説明

熱負荷および腐食を受ける機能部材の被膜

本発明は、少なくとも一つの面に被膜が塗付されている、熱負荷に又は熱負荷と腐食に曝される金属製の機能部材に関し、ここで、被膜は、フッ化ジルコニウムを有するバインダ相と、バインダ相に埋入された材料とからなる。さらに、本発明は、このような被膜を製造するための離型剤、および機能部材上に被膜を塗布する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つの面に被膜が塗付されている、熱負荷に又は熱負荷と腐食に曝される金属製機能部材に関し、ここで、被膜は、バインダ相と、バインダ相に埋入された材料とからなる。さらに、本発明は、機能部材上に被膜を製造するための離型剤、および、さらに、機能部材の金属表面上に被膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱負荷、又は熱負荷と腐食に曝され、その際に媒体が流通しているか、媒体が衝突しているか、又は媒体に曝されている部材は、例えば、力の伝達又は伝導面の機能を果たす。この機能において、流動するか又は膨張する媒体がそれらに衝突する。その際、たびたび温度が大きく変動するため、部材は温度安定性の条件を満たさなければならない。流動する媒体と接触する部材には、また、たびたび堆積が起こるため、これらの部材にはたいてい被膜が設けられている。このような機能部材の典型例は、例えば、ピストン、シリンダ用ヘッドドーム(Zylinderkopfkalotten)、および原動機付き車両の排気ガス再循環領域全体である。これらの部材の腐食の他に、これらの部材は高い熱負荷と温度変動を受ける。このような機能部材を保護するため、非常に様々な被膜と塗工方法が知られている。
【0003】
特許文献1から、被膜の製造方法、並びに、自動車製造および機械製造の分野の金属又は合金(鋼、焼結金属若しくはアルミニウム合金など)のための被膜が知られている。この被膜の目的は、前述の材料を磨耗および腐食から保護することである。被膜は、ここでは、少なくとも大部分リン酸塩からなる無機マトリックス相と、その中に埋入された材料からなる。一実施形態では、被膜は、リン酸アルミニウムからなる無機マトリックス相からなり、その中に、例えば、酸化アルミニウム又はグラファイトなどの材料が埋入されている。このような被膜は、好ましくは、溶解されたリン酸モノアルミニウムとその中に分散された粉末状の機能材料からなる水ベースのゲル又は分散体として、塗工される支持体に塗布され、乾燥され、150℃〜500℃の典型的な温度でオーブン中で焼成される。
【0004】
アルミニウム材料のための別の被膜が特許文献2から知られている。ここで、被膜はピストンスカート部の表面を被覆しており、ピストンスカート部は硬質陽極酸化処理された被膜、および硬質陽極酸化処理された被膜上に塗布された結合ポリマー被膜を有する。結合ポリマー被膜は、熱安定性ポリマーマトリックス中に固体で潤滑性の多数の粒子を含み、それはモーターの運転温度に耐えることができる。ここでは、潤滑剤として、既知の潤滑剤−材料であるグラファイト、窒化ホウ素、モリブデンなどが使用される。
【特許文献1】独国特許出願公開第101 24 434 A1号明細書
【特許文献2】独国特許登録第699 08 837T2号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、熱負荷を受けるか又は熱負荷と腐食を受ける部材の機能表面の被膜を形成することであり、本被膜は機能部材の基材と化学結合し、それによって機能部材が腐食および熱負荷を受けることを防止する。さらに、被膜は容易に塗布することができ、基材への高い付着性を示すべきである。さらに、本発明の課題は、低コストで製造でき且つ容易に塗布できる、このような層を製造するための離型剤を提供することである。本発明の別の課題は、このような層を形成することができ、バインダと基材との間に強い付着を生じさせる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、被膜が設けられた機能部材に関して、バインダ相が機能部材の基材と化学結合しており、重合したフッ化ジルコニウムからなるポリマーからなるバインダ相が形成されているようにして解決されるが、ここで機能部材は燃焼機関の一部である。重合したフッ化ジルコニウムからなるバインダ相の本発明による使用によって、基材との化学結合を作り出し、従って機能部材上に固着する層を形成することが今や可能である。このような被膜によって機能部材の寿命が延び、作用を改善しながらも、煩雑な費用集約的な基材の熱衝撃挙動の改善方法の使用が減少する。さらに、本発明による層によって堆積物が回避され、これはまた同様に原動機付き車両の排出低減に役立つ。本発明の有利な変形形態では、バインダ相中にAlおよび/又はSiOおよび/又はTiOおよび/又はZrOの形態の構造成分が組み込まれる。その際、ポリマー鎖は構造成分を取り囲み、構造成分を基材上に結合させる。ここで、フッ化物は基材中に存在する鉄、又は、例えばアルミニウムなどの非金属と化学結合する。従って、機能部材上に固着する層が形成され、それは、基材との化学結合と、ポリマー鎖中に構造要素を閉じ込めることによって腐食に対する大きい安全性を形成する。ここで、酸化物として存在する硬い構造成分は耐磨耗剤の役割をし、バインダ相は基材と構造要素との間のバインダの役割をする。構造成分は、80nm〜200nmのフラクションで存在し、10重量%以下で被膜中の粒子状材料の最大の割合を構成する。構造成分は、比較的粗い表面構造を示すため、一方では構造成分は互いにしっかりと係合し、同時にバインダ相中に良好に保持されることが保証される。
【0007】
好ましくは、構造成分と共にAlおよび/又はSiOおよび/又はZnOおよび/又はTiOおよび/又はZrOおよび/又はCeOの形態の一次成分(Primaerteile)がバインダ相に一緒に入れられる。一次成分は、構造成分の間の隙間に蓄積する。特に、一次成分の大きさは2nm〜80nmであるため、一次成分は、構造成分の間の充填材の役割をするのに最適である。これから非常に平滑な表面が得られ、その表面はまた同様に、腐食、及び機能部材に衝突する、例えば、排気ガス再循環管路の排気ガス中に含有される煤粒子の堆積を防止する。従って、非常に平滑で安定な表面は、本発明による被膜が設けられた機能部材が長い寿命を示すという本発明の利点を可能にする。一次成分は、好ましくは、被膜中に1重量%〜3重量%の割合で存在する。
【0008】
本発明の別の有利な変形形態では、バインダ相に窒化ホウ素および/又はケイ酸マグネシウムアルミニウムおよび/又は二硫化モリブデンおよび/又はケイ酸塩鉱物、例えば、雲母の形態の潤滑成分が組み込まれる。潤滑成分は、被膜中に5重量%までの割合で含有されている。2μm〜15μmの大きさを有するかなり大きな潤滑成分は、同様にポリマー鎖によって被膜中の構造成分の間に保持されるか、又は存在する。
【0009】
層厚は、好ましくは1μm〜80μmの厚さとされる。好ましくは、厚さは機能部材の表面上で25μm〜60μmとなる。機能部材は、例えば、ピストン、シリンダ用ヘッドドーム、又は原動機付き車両の排気ガス再循環部材の一部である。ここで、機能部材はアルミニウム合金又は鋼から構成されている。同様に、本発明による被膜を鋳鉄、特にGG、GGG、GGVの形態の鋳鉄からなる機能部材上に形成することが可能である。
【0010】
本発明の課題は、機能部材上に被膜を製造するための離型剤に関しては、完全に脱塩された水から構成され、そして次の構成成分:
−酸形成剤、特に苛性ソーダ溶液および/又は苛性カリ溶液および/又は塩化アルミニウムの形態の酸形成剤、
−フッ化ジルコニウム、特にHZrFの形態のフッ化ジルコニウムからなるバインダ、および
−例えば、雲母などの有機分散剤、
を含有するようにして、解決される。
【0011】
従って、酸形成剤で離型剤の酸含有量およびpH値を調整し、従って反応速度およびポリマーの形成を制御することが可能である。好ましくは、離型剤のpH値を4〜5に調製する。ここで、離型剤の使用により請求項1による被膜を形成することが可能である。好ましい実施形態では、離型剤中に構造成分および一次成分が含有されており、これらは、機能部材の噴霧又は浸漬により、機能部材の材料の表面に塗付される。有利には、同様に、離型剤中に窒化ホウ素および/又はケイ酸マグネシウムアルミニウムおよび/又は二硫化モリブデンの形態の潤滑成分が入れられる。その際、構造成分のフラクションは80nm〜200nmであり、一次成分のフラクションは2nm〜80nmであり、潤滑成分のフラクションは2μm〜15μmである。ここで、自然にナノ粒子を形成するゼラチンが有利である。従属請求項に記載されている範囲で、離型剤にバインダが5重量%以下の量の割合で添加される。構造成分は10重量%以下、一次成分は3重量%以下、潤滑成分は5重量%以下の割合で離型剤に添加される。
【0012】
構造成分、一次成分、潤滑成分、およびバインダとしてのフッ化ジルコニウムの添加を適切に選択することによって、大きい流動性を示し、好ましくは簡単な手段で機能部材の表面に噴霧される離型剤を製造することができる。
【0013】
機能部材の表面に被膜を形成する方法に関して、本発明による被膜は、表面にまず離型剤を塗布し、続いて、フッ化物と基材との化学結合およびバインダの重合が起こるように、その機能部材を少なくとも200℃の温度で加熱することによって形成される。有利には、加熱は高周波電界によって行われ、高周波電界は、例えば、誘電的に(kapazitiv)又は誘導的に(induktiv)、機能部材上に印加される。例えば、誘導加熱の際に起こるように、この直接加熱によって、表面を非常に均一に加熱することができる。高周波電界による加熱に好ましい周波数領域は、ここでは100kHz〜10MHzであり、好ましくは約4MHzが使用される。従って、4MHzで加熱する場合、0.2〜0.3mmのフッ化物の侵入深さが生じる。従って、機能部材上に非常に良く付着する被膜が形成される。
【0014】
ポリマー鎖は、一方では層の結合(Zusammenhalt)に役立ち、他方では、ポリマー鎖は熱負荷下で成長し、従って層の弾性が向上するため、有利である。従って、本発明による層は基材の膨張に弾性的に追従することができるため、繰り返し熱負荷を受けても層の割れによる部材の早期故障が発生しない。本発明による層の構成により、約1300℃までの温度安定性を達成することができる。使用されたフッ化物バインダ系は、約220℃の重合温度と830℃のガラス転移温度とを有する。ここで、基材への付着は、ほぼガラス転移したか、又はガラス転移した状態でも基材への化学結合によって確実になる。しかし、被膜が弾性領域にあり、従って、膨張係数が基材の膨張率と類似するように、好ましくは、機能部材の使用領域の運転温度がガラス転移温度未満となるように注意すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダ相と、バインダ相に埋入された材料からなる被膜が少なくとも一つの面に塗布されている、熱負荷に又は熱負荷と腐食に曝される金属製機能部材であって、前記機能部材が燃焼機関の一部であり、前記バインダ相が前記機能部材の基材と化学結合しており、前記バインダ相が重合したフッ化ジルコニウムからなるポリマーから形成されていることを特徴とする、前記機能部材。
【請求項2】
前記バインダ相に埋入された材料が、80nm〜200nmのフラクションのAlおよび/又はSiOおよび/又はTiOおよび/又はZrOの形態の構造成分であり、前記構造成分が前記ポリマーによって取り囲まれていることを特徴とする、請求項1に記載の機能部材。
【請求項3】
前記バインダ相に埋入された材料が、2nm〜80nmのフラクションのAl、SiO、ZnO、ZrO、CeO、TiOの形態の一次成分から構成されており、前記一次成分が前記構造成分の間の隙間に蓄積しており、前記一次成分が前記ポリマーによって取り囲まれていることを特徴とする、請求項2に記載の機能部材。
【請求項4】
前記バインダ相に埋入された材料が、2μm〜15μmのフラクションの窒化ホウ素および/又はケイ酸マグネシウムアルミニウムおよび/又は二硫化モリブデンの形態の潤滑成分であり、前記潤滑成分が前記ポリマーによって取り囲まれていることを特徴とする、請求項1又は2あるいは2および3に記載の機能部材。
【請求項5】
前記機能部材が、アルミニウム合金又は鋼又は鋳鉄から、特にGG、GGG、GGVの形態の鋳鉄から構成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の機能部材。
【請求項6】
前記機能部材が鉄含有部材であり、前記被膜が、結合したフッ化鉄で基材と結合していることを特徴とする、請求項5に記載の機能部材。
【請求項7】
前記層が1μm〜80μmの厚さで、好ましくは25μm〜60μmの厚さで前記表面に存在していることを特徴とする、請求項1〜4の一つ又はそれ以上に記載の機能部材。
【請求項8】
前記機能部材が、ピストン、シリンダ用ヘッドドーム、又は排気ガス再循環の一部であることを特徴とする、請求項1〜5の一つ又はそれ以上に記載の機能部材。
【請求項9】
機能部材上に被膜を製造するための離型剤であって、完全に脱塩された水から構成されており、そして少なくとも次の構成成分:
−酸形成剤、特に苛性ソーダ溶液および/又は苛性カリ溶液および/又は塩化アルミニウムの形態の酸形成剤、および
−フッ化ジルコニウムからなるバインダ、
を含有することを特徴とする、前記離型剤。
【請求項10】
前記離型剤中に80nm〜200nmのフラクションのAlおよび/又はSiOの形態のある割合の構造成分が含有されていることを特徴とする、請求項9に記載の離型剤。
【請求項11】
前記離型剤中に2nm〜80nmのフラクションのAlおよび/又はSiOおよび/又はZnOおよび/又はTiOおよび/又はZrOおよび/又はCeOの形態のある割合の一次成分が含有されていることを特徴とする、請求項10に記載の離型剤。
【請求項12】
前記離型剤中に、2μm〜15μmのフラクションの窒化ホウ素および/又はケイ酸マグネシウムアルミニウムおよび/又は二硫化モリブデンの形態のある割合の潤滑成分が含有されていることを特徴とする、請求項9又は10に記載の離型剤。
【請求項13】
前記離型剤が酸形成剤でpH値4〜5に調整されていることを特徴とする、請求項9〜12の一つ又はそれ以上に記載の離型剤。
【請求項14】
前記離型剤中の前記バインダの割合が5重量%又はそれ未満であることを特徴とする、請求項9〜13の一つ又はそれ以上に記載の離型剤。
【請求項15】
前記離型剤中の前記構造成分の割合が10重量%又はそれ未満であることを特徴とする、請求項9〜14の一つ又はそれ以上に記載の離型剤。
【請求項16】
前記離型剤中の前記一次成分の割合が3重量%又はそれ未満、好ましくは1重量%〜3重量%であることを特徴とする、請求項9〜15の一つ又はそれ以上に記載の離型剤。
【請求項17】
前記離型剤中の前記潤滑成分の割合が5重量%又はそれ未満であることを特徴とする、請求項9〜16の一つ又はそれ以上に記載の離型剤。
【請求項18】
請求項9〜17の一つ又はそれ以上に記載の離型剤で、請求項1〜8の一つ又はそれ以上に記載の機能部材の金属表面上に被膜を形成する方法であって、
−前記表面にまず離型剤を塗布すること、および
−続いて、前記フッ化物と前記基材との化学結合および前記離型剤中のバインダの重合が起こるように、前記機能部材を少なくとも200℃の温度で加熱することを特徴とする、前記方法。
【請求項19】
前記加熱が、100kHz〜10MHzの周波数領域の、好ましくは4MHzの周波数領域の高周波電界で、誘導的に又は誘電的に行われることを特徴とする請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2009−529097(P2009−529097A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557614(P2008−557614)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001301
【国際公開番号】WO2007/101529
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(508269307)カーエス・アルミニウム−テヒノロギー・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (3)
【出願人】(502084056)ゲリタ アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】