説明

熱硬化型拡散シート用二軸延伸ポリエステルフィルム

【課題】 LCDの部材、特に熱硬化型の拡散シートにおいて、一次加工である拡散加工後の反対面側のバックコート加工時において、加工特性が良好で、加工速度や歩留りの低下を発生させることなく、また、高い輝度を維持して鮮明で高品質な画像を安定的に与えることができる、光学的性能に優れたポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 両面に塗布層を有する、厚みが180〜260μmの二軸延伸ポリエステルフィルムであり、フィルムの両端とそれ以外の等間隔8点の計10点における長手方向の150℃で5分間処理後の熱収縮率の平均値が1.5%以下でかつ振れ幅が0.16%以下であり、同測定条件におけるフィルム幅方向の熱収縮率の平均値が0.7%以下であり、総厚みが900〜1040μmの範囲となるように複数枚重ね合わして測定した色調y値が0.3230以下であることを特徴とする熱硬化型拡散シート用二軸延伸ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型拡散シート用二軸延伸ポリエステルフィルムに関するものであり、詳しくは液晶ディスプレイ(以下、LCDと略記する場合あり)に用いるバックライトとして使用される熱硬化型の拡散シートに好適に用いることのできるポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの二軸延伸フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有しており、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネートフィルム、ガラスディスプレイ等のガラス表面に貼るフィルム、各種部材の保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0003】
ポリエステルフィルムは、近年、特に各種光学用フィルムに多く使用され、LCDの部材の拡散シート、マイクロレンズシート、プリズムシート、複合シート高輝度シート、反射板、タッチパネル等のベースフィルムや反射防止用ベースフィルムやディスプレイの防爆用ベースフィルム、PDPフィルター用フィルム等の各種用途に用いられている。
【0004】
この中の熱硬化型の拡散シートの製造工程において、拡散シート同士が貼り付いて作業性が低下することを防止することを目的として、スティック防止性などの機能を有するバックコート加工が行われる。このバックコート加工前の工程において、フィルムが熱履歴の影響を受け、フィルム幅方向において、例えば、フィルムの一方の端部が反対側の端部と比べて大きく収縮すると、フィルムを張り出した際に一方の端部が弛んで平面性が悪化するようになり、バックコート加工時の走行においてシワが発生したりするため、加工速度を低下させたり、加工時の歩留りが低下したりするなどの問題がある。
【0005】
また、コスト対応のために、フィルム製膜工程においてリサイクル性の原料を用いる場合があるが、多量に用いると色調が黄色みを帯びるようになり、輝度が低下して鮮明で高精細な画像を得られなくなるという問題がある。また、加工された各拡散シート間で色度変化を起こすようになり、バックライトユニットに拡散シートを組み込んだ際の光源側のバックライトの色度調整が都度必要になったりするという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−203277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、LCDの部材、特に熱硬化型の拡散シートの製造工程において、加工特性が良好で、加工速度や歩留りの低下を発生させることなく、また、色度変化が少なく、バックライトの光源における色度調整作業が不要となり、高い輝度を維持して鮮明で高品質な画像を安定的に与えることができる、光学的性能に優れたポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、両面に塗布層を有する、厚みが180〜260μmの二軸延伸ポリエステルフィルムであり、フィルムの両端とそれ以外の等間隔8点の計10点における長手方向の150℃で5分間処理後の熱収縮率の平均値が1.5%以下でかつ振れ幅が0.16%以下であり、同測定条件におけるフィルム幅方向の熱収縮率の平均値が0.7%以下であり、総厚みが900〜1040μmの範囲となるように複数枚重ね合わして測定した色調y値が0.3230以下であることを特徴とする熱硬化型拡散シート用二軸延伸ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフィルムによれば、バックコート加工時における加工特性が良好で、加工速度の低下や歩留りの低下を発生させることなく、また色調変化を発生させることなく、バックライトユニットに拡散シートを組み込んだ際のバックライトによる色度調整作業が不要で、高い輝度と安定した高品質な画像を得ることができ、本発明の工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明においてポリエステルフィルムに使用するポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものを指す。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート等が例示される。かかるポリエステルは、共重合されないホモポリマーであってもよく、またジカルボン酸成分の20モル%以下が主成分以外のジカルボン酸成分であり、および/またはジオール成分の20モル%以下が主成分以外のジオール成分であるような共重合ポリエステルであってもよい。またそれらの混合物であってもよい。
【0012】
本発明におけるポリエステルは、従来公知の方法で、例えばジカルボン酸とジオールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法や、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとジオールとを従来公知のエステル交換触媒で反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。重合触媒としては、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物等公知の触媒を使用して良いが、好ましくはアンチモン化合物の量を零またはアンチモンとして100ppm以下にすることによりフィルムのくすみを低減したものが好ましい。
【0013】
なおポリエステルは、溶融重合後これをチップ化し、加熱減圧下または窒素等不活性気流中に必要に応じてさらに固相重合を施してもよい。得られるポリエステルの固有粘度は0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.90dl/gであることが好ましい。
【0014】
本発明におけるポリエステル層中には、易滑性付与を主たる目的として粒子を配合してもよい。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム酸化珪素、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されている耐熱性有機粒子を用いてもよい。
この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0015】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0016】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.01〜5μmが好ましい。平均粒径が0.01μm未満の場合には、粒子が凝集しやすく、分散性が不十分な場合があり、一方、5μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、透明性に劣るようになってしまう。
【0017】
さらに、ポリエステル中の粒子含有量は、フィルムを構成する全ポリエステルに対し通常0.0003〜1.0重量%、好ましくは0.0005〜0.5重量%の範囲である。
粒子含有量が0.0003重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、1.0重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0018】
ポリエステル中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0019】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、熱安定剤、潤滑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料、顔料等を添加することができる。また用途によっては、紫外線吸収剤、特にベンゾオキサジノン系紫外線吸収剤等を含有させても良い。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、用途の適正から、180〜260μmの範囲である必要がある。
【0021】
本発明のフィルムの全光線透過率は、89%以上が好ましく、さらに好ましくは90%以上である。本発明のフィルムは、その優れた光透過性を有するために光学用途に広く用いられるが、全光線透過率が89%未満の場合には、光学用としては不適となる。
【0022】
本発明のフィルムは、フィルムヘーズ0〜2.0%、好ましくは0〜1.9%、さらに好ましくは0〜1.8%である。本発明のフィルムは、その優れた透明性を有するために光学用途に広く用いられるが、フィルムヘーズが2.0%を超える場合には、光学用としては不適当となる。
【0023】
本発明のフィルムは、フィルムの両端とそれ以外の等間隔8点の計10点における長手方向(MD方向)の150℃で5分間処理後の熱収縮率の振れ幅が0.16%以下、好ましくは0.15%以下、さらに好ましくは0.13%以下である。熱収縮率差が0.16%を超えて大きくなると、一次加工における拡散加工時の熱履歴の影響を受け、例えば、フィルム幅方向において寸法変化が大きくなり、フィルムの平面性が悪化して、二次加工であるバックコート加工時にフィルム端部が弛んでシワ等が発生して加工速度を低下させたり、加工時の歩留りが低下したりするなどの不具合が発生する。
【0024】
長手方向の熱収縮率について、かかる熱収縮率の振れ幅となるようにするには、フィルム製膜時の熱固定温度を低くする方法を採用することができるが、低くし過ぎると熱収縮率が高くなり、フィルム全体の寸法安定性が損なわれ、拡散シートを形成した際に、シート端部において、波状のうねり現象や、シート中央部において、楕円状の膨らみが発生して、エッグ状のムラの不具合を発生し、シートの平面性が悪化して画像品質が劣化するようになるため、フィルム製膜時の熱固定温度の設定とともに、熱固定ゾーン出口におけるレール幅について入口よりも幅出しを行う方法が採用される。
【0025】
本発明のフィルム長手方向の150℃で5分間処理後の加熱収縮率の平均値は、1.5%以下、好ましくは1.1%以下である。また、フィルム幅方向(TD方向)の同加熱収縮率は、0.7%以下、好ましくは0.6%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。フィルム長手方向(MD)が1.5%、幅方向(TD)が0.7%を超えて大きくなると、ディスプレイ製品の部材として使用した場合に、バックライトの光源のランプや周辺部品の発熱の影響により、シートを形成しているフィルムの寸法安定性が損なわれ、特にシートの縁の部分においては、波状のうねり現象が発生するようになり、画像に歪みやムラが発生して画像品質の劣化の原因となる。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムは、測定時の総厚みが900μmから1040μmになるように複数枚重ね合わした時の色調反射法y値が0.3230以下の範囲である。色調反射法y値が0.3230を超える場合には、フィルムの黄色みが強く、ディスプレイ用として使用した場合、画像の色調が劣るようになったり、輝度が低下したりする等の点で不適切となる。また、各拡散シート間で色調差が発生し、バックライトユニットに拡散シートを組み込んだ際に都度、バックライト光源の色度調整が必要になるという不具合が発生する。
【0027】
かかる色調のフィルムとするためには、原料のポリエステルを製造する際の触媒、助剤を選択し、なるべく触媒の量を少なくすることや、重合および製膜時にポリエステルが必要以上に高温度になったり、溶融時間が長くなったりしないようにすること、さらにリサイクル性の原料の配合量を少なくすることなどの方法を採用することができる。
【0028】
また、本発明のフィルムは、180℃で10分間熱処理後のフィルム表面へのオリゴマー(環状三量体)析出量の表裏面の総和が、15mg/m以下であることが好ましく、さらに好ましくは10.0mg/m2以下、特に好ましくは8.0mg/m以下である。フィルム表面へのオリゴマー析出量が15mg/mを超える場合には、表面でオリゴマーが結晶化してフィルム上に設ける機能層に溶け込んで特性に影響を及ぼす等の問題を引き起こしやすい。
【0029】
熱処理によるフィルム表面へのオリゴマー析出量を上記の範囲とするためには、オリゴマー含有量の少ないポリエステルを用いることや、インラインまたはオフラインで塗布層を設けることによりフィルム表面にオリゴマーが析出するのを押えることで、熱処理後のフィルム表面へのオリゴマー析出量を上記範囲とすることができる。
【0030】
本発明のフィルムは、共押出法を用いて積層構造とすることができるが、その際最外層厚みは、片側のみの厚みで通常4μm以上かつ総厚みの1/10以下であることが好ましい。かかる厚みが4μm未満では、加工中の熱履歴等により、内層に含有されているオリゴマー(環状三量体)がフィルム表面に析出し、生産ラインの汚染やフィルム表面の異物量の増加が見られる可能性があったりする場合がある。一方、1/10を超えるとフィルムがカールしやすくなる傾向があり、光学用フィルムとして好ましくない。
【0031】
以下、本発明のポリエステルフィルムの製造方法に関して具体的に説明するが、本発明の要旨を満足する限り、本発明は以下の例示に特に限定されるものではない。
【0032】
まず、公知の手法により乾燥した、または未乾燥のポリエステルチップを溶融押出装置に供給し、それぞれのポリマーの融点以上である温度に加熱し溶融する。次いで、溶融したポリマーをダイから押出し、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0033】
本発明においては、このようにして得られたシートを2軸方向に延伸してフィルム化する。延伸条件について具体的に述べると、前記未延伸シートを、好ましくは縦方向に70〜145℃で2〜5倍に延伸し、縦1軸延伸フィルムとした後、横方向に90〜160℃で2〜5倍延伸を行い、210〜230℃で10〜600秒間熱固定を行い、熱固定ゾーンの出口の幅を入口の幅より100〜200mmの幅出しを行うことが好ましい。さらにこの際、熱固定出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に3〜10%弛緩する方法が好ましい。また、必要に応じて再縦延伸、再横延伸を付加することも可能である。
【0034】
本発明においては、前記の通りポリエステルの溶融押出機を2台以上用いて、いわゆる共押出法により3層の積層フィルムとすることができる。層の構成としては、A原料とB原料を用いてA/B/A構成のフィルムとすることができる。
【0035】
特に本発明のフィルムは、LCD用のバックライトの拡散シートに用いるため、拡散用の樹脂、バックコート用の樹脂と密着性を向上することを目的として、両面に下引き層としての塗布層を設けることが必要である。
【0036】
かかる塗布層の形成に当たっては、フィルムを製造する工程内、特に縦方向に延伸した後、横方向の延伸の前に行う方法が、極めて薄い塗布層を形成できる点、塗布液の乾燥や硬化反応を製膜工程内で実施できることなどの点で好ましい。かかる塗布層としては、架橋剤と各種バインダー樹脂との組み合わせからなるものが好ましく、バインダー樹脂としては密着性の観点から、通常ポリエステル、アクリル系ポリマーおよびポリウレタンの中から選ばれたポリマーを採用する。上記のポリマーは、それぞれそれらの誘導体をも含むものとする。ここでいう誘導体とは、他のポリマーとの共重合体、官能基に反応性化合物を反応させたポリマーを指す。
【0037】
なお必要に応じてフィルムの製造後にオフラインコートでコートしても良い。コーティングの材料としては、オフラインコーティングの場合は、水系および/または溶剤系いずれでも良いが、インラインコーティングの場合は、水系または水分散系が好ましい。
【0038】
また本発明のフィルムは、光学用に用いるので、特に拡散加工面とは反対面側において、静電気によるゴミ付着防止、さらには電磁波シールドを目的とした機能性多層薄膜を形成させることもさらに好ましい。
【0039】
本発明で塗布剤として用いる、上記のポリエステル、アクリル系ポリマー、ポリウレタンの中で特に好ましいポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上、さらには40℃以上のものであり、ポリウレタンの中でもポリエステルポリウレタンであり、カルボン酸残基を持ち、その少なくとも一部はアミンまたはアンモニアを用いて水性化されているポリマーである。
【0040】
架橋剤樹脂としては、メラミン系、エポキシ系、オキサゾリン系樹脂が一般に用いられるが、塗布性、耐久接着性の点で、メラミン系樹脂が特に好ましい。 メラミン系樹脂としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。
【0041】
本発明において、滑り性、固着性などをさらに改良するため、塗布層中に無機系粒子や有機系粒子を含有させることが好ましい。塗布剤中における粒子の配合量は、通常0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。かかる配合量が0.5重量%未満では、耐ブロッキング性が不十分となる場合があり、10重量%を超えると、フィルムの光透過性を低下させる傾向がある。
【0042】
無機粒子としては、二酸化ケイ素、アルミナ、酸化ジルコニウム、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化バリウム、カーボンブラック、硫化モリブデン、酸化アンチモン等が挙げられる。これらの中では、二酸化ケイ素が安価でかつ粒子径が多種あるので利用しやすい。一方有機粒子としては、炭素−炭素二重結合を一分子中に2個以上含有する化合物(例えばジビニルベンゼン)により架橋構造を達成したポリスチレンまたはポリアクリレートポリメタクリレートが挙げられる。
【0043】
上記の無機粒子および有機粒子は表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、界面活性剤、分散剤としての高分子、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。
【0044】
また、塗布層は、帯電防止剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料などを含有していてもよい。
【0045】
塗布剤は、水を主たる媒体とする限りにおいて、水への分散を改良する目的または造膜性能を改良する目的で少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は、水に溶解する範囲で使用することが必要である。有機溶剤としては、n−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール等の脂肪族または脂環族アルコール類、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、n−ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール誘導体、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸アミル等のエステル類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、N−メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。
これらの有機溶剤は、必要に応じて二種以上を併用してもよい。
【0046】
塗布剤の塗布方法としては、例えば、原崎勇次著、槙書店、1979年発行、「コーティング方式」に示されるような、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクターコーターまたはこれら以外の塗布装置を使用することができる。
【0047】
本発明における塗布層は、塗布剤のフィルムへの塗布性や接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理や放電処理を施してもよい。また、表面特性をさらに改良するため、塗布層形成後に放電処理を施してもよい。
【0048】
塗布層の厚みは、最終的な乾燥厚さとして、通常0.01〜0.5μm、好ましくは0.015〜0.3μmの範囲である。塗布層の厚さが0.01μm未満の場合は、本発明の効果が十分に発揮されない恐れがある。塗布層の厚さが0.5μmを超える場合は、フィルムが相互に固着しやすくなったり、特にフィルムの高強度化のために塗布処理フィルムを再延伸する場合は、工程中のロールに粘着しやすくなったりする傾向がある。上記の固着の問題は、特にフィルムの両面に同一の塗布層を形成する場合に顕著に現れる。
【0049】
このような塗布フィルムを光学用途に適用する場合には、塗布層表面の塗布ヌケが、この塗布層のさらに上に拡散用の樹脂、バックコート用の樹脂を設ける時に問題となっている。塗布ヌケが生じる理由は明確ではないが、フィルム中にある異物がフィルム表面に粗大突起を作りそれが核となって塗布剤がはじき、それが延伸されて塗布ヌケが発生したり、フィルムの表面に付着したオリゴマーやゴミが核となりそこを核として塗布剤がはじきヌケとなったりする場合等が考えられる。したがって、かかる核となり得るゴミや異物をできる限り除去した条件で製膜することが必要である。かかる異物にはフィルム上に付着または析出したオリゴマーも含まれるため、フィルムが含有するオリゴマー量を低減することも塗布のヌケを減少させる効果を有する。
【0050】
かくして得られる本発明のフィルムは、塗布層を有する場合その塗布ヌケの個数(N)がフィルム1m当たりで50個以下、さらには30個以下、特に10個以下であることが好ましい。
【0051】
いずれにせよ今後ますます厳しくなる光学用フィルムにおいては、塗布ヌケは可能な限り零にすることが必要である。
【0052】
本発明のフィルムは、光学用として使用されたときに特にその優れた効果を発揮するが、その具体的な部材としては、LCD用のバックライトとして使用される熱硬化型の拡散シートであり、高度な光学的性能を必要とする基材として特に有効に使用される。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
【0054】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0055】
(2)第三成分(共重合成分)含有量の測定
樹脂試料を重水化クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(重量比7/3)の混合溶媒に濃度3重量%となるように溶解させた溶液について、核磁気共鳴装置(日本電子社製「JNM−EX270型」)を用いて、1 H−NMRを測定して各ピークを帰属し、ピークの積分値から共重合成分の含有量を算出した。
【0056】
(3)平均粒径(d50:μm)の測定
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
【0057】
(4)全光線透過率、ヘーズ
全光線透過率はJIS−K−7361、ヘーズはJIS−K−7136に準じて日本電色工業社製積分球式濁度計「NDH2000」により、全光線透過率、ヘーズを測定した。
【0058】
(5)加熱収縮率
フィルム製膜工程で得られたマスターロールについて、任意の位置でフィルム
をスリッティング加工し、フィルムの両端とそれ以外の等間隔8点の計10点において、長手方向がMD方向(縦方向)となるように、15mm幅x150mm長の短冊上にサンプルを切り出し、また、幅方向がTD方向(横方向)となるように15mm幅x150mm長の短冊上にサンプルを切り出し、無張力状態にて、150℃に設定されたオーブン中で5分間加熱処理を行い、MD、TD方向のそれぞれの方向において、加熱処理前後での長さを測微計により測定し、下記式にて各サンプルの熱収収縮率を求めた。
加熱収縮率(%)=[(a−b)/a]x100
(上記式中aおよびbは、それぞれ加熱前後のフィルムの長さ(mm)である)
計10点の位置、それぞれの位置について、フィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)各5点ずつ測定し、MD、TD方向のそれぞれの方向において平均値を求め、加熱収縮率とした。また、計10点の位置におけるフィルム長手方向(MD)の加熱収縮率のそれぞれの平均値について、最大値と最小値の差を熱収縮率の振れ幅とした。)
【0059】
(6)色調反射法y値
JIS−Z−5722に準じたミノルタ製分光測色計「CM−3700d」により、色調反射法y値を測定した。測定は、例えば、フィルムの厚みが180μmの時は5枚重ね、260μmの時は4枚重ねとして、総厚みが900μmから1040μmになるように複数枚重ね合わせて測定した。
【0060】
(7)二次加工における加工適性
製品幅1500mm幅にスリッティング加工されたフィルムロールから、片方の端から500mm角の正方形に幅方向にフィルム3枚を切り出し、180℃のオーブンで、2分加熱した後の、フィルム3枚の変形度合いを以下の観点から総合的に評価した。
A;フィルムの変形がほとんどなく、一次加工で加熱処理を行った後の二次加
工において、フィルム平面性について不具合がないレベル
B;フィルムの変形が確認でき、一次加工で加熱処理を行った後の二次加工に
おいて、フィルム平面性について不具合が発生するレベル
【0061】
(7)光学部材適性(輝度)
光学用部材として、拡散シートとして使用した場合の特性を評価した。即ちフィルムの片面に、アクリル系バインダーを塗布して拡散層を形成し、得られた拡散シート、2枚をバックライトユニットに組み込んで、得られる面状発光の品質を以下の観点で評価した。
・輝度レベル:輝度計を用いて評価し、実施例4のフィルムを使用した場合と比較して下記基準で評価した。
A:輝度が向上し、改良が見られた
B:輝度の低下は確認できなかった
C:輝度が低下した
【0062】
以下に実施例および比較例を示すが、これに用いたポリエステルの製造方法は次のとおりである。
〈ポリエステルの製造〉
<ポリエステル(a)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、三酸化アンチモン0.03部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.68に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(a)の極限粘度は0.68であった。
【0063】
<ポリエステル(b)の製造方法>
ポリエステル(a)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04部を添加後、エチレングリコールに分散させた平均粒子径2.1μmのシリカ粒子を0.3部、三酸化アンチモン0.03部を加えて、極限粘度0.66に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(B)を得た。得られたポリエステル(B)は、極限粘度0.66であった。
【0064】
<ポリエステル(c)の製造方法>
ポリエステル(a)の製造方法において、出発原料をテレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とジエチレングリコール2重量部とし、重合触媒として酸化ゲルマニウムを使用したこと以外は、ポリエステル(a)の製造方法と同様な方法を用いてポリエステル(c)を得た。なお、酸化ゲルマニウムの添加方法は公知の方法を採用し、その添加量はゲルマニウムとして原料重量に対して100ppmとした。得られたポリエステル(c)の固有粘度は0.68であった。
【0065】
実施例1:
前述のポリエステル(c)、(b)をそれぞれ88%、12%の割合で混合した混合原料をA層の原料とし、B層の原料をポリエステル(c)100%として、2台のベント式二軸押出機に各々を供給し、それぞれ285℃で溶融し、A層を最外層(表層)、B層を中間層とする2種3層(A/B/A)の層構成で共押出して口金から押出し静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度81℃で縦方向に3.2倍延伸した後、以下に示した組成の塗布剤を塗布した後テンターに導き、横方向に120℃で4.2倍延伸し、217℃で熱固定を行った後、熱固定ゾーン出口におけるレール幅を熱固定ゾーン入口より120mm広げ、熱固定出口のクーリングゾーンにおいて、横方向に5%弛緩し、厚さ188μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの各層の厚みは、6/176/6μmであった。塗布層の厚みは、片方の面が0.12μm、反対の面が0.15μmであった。
【0066】
(塗布剤の組成:重量比)
a/b/c/d=47/20/30/3
ここで、aは、テレフタル酸/イソフタル酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸/エチレングリコール/ジエチレングリコール/トリエチレングリコール=31/16/3/22/21(モル比)のポリエステル分散体;bは、メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリルニトリル/N−メチロールメタアクリルアミド=45/45/5/5(モル比)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤);cは、ヘキサメトキシメチルメラミン(メラミン系架橋剤);dは、粒子径0.06μmの酸化ケイ素の水分散体(無機粒子)である。
【0067】
実施例2:
ポリエステル(c)、(b)をそれぞれ87%、13%の割合で混合した混合原料をA層の原料とし、ポリエステル(c)88%、実施例1のポリエステル製造時に発生した耳部およびマスターロール耳部からの再生品を12%の割合で混合した混合原料をB層としたこと以外は実施例1と同様にして、厚み188μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの各層の厚みは、7/174/7μmであった。
【0068】
実施例3:
ポリエステル(c)、(b)をそれぞれ95%、5%の割合で混合した混合原料をA層の原料とし、縦方向に3.1倍、横方向に3.9倍延伸し、220℃で熱処理を行った後、横方向に3.7%弛緩したこと以外は実施例1と同様にして、厚み250μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの各層の厚みは、8/234/8μmであった。
【0069】
実施例4:
ポリエステル(a)、(b)をそれぞれ88%、12%の割合で混合した混合原料をA層の原料とし、B層の原料をポリエステル(a)100%として、延伸倍率を縦方向に3.1倍、横方向に4.0倍に延伸した以外は実施例1と同様にして、厚み188μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの各層の厚みは、6/176/6μmであった。
【0070】
比較例1:
ポリエステル(c)、(b)をそれぞれ87%、13%の割合で混合した混合原料をA層の原料とし、B層の原料をポリエステル(c)100%として、235℃で熱処理を行った以外は実施例1と同様にして、厚み188μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの各層の厚みは、7/174/7μmであった。
【0071】
比較例2:
ポリエステル(c)、(b)をそれぞれ87%、13%の割合で混合した混合原料をA層の原料とし、ポリエステル(c)を43%、実施例1のポリエステル製造時に発生した耳部およびマスターロール耳部からの再生品を57%の割合で混合した混合原料をB層の原料としたこと以外は実施例1と同様にして、厚み188μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの各層の厚みは、7/174/7μmであった。
【0072】
比較例3:
ポリエステル(c)、(b)をそれぞれ88%、12%の割合で混合した混合原料をA層の原料とし、B層の原料をポリエステル(c)100%として、熱固定ゾーンにおける出口のレール幅設定を320mm広げたこと以外は実施例1と同様の条件で製膜を行い、厚み188μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの各層の厚みは6/176/6μmであった。
【0073】
比較例4:
ポリエステル(c)、(b)をそれぞれ87%、13%の割合で混合した混合原料をA層の原料とし、B層の原料をポリエステル(c)100%として、208℃で熱固定を行い、横方向に1.1%弛緩したこと以外は実施例1と同様にして、厚み188μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの各層の厚みは、7/174/7μmであった。
【0074】
得られたフィルムの物性値と、二次加工における加工適正および光学部材適性について下記表1にまとめて示す。本発明の要件を満たすフィルムは、光学用としての適性が高いことが分かる。
【0075】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のフィルムは、例えば、拡散シート用のフィルムとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面に塗布層を有する、厚みが180〜260μmの二軸延伸ポリエステルフィルムであり、フィルムの両端とそれ以外の等間隔8点の計10点における長手方向の150℃で5分間処理後の熱収縮率の平均値が1.5%以下でかつ振れ幅が0.16%以下であり、同測定条件におけるフィルム幅方向の熱収縮率の平均値が0.7%以下であり、総厚みが900〜1040μmの範囲となるように複数枚重ね合わして測定した色調y値が0.3230以下であることを特徴とする熱硬化型拡散シート用二軸延伸ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−177894(P2011−177894A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27965(P2010−27965)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】