説明

熱型赤外線出力計測装置および熱型赤外線出力計測方法

【課題】ワーク自体が持つワーク固有の変動パターンノイズ、特に放射率が低いワーク、温度上昇の小さいワークあるいは放熱性能の異常が軽微であるワークについて、加熱温度の影響を受けるワーク固有の変動パターンノイズを補正することができるようにする。
【解決手段】平衡温度計測手段と、第二の加熱により第一の加熱による平衡温度を制御するワーク温度制御手段と、ワーク温度が第二の加熱によって制御された平衡温度の時に検出された赤外線放出エネルギーによって、熱平衡時画像フレームを形成する熱平衡時画像フレーム形成手段と、ワークに、繰り返して温度変化を与える第一の加熱に温度制御する第二の加熱を加算してワークを加熱して加熱時画像フレームを形成する加熱時画像フレーム形成手段と、加熱時画像フレームを形成するのに用いられた赤外線放射率の差異から、ワーク画像フレームを形成するワーク画像フレーム形成手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱型赤外線出力計測装置および熱型赤外線出力計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザにより周期的な温度変化を与えた試料であるワークを赤外線カメラで観察することで、ワークの放熱性能あるいはワークの物理的異常を起因とする放熱性能の異常を検出することが行われ、各種の赤外線利用検出装置、赤外線撮像装置等の熱型赤外線出力検出装置が提案されている。
【0003】
特許文献1には、赤外線センサに結像された画像を画像信号に変換し、固定パターンノイズを除去するための補正を施してから最終画像信号として出力する赤外線撮像装置の固定パターンノイズ補正であって、内部シャッタを閉鎖した状態での画像の取り込みを行って内部シャッタ特性補正データを取得することを行うことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、赤外線撮像部の撮像方向をジンバル機構によって回転させることを予め行って、実動作に先立つ補償データを取得することを行うことが記載されている。
【0005】
特許文献3には、有効画素のドリフト量を推定して補正するドリフト補正回路を設けて固定パターンノイズ(FPN)を補正することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、周囲温度の変動によるFPN変動分が自動的に除去できる赤外線画像装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−241818号公報
【特許文献2】特開平7−193753号公報
【特許文献3】特開2000−97767号公報
【特許文献4】特開2000−39358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
放射率が低いワーク、温度上昇の小さいワークあるいはワークの物理的異常を起因とする放熱性能の異常が軽微であるワークにあっては赤外線量を利用した計測に際して、ワークから放射される赤外線量が少なく、S/Nの高い観察が困難な場合があり、また、ワークから放射される赤外線が少ない場合、光学系の周辺減光や散乱光、赤外線カメラ画像素子感度のばらつきなどのノイズによる影響が相対的に増加するといった問題がある。
【0009】
上述した特許文献に記載された技術によれば、赤外線撮像装置自体の、画素自体の、あるいは周辺環境自体の固定パターンノイズを補正することはできるが、試料自体、すなわちワーク自体が持つワーク固有の変動パターンノイズ、特に放射率が低いワーク、温度上昇の小さいワークあるいは放熱性能の異常が軽微であるワークについて、加熱温度の影響を受けるワークの異常を検出する際、ワーク自身が持つ放射率のムラや、放熱性能の異常とは関係ない、ワーク固有の変動パターンノイズを補正することができない。また、光学系の周辺減光など、撮像素子以外に起因するノイズに関しても補正することができない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてワーク自体が持つワーク固有の変動パターンノイズ、特に放射率が低いワーク、温度上昇の小さいワークあるいは放熱性能の異常が軽微であるワークについて、加熱温度の影響を受けるワーク固有の変動パターンノイズ及び光学系の周辺減光など撮像素子以外に起因するノイズを補正することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ワークに入力熱エネルギーを与えた時に、赤外線放出エネルギーによる赤外線放射率の差異を計測する熱型赤外線出力計測装置において、
ワークに予め定めた温度変化を繰り返して与える入力熱エネルギー付与手段と、
赤外線放出エネルギーを検出することによって赤外線放射率差異を検出する赤外線放出エネルギー検出手段と、
ワークに繰り返して温度変化を与えて加熱する第一の加熱の時であって、入力熱エネルギーを遮断した時にもしくは減温した時にワーク温度が実質的に平衡となる平衡温度Tを計測する平衡温度計測手段と、
第二の加熱により第一の加熱による平衡温度Tにワーク温度を制御するワーク温度制御手段と、
ワーク温度が平衡温度Tに第二の加熱によって制御された平衡温度Tの時に検出された赤外線放出エネルギーによって、温度依存の変動パターンノイズに基因する赤外線放射率の差異を検出して熱平衡時画像フレームを形成する熱平衡時画像フレーム形成手段と、
ワークに、繰り返して温度変化を与える第一の加熱に平衡温度Tに温度制御する第二の加熱を加算してワークを加熱し、この時に検出された赤外線放出エネルギーによる赤外線放射率の差異の検出によって加熱時画像フレームを形成する加熱時画像フレーム形成手段と、
加熱時画像フレームを形成するのに用いられた赤外線放射率の差異から、前記熱平衡時画像フレームを形成するのに用いられた対応の赤外線放射率の差異を減算して赤外線放射率の差異によるワーク画像フレームを形成するワーク画像フレーム形成手段と、
から構成されることを特徴とする熱型赤外線出力計測装置を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記加熱時画像フレームが平衡温度をTを同一にして加熱方法を異にして複数形成され、複数形成された加熱時画像フレームと熱平衡画像フレームとの赤外線放射率の差異を平均化してワーク画像フレームを形成することを特徴とする熱型赤外線出力計測装置を提供する。
【0013】
本発明は、また、前記予め定めた繰り返しての温度変化が、周期的な温度加熱で形成されることを特徴とする熱型赤外線出力計測装置を提供する。
【0014】
本発明は、また、1つの周期的温度変化において時々刻々に計測されて形成された複数の加熱時画像フレームと熱平衡時画像フレームの赤外線放射率の差異を平均化してワーク画像フレームを形成することを特徴とする熱型赤外線出力計測装置を提供する。 本発明は、また、1つのワークが測定用ワークであって、当該ワークについてのワーク画像フレームを形成し、他のワークが比較用ワークであって比較用ワークについてのワーク画像フレームを形成し、双方のワーク画像フレームを比較することによって測定用ワークについてワーク画像フレームについての特徴を抽出することを特徴とする熱型赤外線出力計測装置を提供する。
【0015】
本発明は、また、形成したワーク画像フレームについて参照のワーク画像フレームと比較して、赤外線放射率の差の特徴を抽出することを特徴とする熱型赤外線出力計測装置を提供する。
【0016】
本発明は、ワークに入力熱エネルギーを与えた時に、赤外線放出エネルギーによる赤外線放射率の差異を計測する熱型赤外線出力計測方法において、
入力熱エネルギー付与手段によって、ワークに予め定めた温度変化が繰り返して与えられ、
平衡温度計測手段によって、ワークに繰り返して温度変化を与えて加熱する第一の加熱の時であって、入力熱エネルギーを遮断した時にもしくは減温した時にワーク温度が実質的に平衡となる平衡温度Tが計測され、
ワーク温度制御手段によって、第二の加熱により第一の加熱による平衡温度Tにワーク温度が制御され、
熱平衡時画像フレーム形成手段によって、ワーク温度が平衡温度Tに第二の加熱により制御された平衡温度Tの時に検出された赤外線放出エネルギーによって、温度依存の変動パターンノイズに基因する赤外線放射率の差異の検出によって熱平衡時画像フレームが形成され、
加熱時画像フレーム形成手段によって、ワークに繰り返して温度変化を与える第一の加熱に平衡温度Tに温度制御する第二の加熱を加算してワークが加熱され、この時に検出された赤外線放出エネルギーによる赤外線放射率の差異よって加熱時画像フレームが形成され、
ワーク画像フレーム形成手段によって、温度−加熱時画像フレームを形成するのに用いられた赤外線放射率の差異から、前記熱平衡時画像フレームを形成するのに用いられた対応の赤外線放射率の差異が減算されて赤外線放射率の差異によるワーク画像フレームが形成される
ことを特徴とする熱型赤外線出力検出計測方法を提供する。
【0017】
本発明は、また、前記加熱時画像フレームが平衡温度をTを同一にして加熱方法を異にして複数形成され、複数形成された加熱時画像フレームと熱平衡画像フレームとの赤外線放射率の差異を平均化してワーク画像フレームが形成されることを特徴とする熱型赤外線出力計測方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、平衡温度Tにおける温度依存変動パターンノイズ熱平衡時画像フレームを形成し、計測時に温度を平衡温度Tに第一の加熱温度を重量することによって特定して加熱時画像フレームとの比較を行い得るようにしているので、試料であるワーク自体が持つワーク固有の変動パターンノイズ、特に放射率が低いワーク、温度上昇の小さいワークあるいは放熱性能の異常が軽微であるワークについて、加熱温度の影響を受けるワークの異常を検出する際、ワーク自身が持つ放射率のムラや、放熱性能の異常とは関係ない、ワーク固有の変動パターンノイズを補正することができる。
【0019】
特に、本発明は、上述の効果に加えて時々刻々と放熱性能を計測する場合に、時々刻々と画像フレームを形成し、画像表示することができる効果がある。
【0020】
更に本発明によれば素子だけではなく、光学系も含めた固定パターンノイズを補正することによって、光学系の周辺減光や、赤外線カメラの画像素子感度のばらつきを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例の全体構成図。
【図2】本発明の実施例の構成を示すブロック図。
【図3】第一の加熱による温度変化および平衡温度Tを示すタイムチャート図。
【図4】第二の加熱によって平衡温度Tに制御された状態を示すタイムチャート図。
【図5】第一の加熱によって平衡温度が存在しなかった場合の想定平衡温度Tを得る方法を示すタイムチャート図。
【図6】ワーク温度を高め赤外線放射量を増大させたことを示すタイムチャート図。
【図7】データ処理の判断方法を示すフローチャート図。
【図8】本実施例による放熱性異常検出についての効果を示す図。
【図9】本実施例による光学系収差の補正についての効果を示す図。
【図10】従来技術との比較による本実施例の効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の実施例である熱型赤外線出力計測装置の全体構成を示す図である。
図1において、熱型赤外線出力計測装置100は、ワーク1に入力熱エネルギー付与手段としてのレーザ装置2、制御部3、赤外放出エネルギー検出手段としての赤外線撮像装置4、ワーク1の温度を測定する温度計測手段としての熱電対5から形成される。
【0024】
ワーク1は、ペルチェ6上に載置されるようになっており、ペルチェ6は試料台7の一部を構成する。
【0025】
制御部3は、パソコン(PC)11、信号変換部12、LDドライバ13、I/O14および温度調整器15を含んで構成されており、パソコン(PC)11は、演算処理手段、画像処理手段および制御手段を有する。従って、パソコンは中央制御機能を有して、各種の演算処理、画像処理および制御信号の生成を行うことができる。
【0026】
パソコン(PC)11によって、1/O14を介してLDドライバ13が制御され、LDドライバ13はレーザ装置2のレーザ光制御を行い、これによってワーク1の入力熱エネルギーの制御がなされる。レーザ装置2はワーク1に予め定めた温度変化を繰り返すことによって、典型的には周期的に加熱および加熱遮断に伴う減温することによってワーク1の温度を制御することができる。
【0027】
レーザ装置2によるレーザ照射によって温度制御されたワーク1の温度は熱電対5によって検知され、1/O14を介してパソコン(PC)11に入力され、記憶装置に格納される。
【0028】
ワーク1は温度調整器15によって温度調整されるペルチェ6上に載置され、温度調整される。
【0029】
レーザ装置2のレーザ照射によって発生した赤外線放射エネルギーである放射線は赤外線カメラ16に入力され、赤外線撮像装置4を構成する赤外線カメラによって検出され、撮像される。検出され、撮像された出力信号は信号変換部12でA/D変換され、パソコン(PC)11に入力される。
【0030】
図2は、本発明の実施例である熱型赤外線出力計測装置100の構成を示すブロック図であり、図2に示す各部品構成は図1に示す各種部品が持つ機能によって形成される。図2において、熱型赤外線出力計測装置100は、入力熱エネルギー付与手段21、赤外線放出エネルギー検出手段11、温度計測手段23、温度制御装置24、演算処理手段25および画像表示手段26を備える。
【0031】
入力熱エネルギー付与手段21はワーク1を加熱する機能を有し、加熱はその加熱状態に対応して第一の加熱21A、第二の加熱21Bおよび第三の加熱21Cに分けられ、少なくとも3つの種類の加熱によって形成されることになる。この場合に、第三の加熱は、第一の加熱と第二の加熱との加算によって形成される。そして、第一の加熱、第二の加熱はそれぞれ後述するように温度制御装置24によって制御され、ワーク温度が定められる。
【0032】
赤外線放出エネルギー検出手段22は、赤外線放出エネルギーを検出することによって赤外線放射率差異を検出し、第一の加熱、第二の加熱、第三の加熱に対応した第一の出力22A、第二の出力22B、第三の出力22Cを検出する。すなわちこれらの出力に対応した赤外線放射率差異が検出される。演算処理手段25は、データベース27を内蔵し、演算処理機能によって各種の演算処理を行うことができる。温度平衡状態判定25Eする手段によって第一の出力による加熱時画像を取得し、この画像を元にして温度平衡判定を行う。熱平衡時画像フレーム形成25Bによって第二の出力による加熱時画像を取得し、この画像を用いて熱平衡時画像フレームを形成する加熱時画像フレーム形成25Cする手段によって第三の出力による加熱時画像を取得し、加熱時画像フレームを形成する。
【0033】
熱平衡時画像フレームは光の加熱時画像フレーム形成25Cがなされた時に演算に用いられる。
【0034】
演算処理によって熱平衡時画像フレーム形成25B、加熱時画像フレーム形成25C、これらの二つの画像フレームによるワーク画像フレーム形成25D、温度平衡状態判定25Eおよびこの判定された時の平衡温度によって設定される平衡温度設定25Fがなされる。
【0035】
図2に示す各手段の機能、作用を図3から図5を用いて説明する。
【0036】
図3は、第一の加熱による温度変化を示すタイムチャートであり、図4は、第二の加熱による温度変化を示すタイムチャートであり、図6は、第三の加熱による温度変化を示すタイムチャートである。
【0037】
図3において、ワーク1には入力熱エネルギー付与手段21によって予め定めた温度変化で、例えば規則正しく周期的にレーザ光照射によって入力熱エネルギーが付与、すなわち印加される。図3に入力熱エネルギー印加状態を点線で示す。
【0038】
加熱前の資料温度Toであったワーク1は入力熱エネルギーの印加に伴なって温度曲線TC1のように出力変化する。温度曲線TC1は、第一の加熱による温度上昇および下降を繰り返す。
【0039】
この温度上昇および下降を何度か繰り返していると、入力熱エネルギーが遮断している時に、ワーク1は実質的に平衡温度Tが平衡状態Aとなる。時々刻々と計測される温度の推移を見ることによって演算処理手段25で、温度平衡状態判定25Eがなされ、温度が平衡状態になったことの判定の下に、その時の平衡温度について平衡温度設定25Fがなされる。
【0040】
図3において、入力熱エネルギー印加直前における□(四角形)で示す温度が第一の加熱による温度上昇と下降の間の平衡温度に達した温度(平衡温度領域をHで示す。)であり、これらの結んだ直線TC2が第一の加熱による平衡温度T(平衡状態A)を示す。このようにして平衡温度Tを示す直線TC2が取得される。
【0041】
本例では、この直線TC2を入力熱エネルギー遮断時において取得しているが、印加状態を変えて減温時に取得するようにしてもよい。
【0042】
第一の加熱による平衡温度Tは多数取得される。多数の直線TC2が形成され、データベース27に格納される。
【0043】
図4において、第二の加熱によるワーク1の温度上昇がなされ、平衡温度Tに対応した直線であるTC3である平衡状態Bの状況で、すなわちワーク1は、第二の加熱により第一の加熱の平衡温度Tに制御された状態とされ、平衡状態Bとされる。
【0044】
この平衡温度Tに制御された状態での第二の出力22Bが検出され、この出力に基づいて演算処理手段25で、熱平衡時画像フレーム形成25Bがなされ、平衡温度Tに対する熱平衡時画像フレームとしてデータベース27に格納される。
【0045】
図5は、第一の加熱によって一定温度が存在せず、従って平衡温度Tが得られない場合に、平衡温度Tに代えて近似平衡温度Tを得る方法を示す。この場合には、第一の加熱による温度上昇が始まる直前の最低温度T´が近似平衡温度として採用され、温度T´とされる。図5においてこの温度T´をH´で示している。この時の直線をTC2´で示す。従って、本実施例の説明にあっては、上述した平衡温度Tにはこの近似平衡温度Tを含めるものとして説明する。
【0046】
近似平衡温度T´が得られると、図4に示されると同様にして、第二の加熱によるワーク1の温度上昇がなされ、近似平衡温度T´に対応した直線TC3である平衡状態Bの状況で、すなわちワーク1は、第二の加熱により、第一の加熱の平衡温度T´に制御された状態とされ、平衡状態Bとされる。
【0047】
この平衡温度T´に制御された状態での第二の出力22Bが検出され、この出力に基づいて演算処理手段25で、熱平衡時画像フレームの形成25Bがなされ、平衡温度T´に対する熱平衡時画像フレームとしてデータベース27に格納される。
【0048】
図6において、図3に示す入力熱エネルギー印加状態と同一にして入力熱エネルギーをワークに印加する。この場合に、ワーク1には、第一の加熱と第二の加熱とを組み合わせることにより、第一の加熱による平衡温度Tと第二の加熱による平衡温度T(図5に示す場合に近似平衡温度T´となる。以下、同様)を組み合わせた際の平衡温度Tまでワーク温度を上昇させる。
【0049】
この状態では第一の加熱による平衡温度T(平衡状態Aを示す直線TC2)の上に、第一の加熱による温度上昇と下降による温度曲線TC1が重畳されることになり、第一の加熱と第二の加熱による平衡温度Tは平衡状態Cを示し、平衡状態Cは直線TC4で表わされる。そしてこの直線TC4で表わされる平衡温度Tは第一の加熱と第二の加熱とを加算した時の温度となる。
【0050】
このようにして、入力熱エネルギーが増加され、これに伴なってワーク1からの赤外線の放射量を増加させる。このような状態で、第三の出力22Cが検出され、この検出値に基づいて、演算処理手段25で加熱時画像フレーム形成25Cがなされる。このようにして取得された加熱時画像フレームはデータベース27に格納される。
【0051】
以上のようにして、ワーク温度が平衡温度Tに第二の加熱によって制御された平衡温度Tの時に検出された赤外線放出エネルギーによって、温度依存の変動パターンノイズに基因する赤外線放射率の差異の検出によって熱平衡時画像フレームを形成する熱平衡時画像フレームを形成し、また、ワークに、繰り返して温度変化を与える第一の加熱に平衡温度Tに温度制御する第二の加熱を加算してワークを加熱し、この時に検出された赤外線放出エネルギーによる赤外線放射率の差異の検出によって加熱時画像フレームを形成する。
【0052】
次に、ワーク画像フレーム形成手段25Dによって、加熱時画像フレームを形成するのに用いられた赤外線放射率の差異から、前記熱平衡時画像フレームを形成するのに用いられた対応の赤外線放射率の差異を減算して赤外線放射率の差異によるワーク画像フレームを形成する。
【0053】
このような減算によって、ワーク画像フレームには、温度依存の変動パターンノイズに消去され、赤外線の放射量を増加させることに伴うS/Nの向上がなされる。
【0054】
形成したワーク画像フレームによって画像表示手段26の画面にワーク1の状況を示す画像表示を行う。
【0055】
このように、平衡温度Tにおける温度依存変動パターンノイズ熱平衡時画像フレームを形成し、計測時に温度を平衡温度Tに第一の加熱温度を重量することによって特定して加熱時画像フレームとの比較を行い得るようにしているので、試料であるワーク自体が持つワーク固有の変動パターンノイズ、特に放射率が低いワーク、温度上昇の小さいワークあるいは放熱性能の異常が軽微であるワークについて、加熱温度の影響を受けるワークの異常を検出する際、ワーク自身が持つ放射率のムラや放熱性能の異常とは関係ない、ワーク固有の変動パターンノイズを補正することができる。
【0056】
図7は、本実施例の温度平衡状態の判定、すなわちデータ処理の判断方法を示すフローチャートである。
図7において、第一の加熱によって入力熱エネルギーを変調させて、変調加熱エネルギーをワーク1に入力する(S1)。これによって第一の加熱の画像フレームを取得する(S2)。
【0057】
次に第一の一周期の間に一定温度T(平衡温度)になる時間が存在するかを判定する(S3)。これは、熱画像又は温度センサ温度を用い目視又はソフトウェアにより比較して判断する。図2に示す例にあっては、演算処理手段25の温度平衡判定25Eによって判断することを示しているが、熱画像又は温度センサ温度を目視して判断し、平衡温度設定を行い、平衡温度設定25Fとして演算処理手段25、すなわちパソコン(PS)11に入力するようにしてもよい。
【0058】
平衡温度が得られたならば、第一の加熱の各加熱時画像フレームから上述のようにして取得した平衡状態時平衡状態B、すなわち第一の加熱による平衡状態Aによるフレーム、すなわち熱平衡時画像フレームを減算する(S4)。
【0059】
平衡温度が得られないならば、第二の加熱を行い、ワーク1を温度Tに制御する(S5)。Tとしては、第一の加熱の一周期の間に一定温度となる時間が存在しない場合の、第一の加熱による温度上昇が始まる直前の最低温度が採用される。これによって第二の加熱の画像フレーム、すなわち熱平衡時画像フレームを取得する(S6)。
【0060】
次いで、ステップ4と同様に、第一の加熱の各加熱時画像フレームから第二の加熱の温度T´によって得られたフレーム、すなわち熱平衡時画像フレームを各加熱時画像フレームから減算する(S7)。
【0061】
次いで、各加熱時画像フレームを再構成し、動画とする(S8)。
これらのステップによって以下に示す熱型赤外線出力計測方法が構成される。
【0062】
入力熱エネルギー付与手段によって、ワークに予め定めた温度変化が繰り返して与えられる。
【0063】
平衡温度計測手段によって、ワークに繰り返して温度変化を与えて加熱する第一の加熱の時であって、入力熱エネルギーを遮断した時にもしくは減温した時にワーク温度が実質的に平衡となる平衡温度Tが計測される。
【0064】
ワーク温度制御手段によって、第二の加熱により第一の加熱による平衡温度Tにワーク温度が制御される。
【0065】
熱平衡時画像フレーム形成手段によって、ワーク温度が平衡温度Tに第二の加熱により制御された平衡温度Tの時に検出された赤外線放出エネルギーによって、温度依存の変動パターンノイズに基因する赤外線放射率の差異の検出によって熱平衡時画像フレームが形成される。
【0066】
加熱時画像フレーム形成手段によって、ワークに繰り返して温度変化を与える第一の加熱に平衡温度Tに温度制御する第二の加熱を加算してワークが加熱され、この時に検出された赤外線放出エネルギーによる赤外線放射率の差異よって加熱時画像フレームが形成される。
【0067】
ワーク画像フレーム形成手段によって、温度−加熱時画像フレームを形成するのに用いられた赤外線放射率の差異から、前記熱平衡時画像フレームを形成するのに用いられた対応の赤外線放射率の差異が減算されて赤外線放射率の差異によるワーク画像フレームが形成される。
【0068】
図8は、本実施例によって得られる効果を従来技術の効果に比較して示す図であり、放熱性異常の検出の例を示す。
【0069】
従来の技術にあっては、実線で示す放熱性異常と、破線で示す放射率変化が画像として取得され、放熱性異常の判別が困難となるが、本実施例の適用によって、ワークの観察温度と同一の温度におけるノイズを減算しての計測が可能になるので、放熱性能異常を顕在化させて、実線で示す放熱性能異常のみを画像として取得され、放熱性異常の取得が容易である。
【0070】
図9は、本実施例によって得られる効果を従来技術の効果に比較して示す図であり、光学系収差の補正の例を示す。
【0071】
従来の技術にあっては、ワーク1の断面A−A´における輝度の補正状況が中央部が高い山型状となってしまうが、本実施例の適用によって、ワークの観察温度と同一の温度におけるノイズを減算させての計測が可能になるので、周辺減光を効果的に補正することができ、ワーク1の断面B−B´における輝度を一定になるように補正することができる。
【0072】
図9は、本実施例と従来技術との比較図であり、S/N、価格、低放射率ワークの測定、放熱性異常の検出、光学系収差補正(周辺減光等)項目についての比較結果を示す。いずれの項目についても、本実施例が優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0073】
1…ワーク、2…レーザ装置、3…制御部、4…赤外線撮像装置、5…熱電対、11…パソコン(PC)、21…入力熱エネルギー付与手段、22…赤外線放出エネルギー検出手段、23…温度計測手段、24…温度制御装置、25…演算処理手段、26…画像表示手段、100…熱型赤外線出力計測装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに入力熱エネルギーを与えた時に、赤外線放出エネルギーによる赤外線放射率の差異を計測する熱型赤外線出力計測装置において、
ワークに予め定めた温度変化を繰り返して与える入力熱エネルギー付与手段と、
赤外線放出エネルギーを検出することによって赤外線放射率差異を検出する赤外線放出エネルギー検出手段と、
ワークに繰り返して温度変化を与えて加熱する第一の加熱の時であって、入力熱エネルギーを遮断した時にもしくは減温した時にワーク温度が実質的に平衡となる平衡温度Tを計測する平衡温度計測手段と、
第二の加熱により第一の加熱による平衡温度Tにワーク温度を制御するワーク温度制御手段と、
ワーク温度が第二の加熱によって制御された平衡温度Tの時に検出された赤外線放出エネルギーによって、温度依存の変動パターンノイズに基因する赤外線放射率の差異を検出して、熱平衡時画像フレームを形成する熱平衡時画像フレーム形成手段と、
ワークに、繰り返して温度変化を与える第一の加熱に平衡温度Tに温度制御する第二の加熱を加算してワークを加熱し、この時に検出された赤外線放出エネルギーによる赤外線放射率の差異の検出によって加熱時画像フレームを形成する加熱時画像フレーム形成手段と、
加熱時画像フレームを形成するのに用いられた赤外線放射率の差異から、前記熱平衡時画像フレームを形成するのに用いられた対応の赤外線放射率の差異を減算して赤外線放射率の差異によるワーク画像フレームを形成するワーク画像フレーム形成手段と、
から構成されることを特徴とする熱型赤外線出力計測装置。
【請求項2】
請求項1において、前記加熱時画像フレームが平衡温度をTを同一にして加熱方法を異にして複数形成され、複数形成された加熱時画像フレームと熱平衡画像フレームとの赤外線放射率の差異を平均化してワーク画像フレームを形成することを特徴とする熱型赤外線出力計測装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、前記予め定めた繰り返しての温度変化が、周期的な温度加熱で形成されることを特徴とする熱型赤外線出力計測装置。
【請求項4】
請求項3において、1つの周期的温度変化において時々刻々に計測されて形成された複数の加熱時画像フレームと熱平衡時画像フレームの赤外線放射率の差異を平均化してワーク画像フレームを形成することを特徴とする熱型赤外線出力計測装置。
【請求項5】
請求項1から6のいずれかにおいて、1つのワークが測定用ワークであって、当該ワークについてのワーク画像フレームを形成し、他のワークが比較用ワークであって比較用ワークについてのワーク画像フレームを形成し、双方のワーク画像フレームを比較することによって測定用ワークについてワーク画像フレームについての特徴を抽出することを特徴とする熱型赤外線出力計測装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかにおいて、形成したワーク画像フレームについて参照のワーク画像フレームと比較して、赤外線放射率の差の特徴を抽出することを特徴とする熱型赤外線出力計測装置。
【請求項7】
ワークに入力熱エネルギーを与えた時に、赤外線放出エネルギーによる赤外線放射率の差異を計測する熱型赤外線出力計測方法において、
入力熱エネルギー付与手段によって、ワークに予め定めた温度変化が繰り返して与えられ、
平衡温度計測手段によって、ワークに繰り返して温度変化を与えて加熱する第一の加熱の時であって、入力熱エネルギーを遮断した時にもしくは減温した時にワーク温度が実質的に平衡となる平衡温度Tが計測され、
ワーク温度制御手段によって、第二の加熱により第一の加熱による平衡温度Tにワーク温度が制御され、
熱平衡時画像フレーム形成手段によって、ワーク温度が第二の加熱により制御された平衡温度Tの時に検出された赤外線放出エネルギーによって、温度依存の変動パターンノイズに基因する赤外線放射率の差異の検出によって熱平衡時画像フレームが形成され、
加熱時画像フレーム形成手段によって、ワークに繰り返して温度変化を与える第一の加熱に平衡温度Tに温度制御する第二の加熱を加算してワークが加熱され、この時に検出された赤外線放出エネルギーによる赤外線放射率の差異よって加熱時画像フレームが形成され、
ワーク画像フレーム形成手段によって、温度−加熱時画像フレームを形成するのに用いられた赤外線放射率の差異から、前記熱平衡時画像フレームを形成するのに用いられた対応の赤外線放射率の差異が減算されて赤外線放射率の差異によるワーク画像フレームが形成される
ことを特徴とする熱型赤外線出力検出計測方法。
【請求項8】
請求項7において、前記加熱時画像フレームが平衡温度をTを同一にして加熱方法を異にして複数形成され、複数形成された加熱時画像フレームと熱平衡画像フレームとの赤外線放射率の差異を平均化してワーク画像フレームが形成されることを特徴とする熱型赤外線出力計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−38838(P2011−38838A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184868(P2009−184868)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000136941)株式会社ベテル (10)
【Fターム(参考)】