説明

熱硬化性発泡樹脂の含浸方法

【課題】長繊維束に損傷を与えること無く熱硬化性発泡樹脂を確実に未発泡・未硬化の状態でむら無く十分に含浸する。
【解決手段】上下一対の無端のコンベアベルト3e,3e間に熱硬化性発泡樹脂液Lを充填し、樹脂液Lが充填されているベルト3e,3e同士間に、帯状に引き揃えた長繊維束1を移動させながら、樹脂液Lを含浸させる。これにより、ベルト3eと長繊維束1の間に樹脂液Lを介在させ、長繊維束1を引っ張って進行させる場合でもベルト3e,3e同士間にあっては長繊維束1に張力をほぼ不作用として十分に開繊させると共に、ベルト3e,3eにより、樹脂液Lの長繊維束1に対する接触面積及び含浸時間を大きくし、加えて、樹脂液Lを型内に溜めるのでは無くベルト3e,3e同士間に充填することで長繊維束1の進行に従い消費させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性発泡樹脂の含浸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂発泡体は、枕木や建築材として使用される人工木材等の土木・建築資材として利用されている。この樹脂発泡体の製造方法としては、熱硬化性発泡樹脂を用い当該熱硬化性発泡樹脂を長繊維束(多数のモノフィラメントを束ねたもので一本の繊維のこと)群に含浸させ、この熱硬化性発泡樹脂を含浸した長繊維束群を加熱し当該熱硬化性発泡樹脂を発泡・硬化させることで得る方法が知られている。ここで、長繊維束に樹脂を含浸させる方法としては、以下の特許文献1〜3の技術がある。
【0003】
特許文献1には、長繊維束を進行方向に引っ張りながら注入成形型(第1の引抜金型)に導入すると共に、この注入成形型内に熱硬化性発泡樹脂を注入し、当該注入成形型内で熱硬化性発泡樹脂に長繊維束を浸漬させながら当該熱硬化性発泡樹脂を含浸させる技術が開示されている。また、特許文献2には、長繊維束に樹脂液を散布し、この樹脂液を散布した長繊維束を揉み板間に挟み込み揉みながら樹脂液を含浸させる技術が開示されている。また、特許文献3には、粉末状の可塑性樹脂が流動する浸入槽に一対の固定ロールを配置し、この一対の固定ロールに長繊維束を掛け渡し当該長繊維束を進行方向に引っ張りながら当該浸入槽内で長繊維束に可塑性樹脂を含浸させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−74427号公報
【特許文献2】特公昭59−35768号公報
【特許文献3】特開平7−148849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1、3にあっては、長繊維束に張力(テンション)が働くため長繊維束が開繊し難いと共に、型や槽内に溜められた樹脂に長繊維束を浸漬させながら含浸させるため長繊維束に樹脂が含浸し難く、これらより、樹脂の含浸が不十分となるという問題がある。加えて、特許文献1にあっては、上記のように熱硬化性発泡樹脂を型内に溜めているため、熱硬化性発泡樹脂の発泡・硬化が経時的に進行し、長繊維束に対する含浸前に発泡・硬化が進んでしまうという問題もある。また、特許文献2にあっては、長繊維束を揉み板間に挟み込み揉むため、長繊維束が損傷するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、長繊維束に損傷を与えること無く、熱硬化性発泡樹脂を確実に未発泡・未硬化の状態でむら無く十分に含浸することができる熱硬化性発泡樹脂の含浸方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による熱硬化性発泡樹脂の含浸方法は、長繊維束を一方向に連続的に進行させて熱硬化性発泡樹脂を含浸する方法において、長繊維束を帯状に引き揃え、上下一対の無端のコンベアベルト間に熱硬化性発泡樹脂液を充填し、コンベアベルト間に、帯状に引き揃えた長繊維束を導入し、コンベアベルト間で長繊維束に熱硬化性発泡樹脂液を含浸させながら当該長繊維束を一方向に進行させることを特徴としている。
【0007】
このような熱硬化性発泡樹脂の含浸方法によれば、上下一対の無端のコンベアベルト間に熱硬化性発泡樹脂液が充填され、この熱硬化性発泡樹脂液が充填されているコンベアベルト同士間を、帯状に引き揃えられた長繊維束が移動しながら、熱硬化性発泡樹脂液が含浸される。このように、コンベアベルトと長繊維束との間には熱硬化性発泡樹脂液が介在し、長繊維束を引っ張って一方向に進行させる場合でもコンベアベルト同士間にあっては当該長繊維束には然程張力が働かず繊維が十分に開繊される。このため、長繊維束群には熱硬化性発泡樹脂がむら無く十分に含浸される。加えて、上下のコンベアベルトにより、熱硬化性発泡樹脂液の長繊維束に対する接触面積及び含浸時間が大きくされるため、熱硬化性発泡樹脂が一層むら無く十分に含浸される。さらに加えて、熱硬化性発泡樹脂液は槽や型内に溜められるのでは無く、コンベアベルト同士間に充填されているため、長繊維束群の進行に従い消費される。このため、長繊維束群には熱硬化性発泡樹脂が確実に未発泡・未硬化の状態でむら無く十分に含浸される。
【0008】
ここで、下側のコンベアベルトは上側のコンベアベルトに対して、長繊維束の導入部が上流側に長くされ、当該下側のコンベアベルトの上流側に長くされた導入部上に向かって、熱硬化性発泡樹脂液を供給し、長繊維束を一方向に進行させることで、上下のコンベアベルト間に熱硬化性発泡樹脂液を充填するのが好ましい。これにより、熱硬化性発泡樹脂液を溜めること無く長繊維束の進行に従い確実に消費することが可能とされる。
【0009】
また、一方向に並設されてコンベアベルトが掛け渡される複数の回転ロールを、上下のコンベアベルトで一方向に沿って半ピッチずらして配置し、上下のコンベアベルト同士の対向面を波形に構成すると、熱硬化性発泡樹脂液の長繊維束に対する接触面積及び含浸時間、回転ロールによる熱硬化性発泡樹脂液と長繊維束との加圧面積が、上下のコンベアベルト同士の対向面を直線状とした場合に比して大きくされるため、熱硬化性発泡樹脂が一層十分に含浸される。
【0010】
ここで、一方向に並設されてコンベアベルトが掛け渡される複数の回転ロールは、全て従動ロールであっても良い。このように回転ロールが全て従動ロールであっても、上記のように、介在する熱硬化性発泡樹脂液により、コンベアベルト同士間の長繊維束には然程張力が働かず長繊維束は十分に開繊される。また、回転ロールが駆動ロールを含んでいると、コンベアベルト同士間の長繊維束には張力が一層働かず長繊維束は一層十分に開繊される。
【0011】
また、上下一対のコンベアベルトは、複数組が上下方向に並設されていると、製造装置のコンパクトを図りつつ、所望の繊維強化樹脂発泡体を得ることができる。
【0012】
ここで、長繊維束は、ガラス長繊維束であるのが好ましい。このようにガラス長繊維束を用いると、曲げ剛性及び釘抜き強度の特性が特に優れた繊維強化樹脂発泡体を得ることができる。
【0013】
また、熱硬化性発泡樹脂としては、特にフェノール発泡樹脂を用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明による熱硬化性発泡樹脂の含浸方法によれば、長繊維束に損傷を与えること無く、熱硬化性発泡樹脂を確実に未発泡・未硬化の状態でむら無く十分に含浸することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る熱硬化性発泡樹脂の含浸方法の好適な実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る熱硬化性発泡樹脂の含浸方法を採用した製造装置を示す概略構成図、図2は、図1中の熱硬化性発泡樹脂含浸装置を示す詳細側面図、図3は、図1中の予備加熱装置を示す斜視図、図4は、図3の予備加熱装置を示す各図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【0016】
図1に示す製造装置100は、所定の矩形形状、円形形状、環形形状、三角形形状等の断面形状を有する長尺成形体である繊維強化樹脂発泡体10を製造するもので、長繊維束1を巻き取った巻糸体2と、この巻糸体2からの長繊維束1に未発泡・未硬化の熱硬化性発泡樹脂を含浸させる熱硬化性発泡樹脂含浸装置3と、この熱硬化性発泡樹脂含浸装置3からの長繊維束1を予備加熱する予備加熱装置4と、この予備加熱装置4からの長繊維束1を所定の成形型内に導入し加熱して未発泡・未硬化の熱硬化性発泡樹脂を発泡・硬化させて繊維強化樹脂発泡体10を得る加熱成形装置5と、を具備している。
【0017】
長繊維束1は、多数のモノフィラメントを束ねたもので一本の繊維のことである。この長繊維束1としては、曲げ剛性及び釘抜き強度の特性が特に優れた繊維強化樹脂発泡体10を得ることができるとして、ここでは、特にガラス長繊維束が用いられているが、例えば、炭素長繊維束、アルミナ長繊維束、アラミド長繊維束等を用いることもできる。
【0018】
この長繊維束1を巻回して成る巻糸体2は平面的に多数が配置されると共に、これら多数の巻糸体2が複数段(本実施形態では四段)に設置されている。これらの巻糸体2の長繊維束1は、上下の各段ごとに、平面的に帯状を成すように引き揃えられて(図3参照)一方向(図1の右方向;熱硬化性発泡樹脂含浸装置3)に向かうように導出される。
【0019】
熱硬化性発泡樹脂含浸装置3は、図2に示すように、各段で平面的に帯状を成している長繊維束1群に対応する個々の装置3a〜3dを、上下に四段に並設して成る。個々の熱硬化性発泡樹脂含浸装置3a〜3dは、上下一対のコンベア装置3x,3yを備えるもので、上側のコンベア装置3x、下側のコンベア装置3yは各々、一方向に複数個が並設される回転ロール3zに無端のコンベアベルト3eを長円状を成すように掛け渡して成る。これらの回転ロール3zは、本実施形態では、全て従動回転する従動ロールである。また、上側の回転ロール3zと下側の回転ロール3zは、上下方向に所定の隙間を空けて互いに対向するように配置されている。
【0020】
下側のコンベア装置3yの回転ロール3zは、上側のコンベア装置3xの回転ロール3zより上流側に個数が多く配置され、下側のコンベアベルト3eは上側のコンベアベルト3eに対して上流側に長くされている。この下側のコンベアベルト3eの上流側に長くされている部分が、巻糸体2からの帯状を成す長繊維束1群を、上下のコンベアベルト3e,3e間に導入するための導入部3iとされている。
【0021】
この導入部3iの上方には、熱硬化性発泡樹脂を供給するための供給パイプ3pが設けられている。この供給パイプ3pは、導入部3iに向かって熱硬化性発泡樹脂液Lを上方から供給する。なお、供給パイプ3pは、導入部3iの幅方向全域に熱硬化性発泡樹脂液Lを供給すべく(帯状を成す長繊維束1群の幅方向全体に供給すべく)、散布ノズルタイプとしても良く、また、幅方向に往復移動しながら熱硬化性発泡樹脂液Lを滴下する滴下タイプとしても良い。
【0022】
ここで、熱硬化性発泡樹脂は、熱硬化性樹脂に加熱発泡性の物質(加熱発泡剤)を添加したものであり、ここでは、特に好ましいとして、フェノール発泡樹脂が用いられているが、例えば、不飽和ポリエステル発泡樹脂、ビニルエステル発泡樹脂、エポキシ発泡樹脂、アクリル発泡樹脂等を用いることもできる。
【0023】
上下のコンベアベルト3e,3eは、導入部3iより下流側で上下のコンベアベルト3e,3eの対向面が直線状とされ、この対向面同士の間が、導入部3iから導入した長繊維束1群が通過しながら(移動しながら)、供給パイプ3pからの熱硬化性発泡樹脂を長繊維束1群に含浸させるための含浸通路Aとされている。そして、互いに対向する上下の回転ロール3z,3z、及び、上下のコンベアベルト3e,3eは、当該上下のコンベアベルト3e,3e間の長繊維束1群に、所定の適度な圧力を付与し加圧する構成とされている。
【0024】
予備加熱装置4は、図3及び図4に示すように、熱硬化性発泡樹脂含浸装置3からの長繊維束1群を予備加熱するためのパイプ4aを備えている。このパイプ4aは、熱硬化性発泡樹脂含浸装置3からの長繊維束1群の進行方向の真横側から、長繊維束1群の二段目と三段目との間に進入し、幅方向に帯状を成す長繊維束1群の当該幅方向の略中央位置から略90°折曲されて成形型5aの入口5c近くまで延在する構成とされている。このパイプ4aには50〜80°C程度の温風が流され、当該パイプ4aの先端部の外周には、内部の温風を四方や八方等、放射状(図では四方)に拡散流で吹き出し長繊維束1群を予備加熱する吹出口4bが設けられている。
【0025】
加熱成形装置5は、図1に示すように、予備加熱装置4からの長繊維束1群が導入される成形型5aと、この成形型5aを加熱するヒータ5bと、を備えている。
【0026】
図3に示すように、成形型5aは、その入口5cが、導入する長繊維束1群を所定の断面形状に予備賦形する形状とされ、成形型5aの内部に、長繊維束1群が通過する成形通路(不図示)を備えている。これらの入口5c及び成形通路の断面形状は、最終的に得られる繊維強化樹脂発泡体10の形状に対応する形状とされている。この成形型5aとしては、SKDやSCMのダイス鋼等から成る金属製の型が用いられる。
【0027】
ヒータ5bは、成形型5aの外側に密着して配置され、成形型5aを熱硬化性発泡樹脂の硬化温度まで加熱し、当該成形型5a内の長繊維束1に含浸されている熱硬化性発泡樹脂を発泡・硬化させるものである。
【0028】
この加熱成形装置5の下流には、図1に示すように、当該加熱成形装置5内で成形され装置5の出口から導出される繊維強化樹脂発泡体10を上下から挟持して回転し、上流の長繊維束1群に下流側に向かう張力を付与し当該長繊維束1群を連続的に下流側に進行させるための一対の回転ロール6,6が配置されている。これらの回転ロール6,6は、駆動源の駆動により回転する駆動ロールを含んでいる。
【0029】
次に、このように構成された製造装置100の作用について説明する。ここでは、説明の都合上、図1に示すように、巻糸体2からの長繊維束1群が、各段ごとに平面的に帯状を成すように引き揃えられ(図3参照)、図2に示すように、各熱硬化性発泡樹脂含浸装置3a〜3dの上下のコンベア装置3x,3yのコンベアベルト3e,3e間を通され、図3に示すように、全段の長繊維束1群が集められて加熱成形装置5の成形型5aを通され、図1に示すように、成形体である繊維強化樹脂発泡体10が上下の回転ロール6,6間を通されて、下流側に向かって張設された状態から説明する。
【0030】
この状態で、回転ロール6,6が駆動回転することで、各段の巻糸体2からの長繊維束1群が下流側に引っ張られ各熱硬化性発泡樹脂含浸装置3a〜3dに向かって進行する。熱硬化性発泡樹脂含浸装置3a〜3dでは、図2に示すように、回転ロール3zが回転しながら上側のコンベアベルト3eにあっては反時計回りの周回軌道、下側のコンベアベルト3eにあっては時計回りの周回軌道を各々移動し、導入部3iに導入された帯状を成す長繊維束1群は、互いに対向する上下の回転ロール3z,3z間、及び、上下のコンベアベルト3e,3e間に挟まれ所定の適度な圧力を付与されながら下流側に進行する。
【0031】
このとき、各熱硬化性発泡樹脂含浸装置3a〜3dにあっては、各導入部3iの上方の各供給パイプ3pから熱硬化性発泡樹脂液Lが下方に供給され、熱硬化性発泡樹脂液Lが各導入部3i上及びこの導入部3i上の各長繊維束1群に供給される。従って、上下のコンベアベルト3e,3e間で長繊維束1群が進行すると、供給された熱硬化性発泡樹脂液Lは上下のコンベアベルト3e,3e間(含浸通路A)に充填され、この状態で長繊維束1に熱硬化性発泡樹脂液が含浸される。なお、熱硬化性発泡樹脂液Lは、含浸に必要な分のみが大凡供給される。
【0032】
ここで、コンベア装置3x,3yを構成する回転ロール3zは、全て従動ロールであり、従って、長繊維束1群は、下流側の回転ロール6,6の駆動により下流側に引っ張られて進行するが、上述した上下のコンベアベルト3e,3e間に介在する熱硬化性発泡樹脂液Lにより、当該上下のコンベアベルト3e,3e間(含浸通路A)にあっては、長繊維束1群には然程張力が働かず繊維が十分に開繊される。このため、長繊維束1群には熱硬化性発泡樹脂がむら無く十分に含浸される。加えて、上下のコンベアベルト3e,3eにより、熱硬化性発泡樹脂液Lの長繊維束1群に対する接触面積及び含浸時間が大きくされるため、熱硬化性発泡樹脂が一層むら無く十分に含浸される。さらに加えて、熱硬化性発泡樹脂液Lは槽や型内に溜められるのでは無く、コンベアベルト3e,3e同士間に充填されているため、長繊維束1群の進行に従い消費される。これらより、長繊維束1群には熱硬化性発泡樹脂が確実に未発泡・未硬化の状態でむら無く十分に含浸される。なお、熱硬化性発泡樹脂液Lが槽や型内に溜められる場合には、この溜められている状態で熱硬化性発泡樹脂の発泡・硬化が相応に進行してしまうため、長繊維束1群に対する熱硬化性発泡樹脂の含浸は不十分となる。
【0033】
さて、このように熱硬化性発泡樹脂が確実に未発泡・未硬化の状態でむら無く十分に含浸された長繊維束1群は、図3に示すように、加熱成形装置5の成形型5aに向かい、当該成形型5aの手前で、予備加熱装置4により予備加熱される。具体的には、図4に示すように、長繊維束1群の二段目と三段目との間に位置するパイプ4aのその吹出口4bから温風が放射状に吹き出され、長繊維束1群が加熱される。
【0034】
このとき、内側(二段目及び三段目)の長繊維束1群は、パイプ4aの吹出口4bの近傍にあるため、当該内側の長繊維束1群の熱硬化性発泡樹脂は発泡がある程度進行する。一方、外側(一段目及び四段目)の長繊維束1群は、パイプ4aの吹出口4bから離れているため、当該外側の長繊維束1群の熱硬化性発泡樹脂は発泡が然程進行しない。
【0035】
そして、このように予備加熱された全段の長繊維束1群は、加熱成形装置5の成形型5aに向かい、成形型5aの入口5cで所定の形状に予備賦形され、当該成形型5aに進入して加熱される。この成形型5aでの加熱に従い、長繊維束1にむら無く十分に含浸されている熱硬化性発泡樹脂が発泡・硬化する。
【0036】
このとき、ある程度発泡が進行している内側(二段目及び三段目)の長繊維束1群の熱硬化性発泡樹脂は十分に発泡・硬化する。一方、然程発泡が進行していない外側(一段目及び四段目)の長繊維束1群の熱硬化性発泡樹脂は、成形型5aの外側のヒータ5bに近いため、当該外側の長繊維束1群の熱硬化性発泡樹脂も十分に発泡・硬化する。すなわち、全て(一段目〜四段目)の長繊維束1群の熱硬化性発泡樹脂が、外周側及び内周側で均等に(バランス良く)且つ十分に発泡・硬化し、モノフィラメントが均一に分散された所定形状の成形体が成形される。
【0037】
そして、この成形体は成形型5aの出口から引き出され、所望の長尺な繊維強化樹脂発泡体10が得られる。
【0038】
このように、本実施形態においては、上下一対の無端のコンベアベルト3e,3e間に熱硬化性発泡樹脂液Lが充填され、この熱硬化性発泡樹脂液Lが充填されているコンベアベルト3e,3e同士間を、帯状に引き揃えられた長繊維束1が移動しながら、熱硬化性発泡樹脂液Lが含浸されるため、コンベアベルト3eと長繊維束1との間に介在する熱硬化性発泡樹脂液Lにより、長繊維束1には然程張力が働かず長繊維束1が十分に開繊される。また、上下のコンベアベルト3e,3eにより、熱硬化性発泡樹脂液Lの長繊維束1に対する接触面積及び含浸時間が大きくされる。加えて、熱硬化性発泡樹脂液Lがコンベアベルト3e,3e同士間に充填されているため、長繊維束1の進行に従い消費される。その結果、長繊維束1に損傷を与えること無く、熱硬化性発泡樹脂を確実に未発泡・未硬化の状態でむら無く十分に含浸することが可能とされている。
【0039】
また、下側のコンベア装置3yが上側のコンベア装置3xに対して、その長繊維束1群の導入部3iが上流側に長くされ、この導入部3i上に向かって熱硬化性発泡樹脂液Lが供給され、長繊維束1群が下流側に進行するのに従い、上下のコンベアベルト3e,3e間に熱硬化性発泡樹脂液Lが充填されるため、熱硬化性発泡樹脂液Lを溜めること無く長繊維束1群の進行に従い確実に消費することが可能とされている。
【0040】
また、上下一対のコンベア装置3x,3yの複数組(四組)が、上下方向に並設されているため、製造装置100のコンパクトを図りつつ、所望の繊維強化樹脂発泡体10を得ることが可能とされている。
【0041】
さらにまた、成形型5aの外側のヒータ5bによる加熱だけでは、成形型5aの外周側が高温で内周側がこれより低い温度となり、全段の長繊維束1群の外周部と内周部の発泡・硬化のバランスがとれず、発泡・硬化不良が生じる虞があり、特に断面形状の大きい繊維強化樹脂発泡体10を成形する場合にはその虞が高くなるが、本実施形態では、加熱成形装置5の前段に設けた予備加熱装置4により長繊維束1群が予備加熱され、特に、成形型5a内で内側となる長繊維束1群が高温とされ、成形型5a内で外側となる長繊維束1群がこれより低温となるように予備加熱されるため、成形型5aでの長繊維束1群の外周部と内周部の発泡・硬化のバランスがとれ、発泡・硬化不良が生じる虞が無くされて品質の向上された繊維強化樹脂発泡体を提供することが可能とされている。
【0042】
図5は、他の熱硬化性発泡樹脂含浸装置を示す詳細側面図である。この熱硬化性発泡樹脂含浸装置13の上下一対のコンベア装置13x,13yが、図2に示す熱硬化性発泡樹脂含浸装置3(3a〜3d)と違う点は、一方向に並設されてコンベアベルト13eが掛け渡される複数の回転ロール13zを、上下のコンベアベルト13e,13eで一方向に沿って半ピッチずらして配置し、上下のコンベアベルト13e,13e同士の対向面を波形に構成した点である。なお、符号13iは、下側のコンベア装置13yの導入部である。
【0043】
このような熱硬化性発泡樹脂含浸装置13によれば、熱硬化性発泡樹脂液Lの長繊維束1群に対する接触面積及び含浸時間、回転ロール13zによる熱硬化性発泡樹脂液Lと長繊維束1群との加圧面積が、上下のコンベアベルト13e,13e同士の対向面を直線状とした場合(図2に示したもの)に比して大きくされるため、熱硬化性発泡樹脂が一層十分に含浸されるようになる。
【0044】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記実施形態においては、熱硬化性発泡樹脂含浸装置3,13を構成する回転ロール3z,13zを、全て従動ロールとしているが、駆動ロールを含む構成としても良い。このように構成すると、コンベアベルト同士間の長繊維束1群には張力が一層働かず、長繊維束1群が一層十分に開繊される結果、熱硬化性発泡樹脂を一層むら無く十分に含浸することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態に係る熱硬化性発泡樹脂の含浸方法を採用した製造装置を示す概略構成図である。
【図2】図1中の熱硬化性発泡樹脂含浸装置を示す詳細側面図である。
【図3】図1中の予備加熱装置を示す斜視図である。
【図4】図3の予備加熱装置を示す各図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図5】他の熱硬化性発泡樹脂含浸装置を示す詳細側面図である。
【符号の説明】
【0046】
1…長繊維束、3,3a〜3d,13…熱硬化性発泡樹脂含浸装置、3e,13e…コンベアベルト、3i,13i…下側のコンベア装置の導入部、3p…供給パイプ、3x,13x…上側のコンベア装置、3y,13y…下側のコンベア装置、3z,13z…回転ロール、100…製造装置、A…含浸通路、L…熱硬化性発泡樹脂液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維束を一方向に連続的に進行させて熱硬化性発泡樹脂を含浸する方法において、
前記長繊維束を帯状に引き揃え、
上下一対の無端のコンベアベルト間に熱硬化性発泡樹脂液を充填し、
前記コンベアベルト間に、前記帯状に引き揃えた長繊維束を導入し、
前記コンベアベルト間で前記長繊維束に前記熱硬化性発泡樹脂液を含浸させながら当該長繊維束を前記一方向に進行させることを特徴とする熱硬化性発泡樹脂の含浸方法。
【請求項2】
下側のコンベアベルトは上側のコンベアベルトに対して、前記長繊維束の導入部が上流側に長くされ、
当該下側のコンベアベルトの上流側に長くされた導入部上に向かって、前記熱硬化性発泡樹脂液を供給し、前記長繊維束を前記一方向に進行させることで、前記上下のコンベアベルト間に前記熱硬化性発泡樹脂液を充填することを特徴とする請求項1記載の熱硬化性発泡樹脂の含浸方法。
【請求項3】
前記一方向に並設されて前記コンベアベルトが掛け渡される複数の回転ロールを、上下のコンベアベルトで前記一方向に沿って半ピッチずらして配置し、前記上下のコンベアベルト同士の対向面を波形に構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の熱硬化性発泡樹脂の含浸方法。
【請求項4】
前記一方向に並設されて前記コンベアベルトが掛け渡される複数の回転ロールは、全て従動ロールであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の熱硬化性発泡樹脂の含浸方法。
【請求項5】
前記上下一対のコンベアベルトは、複数組が上下方向に並設されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の熱硬化性発泡樹脂の含浸方法。
【請求項6】
前記長繊維束は、ガラス長繊維束であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の熱硬化性発泡樹脂の含浸方法。
【請求項7】
前記熱硬化性発泡樹脂は、フェノール発泡樹脂であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の熱硬化性発泡樹脂の含浸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−223219(P2007−223219A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48879(P2006−48879)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】