説明

燃料噴射制御装置

【課題】エンジンの始動性をより向上させることを可能にする。
【解決手段】エンジン停止後における吸気管11内での気体の逆流量の検出が可能なMAFセンサ12で検出した逆流量に基づいて、吸気ポート16aに付着した燃料の蒸発量である蒸発燃料量の推定値を補正するとともに、エンジン始動時に燃焼室22に噴射する燃料の噴射量をこの推定値に基づいて減量補正し、この減量補正が行われた噴射量に応じた量の燃料をエンジン始動時に燃料噴射弁17から燃焼室22に噴射させるエンジンECU1を備えることによって、より正確な空燃比コントロールを行い、エンジンの始動性をより向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンへ噴射する燃料の量の制御を行う燃料噴射制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子制御式のエンジンでは、エンジンの1行程あたりの吸入空気量に対して最適な空燃比となるように噴射する燃料の量を算出し、それに基づきエンジンの1行程毎に燃料噴射弁から噴射する燃料(以下、噴射燃料と呼ぶ)の噴射量を制御している。
【0003】
しかしながら、燃料噴射弁から噴射された噴射燃料は、全量が完全にシリンダ内に吸入されるわけではなく実際にはその一部が吸気ポート付近に付着する。そして、この付着した分の燃料(以下、付着燃料と呼ぶ)は、時間とともに蒸発する。よって、エンジン停止後に吸気ポート付近に付着燃料が存在していた場合、その後のエンジン始動時にその付着燃料から蒸発した燃料(以下、蒸発燃料と呼ぶ)が、噴射燃料と一緒にエンジンの燃焼室に取り込まれる。従って、エンジンの燃焼室に取り込まれる燃料量が過多となることによって空燃比がリッチ状態になって混合気の着火性が悪くなり、排ガス浄化性能が悪化する、もしくは、エンジンの始動性が悪化するという問題が発生する。
【0004】
そこで、この問題を解決する手段として、例えば特許文献1には、吸気通路に付着した燃料の蒸発燃料濃度を推定し、この蒸発燃料濃度分だけ燃料の噴射量を補正する技術が開示されている。詳しくは、特許文献1に開示の技術では、エンジン停止後のソーク時間に対して吸気通路内における蒸発燃料濃度の変化を実験的に確認して定めた模擬濃度データを予め記憶しておく。そして、エンジン始動時に、実際に計時したソーク時間に対する模擬的な蒸発燃料濃度を、模擬濃度データを参照することにより設定し、その設定した模擬的な蒸発燃料濃度に基づいてエンジン始動時の燃料の噴射量を減量補正する。
【特許文献1】特開2004−204788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、実験的に確認して定めた模擬濃度データを参照することによってソーク時間に対する蒸発燃料濃度を推定するので、実験的に確認しなかった状況においては、ソーク時間に対する蒸発燃料濃度を精度良く推定することができない。詳しくは、エンジンをアイドリングの状態から停止させたか、数千回転の状態から停止させたかなど、エンジンの停止の仕方の違いによって、ソーク時間は同一であったとしても実際の蒸発燃料濃度には違いが生じるため、実験的に確認しなかった状況においては、ソーク時間に対する蒸発燃料濃度を精度良く推定することができない。よって、この点においても特許文献1に開示の技術では、エンジン始動時の燃料の噴射量の減量補正に誤差が生じる。
【0006】
従って、特許文献1に開示の技術では、正確な空燃比コントロールを行うことができず、混合気の着火性が悪くなり、エンジンの始動性が悪化するという問題点を有していた。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、排ガス浄化性能およびエンジンの始動性をより向上させることを可能にする燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の燃料噴射制御装置は、上記課題を解決するために、吸気通路に付着した燃料の蒸発量である蒸発燃料量の推定値に基づいて、エンジン始動時にエンジンシリンダ内に噴射する燃料の噴射量を減量補正し、この減量補正が行われた噴射量に応じた量の燃料をエンジン始動時に燃料噴射弁からエンジンシリンダ内に噴射させる燃料噴射制御装置であって、エンジン停止後における前記吸気通路内での気体の逆流量の検出が可能な流量センサで検出した前記逆流量に基づいて前記推定値を補正する推定値補正手段を備えていることを特徴としている。
【0009】
これによれば、エンジン停止後の排気の逆流にのって吸気系のHC吸着剤に吸着されるような、エンジン停止後のエンジン始動時に、燃料噴射弁から噴射される燃料(以下、噴射燃料と呼ぶ)と一緒にはエンジンシリンダ内に取り込まれない蒸発燃料(以下、吸着蒸発燃料と呼ぶ)の量を計測することが可能になる。詳しくは、エンジン停止後における吸気通路内での気体の逆流量と吸着蒸発燃料の量とが比例関係になるため、流量センサによって上述の逆流量を検出することによって吸着蒸発燃料の量を間接的に計測することが可能になる。そして、この間接的に計測した吸着蒸発燃料の量に基づいて、エンジン始動時にエンジンシリンダ内に噴射する燃料の噴射量を減量補正するための推定値を補正することができるので、この吸着蒸発燃料の量による誤差を上述の推定値から除くことが可能になる。よって、請求項1の構成によれば、より正確な空燃比コントロールを行うことが可能になるので、排ガス浄化性能およびエンジンの始動性をより向上させることが可能になる。
【0010】
また、請求項1の構成によれば、蒸発燃料量の推定値を、流量センサで上述の逆流量を実際に検出することで間接的に計測した吸着蒸発燃料の量に基づいて補正するので、実験的に確認して定めた模擬濃度データを参照することによって求められた蒸発燃料量の推定値よりも実際の状況に応じた蒸発燃料量の推定値を得ることが可能になる。よって、この点においても請求項1の構成によれば、より正確な空燃比コントロールを行うことが可能になり、排ガス浄化性能およびエンジンの始動性をより向上させることが可能になる。
【0011】
また、請求項2の燃料噴射制御装置では、前記流量センサは、エンジン停止に先立つ燃料カット後の前記吸気通路内での正流方向への気体の流量である正流量の検出も可能であり、前記推定値補正手段は、前記流量センサで検出した前記逆流量に加え、前記正流量に基づいて、前記推定値を補正することを特徴としている。
【0012】
吸気通路に付着した燃料から蒸発した蒸発燃料のうち、噴射燃料と一緒にエンジンの燃焼室に取り込まれない一部の蒸発燃料として、前述した吸着蒸発燃料の他にも、エンジン停止に先立つ燃料カット後のエンジン回転によってエンジンシリンダ内に吸われて排気通路に排出される蒸発燃料(以下、排出蒸発燃料と呼ぶ)が存在する。
【0013】
請求項2の構成によれば、吸着蒸発燃料の量に加え、排出蒸発燃料の量も計測することが可能になる。詳しくは、エンジン停止に先立つ燃料カット後における吸気通路内での気体の正流量と排出蒸発燃料の量とが比例関係になるため、流量センサによって上述の正流量を検出することによって排出蒸発燃料の量を間接的に計測することが可能になる。そして、この間接的に計測した排出蒸発燃料の量および吸着蒸発燃料の量に基づいて、エンジン始動時にエンジンシリンダ内に噴射する燃料の噴射量を減量補正するための推定値を補正することができるので、この排出蒸発燃料の量による誤差および吸着蒸発燃料の量による誤差を上述の推定値から除くことが可能になる。よって、請求項2の構成によれば、さらに正確な空燃比コントロールを行うことが可能になるので、排ガス浄化性能およびエンジンの始動性をさらに向上させることが可能になる。
【0014】
また、請求項2の構成によれば、蒸発燃料量の推定値を、流量センサで上述の正流量を実際に検出することで間接的に計測した排出蒸発燃料の量にも基づいて補正するので、実験的に確認して定めた模擬濃度データを参照することによって求められた蒸発燃料量の推定値よりもさらに実際の状況に応じた蒸発燃料量の推定値を得ることが可能になる。よって、この点においても請求項2の構成によれば、さらに正確な空燃比コントロールを行うことが可能になり、排ガス浄化性能およびエンジンの始動性をさらに向上させることが可能になる。
【0015】
また、請求項3の燃料噴射制御装置では、前記流量センサは、MAFセンサであることを特徴としている。
【0016】
この請求項3のように、流量センサとしてMAFセンサを用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明が適用されたエンジンECU1を含む内燃システム100の概略的な構成を示す模式図である。図1に示す内燃システム100は、車両に搭載されるものであり、エンジンECU1、エンジン10、吸気管11、MAFセンサ12、スロットルバルブ13、サージタンク14、吸気圧力センサ15、吸気マニホールド16、吸気ポート16a、燃料噴射弁17、吸気バルブ18、排気バルブ19、シリンダブロック20、シリンダ内壁面20a、ピストン21、燃焼室22、シリンダヘッド23、排気ポート24、点火プラグ25、および冷却水温センサ26を含んでいる。
【0018】
内燃機関であるエンジン10において、吸気管11の最上流部にはHC吸着剤等を含むエアクリーナ(図示せず)が設けられ、このエアクリーナの下流側には、吸入空気量を検出するためのMAF(mass air flow)センサ12が設けられている。
【0019】
このMAFセンサ12は、吸入空気量の変化に応じて出力が応答良く変化する高応答・高速起動型のMAFセンサ12であり、逆流も検出可能となっている。逆流検出時には、MAFセンサ12の出力がマイナス値となる。MAFセンサ12のボディ部には、吸気管11を流れる吸入空気の一部を吸気管11内の吸入空気の流れと同じ方向に流す主流路とこの主流路の中央部付近から直角に分岐したU字状のバイパス路とが形成され、主流路の出口側には、該主流路の流路断面積を出口に向かって徐々に小さくする傾斜面が形成され、且つ、バイパス路の出口が吸気管11の下流側(吸気管11内の吸入空気の順流方向)に向けて開口し、吸入空気の逆流を該出口からバイパス路内に取り入れやすいバイパス構造となっており、これにより、吸入空気の逆流を検出しやすい構造となっている。バイパス路の入口は、傾斜面によって主流路の出口側に向かって広げられており、当該バイパス路の入口には、吸入空気量を順流と逆流に区別して検出するセンサ素子が設けられている。このセンサ素子は、例えば、半導体基板の表面に、発熱素子と感温素子と(共に図示せず)を熱容量の非常に小さい薄膜抵抗体で形成したものであり、これにより、熱容量の非常に小さい高応答・高速起動型のセンサ素子が構成されている。
【0020】
MAFセンサ12の下流側には、DCモータ等のスロットルアクチュエータによって開度調節されるスロットルバルブ13が設けられている。なお、スロットルバルブ13の開度(スロットル開度)は、スロットルアクチュエータに内蔵されたスロットル開度センサにより検出されるようになっている。
【0021】
スロットルバルブ13の下流側にはサージタンク14が設けられ、このサージタンク14には、吸気管11内の圧力を検出するための吸気圧力センサ15が設けられている。また、サージタンク14には、エンジン10の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド16が接続されており、吸気マニホールド16において各気筒の吸気ポート16a周辺には、燃料を噴射供給する電磁駆動式の燃料噴射弁17が取り付けられている。そして、エンジン10の吸気ポート16aおよび排気ポート24にはそれぞれ吸気バルブ18および排気バルブ19が設けられている。
【0022】
シリンダブロック20には円筒状のシリンダ内壁面20aが形成されるとともにその下方にクランクケースが形成されており、シリンダ内壁面20a内にはピストン21が図中の上下方向に摺動可能に収容されている。また、クランクケースの下部にはエンジンオイルを貯留するためのオイルパンが形成されている。そして、シリンダ内壁面20aと、ピストン21の上端面と、シリンダヘッド23の内周面により燃焼室22が区画形成されている。
【0023】
エンジン10の運転の開始に際し吸気バルブ18が開放されると、燃料噴射弁17による噴射燃料と、吸入空気との混合気が燃焼室22内に導入され、排気バルブ19の開動作により燃焼後の排ガスが排気ポート24に排出される。
【0024】
エンジン10のシリンダヘッド23には気筒毎に点火プラグ25が取り付けられており、点火プラグ25には、点火コイル等よりなる点火装置を通じて、目標(所望)とする点火時期において高電圧が印加される。この高電圧の印加により、各点火プラグ25の対向電極間に火花放電が発生し、燃焼室22内に導入した混合気が着火され燃焼に供される。また、エンジン10のシリンダブロック20には、冷却水温を検出する冷却水温センサ26が取り付けられている。
【0025】
上述した各種センサの出力は、エンジン制御装置としてのエンジンECU1に入力される。エンジンECU1は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態(例えば冷却水温など)に応じた燃料噴射量の算出、燃料噴射弁17の燃料噴射量の制御、点火プラグ25による点火時期の制御、吸気バルブ18のバルブタイミングの制御などの各種の処理を実行する。また、エンジンECU1は、MAFセンサ12から出力されるセンサ信号に基づいてエンジン停止後の次のエンジン始動時に吸気管11内に残留している蒸発燃料の量(以下、残留蒸発燃料量と呼ぶ)を算出し、算出した残留蒸発燃料量に応じて上述の燃料噴射量の減量補正も行う。よって、エンジンECU1は、請求項の燃料噴射制御装置として機能する。
【0026】
ここで、燃料噴射量の算出、残留蒸発燃料量、および燃料噴射量の減量補正についての説明を行う。まず、燃料噴射量の算出とは、エンジン10の1行程あたりの吸入空気量に対して最適な空燃比となるように噴射する燃料(以下、噴射燃料と呼ぶ)の量を算出する処理であって、運転条件に応じて行われる周知の処理である。例えばエンジン始動時であれば、運転条件として冷却水温などに応じて、最適な空燃比となるような燃料噴射量を算出することになる。
【0027】
続いて、残留蒸発燃料量および燃料噴射量の減量補正についての説明を行う。上述したように、エンジン始動時に燃料噴射弁17によって燃料が噴射され、吸入空気との混合気が燃焼室22内に導入された後に燃焼に供されるが、燃料噴射弁17によって噴射された噴射燃料の一部は吸気ポート16a付近に付着して燃焼に供されない。しかしながら、この吸気ポート16a付近に付着した燃料(以下、付着燃料と呼ぶ)は時間とともに蒸発するため、エンジン停止後の次のエンジン始動時には、その付着燃料から蒸発した燃料(以下、蒸発燃料と呼ぶ)のうちエンジン始動時に吸気管11内に残留している残留蒸発燃料が噴射燃料と一緒に燃焼室22に取り込まれる。なお、噴射燃料と一緒に蒸発燃料が燃焼室22に取り込まれると、上述の燃料噴射量の算出の処理で想定していたよりもエンジンの燃焼室22に取り込まれる燃料量が過多となる。また、エンジンの燃焼室22に取り込まれる燃料量が過多となると上述の空燃比がリッチ状態になって混合気の着火性が悪くなり、エンジンの始動性が悪化する。従って、上述の燃料噴射量の算出の処理で算出した燃料噴射量から残留蒸発燃料量を減量補正することによって、最適な空燃比となる燃料噴射量に補正する必要がある。
【0028】
本実施形態のエンジンECU1では、燃料噴射量の算出、残留蒸発燃料量の算出、および燃料噴射量の減量補正を行うことによって、エンジン始動時に燃料噴射弁17によって噴射される燃料の燃料噴射量を最適な空燃比となる燃料噴射量に補正する。なお、残留蒸発燃料量の算出の詳細については後述する。
【0029】
次に、図2を用いて、エンジンECU1における残留蒸発燃料量の算出および記録の処理についての説明を行う。図2は、エンジンECU1での残留蒸発燃料量の算出および記録の処理のフローの一例を示すフローチャートである。なお、本フローは、車両のイグニッションスイッチがオンされたときに開始される。
【0030】
まず、ステップS1では、エンジン停止条件が成立したか否かを判定する。例えば、イグニッションスイッチがオフされたことを検出した場合や周知の自動アイドリングストップ機構によりエンジンの停止の指示が行われたことを検出した場合にエンジン停止条件が成立したとエンジンECU1で判定するものとする。そして、エンジン停止条件が成立したと判定した場合(ステップS1でYes)には、ステップS2に移る。また、エンジン停止条件が成立したと判定しなかった場合(ステップS1でNo)には、ステップS1のフローを繰り返す。
【0031】
ステップS2では、燃料噴射弁17からの燃料噴射を停止させるよう制御を行い、燃料噴射が停止されたか否かを判定する。そして、燃料噴射が停止されたと判定した場合(ステップS2でYes)には、ステップS3に移る。また、燃料噴射が停止されたと判定しなかった場合(ステップS2でNo)には、ステップS2のフローを繰り返す。
【0032】
ステップS3では、MAFセンサ12から出力されるセンサ信号をもとに、エンジン停止に先立つF/C後の吸気管11内での正流方向への気体の流量中の蒸発燃料である正流方向蒸発燃料積算量(以下、排出蒸発燃料量と呼ぶ)を算出し、ステップS4に移る。詳しくは、蒸発燃料の量は、吸気ポート16aの温度(本実施形態では冷却水温をとする)、吸気管11内の圧力(つまり、吸気圧力)、および吸気ポート近辺に付着した付着燃料の量により一義的に決まっている。なお、付着燃料の量は、例えば冷却水温センサ26とMAPセンサとから得られるセンサ信号に応じて求める周知の方法を用いて得る構成とすればよい(このようにして得た付着燃料の量を、以降では推定付着燃料量と呼ぶ)。よって、例えば冷却水温、吸気圧力、および推定付着燃料量と、正流方向の気体の流量中の排出蒸発燃料量の割合を表す係数との対応関係を示すテーブル(以下、第1対応関係テーブルと呼ぶ)を予めエンジンECU1のROMに格納しておく。そして、冷却水温センサ26のセンサ信号と吸気圧力センサ15のセンサ信号と推定付着燃料量とに基づいて第1対応関係テーブルを参照して上述の係数を得て、この係数をもとに1周期毎の正流量について排出蒸発燃料量を求め、1周期毎に求めた排出蒸発燃料量を積算することによって、エンジン停止に先立つF/C後の吸気管11内での正流方向への気体の流量中の排出蒸発燃料量の総和を求める。
【0033】
ステップS4では、MAFセンサ12から出力されるセンサ信号をもとに、エンジン停止後における吸気管11内での気体の逆流方向への気体の流量中の蒸発燃料である逆流方向蒸発燃料積算量(以下、吸着蒸発燃料と呼ぶ)を算出し、ステップS5に移る。詳しくは、蒸発燃料量は、吸気ポート16aの温度(本実施形態では冷却水温をとする)、吸気管11内の圧力(つまり、吸気圧力)、および上述の推定付着燃料量により一義的に決まっている。よって、例えば冷却水温および推定付着燃料量と、逆流方向の気体の流量中の吸着蒸発燃料の量の割合を表す係数との対応関係を示すテーブル(以下、第2対応関係テーブルと呼ぶ)を予めエンジンECU1のROMに格納しておく。なお、エンジン停止後には吸気圧力はほぼ大気圧と同じになり一定となるので、本実施形態では第2対応関係テーブルにおいて対応づけていない。そして、冷却水温センサ26のセンサ信号と吸気圧力センサ15のセンサ信号と推定付着燃料量とに基づいて第2対応関係テーブルを参照して上述の係数を得て、この係数をもとに1周期毎の逆流量について吸着蒸発燃料量を求め、1周期毎に求めた吸着蒸発燃料量を積算することによって、エンジン停止後における吸気管11内での気体の逆流方向への気体の流量中の吸着蒸発燃料量の総和を求める。
【0034】
ステップS5では、エンジン停止に先立つF/C後から次のエンジン始動時までに吸気管11内で付着燃料から蒸発した分の蒸発燃料の量と、排出蒸発燃料量と、吸着蒸発燃料量とから、残留蒸発燃料量を算出し、ステップS6に移る。よって、このステップS5の処理が請求項の推定値補正手段に相当する。
【0035】
なお、残留蒸発燃料量の算出にあたっては、蒸発燃料のうちのエンジン停止に先立つF/C後のエンジン回転によって燃焼室22に吸われて排気ポート24に排出される蒸発燃料(排出蒸発燃料)を用いる。なお、次のエンジン始動時に燃料噴射弁17から噴射される噴射燃料と一緒には排出蒸発燃料は燃焼室22に取り込まれないこととなる。
【0036】
また、残留蒸発燃料量の算出にあたっては、蒸発燃料のうちのエンジン停止後の排気の逆流にのって吸気系のHC吸着剤に吸着される蒸発燃料(吸着蒸発燃料量)を用いる。なお、次のエンジン始動時に燃料噴射弁17から噴射される噴射燃料と一緒には吸着蒸発燃料は燃焼室22に取り込まれないこととなる。残留蒸発燃料量の算出は、蒸発燃料量の推定値から上述のようにして求めた排出蒸発燃料量および吸着蒸発燃料量に相当する値を減算することによって行う。
【0037】
ステップS6では、ステップS5で算出した残留蒸発燃料量をエンジンECU1のバックアップRAMに格納し、フローを終了する。
【0038】
次に、図3を用いて、エンジンECU1でのエンジン始動時の燃料噴射量(以下、始動時燃料噴射量と呼ぶ)の減量補正についての説明を行う。図3は、エンジンECU1での始動時燃料噴射量の減量補正に関わる動作フローの一例を示すフローチャートである。なお、本フローは、イグニッションスイッチがオフされることによるエンジン停止や自動アイドリングストップ機構によるエンジン停止など、車両のエンジン10が停止されたときに開始される。
【0039】
まず、ステップS11では、エンジン10の始動の要求があったか否かを判定する。例えば、スタータスイッチがオンされたことを検出した場合や周知の自動アイドリングストップ機構によりアイドリングストップ後のエンジンの始動の指示が行われたことを検出した場合にエンジン10の始動の要求があったとエンジンECU1で判定するものとする。そして、エンジン10の始動の要求があったと判定した場合(ステップS11でYes)には、ステップS12に移る。また、エンジン10の始動の要求があったと判定しなかった場合(ステップS11でNo)には、ステップS11のフローを繰り返す。
【0040】
ステップS12では、運転条件に応じて始動時燃料噴射量の算出を行い、ステップS13に移る。ステップS13では、上述のステップS6でエンジンECU1のバックアップRAMに格納された残留蒸発燃料量に応じてステップS12で算出した始動時燃料噴射量の補正を行い、ステップS14に移る。詳しくは、ステップS12で算出した始動時燃料噴射量を、エンジンECU1のバックアップRAMに格納された残留蒸発燃料量分だけ減量補正する。ステップS14では、補正された始動時燃料噴射量に従った量の燃料を噴射するように燃料噴射弁17を制御(つまり、補正を反映させて燃料噴射弁17を制御)し、フローを終了する。
【0041】
以上の構成によれば、吸着蒸発燃料量および排出蒸発燃料量を算出し、この算出した吸着蒸発燃料量および排出蒸発燃料量に基づいて、エンジン始動時に燃焼室22に噴射する燃料の噴射量を減量補正するための蒸発燃料量の推定値を補正することができるので、この吸着蒸発燃料量および排出蒸発燃料量による誤差を上述の推定値から除くことが可能になる。よって、以上の構成によれば、より正確な空燃比コントロールを行うことが可能になるので、エンジンの始動性をより向上させることが可能になる。
【0042】
また、以上の構成によれば、蒸発燃料量の推定値を、流量センサで上述の逆流量を実際に検出することで間接的に計測した吸着蒸発燃料量および排出蒸発燃料量に基づいて補正するので、実験的に確認して定めたデータを参照することによって求められた蒸発燃料量の推定値よりも実際の状況に応じた蒸発燃料量の推定値を得ることが可能になる。よって、この点においても以上の構成によれば、より正確な空燃比コントロールを行うことが可能になり、エンジンの始動性をより向上させることが可能になる。
【0043】
なお、本実施形態では、算出した残留蒸発燃料量によってエンジン始動時の燃料噴射量を補正する構成を示したが、必ずしもこれに限らず、算出した残留蒸発燃料量によってエンジン始動時以外の燃料噴射量を補正する構成であってもよい。
【0044】
また、本実施形態では、正流方向積算量および逆流方向積算量に基づいて残留蒸発燃料量を算出する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、正流方向積算量および逆流方向積算量のうちのいずれか一方に基づいて残留蒸発燃料量を算出する構成であってもよい。この場合であっても、吸着蒸発燃料量および排出蒸発燃料量のうちのいずれかによる誤差を蒸発燃料量の推定値から除くことが可能になるので、上述の誤差を蒸発燃料量の推定値から除かない構成に比べて、より正確な空燃比コントロールを行うことが可能になり、エンジンの始動性をより向上させることが可能になる。
【0045】
なお、本実施形態では、蒸発燃料量の推定値を冷却水温センサ26から得られるセンサ信号に応じて求める周知の方法を用いて得る構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、蒸発燃料量の推定値をソーク時間に応じて求める(例えば、特許文献1に開示の模擬HC濃度マップを用いるなどの)周知の方法を用いて得る構成であってもよい。
【0046】
また、本実施形態では、MAFセンサ12から出力されるセンサ信号をもとに正流方向積算量を求める構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、吸気圧力センサ15から出力されるセンサ信号とエンジン停止に先立つF/Cからの経過時間(エンジンECU1から得るものとする)とをもとに正流方向積算量を求める構成であってもよい。
【0047】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】内燃システム100の概略的な構成を示す模式図である。
【図2】エンジンECU1での残留蒸発燃料量の算出および記録の処理のフローの一例を示すフローチャートである。
【図3】エンジンECU1での始動時燃料噴射量の減量補正に関わる動作フローの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1 エンジンECU(燃料噴射制御装置、推定値補正手段)、10 エンジン、11 吸気管(吸気通路)、12 MAFセンサ(流量センサ)、14 サージタンク、15 吸気圧力センサ、16 吸気マニホールド(吸気通路)、16a 吸気ポート(吸気通路)、17 燃料噴射弁、18 吸気バルブ、19 排気バルブ、22 燃焼室(エンジンシリンダ内)、24 排気ポート、26 冷却水温センサ、100 内燃システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路に付着した燃料の蒸発量である蒸発燃料量の推定値に基づいて、エンジン始動時にエンジンシリンダ内に噴射する燃料の噴射量を減量補正し、この減量補正が行われた噴射量に応じた量の燃料をエンジン始動時に燃料噴射弁からエンジンシリンダ内に噴射させる燃料噴射制御装置であって、
エンジン停止後における前記吸気通路内での気体の逆流量の検出が可能な流量センサで検出した前記逆流量に基づいて前記推定値を補正する推定値補正手段を備えていることを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記流量センサは、エンジン停止に先立つ燃料カット後の前記吸気通路内での正流方向への気体の流量である正流量の検出も可能であり、
前記推定値補正手段は、前記流量センサで検出した前記逆流量に加え、前記正流量に基づいて、前記推定値を補正することを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記流量センサは、MAFセンサであることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−59920(P2010−59920A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228878(P2008−228878)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】