熱電変換モジュール
【課題】 高温に耐えるハンダ流れ防止手段を用いて、熱電素子と基板との接合部を適正状態に形成することにより性能低下を防止できる熱電変換モジュールを提供すること。
【解決手段】 上下に下側基板11と上側基板12を配置し、下側基板11の一端部側部分の上面に、下側基板11の上面に形成された下部電極13のうちの一端両側の下部電極13から連続して延びるボンディング部16を形成した。そして、下部電極13とボンディング部16とを、銅層13a,16aの上に、ニッケル層13b,16bおよび金層13c,16cを積層して構成し、金層13c,16cにおける下部電極13とボンディング部16との間の部分に隙間17を設けた。また、金層13c,16cの隙間17の長さを10μmに設定した。さらに、下部電極13の金層13cを熱電素子15の端面よりも大きくした。
【解決手段】 上下に下側基板11と上側基板12を配置し、下側基板11の一端部側部分の上面に、下側基板11の上面に形成された下部電極13のうちの一端両側の下部電極13から連続して延びるボンディング部16を形成した。そして、下部電極13とボンディング部16とを、銅層13a,16aの上に、ニッケル層13b,16bおよび金層13c,16cを積層して構成し、金層13c,16cにおける下部電極13とボンディング部16との間の部分に隙間17を設けた。また、金層13c,16cの隙間17の長さを10μmに設定した。さらに、下部電極13の金層13cを熱電素子15の端面よりも大きくした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンディング部を備えた熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電変換の一つであるペルチェ効果を利用して熱電変換を行う熱電変換モジュールの基板やプリント基板等には、ハンダを用いて熱電素子等のチップ部品を固定することが行われている。このようなプリント基板の中に、ハンダが所定のチップ部品を固定する部分以外の部分に流れることを防止するためのハンダ流れ防止部を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。このプリント基板では、パッドにおける大きいコンデンサが実装される部分と小さいコンデンサが実装される部分との間に、ソルダーレジストからなるハンダ流れ防止部が設けられている。
【特許文献1】特開平5−102648号公報
【発明の開示】
【0003】
しかしながら、熱電変換モジュールの基板では、通常400℃以上の耐熱温度が要求されるため、前述したプリント基板のように耐熱温度の低いソルダーレジストからなるハンダ流れ防止部を用いることはできない。また、ソルダーレジストのような材料を用いると、コストが高くなるという問題も生じる。
【0004】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、高温に耐えることのできるハンダ流れ防止手段を用いて、熱電素子と基板との接合部を適正状態に形成することにより性能低下を防止できる熱電変換モジュールを提供することである。
【0005】
前述した目的を達成するため、本発明に係る熱電変換モジュールの構成上の特徴は、対向させて上下に配置した一対の基板における対向する両面の所定箇所に複数の電極をそれぞれ形成し、複数の電極に複数の熱電素子の上下の端面をそれぞれハンダで固定して構成される熱電変換モジュールであって、一対の基板のうちの下側の基板の一端部側に形成された電極における所定の一対の電極から下側の基板の一端に向って延びるボンディング部を形成し、電極とボンディング部とを、表面が金層からなる複数の金属層で構成し、金層における一対の電極とその各電極に対応するボンディング部との境界部分に隙間を設け、金層が非連続になるようにしたことにある。
【0006】
本発明に係る熱電変換モジュールでは、一対の基板のうちの下側の基板の上面に複数の電極が形成され、下側の基板の一端側部分の上面に形成された電極のうちの所定の一対の電極には、下側の基板の一端に向って延びる一対のボンディング部が電極と連続して形成されている。また、電極とボンディング部とは、それぞれ表面が金層からなる複数の金属層で構成されている。そして、所定の一対の電極とそれに対応するボンディング部の金層が非連続になるように、電極とボンディング部との境界部表面に隙間が形成されている。
【0007】
すなわち、基板に形成される各電極は、それぞれ独立した位置に形成されるため、電極と熱電素子を固定するためのハンダが、他の電極に流れることはあまりない。しかしながら、所定の一対の電極とそれに対応するボンディング部は連続して形成されるため、電極と熱電素子を固定するためのハンダがボンディング部に流れるおそれがある。このため、所定の一対の電極とそれに対応するボンディング部との間の金層に隙間を設けて非連続にすることにより、電極側のハンダがボンディング部側に流れることを防止できる。また、金層は、ハンダに対する濡れ性に優れているため、電極やボンディング部の表面層に用いられており、これによって、電極への熱電素子の固定やボンディング部へのワイヤ等の固定を良好に行える。このように、ハンダを用いて金層と熱電素子を接合した場合、金層とハンダとが合金化して良好な接合部が形成される。
【0008】
また、本発明に係る熱電変換モジュールの他の構成上の特徴は、金層の隙間の長さを5μm以上に設定し、金層の下側に形成される金属層をハンダの濡れ性が悪い金属で構成したことにある。この隙間の長さの値は、実験により得られたもので、金層の隙間の長さを5μm以上に設定することにより、電極に熱電素子を固定するためのハンダがボンディング部に流れることを確実に防止できる。また、連続して形成された電極とボンディング部における金層の隙間には、金層の下層を構成する金属層が露出するが、この金属層として、ハンダに対する濡れ性が悪い金属、例えば、ニッケルを用いることにより、さらに、電極に熱電素子を固定するためのハンダがボンディング部に流れ難くすることができる。
【0009】
また、本発明に係る熱電変換モジュールの他の構成上の特徴は、電極における金層の大きさを、電極に固定される熱電素子の端面の大きさと同じまたは熱電素子の端面の大きさよりも大きくして、熱電素子の端面が金層からはみ出さないようにしたことにある。これによると、電極と熱電素子とを固定するハンダが電極から溢れ難くなるため、より良好な状態で熱電素子を電極に固定できる。なお、この場合、熱電素子の端面に比べて、電極の大きさが大きすぎると、ハンダが広がりすぎて接合力が小さくなるため、ハンダが拡がりすぎてハンダが不足することのない程度に電極の大きさを設定することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1ないし図3は、本実施形態に係る熱電変換モジュール10を示している。熱電変換モジュール10は、アルミナからなる四角板状の下側基板11と上側基板12とからなる一対の絶縁基板を備えている。下側基板11の長さは、上側基板12の長さよりも長く設定されており、上側基板12の長手方向に沿った一端部(図2および図3の右側端部)よりも下側基板11の長手方向に沿った一端部が水平方向に沿って突出している。そして、この突出した部分で基板延長部11aが構成されている。
【0011】
下側基板11の上面には、一定間隔を保って複数の下部電極13が形成され、上側基板12の下面には、一定間隔を保って複数の上部電極14が形成されている。そして、直方体に形成されたビスマス・テルル系の合金からなる複数の熱電素子15が、それぞれ下端面を下部電極13にハンダ付けにより固定され、上端面を上部電極14にハンダ付けにより固定されて下側基板11と上側基板12とを一体的に連結している。また、下部電極13と上部電極14とは、それぞれ2個の熱電素子15を、間隔を保って設置できる長方形に形成されている。
【0012】
そして、上部電極14は、それぞれ下部電極13に対して熱電素子15の略1個分に等しい距離をずらして上側基板12に形成されている。すなわち、各熱電素子15、下部電極13および上部電極14が電気的に接続されるようにして、2個の熱電素子15の下端面が各下部電極13に接合され、2個の熱電素子15の上端面が各上部電極14に接合されている。また、熱電素子15は、P型熱電素子とN型熱電素子とで構成されており、P型熱電素子とN型熱電素子とが交互に配置されている。このP型熱電素子とN型熱電素子とはともにBiやTeで構成されているがその組成は若干異なっている。
【0013】
また、基板延長部11aの上面における両側部分には、下側基板11の一端側の両側に設けられた下部電極13から延長されたボンディング部16がそれぞれ図4に示したようにして形成されている。そして、下部電極13、上部電極14およびボンディング部16は、それぞれ銅層、ニッケル層および金層を積層して形成されている。すなわち、下部電極13および上部電極14は、厚みが50μmの銅層13aの上部(上部電極14は図示していないが、この場合は銅層の下部)に厚みが4μmのニッケル層13bを形成し、表面に厚みが0.3μmの金層13cを形成して構成されている。
【0014】
また、ボンディング部16は、下部電極13の銅層13aと連続する厚みが50μmの銅層16aの上部に下部電極13のニッケル層13bと連続する厚みが4μmのニッケル層16bを形成し、表面に厚みが1μmの金層16cを形成して構成されている。そして、一端両側の下部電極13とボンディング部16との境界部分の金層13cと金層16cとの間には、幅が10μmの隙間17が設けられて、金層13cと金層16cは非連続になっている。
【0015】
つぎに、図5ないし図9(下側基板11の一端側部分と基板延長部11a側部分を示している。)を用いて、熱電変換モジュール10を製造する方法について説明する。この場合、まず、図5に示したように、下側基板11およびその基板延長部11aの上面に、下部電極13およびボンディング部16を構成する銅層13a,16aを形成し、銅層13a,16aの上面に、ニッケル層13b,16bを形成する。つぎに、ニッケル層13b,16bの上面に、レジスト層18を形成したのちに、レジスト層18における熱電素子15が取り付けられる部分をパターンカットすることにより除去して、図6に示したように、凹部18aを形成する。そして、ニッケル層13bが露出した凹部18a内に金メッキを施すことにより金層13cを形成する。
【0016】
ついで、金層13cを形成するために用いたレジスト層18を除去するとともに、新たなレジスト層18を、金層13cおよびニッケル層16bの上面に形成し、レジスト層18における金層16cが形成される部分をパターンカットすることにより除去して、図7に示したように、凹部18bを形成する。つぎに、ニッケル層16bが露出した凹部18b内に金メッキを施すことにより金層16cを形成する。そして、図8に示したように、レジスト層18を除去して、下側基板11およびその基板延長部11aの上面に、下部電極13およびボンディング部16が形成され、その表面の金層13c,16cの間には隙間17が形成される。
【0017】
つぎに、下部電極13の上面に、ハンダ印刷によりハンダペーストを塗布して、図9(および図4)に示したようにハンダペースト層19を形成する。ついで、下部電極13上のハンダペースト層19の上面に、熱電素子15を取り付ける処理が行われる。この場合、各下部電極13の上面に、間隔を保って2個の熱電素子15を載せる。また、同様の処理により、上側基板12の下面に、上部電極14とハンダペースト層(図示せず)を形成する。この場合、下部電極13および上部電極14はともに、熱電素子15の端面よりもやや大きくなるように形成されている。
【0018】
ついで、その状態の上側基板12を、各上部電極14を所定の熱電素子15の上端面に合わせて下側基板11の上側に重ねる。そして、仮に組み付けられた熱電変換モジュールを、加熱装置(図示せず)で加熱する。これによって、下部電極13と熱電素子15との間のハンダペースト層19および上部電極14と熱電素子15との間のハンダペースト層が溶融して、それぞれ下部電極13と熱電素子15との間および上部電極14と熱電素子15との間に密着する。これによって、図10に示したように、金層13cとハンダペースト層19とが合金化した接合部19aが形成される。
【0019】
なお、図10には、上部電極14と熱電素子15との間の部分は図示していないが、この部分も上下方向が反転するだけで、図10と同様の状態になる。ついで、熱電変換モジュールを、加熱装置から出して冷却することにより、溶融状態の接合部19aを固化して、図1ないし図3に示した熱電変換モジュール10が得られる。なお、ボンディング部16の上面には、ハンダを用いてポスト電極やワイヤ等の所定の部材が固定される。この場合、各熱電素子15と、ポスト電極やワイヤは、ハンダによって固定されるとともに電気的に接続される。
【0020】
このように、本実施形態にかかる熱電変換モジュール10では、下側基板11の一端側に、基板延長部11aを形成して、下側基板11を上側基板12よりも長くしている。そして、基板延長部11aの幅方向の両側部分には、下側基板11の上面から延びる下部電極13に連続するボンディング部16を形成している。また、下部電極13とボンディング部16の境界部分には、金層を形成せず隙間17を形成している。そして、隙間17には、ハンダに対する濡れ性が悪いニッケル層13bを露出させている。したがって、下部電極13にハンダを用いて熱電素子15を固定する際に、溶融状態のハンダは、下部電極13の上面で広がるが、隙間17を超えてボンディング部16まで流れることは防止される。
【0021】
また、この場合、隙間17の幅方向の長さを10μmに設定したため、下部電極13に熱電素子15を固定するハンダがボンディング部16に流れることを確実に防止できる。さらに、下部電極13における金層13cの大きさが、熱電素子15の端面の大きさよりも大きく、熱電素子15の端面が金層13cからはみ出さないため、下部電極13と熱電素子15とを固定するハンダが下部電極13から溢れ難くなり、より良好な状態で熱電素子15を下部電極13に固定できる。
【0022】
つぎに、隙間17の幅の長さを変えたときの下部電極13からボンディング部16側へのハンダの流れ状態を比較するテストを行った。この比較テストは、図11に示した、隙間17の幅aの長さをそれぞれ変えて形成した各熱電変換モジュール10を実施例1〜6とし、隙間を設けない熱電変換モジュールを比較例1として、ハンダが下部電極13からボンディング部16側に流れたものを不良として、その歩留まり率を比較した。なお、テスト数は、各実施例1〜5、比較例1について、それぞれ48個とした。また、隙間17の幅aの長さは、それぞれ、実施例1を3μm、実施例2を5μm、実施例3を10μm、実施例4を30μm、実施例5を50μmとした。この比較テストの結果を、下記の表1に示した。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示したように、比較テストの結果、比較例1では、良品はなくすべて不良品であった。また、実施例1では、歩留まりは、89%になり、実施例2〜5では、全て良品であった。この結果から、下部電極とボンディング部の境界部の金層に隙間を設けない場合は、ハンダが下部電極からボンディング部に流れていくが、下部電極13とボンディング部16の境界部の金層に隙間17を設けることにより、ハンダが下部電極13からボンディング部16側に流れることを防止できる。さらに、その隙間17の幅aを5μm以上にすることにより、ハンダが下部電極13からボンディング部16側に流れることを確実に防止できることが分かる。
【0025】
また、本発明は、前述した実施形態に限定するものでなく、適宜変更実施が可能である。例えば、下側基板11等や上側基板12等を構成する材料は、アルミナに限定されず、絶縁基板であれば、窒化アルミ、炭化珪素、窒化珪素、表面が絶縁処理されたアルミニウムなどの金属基板等で構成してもよい。また、下部電極13やボンディング部16を構成する金層以外の金属層は、銅層、ニッケル層に限らず、他の金属を用いることができる。また、その他、熱電変換モジュール10等を構成する各部材の材質、形状、サイズ等も使用目的に応じて変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱電変換モジュールを示した斜視図である。
【図2】図1に示した熱電変換モジュールの平面図である。
【図3】図2の3−3断面図である。
【図4】下部電極に形成したハンダペースト層の上面に熱電素子を設置した状態を示した断面図である。
【図5】下側基板に銅層とニッケル層を形成した状態を示した断面図である。
【図6】図5の下側基板にレジスト層を設けて下部電極の金層を形成した状態を示した断面図である。
【図7】図6の下側基板にレジスト層を設けてボンディング部の金層を形成した状態を示した断面図である。
【図8】下側基板に下部電極とボンディング部を形成した状態を示した断面図である。
【図9】下部電極の上面にハンダペースト層を形成しその上に熱電素子を設置した状態を示した断面図である。
【図10】下部電極の上面に接合部で熱電素子を固定した状態を示した断面図である。
【図11】金層に設けた隙間を示した断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10…熱電変換モジュール、11…下側基板、11a…基板延長部、12…上側基板、13…下部電極、13a,16a…銅層、13b,16b…ニッケル層、13c,16c…金層、14…上部電極、15…熱電素子、16…ボンディング部、17…隙間、19…ハンダペースト層、19a…接合部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンディング部を備えた熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電変換の一つであるペルチェ効果を利用して熱電変換を行う熱電変換モジュールの基板やプリント基板等には、ハンダを用いて熱電素子等のチップ部品を固定することが行われている。このようなプリント基板の中に、ハンダが所定のチップ部品を固定する部分以外の部分に流れることを防止するためのハンダ流れ防止部を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。このプリント基板では、パッドにおける大きいコンデンサが実装される部分と小さいコンデンサが実装される部分との間に、ソルダーレジストからなるハンダ流れ防止部が設けられている。
【特許文献1】特開平5−102648号公報
【発明の開示】
【0003】
しかしながら、熱電変換モジュールの基板では、通常400℃以上の耐熱温度が要求されるため、前述したプリント基板のように耐熱温度の低いソルダーレジストからなるハンダ流れ防止部を用いることはできない。また、ソルダーレジストのような材料を用いると、コストが高くなるという問題も生じる。
【0004】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、高温に耐えることのできるハンダ流れ防止手段を用いて、熱電素子と基板との接合部を適正状態に形成することにより性能低下を防止できる熱電変換モジュールを提供することである。
【0005】
前述した目的を達成するため、本発明に係る熱電変換モジュールの構成上の特徴は、対向させて上下に配置した一対の基板における対向する両面の所定箇所に複数の電極をそれぞれ形成し、複数の電極に複数の熱電素子の上下の端面をそれぞれハンダで固定して構成される熱電変換モジュールであって、一対の基板のうちの下側の基板の一端部側に形成された電極における所定の一対の電極から下側の基板の一端に向って延びるボンディング部を形成し、電極とボンディング部とを、表面が金層からなる複数の金属層で構成し、金層における一対の電極とその各電極に対応するボンディング部との境界部分に隙間を設け、金層が非連続になるようにしたことにある。
【0006】
本発明に係る熱電変換モジュールでは、一対の基板のうちの下側の基板の上面に複数の電極が形成され、下側の基板の一端側部分の上面に形成された電極のうちの所定の一対の電極には、下側の基板の一端に向って延びる一対のボンディング部が電極と連続して形成されている。また、電極とボンディング部とは、それぞれ表面が金層からなる複数の金属層で構成されている。そして、所定の一対の電極とそれに対応するボンディング部の金層が非連続になるように、電極とボンディング部との境界部表面に隙間が形成されている。
【0007】
すなわち、基板に形成される各電極は、それぞれ独立した位置に形成されるため、電極と熱電素子を固定するためのハンダが、他の電極に流れることはあまりない。しかしながら、所定の一対の電極とそれに対応するボンディング部は連続して形成されるため、電極と熱電素子を固定するためのハンダがボンディング部に流れるおそれがある。このため、所定の一対の電極とそれに対応するボンディング部との間の金層に隙間を設けて非連続にすることにより、電極側のハンダがボンディング部側に流れることを防止できる。また、金層は、ハンダに対する濡れ性に優れているため、電極やボンディング部の表面層に用いられており、これによって、電極への熱電素子の固定やボンディング部へのワイヤ等の固定を良好に行える。このように、ハンダを用いて金層と熱電素子を接合した場合、金層とハンダとが合金化して良好な接合部が形成される。
【0008】
また、本発明に係る熱電変換モジュールの他の構成上の特徴は、金層の隙間の長さを5μm以上に設定し、金層の下側に形成される金属層をハンダの濡れ性が悪い金属で構成したことにある。この隙間の長さの値は、実験により得られたもので、金層の隙間の長さを5μm以上に設定することにより、電極に熱電素子を固定するためのハンダがボンディング部に流れることを確実に防止できる。また、連続して形成された電極とボンディング部における金層の隙間には、金層の下層を構成する金属層が露出するが、この金属層として、ハンダに対する濡れ性が悪い金属、例えば、ニッケルを用いることにより、さらに、電極に熱電素子を固定するためのハンダがボンディング部に流れ難くすることができる。
【0009】
また、本発明に係る熱電変換モジュールの他の構成上の特徴は、電極における金層の大きさを、電極に固定される熱電素子の端面の大きさと同じまたは熱電素子の端面の大きさよりも大きくして、熱電素子の端面が金層からはみ出さないようにしたことにある。これによると、電極と熱電素子とを固定するハンダが電極から溢れ難くなるため、より良好な状態で熱電素子を電極に固定できる。なお、この場合、熱電素子の端面に比べて、電極の大きさが大きすぎると、ハンダが広がりすぎて接合力が小さくなるため、ハンダが拡がりすぎてハンダが不足することのない程度に電極の大きさを設定することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1ないし図3は、本実施形態に係る熱電変換モジュール10を示している。熱電変換モジュール10は、アルミナからなる四角板状の下側基板11と上側基板12とからなる一対の絶縁基板を備えている。下側基板11の長さは、上側基板12の長さよりも長く設定されており、上側基板12の長手方向に沿った一端部(図2および図3の右側端部)よりも下側基板11の長手方向に沿った一端部が水平方向に沿って突出している。そして、この突出した部分で基板延長部11aが構成されている。
【0011】
下側基板11の上面には、一定間隔を保って複数の下部電極13が形成され、上側基板12の下面には、一定間隔を保って複数の上部電極14が形成されている。そして、直方体に形成されたビスマス・テルル系の合金からなる複数の熱電素子15が、それぞれ下端面を下部電極13にハンダ付けにより固定され、上端面を上部電極14にハンダ付けにより固定されて下側基板11と上側基板12とを一体的に連結している。また、下部電極13と上部電極14とは、それぞれ2個の熱電素子15を、間隔を保って設置できる長方形に形成されている。
【0012】
そして、上部電極14は、それぞれ下部電極13に対して熱電素子15の略1個分に等しい距離をずらして上側基板12に形成されている。すなわち、各熱電素子15、下部電極13および上部電極14が電気的に接続されるようにして、2個の熱電素子15の下端面が各下部電極13に接合され、2個の熱電素子15の上端面が各上部電極14に接合されている。また、熱電素子15は、P型熱電素子とN型熱電素子とで構成されており、P型熱電素子とN型熱電素子とが交互に配置されている。このP型熱電素子とN型熱電素子とはともにBiやTeで構成されているがその組成は若干異なっている。
【0013】
また、基板延長部11aの上面における両側部分には、下側基板11の一端側の両側に設けられた下部電極13から延長されたボンディング部16がそれぞれ図4に示したようにして形成されている。そして、下部電極13、上部電極14およびボンディング部16は、それぞれ銅層、ニッケル層および金層を積層して形成されている。すなわち、下部電極13および上部電極14は、厚みが50μmの銅層13aの上部(上部電極14は図示していないが、この場合は銅層の下部)に厚みが4μmのニッケル層13bを形成し、表面に厚みが0.3μmの金層13cを形成して構成されている。
【0014】
また、ボンディング部16は、下部電極13の銅層13aと連続する厚みが50μmの銅層16aの上部に下部電極13のニッケル層13bと連続する厚みが4μmのニッケル層16bを形成し、表面に厚みが1μmの金層16cを形成して構成されている。そして、一端両側の下部電極13とボンディング部16との境界部分の金層13cと金層16cとの間には、幅が10μmの隙間17が設けられて、金層13cと金層16cは非連続になっている。
【0015】
つぎに、図5ないし図9(下側基板11の一端側部分と基板延長部11a側部分を示している。)を用いて、熱電変換モジュール10を製造する方法について説明する。この場合、まず、図5に示したように、下側基板11およびその基板延長部11aの上面に、下部電極13およびボンディング部16を構成する銅層13a,16aを形成し、銅層13a,16aの上面に、ニッケル層13b,16bを形成する。つぎに、ニッケル層13b,16bの上面に、レジスト層18を形成したのちに、レジスト層18における熱電素子15が取り付けられる部分をパターンカットすることにより除去して、図6に示したように、凹部18aを形成する。そして、ニッケル層13bが露出した凹部18a内に金メッキを施すことにより金層13cを形成する。
【0016】
ついで、金層13cを形成するために用いたレジスト層18を除去するとともに、新たなレジスト層18を、金層13cおよびニッケル層16bの上面に形成し、レジスト層18における金層16cが形成される部分をパターンカットすることにより除去して、図7に示したように、凹部18bを形成する。つぎに、ニッケル層16bが露出した凹部18b内に金メッキを施すことにより金層16cを形成する。そして、図8に示したように、レジスト層18を除去して、下側基板11およびその基板延長部11aの上面に、下部電極13およびボンディング部16が形成され、その表面の金層13c,16cの間には隙間17が形成される。
【0017】
つぎに、下部電極13の上面に、ハンダ印刷によりハンダペーストを塗布して、図9(および図4)に示したようにハンダペースト層19を形成する。ついで、下部電極13上のハンダペースト層19の上面に、熱電素子15を取り付ける処理が行われる。この場合、各下部電極13の上面に、間隔を保って2個の熱電素子15を載せる。また、同様の処理により、上側基板12の下面に、上部電極14とハンダペースト層(図示せず)を形成する。この場合、下部電極13および上部電極14はともに、熱電素子15の端面よりもやや大きくなるように形成されている。
【0018】
ついで、その状態の上側基板12を、各上部電極14を所定の熱電素子15の上端面に合わせて下側基板11の上側に重ねる。そして、仮に組み付けられた熱電変換モジュールを、加熱装置(図示せず)で加熱する。これによって、下部電極13と熱電素子15との間のハンダペースト層19および上部電極14と熱電素子15との間のハンダペースト層が溶融して、それぞれ下部電極13と熱電素子15との間および上部電極14と熱電素子15との間に密着する。これによって、図10に示したように、金層13cとハンダペースト層19とが合金化した接合部19aが形成される。
【0019】
なお、図10には、上部電極14と熱電素子15との間の部分は図示していないが、この部分も上下方向が反転するだけで、図10と同様の状態になる。ついで、熱電変換モジュールを、加熱装置から出して冷却することにより、溶融状態の接合部19aを固化して、図1ないし図3に示した熱電変換モジュール10が得られる。なお、ボンディング部16の上面には、ハンダを用いてポスト電極やワイヤ等の所定の部材が固定される。この場合、各熱電素子15と、ポスト電極やワイヤは、ハンダによって固定されるとともに電気的に接続される。
【0020】
このように、本実施形態にかかる熱電変換モジュール10では、下側基板11の一端側に、基板延長部11aを形成して、下側基板11を上側基板12よりも長くしている。そして、基板延長部11aの幅方向の両側部分には、下側基板11の上面から延びる下部電極13に連続するボンディング部16を形成している。また、下部電極13とボンディング部16の境界部分には、金層を形成せず隙間17を形成している。そして、隙間17には、ハンダに対する濡れ性が悪いニッケル層13bを露出させている。したがって、下部電極13にハンダを用いて熱電素子15を固定する際に、溶融状態のハンダは、下部電極13の上面で広がるが、隙間17を超えてボンディング部16まで流れることは防止される。
【0021】
また、この場合、隙間17の幅方向の長さを10μmに設定したため、下部電極13に熱電素子15を固定するハンダがボンディング部16に流れることを確実に防止できる。さらに、下部電極13における金層13cの大きさが、熱電素子15の端面の大きさよりも大きく、熱電素子15の端面が金層13cからはみ出さないため、下部電極13と熱電素子15とを固定するハンダが下部電極13から溢れ難くなり、より良好な状態で熱電素子15を下部電極13に固定できる。
【0022】
つぎに、隙間17の幅の長さを変えたときの下部電極13からボンディング部16側へのハンダの流れ状態を比較するテストを行った。この比較テストは、図11に示した、隙間17の幅aの長さをそれぞれ変えて形成した各熱電変換モジュール10を実施例1〜6とし、隙間を設けない熱電変換モジュールを比較例1として、ハンダが下部電極13からボンディング部16側に流れたものを不良として、その歩留まり率を比較した。なお、テスト数は、各実施例1〜5、比較例1について、それぞれ48個とした。また、隙間17の幅aの長さは、それぞれ、実施例1を3μm、実施例2を5μm、実施例3を10μm、実施例4を30μm、実施例5を50μmとした。この比較テストの結果を、下記の表1に示した。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示したように、比較テストの結果、比較例1では、良品はなくすべて不良品であった。また、実施例1では、歩留まりは、89%になり、実施例2〜5では、全て良品であった。この結果から、下部電極とボンディング部の境界部の金層に隙間を設けない場合は、ハンダが下部電極からボンディング部に流れていくが、下部電極13とボンディング部16の境界部の金層に隙間17を設けることにより、ハンダが下部電極13からボンディング部16側に流れることを防止できる。さらに、その隙間17の幅aを5μm以上にすることにより、ハンダが下部電極13からボンディング部16側に流れることを確実に防止できることが分かる。
【0025】
また、本発明は、前述した実施形態に限定するものでなく、適宜変更実施が可能である。例えば、下側基板11等や上側基板12等を構成する材料は、アルミナに限定されず、絶縁基板であれば、窒化アルミ、炭化珪素、窒化珪素、表面が絶縁処理されたアルミニウムなどの金属基板等で構成してもよい。また、下部電極13やボンディング部16を構成する金層以外の金属層は、銅層、ニッケル層に限らず、他の金属を用いることができる。また、その他、熱電変換モジュール10等を構成する各部材の材質、形状、サイズ等も使用目的に応じて変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱電変換モジュールを示した斜視図である。
【図2】図1に示した熱電変換モジュールの平面図である。
【図3】図2の3−3断面図である。
【図4】下部電極に形成したハンダペースト層の上面に熱電素子を設置した状態を示した断面図である。
【図5】下側基板に銅層とニッケル層を形成した状態を示した断面図である。
【図6】図5の下側基板にレジスト層を設けて下部電極の金層を形成した状態を示した断面図である。
【図7】図6の下側基板にレジスト層を設けてボンディング部の金層を形成した状態を示した断面図である。
【図8】下側基板に下部電極とボンディング部を形成した状態を示した断面図である。
【図9】下部電極の上面にハンダペースト層を形成しその上に熱電素子を設置した状態を示した断面図である。
【図10】下部電極の上面に接合部で熱電素子を固定した状態を示した断面図である。
【図11】金層に設けた隙間を示した断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10…熱電変換モジュール、11…下側基板、11a…基板延長部、12…上側基板、13…下部電極、13a,16a…銅層、13b,16b…ニッケル層、13c,16c…金層、14…上部電極、15…熱電素子、16…ボンディング部、17…隙間、19…ハンダペースト層、19a…接合部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向させて上下に配置した一対の基板における対向する両面の所定箇所に複数の電極をそれぞれ形成し、前記複数の電極に複数の熱電素子の上下の端面をそれぞれハンダで固定して構成される熱電変換モジュールであって、
前記一対の基板のうちの下側の基板の一端部側に形成された電極における所定の一対の電極から前記下側の基板の一端に向って延びるボンディング部を形成し、前記電極と前記ボンディング部とを、表面が金層からなる複数の金属層で構成し、前記金層における前記一対の電極とその各電極に対応する前記ボンディング部との境界部分に隙間を設け、前記金層が非連続になるようにしたことを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記金層の隙間の長さを5μm以上に設定し、前記金層の下側に形成される金属層をハンダの濡れ性が悪い金属で構成した請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記電極における金層の大きさを、前記電極に固定される前記熱電素子の端面の大きさと同じまたは前記熱電素子の端面の大きさよりも大きくして、前記熱電素子の端面が前記金層からはみ出さないようにした請求項1または2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項1】
対向させて上下に配置した一対の基板における対向する両面の所定箇所に複数の電極をそれぞれ形成し、前記複数の電極に複数の熱電素子の上下の端面をそれぞれハンダで固定して構成される熱電変換モジュールであって、
前記一対の基板のうちの下側の基板の一端部側に形成された電極における所定の一対の電極から前記下側の基板の一端に向って延びるボンディング部を形成し、前記電極と前記ボンディング部とを、表面が金層からなる複数の金属層で構成し、前記金層における前記一対の電極とその各電極に対応する前記ボンディング部との境界部分に隙間を設け、前記金層が非連続になるようにしたことを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記金層の隙間の長さを5μm以上に設定し、前記金層の下側に形成される金属層をハンダの濡れ性が悪い金属で構成した請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記電極における金層の大きさを、前記電極に固定される前記熱電素子の端面の大きさと同じまたは前記熱電素子の端面の大きさよりも大きくして、前記熱電素子の端面が前記金層からはみ出さないようにした請求項1または2に記載の熱電変換モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−158177(P2007−158177A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353659(P2005−353659)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
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