説明

熱電変換モジュールおよびその製造方法

【課題】端子部に接続線を容易にはんだ付け可能なFeSi2系の熱電変換モジュール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】焼結型3の内部に、FeSi2系のp型及びn型からなる各熱電変換半導体原料粉末22’、23’と、これらの少なくとも一端部に所定の金属からなる板又は粉末21’及び又は24’を投入し、これらを放電プラズマ焼結法により一段階で焼結・接合する。これにより、FeSi2系の熱電変換半導体に対して熱的にも電気的にも一体化した金属電極を形成でき、この電極部に銅等からなる接続線を容易にはんだ付けできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電変換モジュールおよびその製造方法に関し、更に詳しくは、銅線等からなる接続線を容易にはんだ付け可能な鉄シリサイド(FeSi2)系の熱電変換モジュールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱電変換モジュールを回路に実装する際には該モジュール(素子)にリード線を接続する必要があるが、熱電変換モジュールでは素子部の温度変化や温度差に応じで熱起電力が発生するため、リード線の接続は熱的にも電気的にも熱電変換半導体素子と一体化させることが望ましい。
【0003】
しかるに、鉄シリサイド(FeSi2)系の熱電変換半導体は鉄とシリコンの粉末を焼結したものからなるため、耐熱性が高く、通常160°C〜180°Cで溶けるようなはんだがうまく載らない。しかも、はんだ付け作業の限界温度(380°C程度)に近づくと、酸化や侵食等によりこて先自体の寿命を短くし、はんだに含まれるフラックスが炭化したり、フラックスやはんだの飛散にもつながる。また、FeSi2系熱電変換半導体は硬くて、脆いため、ネジ穴を開けて接続線を固定することもできない。
【0004】
このため、従来は、銅板などの導電材を銀ペーストや銀の両面テープ等からなる導電性接着材で貼り付け、この導電材(電極)に接続線をはんだ付けすることが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−324500号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「FeSi2系熱電変換モジュールのゼーベツク係数の測定」田中勝之他、The 28th Japan Symposium on Thermophysical Properties. Oct.24−26. 2007, Sapporo.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記導電材を導電性接着材で接着する方法では、導電性接着材のインピーダンスやその経年劣化がFeSi2系熱電変換モジュールの性能を劣化させる問題があった。
【0008】
なお、接続線をアーク溶接やレーザ溶接する方法も考えられるが、熱電変換半導体の耐熱温度が高いため、溶接箇所の温度が過度に上昇して熱電変換半導体特性を有する組成(β相)が破壊されて熱電変換半導体としての特性(ゼーベツク係数)が小さくなり、有効な接続線接続方法法ではないことが確認された。
【0009】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、端子部に接続線を容易にはんだ付け可能なFeSi2系の熱電変換モジュール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の第1の態様によ熱電変換モジュールの製造方法は、焼結型内に、FeSi2系のp型及びn型からなる各熱電変換半導体原料粉末と、これらの少なくとも一端部に所定の金属からなる板又は粉末を投入し、これらを放電プラズマ焼結法により一段階で焼結・接合するものである。
【0011】
本発明では、FeSi2系のp型及びn型からなる各熱電変換半導体原料粉末の少なくとも一端部に所定の金属を介在させた状態で放電プラズマ焼結法により焼結・接合することにより、FeSi2系の熱電変換半導体に対して熱的にも電気的にも一体化した金属電極を形成でき、この電極部に銅等からなる接続線を容易にはんだ付けできる。また、本発明ではp型及びn型の原料粉末と共に所定の金属を一段階で焼結・接合するため熱電変換モジュールの製造コストを大幅に低減できる。
【0012】
本発明の第2の態様では、FeSi2系原料粉末に4.1質量%のクロム(Cr)を混入してp型熱電変換半導体原料粉末とする。
【0013】
本発明の第3の態様では、FeSi2系原料粉末に2.4質量%のコバルト(Co)を混入してn型熱電変換半導体原料粉末とする。
【0014】
本発明の第4の態様では、前記所定の金属は銀(Ag)又は銀系合金からなる。
【0015】
本発明によれば、銀(Ag)は電気抵抗が小さく、かつ熱伝導率が高いため、熱と電気エネルギーを伝える電極用金属として最適であると共に、銀の融点(略962°C)は熱電変換モジュール(即ち、FeSi2系熱電半導体原料粉末)の焼結に最適な温度よりも幾分高いため、熱電変換半導体部に電極部を適正に焼結・接合できる。
【0016】
本発明の第5の態様では、前記所定の金属はニッケル(ni)又はチタン(Ti)又はこれらを主とする合金からなる。
【0017】
ニッケル(ni)、チタン(Ti)、あるいはニッケル系又はチタン系の合金を電極用金属にした場合でも、熱電変換半導体部に電極部を適正に焼結・接合できることが実験により確かめられた。
【0018】
本発明の第6の態様では、前記焼結・接合を、圧力35MPa乃至70MPa、温度923K(650°C)乃至1073K(800°C)、時間300sec乃至3.6ksecで行う。
【0019】
この焼結条件は、基本的には、p型及びn型熱電変換半導体の各焼結体について高いゼーベック係数を示す結晶構造(即ち、β相単層)が得られる条件に左右されるものであるが、本発明では、更に電極用金属についても機械的かつ電気的に適正な接合特性が得られる範囲内で焼結条件が選択されている。
【0020】
本発明の第7の態様による熱電変換モジュールは、焼結型内に、FeSi2系のp型及びn型からなる各熱電変換半導体原料粉末と、これらの少なくとも一端部に所定の金属からなる板又は粉末を投入し、これらを放電プラズマ焼結法により一段階で焼結・接合したものである。これにより、高いゼーベック係数を有すると共にリード線のはんだ付けが容易な熱電変換モジュールをローコストで提供できる。
【0021】
本発明の第8の態様では、前記所定の金属は銀(Ag)、ニッケル(ni)、チタン(Ti)又はこれらの何れか一つを主とする合金からなる。
【0022】
本発明の第9の態様による熱電変換モジュールは、焼結型内に、FeSi2系のp型及びn型からなる各熱電変換半導体原料粉末と、これらの少なくとも一端部にp型及びn型からなる各熱電変換半導体原料粉末と所定の金属粉末の混合粉末を投入し、次に所定の金属からなる粉末を投入し、これらを放電プラズマ焼結法により一段階で焼結・結合したものである。これにより、熱電変換半導体と電極との接合強度が更に強固な熱電変換モジュールを提供できる。
【0023】
本発明の第10の態様では、前記所定の金属は銀(Ag)、ニッケル(ni)、チタン(Ti)又はこれらの何れか一つを主とする合金からなる。
【発明の効果】
【0024】
以上述べた如く本発明によれば、熱電変換モジュールに接続線を直接はんだ付け可能となるため、この熱電変換モジュールを使用した装置の製造設備費用、製造コストの面からも極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】放電プラズマ焼結装置の概略構成図である。
【図2】実施の形態による熱電変換モジュールの製法を説明する図である。
【図3】実施例1の熱電変換モジュールを説明する図である。
【図4】実施例1の熱電変換モジュールの動作を説明する図である。
【図5】実施例1の熱電変換モジュールの熱起電力測定結果を示す図である。
【図6】実施例2の熱電変換モジュールを説明する図である。
【図7】実施例3の熱電変換モジュールを説明する図である。
【図8】実施例4の熱電変換モジュールの製法を説明する図である。
【図9】実施例4の熱電変換モジュールの斜視図である。
【図10】実施例5の熱電変換モジュールの製法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に従って本発明による実施の形態を詳細に説明する。なお、本明細書を通して同一又は相当部分には同一の参照番号を付する。図1は本実施の形態で使用した放電プラズマ焼結装置の概略構成図である。この放電プラズマ焼結装置1は、内部を略真空状態に減圧可能な水冷式の真空チャンバ2と、この真空チャンバ2の略中央部に収容される円環状グラファイト製の焼結型3と、この焼結型3の貫通孔内に投入される各種原料粉末の積層体4と、この積層体4に加圧するための上下一対の円柱状グラファイトからなるパンチ(押圧子)5a、5bと、これらのパンチ5a、5bに電流を流すための上下一対のパンチ電極6a、6bとを備える。
【0027】
また、この真空チャンバ2の外部には、本実施の形態による熱電変換モジュールの焼結制御を行う制御部9と、この制御部9の制御下でパンチ電極6a、6bに電流を流す特殊焼結電源7と、同じく制御部9の制御下でパンチ電極6a、6bに圧力を加える加圧機構部8と、真空チャンバ2内の気圧や、熱電対3aで検出した焼結温度等を制御部9にフィードバックする計測部10とを備える。
【0028】
次に、このような放電プラズマ焼結装置1を使用した実施の形態による熱電変換モジュールの製造方法を詳細に説明する。図2は実施の形態による熱電変換モジュールの製法を説明する図で、図1の焼結型3に関する部分の拡大図を示している。予め、例えば平均粒径略8μmのFeSi2系原料粉末に例えば4.1質量%のクロム(Cr)を混入してp型熱電変換半導体原料粉末を作成し、またFeSi2系原料粉末に例えば2.4質量%のコバルト(Co)を混入してn型熱電変換半導体原料粉末を作成する。
【0029】
焼結型3の下部にパンチ5bを挿入し、好ましくは、挿入図(a)に示す如く、その上に円盤状のカーボンペーパC1を敷く。更に焼結型3の内周面にカーボンペーパC2を筒状に配置し、その中に原料粉末を順に層状に投入する。例えば銀(Ag)からなる電極用金属粉末24’、上記作成したn型熱電変換半導体原料粉末23’、p型熱電変換半導体原料粉末22’、銀(Ag)からなる電極用金属粉末21’の順序で投入し、その上にカーボンペーパC6を載せる。そして、その上からパンチ5aを挿入し、こうして焼結型3のセットを作成する。
【0030】
この焼結型3のセットを放電プラズマ焼結装置1におけるパンチ電極6a、6bの間にセットし、真空チャンバ2内の雰囲気圧力を略真空(例えば3Pa以下)に下げる。そして、上下パンチ電極6a、6bに圧力を加えつつ該両パンチ電極6a、6bの間に特殊焼結電流を流し、グラファイト(黒鉛)3、5a、5bを発熱体とする放電プラズマ焼結法により、以下の焼結条件下で各原料粉末を一段階で焼結・接合する。
【0031】
好ましくは、加圧力は35MPa〜70MPaの範囲内とする。焼結・接合の際には、各原料粉末に大きな加圧力を加えることで物質が移動し易くなると共に、焼結による収縮初期に粉末粒子の再配列が促進され、急速に緻密化させることができる。加圧力がこの範囲より低いと焼結体が低密度になり、機械的特性が低く、またこの範囲より高いと焼結体が高密度になり、脆くなることが確認された。
【0032】
また好ましくは、焼結温度は923K(650°C)〜1073K(800°C)の範囲内とする。焼結温度がこの範囲より低くても、あるいは高くても熱電変換半導体の熱起電力(ゼーベック係数)が低下する結果となった。
【0033】
また好ましくは、焼結時間は300sec〜3.6ksecの範囲内とする。焼結時間がこの範囲よりも短いと焼結体が低密度になり、機械的特性が低く、またこの範囲よりも長いと高密度で脆くなることが確かめられた。
【0034】
焼結後は、真空チャンバ2内を例えば523K(250°C)程度まで冷却すると共に、内部を常圧(大気圧)に戻し、こうして得られた円柱状の焼結体を外部に取り出す。これにより、熱電変換モジュールの両端面部には銀(Ag)からなる電極層が一体的に焼結・接合され、この電極に対して銅等からなる接続線を容易にはんだ付け可能となる。
【0035】
なお、上記の焼結条件については、基本的には、p型及びn型の各熱電半導体原料粉末の焼結体について有効な熱電変換特性(ゼーベック係数)を示すβ相単相の結晶構造が得られる条件に左右されるものであるが、本実施の形態では、更に、このようなFeSi2系熱電半導体に対して銀(Ag)等の電極用金属が適正に焼結・接合される範囲を焼結条件としている。例えば、Agの融点は1235K(略962°C)であり、本実施の形態による焼結・接合はこれよりも低いプロセス温度で適正に行われている。
【0036】
また、この熱電変換モジュールに対する接続線の接続は、上記のはんだ付け以外にも、電気溶接、短時間でのレーザ照射によるレーザ溶接など、熱電変換半導体の組成(β相)に影響を与えない温度であれば、可能である。
【0037】
また、この熱電変換モジュールに使用する電極用金属については、上記銀(Ag)の他にも、ニッケル(ni)、チタン(Ti)やこれらを主とする合金でも良好に焼結・接合できることが確認された。この場合に、ニッケル金属の融点は1453°C、チタン金属の融点は1680°Cと極めて高く、限界温度(380°C)前後でのはんだ付け作業が可能である。
【0038】
なお、電極用金属に銅(Cu)板や銅粉末を使用した場合には、焼結体の電極部に割れや欠け等が発生し、良好な焼結・接合が得られなかった。
【0039】
次に、本発明による熱電変換モジュールの実施例を説明する。
【0040】
<実施例1>
図3は実施例1の熱電変換モジュール20Aを説明する図で、この熱電変換モジュールを温度変化を検出するための熱電変換温度センサとして使用する場合を示している。この熱電変換モジュール20Aは例えば以下の方法で製造した。即ち、平均粒径略8μmのFeSi2原料粉末に4.1質量%のクロム(Cr)を混入してp型熱電変換半導体原料粉末を作成し、また2.4質量%のコバルト(Co)を混入してn型熱電変換半導体原料粉末を作成する。更に、焼結型3の底から、銀(Ag)粉末、n型熱電変換半導体原料粉末、p型熱電変換半導体原料粉末、銀(Ag)粉末を順に層状に投入し、これらを加圧力35MPa、焼結温度1023K(750°C)、焼結時間600secの焼結条件下で、放電プラズマ焼結法により一段階で焼結・接合した。なお、直径20mm、p型層、n型層の厚み約7mmの材料は其々10g、直径20mmで、Ag金属粉末の材料は0.2g、このとき厚み約1mmで作成した。Agは直径20mmで焼結する場合、0.2g〜2gの範囲とする。Ag材料は高価なため、少ない量が好ましいが、実験により直径20mm全般に均一に焼結できる量が0.2gである。尚、焼結するAg層部の型を変えることによりAg層の直径を小さくすればAg量が少なくできる。又、Agの融点は962と焼結温度に近いため、多量の場合にはAgがn型層、p型層に入りこんでしまい、実験により効果的なAg層ができるのは直径20mmの場合2gであった。
【0041】
図3(A)に実施例1の熱電変換モジュール20Aの正面図、図3(B)にその斜視図を示す。この熱電変換モジュール20Aでは、銀(Ag)電極21と、p型熱電変換半導体22と、n型熱電変換半導体23と、銀(Ag)電極24とが一体的に焼結・接合されている。一例の寸法を言うと、円柱の直径は20mm、p型層22及びn型層23の厚みは共に約7mm、各Ag電極21、24の厚みは約1mmである。この熱電変換モジュール20Aでは上下の電極21、24が共に銀(Ag)からなるため、銅(Cu)等からなる接続線32a、32bを容易にはんだ付け可能となっている。ここで、31a、31bははんだである。
【0042】
次に図4を参照して実施例1の熱電変換モジュール20Aを温度変化を検出する熱電変換温度センサとして使用した場合の動作を説明する。図4は熱電変換モジュール20Aを横にした場合の正面図を示しており、この熱電変換モジュール20Aの全体を下から加熱した状態を示している。一般に、物質中の帯電したキャリア(金属中の電子、半導体中の電子、正孔等)は、導体や半導体の一端が異なる温度にされたときその熱勾配に従って拡散することが知られている。即ち、熱い端にいる熱いキャリア(ホール、電子)は熱いキャリアの密度が薄い冷たい端のほうへ拡散する性質がある。
【0043】
これを図4の例で具体的に言うと、両端部のAg電極21、24は、熱伝導率が高い(即ち、熱容量が小さい)ため、速やかにその全体が暖まる。一方、p−n界面が接する半導体接合部は、熱容量が大きいセラミックからなるため、熱伝導が遅れて相対的に冷温部となる。その結果、p型領域22では、暖められて活発になったホールがエネルギーの低い冷温端(接合面)側へ移動することにより、電極21の側はホール不足で−極になり、接合面の側はホールが集まって+極になる。また、n型領域23では、暖められた電子が冷温端(接合面)の側へ移動することにより、電極24の側は電子不足で+極になり、接合面の側は電子が集まって−極になる。そして、p−n接合の全体ではこれらの熱電変換作用が電気的に重なることにより、電極24の側が+極になり、電極21の側が−極になる。この場合でも、銀(Ag)電極21、24は電気抵抗が小さいため、生成された熱起電力をロス無く外部に伝える。
【0044】
図5は実施例1の熱電変換温度センサ20Aの熱起電力測定結果を示す図である。グラフは、この熱電変換温度センサ20Aの全体を室温よりも30°C高く、風速85cm/秒の垂直気流に投入して、時間経過に伴う熱起電力の変化を測定したものである。図5に示すように、この熱電変換温度センサ20Aの熱起電力は熱気流の投入から約30秒後に最大の約0.97mVに達しており、熱がセンサ全体に伝達された後は、熱起電力が徐々に低下している。この熱電変換温度センサ20Aとしては、熱起電力が上昇している区間の変化率により投入した温度差を推定することができる。
【0045】
<実施例2>
図6は実施例2の熱電変換モジュール20Bを説明する図で、本発明により熱電変換モジュールに接続線を接続する他の場合を示している。図6(A)は原料粉末積層時の正面図を示している。この熱電変換モジュールの製造時には、Agからなる両電極粉末21’、24’と、FeSi2系のp型及びn型からなる熱電半導体原料粉末22’、23’の積層後、電極粉末21’とp型原料粉末22’の中心部に貫通孔33aを途中まで貫通させ、また電極粉末24’とn型原料粉末23’の中心部にも貫通孔33bを途中まで貫通させている。このような貫通孔33a、33bは、予め圧力を加えてある程度押し固めた状態の各原料粉末の積層部にドリル等で孔を開けたり、または円柱棒等を差し込むことで形成できる。
【0046】
図6(B)は実施例2の熱電変換モジュール20Bの電極21,24にリ一ド端子をはんだ付けした状態の正面図である。このリード端子34a、34bは銅や黄銅等の導電性素材で製作されており、先端部から所定の長さの位置にフランジ部35a、35bが固定されている。この所定の長さは貫通孔33a、33bの深さに対応している。熱電変換モジュール20Bの貫通孔33a、33bにリード端子34a、34bの先端部を差し込み、これらのフランジ部35a、35bがAg電極21、24の表面に当接するまで挿入すると共に、これらをAg電極21、24にはんだ付けする。この実施例2の熱電変換モジュール20Bの動作については、上記実施冷1の熱電変換モジュール20Aについて述べたものと同様で良い。
【0047】
<実施例3>
図7は実施例3の熱電変換モジュール20Cを説明する図で、p−n−p−n型の熱電変換モジュールを熱電変換温度センサとして使用する場合を示している。図7(A)に従ってこの熱電変換モジュール20Cの製法を概説する。この例では、不図示の焼結型3の底から、Ag24’、n型熱電変換半導体26’、p型熱電変換半導体25’、n型熱電変換半導体23’、p型熱電変換半導体22’、Ag21’の順で各原料粉末を層状に投入する。好ましくは、通常に従って上部及び下部パンチと粉末の境界面にカーボンペーパを設け、こうして得られた焼結型3を加圧力35MPa、焼結温度1023K(750°C)、焼結時間600secの条件下で、放電プラズマ焼結法により一段階で焼結・接合する。
【0048】
図7(B)に実施例3の熱電変換モジュール20Cの斜視図を示す。上記の製法で得られた焼結体では、Ag電極21と、p型熱電変換半導体22と、n型熱電変換半導体23と、p型熱電変換半導体25と、n型熱電変換半導体26と、Ag電極24とが一体的に焼結・接合されている。
【0049】
この実施例3では、更に、この焼結体に対して、図7(B)に示す如く、中央部の接触面s3を含むn型領域23の下半部とp型領域25の上半部とをワイヤカッタ等により切削加工することで、図示のように、中間部がくびれた形状の熱電変換モジュール20Cを形成している。一例の寸法を言うと、円柱部の直径Φ1が20mm、小円柱の直径Φ2が10mm、p型層及びn型層の厚みは共に約7mm、中央のくびれ部の厚みは約7mm、各Ag電極の厚みは共に約1mmである。更に、熱電変換温度センサ20Cとして使用する場合は、上下端面のAg電極21、24に銅線等からなる接続線32a、32bをはんだ31a、31bによりはんだ付けして不図示の回路に実装する。
【0050】
次に、このような熱電変換温度センサ20Cの熱電変換動作を概説する。なお、Ag電極21、24については熱伝導率が高く、かつ厚みが薄いので、熱容量は極めて小さい。このため、熱伝導に関してはAg電極21、24が無いものとして説明する。
【0051】
この熱電変換温度センサ20Cの全体に対して外部から熱を加えると、p型半導体領域22では、接合面s1の側が外気に近いため温度は速やかに上昇するが、接合面s2の側はn型半導体領域23と接するため温度は遅れて緩やかに上昇する。即ち、(接合面s1の熱容量)<(接合面s2の熱容量)の関係になる。このため接合面s1とs2は一時的に「温」、「冷」の関係になり、接合面s1の側はホールが少なく−極になり、接合面s2の側はホールが多く+極になる。またn型半導体領域23では、(接合面s2の面積)>(接合面s3の面積)のため、(接合面s2の熱容量)>(接合面s3の熱容量)の関係になる。このため接合面s2とs3は「冷」、「温」の関係になり、接合面s2の側は電子が多く−極になり、接合面s3の側は電子が少なく+極になる。
【0052】
次に、p型半導体領域25では、(接合面s3の面積)<(接合面s4の面積)のため、(接合面s3の熱容量)<(接合面s4の熱容量)の関係になる。このため接合面s3とs4は「温」、「冷」の関係になり、接合面s3の側はホールが少なく−極になり、接合面s4の側はホールが多く+極になる。更に、n型半導体領域26では、接合面s5の側が外気に近いため温度は速やかに上昇するが、接合面s4の側はp型半導体領域25と接するため温度は遅れて緩やかに上昇する。即ち、(接合面s5の熱容量)<(接合面s4の熱容量)の関係になる。このため接合面s4とs5は「冷」、「温」の関係になり、接合面s4の側は電子が多く−極になり、接合面s5の側は電子が少なく+極になる。
【0053】
かくして、p−n−p−n接合の全体では、各層の熱電変換作用が電気的に重なることにより、Ag電極21の側が−極になり、Ag電極24の側が+極になる。この場合も、銀(Ag)電極21、24は電気抵抗が小さいため、熱起電力をロス無く外部に伝える。
【0054】
なお、上記のような熱電変換作用からして、接合面s2又はs4の面積と、接合面s3の面積の比は出来るだけ大きくすることが好ましい。この面積比を大きくすれば、熱容量により大きな差が生じて、より大きな温度差が発生し易くなり、より大きな熱起電力が得られるからである。
【0055】
<実施例4>
図8は実施例4の熱電変換モジュール20Dの製法を説明する図で、この図は焼結型11に関する部分の拡大図を示している。図8(A)にその平断面図、図8(B)に側断面図を示す。この焼結型11は、円柱状グラファイトの中央部が矩形にくり抜かれた形状をしており、この焼結型11の内部に箱形状の下側焼結型12aと蓋状の上側焼結型12bとを収納し、その上下に一対の矩形状パンチ13a、13bを挿入する形になっている。
【0056】
p型及びn型の各熱電変換半導体原料粉末42’、43’については上記図2で述べたものと同様のものを用い得る。好ましくは、下側焼結型12aの内壁面を覆うようにカーボンペーパを設けると共に、その床面にカーボンペーパを敷き、その上にAg粉末41’と44’を層状に投入する。更に、Ag粉末41’の上にp型熱電変換半導体原料粉末42’を充填する。また、Ag粉末44’の上にn型熱電変換半導体原料粉末43’を充填する。そして、これらp型及びn型の各熱電変換半導体原料粉末42’、43’の上にカーボンペーパを敷き、その上に上側焼結型12bを搭載する。こうして得られた焼結型11のセットを放電プラズマ焼結装置1にセットし、図2で述べたと同様の焼結条件下で各原料粉末を一段階で焼結・接合する。
【0057】
図9は実施例4の熱電変換モジュール20Dの斜視図で、温度差を検出可能な熱電変換モジュールへの適用例を示している。この熱電変換モジュール20Dでは、Ag電極41と、p型熱電変換半導体42と、n型熱電変換半導体43と、Ag電極44とが一体的に焼結・接合されている。この例では、熱電変換モジュールの両端電極41、44が金属(Ag)となり、リード線等を容易にはんだ付け可能である。または、Ag電極41、44の部分をプリント配線上に載せて直接にはんだ付けしても良い。或いは、電気溶接や、短時間でのレーザ照射によるレーザ溶接など、熱電変換半導体組成に影響を与えない温度であれば、これらの方法でも接続できる。
【0058】
次にこのような熱電変換モジュール20Dを使用して温度差を測定する場合の動作を説明する。図9に示す如く、この熱電変換モジュール20Dを上から加熱し、下から冷却すると、p型熱電変換半導体42ではホールが冷温(電極41)側へ移動することにより、加熱側は−極になり、冷温側は+極になる。また、n型熱電変換半導体43では電子が冷温(電極44)側へ移動することにより、加熱側は+極になり、冷温側は−極になる。そして、熱電変換モジュール20Dの全体ではこれらの熱電変換作用が電気的に重なることにより、Ag電極41の側が+極になり、Ag電極44の側が−極になる。この場合に、各Ag電極41、44は電気抵抗が小さく、熱伝導率が高いため、熱と電気エネルギーを伝える電極用金属として最適に作用する。
【0059】
<実施例5>
図10は実施例5の熱電変換モジュールの製法を説明する図で、図1の焼結型3に関する部分の拡大図を示している。実施例5の熱電変換モジュールは、FeSi2系のp型及びn型からなる熱電変換半導体原料粉末22’、23’と、これらの一端部と電極用の金属粉末21’、24’との間に中間層の原料としてp型熱電変換半導体原料粉末22’と金属粉末21’との混合粉末215’、及びn型熱電変換半導体原料粉末23’と金属粉末24’との混合粉末235’をそれぞれ投入し、次に所定の金属からなる金属粉末21’、24’を投入し、従前の焼結条件下で、放電プラズマ焼結法により一段階で焼結・接合したものである。以下において、p型熱電変換半導体と電極間の中間層をp側中間層、n型熱電変換半導体と電極間の中間層をn側中間層という。したがって、実施例5の熱電変換モジュールは、電極、n側中間層、n型熱電変換半導体、p型熱電変換半導体、p側中間層、電極が積層された構造を有する。
【0060】
図10に示したように、焼結型3の下部にパンチ5bを挿入し、好ましくは、挿入図(a)に示す如く、パンチ5b上に円盤状のカーボンペーパC1を敷く。更に焼結型3の内周面にカーボンペーパC2を筒状に配置し、その中に原料粉末を順に層状に投入する。例えば銀(Ag)からなる電極用の金属粉末24’、金属粉末24’と上記作成したn型熱電変換半導体原料粉末23’との混合粉末235’、n型熱電変換半導体原料粉末23’、上記作成したp型熱電変換半導体原料粉末22’、銀(Ag)からなる電極用の金属粉末21’とp型熱電変換半導体原料粉末22’との混合粉末215’、金属粉末21’の順序で筒状のカーボンペーパC2の内部に投入し、金属粉末21’の上にカーボンペーパC6を載せる。そして、その上からパンチ5aを焼結型3の上部に挿入し、こうして焼結型3のセットを作成する。
【0061】
なお、各粉末層間にカーボンペーパを配置してもよい。例えば図10に示すように、金属粉末24’と混合粉末235’間にカーボンペーパC3、混合粉末235’とn型熱電変換半導体原料粉末23’間にカーボンペーパC8がそれぞれ配置される。n型熱電変換半導体原料粉末23’とp型熱電変換半導体原料粉末22’間にカーボンペーパC4が配置される。更に、p型熱電変換半導体原料粉末22’と混合粉末215’間にカーボンペーパC7、混合粉末215’と金属粉末21’間にカーボンペーパC5がそれぞれ配置される。
【0062】
例えば図2で述べたと同様の焼結条件下で、焼結型3の各原料粉末を一段階で焼結・接合し、実施例5の熱電変換モジュールが製造される。混合粉末215’が焼結されてp側中間層が形成され、混合粉末235’が焼結されてn側中間層が形成される。つまり、金属粉末24’を焼結して形成された電極と、n型熱電変換半導体原料粉末23’を焼結して形成されるn型熱電変換半導体との間に、n側中間層が形成される。そして、p型熱電変換半導体原料粉末22’を焼結して形成されるp型熱電変換半導体と、金属粉末21’を焼結して形成された電極との間に、p側中間層が形成される。
【0063】
p型熱電変換半導体粉末とAg電極の例の場合、p側中間層はp型熱電変換半導体粉末とAg粉末の質量比が3:1の場合に良好な焼結・結合となった。一方、p型熱電変換半導体粉末とAg粉末の質量比が1:1の場合や1:3の場合には割れや欠けが発生し、良好な焼結・結合が得られなかった。これは、p側中間層のAg比率が多いとAgのぬれ性のため、p側中間層とAg電極間で焼結・結合が十分におこなわれなかったためと推定される。
【0064】
又、n型熱電変換半導体粉末とAg電極の例の場合、n側中間層はn型熱電変換半導体粉末とAg粉末の質量比が1:1の場合に良好な焼結・結合となった。一方、n型熱電変換半導体粉末とAg粉末の質量比が3:1の場合には割れや欠けが発生し、良好な焼結・結合が得られなかった。
【0065】
p側中間層とn側中間層を形成することにより、電極と熱電変換半導体間の強度が更に強固になり、リード線とモジュール間の強度がp側中間層、n側中間層が無いものと比べ更に強固になることが実験で確認された。
【0066】
実験ではAg電極0.4g、n側中間層の混合粉末0.8g 、n型熱電変換半導体粉末21gをΦ20mm円筒形状に焼結・結合し、確認した。又、Ag電極0.4g、p側中間層の混合粉末0.8g、p型熱電変換半導体粉末17.2gをΦ20mm円筒形状に焼結・結合し、確認した。
【0067】
又、中間層は1層が好ましい。熱電変換半導体粉末と金属粉末の混合比率を変えた2層、3層の中間層を作成した実験では、割れ、欠けにより良好な焼結・接合は得られなかった。
【0068】
上記のような特徴を有する本発明の熱電変換モジュールは、熱から電気に変換するゼーベック効果を利用した温泉廃熱発電、バイオマス熱利用発電、発電所廃熱発電、自動車廃熱発電等における熱電変換モジュールとして、或いは空調機、プラント、火災報知設備等において温度変化を検出する熱電変換温度センサとして利用可能である。また本発明の熱電変換モジュールは、電気から熱に変換するペルチェ効果を利用したCPU冷却、電子機器冷却、道路の凍結防止、冬場の融雪対策、ノンフロン冷蔵庫等における熱電変換モジュールとしても利用可能である。
【0069】
なお、上記各実施例では1対又は2対のp−n接合を含む熱電変換モジュールを具体的に述べたが、3対以上のp−n接合を含む熱電変換モジュールについても同様に構成できる。また、p−n接合のみならず、n−p接合の熱電変換モジュールについても本発明を適用できる。
【0070】
また、上記各実施例では電極部を構成するためのAg粉末を層状に積層したが、これに限らない。Ag粉末等の積層形状を変えることで、他の様々な形状の電極を形成できる。
【符号の説明】
【0071】
1 放電プラズマ焼結装置
2 真空チャンバ
3 焼結型
3a 熱電対
4 原料粉末
5 パンチ(押圧子)
6 パンチ電極
7 特殊焼結電源
8 加圧機構部
9 制御部
10 計測部
11 焼結型
12a 下側焼結型
12b 上側焼結型
13a、13b 矩形状パンチ
20A〜20D 熱電変換モジュール
21、24、41、44 電極用金属(Ag)
22、25、42 p型熱電変換半導体
23、26、43 n型熱電変換半導体
31a、31b はんだ
32a、32b 接続線
34a、34b リード端子
35a、35b フランジ部
C カーボンペーパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結型内に、FeSi2系のp型及びn型からなる各熱電変換半導体原料粉末と、これらの少なくとも一端部に所定の金属からなる板又は粉末を投入し、これらを放電プラズマ焼結法により一段階で焼結・接合することを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項2】
FeSi2系原料粉末に4.1質量%のクロム(Cr)を混入してp型熱電変換半導体原料粉末とすることを特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項3】
FeSi2系原料粉末に2.4質量%のコバルト(Co)を混入してn型熱電変換半導体原料粉末とすることを特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記所定の金属は銀(Ag)又は銀系合金からなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記所定の金属はニッケル(Ni)又はチタン(Ti)又はこれらを主とする合金からなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記焼結・接合を、圧力35MPa乃至70MPa、温度923K(650°C)乃至1073K(800°C)、時間300sec乃至3.6ksecで行うことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項7】
焼結型内に、FeSi2系のp型及びn型からなる各熱電変換半導体原料粉末と、これらの少なくとも一端部に所定の金属からなる板又は粉末を投入し、これらを放電プラズマ焼結法により一段階で焼結・接合したことを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項8】
前記所定の金属は銀(Ag)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)又はこれらの何れか一つを主とする合金からなることを特徴とする請求項7記載の熱電変換モジュール。
【請求項9】
焼結型内に、FeSi2系のp型及びn型からなる各熱電変換半導体原料粉末と、これらの少なくとも一端部にp型及びn型からなる各熱電変換半導体原料粉末と所定の金属粉末の混合粉末を投入し、次に前記所定の金属からなる粉末を投入し、これらを放電プラズマ焼結法により一段階で焼結・結合したことを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項10】
前記所定の金属は銀(Ag)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)又はこれらの何れか一つを主とする合金からなることを特徴とする請求項9記載の熱電変換モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−34508(P2010−34508A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102648(P2009−102648)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(591077003)沖電気防災株式会社 (17)
【Fターム(参考)】