説明

燃料噴射装置

【課題】噴霧粒径の微細化を促進することを課題とする。
【解決手段】燃料噴射装置は、ECUに接続された燃料噴射弁、クランク角センサ、筒内圧センサ及びノッキングセンサを備える。燃料噴射弁は、先端部に設けられた旋回安定室に旋回した燃料とともに空気を導入する空気導入路を備える。空気導入路は、空気ポンプ、制御弁が配設された空気管によりサージタンクと接続される。ECUは、クランク角センサ、筒内圧センサから取得したデータに基づいてピーク筒内圧となったクランク角が閾値となるクランク角よりも遅れて観測されたときに、空気ポンプ、制御弁を制御して旋回安定室へ導入される空気供給圧力を低下させる。また、ノッキングセンサによりノッキングが観測されたときに、空気ポンプ、制御弁を制御して旋回安定室へ導入される空気供給圧力を上昇させる。これにより、燃料量に見合った量の気泡を生成し、燃料の微粒化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃焼室内での燃料と空気との混合を促進することを目的とした提案がされている。例えば、ノズル本体の中空穴の壁面と針弁の摺動面との間に螺旋状通路が形成された燃料噴射ノズルが提案されている(例えば、特許文献1)。この提案において、螺旋状通路を通過した燃料は、ノズル本体の先端部に設けられた燃料溜まりで回転流となって加速される。そして、燃料は、単噴孔の接線方向速度を持ち、燃焼室内に拡散して空気との混合が行われるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−141183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関の燃費や排気エミッションの改善に対し、噴射燃料の噴霧粒径の微細化が有効であることが知られている。前記特許文献1は、燃料と空気との混合を促進することができるものであるが、その混合は、燃焼室内で行われるため、点火までに燃料の十分な微粒化、霧化が行われず、燃料の壁面付着のおそれがあった。
【0005】
そこで本発明は、噴霧粒径の微細化を促進することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本明細書開示の燃料噴射装置は、先端部に噴孔が設けられたノズルボディと、前記ノズルボディ内に摺動自在に配置され、前記ノズルボディとの間に燃料導入路を形成するとともに、前記ノズルボディ内の着座位置に着座するシート部を備えたニードルと、前記ニードルの前記シート部の上流側に形成され、前記燃料導入路から導入された燃料に旋回成分を付与する螺旋溝が形成された旋回流生成部と、前記ノズルボディの先端部に形成され、前記旋回流生成部を通過した燃料が導入される旋回安定室と、前記旋回安定室内に空気を導入する空気導入手段と、を備えた燃料噴射弁と、前記旋回安定室に導入される燃料に対する気泡濃度を認識する気泡濃度認識手段と、前記気泡濃度認識手段によって認識された気泡濃度に基づいて前記旋回安定室へ導入される空気供給圧力を調整する空気圧調整手段と、を、備えたことを特徴としている。
【0007】
燃料導入路から螺旋溝に導入された燃料は、旋回安定室内で旋回流を形成する。燃料が作り出す旋回流の中心付近は圧力が低下する。この圧力が低下した領域に、空気導入手段を通じて空気が導入される。導入された空気は、燃料中に微細気泡を作り出す。空気は、圧力が低下した領域に導入されるため、高圧燃料が供給される旋回安定室内に容易に導入することができる。空気は、内燃機関本体の外部、例えば、サージタンクから導入することができ、また、燃焼室内に残留した既燃ガスが、空気として導入されるようにすることもできる。
【0008】
燃料の旋回流速は、旋回安定室内において、中心側が速く、壁面に近づくに従って、遅くなる。また、旋回安定室内において、内部の圧力は、中心側が低圧であり、壁面に近づくに従って、高圧となる。このような環境下、微細気泡は、粒径が小さいほど、壁面側に集中して存在する。このように粒径の小さい微細気泡が集中して存在する領域に噴孔を設けておくことにより、微細気泡を噴射することができる。噴射された微細気泡は、噴射された後、破裂し、微粒化した燃料となる。
【0009】
このように、燃料中に発生した微細気泡は、噴孔から噴射される際に、気泡の気液境界面にある燃料によって殻状の膜を持った燃料バブルを形成する。このとき、燃料の表面張力により、燃料バブルの膜厚は一定かつ一様となる。このため、余分な燃料は微細気泡が混入した状態の元の燃料中に残存し、次回以降の燃料バブルの形成に用いられる。このように、一つの微細気泡が一つの燃料バブルを形成するのに必要な燃料の量はほぼ一定となる。このため、燃料と混合される気泡の量は、燃料量に対して適切な量であることが求められる。従って、燃料量が多い場合は、多量の気泡量が必要となり、一方、燃料量が少ない場合は、少量の気泡量で済む。気泡量が多すぎれば気泡が密になって気泡間の液膜が薄くなり、気泡の結合が起こってしまうことが考えられる。一方、気泡量が少なすぎれば、単なる液滴として噴射されてしまう燃料が存在し、粒径の大きい噴霧となってしまうおそれがある。気泡数は、供給空気量が増せば増える。また、供給空気量は、空気圧に応じて変化する。そこで、本明細書開示の内燃機関の噴射制御装置は、燃料量に対する適切な気泡量となるように、空気供給圧力を調整する。
【0010】
前記気泡濃度認識手段は、クランク角とともに筒内圧を観測し、前記空気圧調整手段は、前記気泡濃度認識手段により、ピーク筒内圧となったクランク角が閾値となるクランク角よりも遅れて観測されたときに、前記空気供給圧力を低下させることができる。例えば、クランク角センサと筒内圧センサにより、クランク角と筒内圧を観測する。ピーク筒内圧となったクランク角が所定のクランク角よりも遅れている場合、燃料量に対して気泡数が過多の状態であると考えることができる。そこで、この場合、空気供給圧力を低下させる操作を行う。これにより、気泡量を減少させ、燃料量と気泡量との整合を図ることができる。
【0011】
前記気泡濃度認識手段は、内燃機関に発生するノッキングを観測し、前記空気圧調整手段は、前記気泡濃度認識手段により、ノッキングが観測されたときに、前記空気供給圧を上昇させることができる。例えば、ノッキングセンサにより、ノッキングの発生を観測する。ノッキングの発生が観測された場合、燃料量に対して気泡数が過少の状態であると考えることができる。そこで、この場合、空気供給圧力を上昇させる操作を行う。これにより、気泡量を増量し、燃料量と気泡量との整合を図ることができる。
【0012】
前記空気導入手段は、前記ニードルの内部に形成された空気導入路であり、前記空気圧調整手段は、前記空気導入路へ導入する空気の圧力を調整することができる。例えば、空気導入路とサージタンクとを接続し、この接続経路中に、空気ポンプを設置することによって空気圧を調整することができる。空気ポンプとともに、前記接続経路に制御弁や、空気圧センサを設け、これらを協働させて空気圧を調整するようにすることもできる。
【0013】
前記空気導入手段は、前記旋回安定室と燃焼室とを連通する連通孔であり、前記空気圧調整手段は、吸気行程初期に開始される燃料噴射の開始時期を噴射燃料量の増加に伴って進角させることができる。気泡を発生させる空気として既燃ガスを用いる場合に、空気の導入量を増加するためには、筒内圧が高いタイミングで燃料噴射すればよい。吸気行程初期に開始される燃料噴射の開始時期を進角させると、筒内圧が高いタイミングで燃料噴射を開始することになる。従って、燃料量の増加に伴って、進角量を増すことにより、燃料量と気泡量との整合を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本明細書に開示された燃料噴射弁によれば、噴射される燃料に微細気泡を混入させ、噴霧粒径の微細化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は実施例1の燃料噴射装置を備えたエンジンシステムの一構成例を示した図である。
【図2】図2は実施例1の燃料噴射弁のノズルボディとニードルとを分離した状態を示す説明図であり、図2(B)は実施例の燃料噴射弁のノズルボディにニードルを組み合わせた状態を示す説明図である。
【図3】図3は実施例1の燃料噴射弁が備えるニードルの断面図である。
【図4】図4は実施例1の燃料噴射装置が行う制御の一例を示すフロー図である。
【図5】図5はクランク角とピーク筒内圧との関係を示す説明図である。
【図6】図6は実施例1の燃料噴射装置が行う制御の一例を示すフロー図である。
【図7】図7は実施例2の燃料噴射弁の説明図である。
【図8】図8はエンジンのP−V線図である。
【図9】図9は燃料噴射装置の制御に用いられるマップの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。ただし、図面中、各部の寸法、比率等は、実際のものと完全に一致するようには図示されていない場合がある。また、図面によっては細部が省略されている場合もある。
【実施例1】
【0017】
本明細書開示の実施例1について図面を参照しつつ説明する。図1は、燃料噴射制御弁30を含む燃料噴射装置2を搭載したエンジンシステム1の一構成例を示した図である。なお、図1にはエンジン100の一部の構成のみが示されている。
【0018】
図1に示すエンジンシステム1は、動力源であるエンジン100を備えており、エンジン100の運転動作を総括的に制御するエンジンECU(Electronic Control Unit)10を備えている。エンジンシステム1は、エンジン100の燃焼室11内へ燃料を噴射する燃料噴射弁30を備えている。エンジンECU10は、制御部の機能を備える。エンジンECU10は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)と、データ等を記憶するRAM(Random Access Memory)やNVRAM(Non Volatile RAM)と、を備えるコンピュータである。
【0019】
エンジン100は、車両に搭載されるエンジンであって、燃焼室11を構成するピストン12を備えている。ピストン12は、エンジン100のシリンダに摺動自在に嵌合されている。そして、ピストン12は、コネクティングロッドを介して出力軸部材であるクランクシャフトに連結されている。
【0020】
吸気ポート13から燃焼室11内へ流入した吸入空気は、ピストン12の上昇運動により燃焼室11内で圧縮される。エンジンECU10は、クランク角センサからのピストン12の位置、および吸気カム角センサからのカム軸回転位相の情報に基づき、燃料噴射タイミングを決定し燃料噴射弁30に信号を送る。燃料噴射弁30は、エンジンECU10の信号に従って、指示された噴射タイミングで燃料を噴射する。燃料噴射弁30より噴射された燃料は、霧化して圧縮された吸入空気と混合される。そして、吸入空気と混合された燃料は、点火プラグ18によって点火されることで燃焼し、燃焼室11内を膨張させてピストン12を下降させる。この下降運動がコネクティングロッドを介してクランクシャフトの軸回転に変更されることにより、エンジン100は動力を得る。
【0021】
燃焼室11には、それぞれ燃焼室11と連通する吸気ポート13と、吸気ポート13に連結し、吸入空気を吸気ポート13から燃焼室11へと導く吸気通路14とが接続されている。更に、各気筒の燃焼室11には、それぞれ燃焼室11と連通する排気ポート15と、燃焼室で発生した排気ガスをエンジン100の外部へと導く排気通路16が接続されている。吸気通路14には、サージタンク22が配置されている。
【0022】
吸気通路14には、エアフロメータ、スロットルバルブ17およびスロットルポジションセンサが設置されている。エアフロメータおよびスロットルポジションセンサは、それぞれ吸気通路14を通過する吸入空気量、スロットルバルブ17の開度を検出し、検出結果をエンジンECU10に送信する。エンジンECU10は、送信された検出結果に基づいて吸気ポート13および燃焼室11へ導入される吸入空気量を認識し、スロットルバルブ17の開度を調整することで吸入空気量を調節する。
【0023】
スロットルバルブ17は、ステップモータを用いたスロットルバイワイヤ方式を適用することが好ましいが、例えばステップモータの代わりにワイヤなどを介してアクセルペダル(図示しない)と連動し、スロットルバルブ17の開度が変更されるような機械式スロットル機構を適用することもできる。
【0024】
排気通路16には、ターボチャージャ19が設置されている。ターボチャージャ19は、排気通路16を流通する排気ガスの運動エネルギーを利用してタービンを回転させ、エアクリーナーを通過した吸入空気を圧縮してインタークーラへと送り込む。圧縮された吸入空気は、インタークーラで冷却された後に一旦サージタンク22に貯留され、その後、吸気通路14へと導入される。この場合、エンジン100は、ターボチャージャ19を備える過給機付エンジンに限られず、自然吸気(Natural Aspiration)エンジンであってもよい。
【0025】
ピストン12は、その頂面にキャビティを有する。キャビティは、燃料噴射弁30の方向から点火プラグ18の方向へと連続するなだらかな曲面によってその壁面が形成されており、燃料噴射弁30から噴射された燃料を壁面形状に沿って点火プラグ18近傍へと導く。この場合、ピストン12は、その頂面の中央部分に円環状にキャビティが形成されるリエントラント型燃焼室等、エンジン100の仕様に応じて任意の位置・形状でキャビティを形成することができる。
【0026】
燃料噴射弁30は、吸気ポート13下部の燃焼室11に斜め方向に装着されている。燃料噴射弁30は、エンジンECU10の指示に基づいて、燃料ポンプから燃料流路を通じて高圧供給された燃料をノズルボディ31先端部の円周方向に等間隔で設けられた噴孔32より燃焼室11内へ直接噴射する。噴射された燃料は、燃焼室11内で霧化し吸入空気と混合されつつキャビティの形状に沿って点火プラグ18近傍へと導かれる。燃料噴射弁30のリーク燃料は、リリーフ弁からリリーフ配管を通じて燃料タンクへと戻される。
【0027】
この場合、燃料噴射弁30は、吸気ポート13下部に限られず燃焼室11の任意の位置に設置することができる。更に、燃料噴射弁30は、燃焼室11に限られず吸気ポート13に設けてもよいし、燃焼室11と吸気ポート13との両方に設けてもよい。
【0028】
なお、エンジン100は、ガソリンを燃料とするガソリンエンジンに限られず、軽油を燃料とするディーゼルエンジン、ガソリンとアルコールとを任意の割合で混合した燃料を使用するフレキシブルフューエルエンジンのいずれでもよい。また、エンジンシステム1は、エンジン100と複数の電動モータとを組み合わせたハイブリッドシステムであってもよい。
【0029】
つづいて、本発明の一実施例である燃料噴射弁30の内部構成について詳細に説明する。図2(A)は実施例の燃料噴射弁30のノズルボディ31とニードル33とを分離した状態を示す説明図である。図2(B)は実施例の燃料噴射弁30のノズルボディ31にニードル33を組み合わせた状態を示す説明図である。なお、図2(A)、図2(B)には燃料噴射弁30の先端部分の構成のみを示している。
【0030】
燃料噴射弁30は、先端部に噴孔32が設けられたノズルボディ31を備えている。噴孔32の入口は、後述する旋回安定室45の底面と側面とが交差する角部に開口している。ノズルボディ31は、内部にシート位置31aを備えている。また、燃料噴射弁30は、このノズルボディ31内に摺動自在に配置されたニードル33を備えている。ニードル33は、図2(B)に示すように、ノズルボディ31との間に燃料導入路34を形成する。ニードル33は、先端側に第1の偏心抑制部35を備えており、その先端側にノズルボディ31の内部のシート位置31aに着座するシート部33aを備えている。第1の偏心抑制部35は、ノズルボディ31の内周壁とわずかな隙間を保ってノズルボディ31内に嵌め込まれることによってニードル33の偏心を抑制する。ニードル33は、ピエゾアクチュエータで駆動される。
【0031】
ニードル33は、第1の偏心抑制部35に旋回流生成部36を備えている。旋回流生成部36は、シート部33aの上流側に形成されている。旋回流生成部36には、燃料導入路34から導入された燃料に旋回成分を付与する螺旋溝36aを備えている。螺旋溝36aは一列以上であればよく、本実施例では2列の螺旋溝36aが設けられている。
【0032】
ニードル33の内部には、図3に示すように後述する旋回安定室45内に空気を導入する空気導入手段としての空気導入路37が形成されている。空気導入路37の出口側の口部38は、ニードル33の先端部に位置している。空気導入路37は、燃料と同様に燃料噴射弁30の基端側から先端側に向かって空気を導入する。空気導入路37の口部38の近傍には、スプリング40で付勢された球状のチェック弁39が備えられている。チェック弁39は、後述する旋回安定室45内が負圧状態となったときに開弁する。
【0033】
ニードル33は、第1の偏心抑制部35よりも基端側に第2の偏心抑制部41を備えている。第2の偏心抑制部41の外周壁には、周状に溝42が設けられている。そして、溝42には、空気導入路37の入口側の口部43が露出している。ノズルボディ31には、空気導入孔44が設けられている。この空気導入孔44は、図1に示すように空気管21によりサージタンク22と接続されている。空気導入孔44が溝42と対向する状態となると、空気導入路37とサージタンク22とが連通した状態となる。なお、空気導入孔44は、空気導入路37に空気を導入することができればよく、接続先は、サージタンク22に限定されない。
【0034】
ノズルボディ31は、図2(A)、図2(B)に示すように、先端部に旋回安定室45を備えている。この旋回安定室45には、旋回流生成部36を通過した燃料と空気導入路37を通過した空気とが導入される。旋回安定室45内では、旋回流生成部36において生成された燃料の旋回流速が高められ、旋回流は旋回安定室45の内周壁に沿い、安定した状態となる。旋回流が安定すると、旋回安定室45の中央部に負圧部が生じる。空気導入路37の口部38は、この負圧部に露出するように旋回安定室45の中央部に臨ませる。これにより、負圧部に空気を導入する。負圧部は、圧力が低いため、容易に空気を導入することができる。また、負圧部に空気導入路37の口部38を露出させて空気を導入することにより、旋回流の乱れを抑制することにもなる。
【0035】
旋回安定室45内に導入された燃料は空気を取り込んで微細気泡を生成する。微細気泡は、噴孔32から噴射される。噴射後、噴射された微細気泡を形成する燃料の膜は分裂し、燃料が超微細化状態となる。燃料が超微細化状態となることにより、着火遅れ期間の短縮、燃焼速度の増加、燃料によるオイル希釈の抑制、デポジット堆積の抑制、ノッキング発生の抑制を高い次元でバランスよく実現することができる。
【0036】
以上のような燃焼噴射弁30とサージタンク22とを接続する空気管21には、図1、図2に示すように、空気ポンプ23、空気圧センサ24、制御弁25が配置されている。空気ポンプ23、空気圧センサ24、制御弁25は、いずれも、ECU10に電気的に接続されている。ECU10と、空気ポンプ23及び制御弁25は、協働して空気導入路37へ導入する空気の圧力を調整する空気圧調整手段の機能を担う。なお、ECU10と空気ポンプ23との組み合わせのみによって空気圧調整手段の機能を担わせることもできるし、ECU10と制御弁25との組み合わせのみによって空気圧調整手段の機能を担わせることもできる。本実施例の場合、過給機の一例であるターボチャージャ19及びインタークーラの下流側に設けられたサージタンク22と空気導入路37とが接続されている。この場合、ターボチャージャ19の圧力を利用することができるため、空気ポンプ23を廃止し、制御弁25の開度調整によって空気圧を調整するようにしてもよい。空気ポンプ23を廃することができればコストダウンとなる。また、空気ポンプ23の駆動時に生じる駆動損失がなくなるため、燃費改善が期待される。
【0037】
空気圧を調整するときに、ECU10は、エンジンの負荷から求められる燃料噴射量に応じて空気ポンプ23の回転数や制御弁25の開度を、単独、または、併せて制御することができる。すなわち、燃料噴射量の増加に応じて供給気体圧を高め、供給空気量を増す。これにより、燃料量に対する空気量を調整し、燃料量に対する気泡濃度を調整することができる。これにより、適切に燃料の微粒化を促進することができる。
【0038】
このように、空気圧を調整する場合、空気圧センサ24をモニタしつつ、空気ポンプ23の回転数や制御弁25の開度を制御することができる。すなわち、ECU10は、空気圧センサ24が示す値が予め燃料量と関連づけられた値となるように、空気ポンプ23や制御弁25を制御することができる。このように、燃料量と空気圧とは、関連づけることができる。そして、空気圧と供給空気量、ひいては空気圧と気泡量とは関連づけることができる。このため、空気圧センサ24を気泡濃度認識手段として機能させることができる。空気圧センサ24を用いることにより精密な制御が可能となり、空気ポンプ23の効率的な稼動が可能となるなど、電力消費の低減、ひいては、燃費の改善が期待される。
【0039】
また、空気圧センサ24を用いることなく、他の気泡濃度認識手段を採用することもできる。燃料噴射装置2は、筒内圧センサ26とクランク角センサ28を備えている。筒内圧センサ26とクランク角センサ28は、それぞれECU10と電気的に接続されている。これらの筒内圧センサ26、クランク角センサ28は、ECU10とともに、気泡濃度認識手段として機能する。具体的には、ECU10は、クランク角とともに筒内圧を観測し、ピーク筒内圧となったクランク角が所定のクランク角よりも遅れて観測されたときに気泡濃度が過大であると判断する。そして、空気ポンプ23や制御弁25を制御して空気供給圧を低下させる。
【0040】
また、燃料噴射装置2は、ノッキングセンサ27を備えている。ノッキングセンサ28は、ECU10と電気的に接続されている。ノッキングセンサ27は、ECU10とともに、気泡濃度認識手段として機能する。具体的には、ECU10は、エンジン100に発生するノッキングを観測し、ノッキングが観測されたときに、気泡濃度が過小であると判断する。そして、空気ポンプ23や制御弁25を制御して空気供給圧を上昇させる。
【0041】
なお、これらの筒内圧センサ26、ノッキングセンサ27、クランク角センサ28を用いて燃料量に対する気泡量を認識するようにした場合、空気センサ24は、廃止してもよい。筒内圧センサ26、ノッキングセンサ27、クランク角センサ28を用いて燃料量に対する気泡量を認識する場合、燃料の組織変化や温度、圧力の変化に精度よく対応することができ、ロバスト性の高い噴射制御を行うことができる。すなわち、燃料量に基づいて直接的に空気供給圧力を制御する場合、燃料の組織変化や温度、圧力といった周辺環境に応じた適切な制御を行おうとすると、マップのデータ量が膨大なものとなるおそれがあるが、燃料量に対して気泡量が過不足する場合に実際に観測される現象に基づいて制御を行うことにより、精度の高い制御を行うことができる。
【0042】
まず、ECU10、筒内圧センサ26及びクランク角センサ28を旋回安定室45に導入される燃料に対する気泡濃度を認識する気泡濃度認識手段として機能させる場合の制御の一例について、図4、図5を参照しつつ説明する。図4は燃料噴射装置2が行う制御の一例を示すフロー図である。図5はクランク角とピーク筒内圧との関係を示す説明図である。
【0043】
ECU10は、筒内圧センサ26から筒内圧に関するデータを継続的に収集し、また、クランク角センサ28から、クランク角に関するデータを継続的に収集する。そして、ピーク筒内圧が観測された時点でのクランク角X°を観測する(ステップS1)。図5中、X°は、閾値となるクランク角である。クランク角X°は、気泡量が燃料量に対して過不足ない状態のときに観測されるべき値として規定されている。
【0044】
ステップS1に引き続き行われるステップS2では、観測されたX°がX°よりも遅角側であるか否かの判断を行う。図5に示すように、X°がX°よりも遅角側であるときは、ステップS2においてYESと判断してステップS3へ進み、気泡濃度が過大であるとする。X°がX°よりも遅角側となる現象は、気泡数過多に起因して、気泡が結合し、燃料の微粒度が悪化したが原因であると考えられるからである。一方、ステップS2でNOと判断したときは、処理は終了となる。
【0045】
ステップS3で気泡濃度が過大であるとしたときは、引き続き行われるステップS4において、空気供給圧力低下措置を採る。具体的には、空気ポンプ23の回転数を低下させたり、制御弁25の開度を低下させたりする。また、噴射遅角措置を採ることもできる。
【0046】
つぎに、ECU10及びノッキングセンサ27を旋回安定室45に導入される燃料に対する気泡濃度を認識する気泡濃度認識手段として機能させる場合の制御の一例について、図6を参照しつつ説明する。図6は燃料噴射装置2が行う制御の一例を示すフロー図である。
【0047】
ECU10は、ノッキングセンサ27からノッキングに関するデータを継続的に収集する。そして、ノッキングが観測されたか否かの判断を行う(ステップS11)。ノッキングが観測され、ステップS11においてYESと判断したときは、ステップS12へ進み、気泡濃度が過小であるとする。ノッキングの発生は、気泡数過小に起因して、液的燃料が燃焼室11周辺でのノックを誘発したことが原因であると考えられるからである。一方、ステップS11でNOと判断したときは、処理は終了となる。
【0048】
ステップS12で気泡濃度が過小であるとしたときは、引き続き行われるステップS13において、空気供給圧力上昇措置を採る。具体的には、空気ポンプ23の回転数を増大させたり、制御弁25の開度を増大させたりする。また、噴射進角措置を採ることもできる。
【0049】
以上のように、実際に発生した事象に基づく制御を行うことで、ロバスト性の高い燃料噴射を行うことができる。
【実施例2】
【0050】
つぎに、実施例2について、図7乃至図9を参照しつつ説明する。図7は実施例2の燃料噴射弁50の説明図である。図8はエンジン100のP−V線図である。図9は燃料噴射装置2の制御に用いられるマップの一例を示す説明図である。実施例2が実施例1と異なる点は、まず、実施例2が燃料噴射弁30に代えて、燃料噴射弁50を備えている点である。燃料噴射弁50は、燃料噴射弁30における空気導入路37に代えて、連通孔51を備えている。連通孔51は、吸気導入手段の一例であり、旋回安定室45と燃焼室11とを連通することによって既燃ガスを空気として旋回安定室45へ導入する。実施例2は、空気導入路37が廃止されたことに伴って、空気管21及び空気管21状に配設されていた空気ポンプ23、空気圧センサ24及び制御弁25は廃止されている。実施例2のその他の構成は、実施例1と異なるところがないので、共通する構成要素については図面中、同一の参照番号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0051】
実施例2において、ECU10が空気圧調整手段の機能を担い、図8に示すように、吸気行程初期に開始される燃料噴射の開始時期を噴射燃料量の増加に伴って進角させる。進角量は、図9に示すマップを参照することによって決定する。すなわち、燃料噴射量が増すに従って進角量を増す。
【0052】
燃焼室11内の圧力は、排気行程後期のピストンによる既燃ガスの押し出し遅れに起因して燃焼室11内に残留した既燃ガスの残圧によって高くなる。この残圧は、燃料量が増す高負荷時はその負荷増加に伴って高くなる。従って、吸気行程初期に行う噴射開始時期を噴射燃料の増加に応じて進角することで、旋回安定室45内へ導入される既燃ガス量を増量する。すなわち、筒内圧が高いタイミングで燃料噴射を開始することにより、旋回安定室45内に多量の既燃ガスを取り込んで燃料量に見合った気泡量とする。これにより、適切な燃料の微粒化を行うことができる。マップは、運転条件毎に噴射条件を設定するようにしてもよい。
【0053】
実施例2は、空気ポンプ23、空気圧センサ24、制御弁25、その他、これらに付随する設備が不要であるので、安価なシステムを構築することができる。
【0054】
上記実施例は本発明を実施するための一例にすぎない。よって本発明はこれらに限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジンシステム
2 燃料噴射装置
22 サージタンク
30、50 燃料噴射弁
31 ノズルボディ
31a シート位置
31b 内周壁
32 噴孔
33 ニードル
33a シート部
33b 内周壁
34 燃料流路
35 第1の偏心抑制部
36 旋回流生成部
36a、36b 螺旋溝
37 空気導入路
38 口部
39 チェック弁
40 スプリング
41 第2の偏心抑制部
42 溝
45 旋回安定室
51 連通孔
100 エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に噴孔が設けられたノズルボディと、前記ノズルボディ内に摺動自在に配置され、前記ノズルボディとの間に燃料導入路を形成するとともに、前記ノズルボディ内の着座位置に着座するシート部を備えたニードルと、前記ニードルの前記シート部の上流側に形成され、前記燃料導入路から導入された燃料に旋回成分を付与する螺旋溝が形成された旋回流生成部と、前記ノズルボディの先端部に形成され、前記旋回流生成部を通過した燃料が導入される旋回安定室と、前記旋回安定室内に空気を導入する空気導入手段と、を備えた燃料噴射弁と、
前記旋回安定室に導入される燃料に対する気泡濃度を認識する気泡濃度認識手段と、
前記気泡濃度認識手段によって認識された気泡濃度に基づいて前記旋回安定室へ導入される空気供給圧力を調整する空気圧調整手段と、
を、備えたことを特徴とした燃料噴射装置。
【請求項2】
前記気泡濃度認識手段は、クランク角とともに筒内圧を観測し、
前記空気圧調整手段は、前記気泡濃度認識手段により、ピーク筒内圧となったクランク角が閾値となるクランク角よりも遅れて観測されたときに、前記空気供給圧力を低下させることを特徴とした請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記気泡濃度認識手段は、内燃機関に発生するノッキングを観測し、
前記空気圧調整手段は、前記気泡濃度認識手段により、ノッキングが観測されたときに、前記空気供給圧を上昇させることを特徴とした請求項1又は2記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記空気導入手段は、前記ニードルの内部に形成された空気導入路であり、前記空気圧調整手段は、前記空気導入路へ導入する空気の圧力を調整することを特徴とした請求項1乃至3のいずれか一項記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記空気導入手段は、前記旋回安定室と燃焼室とを連通する連通孔であり、前記空気圧調整手段は、吸気行程初期に開始される燃料噴射の開始時期を噴射燃料量の増加に伴って進角させることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−247172(P2011−247172A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121013(P2010−121013)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】