説明

燃料電池の製造方法

【課題】複数のセルユニットを容易且つ迅速に組み立てることができ、前記セルユニットの組み立て作業を効率的に行うことを可能にする。
【解決手段】燃料電池10を構成するセルユニット12は、第1セパレータ14、第1電解質膜・電極構造体16a、第2セパレータ18、第2電解質膜・電極構造体16b及び第3セパレータ20を設ける。第1セパレータ14、第2セパレータ18及び第3セパレータ20の外周縁部には、樹脂製締結部110a、110b及び110cが設けられる。樹脂製締結部110a、110b及び110cには、接合ピン13が選択的に挿入される第1孔部114a及び第2孔部114bが形成される。接合ピン13は、大径フランジ部118aを有するとともに、前記大径フランジ部118aには、ピン軸方向内方に向かって縮径するテーパ形状に設定される凹部120が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側に一対の電極を設けた電解質膜・電極構造体とセパレータとが積層されるユニットセルを備え、前記ユニットセルが接合ピンにより一体化される燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータによって挟持した単位セル(ユニットセル)を構成している。この種の燃料電池(単位セル)は、通常、所定の数だけ積層されることにより、燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
この種の燃料電池では、通常、数十〜数百の燃料電池を積層して燃料電池スタックを構成している。その際、燃料電池自体及び前記燃料電池同士を正確に位置決めする必要があり、例えば、特許文献1に開示された燃料電池が知られている。
【0004】
この従来の燃料電池は、第1及び第2セパレータの外周を、複数個所で保持する複数の金属クリップ部材を備え、前記金属クリップ部材は、側板部と、前記側板部の端部で屈曲して前記第1及び第2セパレータの外周を把持する第1及び第2舌片部とを有し、前記第1及び第2舌片部は、前記側板部よりも長尺に構成されるとともに、ばね性を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−241208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の燃料電池では、各燃料電池毎に複数箇所に金属クリップ部材を装着する作業が必要である。このため、金属クリップ部材の装着作業が煩雑化し、特に数百の燃料電池を積層して燃料電池スタックを組み立てる際に、作業に相当の時間と手間がかかってしまう。これにより、効率的な組み立て作業が遂行されないという問題がある。
【0007】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、複数の燃料電池を容易且つ迅速に組み立てることができ、前記燃料電池の組み立て作業を効率的に行うことが可能な燃料電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電解質膜の両側に一対の電極を設けた電解質膜・電極構造体とセパレータとが積層されるセルユニットを備え、前記セルユニットが接合ピンにより一体化される燃料電池に関するものである。
【0009】
接合ピンは、セルユニットの一端側に係合する大径フランジ部と、前記セルユニットの他端側に係合する頭部とを有するとともに、前記大径フランジ部には、接合ピン吸引保持用の凹部が形成されている。
【0010】
また、凹部は、接合ピン軸方向内方に向かって縮径するテーパ形状に設定されることが好ましい。
【0011】
さらに、接合ピンは、樹脂材で形成されるとともに、頭部は、柱体部の端部を溶着により拡径させて構成されることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明は、電解質膜の両側に一対の電極を設けた電解質膜・電極構造体とセパレータとが積層されるセルユニットを備え、前記セルユニットが接合ピンにより一体化される燃料電池の製造方法に関するものである。
【0013】
この製造方法は、接合ピンの大径フランジ部に形成された凹部を吸引することにより、前記接合ピンを組み立て位置に位置決め保持する工程と、前記接合ピンを、セルユニットに設けられた孔部に挿入させて、前記セルユニットを配設する工程と、前記セルユニットから外部に露呈する前記接合ピンの端部を拡径させて頭部を形成し、前記頭部及び前記大径フランジ部で前記セルユニットを一体に保持する工程とを有している。
【0014】
また、接合ピンは、樹脂材で形成されるとともに、柱体部の端部を溶着により拡径させて頭部を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、接合ピンの大径フランジ部に凹部が設けられるため、この凹部を吸引することにより、前記接合ピンを位置決め保持することができる。従って、複数の接合ピンをそれぞれ確実に位置決め保持した状態で、セルユニットを各接合ピンに対して一体に配設させることが可能になる。
【0016】
これにより、特に小型で且つ多数の接合ピンが使用される際に、前記接合ピンを介してセルユニットを一体化させる作業が正確且つ迅速に遂行され、作業性の向上が容易に図られる。
【0017】
また、本発明によれば、接合ピンは、凹部が吸引されることにより組み立て位置に確実に位置決め保持された状態で、セルユニットの孔部に前記接合ピンが挿入されている。このため、接合ピンをセルユニットの孔部に挿入する作業が簡素化される。
【0018】
次いで、セルユニットから外部に露呈する接合ピンの端部が拡径されることにより、前記接合ピンを介して前記セルユニットを一体化させることができる。これにより、セルユニットの製造作業が簡単且つ迅速に遂行可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図2】前記燃料電池を構成する第1セパレータの一方の面側の説明図である。
【図3】前記燃料電池を構成する第2セパレータの一方の面側の説明図である。
【図4】前記燃料電池を構成する第3セパレータの正面説明図である。
【図5】前記燃料電池を構成する樹脂製締結部の、図1中、V−V線断面図である。
【図6】前記樹脂製締結部に接合ピンが挿入される際の、図1中、VI−VI線断面図である。
【図7】溶着装置の概略斜視説明図である。
【図8】前記樹脂製締結部により燃料電池を組み立てる際の説明図である。
【図9】成形装置の概略説明図である。
【図10】前記成形装置が離型された状態の説明図である。
【図11】前記成形装置から接合ピンが離型される際の説明図である。
【図12】吸着作業台上に前記接合ピンが吸着保持される際の説明図である。
【図13】前記接合ピンに燃料電池が配置される際の説明図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図15】前記燃料電池を構成する樹脂製締結部の断面説明図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池を構成するセルユニットの要部断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池10は、セルユニット12を備え、前記セルユニット12が接合ピン13により一体化される。セルユニット12は、第1セパレータ14、第1電解質膜・電極構造体(電解質・電極構造体)(MEA)16a、第2セパレータ18、第2電解質膜・電極構造体16b及び第3セパレータ20を設け、これらが水平方向(矢印A方向)又は重力方向(矢印C方向)に積層される。
【0021】
第1セパレータ14、第2セパレータ18及び第3セパレータ20は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板により構成される。第1セパレータ14、第2セパレータ18及び第3セパレータ20は、金属製薄板を波形状にプレス加工することにより、断面凹凸形状を有する。なお、第1セパレータ14、第2セパレータ18及び第3セパレータ20は、金属セパレータに換えて、カーボンセパレータ等を使用してもよい。
【0022】
第1電解質膜・電極構造体16aは、第2電解質膜・電極構造体16bよりも小さな表面積に設定される。第1及び第2電解質膜・電極構造体16a、16bは、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜22と、前記固体高分子電解質膜22を挟持するアノード側電極24及びカソード側電極26とを備える。
【0023】
アノード側電極24は、カソード側電極26よりも小さな表面積を有する、所謂、段差型MEAを構成している。固体高分子電解質膜22、アノード側電極24及びカソード側電極26は、それぞれ矢印B方向両端部上下に切り欠きが設けられて表面積が縮小されている。
【0024】
アノード側電極24及びカソード側電極26は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層(図示せず)と、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成される電極触媒層(図示せず)とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜22の両面に形成される。
【0025】
セルユニット12の長辺方向の(矢印C方向)上端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔30a、及び燃料ガス、例えば、水素含有ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔32aが設けられる。
【0026】
セルユニット12の長辺方向の(矢印C方向)下端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔32b、及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔30bが設けられる。
【0027】
セルユニット12の短辺方向(矢印B方向)の一端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔34aが設けられるとともに、前記セルユニット12の短辺方向の他端縁部には、前記冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔34bが設けられる。
【0028】
図2に示すように、第1セパレータ14の第1電解質膜・電極構造体16aに向かう面14aには、燃料ガス入口連通孔32aと燃料ガス出口連通孔32bとを連通する第1燃料ガス流路36が形成される。第1燃料ガス流路36は、矢印C方向に延在する複数の波状流路溝を有するとともに、前記第1燃料ガス流路36の入口(上端部)及び出口(下端部)近傍には、それぞれ複数のエンボスを有する入口バッファ部38及び出口バッファ部40が設けられる。
【0029】
第1セパレータ14の面14bには、冷却媒体入口連通孔34aと冷却媒体出口連通孔34bとを連通する冷却媒体流路44が形成される。冷却媒体流路44は、第1燃料ガス流路36の裏面形状である。
【0030】
第2セパレータ18の第1電解質膜・電極構造体16aに向かう面18aには、図3に示すように、酸化剤ガス入口連通孔30aと酸化剤ガス出口連通孔30bとを連通する第1酸化剤ガス流路50が形成される。第1酸化剤ガス流路50は、矢印C方向に延在する複数の波状流路溝を有する。第1酸化剤ガス流路50の入口(上端部)及び出口(下端部)近傍には、入口バッファ部52及び出口バッファ部54が設けられる。
【0031】
図1に示すように、第2セパレータ18の第2電解質膜・電極構造体16bに向かう面18bには、燃料ガス入口連通孔32aと燃料ガス出口連通孔32bとを連通する第2燃料ガス流路58が形成される。第2燃料ガス流路58は、矢印C方向に延在する複数の波状流路溝を有するとともに、前記第2燃料ガス流路58の入口(上端部)及び出口(下端部)近傍には、入口バッファ部60及び出口バッファ部62が設けられる。
【0032】
図4に示すように、第3セパレータ20の第2電解質膜・電極構造体16bに向かう面20aには、酸化剤ガス入口連通孔30aと酸化剤ガス出口連通孔30bとを連通する第2酸化剤ガス流路66が形成される。
【0033】
第2酸化剤ガス流路66は、矢印C方向に延在する複数の波状流路溝を有する。第2酸化剤ガス流路66の入口(上端部)及び出口(下端部)近傍には、入口バッファ部68及び出口バッファ部70が設けられる。
【0034】
第3セパレータ20の面20bには、図1に示すように、冷却媒体入口連通孔34aと冷却媒体出口連通孔34bとを連通する冷却媒体流路44が形成される。冷却媒体流路44は、第1燃料ガス流路36及び第2酸化剤ガス流路66の裏面形状(波形状)の重ね合わせにより形成される。
【0035】
第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周端縁部を周回して第1シール部材74が一体成形される。第2セパレータ18の面18a、18bには、この第2セパレータ18の外周端縁部を周回して第2シール部材76が一体成形されるとともに、第3セパレータ20の面20a、20bには、この第3セパレータ20の外周端縁部を周回して第3シール部材78が一体成形される。
【0036】
第1〜第3シール部材74、76及び78としては、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0037】
図1及び図2に示すように、第1セパレータ14には、燃料ガス入口連通孔32aと第1燃料ガス流路36とを連通する入口側第1連結流路80aと、燃料ガス出口連通孔32bと前記第1燃料ガス流路36とを連通する出口側第1連結流路80bとが設けられる。入口側第1連結流路80aは、複数の外側供給孔部82aと複数の内側供給孔部82bとを有する。
【0038】
図1に示すように、面14a側には、燃料ガス入口連通孔32aと各外側供給孔部82aとを連通する複数の通路84aが設けられる。図2に示すように、面14b側には、外側供給孔部82aと内側供給孔部82bとを連通する複数の通路84bが形成される。出口側第1連結流路80bは、同様に、複数の外側排出孔部86aと複数の内側排出孔部86bとを有する。
【0039】
面14a側には、燃料ガス出口連通孔32bと各外側排出孔部86aとを連通する複数の通路88aが形成される。面14b側には、外側排出孔部86aと内側排出孔部86bとを連通する複数の通路88bが形成される(図2参照)。
【0040】
図3に示すように、酸化剤ガス入口連通孔30a及び酸化剤ガス出口連通孔30bと第1酸化剤ガス流路50との連通部分には、複数の入口側連結流路89a及び複数の出口側連結流路89bを形成する複数の受け部90a、90bが設けられる。
【0041】
第2セパレータ18には、燃料ガス入口連通孔32aと第2燃料ガス流路58とを連通する入口側第2連結流路92aと、燃料ガス出口連通孔32bと前記第2燃料ガス流路58とを連通する出口側第2連結流路92bとが設けられる。入口側第2連結流路92aは、供給孔部94を有する。面18a側には、燃料ガス入口連通孔32aと供給孔部94とを連通する通路96aが形成される。
【0042】
出口側第2連結流路92bは、同様に、複数の排出孔部98を有する。面18a側には、排出孔部98を燃料ガス出口連通孔32bに連通する複数の通路100aが形成される。
【0043】
図4に示すように、第3セパレータ20には、酸化剤ガス入口連通孔30a及び酸化剤ガス出口連通孔30bと第2酸化剤ガス流路66の連通部分には、複数の入口側連結流路101a及び複数の出口側連結流路101bを形成する複数の受け部102a、102bが設けられる。
【0044】
図1に示すように、第1セパレータ14、第2セパレータ18及び第3セパレータ20の外周縁部には、樹脂製締結部110a、110b及び110cがそれぞれ複数設けられる。樹脂製締結部110a、110b及び110cは、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、POM(ポリアセタール)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、LCP(液晶ポリマー)、ポリイミド又はABS樹脂等で構成される。
【0045】
樹脂製締結部110a、110b及び110cは、予め、絶縁樹脂で成形した成形品を、かしめや接着等によって第1セパレータ14〜第3セパレータ20を構成する金属プレートに設けられた切り欠き部に固定し、あるいは、前記金属プレートの前記切り欠き部に絶縁樹脂を一体で射出成形してもよい。
【0046】
図1、図2及び図5に示すように、第1セパレータ14に設けられる樹脂製締結部110aは、面14a側に突出する連結ピン部112を一体形成する。連結ピン部112の両側には、接合ピン(リビルトピン)13を選択的に配置可能な、少なくとも第1孔部114a及び第2孔部114bが形成される。
【0047】
図1に示すように、第2及び第3セパレータ18、20に設けられた樹脂製締結部110b、110cには、中央に連結ピン部112が挿入される新規組み付け時締結用の孔部116が形成されるとともに、前記孔部116の両側には、少なくとも第1孔部114a及び第2孔部114bが形成される。
【0048】
図1及び図6に示すように、連結ピン部112に代えて用いられる接合ピン13は、樹脂製締結部110a〜110cと同様に、絶縁樹脂で構成される。この接合ピン13は、第1セパレータ14の第1孔部114a及び第2孔部114bよりも大径に設定されて前記第1セパレータ14の面14b側に当接する大径フランジ部118aを有する。
【0049】
大径フランジ部118aには、接合ピン吸引保持用の凹部120が形成される。凹部120は、接合ピン軸方向(矢印A方向)内方に向かって縮径するテーパ形状に設定される。大径フランジ部118aから膨出する柱体部118bは、各第1孔部114a又は第2孔部114bに選択的に挿入される。柱体部118bの先端は、後述する溶着処理によって大径化された頭部118cを構成し、この頭部118cは、第3セパレータ20の面20b側に係止される。
【0050】
図7に示すように、連結ピン部112及び接合ピン13に溶着処理を施す溶着装置130は、架台132上に配置される吸着作業台134を備える。吸着作業台134には、第1孔部114a及び第2孔部114bの位置に対応して、6つずつの吸引孔136a、136bが形成される。吸引孔136a、136bは、それぞれ図示しない負圧発生源に個別に連通する。
【0051】
吸着作業台134の外方には、複数の支柱138が立設されるとともに、前記支柱138の上部には、昇降アクチュエータ(例えば、リニアモータ等)140が装着される。この昇降アクチュエータ140には、昇降ベース142が取り付けられる。昇降ベース142には、連結ピン部112及び接合ピン13に対応して、例えば、6台の溶着チップ144が設けられる。溶着チップ144は、所定の温度、例えば、250℃〜300℃の温度に加熱されるとともに、前記溶着チップ144の先端側には、所定の形状を有する成形面144aが設けられる(図8参照)。
【0052】
図9は、接合ピン13を成形する成形装置150の概略説明図である。成形装置150は、固定型152と可動型154とを備え、これらの間には、キャビティ156が形成される。固定型152には、コアピン158が配設されるとともに、イジェクトピン160が設けられる。コアピン158の先端には、接合ピン13の凹部120に対応するテーパ面158aが形成される。
【0053】
成形装置150では、固定型152と可動型154とが型締めされた状態で、キャビティ156に溶融樹脂が充填される。キャビティ156内で溶融樹脂が凝固して接合ピン13が成形された後、可動型154が固定型152から離間する方向に移動する(図10参照)。
【0054】
その際、接合ピン13は、射出樹脂の収縮により大径フランジ部118aの凹部120にコアピン158のテーパ面158aが密接している。従って、接合ピン13は、コアピン158に確実に保持されて可動型154から離型される。次いで、イジェクトピン160が大径フランジ部118a側に押し込まれることにより、接合ピン13が固定型152から離型される(図11参照)。このため、接合ピン13の成形性が良好に向上するという利点がある。
【0055】
このように構成される燃料電池10を組み立てる作業について、以下に説明する。
【0056】
各セルユニット12の新規組み立て時には、図8に示すように、第1セパレータ14の樹脂製締結部110aに設けられている連結ピン部112が、第2及び第3セパレータ20の樹脂製締結部110b、110cに設けられている各孔部116に一体に挿入される。
【0057】
この状態で、溶着装置130を構成する6台の溶着チップ144は、図7に示すように、昇降アクチュエータ140の作用下に、昇降ベース142と一体に下降する。このため、各溶着チップ144は、成形面144aを各連結ピン部112の先端に当接させる。
【0058】
ここで、溶着チップ144は、例えば、250℃〜300℃の温度に加熱され、連結ピン部112の先端部に10秒〜30秒間、1N〜2Nの圧力で押圧される。従って、各連結ピン部112の先端が溶融変形されて、頭部112aが形成される(図5参照)。頭部112aは、第3セパレータ20の面20b側で拡径し、孔部116よりも大径に成形される。これによって、第1セパレータ14、第2セパレータ18及び第3セパレータ20を一体に組み付けることができる。
【0059】
上記のように、各セルユニット12が連結ピン部112により締結されて燃料電池10が構成される。
【0060】
次に、燃料電池10の動作について、以下に説明する。
【0061】
先ず、図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔30aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔32aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔34aに純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0062】
このため、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔30aから第2セパレータ18の第1酸化剤ガス流路50及び第3セパレータ20の第2酸化剤ガス流路66に導入される(図3及び図4参照)。この酸化剤ガスは、第1酸化剤ガス流路50に沿って矢印C方向(重力方向)に移動し、第1電解質膜・電極構造体16aのカソード側電極26に供給されるとともに、第2酸化剤ガス流路66に沿って矢印C方向に移動し、第2電解質膜・電極構造体16bのカソード側電極26に供給される(図1参照)。
【0063】
一方、燃料ガスは、図2及び図3に示すように、燃料ガス入口連通孔32aから第1セパレータ14と第2セパレータ18との間に形成された通路84a、96aに導入される。図2に示すように、通路84aに導入された燃料ガスは、外側供給孔部82aを通って第1セパレータ14の面14b側に移動する。さらに、燃料ガスは、通路84bを通って内側供給孔部82bから面14a側に導入される。
【0064】
このため、燃料ガスは、通路84bを通って入口バッファ部38に送られ、第1燃料ガス流路36に沿って、重力方向(矢印C方向)に移動し、第1電解質膜・電極構造体16aのアノード側電極24に供給される。
【0065】
また、通路96aに導入された燃料ガスは、図3に示すように、供給孔部94を通って第2セパレータ18の面18b側に移動する。このため、燃料ガスは、図1に示すように、面18b側で入口バッファ部60に供給された後、第2燃料ガス流路58に沿って矢印C方向に移動し、第2電解質膜・電極構造体16bのアノード側電極24に供給される。
【0066】
従って、第1及び第2電解質膜・電極構造体16a、16bでは、カソード側電極26に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極24に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0067】
次いで、第1及び第2電解質膜・電極構造体16a、16bの各カソード側電極26に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔30bに沿って矢印A方向に排出される。
【0068】
第1電解質膜・電極構造体16aのアノード側電極24に供給されて消費された燃料ガスは、図2に示すように、出口バッファ部40から内側排出孔部86bを通って第1セパレータ14の面14b側に導出される。
【0069】
図1に示すように、面14b側に導出された燃料ガスは、外側排出孔部86aに導入され、再度、面14a側に移動する。このため、図2に示すように、燃料ガスは、外側排出孔部86aから通路88aを通って燃料ガス出口連通孔32bに排出される。
【0070】
また、第2電解質膜・電極構造体16bのアノード側電極24に供給されて消費された燃料ガスは、出口バッファ部62から排出孔部98を通って面18a側に移動する。この燃料ガスは、図3に示すように、通路100aを通って燃料ガス出口連通孔32bに排出される。
【0071】
一方、冷却媒体入口連通孔34aに供給された冷却媒体は、図1に示すように、第1セパレータ14と第3セパレータ20との間に形成された冷却媒体流路44に導入された後、矢印B方向に流通する。この冷却媒体は、第1及び第2電解質膜・電極構造体16a、16bを冷却した後、冷却媒体出口連通孔34bに排出される。
【0072】
次に、組み立て後の燃料電池10が、故障等による部品交換や解析等のために分解される際には、先ず、連結ピン部112の頭部112aが除去されて各セルユニット12が互いに分離される。一方、個別に構成されている接合ピン13が用意される(図1参照)。
【0073】
図12に示すように、溶着装置130を構成する吸着作業台134上には、各接合ピン13が、例えば、各吸引孔136aに対応して配置される。そして、図示しない負圧発生源の作用下に、吸引孔136aを介して接合ピン13の凹部120が吸引される。このため、接合ピン13は、吸着作業台134上に吸着保持される。
【0074】
その際、凹部120は、接合ピン軸方向内方に向かって縮径するテーパ形状に設定されている。従って、凹部120は、求心性を有しており、この凹部120が吸引されることによって、接合ピン13は、所望の作業位置に対して高精度且つ確実に位置決め保持されるという効果がある。
【0075】
次いで、図13に示すように、吸着作業台134上には、第1セパレータ14、第2セパレータ18及び第3セパレータ20が、第1電解質膜・電極構造体16a及び第2電解質膜・電極構造体16bを挟持して積層されるとともに、接合ピン13が、例えば、各第1孔部114aに一体に挿入される。
【0076】
接合ピン13は、柱体部118bが各第1孔部114aに一体に挿入されるとともに、大径フランジ部118aが第1セパレータ14に当接支持される。この状態で、昇降アクチュエータ140の作用下に、6台の溶着チップ144は、昇降ベース142と一体に下降する。
【0077】
これにより、各柱体部118bの先端には、各溶着チップ144を介して溶着処理が施され、頭部118cが形成される。従って、セルユニット12は、接合ピン13の大径フランジ部118aと頭部118cとに一体的に挟持されて、燃料電池10の再組み立てが行われる。
【0078】
ここで、互いに隣接するセルユニット12では、一方のセルユニット12を構成する第1孔部114aに接合ピン13が挿入されるとともに、他方のセルユニット12を構成する第2孔部114bに接合ピン13が挿入されている。このため、互いに隣接するセルユニット12では、各接合ピン13同士が積層方向に沿って千鳥状に配置されることにより、前記接合ピン13同士の干渉を阻止することができ、積層方向の寸法を可及的に短尺化することが可能になる。
【0079】
上記のように、セルユニット12の再組み立て時には、連結ピン部112に代えて、別体の接合ピン13が用いられている。接合ピン13は、各第1孔部114a又は各第2孔部114bに一体に挿入されるだけで、セルユニット12の再組み立て作業が迅速且つ良好に遂行されるという効果が得られる。
【0080】
また、セルユニット12の再組み立て時に、接合ピン13を各第1孔部114aに一体に挿入する一方、前記燃料電池の再々組み立て時に、前記接合ピン13を各第2孔部114bに一体に挿入することができる。これにより、セルユニット12の組み立てが複数回にわたって容易に行われるため、前記セルユニット12の部品交換や解析等の種々の処理が良好に遂行可能になる。
【0081】
従って、第1電解質膜・電極構造体16aや第2電解質膜・電極構造体16bの改修や交換が必要になった際にも、第1セパレータ14、第2セパレータ18及び第3セパレータ20を再利用することができる。このため、経済的であるとともに、セルユニット12の分解及び再組み立て作業が一挙に簡素化されるという利点がある。
【0082】
さらに、第1の実施形態では、接合ピン13の大径フランジ部118aに凹部120が設けられている。このため、吸着作業台134上で、凹部120を吸引することにより、接合ピン13を確実に位置決め保持することができる。従って、複数の接合ピン13をそれぞれ位置決め保持した状態で、セルユニット12を各接合ピン13に対して一体に配設させることが可能になる。
【0083】
これにより、特に小型で且つ多数の接合ピン13が使用される際に、前記接合ピン13を介してセルユニット12を一体化させる作業が正確且つ迅速に遂行され、燃料電池10の製造作業性の向上が容易に図られるという効果が得られる。
【0084】
図14は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池170の要部分解斜視説明図である。
【0085】
なお、第1の実施形態に係る燃料電池10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0086】
燃料電池170は、複数のセルユニット172を積層して構成され、前記セルユニット172は、第1セパレータ174、電解質膜・電極構造体176及び第2セパレータ178を備える。
【0087】
セルユニット172の長辺方向(矢印C方向)の上端縁部には、酸化剤ガス入口連通孔30a、燃料ガス入口連通孔32a及び冷却媒体入口連通孔34aが形成される。セルユニット172の長辺方向の下端縁部には、酸化剤ガス出口連通孔30b、燃料ガス出口連通孔32b及び冷却媒体出口連通孔34bが形成される。
【0088】
第1セパレータ174の電解質膜・電極構造体176に向かう面14aには、第1燃料ガス流路36が形成され、第2セパレータ178の前記電解質膜・電極構造体176に向かう面20aには、第1酸化剤ガス流路50が形成される。第1セパレータ174の面14bと第2セパレータ148の面20bとの間には、冷却媒体流路44が形成される。
【0089】
第1セパレータ174の外周縁部には、図14及び図15に示すように、複数の樹脂製締結部180aが設けられるとともに、第2セパレータ178の外周縁部には、前記樹脂製締結部180aに対応して樹脂製締結部180bが、複数設けられる。
【0090】
樹脂製締結部180aは、中央に連結ピン部112が一体成形されるとともに、前記連結ピン部112の両側に、少なくとも第1孔部114a及び第2孔部114bが形成される。樹脂製締結部180bは、中央部に孔部116が形成されるとともに、前記孔部116の両側に、接合ピン13が選択的に挿入される少なくとも第1孔部114a及び第2孔部114bが形成される。
【0091】
このように構成される第2の実施形態では、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0092】
図16は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池190を構成するセルユニット192の要部断面説明図である。
【0093】
なお、第1の実施形態に係る燃料電池10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0094】
セルユニット192を構成する第1セパレータ14、第2セパレータ18及び第3セパレータ20には、それぞれ外周縁部に樹脂製締結部194a、194b及び194cが設けられる。第1セパレータ14に設けられた樹脂製締結部194aには、積層方向に膨出して連結ピン部196が一体成形されるとともに、第3セパレータ20には、孔部116を周回してテーパ面198が形成される。
【0095】
このように構成される第3の実施形態では、第1セパレータ14の樹脂製締結部194aに一体成形された連結ピン部196が、第2セパレータ18及び第3セパレータ20の各孔部116に一体に挿入された後、先端部に溶着処理が施されることによって円錐状の頭部196aが形成される。
【0096】
この頭部196aは、第3セパレータ20のテーパ面198の形状に沿って成形されており、第1セパレータ14、第2セパレータ18及び前記第3セパレータ20を互いに位置決めした状態で組み立てることができる。従って、この第3の実施形態は、位置決め精度が向上する他、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0097】
10、170、190…燃料電池 12、172、192…セルユニット
13…接合ピン
14、18、20、174、178…セパレータ
16a、16b、176…電解質膜・電極構造体
22…固体高分子電解質膜 24…アノード側電極
26…カソード側電極 30a…酸化剤ガス入口連通孔
30b…酸化剤ガス出口連通孔 32a…燃料ガス入口連通孔
32b…燃料ガス出口連通孔 34a…冷却媒体入口連通孔
34b…冷却媒体出口連通孔 36、58…燃料ガス流路
44…冷却媒体流路 50、66…酸化剤ガス流路
74、76、78…シール部材
110a〜110c、180a、180b、194a〜194c…樹脂製締結部
114a、114b、116…孔部 118a…大径フランジ部
118b…柱体部 118c…頭部
120…凹部 130…溶着装置
132…架台 134…吸着作業台
136a、136b…吸引孔 140…昇降アクチュエータ
144…溶着チップ 150…成形装置
152…固定型 154…可動型
156…キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側に一対の電極を設けた電解質膜・電極構造体とセパレータとが積層されるセルユニットを備え、前記セルユニットが接合ピンにより一体化される燃料電池であって、
前記接合ピンは、前記セルユニットの一端側に係合する大径フランジ部と、
前記セルユニットの他端側に係合する頭部と、
を有するとともに、
前記大径フランジ部には、接合ピン吸引保持用の凹部が形成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、前記凹部は、接合ピン軸方向内方に向かって縮径するテーパ形状に設定されることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1又は2記載の燃料電池において、前記接合ピンは、樹脂材で形成されるとともに、
前記頭部は、柱体部の端部を溶着により拡径させて構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
電解質膜の両側に一対の電極を設けた電解質膜・電極構造体とセパレータとが積層されるセルユニットを備え、前記セルユニットが接合ピンにより一体化される燃料電池の製造方法であって、
前記接合ピンの大径フランジ部に形成された凹部を吸引することにより、前記接合ピンを組み立て位置に位置決め保持する工程と、
前記接合ピンを、前記セルユニットに設けられた孔部に挿入させて、前記セルユニットを配設する工程と、
前記セルユニットから外部に露呈する前記接合ピンの端部を拡径させて頭部を形成し、前記頭部及び前記大径フランジ部で前記セルユニットを一体に保持する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法において、前記接合ピンは、樹脂材で形成されるとともに、
柱体部の端部を溶着により拡径させて前記頭部を形成することを特徴とする燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−89505(P2012−89505A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239221(P2011−239221)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【分割の表示】特願2009−122403(P2009−122403)の分割
【原出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】