効率の向上が望めなくなり、5よりも多くなると、均一な混合が困難となり製造時の向上が図れなくなるおそれがあるからである。
また、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート樹脂が用いられる時には、ガラス転移点降下剤としてカプロラクトン、リン酸エステル系難燃剤、ポリカーボネートオリゴマーあるいはその誘導体、ポリブチレンテレフタレート、または、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)が好適に用いられる。この場合、転写面層が質量比でポリカーボネート樹脂100に対してガラス転移点降下剤を0.01以上、好ましくは0.02以上で含有したものを用いるとよい。すなわち、ガラス転移点降下剤が質量比でポリカーボネート樹脂100に対して0.01より少なくなると、転写時の熱可塑性樹脂シート11における転写面層の流動性が損なわれ、転写効率の向上が望めなくなるためである。上限に関しては、ポリカーボネート樹脂の場合Tgが50℃以下にならない限り特に制限はない。
特に、ガラス転移点降下剤とともに、質量比で熱可塑性樹脂100に対して易滑性添加剤を0.05以上0.5以下で併用する場合には、易滑性添加剤として、脂肪酸アミドが好適に用いられる。
【0028】
[熱可塑性樹脂シートの製造]
次に、上述した製造装置100を用いて上記熱可塑性樹脂製エンボスシート21を製造する動作を説明する。
まず、温度制御手段30により金属製エンドレスベルト15を所定の温度に制御する。具体的には、第1ロール13および第3ロール16間の接触面から、第3ロール16および第4ロール19間の接触面までの間(第3ロール16と第4ロール19との間に線圧を加える前)の表面温度を、第一の温度制御手段30Aにより(Tg−20)℃以下に制御する。さらに、第3ロール16と金属製エンドレスベルト15における熱可塑性樹脂シート11を介した接触面とのうち、第3ロール16および第4ロール19間の接触面の位置よりも熱可塑性樹脂シート11の搬送方向の下流側(第三ロール16と第4ロール19との間に線圧を加えた後)の金属製エンドレスベルト15の表面温度を、第二の温度制御手段30Bにより(Tg−30)℃以下に制御する。
そして、押出機のTダイ12より溶融状態の基材層と転写面層を積層させた熱可塑性樹脂シート11を、回転する第3ロール16と第1ロール13の位置での回行する金属製エンドレスベルト15との間に導入する。
【0029】
そして、回転する第3ロール16および回行する金属製エンドレスベルト15間で、第一の温度制御手段30Aにより(Tg−20)℃以下となっている金属製エンドレスベルト15にて基材層側から冷却されつつ第4ロール19の位置まで搬送される。そして、第4ロール19により、熱可塑性樹脂シート11は、線圧で50kg/cm以上250kg/cm以下で押圧され、第3ロール16の型32が十分に転写される。
さらに、回転する第3ロール16および回行する金属製エンドレスベルト15間で、第二の温度制御手段30Bにより(Tg−30)℃以下となっている金属製エンドレスベルト15にて基材層側からさらに冷却され、第3ロール16に巻き取られつつ、金属製エンドレスベルト15から剥離される。
この後、反り矯正ロール17にて巻き取らせるようにして熱可塑性樹脂シート11を第3ロール16から剥離させ、反り矯正ロール17にて第3ロール16で巻き取る側と反対側、すなわち基材層側が内側となる状態に巻き取らせ、熱可塑性樹脂シート11が完全に固化する前に反りを除去し、搬送ロール20にて搬送し、熱可塑性樹脂シート11にエンボスパターンが転写された熱可塑性樹脂製エンボスシート21を製造する。
【0030】
[実施形態の作用効果]
本実施形態では、第3ロール16と第4ロール19間に線圧を加える前の熱可塑性樹脂シート11において、第3ロール16と反対側の面を金属製エンドレスベルト15で冷却固化させた後にエンボスパターンを転写形成している。
このため、比較的に肉厚の熱可塑性樹脂シート11にエンボスパターンを転写形成する場合でも、バンクマークなどの外観不良を生じることなく、エンボスパターンを高転写率で転写形成できる。
そして、本実施形態では、第3ロール16と第4ロール19間に線圧を加えてエンボスパターンを転写した後の熱可塑性樹脂シート11において、第3ロール16と反対側の基材層側から金属製エンドレスベルト15をさらに冷却固化させている。
このため、エンボスパターンが形成された後の熱可塑性樹脂シート11が金属製エンドレスベルト15から容易に剥離され、高転写率の熱可塑性樹脂製エンボスシート21を良好に製造できる。
さらに、本実施形態では、反り矯正ロール17を配設し、エンボスパターンの転写時の反りと反対側の反りを加えて、転写時の反りを除去している。
このため、反りがなく、例えば液晶表示装置などで利用する光拡散シートなどでも十分に適用できる良好な熱可塑性樹脂製エンボスシート21を製造できる。
特に、上述したように、上記実施形態によれば、エンボスパターンが形成される熱可塑性樹脂シート11として、基材層の表面に、エンボスパターンが転写されやすい所定の転写面層(例えば、Tgが基材層より1℃以上低くした層や、易滑性添加剤が含有された層)が積層された熱可塑性樹脂シート11を用いている。
このため、転写に必要な応力が伝播しやすくなり、基材層側の温度を下げた場合でも転写面層側の流動性が相対的に確保され、従来の金属製エンドレスベルト15を用いる製法では得られなかった高い転写率が得られるとともに、転写率が高いので、製造装置100の構成の簡略化が容易に図れ、歩留まりの向上も得られる。
【0031】
[変形例]
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造および形状等は、本発明の目的および効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。
【0032】
例えば、エンボスパターンを形成する熱可塑性樹脂シート11としては、本実施形態で用いた多層構造シートに限らず、単層構造シートを用いてもよい。
また、反り矯正ロール17を設けたが、製品となる熱可塑性樹脂製エンボスシート21における反りの要求が厳しくない場合には、設けなくてもよい。
【0033】
その他、本発明の実施における具体的な構成および形態などは、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などとしてもよい。
【実施例】
【0034】
以下、各種条件で製造した実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、本発明は実施例などの内容に何ら限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
(原料)
熱可塑性樹脂シートを構成する基材層の原料として、熱可塑性樹脂原料にPSジャパン株式会社製の商品名GPPS G9504(Tg=100℃、MFR=1.5g/10min(200℃))を用い、これを熱風乾燥機にて95℃、2時間乾燥処理したものを用いた。
熱可塑性樹脂シートを構成する転写面層の原料として、質量比で、基材層と同一の熱可塑性樹脂原料100に対して流動パラフィン2を含むマスターペレット(Tg=92.1℃)を熱風乾燥機にて95℃、2時間乾燥処理したものを用いた。
(製造装置)
以下に示す条件の上述した図1に示す製造装置により、上述の基材層の原料および転写面層の原料をそれぞれ押出機のホッパーに供給し、押出機にて溶融可塑化した後、フィードブロックにて2層に積層させて単層のコートハンガーダイに導入し、ダイリップから溶融状態の積層する2層構造の樹脂膜である熱可塑性樹脂シートを押出した。この熱可塑性樹脂シートに以下に示す条件でエンボスパターンを転写し、総肉厚2.0mmの熱可塑性樹脂製エンボスシートを製造した。
(A)基材層用単軸押出機:径寸法75mm(L/D=28)
(B)転写面層用単軸押出機:径寸法50mm(L/D=28)
(C)コートハンガーダイ:900mm幅、リップ開度3.5mm
(D)押出加工条件:
(a)押出機シリンダー部の温度;210〜230℃
(b)アダプター部;230℃
(c)ダイ;230℃
(d)75mm押出量;120kg/h
(e)50mm押出量;7kg/h
(f)シートの引取り速度;1.3m/分
(g)樹脂温度;243℃
(E)ベルト機:
(a)ステンレススチールベルト;厚さ寸法0.8mm、幅寸法900mm
(b)ベルト表面粗さRa;0.015μm
(c)第1ロール;厚さ寸法10mm、JIS K6301 A 型60°のアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)で被覆されたロール(径寸法600mm)
(d)第2ロール;二重管スパイラル金属ロール(径寸法600mm)
(e)第3ロール;表面に頂角90°ピッチ150μm、深さ75μmのプリズムを6666本加工した二重管スパイラルロール(径寸法600mm)
(f)第4ロール;JIS K6301 A 型60°のNBRで被覆されたロール(径寸法300mm)。
【0036】
(比較評価)
(A)転写率:
製造した熱可塑性樹脂製エンボスシートの転写されたプリズムの高さ寸法Hを測定し、以下の式(1)を用いて転写率[%]を算出した。この式(1)中のDはプリズム版の深さである。
転写率=H/D×100 …(1)
(B)反り率:
500mm角のプリズムシートの1辺の中央を垂直に吊り、シート下端部付近の両辺に定規を当てる。定規とシートの面との間の最大の隔たり距離Yをノギスまたはデプスゲージで0.1mmまで測定する。以下の式(2)を用いて反り率[%]を算出した。
反り率=Y/500×100 …(2)
これらの結果を以下の表1,2に示す。
【0037】
[実施例2〜7,比較例1〜3]
実施例1における転写面層の原料のマスターペレットとして、ガラス転移点降下剤としての流動パラフィンの添加量や、各種易滑性添加剤を適宜添加したものを用い、実施例1と同様の製造条件でエンボスパターンを転写して実施例2〜7、比較例1〜3の熱可塑性樹脂製エンボスシートを製造した。
これらの結果を、表1,2に示す。
【0038】
[参考例1]
図2に示す以下の条件の製造装置を用い、実施例1と同様の材料を用いてエンボス転写した熱可塑性樹脂製エンボスシートXを製造した。
(製造装置)
(A)基材層用単軸押出機:径寸法75mm(L/D=28)
(B)転写面層用単軸押出機:径寸法50mm(L/D=28)
(C)コートハンガーダイ:900mm幅、リップ開度3.5mm
(D)押出加工条件:
(a)押出機シリンダー部の温度;210〜230℃
(b)アダプター部;230℃
(c)ダイ;230℃
(d)75mm押出量;120kg/h
(e)50mm押出量;7kg/h
(f)シートの引取り速度;1.3m/分
(g)樹脂温度;243℃
(E)第1冷却ロール51:径寸法300mm、表面温度60℃
(F)第2プリズムロール52:径寸法450mm、表面温度95℃(これより高温ではシートが付着して安定製膜不可)
(G)第3冷却ロール53:径寸法450mm、表面温度70℃
(H)第1冷却ロールと第2プリズムロールの線圧:200kg/cm
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
[結果]
上記表1,2に示す結果から、比較例1〜3のように、製造方法に関するクレーム範囲を逸脱した場合、高転写率は得られなかった。
一方、実施例1〜実施例7のものは、バンクマークも剥離マークも生じることなく、高転写で良好なエンボスパターンが得られた。
また、図2に示す製造装置を用いて製造した参考例1の場合では、シートの厚さ寸法2mmの場合、転写率が45%であり、高転写率が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明で得られる熱可塑性樹脂製エンボスシートは、反射板分野、ファッション分野、建築分野、表示装置における光拡散シートなどに好適である。
【符号の説明】
【0043】
11……熱可塑性樹脂シート
13……第1ロール
14……第2ロール
15……金属製エンドレスベルト(ベルト)
16……第3ロール
19……第4ロール
21……熱可塑性樹脂製エンボスシート
30……温度制御手段
30A…第一の温度制御手段
30B…第二の温度制御手段
100……製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周面に金属製のベルトが掛け渡された第1ロールおよび第2ロールと、
周面にエンボスパターンが形成され、当該周面が前記第1ロールの周面に前記ベルトを介して対向配置された第3ロールと、
周面が前記第3ロールの周面に前記ベルトを介して対向配置された第4ロールと、
前記第3ロールおよび前記第4ロール間に加わる線圧を制御する線圧制御手段と、前記ベルトの表面温度を制御するベルト温度制御手段と、を備えた製造装置を用い、
溶融状態の熱可塑性樹脂シートを、前記第1ロールおよび第3ロール間を通過させた後に前記第3ロールおよび前記第4ロール間を通過させて、前記熱可塑性樹脂シートにエンボスパターンを転写して熱可塑性樹脂製エンボスシートを製造する熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法であって、
前記線圧を加える前の前記ベルトの表面温度を制御した後、前記第3ロールおよび前記第4ロール間に加わる線圧により、前記熱可塑性樹脂シートにエンボスパターンを転写形成する
ことを特徴とする熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法であって、
前記線圧を加える前の前記ベルトの表面温度を、(Tg−20)℃以下に制御する
ことを特徴とする熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法であって、
前記線圧を加えた後の前記ベルトの表面温度をさらに制御する
ことを特徴とする熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法であって、
前記線圧を加えた後の前記ベルトの表面温度を、(Tg−30)℃以下に制御する
ことを特徴とする熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法であって、
前記第3ロールの表面温度を、(Tg−20)℃以上(Tg+30)℃以下に制御する
ことを特徴とする熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法であって、
前記第3ロールおよび前記第4ロール間に加わる線圧を、50kg/cm以上250kg/cm以下に制御する
ことを特徴とする熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法であって、
前記エンボスパターンが転写された前記熱可塑性樹脂製エンボスシートを、前記ベルトから剥離させた後、反り矯正ロールに掛け渡して搬送する
ことを特徴とする熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法であって、
前記反り矯正ロールの表面温度を、(Tg−30)℃以上(Tg+10)℃以下に制御する
ことを特徴とする熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造方法。
【請求項9】
周面に金属製のベルトが掛け渡された第1ロールおよび第2ロールと、
周面にエンボスパターンが形成され、当該周面が前記第1ロールの周面に前記ベルトを介して対向配置された第3ロールと、
周面が前記第3ロールの周面に前記ベルトを介して対向配置された第4ロールと、
前記第3ロールおよび前記第4ロール間に加わる線圧を制御する線圧制御手段と、
少なくとも前記第3ロールおよび前記第4ロール間に線圧が加わる前の前記ベルトの表面温度を制御するベルト温度制御手段と、を備え、
前記第1ロールおよび前記第3ロール間を通過して搬送された溶融状態の熱可塑性樹脂シートに、前記第3ロールおよび前記第4ロール間に加わる線圧でエンボスパターンを転写形成する
ことを特徴とする熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造装置。
【請求項10】
請求項9に記載の熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造装置において、
前記ベルト温度制御手段は、前記線圧を加えた後の前記ベルトの表面温度をさらに制御する
ことを特徴とする熱可塑性樹脂製エンボスシートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−253695(P2010−253695A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103172(P2009−103172)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】