説明

熱硬化性樹脂の分解処理方法と熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法

【課題】 エステル結合を含む熱硬化性樹脂とそれを母材とした繊維強化プラスチック廃材において、熱硬化性樹脂の特定部位を亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールを用いて効率良く分解して分解物を生成し、この分解物や使用するアルコールやFRPに含まれる強化材を容易に分離して、再利用可能な有用物を得る熱硬化性樹脂の分解処理方法と熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法を提供することである。
【解決手段】 エステル結合を含む熱硬化性樹脂を触媒の存在下において、温度が200℃〜350℃で圧力が5MPa〜15MPaの、亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールに接触させて熱硬化性樹脂を溶解する工程S3を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材を亜臨界状態から超臨界状態のアルコールに溶解させてこれらに含まれる成分を分離回収し再利用可能な有用物を得る熱硬化性樹脂の分解処理方法と熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱硬化性樹脂は耐熱性、耐薬品性及び機械的性質等に優れており、日用品から工業製品まで幅広い分野で利用されている。中でも、常温常圧で容易に成形可能な不飽和ポリエステル樹脂はガラス繊維等の強化材と一体化させて強度を向上させた繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics、以下、FRPという。)の母材として大量に使用されている。その一方で、環境への配慮から使用済みの製品を原料にリサイクルすることについて様々な検討が行われているが、熱硬化性樹脂は一旦硬化すると加熱によって容易には溶融しないので再成形することが困難であり、また、汎用溶媒にも不溶なので樹脂成分を抽出して再利用することも難しく、リサイクルし難い材料として知られている。このような熱硬化性樹脂やFRPの廃材の再利用方法としては、従来からセメントや樹脂等の母材に混入してマテリアルリサイクルする方法が提案されているものの粉砕にコストを要す上に、混練できる母材が少ないという課題を抱えていた。また、熱硬化性樹脂を熱分解して液化又は気化させて燃料として使用する方法もあったが、生成される燃料は雑多な炭化水素の混合物で付加価値が低いものであった。そこで、近年になって、熱硬化性樹脂を化学的に分解可溶化する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「不飽和ポリエステル樹脂廃棄物の再利用法および再利用装置」という名称で、不飽和ポリエステル樹脂廃棄物を用いて工業的に有用なグリコール類原料を生成する不飽和ポリエステル樹脂廃棄物の再利用法および再利用装置に関する発明が開示されている。
この特許文献1に開示された発明において、不飽和ポリエステル樹脂廃棄物の再利用法は、不飽和ポリエステル樹脂廃棄物を圧力下においてグリコールを用いて分解してグリコール類原料を得る工程と、得られるグリコール原料を二塩基酸と反応させて不飽和ポリエステル樹脂を合成する工程又は得られるグリコール原料をジイソシアネート化合物と反応させてポリウレタン樹脂を合成する工程を備えるものである。
詳細には、不飽和ポリエステル樹脂廃棄物は、分解をより促進させるために細かく粉砕した後、エチレングリコールやプロピレングリコール等のグリコールを添加し、さらに、ナトリウムメチラートやナトリウムエチラート等の触媒を添加して、150℃から250℃の温度に加熱するとともに加圧して窒素雰囲気下で分解するとグリコール類原料を生成する。そして、得られるグリコール類原料は、二塩基酸又はジイソシアネート化合物と通常法によって合成することにより再生樹脂として有効に利用することができる。
【0004】
また、特許文献2には、「廃プラスチックの液状化方法」という名称で、廃プラスチックとしてのFRP成形品の硬化樹脂を完全に液状化して回収するとともに補強材を分離する廃プラスチックの液状化方法に関する発明が開示されている。
この特許文献2に開示された発明は、廃プラスチック100重量部に対して、沸点が180℃以上でベンゼン核を少なくとも1個含む炭化水素と沸点が180℃以上で1分子中に少なくとも2個のヒドロキシル基を含む多価アルコールとの混合物30〜500重量部を配合して180℃以上に加熱する工程を具備している。
なお、沸点が180℃以上でベンゼン核を少なくとも1個含む炭化水素には、コストや作用の有効性からナフタレンやメチルナフタレン混合物が好ましく、また、沸点が180℃以上で1分子中に少なくとも2個のヒドロキシル基を含む多価アルコールには、コストや沸点を考慮するとジエチレングリコールが好ましいとされている。そして、これらの混合物からなる分解剤を、廃プラスチック100重量部に対して30〜500重量部配合して、特に好ましくは250℃以上300℃以下の温度範囲で加熱すると、廃プラスチックを構成している硬化樹脂が完全に液状化するので、この液状化した樹脂部分は、さらに回収可能な成分をリサイクルしたり、そのまま燃料として利用したりすることができる。また、廃プラスチックにフィラーや補強材が含まれる場合には、これらを分離して乾燥及び粉砕すると再利用することができるようになっている。
【0005】
そして、特許文献3には、「熱硬化性組成物の溶解方法」という名称で、腐食性の化学物質を使用しないで反応速度を維持し不飽和ポリエステル樹脂硬化物を溶解することができる不飽和ポリエステル樹脂を含む熱硬化性組成物の溶解方法に関する発明が開示されている。
この特許文献3に開示された発明は、少なくとも不飽和ポリエステル樹脂を含む熱硬化性組成物をリン酸の水和物又はリン酸塩の水和物を含む処理液を用いて処理する工程を具備している。
さらに、この処理液には、沸点が170℃以上300℃以下のアルコール系溶媒を混合することが可能で、大気圧下において20℃以上200℃以下の温度で処理すると、速い反応速度で不飽和ポリエステル樹脂を含む熱硬化性組成物が溶解するので、溶解した樹脂成分において不純物を沈殿法等で分離したり、溶媒を蒸留法等で分離したりすると、樹脂原料として再利用することができる。また、固形の充填材を含む場合は、溶解した樹脂成分を濾過やデカンテーションを行うとこの充填材は容易に回収することができる。
【特許文献1】特開平8−225635号公報
【特許文献2】特開平7−126430号公報
【特許文献3】特開2003−26853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の技術では、不飽和ポリエステル樹脂を分解するために用いるエチレングリコール等のグリコールも最終的に再生樹脂に含まれるので、再利用しなければならない再生樹脂が過剰に生成するという課題があった。また、通常の形態では反応速度が遅いので、促進するために行う原料の微粉砕作業によってコスト高になるという課題もあった。さらには、強化材を含むFRPにおいては、微粉砕すると繊維長が短くなるので強化材としての再利用が困難になるという課題もあった。
【0007】
また、特許文献2及び特許文献3に記載された従来の技術では、熱硬化性樹脂を高沸点の有機溶媒の存在下で可溶化するので、FRPに含まれる強化材等の無機物を分離することは容易であるが、可溶化した樹脂と有機溶媒の混合物においては、有機溶媒が高沸点であるのでこれらの分離が困難であるという課題があった。
【0008】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、エステル結合を含む熱硬化性樹脂とそれを母材とした繊維強化プラスチック廃材において、熱硬化性樹脂の特定部位を亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールを用いて効率良く分解して分解物を生成し、この分解物や使用するアルコールやFRPに含まれる強化材を容易に分離して、再利用可能な有用物を得る熱硬化性樹脂の分解処理方法と熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である熱硬化性樹脂の分解処理方法は、エステル結合を含む熱硬化性樹脂を触媒の存在下において、温度が200℃〜350℃で圧力が5MPa〜15MPaの、亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールに接触させて熱硬化性樹脂を溶解する工程を有するものである。
上記構成の熱硬化性樹脂の分解処理方法では、熱硬化性樹脂はそのエステル結合部分が亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールによって分解されて溶解するという作用を有する。
【0010】
また、請求項2に記載の発明である熱硬化性樹脂の分解処理方法は、請求項1記載の熱硬化性樹脂の分解処理方法において、触媒が、ジメチルアミノピリジン又は金属を含まないジメチルアミノピリジンの誘導体であるものであり、請求項1記載の発明の作用に加えて、ジメチルアミノピリジン又は金属を含まないジメチルアミノピリジンの誘導体は熱硬化性樹脂のエステル結合部分の分解に効果的であり、反応速度を向上させるという作用がある。
【0011】
そして、請求項3に記載の発明である熱硬化性樹脂の分解処理方法は、請求項1記載の熱硬化性樹脂の分解処理方法において、触媒が、ナトリウムより原子番号が大きいアルカリ金属の塩基性塩であるものであり、請求項1記載の発明の作用に加えて、熱硬化性樹脂のエステル結合部分の分解に効果的なナトリウムより原子番号が大きいアルカリ金属の塩基性塩の使用により、反応速度が向上するという作用がある。
【0012】
さらに、請求項4に記載の発明である熱硬化性樹脂の分解処理方法は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂の分解処理方法において、熱硬化性樹脂を有機溶剤に浸漬して破砕する前処理工程を有するものである。
上記構成の熱硬化性樹脂の分解処理方法では、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発明の作用に加えて、熱硬化性樹脂はその樹脂部分が有機溶剤によって破砕し、表面積が増大するという作用を有する。
【0013】
最後に、請求項5に記載の発明である熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法は、エステル結合を含む熱硬化性樹脂を母材とする繊維強化プラスチック廃材を触媒の存在下において、温度が200℃〜350℃で圧力が5MPa〜15MPaの、亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールに接触させて繊維強化プラスチック廃材の母材である熱硬化性樹脂を溶解する工程と、溶解した熱硬化性樹脂と不溶物を分離する工程とを有するものである。
上記構成の熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法では、繊維強化プラスチック廃材の母材である熱硬化性樹脂のエステル結合部分が亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールによって分解されて溶解し、そして、溶解した熱硬化性樹脂と繊維強化プラスチック廃材に含まれる繊維等の強化材を分離するという作用を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1記載の熱硬化性樹脂の分解処理方法では、エステル結合を含む熱硬化性樹脂はそのエステル結合部分が亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールの作用によって分解されて溶解し、再利用可能な分解生成物を高い収率で得ることができる。
また、低沸点の1価の低級アルコールを使用するので、簡単な蒸留によってアルコールを分離することができる。
【0015】
また、本発明の請求項2及び請求項3に記載の熱硬化性樹脂の分解処理方法では、触媒に使用するジメチルアミノピリジン又は金属を含まないジメチルアミノピリジンの誘導体或いはナトリウムより原子番号が大きいアルカリ金属の塩基性塩は有害金属等を含まない安全なものであり、これらの触媒によって熱硬化性樹脂のエステル結合部分の分解反応が促進され、また、1価の低級アルコールのみでは反応が進みにくい部位の分解を短時間かつ完全に行うことが可能になる。
したがって、分解反応を促進させるために原料の熱硬化性樹脂を細かく粉砕する必要がないので、一般的に高価となる粉砕に要するコストが抑えられ、しかも作業が簡便化されるという利点がある。
【0016】
そして、本発明の請求項4に記載の熱硬化性樹脂の分解処理方法では、熱硬化性樹脂の樹脂部分が有機溶剤のソルベントクラック効果によって破砕して表面積を増大させるので、さらに、分解反応を促進させることができる。
【0017】
最後に、本発明の請求項5に記載の熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法では、亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールの作用によって繊維強化プラスチック廃材のエステル結合を含む熱硬化性樹脂においてそのエステル結合部分が選択的に分解されて溶解し、そして、溶解した熱硬化性樹脂と繊維強化プラスチック廃材に含まれるガラス繊維等の強化材を分離するので、各々の成分を有効に再利用することができる。
また、1価の低級アルコールを使用するので、反応溶液の粘度が低くなり、溶解した熱硬化性樹脂とガラス繊維等の強化材の分離が濾過等によって容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る熱硬化性樹脂の分解処理方法と熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法を図1乃至図4に基づき説明する。(請求項1乃至請求項5に対応)
図1は、本発明の本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法の工程を示す概念図である。
図1において、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法は、ステップS1の粗破砕工程、ステップS2の樹脂部分の破砕工程、ステップS3の分解工程、ステップSS4の合成工程及びステップS5の選別工程から構成される。
以下、各工程について詳細に説明する。
まず、ステップS1の粗破砕工程では、原料であるFRP廃材を数cmから数十cm程度に粗破砕する。なお、FRPとは、繊維強化プラスチックであり、本実施の形態においては、不飽和ポリエステル樹脂等のエステル結合を含む熱硬化性樹脂を母体とし、ガラス繊維等の強化材と一体化させた複合材料である。また、FRPのような複合材料でなくても、不飽和ポリエステル樹脂等のエステル結合を含む熱硬化性樹脂又はその廃材を用いることもできる。
【0019】
次に、ステップS2の樹脂部分の破砕工程では、最初に、ステップS2−1においてステップS1で粗破砕したFRP廃材に有機溶剤を添加する。なお、添加する有機溶剤には、テトラヒドロフラン(以下、THFという。)、クロロホルム及び酢酸エチル等を用いることができる。但し、クロロホルムは有害であり、また、酢酸エチルは効果が小さいのでTHFが好ましい。
そして、ステップS2−2においてFRP廃材を有機溶剤に浸漬する。このステップS2−2では、有機溶剤によってFRPの母材である熱硬化性樹脂が浸食され、ソルベントクラック効果により樹脂部分が破砕する。したがって、樹脂部分の表面積が大きくなるので、後述する分解工程における分解反応が促進されるという効果がある。また、ガラス繊維等の強化材には影響を及ぼさないので、強化材の繊維長や強度を変えることもない。
続いて、ステップS2−3では、樹脂部分が破砕されたFRP廃材と有機溶剤を固液分離する。この固液分離は、濾過や遠心分離器によって行われ、回収された有機溶剤は再びステップS2−1において使用することができる。
なお、ステップS2の樹脂部分の破砕工程は、次工程であるステップS3の分解工程に十分に時間をとることが可能であれば省略することができる。
【0020】
そして、ステップS3の分解工程では、まず、ステップS3−1において、ステップS2で樹脂部分を破砕したFRP廃材又はステップS1で粗破砕したFRP廃材にアルコールを添加する。添加するアルコールは1価で低級であれば特に限定されるものではないが、メタノール又はエタノールが好ましい。なお、本願明細書内において、特に説明のない限り、アルコールとは1価の低級アルコールのことをいう。
次に、ステップS3−2では、さらに触媒を添加する。使用できる触媒は二通りあり、一つは、ジメチルアミノピリジン又はその誘導体で金属を含まない有機物であり、もう一つは、ナトリウムよりも原理番号が大きいカリウム、セシウム及びルビジウム等のアルカリ金属の炭酸塩やリン酸塩等の塩基性塩である。また、添加量は、原料のFRP廃材に対して1〜20重量%、好ましくは5〜10重量%である。
なお、ステップS3−1のアルコールの添加とステップS3−2の触媒の添加はどちらの工程を先に行ってもよい。
続いて、ステップS3−3では、FRP廃材とアルコールと触媒の混合物を密閉状態で加熱及び加圧する。加熱及び加圧の条件は、アルコールが亜臨界状態から超臨界状態になればよく、亜臨界温度の200℃から超臨界温度の350℃の範囲に設定すると、圧力は5MPa〜15MPaの範囲になる。このステップS3−3では、亜臨界状態から超臨界状態のアルコールによって、熱硬化性樹脂のエステル結合が選択的に分解反応して主にフタル酸エステルと架橋剤由来のポリスチレンを生成する。なお、フタル酸エステルはアルコールに溶解するが、ポリスチレンは溶解せず、アルコール中に不溶物として残存する。
また、亜臨界状態から超臨界状態のアルコールはエステル結合の分解において効率が高く速い速度で反応が進むが、触媒を使用すると、さらに反応が促進され、例えば、スチレン架橋部分の位置関係等で立体的にアルコールのみでは反応しにくい部位についても速やかに反応するので分解を短時間で完全に行うことが可能になる。
そして、ステップS3−4では、ステップS3−3において分解されてアルコールに溶解する成分と不溶物とを濾過や遠心分離器を用いて固液分離する。このステップS3−3の固液分離では、液体としては、主に、アルコールとこのアルコールに可溶な分解生成物であるフタル酸エステルが得られ、一方、固体としては、アルコールに不溶な分解生成物であるポリスチレンの他に、FRP廃材を構成する強化材や炭酸カルシウム等の増量剤があり、また、用途によっては顔料が含まれることがある。
【0021】
次に、ステップS4の合成工程では、ステップS3において分解されて分離されたフタル酸エステルを用いて、再生樹脂となる不飽和ポリエステル樹脂を合成する。まず、ステップS4−1において、アルコールに溶解したフタル酸エステルにエチレングリコールまたはプロピレングリコール等のグリコールと少量の酢酸カルシウム等の触媒を加える。
次に、ステップS4−2において、これらの混合物を加熱し、エステル交換反応を行う。このステップS4−2の加熱によって、溶媒である1価の低級アルコールが留出してくるので回収する。また、エステル交換反応によりフタル酸グリコールエステルが生成する際にフタル酸から分離するアルコールが生じるのでこのアルコールについても併せて回収する。なお、回収される1価の低級アルコール及び生成するアルコールは再利用が可能である。
続いて、ステップS4−3では、ステップS4−2において生成したフタル酸グリコールエステルにさらに無水マレイン酸等の不飽和酸を添加し、エステル化反応させる。このエステル化反応によって不飽和ポリエステル樹脂が生成する。
最後に、ステップS4−4では、ステップS4−3において生成した不飽和ポリエステル樹脂をスチレン中に滴下して撹拌溶解させると、硬化剤等を使用する一般的な熱硬化性樹脂の使用方法にしたがって再利用することができる。
【0022】
一方、ステップS5の選別工程では、ステップS3においてアルコールに不溶で固液分離された固体の選別を行う。まず、ステップS5−1では、得られた固体をTHF等の有機溶剤を用いて洗浄し、乾燥する。このステップS5−1の洗浄工程では、固体に含まれる分解生成物であるポリスチレンがTHF等の有機溶剤に溶解し、除去される。
次に、ステップS5−2において篩分けを行う。このステップS5−2の篩い分けによって、FRP廃材の強化材と増量剤等の無機粉体が容易に分離することが可能であり、これらは各々再利用が可能である。
なお、原料にFRP廃材のような強化材を含む複合材料でない熱硬化性樹脂又はその廃材を用いる場合は、ステップS5の選別工程を行う必要はない。
【0023】
次に、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法を実施する装置の一例について図2を用いて説明する。
図2は、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理を行うための装置の概念図である。
図2において、FRP廃材分解処理装置1は、大まかには、FRP廃材の樹脂部分を破砕する樹脂破砕部1aと、同じくFRP廃材の樹脂部分を分解する分解部1bと、分解生成物を用いて再合成する合成部1cから構成されている。
まず、樹脂破砕部1aは、樹脂破砕槽2、樹脂搬出ポンプ4及び遠心分離器5を有しており、樹脂破砕槽2に注入されたTHF溶液3に原料となる粗破砕したFRP廃材を浸漬すると、THF溶液3のソルベントクラック効果により、FRP廃材の母材である熱硬化性樹脂部分が侵食されて細かく破砕されるようになっている。
そして、破砕されたFRP廃材はTHF溶液3とともに樹脂搬出ポンプ4によって遠心分離器5に送られ、この遠心分離器5において固体であるFRP廃材と液体であるTHF溶液3に固液分離される。
続いて、破砕されたFRP廃材は次工程の分解部1bに送られ、一方、THF溶液3は再び樹脂破砕槽2に戻されて繰り返し使用することができるようになっている。
【0024】
次に、分解部1bは、高温高圧反応容器6、遠心分離器7及び送液ポンプ8を有しており、樹脂破砕部1aから送られてくる破砕したFRP廃材は1価の低級アルコール及び触媒とともに高温高圧反応容器6に投入される。
そして、図示していないが、加熱及び加圧装置を用いて、1価の低級アルコールが亜臨界状態から超臨界状態になるように加熱及び加圧すると、FRP廃材の母材である熱硬化性樹脂はこのアルコールと触媒の作用により分解していく。したがって、高温高圧反応容器6は耐熱性及び耐圧性のある容器でなければならない。
そして、分解反応が終了すると、高温高圧反応容器6内の混合物は遠心分離器7に送られて、アルコールに溶解している液体と、不溶の固体に分離され、液体は送液ポンプ8によって合成部1cに送液される。
なお、ここで、不溶の固体は遠心分離器7から取り出してTHF溶液等の有機溶剤で洗浄後篩分けすることによってFRP廃材中の強化材と無機粉体とに選別することができる。
【0025】
最後に、合成部1bは、樹脂合成反応槽9、反応薬液タンク10、スチレン溶解槽11及び撹拌機13を有しており、分解部1bから送られてくるアルコールに溶解した分解生成物は樹脂合成反応槽9に注入されて、反応薬液タンク10から適宜必要な薬液を滴下して合成が行われる。
なお、この分解生成物は主にフタル酸エステルであるので、まず、グリコールを添加して加熱しエステル交換反応を進め、続いて、不飽和酸を添加してエステル化反応を進めると、分解生成物を再利用した不飽和ポリエステル樹脂を合成することができる。
そして、得られる不飽和ポリエステル樹脂をスチレン溶液12が注入されたスチレン溶解槽11に滴下して撹拌機13で撹拌してスチレン溶液12に溶解させると再生樹脂として使用することができるのである。
但し、図示していないが、合成部1cには、樹脂合成反応槽9を加熱する加熱装置と、樹脂合成反応槽9内に注入される1価の低級アルコールとエステル交換反応の際に生成するアルコールを回収する装置を具備している。
【0026】
続いて、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法によって得られた再生樹脂の硬化物とガラス繊維について図3及び図4を用いて説明する。
図3は、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法による分解生成物から合成した再生樹脂の硬化物の実物写真であり、また、図4は、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法によって回収されたガラス繊維の実物写真である。
図3において、再生樹脂の硬化物は、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法により生成したフタル酸エステルを用いて、グリコールとエステル交換し、さらに無水マレイン酸とエステル化して再生樹脂となる不飽和ポリエステル樹脂を合成し、これをスチレンに溶解して硬化促進剤及び硬化剤と混合して硬化させたものである。
再生樹脂の硬化物は、バージン樹脂のものに比べても遜色ないものであり、本実施の形態において得られる分解生成物は、再び、工業製品等の原料として使用することが可能である。
また、図4において、回収されたガラス繊維をみると、粉砕されることなく繊維長が確保されており、また、機械的強度も保持していることが確認されており、十分に再利用可能なものであることがわかる。
【0027】
このように構成された本実施の形態においては、不飽和ポリエステル樹脂等のエステル結合を含む熱硬化性樹脂に亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールをジメチルアミノピリジンやアルカリ金属の塩基性塩等の触媒の存在下で接触させると、そのエステル結合部分において分解反応が起こり、1価の低級アルコールに可溶で再利用可能なフタル酸エステルを短時間でかつ高収率で生成することができる。
そして、生成したフタル酸エステルが溶解した1価の低級アルコールを用いて、一般的な方法により合成すると、バージン樹脂と同等の性能を有する再生樹脂となる不飽和ポリエステル樹脂を得ることができる。しかも、合成過程における加熱によって、1価の低級アルコールが蒸留されるので回収して再利用することができる。
また、不飽和ポリエステル樹脂等のエステル結合を含む熱硬化性樹脂を母材とするFRP廃材においては、この分解反応により熱硬化性樹脂の主要部分がアルコールに溶解するので、FRP廃材に含まれるガラス繊維等の強化材や無機粉体は濾過等の簡単な方法によって分離することができ、再利用が可能となる。
特に、有機溶剤に浸漬して樹脂部分を破砕する前処理工程を行うと、表面積の増大により熱硬化性樹脂の分解反応が促進されるとともに、FRP廃材においては、この有機溶剤は強化材に影響をほとんど及ぼさないので繊維長や機械的強度を保持することができ、強化材として再利用が可能となる。
以下、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法について実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0028】
不飽和ポリエステル樹脂を母材としたFRP廃材5gを粗破砕し、これに1価の低級アルコールとしてメタノール又はエタノールを添加し、また、触媒としてジメチルアミノピリジンを選定し、この添加量を0〜1gと変えて、275℃、8〜12MPaの条件で3〜6時間反応させた。反応条件及び結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
なお、分解率は、FRP廃材の不飽和ポリエステル樹脂がアルコールに分解されて可溶化する量であり、アルコールにより分解して可溶化するのは不飽和ポリエステル樹脂のエステル結合部分で約50%である。また、その残りはほとんどが架橋剤由来のポリスチレンであり、アルコールには不溶の残渣となるが、THF等の有機溶剤には可溶なものである。
表1において、触媒を使用していないものでは、メタノールが超臨界状態であっても分解率が19%と低く、分解反応があまり進行していないことがわかる。一方、触媒としてジメチルアミノピリジンを添加すると、いずれの場合においても、分解率が向上しており、触媒によって分解反応が促進されていることがわかる。
また、触媒の添加量についてみると、反応条件を同条件にして、触媒の添加量を、0.15g、0.5g、1.0gと変えると、触媒の添加量が多い方が分解率が高くなっている。さらに、残渣の性状によると、触媒の添加量が少ないとTHF溶液に不溶なものが生じ、逆に、触媒の添加量が多いとTHF溶液に溶解しやすくなっている。すなわち、触媒の添加量が少ないと、分解反応の進行が遅くTHF溶液に不溶の不飽和ポリエステル樹脂のエステル結合部分が残っており、一方、触媒の添加量が多いと分解反応が進行して不飽和ポリエステル樹脂はそのエステル結合部分が分解してアルコールに溶解し残渣とならず、ほぼ全ての残渣はポリスチレンであることを示している。
そして、触媒の添加量を0.15gにして反応時間を3時間、6時間と変えると、反応時間が3時間のものは分解率が24%であるのに対して、反応時間が6時間のものは分解率が44%と高くなっており、少ない触媒でも反応時間を確保すれば十分に反応が進行することがわかる。
さらに、1価の低級アルコールにエタノールを選定しても、メタノールと同様の反応条件において、同値の分解率が得られており、エタノールが有用であることがわかる。したがって、低い圧力での反応が可能となり、また、劇物を使用しないので、作業が安全性の高いものとなる。
【実施例2】
【0031】
不飽和ポリエステル樹脂を母材としたFRP廃材5gを粗破砕し、これに1価の低級アルコールとしてエタノールを添加し、また、触媒を、ジメチルアミノピリジン、アルカリ金属の塩基性塩であるカリウムエトキシド(KOEt)及び炭酸セシウム(Cs(CO))と変えて、これらの添加量を0.15gとし、270℃、8.5MPaの条件で5時間反応させた。反応条件及び結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2において、いずれの触媒を用いても分解率が48〜56%と高く、分解反応が進行していると考えられる。しかしながら、ジメチルアミノピリジンを用いた場合では、残渣にTHF溶液に不溶のものを生じており、これは、添加量が少ないために不飽和ポリエステル樹脂のエステル結合部分に分解できていない部位があると考えられる。一方、アルカリ金属の塩基性塩では、いずれの場合も残渣がTHF溶液に可溶であり、エタノールを反応溶媒とした場合においても少ない触媒添加量で十分に分解反応が進行していることがわかる。
【実施例3】
【0034】
FRP廃材の熱硬化性樹脂が分解する反応条件において、1価の低級アルコールにメタノール又はエタノールを使用し、触媒にジメチルアミノピリジン又は炭酸セシウム又はカリウムエトキシドを使用してFRP廃材の熱硬化性樹脂の分解反応を進め、回収されたガラス繊維の強度の変化について調査した。なお、比較として未処理のガラス繊維についても強度を測定した。また、炭酸セシウム又はカリウムエトキシドを用いた場合は、分解反応中に撹拌を行っている。処理条件及び結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3において、未処理のガラス繊維の強度が19.2g/本であるのに対して、エタノール及びカリウムエトキシドの場合は、13.8g/本となっており、強度が低下しガラス繊維の劣化が認められる。一方、メタノール及びジメチルアミノピリジンの場合では、17.9g/本、エタノール及び炭酸セシウムの場合では、16.6g/本となっており、強度の低下はわずかであり、回収されたガラス繊維は再利用が可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上説明したように、本発明の請求項1乃至請求項5に記載された発明は、熱硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材を亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールによって分解して溶解し、各成分を分離回収して再利用可能な有用物を得ることができる熱硬化性樹脂の分解処理方法と熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法を提供可能であり、熱硬化性樹脂及びFRP製品の製造を行っている企業において廃材の処分方法等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法の工程を示す概念図である。
【図2】本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理を行うための装置の概念図である。
【図3】本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法による分解生成物から合成した再生樹脂の硬化物の実物写真である。
【図4】本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法によって回収されたガラス繊維の実物写真である。
【符号の説明】
【0039】
1…FRP廃材分解処理装置 1a…樹脂破砕部 1b…分解部1b 1c…合成部1c 2…樹脂破砕槽 3…THF溶液 4…樹脂搬出ポンプ 5…遠心分離器 6…高温高圧反応容器 7…遠心分離器 8…送液ポンプ 9…樹脂合成反応槽 10…反応薬液タンク 11…スチレン溶解槽 12…スチレン溶液 13…撹拌機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル結合を含む熱硬化性樹脂を触媒の存在下において、温度が200℃〜350℃で圧力が5MPa〜15MPaの、亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールに接触させて前記熱硬化性樹脂を溶解する工程を有することを特徴とする熱硬化性樹脂の分解処理方法。
【請求項2】
前記触媒が、ジメチルアミノピリジン又は金属を含まない前記ジメチルアミノピリジンの誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂の分解処理方法。
【請求項3】
前記触媒が、ナトリウムより原子番号が大きいアルカリ金属の塩基性塩であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂の分解処理方法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂を有機溶剤に浸漬して破砕する前処理工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂の分解処理方法。
【請求項5】
エステル結合を含む熱硬化性樹脂を母材とする繊維強化プラスチック廃材を触媒の存在下において、温度が200℃〜350℃で圧力が5MPa〜15MPaの、亜臨界状態から超臨界状態の1価の低級アルコールに接触させて前記繊維強化プラスチック廃材の母材である前記熱硬化性樹脂を溶解する工程と、前記溶解した熱硬化性樹脂と不溶物を分離する工程とを有することを特徴とする熱硬化性樹脂を母材とした繊維強化プラスチック廃材の分解処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−219640(P2006−219640A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36671(P2005−36671)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(391016082)山口県 (54)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】