説明

熱転写プリンタ

【課題】給紙ローラの機能を兼ねるプラテンローラを可動式にして、本体を小型化する。
【解決手段】ガイド部材のガイド穴と軸受け部材の長穴との協働により規定される移動軌道に従って、プラテンローラ4が給紙状態、用紙搬送状態、印刷状態と遷移し、その間、駆動ギア30とプラテンローラギア4bとの噛み合い状態が変化する。印刷状態においては、両者は噛み合わず、プラテンローラ4はサーマルヘッド9を押圧する。給紙状態においては両者が噛み合ってプラテンローラ4が駆動ギア30により回転駆動され、且つ、プラテンローラ4は用紙束3を上方から押圧することで給紙を行える。用紙搬送状態においては、プラテンローラ4は、サーマルヘッド9と用紙束3のいずれにも接触しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラテンローラが給紙ローラの機能を兼ねる熱転写プリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低コスト化や省スペース化を目的として、プラテンローラが給紙ローラの機能を兼ねるようにした熱転写方式のプリンタが知られている(下記特許文献1、2)。この種のプリンタを、図9を用いて説明する。
【0003】
図9は、プラテンローラが給紙ローラの機能を兼ねる従来のプリンタの断面図である。このプリンタは、サーマルヘッド51、プラテンローラ52、インクシート53を備える。底部の用紙収納部に印刷前の用紙束54が収納されている。
【0004】
印刷工程においては、サーマルヘッド51とプラテンローラ52とで、用紙とインクシート53を挟持して用紙を搬送しつつ、画像データを基にサーマルヘッド51を発熱させる。そしてその発熱により用紙にインクシート53のインクを熱転写することで用紙に画像を形成する。
【0005】
サーマルヘッド51は、ヘッドアーム部材56に締結固定されている。ヘッドアーム部材56は軸56aを中心に回転可能で、不図示のカム機構によってサーマルヘッド51が上下動することが可能となっている。印刷前の用紙束54の下に押圧部材55が配置されており、押圧部材55が印刷前の用紙束54をプラテンローラ52側に押し上げることで、用紙束54をプラテンローラ52側に付勢する。この状態で、プラテンローラ52の回転駆動によって1枚の用紙を給紙させることで、プラテンローラ52が給紙ローラの機能を兼ねている。
【0006】
給紙された用紙は、サーマルヘッド51とプラテンローラ52の間に搬送され、ヘッドアーム部材56が回動してサーマルヘッド51がプラテンローラ52側に移動してプラテンローラ52を押圧し、上述したように熱転写が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−283635号公報
【特許文献2】特開平7−290775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、良好な熱転写をするためには、サーマルヘッド51には、プラテンローラ52を押圧する十分な力が必要である。そのため、ヘッドアーム部材56は十分な剛性を必要とし、比較的大きな部品となる傾向があった(特許文献1も参照)。しかも、インクシートカセットをプリンタ本体の側方から挿入する一般的な構成をとった場合には、ヘッドアーム部材56は必然的にインクシートカセットの上方に配置する必要がある。また、ヘッドアーム部材56がサーマルヘッド51を保持して移動するための可動スペースも必要である。これらから、プリンタ本体に大きいスペースが必要となり、本体の大型化に繋がるという問題があった。
【0009】
さらに、給紙の際、印刷前の用紙束54をプラテンローラ52側へ押し上げるため押圧部材55を用紙束54の下に配設する必要があり、その点でもプリンタ本体の薄型化、小型化の妨げなっていた。
【0010】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、給紙ローラの機能を兼ねるプラテンローラを可動式にして、本体を小型化することができる熱転写プリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の熱転写プリンタは、サーマルヘッドと、用紙を収納する収納部と、前記サーマルヘッドによる印刷処理時に、前記サーマルヘッドとで用紙を挟持し、給紙時には、前記収納部から用紙を給紙するための給紙ローラとして機能するプラテンローラと、前記印刷処理時には前記プラテンローラを前記サーマルヘッドの側に移動させ、前記給紙時には前記プラテンローラを前記収納部の側に移動させる移動手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、給紙ローラの機能を兼ねるプラテンローラを可動式にして、本体を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る熱転写プリンタの縦断面図である。
【図2】給紙状態、用紙搬送状態、印刷状態におけるプリンタの縦断面図である。
【図3】移動機構の一部の斜視図である。
【図4】移動機構を含む構成部分の上面図、A−A線に沿う移動機構の待機状態の断面図である。
【図5】図4(a)のA−A線に沿う移動機構の給紙状態、印刷状態の断面図である。
【図6】図4(a)の下側、上側から見た移動機構の要部の左側面図、右側面図である。
【図7】左側のガイド部材の側面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るプリンタの給紙状態、用紙搬送状態、印刷状態の縦断面図である。
【図9】プラテンローラが給紙ローラの機能を兼ねる従来のプリンタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
図1、図2は、本発明の第1の実施の形態に係る熱転写プリンタの縦断面図である。このプリンタの本体1は、給紙ローラの機能を兼ねるプラテンローラ4を備える。プラテンローラ4は可動するよう構成される。図1、図2では、プラテンローラ4を移動させるための移動機構を構成する部品の図示を省略している。移動機構については、図3〜図6で後述する。本プリンタの全体の動作制御は、不図示の制御部が司る。
【0016】
まず、図1、図2を参照して、給紙から印刷、排紙までの印刷工程と共に全体の概略構成について説明する。図1は、印刷工程が開始される前の待機時の状態(待機状態)を示している。図2(a)、(b)は、それぞれ、給紙時の状態、給紙後でインクの熱転写前における用紙搬送時の状態を示している。図2(c)は、印刷中(熱転写時)の状態を示している。以降、便宜上、図1の左方、右方をそれぞれ前方、後方と呼称する。
【0017】
以降、給紙時の状態を給紙状態、用紙搬送時の状態を用紙搬送状態(第2の状態)、印刷中(熱転写時)の状態を印刷状態と称する。サーマルヘッド9とプラテンローラ4とで用紙を挟持することが可能な状態が「第1の状態」、プラテンローラ4による給紙が可能な状態が「第3の状態」である。
【0018】
図1に示すように、筐体ケース2a、2b、2c、2dにより、本体1の内部の印刷機構を覆う筐体が構成される。本体1の底部の収納部19に印刷前の用紙が積載され、用紙束3となっている。図1では用紙束3は満載の状態を表している。図2では、プラテンローラ4の移動の様子がわかりやすいように、用紙束3の残量は少ない状態で描かれている。筐体ケース2dが回動軸2d1を中心として図1の反時計方向に回動して開くことで、用紙束3を収納部19に収納することができる。
【0019】
本体1内の上部にサーマルヘッド9及びインクシートカセット12が配設される。サーマルヘッド9は本体1に対して固定的な位置に配設され、その下部に発熱体9aを有する。インクシートカセット12は、長尺状のインクシート10を保護するケースであり、供給側ケース12aと巻取り側ケース12bとが連結されてなる。供給側ケース12aと巻取り側ケース12bとはサーマルヘッド9を挟む位置に位置する。供給側ケース12aには供給側ボビン11aが収納され、巻取り側ケース12bには巻取り側ボビン11bが収納されている。インクシートカセット12には、サーマルヘッド9と巻取り側ボビン11bとの間において、インクシート10の通過位置を規制するピン12cが設けられている。
【0020】
筐体の後部において、筐体ケース2aと筐体ケース2bとの間に開口部Cが形成される。筐体の前部において、筐体ケース2aと筐体ケース2cとの間に開口部Dが形成される。本体1内の後部寄りには搬送ローラ対6a、6bが設けられる。搬送ローラ対6a、6bのうち一方の搬送ローラが駆動ローラで他方の搬送ローラが従動ローラである。本体1の前部には排紙ローラ対16a、16bが設けられる。排紙ローラ対16a、16bのうち一方の排紙ローラは駆動ローラで他方の排紙ローラは従動ローラである。
【0021】
本体1の前後方向中央部には、グリップローラ13とそれに対向するピンチローラ14とが配設される。グリップローラ13は不図示のステッピングモータに連結された駆動ローラであり、不図示の制御部からの信号により、1枚ずつ搬送される用紙3aの送り量を制御することが可能である。ピンチローラ14は従動ローラであり、グリップローラ13により付勢されている。前後方向における搬送ローラ対6a、6bとローラ13、14との間において、搬送ガイド8が配設される。搬送ローラ対6a、6bのすぐ前方にセンサ7が設けられる。ローラ13、14のすぐ前方にセンサ15が設けられる。
【0022】
プラテンローラ4は、回転軸であるプラテンローラ軸4aを中心として回動可能である。プラテンローラ軸4aは、左右方向(図1の手前から奥方向)に沿って延設される。プラテンローラ軸4aの図1の手前側の端部にはプラテンローラギア4bが回転一体に締結され、プラテンローラギア4bは従動ギアとして機能している。
【0023】
プラテンローラ4は、後述する移動機構により、プラテンローラ軸4a及びプラテンローラギア4bと共に略上下方向に移動可能である。プラテンローラ4は、給紙を行う給紙状態(図2(a))で最も低く、サーマルヘッド9による印刷処理時、すなわちインクの熱転写を行う印刷状態(図2(c))で最も高い位置に位置する。従って、プラテンローラ4は、給紙状態と印刷状態との間において、途中に用紙搬送状態を経由して状態が遷移する。
【0024】
収納部19の後部近傍には、駆動ギア軸30aが、左右方向(図1の手前から奥方向)に沿って延設され、本体1に対して固定された位置に配設される。駆動ギア軸30aの図1の手前側の端部には、駆動ギア30が回転一体に締結されている。プラテンローラギア4bと駆動ギア30はいずれも、用紙束3の幅方向(図1の手前から奥方向)より外側、この例では紙面手前側に位置し、用紙束3及び搬送される用紙3aとは干渉しない位置に配置されている。
【0025】
駆動ギア30は不図示のステッピングモータを駆動源として図1の時計方向に回転する。後述するように、プラテンローラ4が移動することで、駆動ギア30とプラテンローラギア4bとは、噛み合う状態にもなり噛み合わない状態にもなる。両者が噛み合った状態では、駆動ギア30からの回転トルクがプラテンローラギア4bへ伝達され、プラテンローラ4が反時計方向に回動する。
【0026】
印刷状態(図2(c))においては、駆動ギア30とプラテンローラギア4bは噛み合わず、プラテンローラ4は駆動ギア30から回転トルクを受けない。つまり、プラテンローラ4は、駆動ギア30を駆動させても回転せず、自由回転する状態になる。且つ、プラテンローラ4は、移動機構により付勢されてサーマルヘッド9を押圧する。また、給紙状態(図2(a))においては、駆動ギア30とプラテンローラギア4bが噛み合ってプラテンローラ4が駆動ギア30により回転駆動される。つまり、移動機構によりプラテンローラ4を給紙状態に移動させた状態で駆動ギア30を駆動することにより、プラテンローラ4は回転駆動される。且つ、プラテンローラ4は、後述する引張バネ33の付勢力によって付勢されて用紙束3を上方から押圧する。
【0027】
待機状態(図1)、及び用紙搬送状態(図2(b))においては、プラテンローラ4は、サーマルヘッド9と用紙束3のいずれにも接触しない。これらの状態においては、駆動ギア30とプラテンローラギア4bとの噛み合い状態は問わず、噛み合っても噛み合わなくてもよい。
【0028】
図1の待機状態において印刷動作が指示され開始されると、印刷工程として、プラテンローラ4等の状態は、給紙状態→用紙搬送状態→印刷状態と遷移する。
【0029】
まず、図1の待機状態から、プラテンローラ4が下がって、プラテンローラギア4bが駆動ギア30と噛み合いつつ用紙束3に押し付けられる給紙状態となる。駆動ギア30からの回転トルクの伝達により、プラテンローラ4がプラテンローラ軸4aを中心として反時計回りに回動することで、用紙束3の最上面に位置する1枚の用紙3aが後方へと搬送される。そして、その用紙3aの進行方向先端が斜面5に突き当たり、プラテンローラ4がさらに回転することで、用紙3aが斜面5を伝って搬送されていく(図2(a))。
【0030】
斜面5の途中には、重走防止の間隙である分離部5aが設けられている。分離部5aは、1枚の用紙3aの厚み分の隙間であることで、1枚の用紙3aのみが下流側へ通過する。
【0031】
搬送が進み、用紙3aが搬送ローラ対6a、6bに挟持されると、プラテンローラ4は上昇して用紙束3から離間する。それと共に、搬送ローラ対6a、6bの駆動力によって用紙3aは引き続き後方に搬送される。ここで、プラテンローラ4が離間するタイミングについては、センサ7によって用紙3aの先端(図2(b)でいう右端)が検知されたことで規定される。すなわち、用紙3aの先端が検知された後、さらに用紙3aが搬送ローラ対6a、6bに確実に挟持されるための所定量だけ搬送された後に、プラテンローラ4の離間が行われる。さらに用紙の搬送が進むと、用紙3aの先端は、筐体の後側の開口部Cからプリンタの本体1の外へ一旦出される(図2(b))。
【0032】
さらに搬送が進み、センサ7が用紙3aの進行方向後端(図2(b)でいう左端)を検知すると、搬送ローラ対6a、6bは逆回転する。すると、今度は用紙3aの後端であった端が先頭となって、搬送ガイド8の上面を前方に通過し、サーマルヘッド9側へと搬送されていく。
【0033】
用紙の搬送が進み、用紙3aの進行方向先端(図2(c)でいう左端)がグリップローラ13とピンチローラ14とに挟持され、その下流側のセンサ15が用紙3aの先端を検知すると、用紙3aの搬送は一旦停止する。そして、プラテンローラ4はサーマルヘッド9側へ押し付けられ、用紙3aとインクシート10がサーマルヘッド9とプラテンローラ4とに挟まれ圧接された状態となる(図2(c))。このとき、プラテンローラギア4bは駆動ギア30とは噛み合っていないので、プラテンローラ4は従動ローラとなって、用紙3aの搬送に伴って回動する。
【0034】
グリップローラ13の回転駆動により用紙3aが下流側へ搬送されると同時に、巻取り側ボビン11bの回転によりインクシート10が巻き取られ、用紙3aとインクシート10は同期して搬送される。サーマルヘッド9とプラテンローラ4によって、インクシート10と用紙3aが挟持された状態で、画像データの情報に基づいてサーマルヘッド9の発熱体9aが発熱する。これにより、インクシート10のインクが用紙3aに熱転写され、文字等の画像が形成されていく。
【0035】
ここで、フルカラー印刷の場合は、イエロー、マゼンタ、シアンの3色を繰り返し重ねて熱転写することでフルカラーの画像が形成される。1色目の熱転写が終わると、グリップローラ13を逆回転させ用紙3aの下流側の先端(図2(c)でいう左端)を印刷開始位置まで一旦戻し、その後、グリップローラ13を正回転させて、2色目以降の熱転写を開始する。3色の熱転写が完了すると、最後に保護フィルムが同様の熱転写によりオーバーコートされ、印刷が完了する。印刷完了後は、用紙3aは、排紙ローラ対16a、16bに挟持され、筐体の前側の開口部Dから本体1の外部へ排紙される。
【0036】
印刷完了後、続けて次の印刷動作に移る場合は、プラテンローラ4は印刷状態から給紙状態に遷移する。しかし、次の印刷予定がない場合は、プラテンローラ4は印刷状態から待機状態に遷移する。
【0037】
次に、図3〜図5を参照してプラテンローラ4を移動させる移動機構の構成について説明する。
【0038】
図3は、移動機構の一部の斜視図である。図4(a)は、移動機構を含む構成部分の上面図である。図4(b)、図5(a)、(b)は、図4(a)のA−A線に沿う移動機構の断面図であり、それぞれ、待機状態、給紙状態、印刷状態を示している。
【0039】
移動機構は、軸受け部材(保持部)22、アーム部材23、レバー部材24、レバー回転軸25、レバーシャフト26、カム27、カム軸27a、圧縮バネ28及びプラテンローラガイド部材29を有して構成される。図4(a)に示すように、プラテンローラガイド部材29(以下、「ガイド部材29」とも略記する)は、用紙束3の幅方向において用紙束3を挟んで左右に配設され、本体1に固定される。
【0040】
図3、図4(b)等に示すように、軸受け部材22は、前後方向に長い長穴22aを有し、長穴22a内にプラテンローラ軸4aが回動自在、且つ前後方向に相対的に変位自在に挿入されている。アーム部材23は、前後方向の途中で段差が形成され、後半部が高く、水平部23aとなっている。アーム部材23の前半部が低くなっており、その先端23cの上に軸受け部材22が固定されている。
【0041】
図4(b)に示すように、アーム部材23の水平部23aとレバー部材24の先端部24aとの間には圧縮バネ28が介装されている。また、アーム部材23の前半部の後端の左右端部に突設された突部23bの上にレバー部材24の先端部24aが位置している。用紙搬送状態、待機状態、給紙状態においては、圧縮バネ28の付勢力により、先端部24aが突部23bに当接状態となり、これにより、レバー部材24は、アーム部材23に対して固定的な状態となる。アーム部材23とレバー部材24とは、共にレバー回転軸25に軸支される。レバー回転軸25は、左右のガイド部材29に軸支されている。従って、先端部24aが突部23bに当接している限りにおいては、レバー部材24がレバー回転軸25を中心に回動すると、アーム部材23もそれに連動し、シーソーのように両者が一体に回動する。
【0042】
左右方向に延びたレバーシャフト26が左右のレバー部材24の後端を繋いでいる(図3)。レバー部材24の後端は、本体1に一端が固定された引張バネ33によって常に上方に付勢されている(図4(b))。従って、アーム部材23及び軸受け部材22を介して、プラテンローラ軸4aが、レバー回転軸25を中心とした下方の回動方向(図4(b)の反時計方向)に常に付勢されている。
【0043】
レバーシャフト26の直ぐ後方に、左右方向に延びたカム軸27aが配設される(図3)。カム軸27aは本体1に対して軸支される。左右のカム27はカム軸27aに固定され一体に回動するようになっている。左右のカム27のいずれか一方が、不図示のステッピングモータを駆動源とする駆動ギアと連結されている。不図示の制御部によるステッピングモータの駆動制御により、両カム27の回転角が制御され、各カム27のカム面27bをレバーシャフト26に押し付けたり、退避させたりすることができる。これにより、レバー部材24及びアーム部材23を介してプラテンローラ4の位置が制御される。
【0044】
給紙の際には、図5(a)に示すように、カム27が時計回りに回転した初期位置に位置する。すると、引張バネ33によって付勢されているレバー部材24の後端(カム27側の端部)と共にレバーシャフト26が上方に持ち上げられ、レバー回転軸25を支点としてプラテンローラ4が下がる。プラテンローラ4は、引張バネ33の付勢力によって用紙束3の最上面を押圧する。軸受け部材22やアーム部材23の先端23cは、用紙束3の幅方向(図4(a)の上下方向)において用紙束3から避けられた位置にあり、干渉することはない。
【0045】
搬送の際には、カム27は、引張バネ33の付勢力に抗して初期位置から反時計回りに回転し、カム面27bがレバーシャフト26を押し下げる。すると、レバー部材24及びアーム部材23がレバー回転軸25を中心に時計方向に回動し、プラテンローラ4が少し上がる。プラテンローラ4は用紙束3の最上面から離間する。
【0046】
印刷の際には、カム27は、用紙搬送状態からさらに反時計回りに回転し、カム面27bがレバーシャフト26をさらに押し下げる。すると、レバー部材24及びアーム部材23がレバー回転軸25を中心に図5(b)の時計方向に回動する。そして、図5(b)に示すように、プラテンローラ4がサーマルヘッド9に当接すると、それ以降は、軸受け部材22は変位できないので、レバー部材24が回動する分だけ圧縮バネ28が縮むことになる。従って、印刷状態においては、レバー部材24が圧縮バネ28を介してアーム部材23を押し上げることで、プラテンローラ4をサーマルヘッド9へ押し付ける状態となる。印刷時に良好な熱転写を行うためには、プラテンローラ4は所定の力でサーマルヘッド9へ押し付ける必要があり、圧縮バネ28の圧縮量をカム27の回転角度によって制御することでそれが実現される。
【0047】
図5(b)では、アーム部材23の突部23bとレバー部材24の先端部24aとが離間し、圧縮バネ28が、給紙状態(図5(a))や待機状態(図4(b))のときよりも圧縮されている状態が示されている。
【0048】
図6(a)、(b)は、それぞれ図4(a)の下側、上側から見た移動機構の要部の左側面図、右側面図である。図7は、左側のガイド部材29の側面図である。図6(a)及び図7に現れている左側のガイド部材29には、インクシートカセット12を挿入するための挿入口29aが形成されている。その他の部分の構成は、左右のガイド部材29で共通である。
【0049】
ガイド部材29にはまた、レール状のガイド穴(規制部)29bが形成されている。左右のガイド部材29のガイド穴29bには、プラテンローラ軸4aの端部が挿通係合している。プラテンローラ軸4aが移動する際、ガイド穴29bは、印刷時における用紙3aの搬送方向に平行な方向(前後方向)におけるプラテンローラ軸4aの位置を規制する。後に図7で詳述するように、ガイド穴29bと軸受け部材22の長穴22aとが協働して、プラテンローラ軸4aに垂直な方向におけるプラテンローラ軸4a(ひいてはプラテンローラ4)の移動軌道(RA、RB)を規定する。
【0050】
サーマルヘッド9には、位置決め用ピン9bが固定されている(図4(a)、図6、図7)。位置決め用ピン9bは、ガイド部材29の位置決め穴(図示せず)と嵌合されている。このようにガイド部材29という一つの部材でサーマルヘッド9とプラテンローラ4のそれぞれを位置規制することによって、サーマルヘッド9とプラテンローラ4の位置合わせを精度良く行うことができ、印画品質の向上に貢献できる。
【0051】
図7に示すように、ガイド穴29bは、その形状から、下側領域29bAと上側領域29bBとに大別して把握できる。図7において、円弧軌跡RAは、駆動ギア30とプラテンローラ4のプラテンローラギア4bとが噛み合っている状態において、プラテンローラ軸4aと駆動ギア軸30aとの軸間(距離)を半径rとして、駆動ギア軸30aの軸中心を中心に描いた軌跡である。軌跡RBは、円弧軌跡RA上の点からサーマルヘッド9の発熱体9aに向かう鉛直方向の直線である。下側領域29bAは、円弧軌跡RAに沿った円弧状に形成され、上側領域29bBは、軌跡RBに沿った直線状または略直線状に形成される。円弧軌跡RAと軌跡RBとの交点にて、下側領域29bAと上側領域29bBとが滑らかに繋がっている。
【0052】
カム27の回動によりレバー部材24、アーム部材23及び軸受け部材22を介してプラテンローラ軸4aが移動する際、プラテンローラ軸4aは、軸受け部材22の長穴22a内を前後方向に変位可能である。その結果、プラテンローラ軸4aは、ガイド穴29b内を、円弧軌跡RA及び軌跡RBを辿って移動できる。
【0053】
プラテンローラ軸4aは、給紙状態(図2(a)、図5(a))では下側領域29bA内に位置し、印刷状態(図2(c)、図5(b))では上側領域29bBの最上部近傍に位置する。用紙搬送状態(図2(b))や待機状態(図1、図4(b))では、下側領域29bAの上部から上側領域29bBにかけての範囲における所定位置に位置する。円弧軌跡RAと軌跡RBとで連続する軌道が、プラテンローラ4(プラテンローラ軸4a)の移動軌道となる。
【0054】
プラテンローラ軸4aが下側領域29bAと係合している状態では、プラテンローラ軸4aの軸中心が円弧軌跡RA上にある。そのため、プラテンローラギア4bと駆動ギア30とは適切に噛み合うことができ、駆動ギア30からの回転トルクがプラテンローラギア4bへ伝達される。
【0055】
ここで、給紙の繰り返しにより、収納部19における用紙束3の残量に応じて用紙束3の最上位置は変化し、プラテンローラ4の用紙束3への当接位置は用紙束3の満載状態から最後の1枚に至るまで徐々に変化していく。給紙状態においてはプラテンローラ軸4aの軸中心が円弧軌跡RA上に位置することで、プラテンローラ軸4aと駆動ギア軸30aとの軸間が半径rで一定に保たれる。このようにプラテンローラ4の移動軌道が規定されていることにより、給紙状態におけるどの位置においてもプラテンローラギア4bと駆動ギア30とが常に噛み合い、適切な給紙動作が確保される。下側領域29bAの長さは、用紙束3が1枚から満載の状態となるまでの最上位置の変化にプラテンローラ4が十分に追従可能な長さとされている。
【0056】
給紙状態から用紙搬送状態に遷移すると、プラテンローラ軸4aの軸中心が円弧軌跡RAの上部から軌跡RBの下部までの範囲に位置する。そのときの設定位置によっては、プラテンローラギア4bと駆動ギア30との噛み合いは不十分となるかまたは噛み合わなくなる。
【0057】
用紙搬送状態から印刷状態に遷移する際には、プラテンローラ軸4aの軸中心が軌跡RBを辿って上方に移動し、印刷状態では軌跡RBの最上部付近に位置するようになる。そうなると、プラテンローラギア4bと駆動ギア30との噛み合いは完全に外れており、プラテンローラ4がサーマルヘッド9を押圧する状態となる。プラテンローラ4は用紙3aの搬送に追従する従動ローラとなる。
【0058】
本実施の形態によれば、ガイド部材29のガイド穴29bと軸受け部材22の長穴22aとが協働して、プラテンローラ軸4aの軸方向に垂直な方向におけるプラテンローラ4の移動軌道(円弧軌跡RA及び軌跡RB)を規定する。この移動軌道に従って、プラテンローラ4が給紙状態、用紙搬送状態、印刷状態と遷移する。そして、プラテンローラ4は、給紙状態においては用紙束3の最上面を押圧すると共に、プラテンローラギア4bと駆動ギア30とが噛み合い、給紙動作を確実に行える。一方、印刷状態においては、プラテンローラギア4bと駆動ギア30とが噛み合わずに、プラテンローラ4がサーマルヘッド9を押圧する。
【0059】
このように、まず、プラテンローラ4が給紙ローラの機能を兼ねるので、省スペース化が図られる。また、プラテンローラ4が可動式であり、サーマルヘッド9を押圧するための位置と給紙を行うための位置とに変位可能であるので、サーマルヘッド9を可動式に構成しなくてもよい。これにより、サーマルヘッド9を保持するアーム等やそれらの可動・退避スペースも不要となり、プリンタの本体1を小型化することができる。
【0060】
また、給紙状態においては、引張バネ33の付勢力によって、プラテンローラ4の位置が、収納部19における用紙束3の残量に応じて用紙束3の最上位置の変化に追従する。しかも、プラテンローラ軸4aと駆動ギア軸30aとの軸間が半径rで一定に保たれる。これらにより、給紙時の回転駆動力を一定に確保した状態で用紙束3を押圧できるので、用紙束3を下方から付勢するための機構を設けなくてもよく、本体1のコンパクト化、薄型化が可能となる。
【0061】
また、サーマルヘッド9はガイド部材29に固定され、且つ、プラテンローラ軸4aの位置を規制するガイド穴29bが、ガイド部材29に設けられている。これにより、サーマルヘッド9とガイド穴29bとの相対的な位置決めがなされるので、プラテンローラ4の移動軌道が正確となる。
【0062】
ところで、プラテンローラ軸4aの前後方向の位置を規制する規制部としてガイド穴29bをレール状に構成した。しかし、これに限られない。例えば、給紙状態から印刷状態に遷移する行程において、プラテンローラ軸4aの軸中心を円弧軌跡RAに追従させるためには、最低限、下側領域29bAのうち後端縁29bA1(図7)に相当する部分が存在すればよい。プラテンローラギア4bの前側には駆動ギア30が存在するため、プラテンローラ軸4aの前方への移動は規制されているからである。
【0063】
また、プラテンローラギア4bが駆動ギア30との噛み合いを外れるために、円弧軌跡RAから軌跡RBに移行するには、最低限、上側領域29bBのうち前端縁29bB1(図7)に相当する部分が存在すればよい。これに加えて、プラテンローラ4がサーマルヘッド9を押圧したときに、プラテンローラ軸4bの前後方向のガタを押えるための当接面を確保すれば、サーマルヘッド9に対するプラテンローラ4の位置決めは可能となる。
【0064】
さらに、上側領域29bBは、直線的に延設される必要はなく、軌跡RBが円弧軌跡RAの外側に向かって延びるように、上側領域29bBを形成すればよい。従って、多少湾曲していてもよい。
【0065】
また、プラテンローラ軸4aの前後方向の位置を規制する規制部としての、ガイド穴29bに相当するものは、ガイド部材29に設けることは必須でなく、本体1に対して固定的な部分に設ければよい。
【0066】
(第2の実施の形態)
図8(a)〜(c)は、本発明の第2の実施の形態に係るプリンタの縦断面図である。本第2の実施の形態では、上記した第1の実施の形態(図2等)に対して、搬送ローラ対6a、6b及びセンサ7を廃止すると共に、搬送ガイド31及びセンサ32を設けた点が異なり、その他の構成は同様である。
【0067】
図8(a)、(b)、(c)は、それぞれ、給紙状態、用紙搬送状態、印刷状態を示している。ただし、図8(b)の用紙搬送状態では、用紙3aの搬送方向が途中で前方から後方に切り替わる。
【0068】
給紙状態(図8(a))では、プラテンローラ4が用紙束3を押圧している。搬送ガイド31は、用紙3aをサーマルヘッド9の方向へ導くガイド形状となっている。給紙された1枚の用紙3aの進行方向先端が前方に向かい、グリップローラ13とピンチローラ14とに挟持されると、プラテンローラ4は用紙束3から離間し、用紙束3とサーマルヘッド9のどちらにも当接しない位置で停止する(図8(b))。
【0069】
グリップローラ13の回転駆動により用紙3aが一旦、下流側へ搬送され、用紙3aの進行方向後端(図8(b)でいう右端)がセンサ32を通過すると、グリップローラ13は逆回転し、用紙3aを後方(図8(b)の右方)へ搬送する。その後、用紙3aの前端(図8(b)でいう左端)が、グリップローラ13の近傍のセンサ15により検知されると、プラテンローラ4はサーマルヘッド9へ押圧するように移動する(図8(c))。
【0070】
この状態からグリップローラ13の回転方向は再び正転となり、用紙3aはインクシート10と共に前方(図8(c)の左方)へ搬送される。そして、画像データに基づいてサーマルヘッド9の発熱体9aが発熱することで、用紙3aにインクが熱転写され、画像が形成されていく。
【0071】
本実施の形態によれば、プリンタの本体1を小型化することができる。しかも、第1の実施の形態に比べて搬送ローラ対6a、6bが不要となるので、小型化、低コスト化に一層寄与することが可能となる。
【0072】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。上述の実施形態の一部を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0073】
4 プラテンローラ
4a プラテンローラ軸
4b プラテンローラギア
9 サーマルヘッド
22 軸受け部材
29 プラテンローラガイド部材
29b ガイド穴
30 駆動ギア
30a 駆動ギア軸
33 引張バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーマルヘッドと、
用紙を収納する収納部と、
前記サーマルヘッドによる印刷処理時に、前記サーマルヘッドとで用紙を挟持し、給紙時には、前記収納部から用紙を給紙するための給紙ローラとして機能するプラテンローラと、
前記印刷処理時には前記プラテンローラを前記サーマルヘッドの側に移動させ、前記給紙時には前記プラテンローラを前記収納部の側に移動させる移動手段とを有することを特徴とする熱転写プリンタ。
【請求項2】
前記移動手段は、前記サーマルヘッドと前記プラテンローラとで用紙を挟持することが可能な第1の状態から、第2の状態を介して、前記プラテンローラによる給紙が可能な第3の状態に、前記プラテンローラを移動させ、その際、前記プラテンローラを、前記第1の状態から前記第2の状態までは略直線状に移動させ、前記第2の状態から前記第3の状態までは円弧状に移動させることを特徴とする請求項1に記載の熱転写プリンタ。
【請求項3】
前記移動手段により前記プラテンローラが移動するに際し、前記プラテンローラが前記第1の状態から前記第3の状態までの間で遷移するように、前記プラテンローラの移動軌道を規定する規定手段を有することを特徴とする請求項2に記載の熱転写プリンタ。
【請求項4】
前記プラテンローラの回転軸に設けられた従動ギアと、前記従動ギアと噛み合うことで前記プラテンローラを回転駆動することが可能な駆動ギアとを有し、前記第3の状態では、前記従動ギアと前記駆動ギアとが噛み合い、前記第1の状態では、前記従動ギアと前記駆動ギアとは離間して噛み合わないことを特徴とする請求項2または3に記載の熱転写プリンタ。
【請求項5】
前記第1の状態では、前記プラテンローラは自由回転することを特徴とする請求項4に記載の熱転写プリンタ。
【請求項6】
前記移動手段により前記プラテンローラが移動するに際し、前記サーマルヘッドと前記プラテンローラとで用紙を挟持することが可能な第1の状態から、第2の状態を介して、前記プラテンローラによる給紙が可能な第3の状態に移動するように、前記プラテンローラの移動軌道を規定する規定手段と、
前記プラテンローラの回転軸に設けられた従動ギアと、
前記従動ギアと噛み合うことで前記プラテンローラを回転駆動することが可能な駆動ギアとを有し、
前記規定手段は、前記第3の状態では、前記従動ギアと前記駆動ギアとが噛み合い、前記第1の状態では、前記従動ギアと前記駆動ギアとが離間して噛み合わなくなるように、前記プラテンローラの移動軌道を規定し、さらに、前記第2の状態から前記第3の状態までは、前記プラテンローラの移動軌道が、前記プラテンローラの軸中心と前記駆動ローラの軸中心との距離が一定となる円弧状となるように規定することを特徴とする請求項1に記載の熱転写プリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−126007(P2012−126007A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279272(P2010−279272)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】