説明

熱輸送体

【課題】 高い排熱効率を有する熱輸送体を低コストで提供する。
【解決手段】 発熱部1と発熱部1で生じた熱を放熱する放熱部2との間に介在する熱輸送体10であって、基盤部11と、基盤部11の発熱体1及び/又は放熱部2に対向する面上に略垂直に設けられた、中空部Hを有する複数の毛状体12とを有し、基盤部11及び複数の毛状体12は主成分がCuからなり且つメッキにより形成され、発熱体1及び放熱部2には基盤部11又は複数の毛状体12の先端部が直接当接しており、発熱体1及び放熱部2の少なくともいずれかに当接する基盤部11又は複数の毛状体12は、基盤部11が有する空隙部又は複数の毛状体12間の空隙部に高熱伝導フィラーを含有する樹脂、はんだ又はロウ材からなる充填材13が埋められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱源となるICチップを備えた電子部品等を搭載した電子機器、例えばテレビ、プロジェクタ、コンピュータ、インバータ装置等の発熱部と、発熱部を冷却するための放熱部との間の熱伝導を向上させる熱輸送体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、テレビやプロジェクタの素子、パソコンのCPUなど電子機器から発熱する熱を逃すための手法が各種検討されている。コンピュータについては、デスクトップパソコン、ノートパソコン、サーバを初め、大型のメインフレームコンピュータ等は、大容量の情報を高速で処理するために、その中心となるMPUはますます高集積化され、高速処理のためのクロック数の増大が求められている。これに伴って、年々MPUの発熱量は増大する傾向にある。
【0003】
しかしながら、発熱量の増加の速さに排熱技術が追いついていないのが現状である。そのため、MPU素子が自身の発熱で誤動作を起こしてしまうため、クロック数増大の開発を一時ストップせざるを得ない状況も生まれつつあり、より効率的な排熱技術に対する必要性が高まっている。
【0004】
デスクトップパソコンやサーバ等においては、リアプロテレビやプロジェクタの素子冷却技術とほぼ同じ空冷技術に基づいてMPUの冷却が行われている。すなわち、MPU背面に設けた熱伝導シートや熱伝導樹脂を介してアルミニウム(Al)製ヒートシンクに熱を伝え、背面からファンで空気をあてて大気に放熱している。あるいは、ヒートパイプを用いてMPUから筐体近傍まで熱を運び、そこで大型の放熱フィンを備えたヒートシンクとファンで熱を筐体外へ排出している。
【0005】
このような空冷技術の分野における最近の冷却技術として、特許文献1(特開2004−319942号公報)には、放熱部に金属発泡体を用いたヒートシンクが開示されている。また、特許文献2(特開2005−032881号公報)には、低気孔率部と高気孔率部とを有する多孔質放熱体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−319942号公報
【特許文献2】特開2005−032881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されている金属発泡体は、内部に無数の空孔を持つため、その使用方法を誤れば放熱特性が得られるどころか、内部の気孔によって断熱性能が高い発泡スチロールなどのように断熱層の働きをする恐れがある。また、特許文献2の凸状構造部は、例として多孔質焼結体やセラミックス繊維が列挙されているように変形しないため、放熱部に直接隙間なく接触させることが難しい。
【0008】
一方、空冷技術の冷却効率が低い問題は依然として残っており、MPUの発熱量増大に伴って益々放熱が追いつかなくなっているのが現状である。また、ヒートパイプは熱を運搬する装置でしかないため、熱の運搬先で大型の放熱フィンを備えたヒートシンクとファンによって大気に放熱し、筐体外へ熱を排出する必要がある点において空冷技術と実質的に同じであり、むしろヒートパイプを採用することによって小型化の妨げになっている。
【0009】
この問題を解決するための手法として、例えば特開2007−273930号公報に記載されているように、Cu等の熱伝導性に優れた材料で複数の柱状体を形成し、それら複数の柱状体で冷却部品に熱を伝えることが提案されている。これにより、高分子や有機系のシートやグリースを用いることなく、セラミック基板やICチップを収納したパッケージが有しているうねりや面粗さに起因する隙間での熱抵抗の問題をある程度解消することが可能となった。
【0010】
しかしながら、Cu等の熱伝導性に優れた材料から放電加工等により複数の柱状体を形成した場合、柱状体の剛性が高くなりすぎて、電子機器に通常許される取り付け圧ではうねりや面粗さを有する発熱部や放熱部に複数の柱状体の先端部を完全に沿わせることができず、一部の柱状部が発熱部や放熱部に接触できなくなり、柱状体全体としての冷却能力を十分に発揮させることができなかった。更に、柱状体は製造コストが高く、実用化の障害となっていた。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、高分子や有機系のシートやグリースを用いることなく、且つ熱抵抗となる隙間も生じることなく、セラミックス等の発熱部(被冷却体)や放熱部に密着して取り付けることができ、被冷却体から伝わった熱を直ちに冷媒や放熱部へ放熱させることができ、従って従来の高分子や有機系のシートやグリースを用いたヒートシンクや放熱フィンを備えたヒートシンクとファンなどの冷却手段に比べて排熱効率が高い新たな熱輸送体を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明が提供する熱輸送体は、ICチップ等の電子部品を備えた発熱部と該発熱部で生じた熱を放熱する放熱部との間に介在する熱輸送体であって、基盤部と、該基盤部の発熱体及び/又は放熱部に対向する面上に略垂直に設けられた、中空部を有する複数の毛状体とを有し、該基盤部及び複数の毛状体は主成分がCuからなり且つメッキにより形成され、前記発熱体及び放熱部には前記基盤部又は複数の毛状体の先端部のいずれかが直接当接しており、前記発熱体及び放熱部の少なくともいずれかに当接する前記基盤部又は複数の毛状体は、基盤部が有する空隙部又は複数の毛状体間の空隙部に充填材が埋められていることを特徴としている。
【0013】
上記本発明の熱輸送体においては、充填材が、金属、セラミック、及びカーボンからなる群より選ばれた少なくとも1つを高熱伝導フィラーとして含有している樹脂であるか、はんだ又はロウ材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ICチップやICチップを収納したパッケージ等の発熱部及び/又は放熱フィンを備えたヒートシンク等の放熱部に対して変形能に富んだ毛状体が直接接触することで、発熱部で発生した熱を放熱部へ効率的に伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態の熱輸送体が発熱部と放熱部との間に介在している様子を示す概略の断面図である。
【図2】本発明の他の実施態様の熱輸送体が発熱部と放熱部との間に介在している様子を示す概略の断面図である。
【図3】本発明の熱輸送体が具備する毛状体を模式的に示す部分拡大断面図である。
【図4】本発明の熱輸送体が具備する毛状体を製造する際に好適に使用される起毛が施された繊維を模式的に示す部分拡大断面図である。
【図5】凹凸を有する発熱部に対して本発明の熱輸送体が具備する毛状体が当接している様子を示す模式図である。
【図6】発熱部と放熱部との間に介在している比較例1の熱輸送体を示す概略の断面図である。
【図7】図5の熱輸送体が具備する柱状体と発熱部とが互いに当接している様子を示す部分拡大断面図である。
【図8】発熱部と放熱部との間に介在している比較例2の熱輸送体を示す概略の断面図である。
【図9】発熱部と放熱部との間に介在している比較例3の熱輸送体を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の熱輸送体の実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の熱輸送体10の一具体例を示す概略の断面図である。この熱輸送体10は、ICチップやICチップを収納したパッケージ等の発熱部1と、発熱部1で生じた熱を放熱するヒートシンクなどの放熱部2との間に介在し、発熱部1で生じた熱を放熱部2に伝達する役割を担っている。熱輸送体10は、Cuを主成分とする略平板状の基盤部11と、Cuを主成分とする複数の細長い毛状の毛状体12とを有している。
【0017】
複数の毛状体12は、基盤部11の上面、すなわち基盤部11において発熱体1に対向する面上に略垂直に設けられている。これにより、発熱部1の下面には複数の毛状体12の各先端部が略垂直な方向から当接し、放熱部2の上面には基盤部11の下面が直接当接する。よって、発熱部1で発生した熱は、複数の毛状体12及びこれらに接続する基盤部11を介して放熱部2に伝えられる。尚、図1の熱輸送体10では6本の毛状体12が示されているが、この本数に限定するものではない。
【0018】
図1に示す具体例では、複数の毛状体12が基盤部11の上面のみに設けられているが、これに限定するものではなく、複数の毛状体12を基盤部11の下面のみに設けても良い。あるいは、図2に示す本発明の他の具体例のように、複数の毛状体12を基盤部11の上下両面に設けても良い。複数の毛状体12を基盤部11の上下両面に設けた場合は、片面のみに設けた場合に比べて熱輸送体10をより変形能力に優れたものにすることができる。
【0019】
ICチップやICチップを収納したパッケージなどの発熱部1と、ヒートシンクなどの放熱部2との間に熱輸送体10を介在する場合、当該熱輸送体10が当接する発熱部1や放熱部2の当接面に通常存在している反りやうねりを考慮しなければならない。これら反りやうねりの大きさは、例えばうねりの最も高い凸部分と最も低い凹部分との間の高低差が100〜300μm程度と比較的大きい場合がある。
【0020】
本発明の熱輸送体10では、上記したように、発熱部1や放熱部2に当接する部分を複数の毛状体12によって形成しているので、従来の突起物や棒状体に比べて柔らかくすることができる。よって、ICチップやヒートシンクを装着する際に加えられる通常の押し付け圧で容易に毛状体12を変形させることができる。このように、毛状体12は変形能に富んでいるので、反りやうねりのある発熱部1や放熱部2の当接面に対してほとんど全ての毛状体12の先端部を接触させることができ、複数の毛状体12全体として大きな接触面積を得ることができる。よって、熱輸送体10の熱輸送能力を高めることができる。
【0021】
ところで、ICチップやICチップを収納したパッケージなどの発熱部1と、ヒートシンクなどの放熱部2とは一般的に異なる材質で形成されているため、互いの熱膨張率が異なっている場合が多い。例えば、発熱部1がセラミック、放熱部2がAlの場合、熱膨張の差が大きくなり、はんだ付け等でこれらを一体接合してしまうと、熱膨張差により簡単に破損してしまう。また、汎用の熱伝導シートをこれらの間に介在させても、ヒートサイクルと熱膨張差による伸縮とにより徐々に接触状態が悪化し、時間経過と共に熱輸送能力が劣化する。
【0022】
これに対して、毛状体12は自身の変形能により発熱部1や放熱部2に対して弾性的に接触するため、熱膨張差が生じても発熱部1や放熱部2に応力を発生させることなく熱的な接触を維持することができる。よって、熱膨張差による割れを防ぐことができる。また、ヒートサイクルに対しても、自身の変形能により追随することができるため、当初の熱輸送能力を維持することができる。
【0023】
更に、本発明の熱輸送体10においては、図3に示すように、各毛状体12が内部に中空部(空洞)Hを有している。すなわち、各毛状体12において、発熱部1や放熱部2と接触する部分以外は中空構造になっている。これにより、毛状体12において、発熱部1や放熱部2との接触面積を良好に確保しながら変形能を向上させることができる。よって、反りやうねりに起因して様々な角度で局所的に傾斜している発熱部1や放熱部2の当接面に対して毛状体12を均一に接触させることが可能となり、熱を効率的にヒートシンク等の放熱部2に伝えることができる。
【0024】
基盤部11及び毛状体12は、高熱伝導材であるCuから形成されている。Cuは400W/mK程度の比較的高い熱伝導率を有しているため、発熱部1の熱をヒートシンク等の放熱部2に効率的に伝えることができる。また、Cuは金属の中でも比較的柔軟性を有しているため、Cuを主成分とする材料で毛状体12を形成することによって塑性変形しやすくなり、発熱体1や放熱部2との接触面積を大きくすることができ、効率的に伝熱することができるため好ましい。尚、金や銀も高熱伝導率と変形能を有しているが、これらの材料はかなり高価であるため、工業的な面においては好ましくない。
【0025】
毛状体12は、発熱体1及び/又は放熱部2に対して略垂直な方向から当接することが好ましい。当接方向が水平であれば熱を発熱部1から放熱部2に効率良く伝えることができなくなるからである。また、略垂直な方向から当接することで各毛状体12の延在方向と熱伝達の方向とが略同一となるので、熱伝達距離が最短となるため効率的に熱輸送できる。
【0026】
上記構造により、複数の毛状体12又はこれに連なる基盤部11のいずれかが直接発熱部1及び放熱部2に当接することになるが、これら発熱体1及び放熱部2の少なくともいずれかに当接する基盤部11又は複数の毛状体12は、基盤部11が有する空隙部又は複数の毛状体12間の空隙部に、高熱伝導フィラーを含む樹脂等の充填材13が埋められている。これらの空隙部を充填材13で部分的に埋めることで、空隙部が空気のままの場合に比べて熱伝導効率を高めることができ、接触熱抵抗を減少させ、熱輸送能力をより向上させることができる。
【0027】
例えば、図1のように基盤部11の片面のみに毛状体12を立設する場合、発熱部1には毛状体12を直接接触させると共に、放熱部2には毛状体12に連なる基盤部11を直接当接させて熱伝達経路となる熱パスを形成し、更に基盤部11が有する空隙部に高熱伝導フィラー入り樹脂からなる充填材13(図示せず)を埋める。
【0028】
これにより、弾性を持つ複数の毛状体12が発熱部1に当接しながら同時に放熱部2に対して基盤部11をより広い接触面積で密着させることができるので、複数の毛状体12及び基盤部11によって形成される熱パスにおいて、ヒートサイクルによる部材の伸縮にも追随しながら良好な接触状態を維持することができる。更に、発熱部1と放熱部2の異種材料間の熱膨張差にも追随することができる。
【0029】
充填材13の材質は、高熱伝導フィラー入りの樹脂の他、はんだやロウ材を用いることができる。はんだやロウ付けの方が樹脂より熱伝導率が高く、熱抵抗を小さくできるため好ましい。また、樹脂は耐熱温度が200℃程度までのものが多いので、200℃以上の温度になる場合ははんだやロウ付けが好ましい。充填材13の材料をいずれのものに選ぶかは部材の使用温度や熱膨張差に応じて適宜使い分けることができる。
【0030】
一般に、発熱部1に用いられるセラミックと放熱部2に用いられるAlでは熱膨張係数が大きく異なり、これらの間に何も介在させることなくはんだやロウ付けで直接接合してしまうと、熱抵抗を小さくできるが、ヒートサイクルによってセラミックスが割れるため直接接合はできない。これに対して、複数の毛状体12間に存在する空隙部や基盤部11自体が有する空隙部にはんだやロウ材を埋めることによってヒートサイクルによる割れを生ずることなく熱抵抗を小さくすることができる。
【0031】
また、基盤部11の空隙部も複数の毛状体12間の空隙部も全て充填材13で埋めて、発熱部1と放熱部2とを接続しても良い。この場合においても、毛状体12は依然として変形能を有しているため、発熱部1及び放熱部2の材質が異なっていても熱応力を生じることがない。複数の毛状体12が基盤部11の両面に設けられている場合は、図2のように、一方の面に設けられている毛状体12と基盤部11とを充填材13で埋め、他方の面に設けられている毛状体12は充填材13で埋めないようにしても良い。
【0032】
複数の毛状体12を効率的に発熱部1や放熱部2に接触させるために、複数の毛状体12を所定の高さでほぼ均一に揃えることが好ましい。これにより、実際には反ったりうねったりしている発熱部1や放熱部2に対して、複数の毛状体12を個別に変形させて満遍なく接触させることができる。例えば図5に示すように、基盤部11の発熱部1に対向する面上に設けられている複数の毛状体12のうち、発熱部1の凹部に対向している領域に設けられている毛状体12aは、殆ど湾曲させないか湾曲させる場合であっても緩やかに湾曲させ、発熱部1の凸部に対向している領域に設けられている毛状体12bは大きく湾曲させる。これにより、全ての毛状体が発熱部1に確実に接触することができる。
【0033】
このように毛状体12に変形能を持たせるためには、各毛状体12の径を小さくするか、各毛状体12の長さをある程度長くすることで可能となる。しかし、毛状体12の径を小さくし過ぎると、発熱部1との接触面積の低下を招き、効率的に熱を伝えることが困難となる。また、毛状体12の長さを長くし過ぎると、熱伝達経路が長くなり、結果的に全体として熱抵抗が大きくなってしまう。
【0034】
具体的には、熱を伝える毛状体12の長さ(図3においてLで示す距離)が0.2〜3mm、直径(図3においてDで示す距離)が0.02〜0.1mmであることが好ましい。毛状体12の長さが0.2mm未満である場合、毛状体の変形能が小さくなるため好ましくなく、毛状体12の長さが3mmを超える場合は、熱伝達距離が長くなり、相対的に熱抵抗が大きくなるため好ましくない。また、毛状体12の直径が0.1mmを超える場合は変形能が小さくなるため好ましくなく、直径が0.02mm未満の場合は毛状体12一つ当たりの接触面積が相対的に小さくなり、熱伝達量が低下し、効率的な冷却ができなくなるため好ましくない。
【0035】
更に、各毛状体12は、L/Dの値が10〜150であることが好ましい。L/Dの値が10未満では、剛性が高くなりすぎて少数の毛状体12しか発熱部1や放熱部2に接触できず十分な熱輸送能力が発揮されない。一方、L/Dの値が150を超えると毛状体12を発熱部1や放熱部2の当接面に対して略垂直に当接させることが困難になるため熱輸送が十分に行えず、熱輸送能力が不足するため好ましくない。
【0036】
更に、上記の形状の条件を満たす毛状体12は、基盤部11上の単位面積当り10〜1000本/mmの密度で存在していることが好ましい。この存在密度が10本/mm未満の場合、相対的に熱伝達量が低下するため好ましくない。また1000本/mmを超えると過密状態となり、毛状体12が変形(湾曲)するためのスペースを確保することが困難となり、結果的に毛状体12の変形(湾曲)量が小さくなるため、毛状体12の発熱部1に対する接触本数の低下を招くために好ましくない。
【0037】
このように複数の毛状体12で発熱部1または放熱部2と接触することができ、しかも毛状体12が適度な柔軟性を有していることから、例えば発熱部1や放熱部2の毛状体12との接触部分に反りや傷があったとしても、毛状体12が変形してこれらの反りや傷に追従することができるため、安定した熱伝達を実現することができる。
【0038】
次に、本発明における熱輸送体10の製法を説明する。先ず、起毛又は植毛が均一に施された繊維を準備する。起毛が施された繊維の作製方法としては、例えば、編物、織物等の2枚の織物の間にたて糸の一部を用いてパイルを織り込み、これを2枚に切り分けることで高密度で直立性に優れた起毛の施された繊維を作製することができる。図4には、上記2枚の織物が切り分けられた後の片側の織物を模式的に示している。この図4に示すように、1本の糸は複数本のフィラメントFをよったより線から成ることから、フィラメント数Nを増やすことで同じ起毛ピッチPのまま繊維密度(1/P×1/P×N)を容易に増やすことができる。
【0039】
一方、植毛が施された繊維は、静電植毛法によって作製することができる。この方法は、植毛する繊維を所望の長さに裁断し、これを篩に通した後、ベースとなる繊維と電極板の間の空間に散布しながら、これらベースとなる繊維と電極板との間に数万ボルトの電圧をかけて植毛するものである。
【0040】
このようにして得られた起毛又は植毛が施された繊維にCuをメッキし、その後メッキが施された繊維を熱処理して繊維を除去又はカーボン化する。これにより、Cuを主成分とする材料によって、基盤部11及びこれに立設された毛状体12を形成することができる。このように、起毛又は植毛が施された繊維にCuをメッキすることで従来と比較して安価に熱輸送体10を製造することができる。尚、従来のプレス方法によって本発明と同様の熱輸送体10を形成することは非常に困難である。
【0041】
上記したメッキする繊維に好適に使用される起毛又は植毛された繊維は、その先端部の高さができるだけ揃っている方が好ましい。起毛の高さ、植毛の長さを揃えることによって、得られる複数の毛状体12を発熱部1や放熱部2に対して均一に当接させることができる。尚、起毛や植毛の長さ(高さ)やそのベースとなる繊維上に存在する密度は、当然のことながら前述した毛状体12の存在密度や長さと同じ要件が適用されることになる。
【0042】
繊維の突起部分となる起毛や植毛の存在密度が高かったり、高さが高すぎたりする場合は、突起部分の下部まで充分にメッキ液が浸透せず、得られる毛状体12の下部に十分なCu膜が形成されなかったり膜厚が薄くなったりして、熱伝達量が低下するため好ましくない。この繊維の突起部分は、メッキした後、熱処理によって除去される。これにより、突起部分に対応する部分に毛状体12の中空部Hが形成される。所定の形状の毛状体12を作製するためには、繊維の突起部分の直径とメッキ厚とを制御しながら作製する必要がある。
【0043】
本発明の熱輸送体10の作製の際に使用する繊維の材質は、熱処理により除去できるものであれば特に制約はない。例えば、アクリルや、セルロース系のレーヨン、ナイロン等のポリアミド系繊維、ポリエステル等の化学繊維や、綿花、絹、麻等の天然繊維等を使用することができる。但し、上記のように突起部分の直径を制御する観点から、繊維の直径を比較的制御しやすい化学繊維の方がより好ましい。
【0044】
特に、熱処理後に中空部Hを形成することになる繊維の突起部分は、材質にレーヨンを使用するのが好ましい。レーヨンは化学繊維の中でも比較的柔らかいため、所望の長さになるように切断して揃える際に特に加工がしやすいからである。
【0045】
これらの繊維に対してCuメッキを行う場合、これらの繊維のほとんどは導電性を有しないため、先ず無電解メッキにより比較的薄い膜を繊維の上に形成し、その後電気メッキにより基盤部11及び毛状体12を形成することが好ましい。電気メッキは、流す電流量に応じて繊維に析出するCuの量を制御することができるので、毛状体12の直径を所望の大きさにすることができる。また、無電解メッキ、電気メッキにおけるCuの付着量に関しては、500〜2000g/mが好ましい。Cuの付着量が500g/mより少ないと、完全に繊維を被覆することができなくなる。一方、2000g/mより多いと、隣接する繊維の突起部同士がつながってしまい、毛状体12を形成できなくなる。
【0046】
繊維にCuメッキを施した後、繊維を除去する。繊維の除去方法には、熱処理によって除去する方法がある。例えば、窒素や真空等の不活性なガス雰囲気中で、繊維が分解し始める温度、例えば300℃以上の温度で熱処理する。その後、例えば大気中で残渣を燃焼し、Cuの表面に生じた酸化皮膜を水素等の還元雰囲気中で熱処理し、表面の酸化銅を還元することで作製することができる。
【0047】
また、不活性ガス雰囲気中で熱処理する温度としては、300℃以上が好ましく、Cuの融点である1085℃以下にする必要がある。特に、500〜950℃が好ましく、700〜900℃程度がより好ましい。この程度の温度範囲内で熱処理すると、繊維が分解した際に分解物が大気での燃焼処理によって除去しやすくなるため好ましい。特に、500℃以上であれば、繊維自体の熱分解が進むため、大気中で熱処理した際に毛状体内に残渣が残りにくくなる。更に、700℃以上であればほとんど残渣は残らない。
【0048】
また、不活性ガス雰囲気や真空中で熱処理を施さずに、大気中で燃焼することも可能である。しかし、この場合は繊維自体が燃焼し、Cu膜の温度も上昇してしまい、結果的にCu膜表面の酸化膜が厚くなることがあるので好ましくない。すなわち、Cu膜表面の酸化膜が厚くなりすぎると、水素中で還元しても表面上は還元できるものの、中空部の内部に酸化皮膜が残存しやすくなり、毛状体全体の熱伝導率が低下するため好ましくない。
【0049】
水素で還元する温度は300℃以上が好ましい。これよりも低い温度では、Cuの還元反応の速度が遅く、あまり効果的ではない。効率を考えると、500〜800℃程度が好ましい。また、1000℃を超える温度で還元すると、Cu自身に弾力性がなくなり、焼きなまされた状態になる。このため、毛状体12と発熱部1や放熱部2の接触部において、毛状体12の先端が発熱部1や放熱部2に接触しても、毛状体12の変形のみが大きくなり、結果的に毛状体12と発熱部1や放熱部2との接触面積が小さくなるため好ましくない。
【0050】
以上、本発明の熱輸送体を具体例に基づいて説明したが、本発明は係る具体例に限定されるものではなく、本発明の主旨から逸脱しない範囲の種々の態様で実施可能である。すなわち、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲及びその均等物に及ぶものである。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
発熱部1として、パソコンのCPUに見立てた32mm角×厚さ2mmのセラミックスヒータを準備した。これにリード線を取り付け、電流を流すことで発熱できるようにした。次に放熱部2として、60mm角×高さ30mmのアルミニウム製の放熱フィンを備えたヒートシンクを準備した。
【0052】
上記発熱部1と放熱部2との間に介在させる熱輸送体10を作製するため、2枚の織物の間にたて糸の一部を用いてパイルを織り込み、これを2枚に切り分けることで厚み0.5mmの基盤部の片面に起毛を施し、下記表1に示すような起毛長さがそれぞれ異なる4種類のポリエステル系繊維を準備した。これら4種類の繊維にそれぞれ無電解Cuメッキを施し、目付量1500g/mで電解Cuメッキを行った。繊維にCuメッキを施した後、N雰囲気の下、800℃で1時間焼成した。その後、Hを15mol%混合したN雰囲気で800℃にて更に焼成を行い、試料1〜4の熱輸送体を得た。
【0053】
このようにして得られた試料1〜4の熱輸送体を毛状体12が発熱部1に、基盤部11が放熱部2に当接するようにそれぞれセットし、基盤部11に充填材13としてAgグリースを注入した。発熱部1のセラミックヒータに60Wの電力を供給し、発熱部1と放熱部2の温度差ΔTを測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
[実施例2]
基盤部の両面に起毛を施した繊維を用いた以外は実施例1と同様にして下記表2に示すような試料5〜7の熱輸送体を準備した。これを発熱部1と放熱部2の間にセットし、以降は実施例1と同様にして充填材13を注入してΔTを測定した。測定結果を下記の表2に示す。尚、試料6及び7には、実施例1に比べ反りの大きなヒートシンクを使用した。
【0056】
【表2】

【0057】
[実施例3]
実施例1と同様にして下記表3に示すような試料8〜12の熱輸送体を準備した。これら試料8〜12に対してPbフリーはんだ又はAgロウ材からなる充填材13を用い、使用温度を200℃とした以外は実施例1と同様にしてΔTを測定した。尚、ヒータへの供給電源ケーブルの被覆材は耐熱部材を使用した。測定結果を下記の表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
[比較例1]
発熱部1と放熱部2にとの間に介在させる試料13の熱輸送体として、図6に示すようなCu基盤部3aの片面に多数のCuの柱状体3bが集合した凸状構造部3をワイヤー放電加工にて形成した。この凸状構造部3は、厚さ1mmのCu基盤部3aの上に、高さ0.5mm、断面0.1×0.1mmの多数の柱状体3bが互いに0.4mmの間隔をあけて規則的に配列した構造を有している。このとき、多数の柱状体3bの存在密度は6.25本/mmであった。この凸状構造部3の柱状体3b及び基盤部3aをそれぞれ発熱部1及び放熱部2に当接するようにセットし、実施例1と同様の方法で発熱部1と放熱部2の温度差ΔTを測定した。
【0060】
[比較例2]
発熱部1と放熱部2にとの間に介在させる試料14の熱輸送体として、図8に示すような厚さ1.5mmのCu製金属多孔体4(セルメット、PPI=50)を準備した。このCu製金属多孔体4を発熱部1及び放熱部2に当接するようにセットし、実施例1と同様の方法により発熱部1と放熱部2の温度差ΔTを測定した。
【0061】
[比較例3]
実施例1と同様の熱輸送体10の基盤部11を、図9に示すようにシリコーン系接着剤5を介在して放熱部2に接続した以外は実施例1と同様にして試料15の熱輸送体とし、実施例1と同様の方法により発熱部と放熱部の温度差ΔTを測定した。これら比較例1〜3の結果をまとめて下記の表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
これら表1〜4の結果より、実施例1は、比較例1〜3に比べて効率良く熱輸送できることが分かった。また、実施例2の両面に起毛する場合も、実施例1と同等以上の性能が得られることが分かった。特に、反りの大きなヒートシンクの場合に、片面起毛に比べて両面起毛の方が効率良く熱輸送していた。これは、反りの大きなヒートシンクには基盤部よりも毛状体の方が効率良く熱を伝えることを示している。比較例1の熱輸送体は柱状体の剛性が高いので、図7に示すように発熱部1の凹部において柱状体の先端部が良好に当接できず、その結果効率が低下しているものと思われる。
【0064】
また、充填材13をはんだやAgロウ材とすることで、Agグリースなど樹脂系では使用できない200℃の高温雰囲気下でも良好に使用できることが分かる。更に、充填材13としてAgグリースに比べてはんだ、Agロウ材の方が熱伝導率が高く、効率良く熱輸送できることが分かる。
【符号の説明】
【0065】
1 発熱部
2 放熱部
10 熱輸送体
11 基盤部
12 毛状体
13 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部と該発熱部で生じた熱を放熱する放熱部との間に介在する熱輸送体であって、基盤部と、該基盤部の発熱体及び/又は放熱部に対向する面上に略垂直に設けられた、中空部を有する複数の毛状体とを有し、該基盤部及び複数の毛状体は主成分がCuからなり且つメッキにより形成され、
前記発熱体及び放熱部には前記基盤部又は複数の毛状体の先端部のいずれかが直接当接しており、前記発熱体及び放熱部の少なくともいずれかに当接する前記基盤部又は複数の毛状体は、基盤部が有する空隙部又は複数の毛状体間の空隙部に充填材が埋められていることを特徴とする熱輸送体。
【請求項2】
前記複数の毛状体は、前記基盤部の両面に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の熱輸送体。
【請求項3】
前記充填材は、金属、セラミック、及びカーボンからなる群より選ばれた少なくとも1つを高熱伝導フィラーとして含有している樹脂であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱輸送体。
【請求項4】
前記充填材は、はんだ又はロウ材であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱輸送体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−238858(P2010−238858A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84307(P2009−84307)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】