説明

熱間材の超音波計測方法および装置

【課題】圧電型超音波探触子を用いて、水媒体を介して熱間材の超音波計測するにあたって、安定かつ高感度に計測可能とすることができる熱間材の超音波計測方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】熱間材表面で水媒体を核沸騰膜状態にして冷却する予備冷却手段を圧電探触子を機械走査する方向の直前に設けるとともに、水媒体内で生じた沸騰膜および気泡を押し流す水流の水媒体を形成して、その水媒体内において超音波を送受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電型超音波探触子を用いて、水媒介を介して熱間材の超音波を行なう熱間材の超音波計測方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料の内部欠陥を検出する非破壊検査方法として超音波計測が使われており、この中で
一般によく使われている方法は、圧電型超音波探触子を用いて、水媒介を介して材料に超音波を送受信する方法である。これは圧電型超音波探触子が、他の変換機に比べて非常に感度が高く使いやすいためである。しかし水媒介が必要という点では、適用対象の温度は常温からせいぜい300℃程度までに限られるという問題がある。
【0003】
近年、歩留まり向上を目的に、鉄鋼製品の欠陥を早期に検出する要求が高まってきている。鋼材材料に生じる内部欠陥の大半が、製品の製造工程中の上工程で発生することから、製品の出荷前の検査で欠陥を検出するのではなく、スラブ、ビレット等の素材段階で検出を行い、不良素材への無駄な加工を省くことが要求されている。
【0004】
これらの熱間材に対しては、水媒介による圧電型超音波探触子では沸騰膜が発生して超音波の伝達を妨げるため適用できないとされ、電磁超音波法やレーザー超音波法などの非接触超音波計測法が適用されてきた。例えば、連続鋳造の凝固完了検知に電磁超音波法を適用した例や、継目無管の熱間肉厚計にレーザー超音波法を適用した例などがある。しかし、これらの非接触超音波計測方法は、圧電型超音波探触子に比べて感度が低いため、計測に用いる超音波エコーが微弱な用途には実用化できないという問題があった。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1および特許文献2に記載の技術が提案されている。特許文献1に記載の技術は、自動超音波探傷ラインにおいて、自動超音波探傷装置の上流側に冷却装置を設定する方法である。冷却水噴霧装置と温度センサからなり、鋼板温度を検出して設定温度となるように冷却制御するものである。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術は、鋼板製造上の処理を行う鋼板処理ラインにオンライン超音波探傷装置を設置し、その上流側に鋼板の上下両面を冷却するオンライン冷却装置を設置する方法である。オンライン冷却装置は、入り側の鋼板温度を測定する入り側温度計、およびオンライン冷却装置の冷却能力または通過する鋼板の搬送速度を制御する冷却制御装置を備えており、冷却制御装置は入り側温度の測定値および鋼板の板厚から、鋼板の表面温度を超音波媒体用の水に気泡を生じない温度まで冷却するために必要な冷却能力、鋼板の搬送速度を算出して鋼板を冷却し、下流に設置されたオンライン超音波探傷装置で探傷を行うものである。
【特許文献1】実開昭61−48359号公報
【特許文献2】特開平11−248686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献に記載の技術でも、次のような問題が残されている。すなわち、実際の熱間材、とくに連続鋳造鋳造や厚板の圧延直後においては、熱容量が大きいため、超音波媒体用の水に気泡を生じない温度まで冷却することは難しいという問題がある。また、熱間材の表面温度を、その温度まで冷却できたとしても、熱間材の熱容量が大きい場合には、下流の探傷装置に搬送されるまでに複熱して温度が目標とした温度以上となり、超音波計測ができないといった問題である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、圧電型超音波探触子を用いて、水媒体を介して熱間材の超音波計測するにあたって、安定かつ高感度に計測可能とすることができる熱間材の超音波計測方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、音響結合材に水媒体を用いた熱間材の超音波計測方法であって、前記水媒体の水流を、前記熱間材表面で核沸騰膜状態になり、かつ、前記水媒体内で生じた沸騰膜および気泡を押し流すように設定することを特徴とする熱間材の超音波計測方法である。
【0010】
また本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の熱間材の超音波計測方法において、計測時に前記熱間材表面で核沸騰膜状態になるように、前記熱間材表面の計測する部位を事前に冷却することを特徴とする熱間材の超音波計測方である。
【0011】
また本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の熱間材の超音波計測方法において、熱間材の表面温度にもとづいて、前記水媒体の水流を設定することを特徴とする熱間材の超音波計測方法である。
【0012】
また本発明の請求項4に係る発明は、超音波探触子と局部水浸ノズルからなるセンサヘッド部を用いて熱間材を超音波計測する熱間材の超音波計測装置であって、前記局部水浸ノズルから供給する水媒体の水流を、熱間材表面で核沸騰膜状態となり、かつ、前記水媒体内で生じた沸騰膜および気泡を押し流すように設定することを特徴とする超音波計測装置である。
【0013】
また本発明の請求項5に係る発明は、請求項4に記載の熱間材の超音波計測装置において、前記センサヘッド部を保持して、熱間材表面に沿って走査する機械走査手段と、前記センサヘッド部が走査される側に、熱間材表面を冷却するための予備冷却手段とを備え、該予備冷却手段は、前記局部水浸ノズルから供給される水媒体で、熱間材表面において核沸騰膜状態になるように冷却能力を設定したことを特徴とする熱間材の超音波計測装置である。
【0014】
さらに本発明の請求項6に係る発明は、請求項5に記載の熱間材の超音波計測装置において、前記熱間材の表面温度を測定する表面温度測定手段と、前記表面温度測定手段により測定された熱間材の表面温度にもとづいて前記水媒体の水量と前記機械走査手段の走査速度を決定する決定手段と、備えたことを特徴とする熱間材の超音波計測装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、水媒体を高速かつ高圧な流れとして、熱間材表面を冷却し、水媒体の沸騰膜状態を核沸騰膜状態にして、かつ水媒体内で生じた沸騰膜および気泡を押し流すようにしているので、高温度被検査体を安定かつ高感度に計測可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態について、以下に説明を行う。水媒介を介して熱間材の超音波計測を行う場合、高温の被検査体(熱間材)により沸騰膜や気泡が生じる。図2は、この熱間材の超音波計測の様子を模式的に示す図である。熱間材4と圧電型超音波探触子5の間に局所水浸ノズル6により形成された局部水浸部(水柱部)1の内部に生じた沸騰膜2や気泡3は、圧電型超音波探触子5と熱間材4との超音波7の送受信を完全または部分的に妨げる為に、超音波計測が困難となる様子を示している。
【0017】
沸騰現象は加熱の度合いに伴い変化する。図1は、沸騰現象の変化を表す沸騰曲線を示す図である。水の飽和温度をTs、加熱面の温度(すなわち、熱間材の表面温度)Twとの差がΔTsatであり、qは表面熱流速であり、図1はそれぞれの対数をとりプロットしたものである。
【0018】
上記温度差ΔTsatが小さい自然対流域では、気泡も発生することはない。ΔTsatが次に大きい核沸騰領域では、加熱面上より気泡が発生し、加熱の増大につれ気泡の発生が活発となる領域である。さらに加熱度が増大されると遷移沸騰域を経て、蒸気が加熱面をおおい、蒸気膜を形成し、膜を通して熱は液体に伝わり加熱面上は乾いた状態となる膜沸騰域に至る。
【0019】
従来、水媒介を用いた超音波計測方法では、検査材を沸騰膜と気泡が生じない自然対流域以下の温度として探傷を可能としていた。その為、適用対象の温度は常温から約300℃程度までに限られていた。
【0020】
本発明では、水媒体の流速を高速(高圧)とすることで膜沸騰域で生じる沸騰膜を突き破ることで、熱間材表面温度を核沸騰膜が生じる温度以下まで冷却し、核沸騰状態で生じる気泡を押し流すことで超音波の送受信が可能とするものである。
【0021】
図4は、冷却状態の違いによる熱間材の表面温度と超音波のエコーレベルの関係を示す図である。局部水浸部の流速が異なる2例(Am/sec < Bm/sec)と、流速をBm/secとするとともに後述の予備冷却ノズルを付加した例について、熱間材の表面温度の上昇にともなって超音波のエコーレベルが変化する様子を模式的に示したものである。局部水浸部の流速をAm/secから速度を上げてBm/secとすることで、超音波のエコーレベルが向上することが分る。
【0022】
熱間材の温度がより高温度になると、局部水浸部分による冷却が追いつかず十分に膜沸騰状態から核沸騰状態まで冷却できず、沸騰膜や気泡を十分に除去できないことから超音波エコーレベルが低下する。熱間材の表面を冷却するための予備冷却手段を、圧電型超音波探触子の機械走査方向の直前に設置することで、冷却力が向上して、局部水浸部で圧電型超音波探触子で超音波の送受信時に核沸騰状態まで冷却することが可能になり、超音波エコーレベルが向上する。本発明では、熱間材表面の温度を核沸騰状態とするように、熱間材表面温度の冷却を適切に行うことを狙っている。
【0023】
図5は、走査速度の違いによる熱間材の表面温度と超音波のエコーレベルの関係を示す図である。機械走査の速度を遅くする(V1>V2>V3)ことにより、熱間体に当たる水量が増えて冷却能力が向上し、超音波エコーレベルが向上することが図5からわかる。また、局部水浸部の流速、予備冷却ノズルの流速も冷却能力に影響する。
【0024】
従って、冷却能力は局部水浸用ノズルの流速と走査速度、予備冷却の為の高圧ノズルの流速と走査速度により、熱間材を検査する際に、熱間材の表面温度を測定し、その結果から適切な冷却水量と走査速度を決定することで、最適な熱間材の超音波計測を実現するようにする。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を説明する。図3は、計測部分の構成例を示す図である。また図6は、本発明の一実施例である超音波非破壊検査装置の全体構成例を示す図である。
【0026】
先ず図3を用いて説明を行う。センサヘッド部は、熱間材(検査材)4に対して超音波7を送受信するための局部水浸ノズル6と予備冷却ノズル8で構成し、予備冷却ノズル8を走査方向に対して圧電型超音波探触子5の直前になるようにセンサヘッドと熱間材(検査材)とを機械走査をする。
【0027】
予備冷却ノズル8は、圧電型超音波探触子5の振動子径に相当する部分が冷却可能であり、冷却能力の高いラミナー水流による冷却方法が好ましい。このとき、熱間材の表面温度に対して、機械走査速度、局部水浸ノズルと予備冷却ノズルの水量が適切でなければ探傷はできない。
【0028】
あらかじめ、図6に示す計算機12に、熱間材4の表面温度に対する予備冷却ノズル8と局部水浸ノズル6の流速、および機械走査速度の関係を近似式、またはテーブルの形で持たせておく。例えば、予備冷却ノズルと局部水浸ノズルの流速パターンごとに、図7に示すような熱間材の表面温度と走査速度の関係を計算機に持たせておくようにするとよい。
【0029】
計算機12は、例えば放射温度計13により熱間材4の表面温度を測定し、測定結果とあらかじめ与えられた近似式またはテーブルから機械走査速度、予備冷却ノズル8と局部水浸ノズル6の流速を決定し、走査機構部14、局部水浸バルブ15および予備冷却バルブ16に制御指令を出すことにより、予備冷却ノズルと局部水浸ノズルの流速および機械走査速度を最適な値に制御する。
【0030】
超音波送信部9により圧電型超音波探触子5の振動子を励振させ、局部水浸部1にある接触媒質としての水を介して熱間材4に超音波信号7を送信する。超音波送信部9により圧電型用音波探触子5を駆動させる際の電気パルスは、一定周期信号またはチャープ信号などのバースト波といった任意の波形で良い。超音波送信部9は、電気パルスを毎秒数100〜数1000回程度発して圧電型用音波探触子5を駆動させる。
【0031】
熱間材4の表面または、内部から反射される超音波信号は、接触媒質である水を介して圧電型用音波探触子5で受信し、超音波受信部10によりフィルター処理、信号増幅されて超音波取得部11にデジタル情報に変換されて、計算機12に取り込まれる。超音波信号のデジタル変換、計算機への取り込みにはA/D変換機やデジタルオシロなどを用いる。
【0032】
計算機12に取り込まれた信号は、目的に応じて信号処理(例えば、同期加算処理や開口合成処理、デジタルフィルタ処理やパルス圧縮処理など)を施して、信号チャートや断層像(Bスキャン像)や正面像(Cスキャン像)として適宜出力を行う。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】沸騰現象の変化を表す沸騰曲線を示す図である。
【図2】水媒介を介する熱間材の超音波計測の様子を模式的に示す図である。
【図3】本発明に係るスラブ設計装置を用いた全体システムの装置構成例を示す図である。
【図4】冷却状態の違いによる熱間材の表面温度と超音波のエコーレベルの関係を示す図である。
【図5】走査速度の違いによる熱間材の表面温度と超音波のエコーレベルの関係を示す図である。
【図6】一実施例である超音波非破壊検査装置の全体構成例を示す図である。
【図7】表面温度と走査速度の関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 局部水浸部(水柱部)
2 沸騰膜
3 気泡
4 熱間材
5 圧電型超音波探触子
6 局所水浸ノズル
7 超音波
8 予備冷却ノズル
9 超音波送信部
10 超音波受信部
11 超音波取得部
12 計算機
13 放射温度計
14 走査機構部
15 局部水浸バルブ
16 予備冷却バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響結合材に水媒体を用いた熱間材の超音波計測方法であって、
前記水媒体の水流を、前記熱間材表面で核沸騰膜状態になり、かつ、前記水媒体内で生じた沸騰膜および気泡を押し流すように設定することを特徴とする熱間材の超音波計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱間材の超音波計測方法において、
計測時に前記熱間材表面で核沸騰膜状態になるように、前記熱間材表面の計測する部位を事前に冷却する
ことを特徴とする熱間材の超音波計測方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱間材の超音波計測方法において、
熱間材の表面温度にもとづいて、前記水媒体の水流を設定することを特徴とする熱間材の超音波計測方法。
【請求項4】
超音波探触子と局部水浸ノズルからなるセンサヘッド部を用いて熱間材を超音波計測する熱間材の超音波計測装置であって、
前記局部水浸ノズルから供給する水媒体の水流を、熱間材表面で核沸騰膜状態となり、かつ、前記水媒体内で生じた沸騰膜および気泡を押し流すように設定することを特徴とする超音波計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の熱間材の超音波計測装置において、
前記センサヘッド部を保持して、熱間材表面に沿って走査する機械走査手段と、
前記センサヘッド部が走査される側に、熱間材表面を冷却するための予備冷却手段とを備え、
該予備冷却手段は、前記局部水浸ノズルから供給される水媒体で、熱間材表面において核沸騰膜状態になるように冷却能力を設定したことを特徴とする
熱間材の超音波計測装置。
【請求項6】
請求項5に記載の熱間材の超音波計測装置において、
前記熱間材の表面温度を測定する表面温度測定手段と、
前記表面温度測定手段により測定された熱間材の表面温度にもとづいて前記水媒体の水量と前記機械走査手段の走査速度を決定する決定手段と、
備えたことを特徴とする熱間材の超音波計測装置。

【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−107978(P2007−107978A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298344(P2005−298344)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】