説明

熱電モジュール及びその製造方法並びに冷却装置

【課題】反転通電における信頼性でばらつきが大きく、十分ではないという問題がある。
【解決手段】支持基板の表面に設けられた配線導体の上に、メッキ層を有する熱電素子が半田により接合されてなる熱電モジュールであって、上記支持基板対して垂直な断面におけるメッキ層がなす断面曲線の最大高さRmaxが3〜30μmである素子が少なくとも一つあることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の発熱体の冷却あるいは熱電発電等に好適に使用され、特に通電のON、OFFあるいは通電を反転して使用した場合の長期信頼性に優れる熱電モジュール及びその製造方法並びにその熱電モジュールを用いた冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ペルチェ効果を利用した熱電素子は、熱電モジュールとしてレーザーダイオードの温度制御、恒温槽あるいは冷蔵庫における冷却に多用されている。
【0003】
また、近年では温度差から電気を取り出す熱電発電装置としても注目されて、この室温付近で使用される冷却あるいは発電用熱電モジュールには、熱電特性が優れるという観点からA型結晶(AはBi及び/又はSb、BはTe及び/又はSe)からなる熱電素子が一般的に用いられている。
【0004】
さらに、熱電素子はp型およびn型を対にして用いる必要があり、p型にはBiTeとSbTe(テルル化アンチモン)との固溶体が、n型にはBiTeとBiSe(セレン化ビスマス)との固溶体が特に優れた性能を示すことから、このA型結晶(AはBi及び/又はSb、BはTe及び/又はSe)が熱電モジュール用熱電材料として広く用いられている。
【0005】
これら熱電材料は、ゾーンメルト法あるいはブリッジマン法等の溶製法、一方向凝固などによって結晶粒子径の大きいインゴットあるいは単結晶やホットプレス等により作製された多結晶体として作製される。この熱電材料から、所望の熱電素子の厚み形状にスライスし、その後、半田接合時の密着性を高め、さらに半田が素子中に拡散することを防止するためのNiメッキ及び濡れ性を高めるためのAuメッキを施した後、ダイシングソーで任意の形状にダイシング加工し得ることができる。得られたP型及びN型それぞれの熱電素子を、P型とN型素子が直列に電気接続されるように銅電極が配線されたセラミックス等からなる支持基板上に配置され、半田で銅電極と接合し、熱電モジュールが作製される。
【0006】
熱電モジュールは、図1に示すように、支持基板1a、1bの表面に、それぞれ配線導体2a、2bが形成され、熱電素子3が配線導体2a、2bによって挟持されるとともに、電気的に直列に連結されるように構成されている。
【0007】
これらのN型熱電素子3a及びP型熱電素子3bは、交互に配列し、電気的に直列になるように配線導体2a、2bで接続され、さらに外部接続端子4に接続しており、外部から熱電素子3に直流電圧を印加することができ、その電流の向きに応じて吸熱あるいは発熱を生じせしめることが出来る。
【0008】
ここで、Niメッキの前処理としては、スライスしたウェハーの表面に微細な凹凸をつける必要が有り、サンドブラスト法やエッチングが行われていることが知られている(非特許文献1参照)。
【0009】
更に、メッキ密着強度を高める見地より、熱電素子3のメッキ前処理に電解質溶液中で電界エッチングを行う方法(特許文献1参照)、さらには、半田接合する熱電素子3の面の算術平均表面粗さを0.5〜2μmにすることで信頼性を高められることが提案されている(特許文献2参照)。
【非特許文献1】熱電変換工学−基礎と応用−(株式会社リアライズ社 p.332)
【特許文献1】特開平11−186618号公報
【特許文献2】特開2003−197981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、近年では、熱電モジュールに要求される使用環境は、例えば電流の極性を反転させる反転通電など、より過酷な環境での用途が広がっており、より高い信頼性が要求されている。
【0011】
このような反転通電条件下における信頼性を高める方法は未だ明確ではなく、前述した技術による改善だけでは、通常の使用条件では問題は発生しないものの、反転通電における信頼性でばらつきが大きく、十分ではないという問題がある。
【0012】
さらに、熱電モジュールを吸熱あるいは冷却するために搭載し、片面を放熱しながら片面を吸熱して利用する冷却装置については、熱電モジュールの信頼性がそのまま冷却装置の信頼性に影響するため、反転通電時の信頼性が劣る熱電モジュールを搭載した冷却装置は反転通電による使用における耐久性が悪いという問題がある。
【0013】
従って、本発明は、特に反転通電を含んだ長期信頼性に特に優れる熱電モジュール及び冷却装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記に鑑みて本発明は、支持基板の表面に設けられた配線導体の上に、メッキ層を有する熱電素子が半田により接合されてなる熱電モジュールであって、上記熱電素子の少なくとも一つは、上記支持基板対して垂直な断面におけるメッキ層がなす断面曲線の最大高さRmaxが3〜30μmであることを特徴とする。
【0015】
また、前記最大高さRmaxは、長さ200μm以上の断面曲線から算出したものであることを特徴とする。
【0016】
また、前記断面曲線の最大高さRmaxが3〜30μmである熱電素子数が、熱電モジュールの外周部に配設した熱電素子数の半数以上であることを特徴とする。
【0017】
また、前記熱電素子中のフッ素(F)、塩素(Cl)、硫黄(S)元素の含有率の総和が100ppm未満であることを特徴とする項1〜4のいずれかに記載の熱電モジュール。
【0018】
また、支持基板の表面に設けられた配線導体の上に、メッキ層を有する熱電素子が半田により接合されてなる熱電モジュールにおいて、上記熱電素子をBi、Sb、Te及びSeのうち少なくとも2種を含む熱電材料で形成し、その表面の最大高さRmaxを3〜30μmに加工する工程を含むことを特徴とする。
【0019】
また、前記熱電材料の表面を加工する方法が化学的エッチング法であり、その溶液にフッ酸(HF)、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0020】
さらに、請求項1〜5のいずれかに記載の熱電モジュールを冷却源として用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の熱電モジュールによれば、メッキと熱電素子の引っ張り及びせん断応力に対する接合強度を高め、界面を起点とする長期信頼性の低下、特に反転通電時に発生する熱電モジュールの破壊要因を低減し、結果、熱電モジュールの信頼性を大幅に高めることが可能となる。メッキ層と熱電素子界面における最大高さが反転通電における信頼性に強く影響する要因としては、明確ではないが以下のように考えられる。
【0022】
熱電素子とメッキ層界面には、通常のON、OFFの通電時においては、冷却面/放熱面に、それぞれ引っ張りあるいは圧縮応力が主に発生する。このとき、引っ張り応力は、熱電素子とメッキ層界面の引っ張り強度により、圧縮応力は、熱電素子の圧縮強度により支配される。
【0023】
一方、反転通電時には熱電素子/メッキ層界面には引っ張りと圧縮応力が交互に繰り返し印加され、その応力変化時に界面にはメッキ層と熱電素子による強いせん断応力が発生すると予想される。従って、熱電素子とメッキ層界面の引っ張り強度のみを高めるだけでは不充分で、熱電素子とメッキ層界面のせん断強度を高めることが反転通電による耐久性を高める上で重要であると考えられる。最大高さを3〜30μmに制御された熱電素子は、メッキ層のせん断方向に対する抵抗に優れ、その結果反転通電における信頼性が向上できる。このようなメッキのせん断強度が高い素子は、熱電モジュール中に少なくとも一つ含むだけでも熱電モジュールのせん断に対する抵抗を飛躍的に高めることが可能となり、結果、反転通電時の信頼性を高めることができる。
【0024】
さらにまた、接合強度を高めるための最大高さが断面から観察されることによって評価方法を簡略化できる。
【0025】
さらにまた、支持基板の端部に発生する高い応力に対して十分な熱電素子とメッキ面の強度を有し、信頼性を更に高めることができる。
【0026】
さらにまた、長期信頼性を低下させる元素を少なくし、長期信頼性を更に高めることができる。
【0027】
さらにまた、メッキ自身の強度及び剛性を高めることによって機械的な信頼性を高めることができる。
【0028】
また本発明の熱電モジュールの製造方法によれば、熱電材料の表面を最大高さ3〜30μmに加工する工程を含むことによって得られる熱電素子とメッキ層との接合強度が高められ、前述した長期信頼性が高い熱電モジュールが得られる。
【0029】
また、最大高さを3〜30μmに加工する方法として化学的エッチング法を用いてフッ酸(HF)、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)のうち少なくとも1種を含むことによって容易に最大高さの調整が可能になり効果的な表面加工ができる。
【0030】
また、本発明の冷却装置は、繰り返しのON、OFF及び電流を反転させた場合の熱電モジュールの耐久特性が優れるために長期信頼性に優れた装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1、図2および図3は本発明の熱電モジュールを示す斜視図である。
【0032】
本発明の熱電モジュールは、図1に示すように、支持基板1a、1bの表面に、それぞれ配線導体2a、2bが形成され、熱電素子3が配線導体2a、2bによって挟持されるとともに、電気的に直列に連結されるように構成されている。
【0033】
これらのN型熱電素子3a及びP型熱電素子3bは、交互に配列し、電気的に直列になるように配線導体2a、2bで接続され、さらに外部接続端子4に接続しており、外部から熱電素子3に直流電圧を印加することができ、その電流の向きに応じて吸熱あるいは発熱を生じせしめることが出来る。
【0034】
上記の配線導体2a,2bは、大電流に耐え得るように、低抵抗な電極が用いられ、配線導体2a,2bにメッキ層6を有する熱電素子3が半田5で接合されている。
【0035】
さらに、熱電モジュールの断面図の外周部を7に示す。
【0036】
本発明の熱電モジュールによれば、メッキ層6と熱電素子3の界面における断面から観察される最大高さRmaxが、3〜30μmの範囲である素子を少なくとも一つ含むことが特に重要である。
【0037】
このような範囲にすることで反転通電時の信頼性を高められることができる理由は、まず第一に最大高さRmaxを3〜30μmにすることによって、熱電素子3とメッキ界面における密着強度、特にせん断応力に対する抵抗が飛躍的に高まり、結果、反転通電時における大きな繰り返しの変形に対して十分な抵抗を有することが考えられる。
【0038】
また、本発明によれば、最大高さRmaxの値は、メッキ層6に対して垂直な断面の長さ200μm以上のメッキ層6と熱電素子3界面の曲線より算出されることが望ましい。メッキ層6と熱電素子3界面の曲線を観察して算出される最大高さは、熱電素子3それぞれのメッキ密着強度に強く影響するために、メッキ層6と熱電素子3界面の曲線を観察する方法が望ましい。
【0039】
断面の長さは200μm以上の長さからにおいて算出される値で十分であるが、好ましくは200μm、さらに望ましくは300μmが精度の高い値を算出する上で好ましい。
【0040】
ここで断面の長さ200μmは、連続の断面の長さが測定を簡素化する上で好ましいが、熱電素子3の外周部における断面であれば、測定箇所は複数であっても合計で200μm以上の範囲であれば測定は可能である。
【0041】
また、本発明によれば、断面の観察は、高さ測定器等の特殊な装置を利用しない点からも好ましい。
【0042】
また、本発明によれば、最大高さRmaxが3〜30μmの熱電素子3を熱電モジュール中に少なくとも一つ含むことによって、熱電モジュール自身の変形に対する抵抗を高められると考えられる。最大高さRmaxは、3μmよりも小さいと、強度を高める上で十分ではなく、30μmよりも大きくなるとメッキ層6の欠落、ピンホール等が多発し望ましくない。
【0043】
最大高さRmaxは3〜20μmがより好ましく、特には5〜15μmが反転通電時における信頼性をより安定させる上で良好である。
【0044】
また、本発明によれば、最大高さRmaxが3〜30μmの範囲にある熱電素子3は、熱電モジュール中に少なくとも一つあれば良いが、好ましくは熱電モジュールの外周部における熱電素子3の半数以上を含んでいることが好ましく、より好ましくは、外周素子の全数より好ましくは熱電モジュール中の全ての素子を含んでいることが望ましい。
【0045】
また、本発明によれば、前記熱電素子3中のフッ素(F)、塩素(Cl)、硫黄(S)元素の含有率の総和が100ppm未満であることが長期信頼性を保つ上で重要である。これらの元素を100ppm以上含有する素子は、80℃以上の高温下において素子中にF、Cl、S元素が拡散し、熱電特性を著しく劣化させるために好ましくない。これら3種類の元素の含有率の総和は、望ましくは50ppm以下、より好ましくは25ppm以下が更に高温に置ける信頼性を安定させる上で好ましい。
【0046】
また、本発明の熱電モジュールによれば、前記メッキ層6は硼素系および/または燐系のNiメッキであることが好ましく、これらのメッキ層6は、メッキ自身の強度が高く、ピンホールを作ることなく均一に熱電材料表面にメッキできる。
【0047】
次に、本発明の熱電モジュールの製造方法について説明する。
【0048】
まず用いる原料粉末は、溶製法等によりインゴットを作製し、粒子径の大きい市販粉末を分級しても良いが、例えば比較的安価で粒子径の不揃いな市販粉末を所望の組成に調合し、有機溶媒を加えて粉砕することで、本発明で使用する粉末を容易に得ることができる。
【0049】
上記の原料粉末を焼成する前に予め水素気流中で熱処理することが好ましい。この熱処理は、水素気流中で加熱するものであり、原料粉末表面の不純物酸素が水素ガスによって還元除去され、比抵抗の高い酸化物が少なくなるため、焼成によって得られた焼結体の比抵抗を低下することができる。
【0050】
水素中熱処理を行った原料粉末を焼成型に充填して焼成するが、焼成時に加圧することが緻密体を得るために好ましい。例えば、パルス通電焼結法(PECS)、ホットプレス法(HP)、ガス圧焼結法(GPS)、熱間等方加圧焼結法(HIP)等を用いることが出来る。
【0051】
焼成によって得られた焼結体は、メッキ層6を付与するために、ウェハーを作製する。作製方法は、ダイシングソーなどで切断加工し、更にラッピングやポリッシングによって表面を研磨する。
【0052】
このときの表面状態は特には限定しないが、研磨によって不純物層などが生成されないよう、また、表面にクラックになるような大きな傷が入らないような工夫が必要である。
【0053】
本発明の熱電モジュールの作製方法によれば、熱電材料、またはそのウェハーの表面に最大高さ3〜30μmに加工する工程を含むことを特徴としているが、この工程は研磨工程でも構わない。このような範囲の熱電材料を加工する工程を含むことでメッキ層6と熱電材料の界面が最大高さ3〜30μmである熱電素子3を含む熱電モジュールが得られやすくなる。
【0054】
次に、ウェハーをメッキ処理する。
【0055】
メッキ方法は、電界メッキでも無電解メッキでも良いが、メッキ厚みを薄く均一に密着させる観点で無電解メッキ法が好ましい。無電解メッキ方法は、公知のプロセスにて処理すればよいが、本発明によれば、熱電材料、またはそのウェハーの表面に最大高さ3〜30μmに加工する工程を含むことが重要である。このような表面に処理するために、メッキ前に化学的エッチング法にて行い、そのエッチング液にフッ酸(HF)、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)のうち少なくとも1種を含む溶液を用いることが望ましい。これら3種の酸は単独で使用しても良いが、複数の工程に分けて使用することが高さを制御する上で好ましい。
【0056】
このような酸性のエッチング液は、Bi、Sb、Te系の材料を選択的にエッチングし、表面状態を最大高さ3〜30μmに制御しやすい。選択するエッチング液の種類、組成は、熱電材料の密度、組成、結晶方向などにより異なるが、塩酸、または硫酸の効果が高く、特に硫酸を用いることが望ましい。通常、これらのエッチング工程は2〜3工程に分けて行い、エッチング後は、付着したスマットあるいは酸化物層を超音波洗浄などで除去する。
【0057】
本発明によれば、エッチング後のスマット除去後の熱電材料の最大高さが3〜30μmであることが好ましい。このときの最大高さの算出方法は簡便な歪ゲージ、光学あるいはレーザーを備えた一般的な高さ測定器にて確認する方法でもよい。
【0058】
エッチング処理後は、公知であるPd触媒付与工程を施し、Niを無電解メッキする。
【0059】
本発明によれば、このときに硼素系および/または燐系のNiメッキ層6を作製するために、これらのメッキ層6を作製できるメッキ液を使用する。
【0060】
本発明によれば、最大高さが3〜30μmに制御された熱電材料を、まず最初に硼素系のNiメッキを付着させ、その後、燐系のNiメッキを付与する工程がメッキ面と熱電材料間の密着強度を改善し安定化させる上で好ましい。Niメッキの厚みとしては、特に範囲を設けなくても良いが、本発明によれば、硼素系のNiメッキ厚みが0.1μmから3μm、燐系のNiメッキ厚みが3〜5μmとし、Niの総厚みとして3〜8μmが最適である。最後に、Niメッキ表面に半田接合時の濡れ性を改善するためにAuメッキを付与することが望ましい。Auメッキの厚みは0.05μm以上あれば十分であるが、0.05μm未満は、濡れ性が向上しない場合があり、また1μm以上はNiメッキ面との接合強度を低下させる恐れがあるため好ましくない。
【0061】
次にメッキされたウェハーをダイシングソーで切断加工する。この際、欠陥などを発生させる粒子脱粒を抑えるために、ダイヤモンドソーの刃を薄いものにすること、切断速度を遅くすること等の手法が欠けを少なくし、欠けの深さを小さくするために有効である。
【0062】
本発明によれば、このように作製した熱電素子3は、最終的にメッキ層6と垂直な面の断面をSEMあるいは光学式のマイクロスコープ等で500倍から1000倍の倍率で観察し、メッキ層6との界面の最大高さを確認する。最大高さの算出方法は、例えば、SEM写真を用いて、メッキ層6と熱電材料の界面における凹凸から求められる。
【0063】
本発明によれば、長さ200μm以上の範囲において最大高さを確認することが反転通電時の信頼性が高い熱電素子3を得るうえで好ましい。200μm未満の範囲で得られる値は、測定数が少ないため精度が悪く好ましくない。
【0064】
本発明によれば、熱電素子3の最大高さは、任意の外周部200μmより得られる値を用いることができる。また、同一ウェハーから得られる200個の素子より観察される最大高さの平均の値は、そのウェハーの最大高さの値として用いることができる。
【0065】
次にCu電極が配線された支持基板1を準備する。基板材質としては、耐振動及び衝撃性に優れ、配線導体2の密着強度が大きく、また、放熱面や冷却面としての熱抵抗が小さいものが好ましい。具体的には、アルミナ、ムライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素の少なくとも1種からなる焼結体を例示できる。特にコストの点からアルミナ焼結体を、熱伝導率が高く、熱抵抗が小さい点で窒化アルミニウム焼結体を、強度及び熱伝導率の点で炭化珪素焼結体を、衝撃性や強度の点で窒化珪素焼結体を好適に使用できる。
【0066】
支持基板1の曲げ強度は、200MPa以上、特に250MPa以上、更には300MPa以上にすることが、配線導体2の形成や半田5の層の形成に伴う応力集中に対しても支持基板1の破損を防止する効果を高め、より高い信頼性を得る点において好ましい。Cu電極はメッキによって配線される。このとき、支持基板1のメタライズ法としては公知の方法で作製できるが、電極の密着強度を高める上でMo−Mnを印刷し焼成した面にNiをメッキし、Cuをメッキして得られるMo−Mn法が望ましい。Cu電極の厚みは30μm以上になるようにメッキの時間を制御する。
【0067】
次に熱電素子3と支持基板1を半田接合する。この接合方法も公知の方法で接合できるが、本発明によれば、Pbを実質的に含まない半田ペースト、例えばAu−SnあるいはSn−Sb半田ペーストを用いることが信頼性を高める上で好ましい。半田5はメッキした熱電材料表面に半田メッキしても良いが、コスト、量産性の観点より支持基板1上に半田印刷する方法が望ましい。
【0068】
さらに、本発明の製造方法によれば、熱電素子3を高精度な冶具を用いて整列配置したのち、ゴムパッドなどで荷重をかけながらリフロー炉あるいはホットプレート上で加熱して接合する方法を用いて接合させる。
【0069】
次に熱電素子3が上下の支持基板1で接合されたら、外部電極に電流を導入するリード線あるいは電極を接合して熱電モジュールが得られる。
【0070】
実際に熱電モジュールを冷却に用いる場合には、熱電素子3の支持基板1と反対側の面に冷却用基板を設ける必要がある。この冷却用基板は、熱電素子3の上に電極を介して接合され、冷却基板の上に発熱体や冷却するデバイス等を載置して用いられる。
【0071】
本発明の熱電モジュールは、信頼性が高くばらつきが小さい。ここでの信頼性とは、例えば、放熱面及び冷却面をヒートシンクに接着させるなどして60度に制御した状態で、電流を印加して温度差が最大になる最大電流を7.5秒おきに反転させながら印加する、反転通電試験において、1万回のサイクル試験後に、熱電モジュールの抵抗変化率が8%以下、特に6%以下、更には5%以下を示す。このように、1万回の反転サイクル試験後に抵抗の変化が小さいと、レーザーダイオードの冷却用途などの冷却装置の冷却源として長時間好適に使用することができる。
【0072】
さらに、本発明の冷却装置は、本発明により得られる熱電モジュールを兼ね備えた冷却装置あるいは発電装置を指し、例えば、ペルチェタイプの冷蔵庫、冷温庫、自動車用シートクーラー、半導体ウェハー冷却板などを冷却装置をさす。これらの本発明の冷却装置は、特にON、OFFを繰り返し使用する条件において、信頼性が特に優れ、長期間安定して使用できる。
【実施例】
【0073】
以下に本発明の具体的な製造方法を示すが、本発明の製造方法は以下の方法に限定されない。
【0074】
まず、支持基板1として長さ8.2mm、幅6.0mm、厚み0.375mmの熱電素子3が46個(23対)配置される配線導体2がCuからなるアルミナ基板を複数準備した。
【0075】
また、熱電素子3として、N型にはBiTe2.85Se0.15組成の熱電素子3aを、P型にはBi0.4Sb1.6Te組成のホットプレスで作製された焼結型多結晶熱電インゴットを準備した。インゴットは厚み1.0mmにスライス後、ロータリー研磨機で0.9±0.01mmに研磨し、メッキ前ウェハーを得た。ウェハーは、アルカリ性溶液中で脱脂し、表1に示すHF、HCl、HSOなどの酸性の溶液を含むエッチング液を用いて温度、時間を変化させて化学的エッチングを施した後、純水中で超音波洗浄にてスマット等の酸化物層を除去し、表面の凹凸が変化したウェハーを得た。ウェハーは表面粗さ計にて10mmの長さにおける最大高さ(Rmax)を測定し、その後、Pd触媒を付与し、無電解硼素系及び燐系Niメッキを成膜した。
【0076】
その後、無電解Auメッキを施しメッキウェハーを得た。得られたウェハーは幅0.65mmになるようにダイシングソーで切断し、縦0.65mm、横0.65mm、高さ0.90mmの寸法のN型及びP型熱電素子3bを得た。
【0077】
次に各メッキ条件で得られたダイシングした素子の断面を、各200pcs蒸着を行わずに観察できる低加速電圧型走査型電子顕微鏡(SEM)にて熱電素子3とメッキ界面の写真を倍率500倍で撮影し、その写真より熱電素子3の最大高さ(Rmax)を求め、その平均よりウェハーごとの最大高さを算出した。得られた値はいずれもウェハーの表面粗さ計で測定した値と±5%のばらつきで同一であった。
【0078】
次にアルミナ基配線基板上にスクリーン印刷法にて半田印刷した。使用した半田5は、80質量%Au−20質量%Sn(溶融開始温度283℃)である。
【0079】
次に整列冶具を使用して異なるメッキ処理を施し最大高さが異なるN型熱電素子3aとP型3bを各23個、総計46個を表1に示す数量にて、印刷した基板上に配置し、加熱して半田5と熱電素子3を仮止めした後、もう片方の支持基板1を加熱後装着し、上の支持基板1をばね式の荷重を加えながら、窒素雰囲気中のホットプレート上で半田接合した。接合温度は溶融開始温度より5〜60℃高い温度とし、接合後、リード線を半田ごてによって接合し、フラックス洗浄を施し、熱電モジュールを得た。
【0080】
次に、放熱面温度を27℃にヒートシンクにて固定した状態でリード線に通電し、冷却面温度が最も低くなる温度において放熱面と冷却面の最大温度差(ΔTmax)を求めた。
【0081】
その後、窒素雰囲気中で放熱面と冷却面に窒素ガスを吹き付けた状態で電流を7.5秒おきに反転させる反転通電処理を行った。
【0082】
反転通電は、冷却面温度を25℃、放熱面温度が75℃となるように電流値と吹きつける窒素ガスの流量を調整して行った。全てのモジュールは、反転通電で5000サイクルおきにΔTmaxを測定し、20個中、1個でもΔTmaxが5℃以上の低下が見られたサイクル数を破壊サイクル数とした。
【0083】
さらに一部のモジュールは、10個を一口として直列に接続し、放熱面をアルミニウム製のフィン上に熱伝導グリースにて接着し、上面にアルミニウムの板を取り付け外周をシリコン樹脂でシールし、冷却装置を作製した。冷却装置の耐久性は、最大電流を1.5分ONして1.5分OFFするサイクルを繰り返し、モジュールが破壊し、断線したときのサイクル数を破壊サイクル数とした。
【0084】
以上の結果を表1に示す。
【表1】

【0085】
表1において、熱電素子3の総数46個をそれぞれを異なるエッチング液で処理し、最大高さRmaxの異なる熱電素子3を製作して、これらのさまざまな組み合わせのモジュールとした。
【0086】
、最大高さRmaxが3〜30μmの熱電素子3が少なくともひとつある本発明の実施例である試料No.2〜18については、反転通電の破壊サイクルは100000サイクル以上、冷却装置としての破壊サイクルは250000サイクル以上であったのに対して、最大高さRmaxが3〜30μmの熱電素子3が全くない比較例である試料No.1,19については、反転通電の破壊サイクルは70000サイクル以下、冷却装置としての破壊サイクルは125000サイクルであった。
【0087】
特に、試料No2〜5を比較すると、モジュールの外周部において、最大高さRmaxが3〜30μmの熱電素子3の半数より多くなると急激に破壊サイクル数が延びていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】通常の熱電モジュールを示す斜視図である。
【図2】本発明の熱電モジュールを示す断面図である。
【図3】本発明の熱電モジュールの外周部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1 支持基板
2 配線導体
3 熱電素子
3a N型熱電素子
3b P型熱電素子
4 外部接続端子
5 半田
6 メッキ層
7 外周部
Rmax 最大高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板の表面に設けられた配線導体の上に、メッキ層を有する熱電素子が半田により接合されてなる熱電モジュールであって、上記熱電素子の少なくとも一つは、上記支持基板に対して垂直な断面におけるメッキ層がなす断面曲線の最大高さRmaxが3〜30μmであることを特徴とする熱電モジュール。
【請求項2】
前記最大高さRmaxは、長さ200μm以上の断面曲線から算出したものであることを特徴とする請求項1記載の熱電モジュール。
【請求項3】
前記断面曲線の最大高さRmaxが3〜30μmである熱電素子数が、熱電モジュールの外周部に配設した熱電素子数の半数以上であることを特徴とする請求項1記載の熱電モジュール。
【請求項4】
前記熱電素子中のフッ素(F)、塩素(Cl)、硫黄(S)元素の含有率の総和が100ppm未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱電モジュール。
【請求項5】
前記メッキ層が硼素系および/または燐系のNiメッキであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱電モジュール。
【請求項6】
支持基板の表面に設けられた配線導体の上に、メッキ層を有する熱電素子が半田により接合されてなる熱電モジュールにおいて、上記熱電素子をBi、Sb、Te及びSeのうち少なくとも2種を含む熱電材料で形成し、その表面の最大高さRmaxを3〜30μmに加工する工程を含むことを特徴とする熱電モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記熱電材料の表面を加工する方法が化学的エッチング法であり、その溶液にフッ酸(HF)、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項6記載の熱電モジュールの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱電モジュールを冷却源として用いたことを特徴とする冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−41243(P2006−41243A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220066(P2004−220066)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】