説明

熱硬化性樹脂組成物

【課題】高い熱伝導率と電気絶縁性とを有し、かつ機械的強度に優れた成型品が得られる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂がジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーを含有するものであり、熱伝導性フィラーの含有比率が熱硬化性樹脂の全量100重量部に対し200〜1400重量部であり、この組成物の硬化物の熱伝導率が1W/m・K以上であり、絶縁抵抗が1×1013Ω以上である熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器、電気機器内部の放熱用部品や放熱性が要求される部品の材料として用いられる熱硬化性樹脂組成物に関する。代表的には、半導体基板や発光体基板の材料として用いられる熱硬化性樹脂組成物に関する。本発明は、また、このような熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューター用CPUや各種情報機器、家電製品、自動車機器等のパワーエレクトロニクスデバイスの高性能化及びコンパクト化が著しく、これら電子機器内部から発生する熱が増大している。このため、この発熱に対する機器の破損及び誤作動を防止することが機器の設計の上から非常に重要な課題となっている。
このような課題を解決するために、電子部品を放熱フィン、ヒートシンク等の放熱体に接合させて熱の拡散を図り、装置そのものの温度上昇を抑えることが行われている。しかし、この目的に使用される放熱体は、一般に金属であるために電気絶縁性を確保することができない。そのため、電気部品と放熱体との間に絶縁性を有する放熱性のシートやグリースを挟み込んで使用することが多く行われている。
【0003】
一方、熱硬化性樹脂組成物は、耐熱性、機械的強度、寸法精度及びコストのバランスに優れた材料として、各種分野で幅広く用いられている。しかし、一般的に樹脂製部品は熱伝導性に乏しい。近年の小型化への流れに伴い機器内の放熱用部品スペースを充分に確保できないことから、放熱部品を小さくせざるを得ず、そのため機器内部の蓄熱により樹脂性放熱部品の強度低下が生じ易い。従って、樹脂製品の強度を維持しながら放熱性、即ち熱伝導率をより向上させることが求められている。
例えば、特許文献1には、固形エポキシ樹脂、メラミン樹脂、レゾールタイプ、ノボラックタイプのような各種フェノール樹脂を含む樹脂と膨張黒鉛粉とを含む成形体中の樹脂分を炭化して得られる成形体は放熱性に優れることが記載されている。また、同文献には、これに関連して、汎用型タイプの放熱材料として、樹脂及び膨張黒鉛粉に必要に応じて金属粉を添加して得られる樹脂組成物が記載されており、また、この組成物から得られる成形体は耐熱性、放熱性などに優れることが記載されている。
【0004】
しかし、熱伝導率を向上させるために黒鉛を添加する場合、放熱性は向上するが、機械的強度や電気絶縁性が低下する。そのため、高い機械的強度や電気的絶縁性が要求される用途には用いることができない。
また、特許文献2には、フェノール樹脂をベースレジンとし、補強用充填剤を配合してなり、成形体としたときの熱伝導率が0.5W/m・K以上、曲げ強さが150MPa以上、アイゾット衝撃強さが30J/m以上であるフェノール樹脂成形材料が記載されている。具体的には、補強用充填材として、強化繊維が成形材料全量の15〜55質量%、熱伝導率10W/m・K以上の高熱伝導性充填材が成形材料全量の15〜45質量%、ゴム成分が成形材料全量の0.5〜10質量%配合されたフェノール樹脂成形材料が記載されている。また、強化繊維は、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、及び綿布繊維から選ばれる少なくとも1種であること、および高熱伝導性充填材は、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化ベリリウム、グラファイト、及びダイヤモンドから選ばれる少なくとも1種であることが記載されている。
【0005】
しかし、特許文献2が示すように、炭化ケイ素、窒化アルミニウム等の高熱伝導性充填材とゴム成分とを樹脂成形材料に加える場合、熱伝導率及び衝撃強度は向上するが、ゴム成分により、材料の成形時の溶融粘度が上がり成形性が安定しない。また、成形体の長期の耐熱性が低下するため、上記成形材料は、耐熱性が要求される部品の材料としては使用し難い。さらに、ゴム成分の添加により熱膨張係数が大きくなり寸法精度が低下する。従って、このような成形材料は、プリーなどの成形材料としては利用できるが、高熱伝導性及び高絶縁抵抗性が特に求められる電子・電気部品用樹脂製基板などには利用し難い。
また、特許文献3には、熱硬化性樹脂100質量部に対し、ガラス繊維50〜150質量部、熱伝導率付与充填材80〜150質量部を含有し、熱伝導率が0.5W/m・K以上であり、絶縁抵抗が1×1012Ω以上である電子部品及び電気部品の基板用の熱硬化性樹脂成形材料が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献3の成形材料は、熱伝導率付与充填材の含有比率が低いため、成形体において実用上十分な放熱特性が得られない。
また、特許文献2及び3が示すように、高熱伝導性充填材の含有比率と同程度に高い比率でガラス繊維のような強化繊維を成形材料に含有させる場合は、機械的強度は向上するが、熱伝導性が低下して、充分な放熱特性が得られない。また、樹脂以外の充填材料が多く含まれるため、成型材料の粘度が高く、即ち流動性が悪く、その結果、成型加工性が悪くなる。
【特許文献1】特開2001−122663号
【特許文献2】特開2004−339352号
【特許文献3】特開2007−77325号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い熱伝導率と電気絶縁性とを有し、かつ機械的強度に優れた成型品が得られる熱硬化性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ね、熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂がジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーを含有するものであり、熱伝導性フィラーの含有比率が熱硬化性樹脂の全量100重量部に対し約200〜1400重量部であり、この組成物の硬化物の熱伝導率が約1W/m・K以上、かつ体積抵抗率が約1×1013Ω・cm以上である熱硬化性樹脂組成物は、このような高い熱伝導性と絶縁性とを保ちながら、機械的強度に優れることを見出した。
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【0009】
項1. 熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂がジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーを含有するものであり、熱伝導性フィラーの含有比率が熱硬化性樹脂の全量100重量部に対し200〜1400重量部であり、この組成物の硬化物の熱伝導率が1W/m・K以上、体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
項2. さらに、絶縁性のウイスカー及びガラス繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の補強材を、熱硬化性樹脂組成物の全量100重量部に対し、1〜15重量部含有する項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
項3. 熱伝導性フィラーとして、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
項4. 熱伝導性フィラーが、粒子表面が酸化ケイ素で被覆された窒化アルミニウムフィラー、及び/又は粒子表面がケイ素とマグネシウムとの複酸化物で被覆された酸化マグネシウムフィラーである項3に記載の熱硬化性樹脂組成物。
項5. ジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーが、ジアリルイソフタレートモノマー及び/又はジアリルイソフタレートオリゴマーと、ジアリルオルソフタレートモノマー及び/又はジアリルオルソフタレートオリゴマーとからなり、ジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーの全量に対するジアリルオルソフタレートモノマー及び/又はジアリルオルソフタレートオリゴマーの比率が5〜50重量%である項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
項6. 熱硬化性樹脂としてジアリルフタレートオリゴマー又はさらにジアリルフタレートモノマーを含有し、ジアリルフタレートモノマー及びジアリルフタレートオリゴマーの全量に対するジアリルフタレートオリゴマーの比率が10〜100重量%である項1〜5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
項7. 熱硬化性樹脂の全量に対するジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーの比率が60重量%以上である項1〜6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
項8. 不飽和ポリエステル樹脂を、熱硬化性樹脂の全量に対して40重量%以下含有する項1〜7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
項9. エポキシ樹脂を、熱硬化性樹脂の全量に対して3〜35重量%含有する項1〜8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
項10. 項1〜9のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。
項11. 項10に記載の硬化物を備える放熱部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーを含む熱硬化性樹脂に熱伝導性フィラーを大量に添加したものであることにより、高い熱伝導性、高い電気絶縁性、及び優れた機械的強度を兼ね備えたものとなる。中でも、熱伝導性フィラーを大量に含むことが特徴であり、熱伝導性において特に優れる。また、熱硬化性樹脂にジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーが含まれることから、寸法精度及び耐熱性にも優れている。
本発明の組成物はこのような優れた特性を兼ね備えることから、自動車、家電等の分野における熱源に近接する製品又は部品の材料、電子・電気機器内部の発熱する駆動部品を搭載するための基板などの材料のように、幅広い用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂がジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーを含有するものであり、熱伝導性フィラーの含有比率が熱硬化性樹脂の全量100重量部に対し約200〜1400重量部であり、この組成物の硬化物の熱伝導率が約1W/m・K以上、かつ体積抵抗率が約1×1013Ω・cm以上である。
【0012】
熱硬化性樹脂
本発明でいう「熱硬化性樹脂」は未硬化の熱硬化性樹脂である。
<ジアリルフタレート>
熱硬化性樹脂としてジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーを含むものを用いることにより、熱伝導性フィラーを大量に配合しても、熱伝導性フィラーとのなじみが良いため、成形体内部に空隙などの欠陥が生じ難く、また粘度調整も可能となる。このため、熱伝導性に極めて優れた成形体を作製することができる。
ジアリルフタレートモノマー及び/又はオリゴマー(以下、「ジアリルフタレート」ということもある。)は、ジアリルオルソフタレート、ジアリルイソフタレート、及びジアリルテレフタレートの何れであってもよい。ジアリルフタレートは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、ジアリルフタレートオリゴマーは、ジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、及びジアリルテレフタレートモノマーの2種又は3種からなる共重合体オリゴマーであってもよい。また、ジアリルフタレートのベンゼン環は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のようなハロゲン原子で置換されていてもよい。また、ジアリルフタレートは、分子内に存在する不飽和結合の全部または一部が水添されていてもよい。さらに、ジアリルフタレートオリゴマーは、これらのモノマーと、例えばスチレンモノマーのようなC=C二重結合を有する異種モノマーとの共重合体オリゴマーであってもよい。
【0013】
ジアリルフタレートの中では、耐熱性及び機械的強度に優れる点で、ジアリルイソフタレートが好ましい。また、ジアリルイソフタレートは溶融時の粘度が低いため、熱伝導性フィラーの分散性が良好である。ジアリルイソフタレートオリゴマーは、取扱いの容易さを考慮すると、重量平均分子量約2万〜5万、ヨウ素価約75〜90、軟化点約50〜80℃のものが好ましい。
また、ジアリルオルソフタレートは、耐熱性に優れるとともに、寸法安定性、成形性、加工性に優れる点で好ましい。ジアリルオルソフタレートオリゴマーは、樹脂の粘度等を考慮すると、重量平均分子量約1万5000〜3万、ヨウ素価約55〜65、軟化点約70〜85℃のものが好ましい。
ジアリルイソフタレートにジアリルオルソフタレートを併用するのが好ましく、それにより、耐熱性、機械的強度に優れるとともに、寸法安定性、成型加工性にも優れたものとなる。ジアリルイソフタレートとジアリルオルソフタレートとを併用する場合、ジアリルイソフタレートとジアリルオルソフタレートとの合計量に対するジアリルオルソフタレートの比率を約5〜50重量%とするのが好ましく、約10〜30重量%とするのがより好ましい。上記範囲であれば、良好な耐熱性と良好な成形性とのバランスが取れた組成物となる。
【0014】
さらに、ジアリルフタレートオリゴマーとジアリルフタレートモノマーとを併用することが好ましく、その場合には、熱伝導性フィラーへの含浸性が向上し、また溶融混練時や成型時の粘度を低下させて、熱伝導性フィラーの分散性を向上させることができる。このため、成型品内部に空隙などの欠陥が生じ難くなる。モノマーはオリゴマーを構成するモノマーと同じ種類のものを用いてもよく、又は異なる種類のものを用いてもよい。特に、ジアリルイソフタレートモノマーを添加することにより、耐熱性、低粘性による熱伝導性フィラーの分散性、及び成形性を一層確実に兼ね備えることができる。
ジアリルフタレートの全量に対するジアリルフタレートオリゴマーの比率は約10〜100重量%が好ましく、約30〜98重量%がより好ましく、約60〜97重量%がさらにより好ましい。残余はジアリルフタレートモノマーである。上記比率の範囲であれば、熱伝導性フィラーの分散性及び成形性に優れるとともに、寸法安定性に優れたものとなる。
【0015】
ジアリルフタレートオリゴマーの分子量は、通常約1万〜5万とすればよい。上記範囲であれば、熱硬化性樹脂が架橋して組成物がゲル化することがない。
熱硬化性樹脂の全量に対するジアリルフタレート(ジアリルフタレートモノマー及びジアリルフタレートオリゴマーの全量)の比率は、約60重量%以上が好ましく、約70重量%以上がより好ましく、約80重量%以上がさらにより好ましく、約85重量%以上がさらにより好ましい。熱硬化性樹脂として、実質的にジアリルフタレートのみ含んでいてもよい。上記範囲であれば、熱伝導性フィラーを十分量配合することができるため、優れた放熱特性が得られる。また、上記範囲であれば、耐熱性及び耐電圧性に優れたものとなる。
【0016】
<不飽和ポリエステル>
熱硬化性樹脂には、不飽和ポリエステルが含まれていてもよい。不飽和ポリエステルが含まれることにより、加工性が向上する。不飽和ポリエステルが含まれる場合の使用量は、熱硬化性樹脂の合計量に対して、約40重量%以下が好ましく、約5〜35重量%がより好ましく、約10〜30重量%がさらにより好ましい。上記範囲であれば、不飽和ポリエステル添加の効果が十分に得られるとともに、実用的な硬さを有する成型品が得られる。
不飽和ポリエステルとしては、液体状又は固体状の公知の不飽和ポリエステルを制限無く使用することができる。不飽和ポリエステルは多塩基性の不飽和有機酸と多価アルコールとを脱水重縮合することにより得られるものであり、ジアリルフタレートとの反応により熱硬化させることができる。
【0017】
不飽和有機酸成分としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、フタル酸、アジピン酸、シトラコン酸などが挙げられる。多価アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAなどが挙げられる。
不飽和ポリエステル中の不飽和有機酸は、その一部が飽和有機酸で置き替わっていてもよい。
【0018】
また、不飽和ポリエステルとして空気硬化型不飽和ポリエステルを用いてもよい。空気硬化型不飽和ポリエステルとしては、例えば、有機酸成分として、上記酸成分に他の酸成分としてテトラヒドロフタル酸、3,6−エンドメチレンテトラフタル酸、メチル−3,6−エンドメチレンテトラフタル酸等の脂肪族環状不飽和酸を共存させた混合物を用いるか、及び/又はアルコール成分として、上記アルコール成分に他のアルコール成分としてアリルグリシジルエーテルなどを共存させた混合物を用いて得られる不飽和ポリエステルが挙げられる。
【0019】
不飽和ポリエステルは数平均分子量が約800〜10,000のものが好ましく、約1,000〜10,000のものがより好ましい。不飽和ポリエステルの数平均分子量が上記の範囲であれば適度な粘度を有するため、十分な強度を有する成型品が得られ、かつ加工性もよい。
不飽和ポリエステルは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0020】
ジアリルフタレートや不飽和ポリエステルの硬化剤としては、これらの樹脂の硬化剤として公知の化合物を制限無く使用できる。このような公知の硬化剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、過酸化ジクミル、2,5−ジメチル−2,5ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルクミルパーオキサイドなどの過酸化物が挙げられる。中でも、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、過酸化ジクミル、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネートが、硬化剤自身および分解残渣の臭気が他より少ない点で好ましい。硬化剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
硬化剤の使用量は、硬化対象となる熱硬化性樹脂の合計量100重量部に対し、約0.5〜10重量部が好ましく、約1〜3重量部がより好ましい。
【0021】
<エポキシ樹脂>
また、熱硬化性樹脂組成物にはエポキシ樹脂が含まれていてもよい。エポキシ樹脂は公知のものを制限無く使用できる。中でも、軟化点約110℃以下で、エポキシ当量約1万以下のエポキシ樹脂が好ましい。このようなエポキシ樹脂としては、例えばエピクロルヒドリンと多価アルコールまたは多価フェノールとの縮合生成物、エピクロルヒドリンとフェノールノボラックとの縮合生成物、環状脂肪族エポキシ化合物、グリシジルエステル系エポキシ化合物、複素環式エポキシ化合物、ポリオレフィンの重合体または共重合体より誘導されるエポキシ化合物、グリシジルメタクリレートの(共)重合によって得られるエポキシ化合物、高度不飽和脂肪酸のグリセライドより得られるエポキシ化合物、ポリアルキレンエーテル型エポキシ化合物(核ポリオール型エポキシ化合物およびポリウレタン骨格含有エポキシ化合物を含む)、含臭素または含フッ素エポキシ化合物などのエポキシ基含有化合物を挙げることができる。中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂やフェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
エポキシ樹脂はその耐熱性を生かして封止材用途に重用されているが、これを熱硬化性樹脂組成物に添加することにより、ピール強度又は曲げ強度が向上し、耐熱性や耐水性が劣化し難い成型体が得られる。
【0022】
エポキシ樹脂を使用する場合の使用量は、熱硬化性樹脂の全量に対して約3〜35重量%が好ましく、約5〜20重量%がより好ましい。上記範囲であれば、エポキシ樹脂添加の効果が十分に得られるとともに、加工性が良好である。
エポキシ樹脂を使用する場合の硬化剤としては、ジアリルフタレートモノマー又はオリゴマーや不飽和ポリエステルの硬化を阻害しない酸無水物系の化合物を用いることができる。このような化合物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、メチルナジック酸無水物、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物のような常温で固体の酸無水物;メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、水素化メチルナジック酸無水物等のような常温で液体の酸無水物などが挙げられる。中でも、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。エポキシ樹脂の硬化剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
また、エポキシ樹脂を使用する場合は、硬化剤に加えて、エポキシ樹脂硬化促進剤を使用することができる。酸無水物のエポキシ樹脂に対する反応はアニオン重合型硬化剤により促進されるので、アニオン重合型硬化剤は硬化促進剤として使用できる。アニオン重合型硬化剤としては第三アミン類、第二アミン類の一部、イミダゾール類、カルボン酸の金属塩等が知られており、これらのいずれも使用できるが、中でも芳香族第三アミンのベンジルジメチルアミン、イミダゾール類の2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール等が好ましい。
本発明の組成物中の熱硬化性樹脂としては、本発明の効果を妨げない範囲で、その他の熱硬化性樹脂が含まれていてよい。
【0024】
熱伝導性フィラー
熱伝導性フィラーとして、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素のような金属窒化物;酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ベリリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛のような金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムのような金属水酸化物;炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化ケイ素のような金属炭化物などが挙げられる。これらのフィラーは、電気絶縁性が良好であるにもかかわらず高い熱伝導性を示す。
【0025】
中でも、熱伝導性が高い点で、窒化ホウ素、窒化アルミニウムのような金属窒化物が好ましい。また、安価で分散性が良好である点で、金属酸化物が好ましく、酸化マグネシウム、アルミナがより好ましい。コストパフォーマンスなど総合的に見ると、酸化マグネシウム、アルミナが好ましい。
また、合成方法の相違に基づく水分吸着量、化学組成、平均粒径、嵩密度、白色度、吸油量、pH、表面積、平衡吸湿容量等も特に限定されるものではない。さらに、シラン系やチタネート系のカップリング剤やステアリン酸で表面を処理することにより樹脂への相溶性や分散性を改良したものも好適に使用できる。
酸化マグネシウムフィラー及び窒化アルミニウムフィラーは、酸化物や複酸化物で表面を被覆することにより、フィラーの耐湿性を向上させることができる。
シリカは、本発明の熱伝導性フィラーとしては単独で用いる場合には十分な熱伝導性を有さないが、その他の熱伝導性フィラーと併用することで、硬化物の熱伝導率を補助的に向上させ、或いは曲げ強さや衝撃強さなどの機械的強度を向上させることができる。
【0026】
本発明では、ケイ素(Si)とマグネシウム(Mg)との複酸化物で酸化マグネシウム粉末又は粒子の表面を被覆した酸化マグネシウムフィラーを使用することにより、低コストで容易に耐湿性、機械的強度、及び樹脂への分散性を改善させ、電気絶縁特性及び熱伝導性に優れた熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。このような酸化物で表面が被覆された酸化マグネシウムは、ケイ素化合物と酸化マグネシウム粉末とを混合し、固体分をろ別し、乾燥させて、焼成することにより得られる。
また、本発明では、酸化ケイ素で窒化アルミニウム粉末又は粒子の表面を被覆した窒化アルミニウムフィラーを使用することにより、容易に耐湿性、機械的強度、及び樹脂への分散性を改善させ、電気絶縁特性及び熱伝導性に優れた熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。このような酸化物で表面が被覆された窒化アルミニウムは、ケイ素化合物と窒化アルミニウム粉末とを混合し、固体分をろ別し、乾燥させて、焼成することにより得られる。
【0027】
熱伝導性フィラーは、1種を単独で使用してもよく、材質や特性が異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
熱伝導性フィラー(シリカを除く熱伝導性フィラーの合計)の使用量は、熱硬化性樹脂の全量100重量部に対して、約200〜1400重量部とすればよく、約200〜900重量部が好ましく、約200〜550重量部がより好ましい。上記範囲であれば、実用上十分な熱伝導性を有する熱硬化性樹脂硬化物が得られるとともに、フィラーの分散加工性も良好である。
【0028】
その他の成分
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、ゴムや樹脂に一般的に配合される種々の添加剤が含まれていてよい。このような添加剤として、例えば、芳香族メルカプタン系、芳香族ジスルフィド系、芳香族メルカプタン亜鉛系などの素練り促進剤;有機酸系、ニトロソ化合物系、スルフェンアミド系などのスコーチ防止剤;パラフィン系、芳香族系、ナフテン系、液状ゴム系などの可塑剤;ロジン誘導体系、テルペン系などの天然樹脂系粘着付与剤;クマロン(インデン)樹脂系、石油樹脂系、アルキルフェノール樹脂系、キシレン・ホルムアルデヒド系樹脂などの合成樹脂系粘着付与剤;ハロゲン系、金属水和物系、シリコン系、リン系などの難燃剤;酸化防止剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;滑剤;顔料;架橋剤;架橋助剤;加硫もどり防止剤;シランカップリング剤;チタネートカップリング剤などが挙げられる。
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物に通常用いられる公知の添加剤を含むことができる。このような添加剤としては、例えば充填剤、受酸剤、補強剤、安定剤、老化防止剤、滑剤、粘着剤、顔料、難燃剤、紫外線吸収剤、発泡剤、加硫調整剤などが挙げられる。また、成型品の強度や剛性の向上のために、架橋剤、カップリング剤、短繊維などの補強材が含まれていてもよい。
【0029】
補強材としては、ガラス繊維や、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素のような電気絶縁性のウィスカーなどを使用できる。このような補強材を添加する場合の使用量は、熱硬化性樹脂組成物の全量100重量部に対して、約1〜15重量部とすればよく、約2〜13重量部が好ましく、約3〜11重量部がより好ましい。
物性
本発明の組成物は、その硬化物の熱伝導率が1W/m・K以上であり、体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上である。
ここでいう硬化物は、後述する実施例と同様の操作で、各成分を混合して熱硬化性樹脂組成物を得て、この組成物を混練し、冷却し、粗粉砕し、加熱加圧成形して得られる硬化物である。熱伝導率及び体積抵抗率は、それぞれ実施例に記載の方法で測定した値である。
組成物中の各成分の種類及び使用量を前述した範囲で適宜調整することにより、上記範囲の熱伝導率及び体積抵抗率を得ることができる。
【0030】
製造方法
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、各成分を混合し、ミキサー;ボールミル、サンドミル、ビーズミルのような媒体を用いる湿式分散機;ホモジナイザーのような超音波分散機;アルチマイザーのような加圧式分散機などの、剪断力下で分散できる装置を用いて各成分を均一に混合することにより得られる。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、加圧ニーダー、ミキシングロール、二軸押出機などを用いて加熱溶融し混練した混練物をパワーミル等を用いて粉砕して製造してもよい。こうして得られた成形材料は射出成形、移送成形、及び圧縮成形等のいずれにも適用することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1〜13及び比較例1〜4
下記の各成分をヘンシェルミキサーを用いて1〜2分間混合した。得られた混合物を直径9インチのミキシングロールでロール温度80〜100℃にて5分間混練し、これを取り出した後冷却し、パワーミルで粗粉砕した。得られた組成物を、170℃の金型で圧力30Kgf/cm、硬化時間5分間で成型し放熱板(100mm×100mm×4mm)を得た。
【0032】
使用した成分
ジアリルフタレート:
・ジアリルオルソフタレートオリゴマー(ダイソー社製:ダイソーダップ)
・ジアリルイソフタレートオリゴマー(ダイソー社製:ダイソーイソダップ)
・ジアリルオルソフタレートモノマー(ダイソー社製)
・ジアリルイソフタレートモノマー(ダイソー社製)
・ジアリルテレフタレートモノマー(ダイソー社製)
エポキシ樹脂:
・オルソクレゾールノボラック型樹脂(東都化成社製:YDCN704)
エポキシ樹脂の硬化剤:
・無水マレイン酸
エポキシ樹脂の硬化促進剤:
・ベンジルメチルアミン
・ヘキサメチレンテトラミン
ジアリルフタレートの硬化剤:
・過酸化ジクミル
・tert-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート
熱伝導性フィラー:
・不定形アルミナ(昭和電工社製、平均粒径:4.6μm)
・球状アルミナ(昭和電工社製、平均粒径:11μm)
・酸化マグネシウム(タテホ化学社製:表面シリカ・マグネシウム複酸化物被覆、平均粒径:25μm)
・窒化ホウ素(昭和電工社製、平均粒径:10μm)
・窒化アルミニウム(東洋アルミニウム社製:表面シリカ被覆、平均粒径:1.2μm)
・シリカ(電気化学工業社製:球状シリカ)
補強材:
・ガラス繊維(日東紡ガラス製、繊維径:11μm、平均繊維長:3mm)
・チタン酸カリウムウイスカー(大塚化学社製)
シランカップリング剤:
・アクリロキシ系シランカップリング剤(信越化学社製)
・エポキシシラン系シランカップリング剤(信越化学社製)
各例で使用した成分の種類と使用量は以下の通りである。
【0033】
実施例1
ジアリルイソフタレートオリゴマー 91.2重量部
ジアリルイソフタレートモノマー 4.8重量部
過酸化ジクミル 1.92重量部
不定形アルミナ 304.0重量部
アクリロキシ系シランカップリング剤 3.0重量部
その他 1.0重量部
【0034】
実施例2
ジアリルイソフタレートオリゴマー 77.0重量部
ジアリルイソフタレートモノマー 3.0重量部
過酸化ジクミル 1.6重量部
不定形アルミナ 320.4重量部
アクリロキシ系シランカップリング剤 3.2重量部
その他 1.0重量部
【0035】
実施例3
ジアリルイソフタレートオリゴマー 87.0重量部
ジアリルイソフタレートモノマー 4.6重量部
過酸化ジクミル 1.82重量部
球状アルミナ 288.4重量部
ガラス繊維 20.0重量部
アクリロキシ系シランカップリング剤 2.9重量部
その他 1.0重量部
【0036】
実施例4
ジアリルイソフタレートオリゴマー 80.9重量部
ジアリルイソフタレートモノマー 4.3重量部
過酸化ジクミル 1.70重量部
球状アルミナ 274.8重量部
ガラス繊維 40.0重量部
アクリロキシ系シランカップリング剤 2.7重量部
その他 1.0重量部
【0037】
実施例5
ジアリルイソフタレートオリゴマー 104.0重量部
ジアリルイソフタレートモノマー 5.0重量部
過酸化ジクミル 2.18重量部
酸化マグネシウム 291.2重量部
ガラス繊維 30.0重量部
その他 1.5重量部
【0038】
実施例6
ジアリルオルソフタレートオリゴマー 45.0重量部
ジアリルイソフタレートオリゴマー 46.0重量部
過酸化ジクミル 1.82重量部
酸化マグネシウム 309.2重量部
ガラス繊維 30.0重量部
その他 1.5重量部
【0039】
実施例7
ジアリルオルソフタレートオリゴマー 21.0重量部
ジアリルイソフタレートオリゴマー 91.0重量部
ジアリルテレフタレートモノマー 10.8重量部
tert-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート 2.46重量部
窒化ホウ素 257.2重量部
ガラス繊維 20.0重量部
アクリロキシ系シランカップリング剤 2.5重量部
その他 1.5重量部
【0040】
実施例8
ジアリルオルソフタレートオリゴマー 23.5重量部
ジアリルイソフタレートオリゴマー 64.6重量部
ジアリルテレフタレートモノマー 5.9重量部
tert-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート 1.76重量部
不定形アルミナ 226.0重量部
窒化ホウ素 60.0重量部
ガラス繊維 20.0重量部
アクリロキシ系シランカップリング剤 2.3重量部
その他 1.5重量部
【0041】
実施例9
ジアリルオルソフタレートオリゴマー 20.0重量部
ジアリルイソフタレートオリゴマー 55.0重量部
ジアリルテレフタレートモノマー 5.0重量部
オルソクレゾールノボラック型樹脂 14.0重量部
無水マレイン酸 6.0重量部
ベンジルメチルアミン 0.005重量部
過酸化ジクミル 1.5重量部
不定形アルミナ 187.6重量部
窒化ホウ素 92.4重量部
ガラス繊維 20.0重量部
エポキシシラン系シランカップリング剤 2.0重量部
その他 1.5重量部
【0042】
実施例10
ジアリルイソフタレートオリゴマー 75.0重量部
ジアリルイソフタレートモノマー 5.0重量部
tert-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート 1.5重量部
不定形アルミナ 231.0重量部
窒化アルミニウム 60.0重量部
チタン酸カリウムウィスカー 15.0重量部
アクリロキシ系シランカップリング剤 2.9重量部
その他 1.5重量部
【0043】
実施例11
ジアリルイソフタレートオリゴマー 82.0重量部
ジアリルイソフタレートモノマー 5.5重量部
過酸化ジクミル 1.5重量部
不定形アルミナ 172.6重量部
窒化アルミニウム(不定形) 92.4重量部
シリカ(平均粒径:5.0μm) 20.0重量部
チタン酸カリウムウィスカー 15.0重量部
アクリロキシ系シランカップリング剤 2.9重量部
その他 1.5重量部
【0044】
実施例12
ジアリルイソフタレートオリゴマー 80.0重量部
ジアリルイソフタレートモノマー 5.0重量部
オルソクレゾールノボラック型樹脂 5.0重量部
無水マレイン酸 2.0重量部
ベンジルメチルアミン 0.002重量部
過酸化ジクミル 1.7重量部
球状アルミナ 268.0重量部
ガラス繊維 40.0重量部
エポキシシラン系シランカップリング剤 2.7重量部
その他 1.5重量部
【0045】
実施例13
ジアリルイソフタレートオリゴマー 90.0重量部
ジアリルテレフタレートモノマー 7.2重量部
オルソクレゾールノボラック型樹脂 15.3重量部
無水マレイン酸 6.3重量部
ベンジルメチルアミン 0.001重量部
過酸化ジクミル 2.0重量部
窒化ホウ素(不定形) 128.0重量部
球形アルミナ 120.0重量部
ガラス繊維 20.0重量部
エポキシシラン系シランカップリング剤 2.5重量部
その他 1.5重量部
【0046】
比較例1
ジアリルイソフタレートオリゴマー 200.0重量部
過酸化ジクミル 10.0重量部
不定形アルミナ 172.0重量部
ガラス繊維 240.0重量部
その他 20.0重量部
【0047】
比較例2
ジアリルイソフタレートオリゴマー 100.0重量部
ジアリルイソフタレートモノマー 10.0重量部
過酸化ジクミル 2.2重量部
シリカ(平均粒径:6.5μm) 290.0重量部
アクリロキシ系シランカップリング剤 2.9重量部
その他 1.5重量部
【0048】
比較例3
ジアリルイソフタレートオリゴマー 17.1重量部
ジアリルイソフタレートモノマー 6.9重量部
過酸化ジクミル 0.4重量部
球状アルミナ 341.6重量部
エポキシシラン系シランカップリング剤 3.4重量部
その他 1.5重量部
【0049】
比較例4
オルソクレゾールノボラック型樹脂 83.5重量部
ヘキサメチレンテトラミン 12.5重量部
不定形アルミナ 304.0重量部
ガラス繊維 20.0重量部
その他 1.5重量部
【0050】
物性評価
上記の各実施例および比較例により得られた放熱板について、以下の物性試験を行った。
曲げ強さ:JISK7203に準じて、曲げ強さを測定した。
シャルピー衝撃強さ:JISK7111に準じて、シャルピー衝撃強さを測定した。
熱伝導率:JISR1611の熱拡散率測定に準じて熱拡散率を測定し、JISK7123に準じて比熱を測定した。さらに、熱拡散率と比熱と密度との積を熱伝導率とした。
体積抵抗:JISK6271に準じて、絶縁抵抗を測定した。
成形状態:成形板を目視観察し、以下の基準で成形状態を評価した。
○:充填性、硬化性が良好で欠陥がない。
△:充填性、硬化性は良好であるが、一部ひげ、泡、クラック等が発生した。
×:硬化時間が長い、または充填性が悪く欠陥が多数発生した。
××:成形体がうまく成形できなかった。
【0051】
結果を下記の表1に示す。
【表1】

【0052】
表1から明らかなように、熱伝導性フィラーの使用量が少ない比較例1により得られた放熱板は、熱伝導率が低かった。比較例2により得られた放熱板は、熱伝導率が低かった。比較例3により得られた放熱板は体積抵抗率が低く、成形状態も非常に悪かった。また、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂のみ用いた比較例4により得られた放熱板は、体積抵抗率が低く、成形状態も悪かった。
これに対して、本発明の組成物を硬化させた実施例1〜13により得られた放熱板は、熱伝導率及び体積抵抗率が高く、形成状態も良好であった。また、実用上十分な曲げ強さや衝撃強さを示し、充填材としてガラス繊維やウイスカーを添加した場合は一層高い曲げ強度を示した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の組成物を硬化して得られる硬化物は、従来の熱硬化性樹脂成形材料と同等又はそれ以上の耐熱性、機械的強度、及び電気絶縁性を維持しつつ、熱伝導率が非常に優れ、加工性が良好で寸法精度も良好であることから、本発明の組成物は、電子部品又は電気部品用の基板等の材料に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂がジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーを含有するものであり、熱伝導性フィラーの含有比率が熱硬化性樹脂の全量100重量部に対し200〜1400重量部であり、この組成物の硬化物の熱伝導率が1W/m・K以上、体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、絶縁性のウイスカー及びガラス繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の補強材を、熱硬化性樹脂組成物の全量100重量部に対し、1〜15重量部含有する請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
熱伝導性フィラーとして、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
熱伝導性フィラーが、粒子表面が酸化ケイ素で被覆された窒化アルミニウムフィラー、及び/又は粒子表面がケイ素とマグネシウムとの複酸化物で被覆された酸化マグネシウムフィラーである請求項3に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
ジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーが、ジアリルイソフタレートモノマー及び/又はジアリルイソフタレートオリゴマーと、ジアリルオルソフタレートモノマー及び/又はジアリルオルソフタレートオリゴマーとからなり、ジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーの全量に対するジアリルオルソフタレートモノマー及び/又はジアリルオルソフタレートオリゴマーの比率が5〜50重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
熱硬化性樹脂としてジアリルフタレートオリゴマー又はさらにジアリルフタレートモノマーを含有し、ジアリルフタレートモノマー及びジアリルフタレートオリゴマーの全量に対するジアリルフタレートオリゴマーの比率が10〜100重量%である請求項1〜5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
熱硬化性樹脂の全量に対するジアリルフタレートモノマー及び/又はジアリルフタレートオリゴマーの比率が60重量%以上である請求項1〜6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
不飽和ポリエステル樹脂を、熱硬化性樹脂の全量に対して40重量%以下含有する請求項1〜7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
エポキシ樹脂を、熱硬化性樹脂の全量に対して3〜35重量%含有する請求項1〜8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。
【請求項11】
請求項10に記載の硬化物を備える放熱部材。

【公開番号】特開2009−173855(P2009−173855A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196307(P2008−196307)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】