説明

熱間塑性加工用潤滑剤

【課題】 熱間塑性加工において優れた加工性能と使用性を有する潤滑剤、特に、熱間圧延加工において噛み込み時には摩擦係数が高く、通板時には摩擦係数が低くなり、高圧下圧延においてもスリップ防止効果と焼き付き防止などの潤滑効果とを発揮する水性潤滑剤を提供する。
【解決手段】 水を含む水性媒体中に、膨潤性粘土化合物と、水溶性ガラスと、ノニオン性水溶性高分子とを含むことを特徴とする熱間塑性加工用潤滑剤。潤滑剤の摩擦係数を、200℃〜500℃の間で最大値を有し、前記最大値は0.3以上であり、且つ800℃での摩擦係数が0.3未満とすることができる。水溶性ガラスとしては、(NaO,LiO)−(P−B)系が好適に使用でき、酸化物換算でNaO及び/又はLiOが10〜40質量%であることが好適である。また、本発明の潤滑剤には、さらに固体潤滑剤を配合することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系トライボマテリアルに関するもので、さらに詳しくは鉄鋼材料の熱間塑性加工する際に用いる潤滑剤、特に、低温では摩擦係数が高く、高温では摩擦係数が低い水性熱間塑性加工用潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料の熱間における圧延加工を行う際に、ロールなどの加工工具と被加工鋼材の摩擦係数を低下させ、ロール負荷を低減し、また凝着を防いで焼き付きを防止するために、潤滑剤が使用されている。また、金属素材の熱間における鍛造や押し出し、引抜などその他の熱間塑性加工においても、潤滑剤が使用されている。
【0003】
しかし、例えば熱間圧延加工においては、潤滑剤は噛み込む直前に加工具(ロール等)あるいは加工具と被圧延材との接触界面に供給されることが多いため、潤滑剤の摩擦係数が小さすぎるとロールへの噛み込み時に被圧延材がスリップしてしまってうまく噛み込まず、生産性を低下させたり、また、ロール表面に損傷を生じる。一方、噛み込み時のスリップを低減しようとして摩擦係数を大きくすれば、通板中(圧延中)にロールと被圧延材との界面で焼き付きが生じたり、摩擦によってロール表面が磨耗するなど、十分な潤滑性能が発揮されない。また、ロール負荷も大きくなってしまう。
【0004】
最近は、圧延条件の過酷化や表面品質の厳格化が求められているが、例えば、2000MPaにも及ぶ高圧延荷重で厚みを50%以上も減少させるような過酷な圧延条件下では、圧力が非常に高く、新生面の発生も非常に大きいので、著しい焼き付きを生じてしまう。よって、このような高圧下圧延で焼き付きを防止しようとすれば摩擦係数を非常に小さくしなければならないが、そうすると噛み込み時のスリップ性がどうしても高くなってしまう。
熱間圧延用潤滑剤については、これまで種々の改良が行われているが、従来の潤滑剤では、高圧下圧延でも焼き付き防止効果などの潤滑性能とスリップ防止効果との両方において充分対応でき、しかも使用性にも優れるものは得られていないのが現状であった。
また、圧延以外の熱間塑性加工においても、より高い加工性能と使用性を兼ね備えるものが求められているが、未だ十分に満足いくものは得られていない。例えば、潤滑剤の摩擦係数を小さくして金型と素材の摩擦抵抗を低減しようとすれば、周囲床面に飛散した潤滑剤により滑り易くなったり、潤滑剤塗布後に型め材料を手供給する際に滑り易くなり、使用性に問題を生じる。
【0005】
例えば、金属加工油剤においては、鉱油や合成エステル油に油性向上剤、極圧剤、固体潤滑剤などを添加した油性潤滑剤、あるいは水相を分散させたW/Oエマルジョン潤滑剤があるが、油分ベースの潤滑剤では作業環境上や安全上問題がある。
また、加工油剤を界面活性剤で微細な油滴として水に分散させたO/Wエマルジョン系潤滑剤では、火炎、悪臭の発生などの工場保安上、作業環境上の問題の発生が少なく、水質汚染の問題も少ないため環境上に優れた潤滑剤であるが、基本的に油を使用しているため環境面で十分とは言えない。また、油を使用しているために噛み込み時の摩擦係数が低く、スリップし易い。さらに、耐摩耗性、耐焼き付性などの潤滑性能は十分とは言えず、高圧下圧延・長時間圧延などの圧延条件の過酷化や表面品質の厳格化などに十分対応できていない。
【0006】
また、油を全く使用せず、油性向上材、極圧材、固体潤滑剤などを水に溶解あるいは分散させた水性潤滑剤も開発されている。
例えば、特許文献1では、酸化ホウ素あるいはホウ酸化合物と、酸化鉄や酸化ナトリウム等の酸化物とを水に分散した潤滑剤が、また、特許文献2では、リン酸水溶性酸素酸塩と水溶性高分子とを含む水性潤滑剤が報告されている。
これらは、焼き付きとスリップの両方を防止することを目的としているが、高温における摩擦係数がやや高く、また、耐焼付け性など高圧下圧延に耐えるレベルとはなっていない。
【0007】
また、特許文献3には、膨潤性雲母を水に膨潤させて得られたゾル(水分散液)からなる潤滑剤が焼き付き防止効果に優れることが記載されている。
また、特許文献4〜6には、このゾルを固体潤滑剤の沈降防止、均一分散に用いた水性潤滑剤が記載されている。
また、特許文献7には、膨潤性雲母とともに、水溶性ガラスとを併用した潤滑剤が、鍛造や押し出し加工において優れた潤滑性、離型性を発揮することが記載されている。
しかしながら、これらによっても、噛み込み時の高摩擦係数と、通板時の低摩擦係数という相反する機能を兼ね備えることは困難であった。
【0008】
【特許文献1】特開平10−30097号公報
【特許文献2】特開平10−110182号公報
【特許文献3】特開昭55−71795号公報
【特許文献4】特開平6−184586号公報
【特許文献5】特開平6−234989号公報
【特許文献6】特開平7−116710号公報
【特許文献7】特開昭57−73089号公報
【0009】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、熱間塑性加工において優れた加工性能と使用性を有する潤滑剤、特に、熱間圧延加工において噛み込み時には摩擦係数が高く、通板時には摩擦係数が低くなり、高圧下圧延においてもスリップ防止と、焼き付き防止などの潤滑効果とを十分発揮することのできる水性潤滑剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
鋼材などの熱間圧延では、通常、被圧延材料は1000℃以上の高温で加工具(圧延ロール等)に送られるが、圧延ロールは水冷等により100〜200℃に設定されている。潤滑剤は通常、被圧延材料がロールにかみこむ直前にロール側に供給されるか、あるいはロールと被圧延材との接触界面に供給されるので、噛み込み時には潤滑剤温度は比較的低く(例えば、200〜500℃程度)、一方、一旦噛みこんでしまえば、後は被圧延材料との接触により潤滑剤は非常に高温(例えば、700℃〜1000℃程度)になる。
【0012】
本発明者らは、低温では摩擦係数が高く、高温では摩擦係数が低くなるような潤滑剤であれば、熱間塑性加工用潤滑剤、特に、熱間圧延用潤滑剤として理想的であり、高圧圧延にも十分対応できるのではないかと考え、低温側と高温側で摩擦係数が大きく変化するような潤滑剤について、検討を進めた結果、水膨潤性粘土化合物と、水溶性ガラスと、水溶性高分子とを、水に分散させた水性潤滑剤が、このような性質を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる熱間塑性加工用潤滑剤は、水を含む水性媒体中に、膨潤性粘土化合物と、水溶性ガラスと、ノニオン性水溶性高分子とを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の潤滑剤において、潤滑剤の摩擦係数が、200℃〜500℃の間で最大値を有し、前記最大値は0.3以上であり、且つ800℃での摩擦係数が0.3未満であることが好適である。
また、水溶性ガラスが、(NaO,LiO)−(P−B)系であることが好適であり、さらには、水溶性ガラスの(NaO,LiO)の割合が10〜40質量%であることが好適である。
また、水溶性ガラスの軟化温度が700℃以下であることが好適である。
また、ノニオン性水溶性高分子が膨潤性粘土化合物の層間を拡大するものであることが好適である。
【0014】
また、本発明の潤滑剤において、膨潤性粘土化合物の粉末X線回折による層間距離が20Å以上であることが好適である。
また、本発明の潤滑剤において、膨潤性粘土化合物が膨潤性雲母であることが好適である。
また、本発明の潤滑剤において、さらに固体潤滑剤を配合することが好適である。
また、本発明の潤滑剤は、熱間圧延用潤滑剤であることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の潤滑剤は、摩擦係数が低温では高く高温では低いという、温度可変性を有する。このため、熱間塑性加工、特に熱間圧延加工において、噛み込み時には高摩擦係数によりスリップせずに安定した良好な噛み込み性を発揮し、噛み込んだ後の通板時には摩擦係数が低くなって焼き付きや磨耗などを防止し、良好な潤滑性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の潤滑剤は、膨潤性粘土化合物と、水溶性ガラスと、ノニオン性水溶性高分子とを、水(あるいは水を主体とする水性媒体)中に分散させることにより得ることができる。
本発明の潤滑剤の摩擦係数は、図1〜2の試料1〜2のように、温度が上昇するに従って高くなり、ある温度で最大値となった後低下し、摩擦係数が低温では高く、高温では低いという、温度可変性を有する。本発明によれば、例えば、200〜500℃で摩擦係数が最大値(0.3以上)となり、800℃では摩擦係数が0.3未満とすることができる。
【0017】
このような温度可変性には、膨潤性粘土化合物、水溶性ガラス及びノニオン性水溶性高分子が必須であり、膨潤性粘土化合物と水溶性ガラスとを水に分散させた場合や、あるいは膨潤性粘土化合物とノニオン性水溶性高分子とを水に分散させた場合では、このような効果を得ることはできない。
本発明の潤滑剤の媒体としては水を用いているので、環境上や安全上の問題を生じず、使用性に優れる。なお、特に支障のない限り、水にはエタノール、メタノール、アセトンなどの水溶性有機溶媒を添加してもよい。
【0018】
本発明において使用する膨潤性粘土化合物は、水膨潤性のもので、例えば、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族の粘土鉱物が好適である。これらは天然、合成であるを問わないが、合成粘土鉱物では高純度のものを得やすい。合成粘土鉱物としては、ナトリウムテトラシリシックマイカ、ナトリウムテニオライト等があるが、特にこれらに限定されるものではない。
潤滑剤中の膨潤性粘土化合物の配合量は目的に応じて適宜決定すればよいが、通常は0.1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%である。
【0019】
水溶性ガラスとしては本発明の効果を発揮し得るものであれば特に制限されないが、好適な水溶性ガラスの例として、NaO及び/又はLiOと、P及び/又はBとからなる(NaO,LiO)−(P,B)系水溶性ガラスが挙げられる。(NaO,LiO)−(P,B)系水溶性ガラスは、広い組成範囲で結晶化せずにガラス化し、水に溶解して、且つ水中で長期間に亘り安定である。特に好適なガラス組成としては、酸化物換算で、NaO及び/又はLiOが10〜40質量%、残部がP及び/又はBである。NaO及び/又はLiOの割合が少なすぎたり多すぎたりすると、完全にガラス化しないことがある。
【0020】
水溶性ガラスの原料としては、通常使用されているものであれば使用できる。例えば、NaO,LiO源としては、ナトリウムやリチウムの炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物等が挙げられる。
源としては、例えば、無水リン酸、リン酸二水素ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられる。
源としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩などが挙げられる。
【0021】
これらの原料を、所望の組成となるように選択、混合し、加熱溶解後冷却して、水溶性ガラスを得ることができる。ガラス原料を源物質のまま使用することもできるが、潤滑剤中で原料が沈降して分散安定性に問題を生じることがあるので、予め水溶性ガラスを調製してから、添加することが好ましい。
なお、水溶性ガラス原料としてカリウム含有化合物を用いると、Kイオンが膨潤性粘土化合物の層間イオンとカチオン交換して膨潤性を低下させ、本発明の効果が十分に得られないことがあるので、注意を要する。
【0022】
200〜500℃で摩擦係数が最大値(0.3以上)となり、800℃では摩擦係数が0.3未満となるようにするためには、軟化温度が700℃以下の水溶性ガラスが好適に使用できる。
なお、水溶性ガラスの組成によって軟化温度を変化させることにより、摩擦係数が低下し始める温度(摩擦係数が最大となる温度)を調整することができるので、各種の圧延などの加工条件に合わせて、最適な性能を有するように潤滑剤を調整することが可能である。
潤滑剤中の水溶性ガラスの配合量は目的に応じて適宜決定すればよいが、通常は0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%である。
【0023】
本発明において用いる水溶性高分子としては、ノニオン性の水溶性高分子が好適である。ノニオン性水溶性高分子としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体;デキストリン、でんぷん、コーンスターチ、アラビアゴムなどの多糖類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル;エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート等の多価アルコールアルキルエステル類;ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーなどが挙げられる。
これらの内、特に好ましいものとして、セルロース誘導体が挙げられる。
潤滑剤中のノニオン性水溶性高分子の配合量は目的に応じて適宜決定すればよいが、通常は0.1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%である。
【0024】
ノニオン性水溶性高分子の代わりに、アニオン性やカチオン性のものを用いても、本発明のような温度可変性は得られない。その理由は明らかではないが、ノニオン性水溶性高分子は、膨潤性粘土化合物の層間に侵入してその層間を拡大し、且つその層間が拡大した膨潤性粘土化合物も安定に水に分散することができる。このような膨潤性粘土化合物とノニオン性水溶性高分子との複合体のみでは本発明の温度可変性は得られないが、このような層間が拡大した複合体と水溶性ガラスとが特異的に作用し、本発明の効果を発揮する上で重要な役割を果たしていると考えられる。
なお、本発明の効果に特に支障のない限り、アニオン性やカチオン性の水溶性高分子、例えば、カルボキシメチルセルロース、カチオン化セルロース、アルギン酸ソーダ、カルボキシデンプンなどを配合することは可能である。
【0025】
本発明においては、さらに焼き付き防止効果向上などのために、固体潤滑剤を配合することができる。固体潤滑剤としては、例えば、有機酸、有機酸のアルカリ金属塩、黒鉛、二硫化モリブデン、白雲母、カオリン、タルクなどの非膨潤性粘土化合物など、公知の固体潤滑剤が挙げられ、本発明の効果を損なわない限り何れも使用することができる。
固体潤滑剤の配合量としては、少なすぎるとその効果が十分でなく、また、多量に配合しすぎると本発明の効果を損なうことがあるので、0.1〜5質量%、さらには0.2〜3質量%が好ましい。
【0026】
また、本発明の潤滑剤には、本発明の効果に支障のない限り、潤滑剤に使用されているその他の公知の添加剤、例えば、防腐剤、消泡剤、増粘剤、バインダー、分散剤などを適宜配合することができる。
本発明の潤滑剤は、金属素材の熱間における鍛造や押し出し、引抜などの熱間塑性加工において使用可能であるが、特に熱間圧延用潤滑剤として好適である。
以下、具体例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、用いた試験方法は次の通り。
【0027】
摩擦係数
下記の条件で、熱間摩擦試験機により測定した。
荷重:20kg
週速度:0.9mm/min
ロール材質:HC
試験片材質:SS400
潤滑剤塗布量:20mL/min
【0028】
層間距離
潤滑剤をスライドグラス上に塗布し、乾燥させた後、粉末X線回折により層間距離を測定した。
膨潤性雲母では、層間に水を全く含まない場合の層間距離は約10Åであり、層間に水が一層あるいは二層入っている場合には、約12〜15Åである。水より大きな分子が層間に入って複合化した場合には、層間距離は20Å以上となるので、20Å以上が複合化の目安となる。
【実施例1】
【0029】
表1に示す割合(質量%)となるように各成分を混合し、ホモジナイザーで攪拌して、潤滑剤を調製した。表中、水以外の成分の割合は固形分で示している。
なお、膨潤性雲母であるNa四ケイ素雲母は、水に分散して、10質量%膨潤性雲母水分散液を調製し、配合に用いた。
【0030】
水溶性ガラスのうち、Eガラスは、酸化物換算でNaOが25質量%、Pが15質量%、Bが60質量%となるように、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、四ホウ酸ナトリウム(Na)及びホウ酸(HBO)を混合し、アルミナルツボに入れて900℃で30分間加熱溶解し、これを冷却してEガラスを作製した。得られたガラスを粉砕後、水に溶解して、20質量%Eガラス水溶液を調製し、これを配合に用いた。
【0031】
また、Aガラスは、酸化物換算でNaOが25質量%、Pが75質量%となるように、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)と、無水リン酸(P)とを混合し、以下Eガラスの場合と同様にして、20質量%Aガラス水溶液を調製し、配合に用いた。
なお、水溶性ガラスについては、ガラス成分を混合し、加熱溶解後、冷却したものについて、透明性を観察することにより、ガラス化を評価した。透明である場合は完全にガラス化していると判定し、全体あるいは一部が不透明である場合にはガラス化していないあるいはガラス化不良と判定できる。Aガラス、Eガラスは何れも完全にガラス化しており、また、水溶性で、その水溶液は経時的にも安定であった。
水溶性高分子ならびに固体潤滑剤は粉末のまま添加した。
【0032】
(表1)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試料
成分 1 2 3 4 5
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Na四ケイ素雲母 2 2 2 2 2
Eガラス 2 − 2 − −
Aガラス − 2 − 2 −
HEC* 2 2 − − 2
水 94 94 96 96 96
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
摩擦係数(μ)
200℃ 0.41 0.38 0.39 0.43 0.39
800℃ 0.21 0.22 0.52 0.60 0.52
層間距離(Å) 29 24 15 14 25
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*HEC:ヒドロキシエチルセルロース(ノニオン性)
【0033】
表1に示すように、膨潤性粘土化合物と水溶性ガラスの場合(試料3〜4)、あるいは膨潤性粘土化合物とノニオン性水溶性高分子の場合(試料5)には、何れも低温に比べて高温での摩擦係数が高く、800℃での摩擦係数は0.5以上と非常に高かった。
これに対して、膨潤性粘土化合物と水溶性ガラスとノニオン性水溶性高分子とを用いた場合(試料1〜2)には、低温での摩擦係数はほとんど変化しないのもかかわらず、高温における摩擦係数が0.2付近まで低下した。
【0034】
(表2)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試料
成分 1 2 6 7 8
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Na四ケイ素雲母 2 2 2 2 2
Eガラス 2 − 2 − −
Aガラス − 2 − 2 2
HEC*1 2 2 − − −
CMC*2 − − 2 2 −
カチオン化HEC*3 − − − − 2
水 94 94 94 94 94
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
摩擦係数(μ)
200℃ 0.41 0.38 0.49 0.45 0.40
800℃ 0.21 0.22 0.43 0.65 0.52
層間距離(Å) 29 24 15 12 14
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*1:ヒドロキシエチルセルロース(ノニオン性)
*2:カルボキシメチルセルロース(アニオン性)
*3:四級アンモニウムカチオン化ヒドロキシエチルセルロース[レオガードLP、ライオン油脂](カチオン性)
【0035】
表2は、水溶性高分子として、ヒドロキシエチルセルロース(ノニオン性)、カルボキシメチルセルロース(アニオン性)、四級アンモニウムカチオン化ヒドロキシエチルセルロース(カチオン性)を用いた場合について、検討した結果である。
表2に示すように、膨潤性粘土化合物−水溶性ガラス−水溶性高分子の系において、水溶性高分子がアニオン性である場合(試料6〜7)や、カチオン性である場合(試料8)には、ノニオン性である場合(試料1〜2)のように、低温での摩擦係数を高く維持し、且つ高温での摩擦係数を著しく低下させることはできない。また、カチオン性の場合には、25℃1ヶ月保存で潤滑剤に凝集・分離が生じ、安定性にも問題があった。
【0036】
図1は、試料1、試料6及び水の各温度による摩擦係数の変化を示している。
水の摩擦係数は、低温では0.4程度であり、温度の上昇とともにやや上昇傾向にある。
試料6(膨潤性粘土化合物−Eガラス−アニオン性水溶性高分子)では、温度の上昇とともに摩擦係数が上昇して400℃付近で最大(約0.6)となり、その後摩擦係数はやや低下はするものの、700〜900℃付近での摩擦係数は100〜400℃の低温域とほぼ同程度(0.4以上)と高いままであり、低温域と高温域での摩擦係数の差はほとんどない。
これに対して、試料1(膨潤性粘土化合物−Eガラス−ノニオン性水溶性高分子)では、温度の上昇とともに摩擦係数が上昇して400℃付近で最大(約0.45)となり、その後急激に摩擦係数は低下して、700〜900℃付近での摩擦係数は約0.2と著しく小さくなる。
【0037】
図2は、試料2、試料7及び水の各温度による摩擦係数の変化を示している。
試料7(膨潤性粘土化合物−Aガラス−アニオン性水溶性高分子)では、温度の上昇とともに摩擦係数が上昇して700℃付近で最大(約0.7)となり、700〜900℃付近での摩擦係数は100〜400℃の低温域よりも高くなってしまう。
これに対して、試料2(膨潤性粘土化合物−Aガラス−ノニオン性水溶性高分子)では、温度の上昇とともに摩擦係数が上昇して200℃付近で最大(約0.4)となり、その後摩擦係数は低下して、700〜900℃付近での摩擦係数は約0.2と著しく小さくなる。
【0038】
以上のように、膨潤性粘土化合物と、水溶性ガラスと、ノニオン性水溶性高分子とを水に分散させることにより、低温で高摩擦係数で、高温で低摩擦係数となる潤滑剤を得ることができる。
このような潤滑剤によれば、噛み込み時には摩擦係数が高いのでスリップせずに噛み込みが良く、通板時には摩擦係数が低くなって焼き付きや磨耗が少ないので、安定した圧延が可能であり、高圧圧延にも十分に対応可能である。
【0039】
また、本発明者らの検討によれば、摩擦係数が最大値となる温度(摩擦係数が低下し始める温度)は、水溶性ガラスの軟化温度と相関が認められた。
図3はNaO−P−B水溶性ガラス(NaO 25質量%)を例として、水溶性ガラス組成とその軟化温度との関係を示している。B/(P+B)=0がAガラス(軟化温度は約450℃)、B/(P+B)=0.8がEガラス(軟化温度は約650℃)に相当する。図4からわかるように、試料1(膨潤性粘土化合物−Eガラス−ノニオン水溶性高分子)の方が試料2(膨潤性粘土化合物−Aガラス−ノニオン水溶性高分子)よりも摩擦係数が最大値となる温度が高く、軟化温度が高い方が最大値温度も高くなる傾向があった。
従って、水溶性ガラス成分を調整して軟化温度を調節することにより、温度による摩擦係数の挙動をコントロールできると考えられる。
【0040】
(表3)
―――――――――――――――――――――――――――
試料
成分 9 10 11
―――――――――――――――――――――――――――
Na四ケイ素雲母 2 2 2
Eガラス 2 − 2
Aガラス − 2 −
HEC 2 2 2
黒鉛 2 2 −
ステアリン酸リチウム − − 1
―――――――――――――――――――――――――――
摩擦係数(μ)
200℃ 0.35 0.32 0.30
800℃ 0.11 0.10 0.10
―――――――――――――――――――――――――――
【0041】
表3に示す試料9〜11は、試料1または試料2に固体潤滑剤を配合したものである。何れも200〜500℃で摩擦係数の最大値(0.3以上)を有し、かつ800℃における摩擦係数が0.3未満であるという特徴を備え、固体潤滑剤(黒鉛、ステアリン酸リチウム)の添加により摩擦係数がやや低下し、耐焼き付き性がより改善された潤滑剤であった。
【実施例2】
【0042】
試料1の潤滑剤を、溝形鋼圧延時のロール孔型に、0.5L/tの割合で吹きつけ、約970tの圧延を行った。被圧延材料の温度は800〜1000℃、水冷されたロールの温度は100〜200℃であった。被圧延材料はSS400、荷重450t、最大面圧は1800MPa、圧下率は最大で31%であった。
従来のエマルジョン系潤滑剤を使用していたときの検査実績では、ロールの焼き付きによる溝形鋼フランジ部の線状痕による手直し品発生率が4.4%であったのに対して、試料1の使用によって、0.4%以下に改善され、且つ製品表面の平滑性が著しく改善された。
【実施例3】
【0043】
試料2の潤滑剤を、熱間鍛造用として潤滑性、離型性、作業性の評価を行うため、下記の条件で鍛造試験を行った。評価は、鉱物油に30重量%の微粉黒鉛を添加した潤滑剤の10倍希釈液との比較で行った。
【0044】
鍛造機 :1600tフォージングプレス
金型材質 :SKD62
(使用型命数 4590個、型表面粗さ S−25)
製品材質 :SS400
鍛造製品 :ボス(ドーナツ状、φ150−φ100mm、厚さ 35mm)
金型表面温度 :120〜280℃
素材加熱温度 :1200±30℃
試験ロット数 :各50個
工法 :平潰し→仕上げ打ち→バリ抜き・コイニング
潤滑剤希釈率 :3倍
潤滑剤塗布方法:1ヶ打ち上げ毎に刷毛塗り
【0045】
潤滑性は仕上げ打ち時に金型のエジターピン(押上げ棒)を操作して、内バリの変形度合いをチェックすることで評価した。潤滑性が良好なものは内バリが均一となる。また、離型性と作業性は作業者の官能判断により、微粉黒鉛潤滑剤と比較して、良好:○、同等:△、不良:×で示した。
下記表4に示すように、試料2では変形個数(内バリに変形が見られた個数)が少なく、試料2の潤滑性は微粉黒鉛と同レベルあるいはそれ以上であると判断された。また、試料2を使用して仕上げた製品は欠肉が無く、優れた品質であった。
また、離型性は微紛黒鉛と同レベルに優れ、金型からの製品取り出しも容易で、鍛造途中での金型へのハリツキの発生が少ないため、作業者への負担が少なかった。また、下型への素材の手による供給は、微紛黒鉛を使用した場合に比較して金型内での材料の滑りが少ないため、所定位置への材料の供給が容易であり、作業性が優れていると判断できた。さらに、機械や作業者への汚染が少ないため、微紛黒鉛に比較して、作業環境上においても優れていた。
【0046】
(表4)
――――――――――――――――――――――――――――――
変形個数 潤滑性 離型性 作業性
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試料2 7個/50個 △〜○ △ ○
微粉黒鉛 10個/50個 − − −
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【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】膨潤性粘土化合物−水溶性ガラス−水溶性高分子を含む水性潤滑剤及び水の各温度による摩擦係数の変化を示す図である。
【図2】膨潤性粘土化合物−水溶性ガラス−水溶性高分子を含む水性潤滑剤及び水の各温度による摩擦係数の変化を示す図である。
【図3】NaO−P−B水溶性ガラス組成とその軟化温度との関係を示す図である。
【図4】本発明にかかる潤滑剤及び水の各温度による摩擦係数の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む水性媒体中に、膨潤性粘土化合物と、水溶性ガラスと、ノニオン性水溶性高分子とを含むことを特徴とする熱間塑性加工用潤滑剤。
【請求項2】
請求項1記載の潤滑剤において、潤滑剤の摩擦係数が、200℃〜500℃の間で最大値を有し、前記最大値は0.3以上であり、且つ800℃での摩擦係数が0.3未満であることを特徴とする熱間塑性加工用潤滑剤。
【請求項3】
請求項1〜2記載の潤滑剤において、水溶性ガラスが、(NaO,LiO)−(P,B)系であることを特徴とする熱間塑性加工用潤滑剤。
【請求項4】
請求項3記載の潤滑剤において、水溶性ガラスの(NaO,LiO)の割合が10〜40質量%であることを特徴とする熱間塑性加工用潤滑剤。
【請求項5】
請求項1〜5の何れかに記載の潤滑剤において、水溶性ガラスの軟化温度が700℃以下であることを特徴とする熱間塑性加工用潤滑剤。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の潤滑剤において、ノニオン性水溶性高分子が膨潤性粘土化合物の層間を拡大するものであることを特徴とする熱間塑性加工用潤滑剤。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の潤滑剤において、膨潤性粘土化合物の粉末X線回折による層間距離が20Å以上であることを特徴とする熱間塑性加工用潤滑剤。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の潤滑剤において、膨潤性粘土化合物が膨潤性雲母であることを特徴とする熱間塑性加工用潤滑剤。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の潤滑剤において、さらに固体潤滑剤を配合したことを特徴とする熱間塑性加工用潤滑剤。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の潤滑剤からなる熱間圧延用潤滑剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−188637(P2006−188637A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2929(P2005−2929)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】