説明

熱電変換装置およびその製造方法

【課題】構造が簡単な熱電変換装置およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】酸素濃度が化学量論的な濃度より低いチタン酸ストロンチウム基板10と、前記チタン酸ストロンチウム基板10上に形成され、チタンとニオブとの合計の原子濃度が、ストロンチウムの原子濃度より高いチタン酸ストロンチウム膜12と、を具備する熱電変換装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換装置およびその製造方法に関し、例えばチタン酸ストロンチウムを含む熱電変換装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO削減および環境保護の観点から熱電変換装置が注目されている。熱電変換装置を用いることにより、これまで廃棄されていた熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、再利用することができる。熱電変換装置として、チタン酸ストロンチウム(STO)薄膜が高い熱電特性を示すことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2007/132782号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のSTOを含む熱電変換装置においては、Nb(ニオブ)をドープしたSTO薄膜とNbをドープしないSTO薄膜とのナノスケールの超格子構造を用いている。このため、熱電変換装置の構造が複雑となる。このため製造コストが高いという課題がある。そこで、構造が簡単な熱電変換装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
例えば、酸素濃度が化学量論的な濃度より低いチタン酸ストロンチウム基板と、前記チタン酸ストロンチウム基板上に形成され、チタンとニオブとの合計の原子濃度が、ストロンチウムの原子濃度より高いチタン酸ストロンチウム膜と、を具備することを特徴とする熱電変換装置を用いる。
【0006】
例えば、チタン酸ストロンチウム基板を還元する工程と、前記チタン酸ストロンチウム基板上に、チタンとニオブとの合計の原子濃度が、ストロンチウムの原理濃度より高いチタン酸ストロンチウム膜を形成する工程と、を含む熱電変換装置の製造方法を用いる。
【発明の効果】
【0007】
構造が簡単な熱電変換装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施例1に係る熱電変換装置の断面図である。
【図2】図2は、実施例1に係る熱電変換素子の製造工程を示す断面図である。
【図3】図3は、Nbチップ数に対する原子濃度を示す図である。
【図4】図4は、XDR測定結果を示す図である。
【図5】図5は、Nb濃度に対するシート抵抗を示す図である。
【図6】図6は、Nb濃度に対するゼーベック係数を示す図である。
【図7】図7は、Nb濃度に対する膜厚方向抵抗を測定したサンプルの模式図である。
【図8】図8は、Nb濃度に対する膜厚方向抵抗を示す図である。
【図9】図9は、比較例におけるNb濃度に対するシート抵抗を示す図である。
【図10】図10は、比較例におけるNb濃度に対するゼーベック係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照に実施例について説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、実施例1に係る熱電変換装置の断面図である。図1のように、還元されたチタン酸ストロンチウム基板10上にNbがドープされたチタン酸ストロンチウム膜12が形成されている。例えば、チタン酸ストロンチウム基板10上にチタン酸ストロンチウム膜12が直接形成されている。チタン酸ストロンチウム膜12上に複数の電極14が形成されている。
【0011】
チタン酸ストロンチウムはペロブスカイト結晶構造となる。チタン酸ストロンチウムの化学量論的な組成はSrTiOである。チタン酸ストロンチウムが還元されると、結晶構造内の酸素が少なくなる。つまり、チタン酸ストロンチウム内の酸素濃度が化学量論的な組成の濃度より低くなる。例えば、SrTiOのyが3より小さくなる。チタン酸ストロンチウム基板10は、還元されており、酸素の原子濃度が化学量論的な濃度より低くなっている。
【0012】
チタン酸ストロンチウム結晶においてはSr(ストロンチウム)がAサイト、Ti(チタン)がBサイトに位置する。化学量論的な組成ではSrとTiの原子濃度は同じである。Nbがドープされたチタン酸ストロンチウムにおいては、チタンのサイトに置換されるニオブ原子が多い。さらに、チタン酸ストロンチウム膜12においては、チタンとニオブとの合計の原子濃度が、ストロンチウムの原子濃度より高い。すなわち、チタン酸ストロンチウム膜12の組成をSr(Tix1Nbx2)Oとしたとき、x1+x2>1である。
【0013】
電極14は、例えば、チタン酸ストロンチウム膜12上に形成されたCr膜およびCr膜上に形成されたAu膜等の金属膜を含む。複数の電極14間に温度差が生じると、電極14間にゼーベック効果による電位が生じる。
【0014】
次に、実施例1に係る熱電変換素子の製造方法について説明する。図2は、実施例1に係る熱電変換素子の製造工程を示す断面図である。図2のように、例えばスパッタリング法を用い、チタン酸ストロンチウム基板10上にNbがドープされたチタン酸ストロンチウム膜12を形成する。チタン酸ストロンチウム膜12を形成する際に、チタン酸ストロンチウム基板10を還元する。図1のように、チタン酸ストロンチウム膜12上に、例えばスパッタリング法を用い電極14を形成する。以上のように、実施例1に係る熱電変換素子を製造する。
【0015】
次に、実施例1に係る熱電変換素子の特性を調べた。図2を参照し、厚さが0.5mm、縦横が15mm×15mmの(001)面を主面とするチタン酸ストロンチウム基板10をスパッタリング装置のチャンバ内に導入する。チタン酸ストロンチウム基板10を600℃まで加熱する。80mm径の多結晶体であるSr(Ti0.98Nb0.02)Oターゲットを用い、ターゲット上に厚さが1mm、縦横が5mm×5mmのNbチップを配置した。スパッタガスとしてAr(アルゴン)ガスを用い、ガス圧力を10mTorrとし、膜厚が300nm〜400nmのNbドープチタン酸ストロンチウム膜12をチタン酸ストロンチウム基板10に形成した。Nbのドープ量は、Nbチップの個数により変化させた。
【0016】
成膜したNbドープチタン酸ストロンチウム膜12の各元素の原子濃度をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法を用い測定した。図3は、Nbチップ数に対する原子濃度を示す図である。黒丸が測定点であり、実線は測定点を結んだ線である。図3のように、Nbチップ数を増やすと、TiとSrの原子濃度が減少し、Nbの原子濃度が増加する。Nbチップを10個以上とすると、チタン酸ストロンチウム膜12は成長できなかった。
【0017】
Nb濃度が1.3原子%、18原子%、27原子%のNbドープチタン酸ストロンチウム膜12をXDR(X-ray Diffractometer)法を用い測定した。図4は、XDR測定結果を示す図である。図4においては、Nb濃度が1.3原子%、18原子%、27原子%のサンプルは、それぞれ図3のNbチップ数が0、5、9個のサンプルに対応する。図4の(001)および(002)は、それぞれペロブスカイト結晶構造の(001)面および(002)面に対応するピークである。(001)および(002)の最も大きいピークは、チタン酸ストロンチウム基板10で反射された信号であり、各サンプルで同じ角度にピークをもつ。Nb濃度が1.3原子%、18原子%、27原子%と大きくなるとチタン酸ストロンチウム膜12で反射された信号のピーク角度が小さくなる。これは、Nbの原子濃度に対応し格子定数が大きくなることを示している。また、各サンプルとも(001)と(002)との間に他のピークは観察されない。これは、チタン酸ストロンチウム膜12がエピタキシャル成長されていることを示している。
【0018】
図4のように、Nb濃度が27原子%以下では、チタン酸ストロンチウム膜12はペロブスカイト単相膜となっている。また、図3より、NbとTiとの合計の原子濃度はSrの原子濃度より高い。
【0019】
各サンプルのチタン酸ストロンチウム膜12の上面に膜厚が25nmのCr膜、Cr膜上に膜厚が100nmのAu膜を電極14としてスパッタリング法を用い形成した。ファンデアポー法を用い各サンプルの面方向(図1の左右方向)のシート抵抗を測定した。図5は、Nb濃度に対するシート抵抗を示す図である。図5のように、Nb濃度が増加すると、シート抵抗が低下する。Nb濃度が10原子%のサンプルでは、シート抵抗が150Ω/□以上である。一方、Nb濃度が25原子%と27原子%のサンプルでは、シート抵抗は50Ω/□程度以下と小さい。
【0020】
各サンプルの面方向のゼーベック係数を測定した。図6は、Nb濃度に対するゼーベック係数を示す図である。Nb濃度が10原子%のサンプルでは、熱電特性が得られなかった。Nb濃度が14原子%以上のサンプルでは、ゼーベック係数は−0.45mV/K〜−0.50mV/Kと良好な値であった。
【0021】
次に、各サンプルの膜厚方向抵抗を測定した。図7は、膜厚方向抵抗を測定したサンプルの模式図である。図7のように、チタン酸ストロンチウム基板10の下面に膜厚が25nmのCr膜、Cr膜下に膜厚が100nmのAu膜を電極16としてスパッタリング法を用い形成した。シリコン基板20の上面にCr膜とCr膜上にAu膜を電極22として形成した。電極16と20とをAgペースト18を用い接合した。電極14と電極22との間の抵抗を測定することにより、各サンプルの膜厚方向の抵抗を測定した。
【0022】
図8は、Nb濃度に対する膜厚方向抵抗を示す図である。図8のように、Nb濃度に対する膜厚方向の抵抗値は、Nb濃度が10原子%のサンプルでは20kΩ、Nb濃度が25原子%と27原子%のサンプルではほぼ0である。理想的なチタン酸ストロンチウムにおいては、抵抗率は非常に高い。膜厚方向抵抗が小さいことは、チタン酸ストロンチウム基板10の膜厚方向の抵抗が理想的な抵抗より低いことを示している。チタン酸ストロンチウムは、還元され酸素濃度が低下すると抵抗率が低下する。よって、チタン酸ストロンチウム基板10は還元されていると考えられる。チタン酸ストロンチウム基板10は、チタン酸ストロンチウム膜12を形成する際に、還元されたと考えられる。例えば、真空中または還元性ガス中において加熱することにより、チタン酸ストロンチウム基板10を還元することができる。実施例1においては、チタン酸ストロンチウム基板10を真空中において600℃に加熱することにより、チタン酸ストロンチウム基板10が還元されたものと考えられる。
【0023】
次に、比較例として、基板を、チタン酸ストロンチウム基板の代わりに(001)面を主面とするLaAlO基板上に同様にNbドープチタン酸ストロンチウム膜12を形成したサンプルを作製した。Nbドープチタン酸ストロンチウム膜12は、実施例1と同様にペロブスカイト単相膜となっている。図9は、比較例におけるNb濃度に対するシート抵抗を示す図である。Nb濃度が10原子%と13原子%のサンプルは、面方向のシート抵抗が高い。一方、Nb濃度が25原子%と27原子%のサンプルの面方向のシート抵抗は、図5と同様に非常に小さい。よって、少なくともNb濃度が25原子%と27原子%のサンプルにおいては、実施例1と同様のチタン酸ストロンチウム膜12が形成されていると考えられる。
【0024】
図10は、比較例におけるNb濃度に対するゼーベック係数を示す図である。図10のように、いずれのサンプルも面方向のゼーベック係数の絶対値は大きくない。特に、Nb濃度が25原子%と27原子%のサンプルのゼーベック係数の絶対値は非常に小さい。LaAlOは還元され難い材料であり、チタン酸ストロンチウム膜12を形成する際に、LaAlO基板は還元されていない。図10のように、還元されていない基板ではNb濃度が25原子%と27原子%のサンプルを用いてもゼーベック係数の絶対値は大きくならないことがわかった。このように、Nbがドープされたチタン酸ストロンチウム膜12を用いるだけでは、良好なゼーベック係数は得られず、チタン酸ストロンチウム基板10が還元されていることにより、良好なゼーベック係数が得られることがわかった。
【0025】
以上のように、実施例1によれば、チタン酸ストロンチウム基板10中の酸素濃度が化学量論的な濃度より低い。かつ、チタン酸ストロンチウム膜12中のチタンとニオブとの合計の原子濃度が、ストロンチウムの原子濃度より高い。これにより、ゼーベック係数の大きい熱電変換素子をとすることができる。さらに、チタン酸ストロンチウム膜12において、ニオブがチタンのサイトに置換されていることが好ましい。これにより、ゼーベック係数のより大きい熱電変換素子をとすることができる。
【0026】
図3のように、チタン、ニオブおよびストロンチウムの合計に対するニオブの濃度が27原子%以下において、ペロブスカイト単相構造のチタン酸ストロンチウム膜12を形成することができる。また、図6より、チタン、ニオブおよびストロンチウムの合計に対するニオブの原子濃度を10%より大きくすることにより、良好な熱電特性を得ることができる。以上により、チタン、ニオブおよびストロンチウムの合計に対するニオブの原子濃度は、10%より大きく、かつ27%以下であることが好ましい。また、13%以上かつ27%以下がより好ましく、15%以上かつ25%以下がより好ましい。
【0027】
チタン酸ストロンチウム膜12は、スパッタリング法を用い形成することができる。さらに、チタン酸ストロンチウムターゲット上に金属ニオブを配置し、チタン酸ストロンチウムとニオブとを同時にスパッタリングすることにより、チタン酸ストロンチウム膜12を形成することができる。
【0028】
チタン酸ストロンチウム基板10の還元は、チタン酸ストロンチウム膜12の形成とは別の工程で行なうこともできるが、チタン酸ストロンチウム膜12を形成する際に、チタン酸ストロンチウム基板10を還元することができる。すなわち、チタン酸ストロンチウム基板10を還元する工程は、チタン酸ストロンチウム膜12を形成する工程において行なうことができる。これにより、製造工程を削減することができる。
【0029】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0030】
実施例1を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
付記1:酸素濃度が化学量論的な濃度より低いチタン酸ストロンチウム基板と、前記チタン酸ストロンチウム基板上に形成され、チタンとニオブとの合計の原子濃度が、ストロンチウムの原子濃度より高いチタン酸ストロンチウム膜と、を具備することを特徴とする熱電変換装置。
付記2:前記チタン酸ストロンチウム膜において、ニオブがチタンのサイトに置換されていることを特徴とする付記1記載の熱電変換装置。
付記3:前記チタン酸ストロンチウム膜における、チタン、ニオブおよびストロンチウムの合計に対するニオブの原子濃度が10%より大きくかつ27%以下であることを特徴とする付記1または2記載の熱電変換装置。
付記4:前記チタン酸ストロンチウム膜における、チタン、ニオブおよびストロンチウムの合計に対するニオブの原子濃度が13%以上かつ27%以下であることを特徴とする付記1または2記載の熱電変換装置。
付記5:チタン酸ストロンチウム基板を還元する工程と、前記チタン酸ストロンチウム基板上に、チタンとニオブとの合計の原子濃度が、ストロンチウムの原理濃度より高いチタン酸ストロンチウム膜を形成する工程と、を含む熱電変換装置の製造方法。
付記6:前記チタン酸ストロンチウム膜は、スパッタリング法を用い形成されることを特徴とする付記5記載の熱電変換装置の製造方法。
付記7:前記チタン酸ストロンチウム膜を形成する工程において、チタン酸ストロンチウムターゲット上に金属ニオブを配置し、チタン酸ストロンチウムとニオブとを同時にスパッタリングすることを特徴とする付記6記載の熱電変換装置の製造方法。
付記8:前記チタン酸ストロンチウム基板を還元する工程は、前記チタン酸ストロンチウム膜を形成する工程において行なわれることを特徴とする付記5から7のいずれか一項記載の熱電変換装置の製造方法。
【符号の説明】
【0031】
10 チタン酸ストロンチウム基板
12 チタン酸ストロンチウム膜
14 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素濃度が化学量論的な濃度より低いチタン酸ストロンチウム基板と、
前記チタン酸ストロンチウム基板上に形成され、チタンとニオブとの合計の原子濃度が、ストロンチウムの原子濃度より高いチタン酸ストロンチウム膜と、
を具備することを特徴とする熱電変換装置。
【請求項2】
前記チタン酸ストロンチウム膜において、ニオブがチタンのサイトに置換されていることを特徴とする請求項1記載の熱電変換装置。
【請求項3】
前記チタン酸ストロンチウム膜における、チタン、ニオブおよびストロンチウムの合計に対するニオブの原子濃度が10%より大きくかつ27%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の熱電変換装置。
【請求項4】
チタン酸ストロンチウム基板を還元する工程と、
前記チタン酸ストロンチウム基板上に、チタンとニオブとの合計の原子濃度が、ストロンチウムの原理濃度より高いチタン酸ストロンチウム膜を形成する工程と、
を含む熱電変換装置の製造方法。
【請求項5】
前記チタン酸ストロンチウム基板を還元する工程は、前記チタン酸ストロンチウム膜を形成する工程において行なわれることを特徴とする請求項4記載の熱電変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−94717(P2012−94717A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241419(P2010−241419)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】