説明

熱圧着用シリコーンゴムシート及び電気・電子機器部品の接合方法

【解決手段】電気・電子機器部品の熱圧着配線接続工程に使用されるシリコーンゴムシートであって、ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの一方の面に熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、更にシリコーン保護層を積層する、又は上記基材クロスの両方の面にそれぞれ熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、更に熱伝導性シリコーンゴム層上にシリコーン保護層を積層するものである熱圧着用シリコーンゴムシート。
【効果】本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートは、アクリル導電接着剤に対し優れた離型耐久性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器部品の配線接続工程で、熱を伝えると共に均一に圧力をかける目的で使用される熱圧着用シリコーンゴムシート及び電気・電子機器部品の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルの製造に際しては、液晶を駆動させるために液晶パネルの透明リード電極と駆動用LSIが搭載されたフレキシブルプリント基板(COF)のリード電極とを、異方性導電接着剤(ペースト状やフィルム状)を介在して熱圧着し、電気的及び機械的に接続することが行われている。この場合、熱と共に均一な圧力を加える目的で、加圧・加熱金属ツールとCOFの間にシリコーンゴムシートを挟むことが一般的となっている。
【0003】
上記熱圧着工程では、シリコーンゴムシートの同じ場所を用いて何回か圧着した後にシートを少し送ることを繰り返すことが行われている。つまり、シリコーンゴムシートの同じ場所を少しでも多く使えることが、製造コストの優位性に繋がる。COFで覆われずにむき出しになっている異方性導電接着剤、あるいは圧着時にCOFからはみ出した異方性導電接着剤との接触を繰り返すことで、シリコーンゴムシートは徐々に劣化するので、シリコーンゴムシートの異方性導電接着剤に対する離型性を高めることは非常に重要である。
【0004】
これまで異方性導電接着フィルムとしては、エポキシ樹脂内に導電粒子を分散させた異方性導電接着フィルム(以下、エポキシ導電フィルム)が一般的であったが、硬化速度の速いアクリル樹脂内に導電粒子を分散させた異方性導電接着フィルム(以下、アクリル導電フィルム)が、生産性向上のために広く採用されるようになってきた。
しかし、アクリル導電フィルムは反応性が高いために、シリコーンゴムシートの同じ場所で熱圧着を繰り返すとアクリル樹脂の成分がシート内に多く移行し、膨潤してシートが大きく変形したり、導電フィルムに強く貼り付いて破断したりするために、エポキシ導電フィルムと比較して圧着回数が著しく低下することが問題となっている。
【0005】
本発明者はこれまでの検討により、熱伝導性シリコーンゴムシート基材層と比較してシリコーン保護層中の無機粉末(充填材)を減らすだけで、エポキシ導電フィルムに対する離型性を高められることを確認している(特許文献1:特許第3902558号公報、特許文献2:特開2005−297234号公報)が、これらシートにはアクリル導電フィルムに対する離型性向上効果は全く見られない。
また、現在の市場を見渡しても、アクリル導電フィルムに対する離型性を著しく向上させた異方性導電接着剤圧着用シートは存在しない。
【0006】
なお、本発明に対する先行技術としては、上記特許文献1,2に加えて下記特許文献3,4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3902558号公報
【特許文献2】特開2005−297234号公報
【特許文献3】特開2008−300403号公報
【特許文献4】特開2007−214533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、エポキシ導電接着剤だけでなく、アクリル導電接着剤に対しても優れた離型性を有する熱圧着用シリコーンゴムシート及び電気・電子機器部品の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記の目的は、電気・電子機器部品の熱圧着配線接続工程に使用されるシリコーンゴムシートが、シリコーン樹脂で目止めされたガラスクロスの一方の面又は両面に熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、更にシリコーン保護層を設けた熱圧着用シリコーンゴムシートにより達成された。
【0010】
即ち、本発明者が種々検討した結果、アクリル導電接着剤に対する離型耐久性を大幅に向上させるには、ガラスクロスなどの補強性支持層によりシートの強度を向上させてシートの変形を制御させること、架橋密度の高いシリコーン保護層を設けてアクリル接着剤成分の進入を抑制することの両立が必要であることを見出した。
【0011】
ガラスクロスで補強しても保護層がないと少ない圧着回数でシート表面からゴム成分が脱落し、またシリコーン保護層を設けてもガラスクロスがないとアクリル導電接着剤成分の移行によりシートが大きく変形し均一な圧力伝達が妨げられるものである。
【0012】
本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートは、液晶パネルのリード電極とフレキシブルプリント基板のリード電極との接合に好適に用いられる。更に、近年、導電接着剤を用いた接合技術は液晶パネルだけでなく、太陽電池にも展開されており、本発明のシリコーンゴムシートは太陽電池モジュールに対しても優れた離型性を示し、生産効率の向上に貢献する。
【0013】
従って、本発明は下記熱圧着用シリコーンゴムシート及び下記接合方法を提供する。
[1]電気・電子機器部品の熱圧着配線接続工程に使用されるシリコーンゴムシートであって、
i.ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの一方の面に熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、基材クロスの他方の面にシリコーン保護層を積層する、
ii.ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの一方の面に熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、更にその熱伝導性シリコーンゴム層上にシリコーン保護層を積層する、
iii.ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの一方の面に熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、更にその上にシリコーン保護層を積層し、また基材クロスの他方の面にもシリコーン保護層を積層する、
iv.ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの両方の面にそれぞれ熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、その一方の熱伝導性シリコーンゴム層上にシリコーン保護層を積層する、又は、
v.ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの両方の面にそれぞれ熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、更に各熱伝導性シリコーンゴム層上にそれぞれシリコーン保護層を積層する
ものであることを特徴とする熱圧着用シリコーンゴムシート。
[2]上記シリコーン保護層が、シリコーン付加硬化物からなり、ジメチルシロキサン単位((CH32SiO1/2)100モルに対して、付加反応部であるシルエチレン基(Si−CH2−CH2−Si)を2モル以上含有することを特徴とする[1]記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[3]上記シリコーン保護層が、側鎖にビニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、側鎖にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金系触媒とを含有するシリコーン組成物の硬化物であることを特徴とする[1]又は[2]記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[4]上記シリコーン保護層が、厚さ0.1μm以上30μm以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[5]上記シリコーン保護層が、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物から選択される少なくとも1種の無機粉末を、0.1質量%以上30質量%以下含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[6]上記無機粉末が、球状微粉末シリカであることを特徴とする[5]記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[7]上記微粉末シリカが、平均粒径1μm以上30μm以下の球状粉であり、更に35μm以上の粗粒をメッシュカットしたものであることを特徴とする[6]記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[8]上記ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの厚さが、0.03mm以上0.20mm以下であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[9]上記ガラスクロスがシランカップリング剤で処理されていることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[10]全体の厚さが、0.1mm以上1mm以下であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれかに記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[11]上記熱伝導性シリコーンゴム層が、熱伝導率0.3W/mK以上5W/mK以下で、タイプAデュロメーター硬度30以上90以下であることを特徴とする[1]〜[10]記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[12]一の電気・電子機器部品の電極と他の部品の導電部との間にアクリル樹脂内に導電粒子を分散させた異方性導電接着剤を介在させ、加熱加圧ツールにより他の部品側から一の部品に向けて加熱加圧し、一の部品の電極と他の部品の導電部とを上記接着剤を介して電気的に接合するに際し、上記加熱加圧ツールと他の部品との間に介装される[1]〜[11]のいずれかに記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[13]一の電気・電子機器部品の電極が液晶パネルのリード電極であり、他の部品の導電部がフレキシブルプリント基板のリード電極である[12]記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[14]一の電気・電子機器部品の電極が太陽電池セルの集電電極であり、他の部品の導電部がハンダ銅線である[12]記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
[15]一の電気・電子機器部品の電極と他の部品の導電部との間にアクリル樹脂内に導電粒子を分散させた異方性導電接着剤を介在させ、加熱加圧ツールにより他の部品側から一の部品に向けて加熱加圧し、一の部品の電極と他の部品の導電部とを上記接着剤を介して電気的に接合するに際し、上記加熱加圧ツールと他の部品との間に[1]〜[11]のいずれかに記載の熱圧着用シリコーンゴムシートを介装して加熱加圧することを特徴とする一の電気・電子機器部品の電極と他の部品の導電部との接合方法。
[16]一の電気・電子機器部品の電極が液晶パネルのリード電極であり、他の部品の導電部がフレキシブルプリント基板のリード電極である[15]記載の接合方法。
[17]一の電気・電子機器部品の電極が太陽電池セルの集電電極であり、他の部品の導電部がハンダ銅線である[15]記載の接合方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートは、アクリル導電接着剤に対し優れた離型耐久性を有する。
また、本シートは従来の保護層を有する多層シリコーンゴムシートと同様に、エポキシ導電接着剤に対しても高い離型耐久性を有し、更にガラスや透明リード電極、COFといった周辺部材に対する離型性も持ち合わせている。
よって、液晶パネル製造工程の合理化やコストダウンに大きな効果をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係る熱圧着用シリコーンゴムシートの断面図である。
【図2】本発明の他の実施例に係る熱圧着用シリコーンゴムシートの断面図である。
【図3】本発明の別の実施例に係る熱圧着用シリコーンゴムシートの断面図である。
【図4】本発明の更に別の実施例に係る熱圧着用シリコーンゴムシートの断面図である。
【図5】本発明の更に別の実施例に係る熱圧着用シリコーンゴムシートの断面図である。
【図6】本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートを用いて液晶パネルのリード電極とフレキシブルプリント基板のリード電極との接合する態様を説明するもので、(A)は接合前、(B)は接合後の断面図である。
【図7】本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートを用いて太陽電池セルの集電電極とハンダ銅線との接合する態様を説明する接合前の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートは、
i.図1に示したように、ガラスクロス11aをシリコーン樹脂11bで目止めしてなる基材クロス11の一方の面に熱伝導性シリコーンゴム層12を積層し、基材クロス11の他方の面にシリコーン保護層13を積層する、
ii.図2に示したように、上記基材クロス11の一方の面に熱伝導性シリコーンゴム層12を積層し、更にその熱伝導性シリコーンゴム層12上にシリコーン保護層13を積層する、
iii.図3に示したように、上記基材クロス11の一方の面に熱伝導性シリコーンゴム層12を積層し、更にその上にシリコーン保護層13を積層し、また基材クロス11の他方の面にもシリコーン保護層13を積層する、
iv.図4に示したように、上記基材クロス11の両方の面にそれぞれ熱伝導性シリコーンゴム層12,12を積層し、その一方の熱伝導性シリコーンゴム層12上にシリコーン保護層13を積層する、又は、
v.図5に示したように、上記基材クロス11の両方の面にそれぞれ熱伝導性シリコーンゴム層12,12を積層し、更に各熱伝導性シリコーンゴム層12,12上にそれぞれシリコーン保護層13を積層する
ものである。
この場合、この熱圧着用シリコーンゴムシートは、加圧・加熱金属ツールとCOFとの間に介在させるが、シリコーン保護層をCOF側に配置して使用するものである。
【0017】
本発明におけるシリコーン保護層は、シリコーン付加硬化物からなり、
(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)白金系触媒:有効量、
(D)必要により反応制御剤:有効量、
(E)金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物から選択される少なくとも1種
を含むシリコーン組成物の硬化物であることが好ましい。
【0018】
(A)成分は、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基、特にビニル基を有するジオルガノポリシロキサンであることが好ましく、上記シリコーン組成物の主剤(ベースポリマー)である。
【0019】
このアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは室温(25℃)で液状であれば、その分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状が挙げられるが、特に好ましくは直鎖状である。また、アルケニル基として、例えば、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の炭素数2〜8程度のアルケニル基を挙げることができるが、コストや入手の容易さからビニル基を用いることが好ましい。
【0020】
(A)成分中のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する基としても、メチル基以外に、非置換又は置換の一価炭化水素基として、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等の炭素数が1〜10、特に炭素数が1〜6のものが挙げられるが、コストや入手のし易さ、化学的安定性、環境負荷などの理由により全てメチル基とすることが好ましい。
【0021】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独でも、粘度や組成が異なる2種以上を組み合わせても使用することができる。この場合、上記オルガノポリシロキサンの粘度は回転粘度計による25℃の粘度が10〜10,000mPa・s、特に50〜5,000mPa・sであることが好ましく、更に100〜1,000mPa・sが好ましい。
【0022】
本発明において、オルガノポリシロキサンとしては、ビニル基を2個以上有するジメチルポリシロキサンが好ましく、特に下記一般式(1)で示されるものが好適に用いられ、とりわけ側鎖にビニル基を有するものがよい。
【化1】

【0023】
上記式(1)において、RはCH3又はCH=CH2である。この場合、シリコーン保護層を形成するシリコーン付加硬化物において、ジメチルシロキサン単位[(CH32SiO1/2]100モルに対するシルエチレン基(Si−CH2−CH2−Si)の割合(架橋点)を2モル以上とするためには、RがCH=CH2の場合、x=10〜1,000、y=0〜100、y/x=0〜0.1、特にx=50〜300、y=1〜30、y/x=0.02〜0.05とすることが好ましい。また、RがCH3の場合、x=10〜1,000、y=2〜100、y/x=0.02〜0.1、特にx=30〜300、y=3〜30、y/x=0.02〜0.05であることが好ましいが、RがCH2=CH又はCH3のいずれの場合でも、側鎖にビニル基を有する(即ち、y≠0)ことが好ましく、RがCH2=CHの場合はy≧1、RがCH3の場合はy≧2であることが好ましい。
【0024】
(B)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を1分子中の分子鎖側鎖に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分の架橋剤として作用する成分である。即ち、(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が、後述の(C)成分の白金系触媒の作用により、(A)成分中のビニル基等のアルケニル基とヒドロシリル化反応により付加して、架橋結合を有する三次元網状構造を有する架橋硬化物を与える。
【0025】
(B)成分中のケイ素原子に結合した有機基として、アルケニル基以外の非置換又は置換の一価炭化水素基等が使用できるが、(A)成分と同様に、合成面及び経済性の点からメチル基であることが好ましい。
【0026】
(B)成分の構造は、特に限定されず、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0027】
(B)成分は、例えば、下記一般式(2)
【化2】


(式中、R2は、メチル基又は水素原子であり、分子鎖側鎖に少なくとも2個の水素原子が結合している。分子鎖末端にも水素原子が結合していてもよい。zは、2以上の整数である。)
で表される。この場合、SiH基は側鎖に存在しているものであり、側鎖のみにSiH基を有するものであってもよいが、側鎖に加えて分子鎖末端にもSiH基が存在してもよい。
【0028】
また、zは、好ましくは2〜200、より好ましくは20〜200の整数である。zが小さすぎると塗工後硬化するまでに、揮発あるいは基材である熱伝導性ゴムシートへ浸透するジメチルポリシロキサン量が多くなり、安定した付加反応が得られなくなる。
【0029】
なお、(B)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
(B)成分の添加量は、(B)成分のSiH基が(A)成分中のアルケニル基1モルに対して0.5〜5.0モルとなる量、望ましくは0.8〜3.0モルとなる量である。(B)成分のSiH基の量が(A)成分中のアルケニル基1モルに対して0.5モル未満では硬化物の硬度が十分に得られない。また、5.0モルを超える量では、SiH基が多く残存するために異方性導電接着剤に対する離型性が低下してしまう。
【0030】
本発明では、(A)成分と(B)成分が硬化後、その硬化物中のジメチルシロキサン単位100モルに対して、付加反応部であるシルエチレン基を2モル以上含有することを特徴とする。より好ましくは2〜10モル、更に好ましくは3〜5モルである。付加反応部は、(A)成分中のビニル基等のアルケニル基と(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子とのヒドロシリル化反応により得られるが、その形態としては、末端−末端結合、末端−側鎖結合、側鎖−側鎖結合が挙げられる。架橋密度向上への貢献度は、側鎖−側鎖結合>末端−側鎖結合>末端−末端結合となるが、一般的に反応速度はその逆の末端−末端結合>末端−側鎖結合>側鎖−側鎖結合となる。架橋密度を上げる、つまりアクリル導電接着剤に対する離型性を上げるには側鎖−側鎖結合を増やすことが特に有効であるが、硬化性を安定させるために末端−側鎖結合を共存させておくことが好ましい。また、架橋密度を上げすぎると保護層の硬度が高くなり、均一な圧力伝達が妨げられるので注意が必要である。
【0031】
(C)成分の白金系触媒は、(A)成分中のビニル基と(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子との付加反応を促進し、本発明の組成物から三次元網状構造の架橋硬化物を与えるために配合される成分である。
【0032】
(C)成分としては、通常のヒドロシリル化反応に用いられる公知の触媒を全て使用することができる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム−オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとのコンプレックスなどが挙げられる。なお、(C)成分の白金系触媒は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0033】
(C)成分の配合量は、シリコーン組成物を硬化させるために必要な有効量であればよく、特に制限されないが、通常、(A)成分に対する白金族金属元素の質量換算で、0.1〜1,000ppm、望ましくは0.5〜500ppmとするのがよい。
【0034】
(D)成分の反応制御剤は、(C)成分の存在下で進行する(A)成分と(B)成分の反応速度を調整するためのもので、任意成分である。
【0035】
(D)成分としては、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応抑制剤を全て使用することができる。その具体例としては、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、3−ブチン−1−オール等のアセチレン化合物、窒素化合物、有機りん化合物、硫黄化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。なお、(D)成分の付加反応抑制剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0036】
(D)成分の配合量は、(C)成分の使用量によっても異なるので一概には定義できないが、ヒドロシリル化反応の進行を所望の反応速度に調整できる有効量であればよく、通常、(A)成分の質量に対して、10〜50,000ppm程度とすることがよい。(D)成分の配合量が少なすぎる場合には十分な可使時間を確保することができないことがあり、また多すぎる場合には組成物の硬化性が低下することがある。
【0037】
(E)成分は、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物から選択される少なくとも1種であり、本発明の離型層に熱伝導性や表面すべり性、塗工時の膜厚安定性を付与するものである。これらの具体例としては、金属では銀粉、銅粉、鉄粉、ニッケル粉、アルミニウム粉など、金属酸化物では亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、鉄等の酸化物、金属窒化物ではホウ素、アルミニウム、ケイ素等の窒化物、金属炭化物ではケイ素、ホウ素等の炭化物等が例示される。
【0038】
その中でも、(E)成分としては、シリカ粉末が好適であり、特に球状のものが好ましい。この粉末を使用することで、特に優れた表面すべり性と膜厚安定性を得ることができる。また、低比重であるため、経時での沈降も少なく安定した塗工が可能となる。
【0039】
(E)成分の平均粒径は、1μm以上30μm以下であることが好ましく、特に5〜20μmであることが好ましい。平均粒径が1μm未満では、表面すべり性を得ることが難しくなる。また、30μmを超えるとフィラーの脱落防止のために塗工膜を厚くする必要があり、シート全体での熱伝導性が低下するために、加圧・加熱金属ツールの設定温度を高くすることが必要となる。なお、平均粒径はレーザー光回折法による粒度分布測定装置によって求めることができ、重量平均値として得ることができる。
【0040】
(E)成分の配合量は、シリコーン保護層中、0.1質量%以上30質量%以下となる量である。特に5〜30質量%の範囲で使用することが好ましい。0.1質量%より少ないと表面すべり性と膜厚安定性といった効果を得ることが難しく、この点から5質量%以上とすることが推奨される。また、30質量%を超えると異方性導電接着剤に対する離型性が低下する。
【0041】
本発明の保護層の塗工方法としては、熱伝導性シリコーンゴムシート基材上にトルエン等の溶剤に溶解して液状化したシリコーン保護層形成用材料(上記シリコーン組成物)を、ナイフコート、コンマコート、バーコート、ディップコート、スプレーコートなどの方法でコーティング成型し、そのまま大気中で溶剤除去・加熱硬化する方法があるが、これに限定されるものではない。なお、加熱硬化は120〜180℃、3〜10分の条件が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0042】
従来の保護層は液状シリコーンゴム材料を主成分としており溶剤希釈が必須であったが、本発明においては、(A)及び(B)成分の粘度を低くすることにより、無溶剤塗工も可能となる。溶剤希釈コートと比較して塗工ラインのスピードを上げることができ、生産性を著しく向上させることができる。
【0043】
本発明の保護層の厚さは0.1μm以上30μm以下が好ましい。高架橋組成物であるために薄い膜厚でも表面が改質され高い離型性が得られる。しかし、30μmを超えるとシート全体での熱伝導性が低下するために、加圧・加熱金属ツールの設定温度を高くすることが必要となる。
【0044】
本発明の保護層は、基材クロスに熱伝導性シリコーンゴムを積層したシートのどちらか一方の面、あるいは両面に設けてもよい。基材クロス側に保護層を設けると圧着時にCOF接触面の変形を抑制できるというメリットがあり、逆に熱伝導性シリコーンゴム側に設けると凹凸吸収能に優れるというメリットが得られる。また、両面に保護層を設けると使用状況に合わせて、表裏を選択することができる。
【0045】
また、本発明では補強材としてガラスクロスを挙げているが、200℃以上の耐熱温度を有する樹脂でできたクロスあるいはフィルムを基材として用いることもできる。しかし、特にフィルム形状の樹脂を用いる場合には、熱伝導性シリコーンゴム層を設ける際に接着助剤の塗工が必要となり、また、加熱圧着時に変形を起こし易く同じ場所を多く使用できないという不利な面があり、ガラスクロスが最も好ましいと言える。
【0046】
本発明に使用されるガラスクロスとしては、縦糸及び横糸を構成するヤーンの平均フィラメント径が4μm以上8μm以下であり、厚さが0.03mm以上0.20mm以下、特に0.10mm以下、縦糸及び横糸の密度がそれぞれ50本/25mm以上であることが好ましい。これよりフィラメント径及び厚さが小さくなると強度が不足し、逆に大きくなるとシート表面の凹凸が大きくなり均一な圧力伝達を妨げることになる。また、縦糸及び横糸の密度が小さくなってもシート表面の凹凸が大きくなる。
【0047】
また、シリコーン樹脂がガラス繊維に強く接着するように、ガラスクロスにはシランカップリング剤処理を行うことが好ましい。シランカップリング剤の種類としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤などがあるが、特にビニル基含有シランカップリング剤を用いた場合にガラスクロスとシリコーン樹脂の接着力が向上する。
【0048】
ガラスクロスへのシリコーン樹脂含浸方法として、ディップコート法、ナイフコート法、スプレーコート法などが挙げられるが、特にディップコート法を用いると薄いコーティング層を良好に成型することができる。
【0049】
ガラスクロスに含浸させる樹脂としては、補強性シリカ配合シリコーンゴム組成物が好ましい。補強性シリカ配合シリコーンゴム組成物のポリマー成分であるオルガノポリシロキサンは他の合成ゴムに比べ非常に強度が弱く、それ自体単独では使用できるレベルのものではない。オルガノポリシロキサンに充填剤、特に補強性シリカを添加することにより使用可能な強度を発揮する。
【0050】
オルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(i)
aSiO(4-a)/2 (i)
(式中、aは1.95〜2.05の正数である。)
で示されるもので、Rは非置換又は置換の一価炭化水素基を表し、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、あるいはこれらの水素原子が部分的に塩素原子、フッ素原子等で置換されたハロゲン化炭化水素基などが例示されるが、一般的にはオルガノポリシロキサンの主鎖がジメチルシロキサン単位からなるもの、あるいはこのオルガノポリシロキサンの主鎖にビニル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基等を導入したものが好ましい。また分子鎖末端がトリオルガノシリル基又は水酸基で封鎖されたものとすればよいが、このトリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、トリビニルシリル基などが例示される。なお、この成分の平均重合度は200以上、回転粘度計による25℃における粘度が0.3Pa・s以上のものが好ましく、平均重合度が200未満では硬化後の機械的強度が劣り、脆くなるおそれがある。なお、平均重合度の上限は特に制限されないが、10,000以下であることが好ましい。
また、このオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合するアルケニル基を有することが好ましく、Rのうち0.001〜5モル%、特に0.01〜1モル%のビニル基を含有することが好ましい。
【0051】
補強性シリカは機械的強度に優れたシリコーンゴムを得るために配合されるものであり、BET法による比表面積が50m2/g以上、特に100〜400m2/gであることが好ましい。この補強性シリカとしては、煙霧質シリカ(乾式シリカ)、沈降シリカ(湿式シリカ)等が例示される。また、補強性シリカの表面をオルガノポリシロキサン、オルガノシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等で疎水化処理を行ってもよい。
この補強性シリカの添加量は、特に制限されるものではないが、オルガノポリシロキサン100質量部に対して5質量部未満では十分な補強効果が得られないおそれがあり、100質量部より多くすると成形加工性が悪くなる場合があるので、5〜100質量部の範囲、好ましくは20〜80質量部の範囲である。
【0052】
更に必要に応じて、熱伝導性フィラー、着色顔料、耐熱性向上剤、難燃性向上剤、受酸剤などの各種添加剤、あるいは補強性シリカ分散剤として各種アルコキシシラン、ジフェニルシランジオール、カーボンファンクショナルシラン、シラノール基含有シロキサンなどを添加してもよい。
【0053】
補強性シリカ配合シリコーンゴム組成物は、上記成分を二本ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機を用いて均一に混合し、必要に応じて100℃以上の温度で熱処理することにより得ることができる。
補強性シリカ配合シリコーンゴム組成物を硬化させてゴム弾性体とする硬化剤としては、通常シリコーンゴムの硬化に使用されている従来公知のものでよく、これはラジカル反応に使用されるジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物、付加反応硬化剤としてオルガノポリシロキサンがアルケニル基を有する場合、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金族金属系触媒とからなるもの、縮合反応硬化剤としてオルガノポリシロキサンがシラノール基を含有する場合、アルコキシ基、アセトキシ基、ケトオキシム基、プロペノキシ基等の加水分解性基を2個以上有する有機ケイ素化合物などが例示されるが、この添加量は通常のシリコーンゴムと同様にすればよい。
補強性シリカ配合シリコーンゴム組成物としては、ミラブルタイプシリコーンゴム組成物及び液状タイプシリコーンゴム組成物のいずれを用いてもよい。作業性、成形加工性の点から有機過酸化物硬化型又は付加反応硬化型の補強性シリカ配合シリコーンゴム組成物が好ましい。
【0054】
ガラスクロスに含浸させるシリコーン樹脂は、ガラスクロスに薄く、安定して塗工できる樹脂を選択することが好ましい。熱伝導率が高い材料を選択してもよいが、全体の熱伝導率はシリコーン樹脂よりもガラスクロスに依存しており、また、熱伝導性粉末を多くするとガラスクロスが目詰まりを起こし塗工面が荒れたり、硬度が上昇し均一な圧力伝達が阻害されたりするおそれがある。
【0055】
基材クロスに積層する熱伝導性シリコーンゴム組成物は、熱伝導率0.3W/mK以上5W/mK以下(ASTM E 1530)、特に0.5〜5W/mKであるシリコーンゴム組成物であることが好ましい。熱伝導率が0.3W/mKより小さいと熱圧着温度を高くしたり、圧着時間を長くしたりする必要があり、効率の面で不利な場合が生じる。5W/mKを超えるとシート硬度が高くなり、均一な圧着が難しくなる。
【0056】
熱伝導性シリコーンゴム組成物は、ガラスクロスに含浸させる樹脂と同様のオルガノポリシロキサン100質量部に、カーボン、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物から選択される少なくとも1種を10〜1,600質量部添加することで得られるものが好ましい。これらの具体例としては、金属では銀粉、銅粉、鉄粉、ニッケル粉、アルミニウム粉など、金属酸化物では亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、鉄等の酸化物、金属窒化物ではホウ素、アルミニウム、ケイ素等の窒化物、金属炭化物ではケイ素、ホウ素等の炭化物などが例示される。
【0057】
必要に応じて、着色顔料、耐熱性向上剤、難燃性向上剤、受酸剤などの各種添加剤、あるいは分散剤として各種アルコキシシラン、ジフェニルシランジオール、カーボンファンクショナルシラン、シラノール基含有シロキサンなどを添加してもよい。
【0058】
熱伝導性シリコーンゴム組成物は、上記成分を二本ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機を用いて均一に混合し、必要に応じて100℃以上の温度で熱処理することにより得ることができる。
熱伝導性シリコーンゴム組成物を硬化させゴム弾性体とする硬化剤としては、通常シリコーンゴムの硬化に使用されている従来公知のものでよく、これはラジカル反応に使用されるジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物、付加反応硬化剤としてオルガノポリシロキサンがアルケニル基を有する場合、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金族金属系触媒とからなるもの、縮合反応硬化剤としてオルガノポリシロキサンがシラノール基を含有する場合、アルコキシ基、アセトキシ基、ケトオキシム基、プロペノキシ基等の加水分解性基を2個以上有する有機ケイ素化合物などが例示されるが、この添加量は通常のシリコーンゴムと同様にすればよい。
熱伝導性シリコーンゴム組成物としては、ミラブルタイプシリコーンゴム組成物及び液状タイプシリコーンゴム組成物のいずれを用いてもよい。作業性、成形加工性の点から有機過酸化物硬化型又は付加反応硬化型の熱伝導性シリコーンゴム組成物が好ましい。
【0059】
熱伝導性シリコーンゴムの硬度に関しては、30以上90以下(JIS K6253に規定のタイプAデュロメーター)であることが好ましい。更に硬度40以上60以下としたときに、COFの位置ずれが低減され、高精細液晶パネル用途としては特に好適である。
【0060】
基材クロスへの熱伝導シリコーン樹脂の積層方法としては、ナイフコート法、コンマコート法、カレンダーコート法等が挙げられ、連続的にコートと焼成を行う。特にカレンダーコートでは無溶剤コートが可能であり、有機溶剤の使用量を削減できる。
【0061】
熱圧着用シリコーンゴムシート全体の厚さは、0.1mm以上1mm以下であることが好ましい。構造上0.1mm未満のものを作成することは難しい。また、1mmを超えると全体の熱伝導率が低下するために圧着機の設定温度を高くする必要があり、また単位長さ当たりの重量が重くなるため作業性も悪くなってしまう。
【0062】
ここで、本発明の熱圧着用シリコーンゴムシートは、一の電気・電子機器部品の電極と他の部品の導電部との間にアクリル樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂、特にアクリル樹脂内に導電粒子を分散させた異方性導電接着剤を介在させ、加熱加圧ツールにより他の部品側から一の部品に向けて加熱加圧し、一の部品の電極と他の部品の導電部とを上記接着剤を介して電気的に接合するに際し、上記加熱加圧ツールと他の部品との間に介装させて使用する。
【0063】
図6は、液晶パネルのリード電極とフレキシブルプリント基板のリード電極とを接合する場合の一例を示し、(A)は熱圧着前、(B)は熱圧着後の状態を示す。即ち、液晶パネル21のリード電極22とフレキシブルプリント基板23のリード電極24との間にアクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂に導電性粒子を分散させた異方性導電接着剤25を介在させ、上記フレキシブルプリント基板23上に本発明の熱圧着用シリコーンゴムシート10を配設し、その上に加熱加圧ツール26を配置し、この加熱加圧ツール26によりシリコーンゴムシート10を介してフレキシブルプリント23基板側から液晶パネル21に向けて加熱加圧し、液晶パネル21のリード電極22とフレキシブルプリント23のリード電極24とを上記導電粒子25aが分散している異方性導電接着剤25を介して電気的に接合するものである。
【0064】
また、図7は、太陽電池セルの集電電極とハンダ銅線とを接合する場合の一例を示す。即ち、太陽電池セル27の集電電極28とハンダ銅線29との間に上記導電粒子25aが分散している異方性導電接着剤25を介在させ、ハンダ銅線29上に本発明の熱圧着用シリコーンゴムシート10を配設し、その上に加熱加圧ツール26を配置し、この加熱加圧ツール26によりシリコーンゴムシート10を介してハンダ銅線29側から太陽電池セル27に向けて加熱加圧し、太陽電池セル27の集電電極28とハンダ銅線29とを上記異方性導電接着剤25を介して電気的に接合するものである。
【0065】
なお、上記加熱加圧の条件は特に制限されるものではないが、加熱温度は通常150〜350℃であり、圧力は1〜10MPaであることが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0067】
[実施例1〜8、比較例1,2]
(ガラスクロス)
平織ガラスクロス(厚さ0.06mm、質量48g/m2−JIS R 3414 EP06相当品)にビニルトリメトキシシランを用いてビニルシラン処理を施した市販品を用いた。
【0068】
(目止め処理)
メチルビニルシロキサン(ジメチルシロキサン単位100モルに対して、側鎖に0.15モルのビニル基を有するもの、平均重合度は約5,000)100質量部、ジメトキシジメチルシラン3質量部、塩酸水(pH3.5)1質量部、ニップシールVN3(日本シリカ工業社製湿式シリカ商品名)40質量部をニーダーにて180℃、1時間加熱混合した。得られたゴムコンパウンド100質量部をキシレン300質量部によく溶解させた後に、1−エチニル−1−シクロヘキサノール0.2質量部、塩化白金酸のビニルシロキサン錯体(白金含有量0.5質量%)0.2質量部、下記一般式(3)で示されるケイ素原子に直接結合した水素原子を有するジメチルポリシロキサン1.0質量部を順次加えて塗工液を得た。
この塗工液をビニルシラン処理ガラスクロスに連続的にディップコートし、150℃の加熱炉の中を5分間通して硬化させ、厚さ0.07mmの基材クロスを得た。
【0069】
【化3】

【0070】
(熱伝導性シリコーンゴム組成物の配合)
メチルビニルシロキサン(ジメチルシロキサン単位100モルに対して、末端に0.03モル、側鎖に0.12モルのビニル基を有するもの、平均重合度は約5,000)、アセチレンブラック(平均粒径35nm、BET比表面積が130m2/g)、疎水性シリカ(BET比表面積が120m2/g)、酸化セリウム(BET比表面積が140m2/g)を二本ロールで配合し、混練りしてゴムコンパウンドを得た。各成分の配合量は、仕上がり硬度が60、熱伝導率が0.5W/mKとなるように調整した。
得られたコンパウンドに1−エチニル−1−シクロヘキサノール0.2質量部、塩化白金酸のビニルシロキサン錯体(白金含有量0.5質量%)0.2質量部、上記式(3)で示されるケイ素原子に直接結合した水素原子を有するジメチルポリシロキサン1.0質量部を順次加えて均一に混練した。
【0071】
(熱伝導性シリコーンゴムの積層条件)
次にカレンダー成型機を用いて、基材クロスと合わせた厚さが0.25mmとなるように上記組成物を転写し、160℃の加熱炉の中を5分間通して硬化させた。
また、比較用にカレンダー成型機を用いて、PETシートで上記組成物を同様に硬化させ、厚さ0.25mmの単層ゴムシートを得た。
【0072】
(シリコーン保護層の配合)
ビニル基を有するジメチルポリシロキサン100質量部((A)成分)に、1−エチニル−1−シクロヘキサノール0.2質量部((C)成分)、塩化白金酸のビニルシロキサン錯体(白金含有量0.5質量%)0.2質量部((D)成分)を加えて混練後に、ケイ素原子に直接結合した水素原子を有するジメチルポリシロキサン((B)成分)及び平均粒径15μmかつ35μm以上の粗粒をメッシュカットした高純度真球状シリカフィラー15質量部((E)成分)を添加した。
【0073】
この場合、(A)成分は構造が式(1)で示されるもの2種類[A−1(R=ビニル基、x=0、y=100)及びA−2(R=ビニル基、x=18、y=120)]を準備して、架橋点が表1の値となるように混合して用いた。(B)成分は平均構造が下記式(4)で示されるものを使用し、その添加量は、(A)成分中のビニル基と(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が等モルとなるように調整して塗工液を得た。
【0074】
【化4】

【0075】
(塗工方法)
ガラスクロスと熱伝導性シリコーンゴムの積層シートのガラスクロス面及びPET付き単層熱伝導性ゴムシートに塗工液をコンマコートで塗工し、160℃の加熱炉の中で5分間硬化させた。
また、積層シートはそのまま、PET付き単層シートはPETフィルム剥離後に、更に200℃、4時間加熱処理して評価用サンプルを得た。保護層の膜厚は約5μmとなるように調整した。
【0076】
(アクリル粘着フィルムに対する圧着試験評価)
250℃に加熱した加圧・加熱金属ツール加圧の下にシートを固定し(シリコーン保護層を下に向け、圧着時以外はツールとガラスから離れるようにシートを張る)、更にその下にアクリル導電フィルムを転写したガラス基板を挿入し、5MPa、10秒間圧着する。シートはそのままで次に新しいアクリル導電フィルムを転写したガラス基板を挿入し圧着する。これを繰り返しながら、シートとアクリル導電フィルムの貼り付きが重くなるまでの回数を上限30回として確認を行った。
評価結果を表1に示す。
【0077】
保護層の架橋点(ジメチルシロキサン単位100モルに対するシルエチレン結合数)が1以上になるとアクリル導電フィルムに対する離型性の向上が発現し、2以上になると顕著にその効果が認められた。
ガラスクロスを含まない比較例2は離型性には優れるが、回数を重ねるごとにアクリル樹脂成分が浸透し、シートが変形し、均一な圧着が不可となった。それに対して、ガラスクロスを含有する各実施例では、圧着に伴うシートの変形はほとんどなかった。
【0078】
【表1】

【符号の説明】
【0079】
10 熱圧着用シリコーンゴムシート
11 基材クロス
11a ガラスクロス
11b シリコーン樹脂
12 熱伝導性シリコーンゴム層
13 シリコーン保護層
21 液晶パネル
22 リード電極
23 フレキシブルプリント基板
24 リード電極
25 異方性導電接着剤
25a 導電粒子
26 加熱加圧ツール
27 太陽電池セル
28 集電電極
29 ハンダ銅線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気・電子機器部品の熱圧着配線接続工程に使用されるシリコーンゴムシートであって、
i.ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの一方の面に熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、基材クロスの他方の面にシリコーン保護層を積層する、
ii.ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの一方の面に熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、更にその熱伝導性シリコーンゴム層上にシリコーン保護層を積層する、
iii.ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの一方の面に熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、更にその上にシリコーン保護層を積層し、また基材クロスの他方の面にもシリコーン保護層を積層する、
iv.ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの両方の面にそれぞれ熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、その一方の熱伝導性シリコーンゴム層上にシリコーン保護層を積層する、又は、
v.ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの両方の面にそれぞれ熱伝導性シリコーンゴム層を積層し、更に各熱伝導性シリコーンゴム層上にそれぞれシリコーン保護層を積層する
ものであることを特徴とする熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項2】
上記シリコーン保護層が、シリコーン付加硬化物からなり、ジメチルシロキサン単位((CH32SiO1/2)100モルに対して、付加反応部であるシルエチレン基(Si−CH2−CH2−Si)を2モル以上含有することを特徴とする請求項1記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項3】
上記シリコーン保護層が、側鎖にビニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、側鎖にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金系触媒とを含有するシリコーン組成物の硬化物であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項4】
上記シリコーン保護層が、厚さ0.1μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項5】
上記シリコーン保護層が、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物から選択される少なくとも1種の無機粉末を、0.1質量%以上30質量%以下含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項6】
上記無機粉末が、球状微粉末シリカであることを特徴とする請求項5記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項7】
上記微粉末シリカが、平均粒径1μm以上30μm以下の球状粉であり、更に35μm以上の粗粒をメッシュカットしたものであることを特徴とする請求項6記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項8】
上記ガラスクロスをシリコーン樹脂で目止めしてなる基材クロスの厚さが、0.03mm以上0.20mm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項9】
上記ガラスクロスがシランカップリング剤で処理されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項10】
全体の厚さが、0.1mm以上1mm以下であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項11】
上記熱伝導性シリコーンゴム層が、熱伝導率0.3W/mK以上5W/mK以下で、タイプAデュロメーター硬度30以上90以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項12】
一の電気・電子機器部品の電極と他の部品の導電部との間にアクリル樹脂内に導電粒子を分散させた異方性導電接着剤を介在させ、加熱加圧ツールにより他の部品側から一の部品に向けて加熱加圧し、一の部品の電極と他の部品の導電部とを上記接着剤を介して電気的に接合するに際し、上記加熱加圧ツールと他の部品との間に介装される請求項1乃至11のいずれか1項記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項13】
一の電気・電子機器部品の電極が液晶パネルのリード電極であり、他の部品の導電部がフレキシブルプリント基板のリード電極である請求項12記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項14】
一の電気・電子機器部品の電極が太陽電池セルの集電電極であり、他の部品の導電部がハンダ銅線である請求項12記載の熱圧着用シリコーンゴムシート。
【請求項15】
一の電気・電子機器部品の電極と他の部品の導電部との間にアクリル樹脂内に導電粒子を分散させた異方性導電接着剤を介在させ、加熱加圧ツールにより他の部品側から一の部品に向けて加熱加圧し、一の部品の電極と他の部品の導電部とを上記接着剤を介して電気的に接合するに際し、上記加熱加圧ツールと他の部品との間に請求項1乃至11のいずれか1項記載の熱圧着用シリコーンゴムシートを介装して加熱加圧することを特徴とする一の電気・電子機器部品の電極と他の部品の導電部との接合方法。
【請求項16】
一の電気・電子機器部品の電極が液晶パネルのリード電極であり、他の部品の導電部がフレキシブルプリント基板のリード電極である請求項15記載の接合方法。
【請求項17】
一の電気・電子機器部品の電極が太陽電池セルの集電電極であり、他の部品の導電部がハンダ銅線である請求項15記載の接合方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−106480(P2012−106480A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188495(P2011−188495)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】