熱安定性酸素キャリアを含有する医薬組成物の調製方法
【課題】腎障害および血管収縮を生じることなく哺乳類において使用するのに適した、高純度で熱安定性の架橋された非ポリマー性四量体ヘモグロビンの提供。
【解決手段】望ましくない二量体形態のヘモグロビン、非架橋四量体ヘモグロビン、および血漿タンパク質不純物を効果的に除去するために、高温短時間(HTST)熱処理工程が行われる。熱処理後および任意に熱処理前のN−アセチルシステインの添加は、メトヘモグロビンの低レベルを維持する。熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンは、正常組織および低酸素組織における酸素付加を改善および延長することができる。もう一つの側面において、当該製品は白血病、大腸癌、肺癌、乳癌、肝臓癌、上咽頭癌、および食道癌のような種々の癌の治療に使用される。もう一つの応用は、心臓移植または酸素が欠乏した心臓のような、インビボでの酸素供給がない状況での心臓の保存である。
【解決手段】望ましくない二量体形態のヘモグロビン、非架橋四量体ヘモグロビン、および血漿タンパク質不純物を効果的に除去するために、高温短時間(HTST)熱処理工程が行われる。熱処理後および任意に熱処理前のN−アセチルシステインの添加は、メトヘモグロビンの低レベルを維持する。熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンは、正常組織および低酸素組織における酸素付加を改善および延長することができる。もう一つの側面において、当該製品は白血病、大腸癌、肺癌、乳癌、肝臓癌、上咽頭癌、および食道癌のような種々の癌の治療に使用される。もう一つの応用は、心臓移植または酸素が欠乏した心臓のような、インビボでの酸素供給がない状況での心臓の保存である。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2010年6月23日に出願された米国特許出願第12/821,214号、および2010年12月1日に出願された米国の一部継続特許出願第12/957,430号の優先権を主張するものである。
【著作権の通告/許諾】
【0002】
この特許書類の開示の一部には著作権の保護を受ける事項が含まれている。著作権者は、何人かが、この特許書類または特許開示を特許商標庁の特許ファイルまたは記録にある通りにファクシミリにより再生することには反対しないが、それ以外の如何なる場合にも全ての著作権を維持するものである。下記の告知は、以下の記載および添付の図面におけるプロセス、実験およびデータに適用される:著作権の表示、2010、ビリオン・キング・インターナショナル・リミテッドが全ての権利を保有する。
【技術分野】
【0003】
本発明は、熱安定性酸素キャリアを含有する医薬組成物の調製方法、および該方法により調製された組成物に関する。本発明はまた、該熱安定性酸素キャリアを含有する医薬組成物の、ヒトおよび他の動物のための癌治療、酸素欠乏障害の治療および臓器保存のための使用に関する。
【発明の背景】
【0004】
ヘモグロビンは、殆どの脊椎動物において、血管系と組織の間のガス交換のために重要な役割を果たす。それは、血液循環を介して呼吸器系から体細胞へと酸素を運搬し、また代謝老廃物である二酸化炭素を、二酸化炭素が吐出される呼吸器系へと体細胞から運び去ることを担当している。ヘモグロビンはこの酸素輸送の特徴を有しているので、エクスビボで安定化でき且つインビボで使用できれば、強力な酸素供給体として使用することができる。
【0005】
天然に存在するヘモグロビンは、赤血球細胞内に存在するときには一般に安定な四量体である。しかしながら、天然に存在するヘモグロビンが赤血球から取り出されると、それは血漿中で不安定になり、二つのα−β二量体に分裂する。これら二量体の各々は、分子量が約32kDaである。これら二量体は、腎臓を通して濾過および排泄されるときに実質的な腎障害を引き起こす。四量体結合の分解はまた、循環系における機能的ヘモグロビンの持続可能性に悪影響を与える。
【0006】
この問題を解決するために、ヘモグロビン加工における最近の発展は、四量体内での分子内結合、並びに四量体間での分子間結合を形成してポリマーヘモグロビンを形成するために、種々の架橋技術を取込んできた。従来技術は、ヘモグロビンの循環半減期を増大させるためには、ポリマーヘモグロビンが好ましい形態であることを教示している。しかし、本発明者等が確認したように、ポリマーヘモグロビンは血液循環系において容易にメトヘモグロビン(met-hemoglobin)に変換される。メトヘモグロビンは酸素と結合することができず、従って組織に酸素供給することができない。従って、従来技術によりポリマーヘモグロビンを生じることが教示された架橋は問題である。当該技術においては、ポリマーヘモグロビンの同時形成を伴うことなく安定な四量体を形成するための、分子内架橋を可能にする技術が必要とされている。
【0007】
ヘモグロビンを安定化させようとした従来技術に伴う更なる問題には、許容できない高パーセンテージの二量体ユニットを含んだ四量体ヘモグロビンの産生が含まれる:二量体の存在により、該ヘモグロビン組成物は、哺乳類への投与について満足できないものとなる。ヘモグロビンの二量体形態は、哺乳類の身体において幾つかの重篤な腎障害を生じる可能性がある;この腎障害は死亡の原因になり得るほどに十分に重篤である。従って、当該技術においては、最終製品中に二量体形態が検出され得ない安定な四量体ヘモグロビンを製造することが必要とされている。
【0008】
従来技術のヘモグロビン製品に伴うもう一つの問題は、投与後の突然の血圧上昇である。過去において、旧世代のヘモグロビンに基づく酸素キャリアからの血管収縮事象が記録されている。例えば、ヘモピュア製品(登録商標;Hemopure product;Biopure Co., USA)は、文献(Katz et al., 2010)に開示されたように、高い平均動脈圧(124±9mmHg)、または基底ライン(96±10mmHg)と比較したときに30%高い平均動脈圧を生じた。この問題を解決するための以前の試みはスルフヒドリル剤に依存しており、該試薬はヘモグロビンスルフヒドリル基と反応して、内皮由来の弛緩因子がスルフヒドリル基と結合するのを防止すると言われている。しかし、スルフヒドリル処理を使用することは処理工程を増やし、追加のコストを生じ、また後でヘモグロビン組成物から除去しなければならない不純物をもたらす。従って、当該技術では、哺乳類に適用したときに血管収縮および高血圧を生じないヘモグロビンを調製するための方法が必要とされている。
【0009】
安定なヘモグロビンを作製しようとした従来技術に伴う更なる問題には、哺乳類において、アレルギー効果を生じ得る免疫グロブリンG等のタンパク質不純物の存在が含まれる。従って、当該技術では、タンパク質不純物の存在しない安定な四量体ヘモグロビンを製造できる方法が必要とされている。
【0010】
上記問題に加えて、当該技術では、二量体を含まず、リン脂質を含まず且つ工業的規模で製造できる安定化された四量体ヘモグロビンが必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、重篤な腎障害、血管への有害な影響および死亡を含む重篤な副作用を起こすことなく、哺乳類において使用するのに適した、非ポリマー性で且つ熱安定性の精製された架橋四量体ヘモグロビンを加工するための方法を提供する。本発明は、二量体形態のヘモグロビン、未架橋の四量体ヘモグロビン、並びにリン脂質およびタンパク質不純物を除去する。加えて、本発明は、(1)正確且つ制御された低張溶解、(2)フロースルー型カラムクロマトグラフィー、(3)腎障害、血管の有害因子および他の毒性反応を回避できるように、望ましくないヘモグロビンの非安定性二量体を除去し、且つタンパク質不純物(例えば免疫グロブリンG)を除去するための高温短時間(HTST)装置、(4)製品中への酸素の侵入を回避するための気密注入バッグ包装を使用する。
【0012】
該方法は、少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類全血の出発材料を含んでいる。赤血球を哺乳類全血中の血漿から分離し、続いて濾過することにより濾過された赤血球画分を得る。この濾過された赤血球画分は、血漿タンパク質不純物を除去するために洗浄される。該洗浄された赤血球細胞は、流量が50〜1000リットル/時の今回の細胞溶解装置中において、白血球を溶解することなく赤血球を溶解するために充分な時間をかけて、制御された低張溶解により破壊される。濾過は、溶解液から排泄濃縮物の少なくとも一部を除去するように行われる。前記溶解液から、第一のヘモグロビン溶液が抽出される。
【0013】
第一の限界濾過プロセスは、第一のヘモグロビン溶液から四量体ヘモグロビンよりも高い分子量を有する不純物を除去し、更に何らかのウイルスおよび残留排泄濃縮物を除去して第二のヘモグロビン溶液を得るように構成された、限界濾過フィルタを使用して行われる。該第二のヘモグロビン溶液に対してフロースルーカラムクロマトグラフィーを行い、タンパク質不純物、二量体ヘモグロビンおよびリン脂質を除去して、リン脂質を含まないヘモグロビン溶液を得る。該リン脂質を含まないヘモグロビン溶液に対して、濃縮精製されたリン脂質を含まないヘモグロビン溶液中に残留する不純物を除去するように構成されたフィルタを使用して、第二の限界濾過プロセスを行う。
【0014】
少なくとも精製されたヘモグロビンのα−αサブユニットは、ポリマーヘモグロビンの形成を伴うことなく熱安定性の架橋ヘモグロビンを形成するように、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルにより架橋され、得られる非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンの分子量は60〜70kDaになる。ここで使用される「非ポリマー性」の表現は、他のヘモグロビン分子またはPEGのような何れか他の非ヘモグロビン分子と分子間架橋されていない四量体ヘモグロビンを意味する。リン酸緩衝食塩水(PBS)、乳酸リンゲル溶液、酢酸リンゲル溶液、またはTris緩衝液のような適切な生理学的緩衝液が、架橋四量体ヘモグロビンのために交換される。如何なる残留化学薬品も、接線流濾過(tangential-flow filtration)を使用して除去される。
【0015】
この手順の後に架橋ヘモグロビンを熱処理して、全ての残留非架橋四量体ヘモグロビンおよび全ての非安定化ヘモグロビン(例えば二量体形態のヘモグロビン)、並びに全ての他のタンパク質不純物を除去する。熱処理に先立って、メトヘモグロビンの形成を防止するために、任意にN−アセチルシステインを、約0.2%の濃度で架橋四量体ヘモグロビンに添加する。熱処理および冷却の直後に、メトヘモグロビンの形成を更に防止するために、N−アセチルシステインを約0.2%〜0.4%の濃度で添加する。この熱処理は、好ましくは、約70℃〜95℃において3秒〜3時間行われ、続いて25℃に冷却される高温短時間処理である。熱処理の間に形成される何らかの沈殿は、遠心分離または濾過装置により除去され、その後には透明な溶液が形成される。
【0016】
次いで、この二量体フリー、リン脂質フリー、タンパク質不純物フリーで、且つ熱安定性の非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンは医薬的に許容可能なキャリアに添加される。
【0017】
その後、この熱安定性架橋四量体ヘモグロビンは製剤化され、注文品の気密ポリエチレン、エチレン−ビニル−酢酸、エチレン−ビニルアルコール(PE,EVA,EVOH)製注入バッグの中に包装される。該包装は、不活性なメトヘモグロビンの形成をもたらす酸素汚染を防止する。
【0018】
上記方法により製造される熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンは、白血病、大腸癌、肺癌、乳癌、肝臓癌、上咽頭癌、および食道癌のような種々の癌の治療のために使用される。癌細胞を破壊するメカニズムは、低酸素条件における腫瘍の酸素付加を改善することにより、放射線および化学療法剤に対する感受性を増大させることである。熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンはまた、移植の際の臓器組織を保存するため、またはインビボでの酸素供給不足の状況、例えば酸素欠乏心臓において心臓を保存するためにも使用される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、異なるヘモグロビンのアミノ酸配列アラインメントを描いている。
【図2】図2は、本発明の方法の概要を描いたフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の方法に使用される細胞溶解装置を概略的に描いている。
【図4】図4は、(a)非熱処理架橋四量体ヘモグロビン、および(b)90℃で45秒〜2分間、または80℃で30分の熱処理を受けた熱安定性架橋四量体ヘモグロビンについての、高速液体クロマトグラフィー分析を描いている。
【図5】図5は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンについての、電子スプレーイオン化質量分光測定(ESI−MS)分析を描いている。
【図6】図6は、(a)精製ヘモグロビン溶液および(b)熱安定性架橋四量体ヘモグロビンについての、円二色性分光法分析を示している。
【図7】図7は、正常組織における酸素付加の改善を示している。0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液の注入は、(A)血漿ヘモグロビン濃度および(B)筋肉への酸素供給において顕著な増大をもたらす。血漿ヘモグロビンレベルと比較して、酸素付加における顕著な増大が長時間に亘って観察される。
【図8】図8は、低酸素腫瘍組織における酸素付加の改善を示している。0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液の注入は、頭部および頸部の扁平上皮細胞癌(HNSCC)異種移植片への酸素供給を顕著に増大させた。
【図9】図9は、(A)上咽頭癌(NPC)および(B)肝臓腫瘍のげっ歯類モデルにおける、部分的な腫瘍縮小を示している。
【図10】図10は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンで治療した後の、重篤な出血性ショックのラットモデルにおける平均動脈圧変化を示している。
【図11】図11は、フロースルーカラムクロマトグラフィーについての溶出プロファイルである:ヘモグロビン溶液はフロースルー画分中にある。
【図12】図12は、工業的規模での動作のための限外濾過を備えた、フロースルーCMカラムクロマトグラフィーシステムを概略的に描いている。
【図13】図13は、HTST熱処理工程のために使用される装置の概略図である。
【図14】図14は、HTST処理装置における温度プロファイル、および85℃および90℃の本発明のシステムにおいて非安定化四量体(二量体)を除去するために採用された時間を示している。
【図15】図15は、図13のHTST処理装置において、85℃および90℃のシステムにおけるメトヘモグロビン形成の速度を示している。
【図16】図16は、本発明の熱安定性架橋四量体ヘモグロビンのための注入バッグの概略図である。
【発明の詳細な説明】
【0020】
ヘモグロビンは、哺乳類および他の動物の血液の赤血球における、鉄を含んだ酸素輸送タンパク質である。ヘモグロビンは、タンパク質の三次構造および四次構造の両方の特徴を示す。ヘモグロビン中のアミノ酸の殆どは、短い非螺旋セグメントにより接続されたαへリックスを形成する。水素結合は、ヘモグロビンの内側の螺旋セクションを安定させて分子内での引力を生じ、それによって各ペプチド鎖を特定の形状に折畳む。ヘモグロビン分子は、四つの球状タンパク質サブユニットから組み立てられる。各サブユニットは、埋め込まれたヘム基と共に、「ミオグロブリン畳み込み」配列で接続された一組のαへリックス構造セグメントに配置されたポリペプチド鎖で構成される。
【0021】
ヘム基は、ポルフィリンとして知られるヘテロ環の中に保持された鉄原子からなっている。該鉄原子は、一つの面内にある環の中心において、四つの全ての窒素原子に均等に結合している。こうして、酸素はポルフィリン環の平面に対して垂直に、鉄中心に結合することができる。
【0022】
ヒト成人で最も普通のタイプのヘモグロビンは、ヘモグロビンAと呼ばれる四量体であり、α2β2と称する非共有結合で結合された二つのαサブユニットおよび二つのβサブユニットからなり、各々がそれぞれ141アミノ酸残基および146アミノ酸残基でできている。αサブユニットおよびβサブユニットのサイズおよび構造は、相互に非常に類似している。四量体の約65kDaの合計分子量について、各サブユニットは約16kDaの分子量を有している。四つのポリペプチド鎖は、塩橋、水素結合および疎水性結合によって相互に結合される。ウシ・ヘモグロビンの構造はヒト・ヘモグロビンに類似している(α鎖で90.14%の同一性;β鎖で84.35%の同一性)。相違点は、ウシ・ヘモグロビンにおける二つのスルフヒドリル基がβCys93に位置するのに対して、ヒトヘムロビンにおけるスルフヒドリル基はαCys104、βCys93およびβCys112にそれぞれ位置することである。図1は、ウシ、ヒト、イヌ、ブタおよびウマのヘモグロビンにおけるアミノ酸配列アラインメントを示しており、それぞれB、H、C、P、およびEで標識されている。種々の起源に由来する異なるアミノ酸には影線が付されている。図1は、ヒト・ヘモグロビンが、それらのアミノ酸配列を比較したときに、ウシ、イヌ、ブタおよびウマとの高い類似性を有していることを示している。
【0023】
赤血球の内部で天然に存在するヘモグロビンにおいて、α鎖とその対応するβ鎖との会合は非常に強く、生理学的条件下では脱離しない。しかし、赤血球の外では、一つのαβ二量体ともう一つのαβ二量体との会合は非常に弱い。結合は、各々が約32kDaの二つのαβ二量体に分離する傾向を有している。これらの望ましくない二量体は、腎臓で濾過および排泄されるためには十分に小さく、その結果として潜在的な腎障害および実質的に減少された血管内保持時間がもたらされる。
【0024】
従って、有効性および安全性の両方のために、赤血球の外で使用される全てのヘモグロビンを安定化させることが必要とされる。安定化されたヘモグロビンを製造するための方法を以下で概説する;本発明の方法の概観が図2のフローチャートに提示されている。
【0025】
最初に、赤血球由来ヘモグロビンの供給源としての全血源を選択する。ヒト、ウシ、ブタ、ウマおよびイヌの全血を含む哺乳類の全血が選択されるが、これらに限定されない。赤血球を血漿から分離し、濾過し、洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去する。
【0026】
赤血球からヘモグロビンを放出するために、細胞膜を溶解させる。赤血球を溶解させるために種々の技術を使用できるが、本発明では、工業的規模の生産に適した容量で正確に制御できるように、低張条件下での溶解を使用する。この目的のために、図3に見られる瞬間細胞溶解装置を、赤血球を溶解するために使用する。低張溶解により、ヘモグロビンおよび老廃物濃縮物を含有する溶解物の溶液が形成される。工業的規模での製造を可能にするために、溶解は、白血球または他の細胞を溶解することなく、赤血球だけを溶解させるように注意深く制御される。一実施形態において、細胞溶解装置のサイズは、2〜30秒または赤血球が溶解されるのに充分な時間、好ましくは30秒で赤血球が装置を横切るように選択される。該細胞溶解装置は、静電ミキサーを含んでいる。脱イオン化された蒸留水が低張溶液として使用される。勿論、異なる食塩水濃度を有する他の低張溶液を使用すれば、赤血球細胞溶解のための異なった時間がもたらされるであろう。制御された溶解方法は、白血球または細胞物質を溶解せずに白血球のみを溶解するので、毒性のタンパク質、リン脂質または白血球由来のDNAの放出を最小化する。低張溶液は30秒後に、即ち、赤血球を含有する溶液が該細胞溶解装置の静電ミキサー部分を横切った後、直ちに添加される。得られたヘモグロビンは、他の溶解技術を使用して得たヘモグロビンよりも高い純度、並びに低レベルの汚染物(例えば望ましくないDNAおよびリン脂質)を有している。白血球由来の望ましくない核酸およびリン脂質不純物は、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(検出限界=64pg)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC、検出限界=1μ/mL)法によっても、ヘモグロビン溶液中において検出されない。
【0027】
二つの限外濾過プロセスが実行される:一つは、フロースルーカラムクロマトグラフィーの前に、ヘモグロビンよりも大きい分子量を有する不純物を除去し、もう一つは、フロースルーカラムクロマトグラフィーの後に、ヘモグロビンよりも小さい分子量を有する不純物を除去する。後者の限外濾過プロセスはヘモグロビンを濃縮する。幾つかの実施形態においては、第一の限外濾過のために100kDaのフィルタが使用されるのに対して、第二の限外濾過のためには30kDaのフィルタが用いられる。
【0028】
精製されたヘモグロビン溶液中のタンパク質不純物、例えば免疫グロブリンG、アルブミンおよび炭酸脱水酵素を除去するためには、フロースルーカラムクロマトグラフィーが使用される。幾つかの実施形態において、カラムクロマトグラフィーは、DEAEカラム、CMカラム、ヒドロキシアパタイトカラム等のような商業的に入手可能な一つのイオン交換カラムまたはこれらカラムの組合せを使用することにより行われる。カラムクロマトグラフィーのためのpHは、典型的には6〜8.5である。一つの実施形態において、フロースルーCMカラムクロマトグラフィー工程は、pH8.0においてタンパク質不純物を除去するために使用される。酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)は、カラムクロマトグラフィーから溶出した後、サンプル中に残存しているタンパク質不純物およびリン脂質を検出するために行われる。この独特なフロースルーカラムクロマトグラフィー分離は、工業的スケールでの製造のための連続的な分離スキームを可能にする。ELISAの結果は、溶出したヘモグロビン中におけるこれら不純物の量が実質的に低いことを示している(免疫グロブリンG:44.3ng/ml;アルブミン:20.37ng/ml;炭酸脱水素酵素:81.2μg/ml)。異なるpH値で異なる種類のカラムを用いたタンパク質不純物除去の結果が、下記の表1に示されている。
【表1】
【0029】
カラムクロマトグラフィープロセスに続き、ヘモグロビンは、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチル(DBSF)による架橋を受ける。ポリマーヘモグロビンの形成を防止するために、該反応は、脱酸素化された環境(好ましくは0.1ppm未満の溶存酸素レベル)において、ヘモグロビンのDBSFに対するモル比が1:2.5〜1:4.0で、周囲温度(15〜25℃)で3〜16時間、好ましくは約8〜9のpHにおいて、また得られる架橋ヘモグロビンが60〜70kDaの分子量を有する四量体ヘモグロビンで、且つポリマーヘモグロビンが存在しないことを示すように、注意深く制御される。DBSF反応の収率は高く(>99%)、最終生成物における二量体濃度は低い。任意に、本発明の方法は、種々の従来技術の方法において使用されているような、架橋前のヘモグロビンと反応するヨードアセタミド等のスルフヒドリル処理試薬を必要としない。
【0030】
この点において、架橋溶液のために、リン酸緩衝食塩水(PBS)、生理学的緩衝液が交換され、また如何なる残留化学薬品も接線流濾過により除去される。
【0031】
脱酸素条件下でのDBSFによるヘモグロビンの架橋プロセスに続き、本発明は、架橋された四量体ヘモグロビン溶液のための、脱酸素環境における熱処理を提供する。熱処理に先立って、メトヘモグロビン(不活性ヘモグロビン)の形成を防止するために、N−アセチルシステインが任意に添加される。熱処理工程の後、低レベルのメトヘモグロビンを維持するために該溶液は冷却され、またN−アセチルシステインが直ちに添加される。N−アセチルシステインが熱処理の前後に添加されるのであれば、熱処理の前に添加される量は約0.2%である一方、熱処理後に添加される量は約0.2〜0.4%である。しかし、N−アセチルシステインが熱処理後だけに添加されるのであれば、添加される量は0.4%である。
【0032】
幾つかの実施形態において、架橋四量体ヘモグロビン溶液は脱酸素環境(0.1ppm未満の溶存酸素レベル)において、50℃〜95℃の温度範囲の下で0.5分〜10時間加熱される。幾つかの実施形態において、架橋四量体ヘモグロビン溶液は、70℃〜95℃の温度範囲で30秒〜3時間加熱される。幾つかの実施形態において、架橋四量体ヘモグロビン溶液は80℃で30分間加熱される。更に他の実施形態では、該架橋ヘモグロビン溶液は30秒〜3分間90℃まで加熱され、次いで15〜30秒間25℃まで迅速に冷却され、上記で述べたようにしてN−アセチルシステインが添加される。非常に小量のメトヘモグロビン、例えば3%未満が生じる。N−アセチルシステインを使用しないと、形成されるメトヘモグロビンの量は約16%であり、これは医薬用途のためには許容できないほど高いパーセンテージである。
【0033】
その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電子スプレーイオン化質量分光測定(ESI−MS)、円二色性(CD)分光法、およびp50測定のためのヘモックス(Hemox)分析器を使用して、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンが分析および特徴付けされる。図4は、ウシ血液を起源とするヘモグロビンの場合、90℃で45秒〜2分、または80℃で30分の熱処理を受けたヘモグロビンについて、HPLCシステム(検出限界:2.6μg/mLまたは0.043%)ではヘモグロビンの二量体形態が検出不能であることを示している。架橋ポリマー四量体ヘモグロビンは、80または90℃において、或る期間は熱的に安定であることが分かる。該熱処理(高温短時間、HTST)工程は、天然の未反応四量体形態および二量体形態のヘモグロビンを変性させるための強力な工程である。
【0034】
このHTST工程の結果を分析するために、HPLC分析方法を使用して、この熱処理工程後の二量体の量を検出する。HPLC分析のための移動相は、二量体(非安定化四量体)および熱安定性架橋四量体のヘモグロビンを分離できる塩化マグネシウム(0.75M)を含んでいる。二量体へのヘモグロビンの解離を促進するために、塩化マグネシウムは、同じイオン強度の塩化ナトリウムよりも約30倍効果的である。この熱処理工程はまた、架橋四量体ヘモグロビン中のこれら望ましくないタンパク質不純物を劇的に除去するための変性工程として働く(免疫グロブリンGにおいて検出不能;アルブミンにおいて検出不能;炭酸脱水素酵素において99.99%減少)。サンプル中のタンパク質不純物を検出するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)が行われる。こうして精製された熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液は、検出不能なレベルの二量体(検出限界未満:0.043%)および免疫グロブリン、並びに極く小量のアルブミン(0.02μg/mL)および炭酸脱水素酵素(0.014μg/mL)を有している。表2は、HTST熱処理工程によるタンパク質不純物および二量体の除去に関する実験結果を示している。このHTST熱処理工程は、不安定な四量体および二量体からの熱安定性架橋四量体の選択的分離を可能にする。
【表2】
【0035】
脱酸素条件下での架橋ヘモグロビンの熱処理工程の後に、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンは、医薬の製剤化および包装のための準備ができている。本発明は、脱酸素環境における熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液の気密包装工程を記載している。本発明における熱安定性架橋四量体ヘモグロビンは、脱酸素条件下において2年以上安定である。
【0036】
本発明において、酸素キャリア含有医薬組成物は、主に静脈注射での適用を意図している。以前の製品は、従来より、慣用的なPVC血液バッグまたはステリコン血液バッグ(Stericon blood bag)を使用する。これは高い酸素透過性を有していて、酸素付加条件下においては生成物を迅速に(数日以内)不活性なメトヘモグロビンに変えるので、結果として製品の寿命が短縮される。
【0037】
本発明において使用する包装は、2年以上安定な熱安定性架橋四量体ヘモグロビンをもたらす。ガス透過性を最小限にして不活性なメトヘモグロビンの形成を回避するために、EVA/EVOH材料の多層包装が使用される。本発明の精製された熱安定性架橋四量体ヘモグロビンと共に使用するために設計された100mL注入バッグは、厚さが0.4mmの5層のEVA/EVOHラミネート材料で製造され、これは0.006〜0.132cm3/100平方インチ/24時間/室温気圧の酸素透過性を有する。この材料は、クラスVIのプラスチック(USP<88>に定義されている)であり、これはインビボ生物学的反応性試験および物理化学的試験に適合し、また静脈注入目的の注入バッグを製造するために適している。この一次バッグは、その不安定性を生じ且つ最終的にはその治療特性に影響する長期間の酸素露出から、熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液を保護するために特に有用である。
【0038】
血液製品の二次保護のために、潜在的な空気漏れに対して保護し、且つ製品を脱酸素状態に維持するアルミニウム製の上包装を使用することが知られている。しかし、アルミニウム製の上包装には潜在的なピンホールが存在し、その気密性を損ない、製品を不安定にする。従って、本発明は二次包装として、酸素付加を防止し且つ光露出を防止するアルミニウム製の上包装パウチを使用する。該上包装パウチの組成には、0.012mmのポリエチレンテレフタレート(PET)、0.007mmのアルミニウム(Al)、0.015mmのナイロン(NY)、および0.1mmのポリエチレン(PE)が含まれている。上包装フィルムは0.14mmの厚さおよび0.006cm3/100平方インチ/24時間/室温気圧の酸素透過率を有している。この二次包装は、ヘモグロビンのための安定時間を長くし、製品の貯蔵寿命を延長する。
【0039】
本発明のヘモグロビンは、ESI−MSを含む種々の技術によって分析される。ESI−MSは、非常に大きな分子の分析を可能にする。それは、タンパク質をイオン化し、次いでイオン化されたタンパク質を質量/電荷比に基づいて分離することにより、高分子量化合物を分析するイオン化技術である。従って、分子量およびタンパク質相互作用を正確に決定することができる。図5において、ESI−MS分析結果は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンのサイズが65kDa(非ポリマーヘモグロビン四量体)であることを示している。190〜240nmの遠紫外線CDスペクトルは、ヘモグロビンにおけるグロブリン部分の二次構造を明らかにしている。図6において、精製されたヘモグロビン溶液および熱安定性架橋四量体ヘモグロビンのスペクトルの一致性は、90℃での熱処理の後でも、ヘモグロビン鎖が適正に折り畳まれていることを明らかにしている。このCDの結果は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンがαへリックスの42%、βシートの38%、βターンの2.5%およびランダムコイルの16%を有していることを示している。それは更に、この架橋四量体ヘモグロビンが熱的に安定であることを確認している。
【0040】
本発明における方法は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの大規模の工業的製造に適用可能である。加えて、医薬キャリア(例えば、カプセル形態における水、生理学的緩衝液)と組み合わされた熱安定性架橋四量体ヘモグロビンは、哺乳類での使用に適している。
【0041】
本発明は更に、組織の酸素付加の改善、癌治療、出血性ショックのような酸素欠乏症、および低酸素含量環境下での心臓保存(例えば心臓移植)における、酸素キャリアを含有する医薬組成物の使用を開示している。投与量は、10mL/時/kg体重未満の注入速度で、約0.2〜1.3g/kgの濃度範囲を有するように選択される。
【0042】
癌治療における使用について、本発明の酸素キャリアを含有する医薬組成物は、腫瘍組織における酸素付加を改善することにより、化学感受性および放射線感受性を高めるための組織酸素付加剤として働く。
【0043】
加えて、本発明では、正常組織(図7)および極度の低酸素腫瘍である上咽頭癌(CNE2細胞株を使って)(図8)における酸素付加を改善するための、ヒト熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの能力が示される。ヒトCNE2異種移植片の組織トラックに沿った代表的な酸素プロファイルが図8に示されている。腫瘍内の酸素分圧(pO2)は、微小位置決めシステム(DTI Limited)に結合された光ファイバー酸素センサ(Oxford Optronix Limited)によって直接モニターされる。0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後、pO2の中央値は、15分以内に基底ラインから相対的平均酸素分圧の約2倍まで上昇して、6時間にまで達する。更に、平均での酸素レベルは、注入後24〜48時間でもなお、基底ラインよりも25%〜30%高いレベルを維持する。商業的製品または現存の技術は、本発明で調製された酸素キャリア含有医薬組成物に比較したとき、そのような高い効率を示さない。
【0044】
腫瘍組織の酸素付加について、ヒト頭部および頸部における扁平上皮細胞癌(HNSCC)異種移植片の代表的な酸素プロファイルが図8に示されている。0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後、6.5倍および5倍を超える平均pO2の顕著な増大が、それぞれ3時間および6時間の時点で観察される(図8)。
【0045】
癌治療における応用について、本発明の酸素キャリア含有医薬組成物は、腫瘍組織における酸素付加を改善し、それによって化学療法感受性および放射線感受性を高めるための組織酸素付加剤として働く。X線照射と熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの組合せにおいて、腫瘍の増殖は遅延される。図9Aにおいて、代表的な曲線は、上咽頭癌のげっ歯類モデルにおける腫瘍の顕著な縮小を示している。CNE2異種移植片を有するヌードマウスを、X線の単独(2Gy)または熱安定性架橋四量体ヘモグロビンとの組合せ(2Gy+Hb)で処理する。1.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンは、X線照射の約3〜6時間前にマウスに静脈注射され、上咽頭癌異種移植変の部分的な縮小を生じる。
【0046】
一実施形態においては、化学療法剤と組み合わせて当該組成物を注入した後に、顕著な肝臓腫瘍の縮小が観察される。図9Bにおいて、代表的なチャートは、ラットの正所性肝臓癌モデルにおいて腫瘍の顕著な縮小を示している。肝臓腫瘍の正所移植片(orthograft;CRL1601細胞株)を有するバッファローラットを、3mg/kgのシスプラチン単独で、または0.4g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンとの組合せ(シスプラチン+Hb)で治療する。シスプラチン注射の前に熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを投与することは、肝臓腫瘍の部分的縮小を生じる。
【0047】
酸素欠乏障害の治療における使用および心臓保存について、本発明の酸素キャリア含有医薬組成物は、標的器官に酸素を提供する代替血液として働く。
【0048】
0.5g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンで治療した後の、重篤な出血性ショックのラットモデルにおける平均動脈圧変化が図10に示されている。重篤な出血性ショックのラットモデルでは、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンでの治療後に、平均動脈圧は安全且つ安定なレベルに復帰し、基底ラインまたはその近傍も維持される。熱安定性架橋四量体ヘモグロビンでの治療後に平均動脈圧が正常に戻るために必要とされる時間は、正の対照として働くラットの自己血液を投与する場合よりも短い。この結果は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの注入後に血管収縮事象が起こらないことを示している。
【実施例】
【0049】
以下、如何なる意味でも本発明の範囲を限定することを意図することなく、本発明の特定の実施形態を説明することにより、本発明の実施例を記載する。
【0050】
実施例1
プロセスの概観
図2に、本発明の方法の概略フロー図が示されている。ウシ全血を、抗凝固剤として3.8%(w/v)のクエン酸三ナトリウム溶液を含む閉じた滅菌容器/バッグの中に採取する。次いで、血液を直ちにクエン酸三ナトリウム溶液と充分に撹拌し、血液の凝固を阻止する。アフェレーシス機構により、血漿および他の小さい血液細胞から赤血球(RBC)を単離および回収する。この方法のために、ガンマ線滅菌された使い捨ての遠心分離ボールと共に、「細胞洗浄機」を使用する。RBCを等容量の0.9%(w/v塩化ナトリウム)食塩水で洗浄する。
【0051】
RBC細胞膜に対して低張性ショックを処置することにより、洗浄されたRBCを溶解してヘモグロビン内容物を放出させる。RBC溶解装置のために特殊化された図3に示す瞬間細胞溶解装置が、この目的のために使用される。RBC溶解に続き、100kDaの膜を使用した接線流限外濾過により、ヘモグロビン分子を他のタンパク質から単離する。濾液中のヘモグロビンをフロースルーカラムクロマトグラフィーのために採取し、30kDa膜によって更に12〜14g/dLまで濃縮する。カラムクロマトグラフィーを行って、タンパク質不純物を除去する。
【0052】
最初に、濃縮ヘモグロビン溶液を脱酸素条件下でDBSFと反応させて、熱安定性架橋四量体ヘモグロビン分子を形成する。次いで、最終的な製剤化および包装の前に、90℃で30秒〜3分間、脱酸素条件下で熱処理工程を行う。
【0053】
実施例2
時間&制御された低張溶解および濾過
ウシ全血を新たに採取し、冷却条件下(2〜10℃)で輸送する。細胞洗浄機およびこれに続く0.65μmの濾過を介して、赤血球を血漿から分離する。赤血球(RBC)濾液を0.9%食塩水で洗浄した後、濾液を低張溶解により破壊する。該低張溶解は、図3に示した瞬間細胞溶解装置を使用して行う。この細胞溶解装置は、細胞溶解を補助するための静電ミキサーを含んでいる。ヘモグロビン濃度が制御された(12〜14g/dL)RBC懸濁液を4容量の精製水と混合して、RBC細胞膜に対して低張ショックを発生させる。低張ショックの時間は、白血球および血小板の望ましくない溶解を回避するように制御される。この低張溶液は、瞬間細胞溶解装置の静電ミキサー部分を2〜30秒または赤血球を溶解するのに充分な時間、好ましくは30秒の間に通過する。このショックは、30秒後に溶解液が静電ミキサーを出るときに、該溶解液に1/10容量の高張緩衝液を混合することによって停止される。使用した高張溶液は、0.1Mリン酸緩衝液、7.5%NaCl、pH7.4である。図3の瞬間細胞溶解装置は、連続運転で50〜1000L/時、好ましくは少なくとも300L/時の溶解物を処理することができる。
【0054】
RBC溶解の後、赤血球溶解物を0.22μmのフィルタにより濾過してヘモグロビン溶液を得る。白血球からの核酸およびリン脂質不純物は、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(検出限界=64pg)およびHPLC法(検出限界=1μ/mL)によっては、ヘモグロビン溶液中において検出されない。ヘモグロビンよりも高い分子量を有する不純物を除去するために、最初の100kDa限外濾過が行われる。ヘモグロビン溶液を更に精製するために、フロースルーカラムクロマトグラフィーが続いて行われる。次いで、ヘモグロビンよりも低分子量の不純物を除去し、また濃縮するために、第二の30kDa限外濾過が行われる。
【0055】
実施例3
ストローマを含まないヘモグロビン溶液に対するウイルスクリアランスの研究
本発明の生成物の安全性を示すために、(1)0.65μmダイアフィルトレーション工程および(2)100kDa限外濾過工程のウイルス除去能力が、ウイルス確証研究によって示される。これは、異なるモデルウイルス(脳心筋炎ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス、およびウシパルボウイルス)を用いたこれら二つの処理の縮小規模バージョンの慎重なスパイキングによって行われた。この研究においては、四つのタイプのウイルスが使用された(表3参照)。これらのウイルスは、それらの生物物理学的および構造的特徴が変化し、また物理的および化学的な薬剤または治療に対する抵抗における変化を示す。
【表3】
【0056】
確証スキームを、以下の表4に簡単に示す。
【表4】
【0057】
(1)0.65μmダイアフィルトレーションおよび(2)100kDa限外濾過における4種類のウイルスの対数減少結果の要約を、下記の表5に示す。
【表5】
【0058】
注:
≧ 残留感染性は決定されず
実施例4
フロースルーカラムクロマトグラフィー
何れかのタンパク質不純物を更に除去するために、CMカラム(GEヘルスケア社から商業的に入手可能)を使用する。出発緩衝液は20mMの酢酸ナトリウム(pH8.0)であり、溶出緩衝液は20mMの酢酸ナトリウム、2MのNaCl(pH8.0)である。出発緩衝液でCMカラムを平衡化した後、タンパク質サンプルを該カラムに載せる。未結合のタンパク質不純物を、少なくとも5カラム容量の出発緩衝液で洗浄する。8カラム容量の25%溶出緩衝液(0〜0.5MのNaCl)を使用して溶出を行う。溶出プロファイルを図11に示す;ヘモグロビン溶液はフロースルー画分の中にある。フロースルー画分の純度を、ELIZAにより分析する。その結果を下記の表6に示す。
【表6】
【0059】
ヘモグロビン溶液は、pH8のCMカラムクロマトグラフィーからのフロースルーの中にある(溶出液中ではない)ので、連続的な工業的規模の操作にとっては良好なアプローチである。工業的規模の操作のために、第一の限界濾過設備をフロースルーCMカラムクロマトグラフィーシステムに直接接続し、またフロースルー配管を第二の限外濾過設備に接続することができる。工業的プロセスの概略的構成を図12に示す。
【0060】
実施例5
熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの調製
<5a>:DBSFを用いた架橋反応
この架橋反応は脱酸素条件において行う。DBSFをヘモグロビン溶液に加えて、ポリマーヘモグロビンの形成を伴うことなく、架橋された四量体ヘモグロビンを形成する。DBSF安定化法はヘモグロビンの四量体形態(65kDa)を安定化させて、腎臓を通して排泄される二量体(32kDa)への解離を防止する。この実施形態においては、ヘモグロビンのDBSFに対する1:2.5のモル比が使用され、pHは8.6である。このプロセスは、ヘモグロビンの酸化により生理学的に不活性な第一鉄メトヘモグロビンが形成されることを防止するために、窒素の不活性雰囲気中において、3〜16時間、周囲温度(15〜25℃)で行われる(溶存酸素レベルは少なくとも0.1ppm未満に維持される)。DBSF反応の完了は、HPLCを使用して残留DBSFを測定することによりモニターされる。DBSF反応の収率は高く、>99%である。
【0061】
<5b>:HTST熱処理工程
高温短時間(HTST)処理装置が図13に示されている。HTST処理装置を使用した熱処理を、架橋四量体ヘモグロビンに対して行う。この例において、熱処理の条件は90℃で30秒〜3分、好ましくは45〜60秒であるが、上記で述べたような他の条件を選択することもでき、それに従って装置を改変することもできる。任意に0.2%のN−アセチルシステインを添加した架橋ヘモグロビンを含有する溶液は、1.0L/分の流量でHTST処理装置の中にポンプ輸送され(HTST熱交換器の第一の区画は90℃に予熱および維持される)、また、該装置の第一区画の滞留時間は45〜60秒であり、次いで該溶液は同じ流量で、25℃に維持される熱交換器のもう一つの区画の中へと通される。冷却のために必要な時間は15〜30秒である。25℃まで冷却した後、0.2%〜0.4%、好ましくは0.4%の濃度のN−アセチルシステインが直ちに添加される。HTST加熱プロセスの後のこの化学薬品の添加は、メトヘモグロビン(不活性ヘモグロビン)を低レベルに維持するために非常に重要である。該処理装置の構成は、工業的操作のために容易に制御される。二量体含量と共に温度プロファイルを図14に示す。ヘモグロビンが架橋されていなければ、それは熱的に安定ではなく、加熱工程の後に沈殿を形成する。この沈殿は、その後に透明な溶液を形成するために遠心分離または濾過装置により除去される。
【0062】
90℃でのHTST加熱プロセスの間に、メトヘモグロビン(不活性ヘモグロビン)が増大する(図15に示す)。N−アセチルシステインを直ちに添加した後には、約3%未満の低レベルのメトヘモグロビンを維持することができる。
【0063】
下記の表7は、免疫グロブリンG、アルブミン、炭酸脱水素酵素および望ましくない非安定化型の四量体または二量体等の不純物が、熱処理工程の後に除去されることを示している。免疫グロブリンG、アルブミンおよび炭酸脱水素酵素の量をELISA法を用いて測定する一方、二量体の量はHPLC法により決定される。HTST加熱処理工程の後の熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの純度は極めて高く、98.0〜99.9%の範囲である。p50値、即ち、ヘモックス分析器(Hemox Analyzer)により測定された酸素分圧(その分圧ではヘモグロビン溶液が半分(50%)飽和している)は、HTST加熱処理工程の全体を通して約30〜40mmHgに維持され、従って、熱処理された架橋四量体ヘモグロビンは90℃で安定である。
【表7】
【0064】
実施例6
包装
本発明の製品は脱酸素条件下において安定なので、ガス透過性を最小化するために該製品の包装は重要である。静脈適用のために、0.006〜0.132cm3/100平方インチ/24時間/室温気圧の酸素透過性を有する厚さ0.4mmの5層のEVA/EVOH積層材料から、注文設計された100mLの注入バッグを作製した。この特別な材料はクラスVIプラスチック(USP<88>に定義されている)であり、これはインビボ生物学的反応性試験および物理化学的試験に適合し、また静脈注入目的の注入バッグを製造するために適している(なお、望ましい用途に応じて、他の形態の包装も同様にこの材料から製造できる)。二次包装のアルミニウム上包装パウチもまた、この一次包装注入バッグに適用されて追加のバリアを提供し、光露出および酸素拡散を最小化する。該パウチの層は次のものを含んでいる:即ち、0.012mmのポリエチレンテレフタレート(TE)、0.007mmのアルミニウム(Al)、0.015mmのナイロン(NY)、および0.1mmのポリエチレン(PE)である。上包装フィルムは0.14mmの厚さ、および0.006cm3/100平方インチ/24時間/室温気圧の酸素透過速度を有している。該注入バッグの概略的描写が図16に描かれている。本発明による各注入バッグについての全体の酸素透過性は、0.0025cm3/24時間/室温気圧である。
【0065】
実施例7
酸素付加の改善
<7a>:正常組織における酸素付加の改善
熱安定性架橋四量体ヘモグロビンによる正常組織の酸素付加についての幾つかの研究がおこなわれる(図7に示した)。比較薬物動態学および薬力学の研究を、バッファローラットにおいて行なう。雄の純系バッファローラットに対して、ラットの陰茎静脈を通して、個別に大量瞬時投与の注射により、0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液または酢酸リンゲル緩衝液(対照群)を投与する。血漿ヘモグロビンの濃度−時間プロファイルを、1、6,24、48時間にヘモキュー(Hemocue;商標名)フォトメータによって決定し、基底ラインの読みと比較する。この方法はヘモグロビンの光測定に基づいており、ここではヘモグロビンの濃度がg/dLとして直接読み出される。酸素分圧(pO2)は、バッファローラットの後脚筋肉において、オキシラボ(Oxylab;商標)組織酸素付加および温度モニター(Oxford Optronix Limited)により直接測定する。ラットを30〜50mg/kgのペントバルビトン溶液の腹腔内注射によって麻酔し、続いて酸素センサを筋肉内に挿入する。全てのpO2の読みを、データトラックス2(Datatrax2)データ取得システム(World Precision Instrument)によりリアルタイムで記録する。結果は、0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後に、平均pO2値が基底ラインから15分以内の平均酸素分圧の約2倍に上昇し、6時間にまで達することを示している。最後に、注射後の24〜48時間でも、平均の酸素レベルは基底ラインより25%〜30%高く維持される(図7B)。
【0066】
<7b>:極度に低酸素状態の腫瘍領域における酸素付加の顕著な改善
極度に低酸素状態の腫瘍領域における酸素付加の改善を、ヒトの頭部および頸部の扁平上皮細胞癌(HNSCC)異種移植片モデルによって評価する。下咽頭扁平上皮細胞癌(FaDu細胞株)を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手する。約1×106個の癌細胞を4〜6週齢の4匹の純系BALB/cAnN−nu(ヌード)マウスに皮下注射する。この腫瘍異種移植片の直径が8〜10mmに達したときに、腫瘍塊内の酸素分圧(pO2)をオキシラボ(Oxylab;商標)組織酸素付加および温度モニター(Oxford Optronix Limited)により直接測定する。全てのpO2の読みを、データトラックス2(Datatrax2)データ取得システム(World Precision Instrument)によりリアルタイムで記録する。pO2の読みが安定化したときに、0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液をマウスの尾静脈を通して静脈注射し、組織の酸素付加を測定する。結果は、0.2g/kgの前記熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後に、6.5倍および5倍以上の平均pO2の増大が、それぞれ3時間および6時間で観察される(図8)。
【0067】
実施例8
癌治療研究:上咽頭癌における顕著な腫瘍縮小
X線照射と組み合わせて熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液を投与した後に、顕著な腫瘍縮小が観察される(図9A)。ヒト上咽頭癌異種移植片モデルを用いる。約1×106個の癌細胞(CNE2細胞株)を、4〜6週齢の4匹の純系BALB/cAnN−nu(ヌード)マウスに皮下注射する。この腫瘍異種移植片の直径が8〜10mmに達したときに、腫瘍をもったマウスをランダムに次の三つのグループに分ける。
【0068】
グループ1:酢酸リンゲル緩衝液(Ctrl)
グループ2:酢酸リンゲル緩衝液+X線照射(2Gy)
グループ3:熱安定性架橋四量体ヘモグロビン+X線照射(2Gy+Hb)
CNE2異種移植片をもつヌードマウスにX線照射を単独で(グループ2)、または熱安定性架橋四量体ヘモグロビンとの組合せで(グループ3)行った。X線照射(グループ2および3)については、50mg/kgのペントバルビトン溶液の腹腔内注射によってマウスを麻酔する。2GrayのX線を、腫瘍を持ったマウスの異種移植片に対して線形加速器システム(Varian Medical Systems)により与える。グループ3については、X線治療の前に、1.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを、尾静脈を通してマウスに注射する。腫瘍の寸法および体重を、治療の初日から始めて2日ごとに記録する。式1/2LW2を使用して腫瘍の重量を計算する。ここでのLおよびWは、デジタル測径器(Mitutoyo Co, Tokyo, Japan)により各測定時に計測された腫瘍塊の長さおよび幅である。グループ1は、非治療対照群である。結果(図9に示す)は、X線照射と組み合わせて熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液で治療されたマウスにおいて、CNE2異種移植片の顕著な縮小が観察されることを示している(グループ3、図9A)。
【0069】
実施例9
癌治療研究:肝臓腫瘍の顕著な収縮
更に、シスプラチンと組み合わせて熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液を投与した後に、顕著な腫瘍縮小が観察される(図9B)。ラットの正所性肝臓癌モデルを用いる。ルシフェラーゼ遺伝子(CRL1601−Luc)で標識された約2×106個のラット肝臓腫瘍細胞を、バッファローラットにおける肝臓の左葉に注入する。腫瘍増殖をゼノーゲン(Xenogen)インビボ撮像システムによってモニターする。注入の2〜3週後に、腫瘍組織を回収し、小片に切断して、第2グループのラットの左葉肝臓の同所に移植する。腫瘍をもつラットを、以下のように三つのグループにランダムに分ける。
【0070】
グループ1:酢酸リンゲル緩衝液(対照)
グループ2:酢酸リンゲル緩衝液+シスプラチン(シスプラチン)
グループ3:熱安定性架橋四量体ヘモグロビン+シスプラチン(シスプラチン+Hb)
肝臓腫瘍組織を移植したラットを、3mg/kgのシスプラチンを単独で(グループ2)、または熱安定性架橋四量体ヘモグロビンとの組合せで(グループ3)用いて治療した。グループ2および3については、30〜50mg/kgのペントバルビトン溶液の腹腔内注射によってラットを麻酔し、左門脈を通してシスプラチンを投与する。グループ3については、0.4g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを、シスプラチン治療の前にラットの陰茎静脈を通して静脈注射する。グループ1は、非治療対照群である。重要なこととして、治療の3週後に肝臓腫瘍の顕著な縮小が観察される(図9B)。
【0071】
実施例10
ラットにおける急性の重篤な出血性ショックの治療
熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを、ラットの急性の重篤な出血性ショックのモデルでの蘇生剤としても使用する。50匹のスプラグ−ドーリー系ラットを、蘇生剤に従ってランダムに三つのグループに分ける。各グループには16〜18匹のラットが含まれる。
【0072】
グループ1:乳酸リンゲル緩衝液(負の対照、16匹のラット)
グループ2:動物の自家血液(正の対象、16匹のラット)
グループ3:熱安定性架橋四量体ヘモグロビン治療群(0.5gHb/kg体重、18匹のラット)。
【0073】
急性の重篤な出血性ショックは、動物の全血の50%(体重の7.4%と見積もられる)を抜き取ることにより樹立する。出血性ショックが10分間樹立された後に、乳酸リンゲル溶液、動物の自家血液、または0.5gHb/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを動物に注入する。熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの注入速度は5mL/時に設定し、その後、全ての実験動物を24時間観察する。研究期間に亘って、生存、血行動態、心筋機構、心臓出力、心機能、血液ガス、組織酸素供給&消費、組織灌流&酸素張力(肝臓、腎臓および脳)、肝機能&腎機能、血液レオロジー(血液粘度)、およびミトコンドリア呼吸制御速度(肝臓、腎臓および脳)を含むパラメータのパネルを観察および分析する。特に、生存は主要な終点である。24時間の観察の後、熱安定性架橋四量体ヘモグロビン治療群は、乳酸リンゲル溶液または負の対照群および自家血液群と比較して、遙かに高い生存率を有する(下記の表8に示す)。
【表8】
【0074】
上記のように種々の実施形態に関して本発明を説明したが、このような実施形態は限定的なものではない。当業者は多くの変形例および修飾を理解するであろう。このような変形および修飾は、特許請求の範囲の範囲内に含まれるものと看做される。
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2010年6月23日に出願された米国特許出願第12/821,214号、および2010年12月1日に出願された米国の一部継続特許出願第12/957,430号の優先権を主張するものである。
【著作権の通告/許諾】
【0002】
この特許書類の開示の一部には著作権の保護を受ける事項が含まれている。著作権者は、何人かが、この特許書類または特許開示を特許商標庁の特許ファイルまたは記録にある通りにファクシミリにより再生することには反対しないが、それ以外の如何なる場合にも全ての著作権を維持するものである。下記の告知は、以下の記載および添付の図面におけるプロセス、実験およびデータに適用される:著作権の表示、2010、ビリオン・キング・インターナショナル・リミテッドが全ての権利を保有する。
【技術分野】
【0003】
本発明は、熱安定性酸素キャリアを含有する医薬組成物の調製方法、および該方法により調製された組成物に関する。本発明はまた、該熱安定性酸素キャリアを含有する医薬組成物の、ヒトおよび他の動物のための癌治療、酸素欠乏障害の治療および臓器保存のための使用に関する。
【発明の背景】
【0004】
ヘモグロビンは、殆どの脊椎動物において、血管系と組織の間のガス交換のために重要な役割を果たす。それは、血液循環を介して呼吸器系から体細胞へと酸素を運搬し、また代謝老廃物である二酸化炭素を、二酸化炭素が吐出される呼吸器系へと体細胞から運び去ることを担当している。ヘモグロビンはこの酸素輸送の特徴を有しているので、エクスビボで安定化でき且つインビボで使用できれば、強力な酸素供給体として使用することができる。
【0005】
天然に存在するヘモグロビンは、赤血球細胞内に存在するときには一般に安定な四量体である。しかしながら、天然に存在するヘモグロビンが赤血球から取り出されると、それは血漿中で不安定になり、二つのα−β二量体に分裂する。これら二量体の各々は、分子量が約32kDaである。これら二量体は、腎臓を通して濾過および排泄されるときに実質的な腎障害を引き起こす。四量体結合の分解はまた、循環系における機能的ヘモグロビンの持続可能性に悪影響を与える。
【0006】
この問題を解決するために、ヘモグロビン加工における最近の発展は、四量体内での分子内結合、並びに四量体間での分子間結合を形成してポリマーヘモグロビンを形成するために、種々の架橋技術を取込んできた。従来技術は、ヘモグロビンの循環半減期を増大させるためには、ポリマーヘモグロビンが好ましい形態であることを教示している。しかし、本発明者等が確認したように、ポリマーヘモグロビンは血液循環系において容易にメトヘモグロビン(met-hemoglobin)に変換される。メトヘモグロビンは酸素と結合することができず、従って組織に酸素供給することができない。従って、従来技術によりポリマーヘモグロビンを生じることが教示された架橋は問題である。当該技術においては、ポリマーヘモグロビンの同時形成を伴うことなく安定な四量体を形成するための、分子内架橋を可能にする技術が必要とされている。
【0007】
ヘモグロビンを安定化させようとした従来技術に伴う更なる問題には、許容できない高パーセンテージの二量体ユニットを含んだ四量体ヘモグロビンの産生が含まれる:二量体の存在により、該ヘモグロビン組成物は、哺乳類への投与について満足できないものとなる。ヘモグロビンの二量体形態は、哺乳類の身体において幾つかの重篤な腎障害を生じる可能性がある;この腎障害は死亡の原因になり得るほどに十分に重篤である。従って、当該技術においては、最終製品中に二量体形態が検出され得ない安定な四量体ヘモグロビンを製造することが必要とされている。
【0008】
従来技術のヘモグロビン製品に伴うもう一つの問題は、投与後の突然の血圧上昇である。過去において、旧世代のヘモグロビンに基づく酸素キャリアからの血管収縮事象が記録されている。例えば、ヘモピュア製品(登録商標;Hemopure product;Biopure Co., USA)は、文献(Katz et al., 2010)に開示されたように、高い平均動脈圧(124±9mmHg)、または基底ライン(96±10mmHg)と比較したときに30%高い平均動脈圧を生じた。この問題を解決するための以前の試みはスルフヒドリル剤に依存しており、該試薬はヘモグロビンスルフヒドリル基と反応して、内皮由来の弛緩因子がスルフヒドリル基と結合するのを防止すると言われている。しかし、スルフヒドリル処理を使用することは処理工程を増やし、追加のコストを生じ、また後でヘモグロビン組成物から除去しなければならない不純物をもたらす。従って、当該技術では、哺乳類に適用したときに血管収縮および高血圧を生じないヘモグロビンを調製するための方法が必要とされている。
【0009】
安定なヘモグロビンを作製しようとした従来技術に伴う更なる問題には、哺乳類において、アレルギー効果を生じ得る免疫グロブリンG等のタンパク質不純物の存在が含まれる。従って、当該技術では、タンパク質不純物の存在しない安定な四量体ヘモグロビンを製造できる方法が必要とされている。
【0010】
上記問題に加えて、当該技術では、二量体を含まず、リン脂質を含まず且つ工業的規模で製造できる安定化された四量体ヘモグロビンが必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、重篤な腎障害、血管への有害な影響および死亡を含む重篤な副作用を起こすことなく、哺乳類において使用するのに適した、非ポリマー性で且つ熱安定性の精製された架橋四量体ヘモグロビンを加工するための方法を提供する。本発明は、二量体形態のヘモグロビン、未架橋の四量体ヘモグロビン、並びにリン脂質およびタンパク質不純物を除去する。加えて、本発明は、(1)正確且つ制御された低張溶解、(2)フロースルー型カラムクロマトグラフィー、(3)腎障害、血管の有害因子および他の毒性反応を回避できるように、望ましくないヘモグロビンの非安定性二量体を除去し、且つタンパク質不純物(例えば免疫グロブリンG)を除去するための高温短時間(HTST)装置、(4)製品中への酸素の侵入を回避するための気密注入バッグ包装を使用する。
【0012】
該方法は、少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類全血の出発材料を含んでいる。赤血球を哺乳類全血中の血漿から分離し、続いて濾過することにより濾過された赤血球画分を得る。この濾過された赤血球画分は、血漿タンパク質不純物を除去するために洗浄される。該洗浄された赤血球細胞は、流量が50〜1000リットル/時の今回の細胞溶解装置中において、白血球を溶解することなく赤血球を溶解するために充分な時間をかけて、制御された低張溶解により破壊される。濾過は、溶解液から排泄濃縮物の少なくとも一部を除去するように行われる。前記溶解液から、第一のヘモグロビン溶液が抽出される。
【0013】
第一の限界濾過プロセスは、第一のヘモグロビン溶液から四量体ヘモグロビンよりも高い分子量を有する不純物を除去し、更に何らかのウイルスおよび残留排泄濃縮物を除去して第二のヘモグロビン溶液を得るように構成された、限界濾過フィルタを使用して行われる。該第二のヘモグロビン溶液に対してフロースルーカラムクロマトグラフィーを行い、タンパク質不純物、二量体ヘモグロビンおよびリン脂質を除去して、リン脂質を含まないヘモグロビン溶液を得る。該リン脂質を含まないヘモグロビン溶液に対して、濃縮精製されたリン脂質を含まないヘモグロビン溶液中に残留する不純物を除去するように構成されたフィルタを使用して、第二の限界濾過プロセスを行う。
【0014】
少なくとも精製されたヘモグロビンのα−αサブユニットは、ポリマーヘモグロビンの形成を伴うことなく熱安定性の架橋ヘモグロビンを形成するように、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルにより架橋され、得られる非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンの分子量は60〜70kDaになる。ここで使用される「非ポリマー性」の表現は、他のヘモグロビン分子またはPEGのような何れか他の非ヘモグロビン分子と分子間架橋されていない四量体ヘモグロビンを意味する。リン酸緩衝食塩水(PBS)、乳酸リンゲル溶液、酢酸リンゲル溶液、またはTris緩衝液のような適切な生理学的緩衝液が、架橋四量体ヘモグロビンのために交換される。如何なる残留化学薬品も、接線流濾過(tangential-flow filtration)を使用して除去される。
【0015】
この手順の後に架橋ヘモグロビンを熱処理して、全ての残留非架橋四量体ヘモグロビンおよび全ての非安定化ヘモグロビン(例えば二量体形態のヘモグロビン)、並びに全ての他のタンパク質不純物を除去する。熱処理に先立って、メトヘモグロビンの形成を防止するために、任意にN−アセチルシステインを、約0.2%の濃度で架橋四量体ヘモグロビンに添加する。熱処理および冷却の直後に、メトヘモグロビンの形成を更に防止するために、N−アセチルシステインを約0.2%〜0.4%の濃度で添加する。この熱処理は、好ましくは、約70℃〜95℃において3秒〜3時間行われ、続いて25℃に冷却される高温短時間処理である。熱処理の間に形成される何らかの沈殿は、遠心分離または濾過装置により除去され、その後には透明な溶液が形成される。
【0016】
次いで、この二量体フリー、リン脂質フリー、タンパク質不純物フリーで、且つ熱安定性の非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンは医薬的に許容可能なキャリアに添加される。
【0017】
その後、この熱安定性架橋四量体ヘモグロビンは製剤化され、注文品の気密ポリエチレン、エチレン−ビニル−酢酸、エチレン−ビニルアルコール(PE,EVA,EVOH)製注入バッグの中に包装される。該包装は、不活性なメトヘモグロビンの形成をもたらす酸素汚染を防止する。
【0018】
上記方法により製造される熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンは、白血病、大腸癌、肺癌、乳癌、肝臓癌、上咽頭癌、および食道癌のような種々の癌の治療のために使用される。癌細胞を破壊するメカニズムは、低酸素条件における腫瘍の酸素付加を改善することにより、放射線および化学療法剤に対する感受性を増大させることである。熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンはまた、移植の際の臓器組織を保存するため、またはインビボでの酸素供給不足の状況、例えば酸素欠乏心臓において心臓を保存するためにも使用される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、異なるヘモグロビンのアミノ酸配列アラインメントを描いている。
【図2】図2は、本発明の方法の概要を描いたフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の方法に使用される細胞溶解装置を概略的に描いている。
【図4】図4は、(a)非熱処理架橋四量体ヘモグロビン、および(b)90℃で45秒〜2分間、または80℃で30分の熱処理を受けた熱安定性架橋四量体ヘモグロビンについての、高速液体クロマトグラフィー分析を描いている。
【図5】図5は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンについての、電子スプレーイオン化質量分光測定(ESI−MS)分析を描いている。
【図6】図6は、(a)精製ヘモグロビン溶液および(b)熱安定性架橋四量体ヘモグロビンについての、円二色性分光法分析を示している。
【図7】図7は、正常組織における酸素付加の改善を示している。0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液の注入は、(A)血漿ヘモグロビン濃度および(B)筋肉への酸素供給において顕著な増大をもたらす。血漿ヘモグロビンレベルと比較して、酸素付加における顕著な増大が長時間に亘って観察される。
【図8】図8は、低酸素腫瘍組織における酸素付加の改善を示している。0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液の注入は、頭部および頸部の扁平上皮細胞癌(HNSCC)異種移植片への酸素供給を顕著に増大させた。
【図9】図9は、(A)上咽頭癌(NPC)および(B)肝臓腫瘍のげっ歯類モデルにおける、部分的な腫瘍縮小を示している。
【図10】図10は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンで治療した後の、重篤な出血性ショックのラットモデルにおける平均動脈圧変化を示している。
【図11】図11は、フロースルーカラムクロマトグラフィーについての溶出プロファイルである:ヘモグロビン溶液はフロースルー画分中にある。
【図12】図12は、工業的規模での動作のための限外濾過を備えた、フロースルーCMカラムクロマトグラフィーシステムを概略的に描いている。
【図13】図13は、HTST熱処理工程のために使用される装置の概略図である。
【図14】図14は、HTST処理装置における温度プロファイル、および85℃および90℃の本発明のシステムにおいて非安定化四量体(二量体)を除去するために採用された時間を示している。
【図15】図15は、図13のHTST処理装置において、85℃および90℃のシステムにおけるメトヘモグロビン形成の速度を示している。
【図16】図16は、本発明の熱安定性架橋四量体ヘモグロビンのための注入バッグの概略図である。
【発明の詳細な説明】
【0020】
ヘモグロビンは、哺乳類および他の動物の血液の赤血球における、鉄を含んだ酸素輸送タンパク質である。ヘモグロビンは、タンパク質の三次構造および四次構造の両方の特徴を示す。ヘモグロビン中のアミノ酸の殆どは、短い非螺旋セグメントにより接続されたαへリックスを形成する。水素結合は、ヘモグロビンの内側の螺旋セクションを安定させて分子内での引力を生じ、それによって各ペプチド鎖を特定の形状に折畳む。ヘモグロビン分子は、四つの球状タンパク質サブユニットから組み立てられる。各サブユニットは、埋め込まれたヘム基と共に、「ミオグロブリン畳み込み」配列で接続された一組のαへリックス構造セグメントに配置されたポリペプチド鎖で構成される。
【0021】
ヘム基は、ポルフィリンとして知られるヘテロ環の中に保持された鉄原子からなっている。該鉄原子は、一つの面内にある環の中心において、四つの全ての窒素原子に均等に結合している。こうして、酸素はポルフィリン環の平面に対して垂直に、鉄中心に結合することができる。
【0022】
ヒト成人で最も普通のタイプのヘモグロビンは、ヘモグロビンAと呼ばれる四量体であり、α2β2と称する非共有結合で結合された二つのαサブユニットおよび二つのβサブユニットからなり、各々がそれぞれ141アミノ酸残基および146アミノ酸残基でできている。αサブユニットおよびβサブユニットのサイズおよび構造は、相互に非常に類似している。四量体の約65kDaの合計分子量について、各サブユニットは約16kDaの分子量を有している。四つのポリペプチド鎖は、塩橋、水素結合および疎水性結合によって相互に結合される。ウシ・ヘモグロビンの構造はヒト・ヘモグロビンに類似している(α鎖で90.14%の同一性;β鎖で84.35%の同一性)。相違点は、ウシ・ヘモグロビンにおける二つのスルフヒドリル基がβCys93に位置するのに対して、ヒトヘムロビンにおけるスルフヒドリル基はαCys104、βCys93およびβCys112にそれぞれ位置することである。図1は、ウシ、ヒト、イヌ、ブタおよびウマのヘモグロビンにおけるアミノ酸配列アラインメントを示しており、それぞれB、H、C、P、およびEで標識されている。種々の起源に由来する異なるアミノ酸には影線が付されている。図1は、ヒト・ヘモグロビンが、それらのアミノ酸配列を比較したときに、ウシ、イヌ、ブタおよびウマとの高い類似性を有していることを示している。
【0023】
赤血球の内部で天然に存在するヘモグロビンにおいて、α鎖とその対応するβ鎖との会合は非常に強く、生理学的条件下では脱離しない。しかし、赤血球の外では、一つのαβ二量体ともう一つのαβ二量体との会合は非常に弱い。結合は、各々が約32kDaの二つのαβ二量体に分離する傾向を有している。これらの望ましくない二量体は、腎臓で濾過および排泄されるためには十分に小さく、その結果として潜在的な腎障害および実質的に減少された血管内保持時間がもたらされる。
【0024】
従って、有効性および安全性の両方のために、赤血球の外で使用される全てのヘモグロビンを安定化させることが必要とされる。安定化されたヘモグロビンを製造するための方法を以下で概説する;本発明の方法の概観が図2のフローチャートに提示されている。
【0025】
最初に、赤血球由来ヘモグロビンの供給源としての全血源を選択する。ヒト、ウシ、ブタ、ウマおよびイヌの全血を含む哺乳類の全血が選択されるが、これらに限定されない。赤血球を血漿から分離し、濾過し、洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去する。
【0026】
赤血球からヘモグロビンを放出するために、細胞膜を溶解させる。赤血球を溶解させるために種々の技術を使用できるが、本発明では、工業的規模の生産に適した容量で正確に制御できるように、低張条件下での溶解を使用する。この目的のために、図3に見られる瞬間細胞溶解装置を、赤血球を溶解するために使用する。低張溶解により、ヘモグロビンおよび老廃物濃縮物を含有する溶解物の溶液が形成される。工業的規模での製造を可能にするために、溶解は、白血球または他の細胞を溶解することなく、赤血球だけを溶解させるように注意深く制御される。一実施形態において、細胞溶解装置のサイズは、2〜30秒または赤血球が溶解されるのに充分な時間、好ましくは30秒で赤血球が装置を横切るように選択される。該細胞溶解装置は、静電ミキサーを含んでいる。脱イオン化された蒸留水が低張溶液として使用される。勿論、異なる食塩水濃度を有する他の低張溶液を使用すれば、赤血球細胞溶解のための異なった時間がもたらされるであろう。制御された溶解方法は、白血球または細胞物質を溶解せずに白血球のみを溶解するので、毒性のタンパク質、リン脂質または白血球由来のDNAの放出を最小化する。低張溶液は30秒後に、即ち、赤血球を含有する溶液が該細胞溶解装置の静電ミキサー部分を横切った後、直ちに添加される。得られたヘモグロビンは、他の溶解技術を使用して得たヘモグロビンよりも高い純度、並びに低レベルの汚染物(例えば望ましくないDNAおよびリン脂質)を有している。白血球由来の望ましくない核酸およびリン脂質不純物は、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(検出限界=64pg)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC、検出限界=1μ/mL)法によっても、ヘモグロビン溶液中において検出されない。
【0027】
二つの限外濾過プロセスが実行される:一つは、フロースルーカラムクロマトグラフィーの前に、ヘモグロビンよりも大きい分子量を有する不純物を除去し、もう一つは、フロースルーカラムクロマトグラフィーの後に、ヘモグロビンよりも小さい分子量を有する不純物を除去する。後者の限外濾過プロセスはヘモグロビンを濃縮する。幾つかの実施形態においては、第一の限外濾過のために100kDaのフィルタが使用されるのに対して、第二の限外濾過のためには30kDaのフィルタが用いられる。
【0028】
精製されたヘモグロビン溶液中のタンパク質不純物、例えば免疫グロブリンG、アルブミンおよび炭酸脱水酵素を除去するためには、フロースルーカラムクロマトグラフィーが使用される。幾つかの実施形態において、カラムクロマトグラフィーは、DEAEカラム、CMカラム、ヒドロキシアパタイトカラム等のような商業的に入手可能な一つのイオン交換カラムまたはこれらカラムの組合せを使用することにより行われる。カラムクロマトグラフィーのためのpHは、典型的には6〜8.5である。一つの実施形態において、フロースルーCMカラムクロマトグラフィー工程は、pH8.0においてタンパク質不純物を除去するために使用される。酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)は、カラムクロマトグラフィーから溶出した後、サンプル中に残存しているタンパク質不純物およびリン脂質を検出するために行われる。この独特なフロースルーカラムクロマトグラフィー分離は、工業的スケールでの製造のための連続的な分離スキームを可能にする。ELISAの結果は、溶出したヘモグロビン中におけるこれら不純物の量が実質的に低いことを示している(免疫グロブリンG:44.3ng/ml;アルブミン:20.37ng/ml;炭酸脱水素酵素:81.2μg/ml)。異なるpH値で異なる種類のカラムを用いたタンパク質不純物除去の結果が、下記の表1に示されている。
【表1】
【0029】
カラムクロマトグラフィープロセスに続き、ヘモグロビンは、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチル(DBSF)による架橋を受ける。ポリマーヘモグロビンの形成を防止するために、該反応は、脱酸素化された環境(好ましくは0.1ppm未満の溶存酸素レベル)において、ヘモグロビンのDBSFに対するモル比が1:2.5〜1:4.0で、周囲温度(15〜25℃)で3〜16時間、好ましくは約8〜9のpHにおいて、また得られる架橋ヘモグロビンが60〜70kDaの分子量を有する四量体ヘモグロビンで、且つポリマーヘモグロビンが存在しないことを示すように、注意深く制御される。DBSF反応の収率は高く(>99%)、最終生成物における二量体濃度は低い。任意に、本発明の方法は、種々の従来技術の方法において使用されているような、架橋前のヘモグロビンと反応するヨードアセタミド等のスルフヒドリル処理試薬を必要としない。
【0030】
この点において、架橋溶液のために、リン酸緩衝食塩水(PBS)、生理学的緩衝液が交換され、また如何なる残留化学薬品も接線流濾過により除去される。
【0031】
脱酸素条件下でのDBSFによるヘモグロビンの架橋プロセスに続き、本発明は、架橋された四量体ヘモグロビン溶液のための、脱酸素環境における熱処理を提供する。熱処理に先立って、メトヘモグロビン(不活性ヘモグロビン)の形成を防止するために、N−アセチルシステインが任意に添加される。熱処理工程の後、低レベルのメトヘモグロビンを維持するために該溶液は冷却され、またN−アセチルシステインが直ちに添加される。N−アセチルシステインが熱処理の前後に添加されるのであれば、熱処理の前に添加される量は約0.2%である一方、熱処理後に添加される量は約0.2〜0.4%である。しかし、N−アセチルシステインが熱処理後だけに添加されるのであれば、添加される量は0.4%である。
【0032】
幾つかの実施形態において、架橋四量体ヘモグロビン溶液は脱酸素環境(0.1ppm未満の溶存酸素レベル)において、50℃〜95℃の温度範囲の下で0.5分〜10時間加熱される。幾つかの実施形態において、架橋四量体ヘモグロビン溶液は、70℃〜95℃の温度範囲で30秒〜3時間加熱される。幾つかの実施形態において、架橋四量体ヘモグロビン溶液は80℃で30分間加熱される。更に他の実施形態では、該架橋ヘモグロビン溶液は30秒〜3分間90℃まで加熱され、次いで15〜30秒間25℃まで迅速に冷却され、上記で述べたようにしてN−アセチルシステインが添加される。非常に小量のメトヘモグロビン、例えば3%未満が生じる。N−アセチルシステインを使用しないと、形成されるメトヘモグロビンの量は約16%であり、これは医薬用途のためには許容できないほど高いパーセンテージである。
【0033】
その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電子スプレーイオン化質量分光測定(ESI−MS)、円二色性(CD)分光法、およびp50測定のためのヘモックス(Hemox)分析器を使用して、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンが分析および特徴付けされる。図4は、ウシ血液を起源とするヘモグロビンの場合、90℃で45秒〜2分、または80℃で30分の熱処理を受けたヘモグロビンについて、HPLCシステム(検出限界:2.6μg/mLまたは0.043%)ではヘモグロビンの二量体形態が検出不能であることを示している。架橋ポリマー四量体ヘモグロビンは、80または90℃において、或る期間は熱的に安定であることが分かる。該熱処理(高温短時間、HTST)工程は、天然の未反応四量体形態および二量体形態のヘモグロビンを変性させるための強力な工程である。
【0034】
このHTST工程の結果を分析するために、HPLC分析方法を使用して、この熱処理工程後の二量体の量を検出する。HPLC分析のための移動相は、二量体(非安定化四量体)および熱安定性架橋四量体のヘモグロビンを分離できる塩化マグネシウム(0.75M)を含んでいる。二量体へのヘモグロビンの解離を促進するために、塩化マグネシウムは、同じイオン強度の塩化ナトリウムよりも約30倍効果的である。この熱処理工程はまた、架橋四量体ヘモグロビン中のこれら望ましくないタンパク質不純物を劇的に除去するための変性工程として働く(免疫グロブリンGにおいて検出不能;アルブミンにおいて検出不能;炭酸脱水素酵素において99.99%減少)。サンプル中のタンパク質不純物を検出するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)が行われる。こうして精製された熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液は、検出不能なレベルの二量体(検出限界未満:0.043%)および免疫グロブリン、並びに極く小量のアルブミン(0.02μg/mL)および炭酸脱水素酵素(0.014μg/mL)を有している。表2は、HTST熱処理工程によるタンパク質不純物および二量体の除去に関する実験結果を示している。このHTST熱処理工程は、不安定な四量体および二量体からの熱安定性架橋四量体の選択的分離を可能にする。
【表2】
【0035】
脱酸素条件下での架橋ヘモグロビンの熱処理工程の後に、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンは、医薬の製剤化および包装のための準備ができている。本発明は、脱酸素環境における熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液の気密包装工程を記載している。本発明における熱安定性架橋四量体ヘモグロビンは、脱酸素条件下において2年以上安定である。
【0036】
本発明において、酸素キャリア含有医薬組成物は、主に静脈注射での適用を意図している。以前の製品は、従来より、慣用的なPVC血液バッグまたはステリコン血液バッグ(Stericon blood bag)を使用する。これは高い酸素透過性を有していて、酸素付加条件下においては生成物を迅速に(数日以内)不活性なメトヘモグロビンに変えるので、結果として製品の寿命が短縮される。
【0037】
本発明において使用する包装は、2年以上安定な熱安定性架橋四量体ヘモグロビンをもたらす。ガス透過性を最小限にして不活性なメトヘモグロビンの形成を回避するために、EVA/EVOH材料の多層包装が使用される。本発明の精製された熱安定性架橋四量体ヘモグロビンと共に使用するために設計された100mL注入バッグは、厚さが0.4mmの5層のEVA/EVOHラミネート材料で製造され、これは0.006〜0.132cm3/100平方インチ/24時間/室温気圧の酸素透過性を有する。この材料は、クラスVIのプラスチック(USP<88>に定義されている)であり、これはインビボ生物学的反応性試験および物理化学的試験に適合し、また静脈注入目的の注入バッグを製造するために適している。この一次バッグは、その不安定性を生じ且つ最終的にはその治療特性に影響する長期間の酸素露出から、熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液を保護するために特に有用である。
【0038】
血液製品の二次保護のために、潜在的な空気漏れに対して保護し、且つ製品を脱酸素状態に維持するアルミニウム製の上包装を使用することが知られている。しかし、アルミニウム製の上包装には潜在的なピンホールが存在し、その気密性を損ない、製品を不安定にする。従って、本発明は二次包装として、酸素付加を防止し且つ光露出を防止するアルミニウム製の上包装パウチを使用する。該上包装パウチの組成には、0.012mmのポリエチレンテレフタレート(PET)、0.007mmのアルミニウム(Al)、0.015mmのナイロン(NY)、および0.1mmのポリエチレン(PE)が含まれている。上包装フィルムは0.14mmの厚さおよび0.006cm3/100平方インチ/24時間/室温気圧の酸素透過率を有している。この二次包装は、ヘモグロビンのための安定時間を長くし、製品の貯蔵寿命を延長する。
【0039】
本発明のヘモグロビンは、ESI−MSを含む種々の技術によって分析される。ESI−MSは、非常に大きな分子の分析を可能にする。それは、タンパク質をイオン化し、次いでイオン化されたタンパク質を質量/電荷比に基づいて分離することにより、高分子量化合物を分析するイオン化技術である。従って、分子量およびタンパク質相互作用を正確に決定することができる。図5において、ESI−MS分析結果は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンのサイズが65kDa(非ポリマーヘモグロビン四量体)であることを示している。190〜240nmの遠紫外線CDスペクトルは、ヘモグロビンにおけるグロブリン部分の二次構造を明らかにしている。図6において、精製されたヘモグロビン溶液および熱安定性架橋四量体ヘモグロビンのスペクトルの一致性は、90℃での熱処理の後でも、ヘモグロビン鎖が適正に折り畳まれていることを明らかにしている。このCDの結果は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンがαへリックスの42%、βシートの38%、βターンの2.5%およびランダムコイルの16%を有していることを示している。それは更に、この架橋四量体ヘモグロビンが熱的に安定であることを確認している。
【0040】
本発明における方法は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの大規模の工業的製造に適用可能である。加えて、医薬キャリア(例えば、カプセル形態における水、生理学的緩衝液)と組み合わされた熱安定性架橋四量体ヘモグロビンは、哺乳類での使用に適している。
【0041】
本発明は更に、組織の酸素付加の改善、癌治療、出血性ショックのような酸素欠乏症、および低酸素含量環境下での心臓保存(例えば心臓移植)における、酸素キャリアを含有する医薬組成物の使用を開示している。投与量は、10mL/時/kg体重未満の注入速度で、約0.2〜1.3g/kgの濃度範囲を有するように選択される。
【0042】
癌治療における使用について、本発明の酸素キャリアを含有する医薬組成物は、腫瘍組織における酸素付加を改善することにより、化学感受性および放射線感受性を高めるための組織酸素付加剤として働く。
【0043】
加えて、本発明では、正常組織(図7)および極度の低酸素腫瘍である上咽頭癌(CNE2細胞株を使って)(図8)における酸素付加を改善するための、ヒト熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの能力が示される。ヒトCNE2異種移植片の組織トラックに沿った代表的な酸素プロファイルが図8に示されている。腫瘍内の酸素分圧(pO2)は、微小位置決めシステム(DTI Limited)に結合された光ファイバー酸素センサ(Oxford Optronix Limited)によって直接モニターされる。0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後、pO2の中央値は、15分以内に基底ラインから相対的平均酸素分圧の約2倍まで上昇して、6時間にまで達する。更に、平均での酸素レベルは、注入後24〜48時間でもなお、基底ラインよりも25%〜30%高いレベルを維持する。商業的製品または現存の技術は、本発明で調製された酸素キャリア含有医薬組成物に比較したとき、そのような高い効率を示さない。
【0044】
腫瘍組織の酸素付加について、ヒト頭部および頸部における扁平上皮細胞癌(HNSCC)異種移植片の代表的な酸素プロファイルが図8に示されている。0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後、6.5倍および5倍を超える平均pO2の顕著な増大が、それぞれ3時間および6時間の時点で観察される(図8)。
【0045】
癌治療における応用について、本発明の酸素キャリア含有医薬組成物は、腫瘍組織における酸素付加を改善し、それによって化学療法感受性および放射線感受性を高めるための組織酸素付加剤として働く。X線照射と熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの組合せにおいて、腫瘍の増殖は遅延される。図9Aにおいて、代表的な曲線は、上咽頭癌のげっ歯類モデルにおける腫瘍の顕著な縮小を示している。CNE2異種移植片を有するヌードマウスを、X線の単独(2Gy)または熱安定性架橋四量体ヘモグロビンとの組合せ(2Gy+Hb)で処理する。1.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンは、X線照射の約3〜6時間前にマウスに静脈注射され、上咽頭癌異種移植変の部分的な縮小を生じる。
【0046】
一実施形態においては、化学療法剤と組み合わせて当該組成物を注入した後に、顕著な肝臓腫瘍の縮小が観察される。図9Bにおいて、代表的なチャートは、ラットの正所性肝臓癌モデルにおいて腫瘍の顕著な縮小を示している。肝臓腫瘍の正所移植片(orthograft;CRL1601細胞株)を有するバッファローラットを、3mg/kgのシスプラチン単独で、または0.4g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンとの組合せ(シスプラチン+Hb)で治療する。シスプラチン注射の前に熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを投与することは、肝臓腫瘍の部分的縮小を生じる。
【0047】
酸素欠乏障害の治療における使用および心臓保存について、本発明の酸素キャリア含有医薬組成物は、標的器官に酸素を提供する代替血液として働く。
【0048】
0.5g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンで治療した後の、重篤な出血性ショックのラットモデルにおける平均動脈圧変化が図10に示されている。重篤な出血性ショックのラットモデルでは、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンでの治療後に、平均動脈圧は安全且つ安定なレベルに復帰し、基底ラインまたはその近傍も維持される。熱安定性架橋四量体ヘモグロビンでの治療後に平均動脈圧が正常に戻るために必要とされる時間は、正の対照として働くラットの自己血液を投与する場合よりも短い。この結果は、熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの注入後に血管収縮事象が起こらないことを示している。
【実施例】
【0049】
以下、如何なる意味でも本発明の範囲を限定することを意図することなく、本発明の特定の実施形態を説明することにより、本発明の実施例を記載する。
【0050】
実施例1
プロセスの概観
図2に、本発明の方法の概略フロー図が示されている。ウシ全血を、抗凝固剤として3.8%(w/v)のクエン酸三ナトリウム溶液を含む閉じた滅菌容器/バッグの中に採取する。次いで、血液を直ちにクエン酸三ナトリウム溶液と充分に撹拌し、血液の凝固を阻止する。アフェレーシス機構により、血漿および他の小さい血液細胞から赤血球(RBC)を単離および回収する。この方法のために、ガンマ線滅菌された使い捨ての遠心分離ボールと共に、「細胞洗浄機」を使用する。RBCを等容量の0.9%(w/v塩化ナトリウム)食塩水で洗浄する。
【0051】
RBC細胞膜に対して低張性ショックを処置することにより、洗浄されたRBCを溶解してヘモグロビン内容物を放出させる。RBC溶解装置のために特殊化された図3に示す瞬間細胞溶解装置が、この目的のために使用される。RBC溶解に続き、100kDaの膜を使用した接線流限外濾過により、ヘモグロビン分子を他のタンパク質から単離する。濾液中のヘモグロビンをフロースルーカラムクロマトグラフィーのために採取し、30kDa膜によって更に12〜14g/dLまで濃縮する。カラムクロマトグラフィーを行って、タンパク質不純物を除去する。
【0052】
最初に、濃縮ヘモグロビン溶液を脱酸素条件下でDBSFと反応させて、熱安定性架橋四量体ヘモグロビン分子を形成する。次いで、最終的な製剤化および包装の前に、90℃で30秒〜3分間、脱酸素条件下で熱処理工程を行う。
【0053】
実施例2
時間&制御された低張溶解および濾過
ウシ全血を新たに採取し、冷却条件下(2〜10℃)で輸送する。細胞洗浄機およびこれに続く0.65μmの濾過を介して、赤血球を血漿から分離する。赤血球(RBC)濾液を0.9%食塩水で洗浄した後、濾液を低張溶解により破壊する。該低張溶解は、図3に示した瞬間細胞溶解装置を使用して行う。この細胞溶解装置は、細胞溶解を補助するための静電ミキサーを含んでいる。ヘモグロビン濃度が制御された(12〜14g/dL)RBC懸濁液を4容量の精製水と混合して、RBC細胞膜に対して低張ショックを発生させる。低張ショックの時間は、白血球および血小板の望ましくない溶解を回避するように制御される。この低張溶液は、瞬間細胞溶解装置の静電ミキサー部分を2〜30秒または赤血球を溶解するのに充分な時間、好ましくは30秒の間に通過する。このショックは、30秒後に溶解液が静電ミキサーを出るときに、該溶解液に1/10容量の高張緩衝液を混合することによって停止される。使用した高張溶液は、0.1Mリン酸緩衝液、7.5%NaCl、pH7.4である。図3の瞬間細胞溶解装置は、連続運転で50〜1000L/時、好ましくは少なくとも300L/時の溶解物を処理することができる。
【0054】
RBC溶解の後、赤血球溶解物を0.22μmのフィルタにより濾過してヘモグロビン溶液を得る。白血球からの核酸およびリン脂質不純物は、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(検出限界=64pg)およびHPLC法(検出限界=1μ/mL)によっては、ヘモグロビン溶液中において検出されない。ヘモグロビンよりも高い分子量を有する不純物を除去するために、最初の100kDa限外濾過が行われる。ヘモグロビン溶液を更に精製するために、フロースルーカラムクロマトグラフィーが続いて行われる。次いで、ヘモグロビンよりも低分子量の不純物を除去し、また濃縮するために、第二の30kDa限外濾過が行われる。
【0055】
実施例3
ストローマを含まないヘモグロビン溶液に対するウイルスクリアランスの研究
本発明の生成物の安全性を示すために、(1)0.65μmダイアフィルトレーション工程および(2)100kDa限外濾過工程のウイルス除去能力が、ウイルス確証研究によって示される。これは、異なるモデルウイルス(脳心筋炎ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス、およびウシパルボウイルス)を用いたこれら二つの処理の縮小規模バージョンの慎重なスパイキングによって行われた。この研究においては、四つのタイプのウイルスが使用された(表3参照)。これらのウイルスは、それらの生物物理学的および構造的特徴が変化し、また物理的および化学的な薬剤または治療に対する抵抗における変化を示す。
【表3】
【0056】
確証スキームを、以下の表4に簡単に示す。
【表4】
【0057】
(1)0.65μmダイアフィルトレーションおよび(2)100kDa限外濾過における4種類のウイルスの対数減少結果の要約を、下記の表5に示す。
【表5】
【0058】
注:
≧ 残留感染性は決定されず
実施例4
フロースルーカラムクロマトグラフィー
何れかのタンパク質不純物を更に除去するために、CMカラム(GEヘルスケア社から商業的に入手可能)を使用する。出発緩衝液は20mMの酢酸ナトリウム(pH8.0)であり、溶出緩衝液は20mMの酢酸ナトリウム、2MのNaCl(pH8.0)である。出発緩衝液でCMカラムを平衡化した後、タンパク質サンプルを該カラムに載せる。未結合のタンパク質不純物を、少なくとも5カラム容量の出発緩衝液で洗浄する。8カラム容量の25%溶出緩衝液(0〜0.5MのNaCl)を使用して溶出を行う。溶出プロファイルを図11に示す;ヘモグロビン溶液はフロースルー画分の中にある。フロースルー画分の純度を、ELIZAにより分析する。その結果を下記の表6に示す。
【表6】
【0059】
ヘモグロビン溶液は、pH8のCMカラムクロマトグラフィーからのフロースルーの中にある(溶出液中ではない)ので、連続的な工業的規模の操作にとっては良好なアプローチである。工業的規模の操作のために、第一の限界濾過設備をフロースルーCMカラムクロマトグラフィーシステムに直接接続し、またフロースルー配管を第二の限外濾過設備に接続することができる。工業的プロセスの概略的構成を図12に示す。
【0060】
実施例5
熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの調製
<5a>:DBSFを用いた架橋反応
この架橋反応は脱酸素条件において行う。DBSFをヘモグロビン溶液に加えて、ポリマーヘモグロビンの形成を伴うことなく、架橋された四量体ヘモグロビンを形成する。DBSF安定化法はヘモグロビンの四量体形態(65kDa)を安定化させて、腎臓を通して排泄される二量体(32kDa)への解離を防止する。この実施形態においては、ヘモグロビンのDBSFに対する1:2.5のモル比が使用され、pHは8.6である。このプロセスは、ヘモグロビンの酸化により生理学的に不活性な第一鉄メトヘモグロビンが形成されることを防止するために、窒素の不活性雰囲気中において、3〜16時間、周囲温度(15〜25℃)で行われる(溶存酸素レベルは少なくとも0.1ppm未満に維持される)。DBSF反応の完了は、HPLCを使用して残留DBSFを測定することによりモニターされる。DBSF反応の収率は高く、>99%である。
【0061】
<5b>:HTST熱処理工程
高温短時間(HTST)処理装置が図13に示されている。HTST処理装置を使用した熱処理を、架橋四量体ヘモグロビンに対して行う。この例において、熱処理の条件は90℃で30秒〜3分、好ましくは45〜60秒であるが、上記で述べたような他の条件を選択することもでき、それに従って装置を改変することもできる。任意に0.2%のN−アセチルシステインを添加した架橋ヘモグロビンを含有する溶液は、1.0L/分の流量でHTST処理装置の中にポンプ輸送され(HTST熱交換器の第一の区画は90℃に予熱および維持される)、また、該装置の第一区画の滞留時間は45〜60秒であり、次いで該溶液は同じ流量で、25℃に維持される熱交換器のもう一つの区画の中へと通される。冷却のために必要な時間は15〜30秒である。25℃まで冷却した後、0.2%〜0.4%、好ましくは0.4%の濃度のN−アセチルシステインが直ちに添加される。HTST加熱プロセスの後のこの化学薬品の添加は、メトヘモグロビン(不活性ヘモグロビン)を低レベルに維持するために非常に重要である。該処理装置の構成は、工業的操作のために容易に制御される。二量体含量と共に温度プロファイルを図14に示す。ヘモグロビンが架橋されていなければ、それは熱的に安定ではなく、加熱工程の後に沈殿を形成する。この沈殿は、その後に透明な溶液を形成するために遠心分離または濾過装置により除去される。
【0062】
90℃でのHTST加熱プロセスの間に、メトヘモグロビン(不活性ヘモグロビン)が増大する(図15に示す)。N−アセチルシステインを直ちに添加した後には、約3%未満の低レベルのメトヘモグロビンを維持することができる。
【0063】
下記の表7は、免疫グロブリンG、アルブミン、炭酸脱水素酵素および望ましくない非安定化型の四量体または二量体等の不純物が、熱処理工程の後に除去されることを示している。免疫グロブリンG、アルブミンおよび炭酸脱水素酵素の量をELISA法を用いて測定する一方、二量体の量はHPLC法により決定される。HTST加熱処理工程の後の熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの純度は極めて高く、98.0〜99.9%の範囲である。p50値、即ち、ヘモックス分析器(Hemox Analyzer)により測定された酸素分圧(その分圧ではヘモグロビン溶液が半分(50%)飽和している)は、HTST加熱処理工程の全体を通して約30〜40mmHgに維持され、従って、熱処理された架橋四量体ヘモグロビンは90℃で安定である。
【表7】
【0064】
実施例6
包装
本発明の製品は脱酸素条件下において安定なので、ガス透過性を最小化するために該製品の包装は重要である。静脈適用のために、0.006〜0.132cm3/100平方インチ/24時間/室温気圧の酸素透過性を有する厚さ0.4mmの5層のEVA/EVOH積層材料から、注文設計された100mLの注入バッグを作製した。この特別な材料はクラスVIプラスチック(USP<88>に定義されている)であり、これはインビボ生物学的反応性試験および物理化学的試験に適合し、また静脈注入目的の注入バッグを製造するために適している(なお、望ましい用途に応じて、他の形態の包装も同様にこの材料から製造できる)。二次包装のアルミニウム上包装パウチもまた、この一次包装注入バッグに適用されて追加のバリアを提供し、光露出および酸素拡散を最小化する。該パウチの層は次のものを含んでいる:即ち、0.012mmのポリエチレンテレフタレート(TE)、0.007mmのアルミニウム(Al)、0.015mmのナイロン(NY)、および0.1mmのポリエチレン(PE)である。上包装フィルムは0.14mmの厚さ、および0.006cm3/100平方インチ/24時間/室温気圧の酸素透過速度を有している。該注入バッグの概略的描写が図16に描かれている。本発明による各注入バッグについての全体の酸素透過性は、0.0025cm3/24時間/室温気圧である。
【0065】
実施例7
酸素付加の改善
<7a>:正常組織における酸素付加の改善
熱安定性架橋四量体ヘモグロビンによる正常組織の酸素付加についての幾つかの研究がおこなわれる(図7に示した)。比較薬物動態学および薬力学の研究を、バッファローラットにおいて行なう。雄の純系バッファローラットに対して、ラットの陰茎静脈を通して、個別に大量瞬時投与の注射により、0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液または酢酸リンゲル緩衝液(対照群)を投与する。血漿ヘモグロビンの濃度−時間プロファイルを、1、6,24、48時間にヘモキュー(Hemocue;商標名)フォトメータによって決定し、基底ラインの読みと比較する。この方法はヘモグロビンの光測定に基づいており、ここではヘモグロビンの濃度がg/dLとして直接読み出される。酸素分圧(pO2)は、バッファローラットの後脚筋肉において、オキシラボ(Oxylab;商標)組織酸素付加および温度モニター(Oxford Optronix Limited)により直接測定する。ラットを30〜50mg/kgのペントバルビトン溶液の腹腔内注射によって麻酔し、続いて酸素センサを筋肉内に挿入する。全てのpO2の読みを、データトラックス2(Datatrax2)データ取得システム(World Precision Instrument)によりリアルタイムで記録する。結果は、0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後に、平均pO2値が基底ラインから15分以内の平均酸素分圧の約2倍に上昇し、6時間にまで達することを示している。最後に、注射後の24〜48時間でも、平均の酸素レベルは基底ラインより25%〜30%高く維持される(図7B)。
【0066】
<7b>:極度に低酸素状態の腫瘍領域における酸素付加の顕著な改善
極度に低酸素状態の腫瘍領域における酸素付加の改善を、ヒトの頭部および頸部の扁平上皮細胞癌(HNSCC)異種移植片モデルによって評価する。下咽頭扁平上皮細胞癌(FaDu細胞株)を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手する。約1×106個の癌細胞を4〜6週齢の4匹の純系BALB/cAnN−nu(ヌード)マウスに皮下注射する。この腫瘍異種移植片の直径が8〜10mmに達したときに、腫瘍塊内の酸素分圧(pO2)をオキシラボ(Oxylab;商標)組織酸素付加および温度モニター(Oxford Optronix Limited)により直接測定する。全てのpO2の読みを、データトラックス2(Datatrax2)データ取得システム(World Precision Instrument)によりリアルタイムで記録する。pO2の読みが安定化したときに、0.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液をマウスの尾静脈を通して静脈注射し、組織の酸素付加を測定する。結果は、0.2g/kgの前記熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後に、6.5倍および5倍以上の平均pO2の増大が、それぞれ3時間および6時間で観察される(図8)。
【0067】
実施例8
癌治療研究:上咽頭癌における顕著な腫瘍縮小
X線照射と組み合わせて熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液を投与した後に、顕著な腫瘍縮小が観察される(図9A)。ヒト上咽頭癌異種移植片モデルを用いる。約1×106個の癌細胞(CNE2細胞株)を、4〜6週齢の4匹の純系BALB/cAnN−nu(ヌード)マウスに皮下注射する。この腫瘍異種移植片の直径が8〜10mmに達したときに、腫瘍をもったマウスをランダムに次の三つのグループに分ける。
【0068】
グループ1:酢酸リンゲル緩衝液(Ctrl)
グループ2:酢酸リンゲル緩衝液+X線照射(2Gy)
グループ3:熱安定性架橋四量体ヘモグロビン+X線照射(2Gy+Hb)
CNE2異種移植片をもつヌードマウスにX線照射を単独で(グループ2)、または熱安定性架橋四量体ヘモグロビンとの組合せで(グループ3)行った。X線照射(グループ2および3)については、50mg/kgのペントバルビトン溶液の腹腔内注射によってマウスを麻酔する。2GrayのX線を、腫瘍を持ったマウスの異種移植片に対して線形加速器システム(Varian Medical Systems)により与える。グループ3については、X線治療の前に、1.2g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを、尾静脈を通してマウスに注射する。腫瘍の寸法および体重を、治療の初日から始めて2日ごとに記録する。式1/2LW2を使用して腫瘍の重量を計算する。ここでのLおよびWは、デジタル測径器(Mitutoyo Co, Tokyo, Japan)により各測定時に計測された腫瘍塊の長さおよび幅である。グループ1は、非治療対照群である。結果(図9に示す)は、X線照射と組み合わせて熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液で治療されたマウスにおいて、CNE2異種移植片の顕著な縮小が観察されることを示している(グループ3、図9A)。
【0069】
実施例9
癌治療研究:肝臓腫瘍の顕著な収縮
更に、シスプラチンと組み合わせて熱安定性架橋四量体ヘモグロビン溶液を投与した後に、顕著な腫瘍縮小が観察される(図9B)。ラットの正所性肝臓癌モデルを用いる。ルシフェラーゼ遺伝子(CRL1601−Luc)で標識された約2×106個のラット肝臓腫瘍細胞を、バッファローラットにおける肝臓の左葉に注入する。腫瘍増殖をゼノーゲン(Xenogen)インビボ撮像システムによってモニターする。注入の2〜3週後に、腫瘍組織を回収し、小片に切断して、第2グループのラットの左葉肝臓の同所に移植する。腫瘍をもつラットを、以下のように三つのグループにランダムに分ける。
【0070】
グループ1:酢酸リンゲル緩衝液(対照)
グループ2:酢酸リンゲル緩衝液+シスプラチン(シスプラチン)
グループ3:熱安定性架橋四量体ヘモグロビン+シスプラチン(シスプラチン+Hb)
肝臓腫瘍組織を移植したラットを、3mg/kgのシスプラチンを単独で(グループ2)、または熱安定性架橋四量体ヘモグロビンとの組合せで(グループ3)用いて治療した。グループ2および3については、30〜50mg/kgのペントバルビトン溶液の腹腔内注射によってラットを麻酔し、左門脈を通してシスプラチンを投与する。グループ3については、0.4g/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを、シスプラチン治療の前にラットの陰茎静脈を通して静脈注射する。グループ1は、非治療対照群である。重要なこととして、治療の3週後に肝臓腫瘍の顕著な縮小が観察される(図9B)。
【0071】
実施例10
ラットにおける急性の重篤な出血性ショックの治療
熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを、ラットの急性の重篤な出血性ショックのモデルでの蘇生剤としても使用する。50匹のスプラグ−ドーリー系ラットを、蘇生剤に従ってランダムに三つのグループに分ける。各グループには16〜18匹のラットが含まれる。
【0072】
グループ1:乳酸リンゲル緩衝液(負の対照、16匹のラット)
グループ2:動物の自家血液(正の対象、16匹のラット)
グループ3:熱安定性架橋四量体ヘモグロビン治療群(0.5gHb/kg体重、18匹のラット)。
【0073】
急性の重篤な出血性ショックは、動物の全血の50%(体重の7.4%と見積もられる)を抜き取ることにより樹立する。出血性ショックが10分間樹立された後に、乳酸リンゲル溶液、動物の自家血液、または0.5gHb/kgの熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを動物に注入する。熱安定性架橋四量体ヘモグロビンの注入速度は5mL/時に設定し、その後、全ての実験動物を24時間観察する。研究期間に亘って、生存、血行動態、心筋機構、心臓出力、心機能、血液ガス、組織酸素供給&消費、組織灌流&酸素張力(肝臓、腎臓および脳)、肝機能&腎機能、血液レオロジー(血液粘度)、およびミトコンドリア呼吸制御速度(肝臓、腎臓および脳)を含むパラメータのパネルを観察および分析する。特に、生存は主要な終点である。24時間の観察の後、熱安定性架橋四量体ヘモグロビン治療群は、乳酸リンゲル溶液または負の対照群および自家血液群と比較して、遙かに高い生存率を有する(下記の表8に示す)。
【表8】
【0074】
上記のように種々の実施形態に関して本発明を説明したが、このような実施形態は限定的なものではない。当業者は多くの変形例および修飾を理解するであろう。このような変形および修飾は、特許請求の範囲の範囲内に含まれるものと看做される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記酸素キャリア含有医薬組成物はヘモグロビンを含み、該ヘモグロビンは本質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなり、前記方法は、
a)少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類全血を準備することと;
b)前記哺乳類全血において、前記赤血球を前記血漿から分離することと;
c)前記血漿から分離された赤血球を濾過して、濾過された赤血球画分を得ることと;
d)前記濾過された赤血球画分を洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去し、洗浄された赤血球を得ることと;
e)50〜1000L/時の流量の細胞溶解装置において、2〜30秒または赤血球を溶解するのに充分な時間の正確かつ制御された低張溶解により前記洗浄された赤血球を破壊して、破壊された赤血球の溶解物を含んでなる溶液を作製することと;
f)濾過を行って、前記溶解物から老廃物濃縮物の少なくとも一部を除去することと;
g)前記溶解物から第一のヘモグロビン溶液を抽出することと;
h)ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物を除去するように構成された限外濾過フィルタを使用して第一の限外濾過を行い、何れかのウイルスおよび残留老廃物濃縮物を更に前記第一ヘモグロビン溶液から除去して、第二のヘモグロビン溶液を得ることと;
i)前記精製されたヘモグロビン溶液にフロースルーカラムクロマトグラフィーを行って、タンパク質不純物を除去することと;
j)不純物を除去するように構成された限外フィルタを使用して第二の限外濾過プロセスを行い、前記精製されたヘモグロビン溶液を濃縮することと;
k)脱酸素環境において、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによりヘモグロビンの少なくともα−αサブユニットを架橋して架橋されたヘモグロビンを形成し、前記架橋されたヘモグロビンが非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンであることと;
l)前記架橋四量体ヘモグロビンのために適切な生理学的緩衝液を交換することと;
m)接線流濾過により何らかの残留化学薬品を除去することと;
n)前記架橋ヘモグロビンを脱酸素環境で熱処理して、得られる熱安定性架橋四量体ヘモグロビンが検出不能な濃度の二量体を有し、且つ実質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなるように、何らかの残留未反応ヘモグロビン、非安定化ヘモグロビン(二量体)および何れか他のタンパク質不純物を変性および沈殿させることと;
o)前記架橋四量体ヘモグロビンを熱処理した後に直ちにN−アセチルシステインを加えて、メトヘモグロビンの低レベルを維持することと;
p)遠心分離または濾過装置により沈殿を除去して、透明な溶液を形成することと;
q)精製された熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを医薬的に許容可能なキャリアに加えることを含んでなる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記熱処理は70℃〜95℃で30秒〜3時間行われ、その直後に冷却される高温短時間プロセスであり、また前記冷却の直後に0.2〜0.4%の量のN−アセチルシステインが添加される方法。
【請求項3】
請求項1に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記全血はヒト、ウシ、豚、イヌまたはウマの全血である方法。
【請求項4】
請求項1に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記カラムクロマトグラフィーは1以上の陽イオン交換カラムまたは陰イオン交換カラムを含んでなる方法。
【請求項5】
請求項4に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記クロマトグラフィーカラムは1以上のDEAEカラム、CMカラムおよび/またはヒドロキシアパタイトカラムである方法。
【請求項6】
請求項1に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記医薬的に許容可能なキャリアは生理学的緩衝液または水である方法。
【請求項7】
ヘモグロビンを含んでなる高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物であって、前記ヘモグロビンは実質的に、請求項1の方法により形成された非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなる組成物。
【請求項8】
高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記酸素キャリア含有医薬組成物はヘモグロビンを含み、該ヘモグロビンは本質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなり、前記方法は、
a)少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類全血を準備することと;
b)前記哺乳類全血において、前記赤血球を前記血漿から分離することと;
c)前記血漿から分離された赤血球を濾過して、濾過された赤血球画分を得ることと;
d)前記濾過された赤血球画分を洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去し、洗浄された赤血球を得ることと;
e)50〜1000L/時の流量の細胞溶解装置において、2〜30秒または赤血球を溶解するのに充分な時間の正確かつ制御された低張溶解により前記洗浄された赤血球を破壊して、破壊された赤血球の溶解物を含んでなる溶液を作製することと;
f)濾過を行って、前記溶解物から老廃物濃縮物の少なくとも一部を除去することと;
g)前記溶解物から第一のヘモグロビン溶液を抽出することと;
h)ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物を除去するように構成された限外濾過フィルタを使用して第一の限外濾過を行い、何れかのウイルスおよび残留老廃物濃縮物を更に前記第一ヘモグロビン溶液から除去して、第二のヘモグロビン溶液を得ることと;
i)前記精製されたヘモグロビン溶液にフロースルーカラムクロマトグラフィーを行って、タンパク質不純物を除去することと;
j)不純物を除去するように構成された限外フィルタを使用して第二の限外濾過プロセスを行い、前記精製されたヘモグロビン溶液を濃縮することと;
k)脱酸素環境において、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによりヘモグロビンの少なくともα−αサブユニットを架橋して架橋されたヘモグロビンを形成し、前記ヘモグロビンが非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンであることと;
l)前記架橋四量体ヘモグロビンのために適切な生理学的緩衝液を交換することと;
m)接線流濾過により何らかの残留化学薬品を除去することと;
n)前記架橋ヘモグロビンを約90℃〜95℃の温度で熱処理して、得られる熱安定性架橋四量体ヘモグロビンが検出不能な濃度の二量体を有し、且つ実質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなるように、何らかの残留未反応ヘモグロビン、非安定化ヘモグロビン(二量体)および何れか他のタンパク質不純物を変性および沈殿させ、且つ直ちに約25℃に冷却することと;
o)前記架橋四量体ヘモグロビンを熱処理した後に直ちにN−アセチルシステインを加えて、メトヘモグロビンの低レベルを維持することと;
p)遠心分離または濾過装置により沈殿を除去して、透明な溶液を形成することと;
q)精製された熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを医薬的に許容可能なキャリアに加えることを含んでなる方法。
【請求項9】
請求項8に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記熱処理は脱酸素環境において行われる方法。
【請求項10】
請求項8に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記熱処理は30秒〜3分間行われ、続いて直ちに冷却され、また該冷却の直後に0.2〜0.4%のN−アセチルシステインが添加される方法。
【請求項11】
請求項8に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記全血はヒト、ウシ、豚、イヌまたはウマの全血である方法。
【請求項12】
請求項8に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記カラムクロマトグラフィーは1以上の陽イオン交換カラムまたは陰イオン交換カラムを含んでなる方法。
【請求項13】
請求項12に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記クロマトグラフィーカラムは1以上のDEAEカラム、CMカラムおよび/またはヒドロキシアパタイトカラムである方法。
【請求項14】
ヘモグロビンを含んでなる高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物であって、前記ヘモグロビンは実質的に、請求項8の方法により形成された非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなる組成物。
【請求項15】
高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記酸素キャリア含有医薬組成物はヘモグロビンを含み、該ヘモグロビンは本質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなり、前記方法は、
a)少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類全血を準備することと;
b)前記哺乳類全血において、前記赤血球を前記血漿から分離することと;
c)前記血漿から分離された赤血球を濾過して、濾過された赤血球画分を得ることと;
d)前記濾過された赤血球画分を洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去し、洗浄された赤血球を得ることと;
e)50〜1000L/時の流量の細胞溶解装置において、2〜30秒または赤血球を溶解するのに充分な時間の正確かつ制御された低張溶解により前記洗浄された赤血球を破壊して、破壊された赤血球の溶解物を含んでなる溶液を作製することと;
f)濾過を行って、前記溶解物から老廃物濃縮物の少なくとも一部を除去することと;
g)前記溶解物から第一のヘモグロビン溶液を抽出することと;
h)ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物を除去するように構成された限外濾過フィルタを使用して第一の限外濾過を行い、何れかのウイルスおよび残留老廃物濃縮物を更に前記第一ヘモグロビン溶液から除去して、第二のヘモグロビン溶液を得ることと;
i)前記精製されたヘモグロビン溶液にフロースルーカラムクロマトグラフィーを行って、タンパク質不純物を除去することと;
j)不純物を除去するように構成された限外フィルタを使用して第二の限外濾過プロセスを行い、前記精製されたヘモグロビン溶液を濃縮することと;
k)脱酸素環境において、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによりヘモグロビンの少なくともα−αサブユニットを架橋して架橋されたヘモグロビンを形成し、前記架橋されたヘモグロビンが非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンであることと;
l)前記架橋四量体ヘモグロビンのために適切な生理学的緩衝液を交換することと;
m)接線流濾過により何らかの残留化学薬品を除去することと;
n)前記架橋四量体ヘモグロビンにN−アセチルシステインを添加し、また前記架橋ヘモグロビンを脱酸素環境において約90℃〜95℃の温度で熱処理して、得られる熱安定性架橋四量体ヘモグロビンが検出不能な濃度の二量体を有し、且つ実質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなるように、何らかの残留未反応ヘモグロビン、非安定化ヘモグロビン(二量体)および何れか他のタンパク質不純物を変性および沈殿させることと;
o)前記架橋四量体ヘモグロビンを熱処理した後に直ちにN−アセチルシステインを加えて、メトヘモグロビンの低レベルを維持することと;
p)遠心分離または濾過装置により沈殿を除去して、透明な溶液を形成することと;
q)精製された熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを医薬的に許容可能なキャリアに加えることを含んでなる方法。
【請求項16】
請求項15に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記熱処理は30秒〜3時間行われ、その直後に25℃に冷却され、また該冷却の直後に約0.2〜0.4%の量のN−アセチルシステインが添加される方法。
【請求項17】
請求項15に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、加熱処理に先立つ前記N−アセチルシステインの添加は約0.2%である方法。
【請求項18】
請求項15に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記全血はヒト、ウシ、豚、イヌまたはウマの全血である方法。
【請求項19】
ヘモグロビンを含んでなる高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物であって、前記ヘモグロビンは実質的に、請求項15の方法により形成された非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなる組成物。
【請求項1】
高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記酸素キャリア含有医薬組成物はヘモグロビンを含み、該ヘモグロビンは本質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなり、前記方法は、
a)少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類全血を準備することと;
b)前記哺乳類全血において、前記赤血球を前記血漿から分離することと;
c)前記血漿から分離された赤血球を濾過して、濾過された赤血球画分を得ることと;
d)前記濾過された赤血球画分を洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去し、洗浄された赤血球を得ることと;
e)50〜1000L/時の流量の細胞溶解装置において、2〜30秒または赤血球を溶解するのに充分な時間の正確かつ制御された低張溶解により前記洗浄された赤血球を破壊して、破壊された赤血球の溶解物を含んでなる溶液を作製することと;
f)濾過を行って、前記溶解物から老廃物濃縮物の少なくとも一部を除去することと;
g)前記溶解物から第一のヘモグロビン溶液を抽出することと;
h)ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物を除去するように構成された限外濾過フィルタを使用して第一の限外濾過を行い、何れかのウイルスおよび残留老廃物濃縮物を更に前記第一ヘモグロビン溶液から除去して、第二のヘモグロビン溶液を得ることと;
i)前記精製されたヘモグロビン溶液にフロースルーカラムクロマトグラフィーを行って、タンパク質不純物を除去することと;
j)不純物を除去するように構成された限外フィルタを使用して第二の限外濾過プロセスを行い、前記精製されたヘモグロビン溶液を濃縮することと;
k)脱酸素環境において、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによりヘモグロビンの少なくともα−αサブユニットを架橋して架橋されたヘモグロビンを形成し、前記架橋されたヘモグロビンが非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンであることと;
l)前記架橋四量体ヘモグロビンのために適切な生理学的緩衝液を交換することと;
m)接線流濾過により何らかの残留化学薬品を除去することと;
n)前記架橋ヘモグロビンを脱酸素環境で熱処理して、得られる熱安定性架橋四量体ヘモグロビンが検出不能な濃度の二量体を有し、且つ実質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなるように、何らかの残留未反応ヘモグロビン、非安定化ヘモグロビン(二量体)および何れか他のタンパク質不純物を変性および沈殿させることと;
o)前記架橋四量体ヘモグロビンを熱処理した後に直ちにN−アセチルシステインを加えて、メトヘモグロビンの低レベルを維持することと;
p)遠心分離または濾過装置により沈殿を除去して、透明な溶液を形成することと;
q)精製された熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを医薬的に許容可能なキャリアに加えることを含んでなる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記熱処理は70℃〜95℃で30秒〜3時間行われ、その直後に冷却される高温短時間プロセスであり、また前記冷却の直後に0.2〜0.4%の量のN−アセチルシステインが添加される方法。
【請求項3】
請求項1に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記全血はヒト、ウシ、豚、イヌまたはウマの全血である方法。
【請求項4】
請求項1に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記カラムクロマトグラフィーは1以上の陽イオン交換カラムまたは陰イオン交換カラムを含んでなる方法。
【請求項5】
請求項4に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記クロマトグラフィーカラムは1以上のDEAEカラム、CMカラムおよび/またはヒドロキシアパタイトカラムである方法。
【請求項6】
請求項1に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記医薬的に許容可能なキャリアは生理学的緩衝液または水である方法。
【請求項7】
ヘモグロビンを含んでなる高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物であって、前記ヘモグロビンは実質的に、請求項1の方法により形成された非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなる組成物。
【請求項8】
高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記酸素キャリア含有医薬組成物はヘモグロビンを含み、該ヘモグロビンは本質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなり、前記方法は、
a)少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類全血を準備することと;
b)前記哺乳類全血において、前記赤血球を前記血漿から分離することと;
c)前記血漿から分離された赤血球を濾過して、濾過された赤血球画分を得ることと;
d)前記濾過された赤血球画分を洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去し、洗浄された赤血球を得ることと;
e)50〜1000L/時の流量の細胞溶解装置において、2〜30秒または赤血球を溶解するのに充分な時間の正確かつ制御された低張溶解により前記洗浄された赤血球を破壊して、破壊された赤血球の溶解物を含んでなる溶液を作製することと;
f)濾過を行って、前記溶解物から老廃物濃縮物の少なくとも一部を除去することと;
g)前記溶解物から第一のヘモグロビン溶液を抽出することと;
h)ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物を除去するように構成された限外濾過フィルタを使用して第一の限外濾過を行い、何れかのウイルスおよび残留老廃物濃縮物を更に前記第一ヘモグロビン溶液から除去して、第二のヘモグロビン溶液を得ることと;
i)前記精製されたヘモグロビン溶液にフロースルーカラムクロマトグラフィーを行って、タンパク質不純物を除去することと;
j)不純物を除去するように構成された限外フィルタを使用して第二の限外濾過プロセスを行い、前記精製されたヘモグロビン溶液を濃縮することと;
k)脱酸素環境において、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによりヘモグロビンの少なくともα−αサブユニットを架橋して架橋されたヘモグロビンを形成し、前記ヘモグロビンが非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンであることと;
l)前記架橋四量体ヘモグロビンのために適切な生理学的緩衝液を交換することと;
m)接線流濾過により何らかの残留化学薬品を除去することと;
n)前記架橋ヘモグロビンを約90℃〜95℃の温度で熱処理して、得られる熱安定性架橋四量体ヘモグロビンが検出不能な濃度の二量体を有し、且つ実質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなるように、何らかの残留未反応ヘモグロビン、非安定化ヘモグロビン(二量体)および何れか他のタンパク質不純物を変性および沈殿させ、且つ直ちに約25℃に冷却することと;
o)前記架橋四量体ヘモグロビンを熱処理した後に直ちにN−アセチルシステインを加えて、メトヘモグロビンの低レベルを維持することと;
p)遠心分離または濾過装置により沈殿を除去して、透明な溶液を形成することと;
q)精製された熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを医薬的に許容可能なキャリアに加えることを含んでなる方法。
【請求項9】
請求項8に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記熱処理は脱酸素環境において行われる方法。
【請求項10】
請求項8に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記熱処理は30秒〜3分間行われ、続いて直ちに冷却され、また該冷却の直後に0.2〜0.4%のN−アセチルシステインが添加される方法。
【請求項11】
請求項8に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記全血はヒト、ウシ、豚、イヌまたはウマの全血である方法。
【請求項12】
請求項8に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記カラムクロマトグラフィーは1以上の陽イオン交換カラムまたは陰イオン交換カラムを含んでなる方法。
【請求項13】
請求項12に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記クロマトグラフィーカラムは1以上のDEAEカラム、CMカラムおよび/またはヒドロキシアパタイトカラムである方法。
【請求項14】
ヘモグロビンを含んでなる高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物であって、前記ヘモグロビンは実質的に、請求項8の方法により形成された非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなる組成物。
【請求項15】
高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記酸素キャリア含有医薬組成物はヘモグロビンを含み、該ヘモグロビンは本質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなり、前記方法は、
a)少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類全血を準備することと;
b)前記哺乳類全血において、前記赤血球を前記血漿から分離することと;
c)前記血漿から分離された赤血球を濾過して、濾過された赤血球画分を得ることと;
d)前記濾過された赤血球画分を洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去し、洗浄された赤血球を得ることと;
e)50〜1000L/時の流量の細胞溶解装置において、2〜30秒または赤血球を溶解するのに充分な時間の正確かつ制御された低張溶解により前記洗浄された赤血球を破壊して、破壊された赤血球の溶解物を含んでなる溶液を作製することと;
f)濾過を行って、前記溶解物から老廃物濃縮物の少なくとも一部を除去することと;
g)前記溶解物から第一のヘモグロビン溶液を抽出することと;
h)ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物を除去するように構成された限外濾過フィルタを使用して第一の限外濾過を行い、何れかのウイルスおよび残留老廃物濃縮物を更に前記第一ヘモグロビン溶液から除去して、第二のヘモグロビン溶液を得ることと;
i)前記精製されたヘモグロビン溶液にフロースルーカラムクロマトグラフィーを行って、タンパク質不純物を除去することと;
j)不純物を除去するように構成された限外フィルタを使用して第二の限外濾過プロセスを行い、前記精製されたヘモグロビン溶液を濃縮することと;
k)脱酸素環境において、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによりヘモグロビンの少なくともα−αサブユニットを架橋して架橋されたヘモグロビンを形成し、前記架橋されたヘモグロビンが非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンであることと;
l)前記架橋四量体ヘモグロビンのために適切な生理学的緩衝液を交換することと;
m)接線流濾過により何らかの残留化学薬品を除去することと;
n)前記架橋四量体ヘモグロビンにN−アセチルシステインを添加し、また前記架橋ヘモグロビンを脱酸素環境において約90℃〜95℃の温度で熱処理して、得られる熱安定性架橋四量体ヘモグロビンが検出不能な濃度の二量体を有し、且つ実質的に非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなるように、何らかの残留未反応ヘモグロビン、非安定化ヘモグロビン(二量体)および何れか他のタンパク質不純物を変性および沈殿させることと;
o)前記架橋四量体ヘモグロビンを熱処理した後に直ちにN−アセチルシステインを加えて、メトヘモグロビンの低レベルを維持することと;
p)遠心分離または濾過装置により沈殿を除去して、透明な溶液を形成することと;
q)精製された熱安定性架橋四量体ヘモグロビンを医薬的に許容可能なキャリアに加えることを含んでなる方法。
【請求項16】
請求項15に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記熱処理は30秒〜3時間行われ、その直後に25℃に冷却され、また該冷却の直後に約0.2〜0.4%の量のN−アセチルシステインが添加される方法。
【請求項17】
請求項15に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、加熱処理に先立つ前記N−アセチルシステインの添加は約0.2%である方法。
【請求項18】
請求項15に記載の高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物を調製する方法であって、前記全血はヒト、ウシ、豚、イヌまたはウマの全血である方法。
【請求項19】
ヘモグロビンを含んでなる高純度の熱安定性酸素キャリア含有医薬組成物であって、前記ヘモグロビンは実質的に、請求項15の方法により形成された非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンからなる組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−6910(P2012−6910A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−87314(P2011−87314)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(511091036)
【出願人】(511091047)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87314(P2011−87314)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(511091036)
【出願人】(511091047)
【Fターム(参考)】
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