説明

熱可塑性樹脂配合物、および複合材料、および複合材料の製造方法

【課題】 本発明は、製品表面に被覆あるいは接合して軟質な手触り、弾力性、防振性、防音性、破損防止機能を与える熱可塑性樹脂配合物、およびその複合材料、およびその複合材料の製造方法を提供することを課題する。
【解決手段】 スチレン系エラストマーに軟化剤を添加し、更に極性の基材樹脂との融着性を向上せしめるためにポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)を添加し、上記スチレン系エラストマーと上記TPUとの相溶性を向上せしめるために相溶化剤を添加し、更に押出し成形時に目やに現象やドローダウン現象を発生しないようにするために、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材樹脂成形体の表面に柔軟性を付与するために使用される熱可塑性樹脂配合物、および上記基材樹脂成形体の表面に上記熱可塑性樹脂配合物の成形体を溶融接合した複合材料および複合材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のインストゥルメントパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラーカバー、アシストグリップ等の自動車用部材、ドア、窓枠材等の建築用材料、電気製品のスイッチ等の部品はポリカーボネート(PC)、スチレン系樹脂(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)等の硬質樹脂を材料とするが、上記部材、材料、部品等には軟質な手触り、弾力性、防振性、防音性、破損防止機能等を付与するために柔軟性、弾性を有する樹脂成形体が接合される。
【0003】
従来、上記樹脂成形体としては主としてスチレン系ブロックとジエン系ブロックとを有するブロック共重合体やその水素添加物であるスチレン系エラストマーが使用されていたが、上記スチレン系エラストマーは極性が低いため、上記部材、材料、部品の材料として使用されるPC、PS、PVC、変性PPE等の極性基材樹脂との溶融接着性に不足する。
そこで上記スチレン系エラストマーの溶融接着性を改良する手段としてポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等の極性エラストマーを配合することが提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記極性基材樹脂成形体に上記エラストマー成形体を溶融接着するには、一般的に二層押出機を使用し、上記基材樹脂溶融物と上記エラストマー溶融物とを共に押し出し溶融接合する方法が採用されている。
上記従来のエラストマー配合の場合は、押出し成形の際に押出機のダイスからエラストマー溶融物が垂れ下るドローダウン現象や、ダイスにエラストマー溶融物の凝固物が固着してしまう所謂「目やに現象」が発生するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記従来ドローダウン現象や目やに現象の発生を防止することを課題としており、上記課題を解決するための手段として、スチレン系重合体(S)ブロックと、共役ジエン化合物重合体(B)ブロックとからなり、水素添加されているブロック共重合体であるスチレン系エラストマーと、40℃における動粘度が40cSt以上、1000cSt以下の軟化剤との比率が30:70〜70:30質量比の混合物100質量部に対して、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー120〜350質量部、相溶化剤10〜150質量部、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン0.1〜30質量部を添加混合した熱可塑性樹脂配合物を提供するものである。
【0006】
上記スチレン系エラストマーの質量平均分子量は100,000(10万)以上の範囲であり、上記スチレン系エラストマー中のスチレン含有量は10〜35質量%であることが望ましい。
【0007】
更に上記相溶化剤はポリウレタン系ブロック共重合体、および/または酸変性ポリオレフィン、および/または酸変性スチレン系エラストマーであることが望ましい。
【0008】
また上記熱可塑性樹脂配合物において、更に該配合物中のスチレン系エラストマーと軟化剤との合計100質量部に対して、アクリル系軟質多層構造樹脂を250質量部以下の量で添加混合することが望ましい。
【0009】
本発明にあっては、更に基材樹脂の成形体に上記熱可塑性樹脂配合物の成形体を溶融接着した複合材料が提供される。
【0010】
上記基材樹脂はポリカーボネート、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、変性ポリフェニレンエーテル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステルから選ばれた少なくとも1種の極性樹脂であることが望ましい。
【0011】
本発明にあっては更に、二層押出機を用い、上記基材樹脂を一方の押出機から押し出すとともに、上記熱可塑性樹脂配合物を他方の押出機から押し出し、上記一方の押出機から押し出された上記基材樹脂と、上記他方の押出機から押し出された上記熱可塑性樹脂配合物とを溶融接合する複合材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
〔作用〕
本発明の熱可塑性樹脂配合物にあっては、スチレン系重合体(S)ブロックと、共役ジエン化合物重合体(B)と、スチレン系重合体(S)ブロックとからなり、所望なれば水素添加されているブロック共重合体であるスチレン系エラストマーに、該スチレン系エラストマーと良好な相溶性を有し40℃における動粘度が40cSt以上、1000cSt以下の軟化剤を添加して該スチレン系エラストマーのゲル化を円滑化し、かつ硬さを調節し、更に極性樹脂のポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)を添加して、基材樹脂との溶融接着性を向上せしめるが、ポリウレタン系ブロック共重合体や酸変性ポリオレフィン、あるいは酸変性スチレン系エラストマー等の相溶化剤を添加して、該スチレン系エラストマーとTPUとを均一に相溶させ、目やに現象の発生を防止し、かつ得られる成形品の表面の荒れを防止して優れた外観を提供する。更に本発明の熱可塑性樹脂配合物には、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(アクリル変性PTFE)を添加する。該アクリル変性PTFEは本発明の熱可塑性樹脂配合物の溶融物の表面張力を向上せしめ、押出成形の際に押出機のダイスから該熱可塑性樹脂配合物の溶融物が垂れ下るドローダウン現象やダイスに該熱可塑性樹脂配合物の溶融物の凝固物が固着してしまう目やに現象の発生を抑制する。
更に所望なれば上記本発明の熱可塑性樹脂配合物にアクリル系軟質多層構造樹脂を添加すると、該熱可塑性樹脂配合物の溶融物の粘度が高くなり、ドローダウン現象や目やに現象が一層抑制され、また耐候性が向上する。
【0013】
〔効果〕
本発明の熱可塑性樹脂配合物にあっては、特に極性のある基材樹脂に対して良好な溶融接着性を示し、該熱可塑性樹脂配合物は押出成形の際、ドローダウン現象や目やに現象を発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を以下に詳細に説明する。
〔スチレン系エラストマー〕
本発明に使用するスチレン系エラストマーとは、スチレン系重合体(S)ブロックと、共役ジエン化合物重合体(B)とからなるものであって、上記共役ジエン化合物重合体(B)ブロックは一部または全部が水素添加されている。
上記スチレン系重合体(S)ブロックとは、例えばスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−ターシャリイブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α―メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアンスラセン等のスチレン系単量体の重合体ブロックである。
上記共役ジエン化合物重合体(B)ブロックとは、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエン系化合物の重合体ブロックである。
上記スチレン系エラストマーの質量平均分子量は10万以上、更に20万以上であり、スチレン含有量は10〜35質量%であることが望ましい。上記スチレン系エラストマーの質量平均分子量が10万に満たない場合には、得られる熱可塑性樹脂配合物が押出成形時にドローダウン現象を発生させるおそれがあり、またスチレン含有量が10質量%に満たない場合には、得られる熱可塑性樹脂配合物が耐熱性に劣り、35質量%を超えるとゴム弾性に劣るようになる。
本発明が使用する上記スチレン系エラストマーとしては、例えばスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ピリジン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム(SIR)、スチレン−エチレン共重合体、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(SBS)、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン(SIS)、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(αメチルスチレン)(α−MeSBα−MeS)、ポリ(αメチルスチレン)−ポリイソプレン−ポリ(α−メチルスチレン)、エチレン−プロピレン共重合体(EP),ブタジエン−スチレン共重合体(EP)、スチレン−クロロプレンゴム(SCR)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)共重合体等が例示される。
【0015】
〔軟化剤〕
本発明の熱可塑性樹脂配合物に使用する軟化剤としては、例えばパラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル等のゴム用軟化剤があり、動粘度が40℃で40cSt以上、1000cSt以下のものを選択する。更に好ましくは、動粘度が40℃で50cSt以上、600cSt以下のものを選択する。軟化剤の動粘度が40℃で40cSt未満では該熱可塑性樹脂配合物の成形時にドローダウン現象が発生する。
【0016】
〔ポリウレタン系熱可塑性エラストマー〕
本発明の樹脂配合物に使用するポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、ジイソシアネートと分子量が50〜500程度の短鎖グリコールとからなるハードセグメントと、ジイソシアナートと長鎖ポリオールとからなるソフトセグメントとを有するものである。
上記短鎖グリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ビスフェノールA等が例示され、上記長鎖ポリオールとしては、分子量が500〜1万のポリエーテル系ポリオールあるいはポリエステル系ポリオールが使用され、上記ポリエーテル系ポリオールとしてはポリアルキレングリコール等が例示され、上記ポリエステル系ポリオールとしては、ポリアルキレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート等が例示される。
【0017】
〔相溶化剤〕
本発明の樹脂配合物に使用する相溶化剤としては、ポリウレタン系ブロック共重合体、酸変性ポリオレフィン、酸変性スチレン系エラストマーがある。
上記ポリウレタン系ブロック共重合体は、片末端に水酸基を有するスチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(SEPS−OH)と上記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)とを溶融混練してSEPSにOH基を介してTPUを結合したブロック共重合体である。
上記酸変性ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体に、マレイン酸、ハロゲン化マレイン酸、イタコン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エンド−シスービシクロ(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等のジカルボン酸、あるいは上記ジカルボン酸の無水物、エステル、アミド、イミド等、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸、あるいは上記モノカルボン酸のエステル、アミド等を付加したものがある。
上記酸変性スチレン系エラストマーとしては、スチレン系重合体ブロックと、ブタジエン、イソプレン、1,3ペンタジエン等の共役ジエン化合物の水素添加物であるスチレン系エラストマーに、無水マレイン酸あるいは上記ジカルボン酸、モノカルボン酸、あるいはジカルボン酸やモノカルボン酸のエステル、アミド、イミド等を付加したものがある。
【0018】
〔アクリル変性PTFE〕
本発明の樹脂組成物に使用するアクリル変性PTFEは、PTFE(A)と炭素数5〜30のアルキル(メタ)アクリルート系重合体(B)とからなるPTFE変性物(特許第2942888号)あるいはPTFE(A)の含有量が40〜70質量部、炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルと、炭素数1〜4のアルキル基を有するアクリル三アルキルエステルとを含有し、これら構成単位を合計量で70質量%以上含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体(B)の含有量が30〜60質量部であるPTFE変性物(特許第3909020号)である。
【0019】
〔アクリル系軟質多層構造樹脂〕
本発明の樹脂組成物には、更にアクリル系軟質多層構造樹脂が添加されてもよい。上記アクリル系軟質多層構造樹脂とは、アクリル系ゴム成分を内部に有し、メタクリル酸エステルを含む共重合体を最外部に有するもの(特開平11−292940号)、ガラス転移点(Tg)が30℃以下であるアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとを含む共重合体層を内層とし、Tgが−20〜−50℃のアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとを含む共重合体層を外層とするもの(特許第334208号)である。
またアクリル系軟質多層構造樹脂は、上記熱可塑性樹脂配合物中のスチレン系エラストマーと軟化剤との合計100質量部に対して、250質量部以下の量で添加することが望ましい。添加量が250質量部を超えるとドローダウン現象や目やに現象に対する効果が頭打ちとなり、基材樹脂との融着強度が低下する傾向となる。
【0020】
〔第三成分〕
上記成分の他、本発明の樹脂組成物にあっては、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体等のプロピレン系樹脂(PP)、芳香族ポリエステルブロックと非芳香族ポリエステルボロックとからなるブロック共重合体、芳香族ポリエステルブロックとポリエーテルブロックとからなるブロック共重合体、芳香族ポリエステルブロックと非芳香族ポリエステルブロックとポリエーテルブロックとからなるブロック共重合体等のポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)を添加してもよい。上記TPEEは極性を有し、極性基材樹脂と良好な溶融接着性を有するから、TPUと併用することが出来る。
【0021】
〔充填材〕
更に本発明の樹脂組成物にあっては、充填材を使用してもよい。上記充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、珪藻土、ドロマイト、石膏、焼成クレー、アスベスト、マイカ、ケイ酸カルシウム、ベントナイト、ホワイトカーボン、カーボンブラック、鉄粉、アルミニウム粉、石粉、高炉スラグ、フライアッシュ、セメント、ジルコニア粉等の無機充填材や、リンター、リネン、サイザル、木粉、ヤシ粉、クルミ粉、でん粉、小麦粉、米粉等の有機充填材、あるいは木綿、麻、羊毛等の天然繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビスコース繊維、アセテート繊維等の有機合成繊維、アスベスト繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、ウィスカー繊維等の繊維充填材を挙げることが出来、特に好ましく、タルクや炭酸カルシウムが挙げられる。充填材を添加することによって、ドローダウンの改良効果が見られる。添加量は上限で20%まで添加出来る。上記範囲を超えると融着強度が低下する。
【0022】
〔配合〕
本発明の樹脂配合物にあっては、上記スチレン系エラストマーと軟化剤との混合比率を30:70〜70:30(質量比)の範囲に設定する。上記範囲よりも軟化剤が多く混合された場合には、極性基材樹脂に対する樹脂配合物の融着強度が低下し、成形時、ドローダウン現象や目やに現象の不具合が発生し、また上記範囲よりも軟化剤が少なく添加された場合には、該スチレン系エラストマーのゲル化が困難になる。
またドローダウン現象の発生を抑制するためには、動粘度が40℃で40cSt以上の軟化剤を選択することが好ましい。しかし軟化剤の動粘度が40℃で1000cStを越えるものを使用した場合には、本配合物を配合する際の作業性が悪くなる。
ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)は、上記スチレン系エラストマーと軟化剤との合計100質量部に対して120〜350質量部の範囲で添加される。TPUが上記範囲よりも少ない量で添加されている場合には、極性基材樹脂との融着強度が低下し、一方TPUが上記範囲よりも多い量で添加されている場合には、ドローダウン現象や目やに現象が発生し、また樹脂組成物の耐候性も悪くなる。
相溶化剤は、上記スチレン系エラストマーと軟化剤との合計100質量部に対して10〜150質量部の範囲で添加される。相溶化剤が上記範囲よりも少ない量で添加されている場合には、目やに現象が発生し、成形品表面が荒れて外観が悪化する。一方相溶化剤が上記範囲よりも多い量で添加されている場合には、相溶化効果が頭打ちとなり、材料費が高くなる。
アクリル変性PTFEは、上記スチレン系エラストマーと軟化剤との合計100質量部に対して0.1〜30質量部の範囲で添加される。上記アクリル変性PTFEの添加によってドローダウン現象や目やに現象の発生が抑制されるが、30質量部を超える添加量では樹脂組成物の溶融粘度が高くなり過ぎて成形性が悪化する。
アクリル系軟質多層構造樹脂を添加する場合には、上記スチレン系エラストマーと軟化剤との合計100質量部に対して250質量部以下の量で添加される。上記アクリル軟質多層構造樹脂の添加によってドローダウン現象や目やに現象の発生が抑制されるが、250質量部を超える添加量では、極性基材樹脂との融着強度が低下し、また臭気が強くなる。
【0023】
PPは樹脂組成物のペレット成形性を改良するものであり、かつ硬度を調節するための目的で添加される。添加量は上記スチレン系エラストマーと軟化剤との合計100質量部に対して100質量部以下の量で添加される。PP添加量が100質量部を超えると樹脂配合物の硬度が高くなり、融着強度も低下する。
【0024】
TPEEはTPUほどではないが、樹脂配合物の極性基材樹脂との融着強度を向上せしめるが、添加量はTPUの1/2以下とする。TPEEの添加量が多過ぎると、目やに現象が発生する。
【0025】
充填材は成形時のドローダウン現象改良に効果があるが、樹脂配合物中の添加量が20質量%を越えると融着強度が低下する。
【0026】
〔基材樹脂〕
本発明において対象とする基材樹脂は、主として、ポリカーボネート(PC)、スチレン単独重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等のスチレン系樹脂、ポリ塩ビニル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルアクリレート共重合体等のアクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステル等であり、これら熱可塑性樹脂は極性を有する。
【0027】
〔共押出〕
本発明において、基材樹脂の成形体と上記熱可塑性樹脂配合物の成形体とからなる複合材料を製造するには、二層押出機を使用し、一方の押出機から上記基材樹脂の溶融物を押し出しつつ、他方の押出機から上記熱可塑性樹脂配合物の溶融物を押し出し、上記押し出された基材樹脂と上記押し出された熱可塑性樹脂配合物を溶融接着せしめる。しかし本発明にあっては、上記基材樹脂の成形体表面に上記熱可塑性樹脂配合物の溶融物を押し出して溶融接着せしめてもよい。
【0028】
本発明を更に具体的に説明するための実施例および比較例を以下に記載する。
〔実施例〕
〔材料〕
スチレン系エラストマーとしては、セプトン4099(商品名、クラレ社製:スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS))およびクレイトンG1657(商品名、クレイトンポリマー社製:スチレン−エチレン−ブチレンブロック共重合体(SEBS))を使用した。該SEEPSの質量平均分子量は42.2万、スチレン含有量は30質量%であり、該SEBSの質量平均分子量は11.8万、スチレン含有量は13質量%である。
比較のスチレン系エラストマーとしては、クレイトンG1652(商品名、クレイトンポリマー社製:スチレン−エチレン−ブチレンブロック共重合体(SEBS))を使用した。該SEBSの質量平均分子量は8.56万(<10万)、スチレン含有量は29質量%である。
軟化剤として、パラフィン系オイルであるPW380(商品名、出光興産社製、動粘度40℃、383.4cSt)と、同じくパラフィン系オイルであるPW90(商品名、出光興産社製、動粘度40℃、95.54cSt)とを使用した。
比較の軟化剤としては、パラフィン系オイルであるハイコールK−290(商品名、カネダ社製、動粘度40℃、32.3cSt(<40cSt)を使用した。
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、エラストランET−880(商品名、BASF社製、ソフトセグメントの材料としてポリエーテル系ポリオールを使用したエーテル系TPU(HsA80))を使用した。
相溶化剤としては、クラレTU−S5865(商品名、クラレ社製、TPUブロックとスチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)ブロックとを有するポリウレタン系ブロック共重合体(HsA70))、クレイトンG1901X(商品名、クレイトンポリマー社製、無水マレイン酸変性SEBS(無水マレイン酸含有量1.7質量%))、およびタフマーMP0620(商品名、三井化学社製、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体を使用した。
アクリル系変性PTFEとしては、メタブレンA3000(商品名、三菱レイヨンエンジニアリング社製)を使用した。
アクリル系軟質多層構造樹脂としては、パラペットNW−001(商品名、クラレ社製)(HsA80)を使用した。
PPとしては、PB222A(商品名、サンアロマー社製、曲げ弾性率1000MPa、MFR0.8g/10分)を使用した。
TPEEとしては、ペルプレンP−75M(商品名、東洋紡社製、)エーテル系TPEE,(HsA96)を使用した。
充填材としては、スーパーSSS(商品名、丸尾カルシウム社製、重質炭酸カルシウム)を使用した。
【0029】
〔樹脂配合物ペレット製造条件〕
軟化剤以外の材料をドライブレンドして予備混合物を調製し、該予備混合物に軟化剤を含浸させて混合物を作製する。該混合物を下記条件で押出機によって溶融混合して樹脂配合物のペレットを製造する。
押出機:(株)テクノベル製K2W32TW−60MG−NG
シリンダー温度:180〜220℃
スクリュー回転数:220〜400rpm
【0030】
〔硬度測定用試料の成形条件〕
射出成形機:三菱工業(株)100MSIII−10E
射出成形温度:190℃
射出圧力:50%
射出時間:5秒
金型温度:40℃
上記条件で厚さ2mm、幅125mm、長さ125mmのプレートを作製する。
【0031】
〔基材樹脂との共押出し条件〕
二層押出機:(株)池貝製、池貝コンビ44
押出機(FS40−25,VS40−25)
ダイス形状:幅20mm×厚み1mmのプレート形状
成形温度:極性基材樹脂側220〜250℃
樹脂配合物側140から160℃
ダイス合流部200℃
極性基材樹脂:ABS樹脂(セビアンV−500SF,商品名、ダイセルポリマー社製)
上記条件で厚さ1mm、幅20mmの基材樹脂と樹脂組成物とを熱融着させた成形品試料を作製する(図1参照、図において1は基材樹脂、2は樹脂組成物、3は融着面である)。
【0032】
〔評価方法〕
硬さ:硬さ測定は、厚さ6mmの試験片を用いてJIS K6253Aに準拠して行った。
融着強度:上記製造条件で作製した融着成形片を長さ20mmにカット。それを融着界
面に対して垂直方向に引っ張り、その強度を測定。
測定値として、5.0N/mm未満が×、5.0〜6.0N/mmが○、
6.0N/mm以上が◎として評価。
目やに:上記条件にて融着成形片作成時に、ダイス出口に析出する目やに量を目視にて
3段階評価。
目やに量:多>中>小
ドローダウン:上記条件にて融着成形片作成時のドローダウンについて、下記の基準で
評価。
○:ドローダウン見られず、成形性良好。
△:若干のドローダウンが見られる。
×:著しいドローダウン
成形品外観:上記条件にて作成した融着成形片の外観について、下記の基準で評価。
○:表面の肌荒れや溶融不良ブツ等がなく、平滑な表面で良好。
△:若干の表面の肌荒れや溶融不良ブツが見られる。
×:著しい表面の肌荒れや溶融不良ブツが見られる。
【0033】
表1,表2に実施例1〜16の配合および性能評価の結果、表3,表4に比較例1〜11の配合および性能評価の結果を示す。
【0034】
【表1】



【0035】
【表2】



【0036】
【表3】



【0037】
【表4】



【0038】
表1,表2の実施例1〜16の配合は、本発明の範囲内のものであり、融着強度は5(N/mm)以上をクリアし、目やにが少なく、ドローダウン現象が発生せず、成形品の外観も良好である。
【0039】
比較例1はスチレン系エラストマーとして分子量が8.56万(<10万)のSEBSを使用した試料であり、実施例の各試料に比べるとドローダウン現象が発生し、成形品表面に若干の肌荒れや溶融不良が原因であるブツの発生が見られる。
【0040】
比較例2は軟化剤の動粘度が40℃で32.3cSt(<40cSt)のものを使用した試料であり、実施例の各試料に比べるとドローダウン現象が若干見られ、成形品表面に若干の肌荒れや溶融不良が原因であるブツの発生が見られる。
【0041】
比較例3はスチレン系エラストマー:軟化剤の混合比率を90:10質量比(<40:60)として軟化剤を添加量不足とした試料であり、実施例の各試料に比べると目やにが多くなり、成形品表面に若干の肌荒れや溶融不良が原因であるブツの発生が見られる。
【0042】
比較例4はスチレン系エラストマー:軟化剤の混合比率を10:90質量比(>40:60)として軟化剤を添加量過多とした試料であり、融着強度が3.5N/mm(<5N/mm)と低い値を示し、目やにが多く発生し、ドローダウン現象が発生し、成形品表面に著しい肌荒れや溶融不良が原因であるブツの発生が見られる。
【0043】
比較例5はTPUの添加量がスチレン系エラストマーと軟化剤の合計量100質量部に対して120質量部未満の量(100質量部)で使用した試料であり、融着強度が4.5N/mm(<5N/mm)と低い値を示した。
【0044】
比較例6はTPUの添加量がスチレン系エラストマーと軟化剤の合計量100質量部に対して350質量部を超える量(400質量部)使用した試料であり、目やにが多く発生し、またドローダウン現象が著しく見られる。
【0045】
比較例7は相溶化剤無添加の試料であり、実施例の各試料に比べると目やにが多くなり、成形品の表面に若干の肌荒れを生じ、かつ溶融不良が原因であるブツの発生も若干見られる。
【0046】
比較例8は相溶化剤の添加量が、スチレン系エラストマーと軟化剤の合計量100質量部に対して150質量部を超える量(200質量部)で添加されている試料であり、ドローダウン現象が若干見られる。
【0047】
比較例9はアクリル系変性PTFEが無添加の試料であり、融着強度が4.9N/mm(<5N/mm)と低く、目やにが多く発生し、またドローダウン現象が著しく見られる。
【0048】
比較例10はアクリル系変性PTFEの添加量が、スチレン系エラストマーと軟化剤の合計量100質量部に対して20質量部を超える量(40質量部)で添加されている試料であり、融着強度が4.2N/mm(<5N/mm)と低く、成形品表面に著しい肌荒れや溶融不良が原因であるブツの発生が見られる。
【0049】
比較例11はアクリル系軟質多層構造樹脂の添加量が、スチレン系エラストマーと軟化剤の合計量100質量部に対して250質量部を超える量(300質量部)で添加されている試料であり、融着強度が4.8N/mm(<5N/mm)と低く、また成形品表面の肌荒れやブツの発生が若干見られる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂配合物は、特に極性の基材樹脂との溶融接着性に優れ、また押出成形時の目やにやドローダウン現象もないので、該基材樹脂層表面に被覆あるいは接合して、表面が軟質な手触りで、弾力性、防振性、防音性、破損防止機能等が付与された樹脂製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】共押出品の部分斜視図
【符号の説明】
【0052】
1 基材樹脂
2 樹脂組成物
3 融着面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系重合体(S)ブロックと、共役ジエン化合物重合体(B)ブロックとからなり、水素添加されているブロック共重合体であるスチレン系エラストマーと、40℃における動粘度が40cSt以上、1000cSt以下の軟化剤との比率が30:70〜70:30質量比の混合物100質量部に対して、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー120〜350質量部、相溶化剤10〜150質量部、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン0.1〜30質量部を添加混合したことを特徴とする熱可塑性樹脂配合物。
【請求項2】
上記スチレン系エラストマーの質量平均分子量は100,000(10万)以上の範囲であり、上記スチレン系エラストマー中のスチレン含有量は10〜35質量%である請求項1に記載の熱可塑性樹脂配合物。
【請求項3】
上記相溶化剤はポリウレタン系ブロック共重合体、および/または酸変性ポリオレフィン、および/または酸変性スチレン系エラストマーである請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂配合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂配合物において、更に該配合物中のスチレン系エラストマーと軟化剤との合計100質量部に対して、アクリル系軟質多層構造樹脂を250質量部以下の量で添加混合したことを特徴とする熱可塑性樹脂配合物。
【請求項5】
基材樹脂の成形体に請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂配合物の成形体を溶融接着したことを特徴とする複合材料。
【請求項6】
上記基材樹脂はポリカーボネート、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、変性ポリフェニレンエーテル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステルから選ばれた少なくとも1種の極性樹脂である請求項5に記載の複合材料。
【請求項7】
請求項5または6に記載の複合材料の製造方法であって、
二層押出機を用い、上記基材樹脂を一方の押出機から押し出すとともに、上記熱可塑性樹脂配合物を他方の押出機から押し出し、上記一方の押出機から押し出された上記基材樹脂と、上記他方の押出機から押し出された上記熱可塑性樹脂配合物とを溶融接合することを特徴とする複合材料の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−91384(P2009−91384A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260419(P2007−260419)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】