説明

燃料電池の反応ガス供給装置

【課題】遮断弁を備えることなく燃料ガスの流路を長期的に遮断できるレギュレータを備える燃料電池の反応ガス供給装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ダイヤフラム22と一体に上下動するステム26の下方に、燃料遮断ばね52によって上方に付勢されるシャフト51が備わる。そしてシャフト51がステム26を上方に付勢して、ステム26に固定される弁体27が水素流路24を長期的に遮断する。反応ガス供給装置1を使用する場合は、コイル53に電流を供給してシャフト51を磁化し、下方の固定鉄心54に吸着してステム26の上下動を開放する。ステム26はダイヤフラム22と一体に上下動して、水素流路24を開放・閉鎖する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の燃料電池に備わる、燃料電池の反応ガス供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の燃料電池システムにおいては、酸化ガス(エア)が供給されるアノード極と燃料ガス(水素)が供給されるカソード極との圧力差(極間差圧)を一定以内の範囲に保持する必要がある。そこで、カソード極の入り口圧力を基準圧として、燃料電池のアノード供給圧力を調整するレギュレータを有するシステムがある。
【0003】
そして、例えば特許文献1には、車両の運転状態に応じて、アノード供給圧力をカソード極の入り口圧力に対する最適な値に、感度よく制御するレギュレータの技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、例えばイグニッションスイッチをOFFしたときなど、燃料電池への燃料ガスの流路を長期的に遮断する必要がある。レギュレータに備わるバルブを閉じることでも燃料ガスの流路を遮断できるが、例えば特許文献1に開示されたごとく、レギュレータには高い調圧精度が要求されることから、レギュレータに備わるバルブのシート力を高めることができず、燃料ガスの流路を長期的に遮断することはできない。
そのため、例えば燃料ガスの供給源(燃料タンク等)とレギュレータとの間に、燃料ガスの流路を長期的に遮断するための遮断弁を備え、この遮断弁を閉じることで燃料ガスの流路を長期的に遮断する。
【特許文献1】特開2005−183357号公報(段落0018〜0024、図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レギュレータのほかに遮断弁を備えることで、燃料電池システムが複雑化、かつ、大型化するという問題があり、改善の余地がある。
そこで、本発明は、応答性に優れ、遮断弁を備えることなく燃料ガスの流路を長期的に遮断できるレギュレータを備えた燃料電池の反応ガス供給装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、燃料電池のカソード極に加圧されたエアを供給するコンプレッサと、前記燃料電池のアノード極に水素を供給する水素供給手段と、前記燃料電池の運転状態に応じて前記コンプレッサ及び/又はカソード極の背圧弁を制御して前記カソード極のエア圧力を調整するカソード圧力制御装置と、前記カソード極のエア圧力を基準圧として印加し、このエア圧力に基づいて前記アノード極への供給圧力を調整するレギュレータと、前記レギュレータに印加するエア圧力をエア流路から排出することにより、前記レギュレータに印加される基準圧を調整可能な圧力調整器と、を備えた燃料電池の反応ガス供給装置とした。そして、前記レギュレータに印加されるエア圧力に抗して、前記レギュレータに形成される水素流路を遮断可能とする水素遮断手段を備えたことを特徴とした。
【0007】
請求項1に係る発明によると、レギュレータに印加されるエア圧力に抗して、水素流路を遮断することができる。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、前記レギュレータの内部空間は、ダイヤフラムによって、前記水素流路が形成される領域と、前記エア圧力が印加される信号圧室が形成される領域とに仕切られ、前記水素流路には、この水素流路を遮断するように前記ダイヤフラムに付勢されるとともに、前記信号圧室に印加されるエア圧力の上昇に伴って前記水素流路を開放するように動作する遮断弁が備わる構成とした。そして、前記水素遮断手段は、前記信号圧室に印加されるエア圧力に抗して前記水素流路を遮断するように、前記遮断弁に付勢力を与える付勢手段と、前記付勢手段が前記遮断弁に与える付勢力の伝達を遮断する付勢力遮断手段と、を備えることを特徴とした。
【0009】
請求項2に係る発明によると、水素流路を遮断する遮断弁に、付勢手段から付勢力を与え、この付勢力でレギュレータに印加されるエア圧力に抗して、水素流路を遮断するとともに、遮断弁への付勢力の伝達を遮断することができる。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、前記付勢力遮断手段は、前記付勢手段と前記遮断弁との間に介在して、前記付勢手段の付勢力を前記遮断弁に伝達する可動鉄心と、前記可動鉄心を磁化させる磁場を発生するコイルと、前記コイルに電流を供給する電流供給手段と、前記可動鉄心が磁化したときに、前記可動鉄心を吸引する固定鉄心と、を含んだ構成とした。そして、前記電流供給手段が前記コイルに電流を供給することで、前記可動鉄心を磁化し、前記固定鉄心が、前記付勢手段の付勢力に抗して、磁化した前記可動鉄心を吸引し、前記可動鉄心が前記遮断弁から離反することで、前記付勢手段が前記遮断弁に与える付勢力の伝達を遮断することを特徴とした。
【0011】
請求項3に係る発明によると、コイルに電流を供給することで可動鉄心を磁化し、その磁力によって、付勢手段から遮断弁に与えられる付勢力の伝達を遮断することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、応答性に優れ、遮断弁を備えることなく燃料ガスの流路を長期的に遮断できるレギュレータを備えた燃料電池の反応ガス供給装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態にかかる燃料電池の反応ガス供給装置の構成の一例を示すブロック図、図2は、本実施形態にかかるレギュレータの断面図である。
図1に示すように、燃料電池の反応ガス供給装置1は、燃料電池2、燃料電池2にエアを供給するコンプレッサ3、及び燃料電池2から排出される空気オフガスを外部に排出する背圧制御弁4を含んで構成される。
さらに、燃料電池の反応ガス供給装置1は、燃料電池2に供給される水素が加圧状態で充填される水素タンク9、水素タンク9から放出される水素を再循環するエゼクタ6、及び燃料電池2に供給する水素の圧力を調整するレギュレータ5が備わる。
そして、燃料電池2に要求されている出力(以下、要求出力)に応じて、コンプレッサ3を駆動して所定量のエアを燃料電池2に供給するとともに、背圧制御弁4を制御してカソード極でのエアの供給圧を燃料電池2の要求出力に応じた圧力に調整するECU(Electric Control Unit)10が備わる。なお、カソード極のエアの供給圧力の調整は、コンプレッサの出力の制御及び/又は、背圧制御弁4の制御により可能である。
【0014】
燃料電池2は、固体高分子電解質膜の両側にアノード極とカソード極が設けられ、各電極の外側に反応ガス(水素及びエア)を供給するためのガス通路が設けられてなるセルを多数積層して構成されるスタックからなる。
燃料電池2には、アノード極に燃料ガスとしての水素が供給され、カソード極に酸化剤ガスとしてのエアが供給され、アノード極で触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜を通過してカソード極まで移動して、カソード極でエアに含まれる酸素と電気化学反応を起こして発電する。
【0015】
コンプレッサ3は大気中の空気(エア)を加圧する機能を有し、加圧されたエアは燃料電池2のカソード極に供給される。そして、エアに含まれる酸素が酸化剤として作用した後、燃料電池2から空気オフガスとして排出され、背圧制御弁4を介して大気に放出される。
【0016】
一方、水素タンク9には、燃料ガスである水素が加圧状態で充填されている。水素タンク9から放出された加圧状態の水素は、レギュレータ5によって減圧されて、エゼクタ6で流量が調整された後、燃料電池2のアノード極に供給される。
水素は、発電に供された後、燃料電池2から水素オフガスとして排出され、水素オフガス回収路11を通ってエゼクタ6に吸引され、水素タンク9から供給される水素と合流して再び燃料電池2に供給される。
【0017】
ECU10は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えるマイクロコンピュータ及び周辺回路などから構成され、例えばROMに格納されるプログラムによって駆動する。ECU10は、燃料電池2に要求されている出力に応じて、コンプレッサ3を駆動して所定量のエアを燃料電池2に供給するとともに、背圧制御弁4を制御してカソード極におけるエアの供給圧を燃料電池2の要求出力に応じた圧力に調整する機能を有する。前記したように、カソード極におけるエア供給圧力の調整は、コンプレッサの制御及び/又は、背圧制御弁4の制御により可能である。このことから、ECU10は、請求項に記載のカソード圧力制御装置に相当する。さらに、後記するレギュレータ5のコイル53(図2参照)に電流を供給する機能を有する。このことから、ECU10は、請求項に記載の電流供給手段となる。
【0018】
エゼクタ6は、水素を再循環させる機能を有する部材である。本実施形態においては、水素の流量を調整する機能も有し、例えば水素供給流路の径が多段に切り換わるものが考えられる。具体的には、径の異なる複数のノズルを備えたスライド部材がスライドすることにより、ノズルのいずれかが水素ガス供給流路に接続される。これにより、エゼクタ6に供給されるガス(この場合は水素)の流量が制御される。そして、水素タンク9から放出され、燃料電池2に供給する水素の流量を調整することができる。
【0019】
レギュレータ5は、例えば空気式の比例圧力制御弁からなり、一例として図2に示す構成を有する。
図2に示すように、レギュレータ5の外形を形成するボディ21の内部空間は、上下に配置される2つのダイヤフラム22a、22b(22)によって上下に仕切られている。
【0020】
ダイヤフラム22は、ボディ21の内部空間を上下に仕切るように備わる膜状の部材であって、ゴムなど弾性部材や金属板などで形成される。ダイヤフラム22の外周端近傍には、ダイヤフラム22の外周に沿った凹部からなる折り返し220が形成され、ダイヤフラム22のばね効果を高めている。そして、折り返し220の内側には、ダイヤフラム22を上下に挟むように補強ボス221が固定される。
【0021】
ボディ21には2つのダイヤフラム22a、22bが上下に、かつ、略平行に備わり、図2に示すようにボディ21の内部空間を上下に仕切っている。そして、上側に配置されるダイヤフラム22aの上側の空間には、信号圧室23が形成され、下側に配置されるダイヤフラム22bよりも下側の空間には、水素流路24が形成される。信号圧室23は空気導入孔25を備えた密閉空間であり、コンプレッサ3で加圧されたエアが空気信号導入路15を介して空気導入孔25から導入される。
【0022】
また、水素流路24は、水素タンク9(図1参照)から放出された水素が通過する流路となる。本実施形態にかかるレギュレータ5においては、水素流路24は側面視で略S字型であって、垂直部分には、流路を狭めるように周囲が突出したバルブシート部28が形成されている。そして、バルブシート部28の中央部分は後記する弁体27の移動により開口して、水素流路24より狭い流通孔33が形成される。
【0023】
ダイヤフラム22a、22bには、棒状のステム26がダイヤフラム22a、22bの略中心を貫通するように固定され、ステム26には弁体27が固定される。弁体27は、底部が流通孔33より大きな径を有する円錐台状の部材であって、ステム26と一体に水素ガス流路24の垂直部分のバルブシート部28より下方側を上下動し、バルブシート部28に対して下側から着座離反する。そして、弁体27は、ダイヤフラム22a、22bの弾性復元力によって、バルブシート部28に下方から圧接され先端部が流通孔33に嵌り込んで流通孔33を閉鎖し、水素流路24を遮断する。このように、ステム26に固定される弁体27が水素流路24を遮断することから、ステム26及び弁体27が請求項に記載の遮断弁となる。以降、弁体27が流通孔33を閉鎖して水素流路24を遮断する状態を、水素遮断状態と称する。
なお、弁体27は、薄い円柱状であってもよい。そして、水素遮断状態のときには、バルブシート部28の下方から圧接して、水素流路24を遮断する構成であってもよい。
【0024】
信号圧室23には、ダイヤフラム22aを下方に付勢するバイアス設定用スプリング(弾性体)29が設けられている。バイアス設定用スプリング29には、図示しない付勢力調整手段が備わり、ダイヤフラム22aに与える付勢力を調整することができる。
【0025】
バイアス設定用スプリング29の付勢力調整手段は図示しないが、例えば、ボディ21に対するバイアス設定用スプリング29の固定位置が上下に調整できるように、バイアス設定用スプリング29をボディ21に固定すればよい。固定位置を下方に調整すると、バイアス設定用スプリング29の圧縮量が大きくなって、ダイヤフラム22aに与える付勢力が大きくなる。一方、固定位置を上方に調整すると、バイアス設定用スプリング29の圧縮量が小さくなって、ダイヤフラム22aに与える付勢力が小さくなる。
【0026】
また、ボディ21には、弁体27が配置されている側の水素流路24aに連通する水素ガス入口31と、弁体27が配置されていない側の水素流路24bに連通する水素ガス出口32が設けられていて、水素ガス入口31、水素ガス出口32は水素供給管13に接続されている。
【0027】
そして、ダイヤフラム22aとダイヤフラム22bの間に形成される領域には、大気に開放されたエア流路23aが開口し、このエア流路23aによって、ダイヤフラム22aとダイヤフラム22bの間に形成される領域は常に大気圧に保持される。すなわち、ダイヤフラム22aの下方とダイヤフラム22bの上方には大気圧が作用する。したがって、大気圧を基準としてダイヤフラム22a及びダイヤフラム22bを動作することができる。このことは、大気圧をレギュレータ5に印加されるエア圧力の基準圧として調整できることになり、レギュレータ5は請求項に記載の圧力調整器を備えることになる。
【0028】
このように構成されるレギュレータ5では、信号圧室23内にエアが導入されて、信号圧室23内のエア圧力が大気圧より高くなり、さらに信号圧室23内のエア圧力がダイヤフラム22aを下動させる力がダイヤフラム22aの弾性復元力を上回ると、ダイヤフラム22aは下動する。そして、信号圧室23内のエア圧力がダイヤフラム22aを下動させる力が、ダイヤフラム22aの弾性復元力とダイヤフラム22bの弾性復元力の合力よりも大きい場合は、ステム26を下動する。弁体27はステム26と一体に下動するので、バルブシート部28から離反して、流通孔33が開放されて水素が通流する。以降、流通孔33が開放されて水素が通流する状態を水素通流状態と称する。
【0029】
一方、信号圧室23内のエア圧力が低くなって、信号圧室23内のエア圧力がダイヤフラム22aを下動させる力が、ダイヤフラム22aの弾性復元力を下回ると、ダイヤフラム22aの補強ボス221aは、ダイヤフラム22aの弾性復元力によって上動する。ステム26は、補強ボス221aの上動とダイヤフラム22bの弾性復元力によって上動し、水素遮断状態となる。
【0030】
なお、水素通流状態においては、弁体27とバルブシート部28との距離が小さいほど、すなわち通流孔33の開度が小さいほど、流通孔33での圧力損失が大きく、水素ガス出口32における水素の圧力が小さくなる。一方、通流孔33の開度が充分に大きいときは、流通孔33での圧力損失が小さく、水素ガス入口31における水素の圧力と略同等の圧力の水素が、水素ガス出口32から出力される。このことから、弁体27とバルブシート部28との距離、すなわち通流孔33の開度によって、水素ガス出口32に出力される水素の圧力を調整することができる。
【0031】
このように、ステム26を上下動して水素ガス出口32に出力される水素の圧力を調整することから、水素ガス出口32に出力される水素の圧力を精度よく調整するためには、ステム26を精度よく上下動する必要がある。そして、ステム26はダイヤフラム22aの上下動とダイヤフラム22a、22bの弾性復元力によって上下動することから、それによって、ステム26は感度よく下動する必要がある。
【0032】
しかしながら、ステム26が固定されるダイヤフラム22a、22bの弾性復元力を大きくした場合、もしくはシール性を高めるために図示しないスプリング等によって付加力を付与した場合、その弾性復元力もしくはスプリング等の付加力に抗してステム26を下動するためには、信号圧室23に導入するエアのエア圧力も高くする必要があり、微小な圧力差ではステム26が下動しない。すなわち、信号圧室23におけるエア圧力の微小な圧力差ではステム26が下動しないことになる。換言すると、信号圧室23におけるエア圧力の微小な圧力差に感度よく反応しない。したがって、信号圧室23に導入されるエアのエア圧力の変動に対する、レギュレータ5の精度の高い調圧性を求めると、ダイヤフラム22a、22bの弾性復元力もしくはスプリング等の付加力は、あまり大きくすることができない。
【0033】
例えば、燃料電池の反応ガス供給装置1(図1参照)を停止するときなどは、燃料電池2(図1参照)に水素が供給されないように、長期的に水素の流路を遮断することが必要である。図2に示すレギュレータ5に備わる弁体27でも、ダイヤフラム22a、22bの弾性復元力によって、流通孔33を閉鎖できることから、水素流路24を遮断することができる。水素流路24が遮断されると、反応ガス供給装置1における水素の流路は遮断されることになる。しかしながら前記の理由によって、ダイヤフラム22a、22bの弾性復元力、もしくはスプリング等の付加力は、レギュレータ5として精度の高い調圧性を求めると、あまり大きくできない。したがって、流通孔33を閉鎖する力もあまり強くなく、経年変化等によって長期的に水素の流路を遮断することが困難となることが考えられる。
【0034】
このため、長期的に水素の流路を遮断するように、図1に示す燃料電池の反応ガス供給装置1において、例えばレギュレータ5の上流側に、水素の流路を遮断する遮断弁を備えることが考えられる。しかしながら、遮断弁を備えると燃料電池の反応ガス供給装置1が、複雑化、かつ、大型化してしまう。さらに、遮断弁を備えることで生産コストも上昇してしまうことになる。
そこで、本実施形態においては、レギュレータ5(図2参照)に例えばソレノイドを利用した水素遮断手段を備えることで、長期的に水素流路24(図2参照)を遮断できる構成とした。
【0035】
図2に示すように、ボディ21には、バルブシート部28の鉛直下方に貫通孔21aが開口していて、ステム26が貫通孔21を貫通するように、ガイド部材26aを介して上下動自在に保持される。
さらに、貫通孔21aの下方には、上方が開口したカップ状のシャフトケース56が固定される。このとき、シャフトケース56の開口部が貫通孔21aと連通するように、シャフトケース56は固定される。
【0036】
シャフトケース56の開口部内には、鉄などの磁性体で形成されるシャフト(可動鉄心)51が上下動可能に収納されている。シャフト51は、例えばシャフトケース56の開口部の内径よりわずかに外径の小さな略円柱状の部材で、シャフトケース56の開口部内を緩く上下動するように備わる。さらに、シャフトケース56の底部には、鉄などの磁性体からなる固定鉄心54が固定される。そして、シャフト51と固定鉄心54の間には、例えばコイルばねからなる燃料遮断ばね(付勢手段)52が圧縮状態で備わり、シャフト51を上向きに付勢している。
【0037】
シャフト51の上端部は、ステム26の下端部に当接するように配置される。すなわち、燃料遮断ばね52によって上向きに付勢されるシャフト51が、ステム26を上向きに付勢する構造である。このような構造によって、ステム26に固定される弁体27が上向きに付勢され、バルブシート部28に圧接される。すなわち、燃料遮断ばね52とステム26の間にシャフト51が介在し、燃料遮断ばね52の付勢力をステム26に伝達している。
【0038】
シャフトケース56の周囲には、絶縁材料で形成されたボビン55に巻かれたコイル53が備わる。そして、コイル53には、反応ガス供給装置1(図1参照)に備わるECU10から電流が供給される構成とする。すなわち、固定鉄心54、可動鉄心であるシャフト51、コイル53、及びECU10とで、図2に破線で囲んで示されるソレノイド50を形成する。そして、ソレノイド50が請求項に記載の付勢力遮断手段となる。
【0039】
図3は、ソレノイドの拡大図であって、(a)は、シャフトが下動したことを示す図、(b)は、シャフトが上動したことを示す図である。
ECU10からコイル53に電流が供給されると、シャフト51の周囲に磁場が発生する。そして、磁性体であるシャフト51は磁場によって磁化され、固定鉄心54に吸引されて、図3の(a)に示すように下動する。
ステム26は、ダイヤフラム22a、22b(図2参照)の弾性復元力によって上動していることから、シャフト51が下動すると、ステム26からシャフト51が離反し、ステム26の下端部とシャフト51の上端部との間にクリアランスが形成される。したがって、燃料遮断ばね52がステム26に与える付勢力の伝達が遮断され、ステム26はダイヤフラム22a、22bの上下動に伴って上下動できるようになる。
【0040】
なお、磁化したシャフト51が燃料遮断ばね52に抗して、固定鉄心54に吸引されるためには、シャフト51に発生する磁力が固定鉄心54を吸引する力が、燃料遮断ばね52の付勢力より大きい必要がある。
シャフト51に発生する磁力は、シャフト51の周囲に発生する磁場の大きさに対応し、磁場の大きさはコイル53の直径および巻き数に対応する。したがって、コイル53の直径および巻き数は、燃料遮断ばね52の付勢力を考慮して設定すればよいことになる。
【0041】
一方、反応ガス供給装置1(図1参照)が停止してECU10からコイル53への電流供給が停止されると、シャフト51は消磁し、図3の(b)に示すように、燃料遮断ばね52の付勢力によって上動する。そして、シャフト51の上端部がステム26の下端部に当接し、ステム26を上向きに付勢する。
【0042】
なお、燃料遮断ばね52の付勢力は、反応ガス供給装置1(図1参照)が停止したときに、信号圧室23に残留するエアのエア圧力がダイヤフラム22aを下方に押し下げる力より大きなことが好ましい。このことによって、信号圧室23(図2参照)にエアが残留する場合であっても、シャフト51を介して弁体27(図2参照)をバルブシート部28(図2参照)に確実に圧接することができ、水素流路24(図2参照)を確実に遮断することができる。すなわち、信号圧室23にエアが残留する場合であっても水素流路24を完全に遮断するのに必要な圧接力が得られるように、燃料遮断ばね52の強さ(ばね定数と圧縮量)を決定することで、水素流路24を長期的に遮断することができる。
また、ステム26は、磁化したシャフト51に吸引されないように、例えばアルミニウムや銅など非磁性体の素材で形成されることが好ましい。
【0043】
以上、図1〜図3を参照して、反応ガス供給装置1の動作について説明したが、ソレノイド50の形態は、図2に示す形態に限定されるものではなく、例えば図4に示すような形態であってもよい。図4はソレノイドの別の形態を示す図である。
なお、図4においては、図2に示すソレノイドと同じ部材には同じ符号を付し、説明は適宜省略する。
【0044】
シャフトケース56の開口部内に、上下動可能に収納されるシャフト51は、鉄などの磁性体からなる部材であって、図4に示すように下端側が細くなった円錐状に形成される。そしてその上方には、外側に広がったフランジ部51aが形成される。
なお、フランジ部51aの外径は、シャフトケース56の開口部の内径よりわずかに小さいことが好ましい。このことによって、シャフト51はシャフトケース56の開口部内を緩やかに上下動することができる。
【0045】
シャフトケース56の底部には、鉄などの磁性体からなる固定鉄心54が固定される。固定鉄心54の中央部には、円錐形の吸引孔54aが形成され、シャフト51の先端部が吸引孔54aに嵌りこむように、シャフト51は下動する。
【0046】
固定鉄心54の上側には、例えばコイルばねを用いた燃料遮断ばね52が上下方向に圧縮するように備わり、シャフト51は燃料遮断ばね52の中心を貫通するように備わる。そして、燃料遮断ばね52は、シャフト51のフランジ部51aと固定鉄心54の間で圧縮状態に保持され、シャフト51を上向きに付勢している。
【0047】
このように形成されるソレノイド50においては、ECU10からコイル53に電流が供給され、シャフト51が磁化されると、先端の円錐形状の傾斜部分において吸引力が発生して固定鉄心54に吸引される。このことは、吸引力が発生する面積が大きいことを示し、ECU10からコイル53に供給する電流が少なくてもシャフト51を吸引できるという優れた効果を奏する。
【0048】
図2に示すように構成されるレギュレータ5においては、燃料電池の反応ガス供給装置1(図1参照)を動作する間は、ECU10からコイル53に電流を供給し続けて、シャフト51を下動させておく。シャフト51が下動すると、ステム26は上下動の拘束が解除され、ステム26は信号圧室23に導入されるエアのエア圧力に対応して上下動し、流通孔33の開度を調整できる。したがって、信号圧室23に導入されるエアのエア圧力に対応して水素ガス出口32から出力される水素の圧力を精度よく調整できる。
【0049】
そして、燃料電池の反応ガス供給装置1(図1参照)が停止すると、ECU10からコイル53に供給される電流が停止されてシャフト51は消磁し、燃料遮断ばね52の付勢力で上動して、ステム26を上方向に付勢する。したがって、ステム26に固定される弁体27も上向きに付勢され、燃料遮断ばね52の付勢力でバルブシート部28に圧接される。弁体27がバルブシート部28に圧接されると、弁体27は流通孔33を閉鎖することから、水素流路24が遮断される。
【0050】
このように、弁体27は、燃料遮断ばね52の付勢力で流通孔33を閉鎖することになり、長期的に水素流路24を遮断できる。したがって、水素の流路を遮断する遮断弁を備えることなく、長期的に水素の流路を遮断できるという優れた効果を奏する。
【0051】
さらに、図2に示すように、本実施形態にかかるレギュレータ5は、従来使用されるダイヤフラム式のレギュレータ5をベースに構成することができ、大幅な変更が必要なく構成できるという優れた効果を奏する。
【0052】
なお、本実施形態においては図2に示すように、シャフト51をソレノイド50と燃料遮断ばね52で上下動する構成としたが、この構成に限定されるものではない。例えばシャフトケース56の内側とシャフト51の外側にねじを切って螺合し、シャフト51を図示しないモータなどで回転してシャフト51を上下動するような構成など、他の構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施形態にかかる燃料電池の反応ガス供給装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本実施形態にかかるレギュレータの断面図である。
【図3】ソレノイドの拡大図であって、(a)は、シャフトが下動したことを示す図、(b)は、シャフトが上動したことを示す図である。
【図4】ソレノイドの別の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 反応ガス供給装置
2 燃料電池
3 コンプレッサ
5 レギュレータ
9 水素タンク(水素供給手段)
10 ECU(カソード圧力制御装置、電流供給手段)
22(22a、22b) ダイヤフラム
23 信号圧室
23a エア流路
24 水素流路
26 ステム(遮断弁)
27 弁体(遮断弁)
50 ソレノイド(付勢力遮断手段)
51 シャフト(可動鉄心)
52 燃料遮断ばね(付勢手段)
53 コイル
54 固定鉄心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池のカソード極に加圧されたエアを供給するコンプレッサと、
前記燃料電池のアノード極に水素を供給する水素供給手段と、
前記燃料電池の運転状態に応じて前記コンプレッサ及び/又はカソード極の背圧弁を制御して前記カソード極のエア圧力を調整するカソード圧力制御装置と、
前記カソード極のエア圧力を基準圧として印加し、このエア圧力に基づいて前記アノード極への供給圧力を調整するレギュレータと、
前記レギュレータに印加するエア圧力をエア流路から排出することにより、前記レギュレータに印加される基準圧を調整可能な圧力調整器と、を備えた燃料電池の反応ガス供給装置において、
前記レギュレータに印加されるエア圧力に抗して、前記レギュレータに形成される水素流路を遮断可能とする水素遮断手段を備えたことを特徴とする燃料電池の反応ガス供給装置。
【請求項2】
前記レギュレータの内部空間は、ダイヤフラムによって、前記水素流路が形成される領域と、前記エア圧力が印加される信号圧室が形成される領域とに仕切られ、前記水素流路には、この水素流路を遮断するように前記ダイヤフラムに付勢されるとともに、前記信号圧室に印加されるエア圧力の上昇に伴って前記水素流路を開放するように動作する遮断弁が備わり、
前記水素遮断手段は、前記信号圧室に印加されるエア圧力に抗して前記水素流路を遮断するように、前記遮断弁に付勢力を与える付勢手段と、
前記付勢手段が前記遮断弁に与える付勢力の伝達を遮断する付勢力遮断手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の反応ガス供給装置。
【請求項3】
前記付勢力遮断手段は、前記付勢手段と前記遮断弁との間に介在して、前記付勢手段の付勢力を前記遮断弁に伝達する可動鉄心と、
前記可動鉄心を磁化させる磁場を発生するコイルと、
前記コイルに電流を供給する電流供給手段と、
前記可動鉄心が磁化したときに、前記可動鉄心を吸引する固定鉄心と、を含んで構成され、
前記電流供給手段が前記コイルに電流を供給することで、前記可動鉄心を磁化し、
前記固定鉄心が、前記付勢手段の付勢力に抗して、磁化した前記可動鉄心を吸引し、前記可動鉄心が前記遮断弁から離反することで、前記付勢手段が前記遮断弁に与える付勢力の伝達を遮断することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池の反応ガス供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−68648(P2009−68648A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239818(P2007−239818)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】