説明

燃料噴射弁

【課題】燃料噴射弁の噴孔内に液膜を形成して噴霧の微粒化を促進し燃費の向上を図る。
【解決手段】円錐状の弁着座面を有する弁座、球面が弁着座面から離接することにより燃料通路を開閉してエンジン吸気管への燃料の供給を制御する弁体、及びエンジン吸気管に燃料を噴射する複数の噴孔を有し上記弁体の下流面と対向して配置された噴孔プレートを備えた燃料噴射弁であって、閉弁時に球面と当接する弁着座面上の点(シート部D)と球面との間から弁着座面に沿って流下した燃料が、シート部Dに最短側の噴孔入口S2に直接流入しつつ、シート部Dに最遠側の噴孔入口S3には上記燃料が直接流入しないように噴孔を配置することによって噴孔に入る燃料に流速差をつけ噴孔内で燃料の液膜を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関に使用される燃料噴射弁の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの排出ガス規制が強化される中、燃料噴射弁から噴射される燃料の微粒化の向上が求められている。また近年は自動車から排出される温室効果ガスの排出量低減のため、自動車の燃費向上が求められるようになってきており、燃料噴射弁の微粒化によってエンジンでの燃え残り燃料を減らす検討がなされてきている。
例えば、特許第3183156号公報(特許文献1)では、ニードル端面と噴孔プレート入口面とで偏平な燃料通路を構成し、噴孔の周囲から噴孔に向かう流れ同士を噴孔入口直上で衝突させて強い乱れを発生させて噴射燃料を微粒化する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3183156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の図1では、噴孔の周囲から噴孔に向かう流れの流速を高めるため、ニード
ル端面と噴孔プレート入口面とを平行として両者の間隔を小さくする構成としている。このような構成にすると噴孔入口には周囲からほぼ均一に燃料が流入するので、噴孔内面の片側に燃料流れを偏らせて液膜を形成することが困難だった。
この発明は、上記課題を解決することにあり、噴孔内面の片側に燃料流れを偏らせて液膜を形成することにより、噴孔から噴射される燃料を微粒化することにある。
噴孔内で燃料が液膜化されないと、噴孔径相当の直径断面をもつ液柱が噴射され、空気中での燃料の分裂が進展しないため大粒の噴霧が形成される。噴孔内で液膜を形成して噴孔から噴射される燃料を薄い膜状とすることにより、空気中での燃料の分裂が促進され、噴霧を微粒化される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明の燃料噴射弁は、円錐状の弁着座面を有する弁座、球面が上記弁着座面から離接することにより燃料通路を開閉してエンジン吸気管への燃料の供給を制御する弁体、及び上記エンジン吸気管に燃料を噴射する複数の噴孔を有し上記弁体の下流面と対向して配置された噴孔プレートを備えた燃料噴射弁であって、球面と当接する弁着座面上の点(シート部D)と球面との間から弁着座面に沿って流下した燃料が、シート部Dに最短側の噴孔入口S2に直接流入しつつ、シート部Dに最遠側の噴孔入口S3には上記燃料が直接流入しないように噴孔を配置した。
第2の発明の燃料噴射弁は、弁体の下流側表面に噴孔と対向する円錐面Aを形成した。
第3の発明の燃料噴射弁は、弁体の球面に沿う燃料が前記円錐面に移行するポイントA1
において、弁体表面の角度変化δを20°以上40°以下の範囲にした。
第4の発明の燃料噴射弁は、噴孔より燃料噴射弁中心軸Y側の噴孔プレート上面に、中心軸Yに向かって下方向に傾斜するドーム面Bを形成した。
第5の発明の燃料噴射弁は、ドーム面Bの起点の開き角βを、上記弁体の円錐面Aの開き角αより小さくした。
第6の発明の燃料噴射弁は、α−β≧20°の関係に設定した。
第7の発明の燃料噴射弁は、弁体の球面が弁着座面から離れ始めた開弁初期に、噴孔入口S2から弁体までの高さhを噴孔径dより小さくした。
第8の発明の燃料噴射弁は、球面と弁着座面間の燃料通路の出口位置S1から噴孔入口S2までの距離L3と上記噴孔の孔径dを、L3<2dの関係に設定した。
第9の発明の燃料噴射弁は、噴孔プレートの上面に平面状のへこみ部を形成し、噴孔プレートの下面を平坦にした。
【発明の効果】
【0006】
第1の発明によると、シート部Dに最短側の噴孔入口S2からはシート部からの高速の燃料が直接流入し、シート部Dに最遠側の噴孔入口S3からは比較的低速な燃料が流入するため、噴孔内で高速側の燃料は低速側の燃料に打ち勝って低速側の噴孔壁面に押し付けられて液膜を形成する。そして噴孔から噴射される液膜状の燃料は、空気中での分裂により比較的微粒化されて噴射される。
第2の発明によると、弁体の球面に沿う燃料が球面と円錐面Aとの接続部A1ではく離を生じ、円錐面A下に渦を伴う死水域を形成するため、噴孔上部の燃料通路高さを実効的に低くする。この閉塞効果により、燃料通路の出口位置S1からそのまま噴孔入口S3に向
かう燃料が減少し、噴孔入口S3からの流入流速を低下させる。
第3の発明によると、ポイントA1における弁体表面の角度変化δを20°以上として燃料はく離を強めるとともに、δを40°以下として過大なはく離の発生による噴孔入口S2へ流入する燃料の閉塞を防止した。これにより噴孔入口S3からの流入流速を低めつつ、噴孔入口S2からの流入流速の低下を防止した。
第4の発明によると、ドーム面Bから噴孔入口S3に流入する燃料は、ドーム面Bに沿ったやや上方向の流れとなるため、噴孔流入前後の流れ方向変化による流体ロスが大きく、噴孔への流入流速をさらに低下させる。
第5の発明によると、ドーム面Bの起点の開き角βを、円錐面Aの開き角αより小さくして、ドーム面B上から噴孔入口S3に流入する燃料の進行方向に流路高さが減少するようにしたため、流体ロスが大きく、噴孔への流入流速が低下する。
第6の発明によると、α−β≧20°として第5の発明に対して十分に噴霧粒径が小さくなる設定とした。
第7の発明によると、開弁初期においてシート部Dと球面との間から弁着座面に沿って流下した燃料が噴孔上部の狭い流路で減速して噴孔への流入を強制されるため、比較的噴孔軸に沿った流れとなり、噴射方向の変動が抑えられる。
第8の発明によると、球面と弁着座面間の燃料通路の出口から噴孔入口までの間は流路が広がるため乱れなどによる流体ロスが大きく発生するが、L3を噴孔径dの2倍以下と短くしたので流体ロスが少ない。このため、噴孔入口S2からの流入流速を高める。
第9の発明によると、第4の発明に対して噴孔プレートの下面を平坦にすることによりエンジンの燃焼室からくる高温の残留ガスとの接触面積を減らし、噴孔プレート14の温度上昇が抑えられる。これにより噴孔部の汚損による微粒化の悪化が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】この発明の実施の形態1における燃料噴射弁の全体断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1における図1の燃料噴射弁の先端部の拡大図である。
【図3】この発明の実施の形態1における図2の噴孔プレートの平面図である。
【図4】この発明の実施の形態1における図2の噴孔部を更に拡大して示した拡大図である。
【図5】この発明の実施の形態1における円錐面Aとドーム面Bとの角度差に対する噴霧微粒化の傾向を表すグラフである。
【図6】この発明の実施の形態1における噴孔部付近の燃料流れを示す拡大図である。
【図7】この発明の実施の形態1における開弁初期の燃料流れを示す拡大図である。
【図8】図7と同様に開弁初期の燃料流れを示す拡大図で、噴孔入口と円錐面Aとの距離hを噴孔径dより大きくした場合の燃料流れの状態を示した説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2における燃料噴射弁の先端部断面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面に基づいて、この発明の各実施の形態を説明する。
なお、各図間において、同一符号は同一あるいは相当部分を示す。
【0009】
実施の形態1.
この発明の実施形態1に係わる燃料噴射弁を図1〜図8に基づき説明する。
図1は、燃料噴射弁1の全体断面を示す。
この燃料噴射弁1は、エンジンの吸気管に取り付けられ、上部から加圧された液体燃料が供給されている。ラバーリング17は、エンジンの燃料供給部品との燃料シール用に用いられる。燃料噴射弁1の下部先端は、内燃機関の吸気通路内に臨んでおり、下方に向けて燃料を噴射する。電磁力を発生するソレノイド装置2は、磁気回路のヨーク部分をなすハウジング3及びチューブ4、可動鉄心であるアマチュア7、固定鉄心であるコア5と、電流を通電し磁界を発生させるコイル6で構成される。
【0010】
コイル6は、樹脂性のボビン8の外周に巻きつけられており、コイル6の外側はモールド9で外装されてコイル6を保護するとともに通電により発生する熱を放熱している。コイル6に電気的に接続された端子10は、モールド9内に一体成形されており、図示しないエンジンの駆動回路と電気的に接続している。
アマチュア7の上部のコア5の内部には、調整チューブ11によりバネ12を所定の荷重で固定している。燃料噴射弁1の下部には、弁座13と、弁座13の下面に溶接された噴孔プレート14と、弁座13の内部で噴孔プレート14の上部に球状の弁体15が配置されている。噴孔プレート14には複数の噴孔14aが開口する。
弁体15は、パイプ16を介してアマチュア7と一体化されている。アマチュア7は、チューブ4の内部に摺動可能に収容されている。コア5の先端部は、チューブ4の内周部に挿入され溶接されている。アマチュア7の上面は、コア5の下面と0.1mm程度の微小な距離を隔てて位置決めされている。
【0011】
弁座13は、チューブ4の内周部に挿入され溶接されている。製造工程において、コイル6への通電がない状態では、パイプ16がバネ12により下方に押されているため、弁体15は弁座13に押し付けられている。コイル6への通電により発生する電磁力によりアマチュア7の上面がコア5の下面に当接すると、弁体15は全開状態となる。コイル6への通電をオンオフさせてアマチュア7を往復動作させ、ストロークセンサーでアマチュア7のストロークを測定しながら弁座13の位置決めを行い固定することにより、アマチュア7及び弁体15のストロークは高精度に設定される。
【0012】
次に、この実施形態1の特徴とする噴孔プレート14、弁座13、弁体15の詳細な位置、構造を、図2〜図4に基づいて説明する。
図2は、弁体15が全開状態である燃料噴射弁先端部の拡大図で、燃料噴射弁の中心軸Yと各噴孔14aの中心点を通る断面を表している。図3は、図2の矢印I方向に見た噴孔プレート14の平面図、図4は、図2の噴孔14a付近の拡大図である。
【0013】
噴孔プレート14には、燃料噴射弁1の中心軸Yに対して下流に向けて外側に向かう14個の噴孔14aが円環状に配置されている。
噴孔14aは、エンジンの2つの吸気弁を指向して、図3の左右に向かう噴孔群に分かれている(2スプレー)。また噴孔プレート14の中央は、ドーム形状14bに形成されており、ドーム形状の基点の開き角βを130°としている。
弁着座面13aと当接する球面15aは、工業規格で精度規定されたボール(真球)の面
を使用し、その下部にグラインダー加工による円錐面Aが開き角α=160°で形成されている。
【0014】
球面15aの半径r、及び球(弁体15)の中心と円錐面Aとの距離L1、円錐面Aの開き角αは高精度に製造されている。
弁座13には、グラインダー加工により円錐状の弁着座面13a及び端面13bが形成されており、端面13bを基準とした弁着座面13aの位置L及び弁着座面13aの角度ωは90°に高精度に製造される。
弁体15の球面15aと弁座13の弁着座面13aとの当接位置の半径L2xは、球半径r及び弁着座面13aの角度ωよりr×cos(ω/2)と決まり、上記Lと合わせて
、閉弁時に球面15aと当接する弁着座面13a上の点(シート部D)の位置L2、L2yは、高精度に規定される。
【0015】
噴孔プレート14のドーム形状14b及び噴孔14aは、精密プレス加工により形成されており、ドーム形状14b上面のドーム面Bの起点の開き角β、噴孔位置C(噴孔プレート14中心からの半径位置)、噴孔径dは高精度に製造される。
噴孔プレート14と弁座13は、同一の外径に寸法設定されており、それぞれがチューブ4の内周部に隙間なく挿入されて固定されるので、弁座13と噴孔プレート14の同軸度は高精度に製造される。
弁体15、弁座13、噴孔プレート14の各パーツ及び弁座13と噴孔プレート14の組み付け、シート部Dの位置は、それぞれ高精度に製造されるため、噴孔入口と弁着座面13aの相対位置、及び噴孔入口と弁体15の円錐面Aとの相対位置、噴孔入口とドーム傾斜面Bとの相対位置は高精度に製造される。
【0016】
前記の加工法、組みつけ方法により、シート部Dに最短側の噴孔入口S2は、全開状態においてシート部Dと球面15aとの間を通り弁着座面13aと平行に流下した燃料が噴孔プレート14上面に到達する範囲Eの中に正確に位置するように製造される。すなわち弁着座面13aの延長線が噴孔プレート14上面と交わる点をP1とし、全開状態における弁着座面13aと平行な球面15aの接線が噴孔プレート14上面と交わる点をP2とするとき、噴孔入口S2はP1とP2の間の範囲Eの中に位置する。そしてシート部Dに最遠側の噴孔入口S3は、範囲Eより中心軸Y寄りに位置するように製造される。
また噴孔入口S2は、球面15aと弁着座面13a間の燃料通路Wの出口位置S1からの距離L3が噴孔径dの1.7倍となるように各部の寸法が設定されている。
【0017】
次に動作について説明する。
図示しない内燃機関の制御装置より燃料噴射弁1の駆動回路に動作信号が送られると、燃料噴射弁1のコイル6に電流が通電され、アマチュア7に電磁力が発生しアマチュア7はコア5側へ吸引され、電磁力がバネ12の押し付け力を上回ると弁体15のボール面15aは、弁着座面13aから離れて移動を開始し、燃料噴射が開始される。
弁体15の移動に伴ってボール面15aと弁着座面13aとのすきま面積が拡大して除々に流量が増加し、アマチュア7がコア5に当接して全開になると最大流量状態となる。
全開後所定の時間が経過すると、制御装置より駆動回路に停止信号が送られ、コイル6への通電が停止してアマチュア7の電磁力が消滅し、弁体15は、バネ12の押し付け力により弁座13側に押し戻され、燃料噴射が終了する。
【0018】
開弁時において、燃料噴射弁1の上部から流入した燃料は、フィルタ18を通り燃料噴射弁内部の各燃料通路を通って弁体15の上部に達し、弁体外周に形成した6箇所の面取り部15bと弁座13の内周との間の通路を通過して、球面15aと弁着座面13aとの,燃料通路Wに至る。
燃料通路W内を進む燃料は、除々に速度を高め流路断面積が極小となるシート部D上で
弁着座面13aと平行な方向に極大の流速となる。球面15aと弁着座面13aとの燃料通路Wは、シート部Dから下流に向かって流路断面積が少しずつ大きくなるため、燃料の流速は若干低下する。
燃料通路Wの出口位置S1(弁体15のシート面に沿う燃料が円錐面Aに移行する位置)から下流のチャンバー内では、流路が急激に開放されて燃料は分散する。
【0019】
シート部Dに最短側の噴孔入口S2には、シート部Dから弁着座面13aに沿った高速の燃料が直接到達し、噴孔14aに流入する。
さらに実施の形態1では、S1と点S2の間の弁着座面13aに平行な距離L3を噴孔径dの1.7倍としており2倍以下の短距離に設定されているため、この間の流体ロスが極めて小さい。このため、点S2から流入する燃料の流速が比較的高く、噴射燃料の微粒化が促進される。
一方、シート部Dに最遠側の噴孔入口S3には、上記燃料が直接流入できないため、流路が長く流体ロスが大きく、低速の燃料が噴孔14aに流入する。
【0020】
弁体15の円錐面Aは、接続点A1において、球面15aの下流に変更角δ=25°をもって接続しており、図6に示すように球面15aに沿う燃料がエッジ部A1で、はく離し円錐面A下に渦を伴う死水域を形成するため、噴孔上部の燃料通路高さを実効的に低くしている。このため、S1から点S3に直接向かう燃料の流量を減少させている。
【0021】
なお、弁体表面の角度変化δを20°以上として点A1において燃料はく離を強く発生させつつ、40°以下として過大なはく離の発生によるシート部Dに最近側の噴孔入口S2へ流入する燃料の閉塞を防止することが望ましい。
【0022】
シート部Dから噴孔14aに直接流入しないで噴孔間を通過した燃料は、ドーム面B上で折り返してドーム面B上を点S3に向けて進行するやや上向きの流れRとなる。α−β=30°として流れRの進行方向に流路高さが減少するため、流体ロスが増加し、点S3に達した燃料は流速が低下している。図5はα−βを変化させた時の噴霧粒径の変化の実験結果を示す。α−βが20°以上にするとほぼ噴霧粒径が最小値になる傾向がみられる。
これらにより点S3から流入する燃料の流速は、点S2から流入する燃料の流速に対して著しく減少する。
【0023】
そして点S2から噴孔に流入した燃料が、点S3からの流入燃料に打ち勝って点S3側の噴孔内周面に燃料を押し付けて液膜Mを形成し、最大流速となり、噴孔出口から噴射される。噴射された燃料は、比較的薄い液膜の分裂によって噴霧が形成され、微粒化が促進される。
【0024】
図7に開弁初期状態における燃料流れの説明図を表す。
開弁初期には、球面15aと弁着座面13aとの隙間の断面積が噴孔の総断面積より小さく、シート部D上で最大流速となった燃料がシート部Dに最短の噴孔入口S2に直接至り噴孔を経て外部に噴射される。シート部Dの下流は、外部の圧力に近い低圧となっており、シート部Dと噴孔入口との間の通路の形状により噴射燃料の方向が大きく影響される。
この実施の形態1では、開弁初期にS2と円錐面Aとの距離hが噴孔径dより小さく、シート部Dから流出した燃料が噴孔入口上部を通って中心軸Y側へ通り抜けるのを抑制している。すなわちシート部Dから流出した燃料の一部R1は、噴孔上部の狭い流路で減速され噴孔への流入を強制されるようにして噴孔14aに流入するため、噴孔から噴射される燃料は比較的噴孔軸Zに沿った流れとなる。
【0025】
図8は、対照として噴孔入口と円錐傾斜面Aとの距離hを大きくした場合の燃料流れの説明図を表す。
距離hが噴孔径dより大きいとシート部Dより流出した燃料は、噴孔14a上を中心軸Y側へ通り抜ける燃料R2が多く噴孔14aの内面に強制される燃料が少ない。このため、シート部Dから弁着座面13aに沿って直接噴孔14aに達した燃料が多く噴孔14aに流入し、噴射方向が中心軸Y寄りになる。
このように図7に示した実施の形態1では、全開状態での噴霧の微粒化を促進した噴孔位置にしつつ、開弁初期の噴射方向の変動が抑えられて燃料噴射弁に要求される適正な噴射方向への噴射が達成される。
【0026】
実施の形態2.
図9は、この発明の実施形態2の燃料噴射弁の先端部の拡大断面図である。
噴孔プレート14の中央部に平面状へこみ部Fが形成されており、へこみ部Fの基点の開き角βを130°としている。
燃料噴射弁の先端部は、エンジンの燃焼室からくる高温の残留ガスに曝されるが、噴孔プレート14を鍛圧してへこみ部Fを形成することにより噴孔下面を平坦としているので、残留ガスとの接触面積を減らし、噴孔プレート14の温度上昇が抑えられる。これにより前記ドーム形状と同様な流体効果を持ちつつ、噴孔部の汚損による微粒化の悪化が防止される。
【符号の説明】
【0027】
1 燃料噴射弁 2 ソレノイド装置
3 ハウジング 4 チューブ
5 コア 6 コイル
7 アマチュア 8 樹脂性のボビン
9 モールド 10 端子
11 調整チューブ 12 バネ
13 弁座
13a 円錐状の弁着座面
13b 端面 14 噴孔プレート
14a 噴孔 14b ドーム形状
15 弁体
15a 球面
15b 面取り部
16 パイプ
17 ラバーリング
18 フィルタ
A 弁体15の円錐面
A1 円錐面Aと球面との接続点
B 噴孔プレート14のドーム面
C 噴孔位置
D シート部
d 噴孔径(噴孔14aの内径)
E 噴孔プレート上面と交わる範囲
F 噴孔プレート中央部の平面状へこみ部
h 開弁初期のシート部に最短の噴孔入口S2から円錐面Aまでの高さ
L 弁着座面の位置
L1 弁体15(球)の中心と円錐面Aとの距離
L2x シート部の半径方向位置
L2y シート部の軸方向位置
L3 燃料通路Wの出口の位置S1からシート部に最短の噴孔入口S2までの距離
M 噴孔片側に生成された燃料液膜
r 球面15aの半径
R、R1、R2 燃料の流れ
S1 燃料通路Wの出口の位置
S2 シート部に最短の噴孔14aの入口の点
S3 シート部に最遠の噴孔14aの入口の点
Y 燃料噴射弁1の中心軸
Z 噴孔14aの噴孔軸
α 円錐面Aの開き角
β ドーム面Bの起点の開き角
δ 変更角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐状の弁着座面を有する弁座、球面が上記弁着座面から離接することにより燃料通路を開閉してエンジン吸気管への燃料の供給を制御する弁体、及び上記エンジン吸気管に燃料を噴射する複数の噴孔を有し上記弁体の下流面と対向して配置された噴孔プレートを備えた燃料噴射弁であって、上記球面と当接する上記弁着座面上の点(シート部D)と上記球面との間から上記弁着座面に沿って流下した燃料が、シート部Dに最短側の噴孔入口S2に直接流入しつつ、上記シート部Dに最遠側の噴孔入口S3には上記燃料が直接流入しないように噴孔を配置したことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
上記弁体の下流側表面に上記噴孔と対向する円錐面Aを形成したことを特徴とする請求項1記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
上記弁体の球面に沿う燃料が上記円錐面に移行するポイントA1において、弁体表面の
角度変化δを20°以上40°以下の範囲にしたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
上記噴孔より燃料噴射弁中心軸Y側の噴孔プレート上面に、燃料噴射弁中心軸Yに向かって下方向に傾斜するドーム面Bを形成したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
上記ドーム面Bの起点の開き角βを、上記弁体の傾斜面Aの開き角αより小さくしたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の燃料噴射弁。
【請求項6】
α−β≧20°の関係に設定したことを特徴とする請求項5記載の燃料噴射弁。
【請求項7】
上記弁体の球面が上記弁着座面から離れ始めた開弁初期に、上記シート部Dに最短側の噴孔入口S2から上記弁体までの高さhを噴孔径dより小さくしたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の燃料噴射弁。
【請求項8】
上記球面と上記弁着座面間の燃料通路の出口S1から上記シート部Dに最短側の噴孔入口S2までの距離L3と上記噴孔の孔径dを、L3<2dの関係に設定したことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の燃料噴射弁。
【請求項9】
上記噴孔プレートの上面に平面状のへこみ部を形成し、上記噴孔プレートの下面を平坦にしたこと特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−2432(P2013−2432A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138110(P2011−138110)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】