説明

燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法

【課題】燃料電池システムにおいて、燃料電池の触媒の劣化を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】燃料電池システム100は、電力の供給源である燃料電池10と、燃料電池10とともに電力の供給源として機能する二次電池81とを備える。燃料電池システム100の制御部20は、燃料電池10の運転温度が所定の温度より高い高温状態を検出した後に、燃料電池10の電圧を、一時的に低下させて、燃料電池10における生成水を増大させる一時的電圧低下処理を実行する。制御部20は、一時的電圧低下処理の実行の際に、二次電池81の充電状態と、燃料電池10の運転状態とに基づき、一時的電圧低下処理の処理内容を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、単に「燃料電池」と呼ぶ)は、通常、プロトン伝導性を有する電解質膜の両面に電極を配置した膜電極接合体を発電体として備える。電極には、燃料電池反応を促進させるための触媒が担持されている。ところで、燃料電池車両等に搭載される燃料電池システムでは、著しく高い出力が要求される高負荷運転が長期間に渡って継続される場合がある。燃料電池に高い電圧での運転を継続させると、燃料電池の運転温度が上昇し、触媒の表面に酸化被膜が形成され、触媒性能が劣化してしまう可能性があった(下記特許文献1等)。
【0003】
補助電源として二次電池を搭載している燃料電池システムにおいては、上述したような高負荷運転が継続されている場合には、燃料電池に触媒の劣化が進行しない程度の発電をさせつつ、二次電池にその不足分を補償させることが可能である。しかし、二次電池の容量には限りがある。従って、燃料電池の触媒の劣化を抑制しつつ、燃料電池システムに高負荷運転を継続させるためには、燃料電池の出力と二次電池の出力とが、より効率的に制御されることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−027297号公報
【特許文献2】特開2005−129252号公報
【特許文献3】特開2010−153079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、燃料電池システムにおいて、燃料電池の触媒の劣化を抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池システムであって、電力供給源である燃料電池と、前記燃料電池とともに電力供給源として機能する二次電池と、前記燃料電池の運転温度を含む前記燃料電池の運転状態を検出する運転状態検出部と、前記二次電池の充電状態を検出する充電状態検出部と、前記燃料電池の出力を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記燃料電池の運転温度が所定の第1の温度より高い高温状態を検出した後に、前記燃料電池の電圧を一時的に低下させて、前記燃料電池における生成水を増加させる一時的電圧低下処理を実行し、前記制御部は、前記二次電池の充電状態と、前記燃料電池の運転状態に基づき、前記一時的電圧低下処理の処理内容を変更する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、燃料電池の高温状態が検出された後に、一時的電圧低下処理によって、燃料電池における生成水を増大させることにより、燃料電池の触媒の劣化を抑制することができる。また、この燃料電池システムであれば、一時的電圧低下処理の処理内容が、燃料電池の運転状態と、二次電池の充電状態の両方に基づいて変更される。従って、燃料電池の運転状態や二次電池の充電状態に応じた適切な処理内容で、一時的電圧低下処理を実行するができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池システムであって、前記制御部は、前記一時的電圧低下処理を実行する前に、前記燃料電池の運転状態として検出された、前記燃料電池が前記高温状態である間の累積時間、または、前記燃料電池の電流と電圧とで特定される発電特性、に応じて、前記一時的電圧低下処理において電圧を低下させる期間である電圧低下期間の設定値を設定し、前記電圧低下期間の設定値と、予め設定された前記一時的電圧低下処理において電圧を低下させる量である電圧低下量の設定値と、を用いて、前記一時的電圧低下処理を実行した場合に、前記二次電池が蓄電、または、放電する電力量の予測値を取得し、前記予測値と、前記二次電池の充電状態に基づいて取得した前記二次電池の蓄電量と、に基づいて、前記一時的電圧低下処理の処理条件、または、前記一時的電圧低下処理において前記燃料電池の電圧を低下させる方法を変更する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、一時的電圧低下処理の実行の際に、二次電池が蓄電する電力量、または、二次電池が放電する電力量の予測値に基づいて、一時的電圧低下処理における処理条件や、電圧の低下方法を適切に変更できる。従って、より効率的に二次電池を活用して、燃料電池の触媒性能の劣化を抑制する処理を実行することが可能である。
【0009】
[適用例3]
適用例2記載の燃料電池システムであって、前記一時的電圧低下処理は、電圧の低下の際に、前記燃料電池の発電特性に応じた電流の増大を伴い、前記制御部は、外部負荷の要求に応じた電力を供給しつつ、前記一時的電圧低下処理を実行する場合には、前記一時的電圧低下処理を実行した場合に前記二次電池が放電する電力量の予測値と、前記二次電池が放電可能な電力量とに基づいて、前記一時的電圧低下処理を実行したときに、前記二次電池の放電する電力量が不足しないように、前記電圧低下期間の設定値、または、前記電圧低下量の設定値の少なくとも一方を変更して、前記一時的電圧低下処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、一時的電圧低下処理の実行の際に、二次電池の蓄電量が不足する場合でも、一時的電圧低下処理の処理条件が変更されることにより、その実行が確保される。従って、より確実に、燃料電池の触媒性能の劣化を抑制することができる。
【0010】
[適用例4]
適用例1〜3のいずれかに記載の燃料電池システムであって、前記制御部は、前記燃料電池が前記高温状態となった後に、前記燃料電池の運転温度が前記第1の温度よりも低い第2の温度より低くなった高温解消状態を検出した場合に、前記一時的電圧低下処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、高温状態から脱した後の、より多量の生成水を生成でき、燃料電池の性能回復の効果が高くなる温度帯域で、一時的電圧低下処理を実行することができる。従って、より効率的に、燃料電池の触媒性能の劣化を抑制することができる。
【0011】
[適用例5]
適用例4記載の燃料電池システムであって、前記制御部は、前記一時的電圧低下処理を実行した後に、さらに、前記燃料電池の運転状態として、前記燃料電池の電流と電圧とを検出し、前記燃料電池の電流と電圧とで特定される前記燃料電池の発電特性に基づいて、前記燃料電池が出力中の電力を維持しつつ、前記燃料電池の電圧を、検出された前記電圧より低い第2の電圧に、一時的に低下させて、前記燃料電池の電流を増大させる出力一定電圧低下処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、二次電池を利用した一時的電圧低下処理に加えて、燃料電池の出力電力を保持したまま電圧を低下させる出力一定電圧低下処理を実行するため、より確実に、燃料電池の触媒性能の劣化を抑制することができる。
【0012】
[適用例6]
適用例5記載の燃料電池システムであって、前記制御部は、前記燃料電池に対する反応ガスの供給量を制御し、前記制御部は、反応ガスのストイキ比を低下させた後に、前記出力一定電圧低下処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、ストイキ比の低下により、燃料電池の発電特性を変化させて、出力一定電圧低下処理の実行を確保することができる。
【0013】
[適用例7]
適用例2〜5のいずれかに記載の燃料電池システムであって、前記制御部は、前記燃料電池が前記高温状態であり、かつ、前記燃料電池の電力を外部負荷に供給していない状態である、高温待機状態の間に、前記一時的電圧低下処理を実行する場合には、前記一時的電圧低下処理を実行した場合に前記前記二次電池が蓄電する電力量の予測値と、前記二次電池の蓄電量から取得した前記二次電池の空き容量と、に基づいて、前記一時的電圧低下処理の処理条件、または、前記一時的電圧低下処理において前記燃料電池の電圧を低下させる方法を変更する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、燃料電池の待機時間を有効に用いて、燃料電池の性能回復のための一時的電圧低下処理を実行することができる。そして、二次電池の空き容量に基づいて、一時的電圧低下処理の処理内容を変更することにより、一時的電圧低下処理の実行を確保できる。
【0014】
[適用例8]
適用例7記載の燃料電池システムであって、前記制御部は、前記高温待機状態の間に、前記一時的電圧低下処理を実行する場合には、前記一時的電圧低下処理を実行したときに、前記二次電池の空き容量が不足しないように、前記電圧低下期間の設定値、または、前記電圧低下量の設定値の少なくとも一方を変更して、前記一時的電圧低下処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、燃料電池の待機時間を有効に利用して、燃料電池の性能回復のための一時的電圧低下処理を実行することができる。そして、一時的電圧低下処理の実行の際に燃料電池が出力する電力を、二次電池に確実に蓄電できる。
【0015】
[適用例9]
適用例7記載の燃料電池システムであって、さらに、前記燃料電池のアノードとカソードとを短絡させて、前記燃料電池の電圧を低下させる短絡回路を備え、前記制御部は、前記高温待機状態の間に、前記一時的電圧低下処理として、
(i)前記燃料電池の電圧を一時的に低下させることにより、電流を一時的に増大させるとともに、前記燃料電池が出力する電力を、前記二次電池に蓄電させる第1の電圧低下処理と、
(ii)前記短絡回路によって、前記燃料電池の電圧を一時的に低下させる第2の電圧低下処理と、
のいずれか一方を実行し、前記制御部は、前記予測値と、前記二次電池の空き容量とに基づき、前記第1または第2の一時的電圧低下処理のいずれか一方を選択して実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、燃料電池の待機時間を利用して、一時的電圧低下処理を実行する際に、二次電池の空き容量が不足する場合には、二次電池を利用しなくとも実行可能な方法で、燃料電池の電圧を低下させる。従って、二次電池の空き容量にかかわらず、一時的電圧低下処理の実行を確保することができる。
【0016】
[適用例10]
適用例7記載の燃料電池システムであって、さらに、アノードガスを前記燃料電池のカソード側にバイパス可能なガス供給部を備え、前記制御部は、前記高温待機状態の間に、前記一時的電圧低下処理として、
(i)前記燃料電池の電圧を一時的に低下させることにより、電流を一時的に増大させるとともに、前記燃料電池が出力する電力を、前記二次電池に蓄電させる第1の電圧低下処理と、
(iii)前記ガス供給部によって、前記アノードガスを前記燃料電池のカソード側にバイパスさせることによって、前記燃料電池の電圧を一時的に低下させる第3の電圧低下処理と、
のいずれか一方を実行し、前記制御部は、前記予測値と、前記二次電池の空き容量とに基づき、前記第1または第3の一時的電圧低下処理のいずれか一方を選択して実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、燃料電池の待機時間を用いて、一時的電圧低下処理を実行する際に、二次電池の空き容量が不足する場合には、二次電池を利用しなくとも実行可能な方法で、燃料電池の電圧を低下させる。従って、二次電池の空き容量にかかわらず、一時的電圧低下処理の実行を確保することができる。
【0017】
[適用例11]
適用例7記載の燃料電池システムであって、さらに、前記燃料電池に、カソード側をプラスとし、アノード側をマイナスとする電圧を印加可能な外部電源を備え、前記制御部は、前記高温待機状態の間に、前記一時的電圧低下処理として、
(i)前記燃料電池の電圧を一時的に低下させることにより、電流を一時的に増大させるとともに、前記燃料電池が出力する電力を、前記二次電池に蓄電させる第1の電圧低下処理と、
(iv)前記燃料電池に反応ガスの供給を停止させた状態で、前記外部電源によって、前記燃料電池に電圧を印加させて、前記燃料電池の電圧を低下させた後に、前記反応ガスの供給を再開させて、前記燃料電池の電圧を回復させる第4の電圧低下処理と、
のいずれか一方を実行し、前記制御部は、前記予測値と、前記二次電池の空き容量とに基づき、前記第1または第4の一時的電圧低下処理のいずれか一方を選択して実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、燃料電池の待機時間を利用して、一時的電圧低下処理を実行する際に、二次電池の空き容量が不足する場合には、二次電池を利用しなくとも実行可能な方法で、燃料電池の電圧を低下させる。従って、二次電池の空き容量にかかわらず、一時的電圧低下処理の実行を確保することができる。
【0018】
[適用例12]
電力供給源である燃料電池と、前記燃料電池とともに電力供給源として機能する二次電池とを備える燃料電池システムの制御方法であって、
(a)前記燃料電池の運転温度を検出する工程と、
(b)前記燃料電池の運転温度が所定の温度より高い高温状態を検出した後に、前記燃料電池の電圧を一時的に低下させることにより、前記燃料電池における生成水を増加させる一時的電圧低下処理を実行する工程と、
を備え、
前記工程(b)は、前記一時的電圧低下処理を実行する前に、前記二次電池の充電状態と、前記燃料電池の運転状態とに基づいて、前記一時的電圧低下処理の処理内容を変更する工程を含む、制御方法。
この燃料電池システムであれば、燃料電池の高温状態が検出された後に、一時的電圧低下処理によって、燃料電池における生成水を増大させることにより、燃料電池の触媒の劣化を抑制することができる。また、この燃料電池システムでは、一時的電圧低下処理の処理内容が、燃料電池の運転状態と、二次電池の充電状態の両方に基づいて変更される。従って、燃料電池の運転状態や二次電池の充電状態に応じた適切な処理内容で、一時的電圧低下処理を実行するができる。
【0019】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。また、本発明は、燃料電池システムの制御方法、その制御方法を実行する制御装置やプログラム、そのプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】燃料電池システムの構成を示す概略図。
【図2】燃料電池システムの電気的構成を示す概略図。
【図3】燃料電池システムの制御部による制御手順を示す説明図。
【図4】通常運転実行時における燃料電池システムの出力制御を説明するための説明図。
【図5】高温状態における触媒の性能劣化を説明するための説明図。
【図6】一時的電圧低下処理の処理内容を説明するための説明図。
【図7】一時的電圧低下処理による燃料電池の発電特性の変化を説明するための説明図。
【図8】性能回復運転の制御手順を示す説明図。
【図9】高温曝露時間と電圧低下期間の上限との関係を説明するための説明図。
【図10】性能回復運転が繰り返し実行されている間における燃料電池の電圧変化の一例を示す説明図。
【図11】第2実施例としての性能回復運転の制御手順を示す説明図。
【図12】第2実施例の一時的電圧低下処理が繰り返し実行されている間における燃料電池の電圧変化の一例を示す説明図。
【図13】第3実施例としての性能回復運転の制御手順を示す説明図。
【図14】燃料電池のセル電圧に対する電圧低下期間を取得するためのマップを示す説明図。
【図15】第4実施例としての性能回復運転の制御手順を示す説明図。
【図16】第5実施例としての燃料電池システムの電気的構成を示す概略図。
【図17】第5実施例の性能回復運転における制御手順を示す説明図。
【図18】第5実施例の他の構成例としての性能回復運転の制御手順を示す説明図。
【図19】第6実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図。
【図20】第6実施例の性能回復運転における制御手順を示す説明図。
【図21】第6実施例の他の構成例としての性能回復運転の制御手順を示す説明図。
【図22】第7実施例としての燃料電池システムの電気的構成を示す概略図。
【図23】第7実施例の性能回復運転における制御手順を示す説明図。
【図24】第7実施例の他の構成例としての性能回復運転の制御手順を示す説明図。
【図25】第8実施例の燃料電池システムの制御部によるシステム制御の制御手順を示す説明図。
【図26】第8実施例における性能回復運転の制御手順を示す説明図。
【図27】第9実施例の燃料電池システムの制御部によるシステム制御の制御手順を示す説明図。
【図28】燃料電池におけるアノードガスの圧力損失の低下原因を説明するための模式図。
【図29】燃料電池のI−V特性およびI−P特性に基づく判定処理を説明するための説明図。
【図30】第10実施例の燃料電池システムの制御部によるシステム制御の制御手順を示す説明図。
【図31】ストイキ比の変更を伴う性能回復運転の制御手順を示す説明図。
【図32】ストイキ比の低下による燃料電池10のI−V特性およびI−P特性の変化を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図である。この燃料電池システム100は、燃料電池車両などに搭載され、運転者からの要求に応じて、駆動力として用いられる電力を出力する。燃料電池システム100は、燃料電池10と、制御部20と、カソードガス供給部30と、カソードガス排出部40と、アノードガス供給部50と、アノードガス循環排出部60と、冷媒供給部70とを備える。
【0022】
燃料電池10は、反応ガスとして水素(アノードガス)と空気(カソードガス)の供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池10は、単セルとも呼ばれる複数の発電体11が積層されたスタック構造を有する。各発電体11は、電解質膜の両面に電極を配置した発電体である膜電極接合体(図示せず)と、膜電極接合体を狭持する2枚のセパレータ(図示せず)とを有する。
【0023】
ここで、電解質膜は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す固体高分子薄膜によって構成することができる。また、電極は、発電反応を促進させるための触媒が担持された導電性粒子によって構成することができる。触媒としては、例えば、白金(Pt)を採用することができ、導電性粒子としては、例えば、カーボン(C)粒子を採用することができる。
【0024】
制御部20は、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコンピュータによって構成されている。制御部20は、出力電力の要求を受け付け、その要求に応じて、以下に説明する各構成部を制御し、燃料電池10に発電させる。
【0025】
カソードガス供給部30は、カソードガス配管31と、エアコンプレッサ32と、エアフロメータ33と、開閉弁34と、加湿部35とを備える。カソードガス配管31は、燃料電池10のカソード側に接続された配管である。エアコンプレッサ32は、カソードガス配管31を介して燃料電池10と接続されており、外気を取り込んで圧縮した空気を、カソードガスとして燃料電池10に供給する。
【0026】
エアフロメータ33は、エアコンプレッサ32の上流側において、エアコンプレッサ32が取り込む外気の量を計測し、制御部20に送信する。制御部20は、この計測値に基づいて、エアコンプレッサ32を駆動することにより、燃料電池10に対する空気の供給量を制御する。
【0027】
開閉弁34は、エアコンプレッサ32と燃料電池10との間に設けられており、カソードガス配管31における供給空気の流れに応じて開閉する。具体的には、開閉弁34は、通常、閉じた状態であり、エアコンプレッサ32から所定の圧力を有する空気がカソードガス配管31に供給されたときに開く。
【0028】
加湿部35は、エアコンプレッサ32から送り出された高圧空気を加湿する。制御部20は、電解質膜の湿潤状態を保持して良好なプロトン伝導性を得るために、加湿部35によって、燃料電池10に供給される空気の加湿量を制御し、燃料電池10内部の湿潤状態を調整する。なお、加湿部35は、カソード排ガス配管41と接続されており、排ガス中の水分を高圧空気の加湿に用いる。
【0029】
カソードガス排出部40は、カソード排ガス配管41と、調圧弁43と、圧力計測部44とを備える。カソード排ガス配管41は、燃料電池10のカソード側に接続された配管であり、カソード排ガスを燃料電池システム100の外部へと排出する。調圧弁43は、カソード排ガス配管41におけるカソード排ガスの圧力(燃料電池10のカソード側の背圧)を調整する。圧力計測部44は、調圧弁43の上流側に設けられており、カソード排ガスの圧力を計測し、その計測値を制御部20に送信する。制御部20は、圧力計測部44の計測値に基づいて調圧弁43の開度を調整する。
【0030】
アノードガス供給部50は、アノードガス配管51と、水素タンク52と、開閉弁53と、レギュレータ54と、水素供給装置55と、圧力計測部56とを備える。水素タンク52は、アノードガス配管51を介して燃料電池10のアノードと接続されており、タンク内に充填された水素を燃料電池10に供給する。なお、燃料電池システム100は、水素タンク52に換えて、炭化水素系の燃料を改質して水素を生成する改質部を、水素の供給源として備えているものとしても良い。
【0031】
開閉弁53と、レギュレータ54と、水素供給装置55と、圧力計測部56とは、アノードガス配管51に、この順序で、上流側(水素タンク52側)から設けられている。開閉弁53は、制御部20からの指令により開閉し、水素タンク52から水素供給装置55の上流側への水素の流入を制御する。レギュレータ54は、水素供給装置55の上流側における水素の圧力を調整するための減圧弁であり、その開度が制御部20によって制御されている。
【0032】
水素供給装置55は、例えば、電磁駆動式の開閉弁であるインジェクタによって構成することができる。圧力計測部56は、水素供給装置55の下流側の水素の圧力を計測し、制御部20に送信する。制御部20は、圧力計測部56の計測値に基づき、水素供給装置55を制御することによって、燃料電池10に供給される水素量を制御する。
【0033】
アノードガス循環排出部60は、アノード排ガス配管61と、気液分離部62と、アノードガス循環配管63と、水素循環用ポンプ64と、アノード排水配管65と、排水弁66と、圧力計測部67とを備える。アノード排ガス配管61は、燃料電池10のアノードの出口と気液分離部62とを接続する配管であり、発電反応に用いられることのなかった未反応ガス(水素や窒素など)を含むアノード排ガスを気液分離部62へと誘導する。
【0034】
気液分離部62は、アノードガス循環配管63と、アノード排水配管65とに接続されている。気液分離部62は、アノード排ガスに含まれる気体成分と水分とを分離し、気体成分については、アノードガス循環配管63へと誘導し、水分についてはアノード排水配管65へと誘導する。
【0035】
アノードガス循環配管63は、アノードガス配管51の水素供給装置55より下流に接続されている。アノードガス循環配管63には、水素循環用ポンプ64が設けられており、この水素循環用ポンプ64によって、気液分離部62において分離された気体成分に含まれる水素は、アノードガス配管51へと送り出される。このように、この燃料電池システム100では、アノード排ガスに含まれる水素を循環させて、再び燃料電池10に供給することにより、水素の利用効率を向上させている。
【0036】
アノード排水配管65は、気液分離部62において分離された水分を燃料電池システム100の外部へと排出するための配管である。排水弁66は、アノード排水配管65に設けられており、制御部20からの指令に応じて開閉する。制御部20は、燃料電池システム100の運転中は、通常、排水弁66を閉じておき、予め設定された所定の排水タイミングや、アノード排ガス中の不活性ガスの排出タイミングで排水弁66を開く。
【0037】
アノードガス循環排出部60の圧力計測部67は、アノード排ガス配管61に設けられている。圧力計測部67は、燃料電池10の水素マニホールドの出口近傍において、アノード排ガスの圧力(燃料電池10のアノード側の背圧)を計測し、制御部20の送信する。
【0038】
冷媒供給部70は、冷媒用配管71と、ラジエータ72と、三方弁73と、冷媒循環用ポンプ75と、2つの冷媒温度計測部76a,76bとを備える。冷媒用配管71は、燃料電池10を冷却するための冷媒を循環させるための配管であり、上流側配管71aと、下流側配管71bと、バイパス配管71cとで構成される。
【0039】
上流側配管71aは、燃料電池10に設けられた冷媒用の出口マニホールドとラジエータ72の入口とを接続する。下流側配管71bは、燃料電池10に設けられた冷媒用の入口マニホールドとラジエータ72の出口とを接続する。バイパス配管71cは、一端が、三方弁73を介して上流側配管71aと接続され、他端が、下流側配管71bに接続されている。制御部20は、三方弁73の開閉を制御することにより、バイパス配管71cへの冷媒の流入量を調整して、ラジエータ72への冷媒の流入量を制御する。
【0040】
ラジエータ72は、冷媒用配管71に設けられており、冷媒用配管71を流れる冷媒と外気との間で熱交換させることにより、冷媒を冷却する。冷媒循環用ポンプ75は、下流側配管71bにおいて、バイパス配管71cの接続箇所より下流側(燃料電池10の冷媒入口側)に設けられており、制御部20の指令に基づき駆動する。
【0041】
2つの冷媒温度計測部76a,76bはそれぞれ、上流側配管71aと、下流側配管71bとに設けられており、それぞれの計測値を制御部20へと送信する。制御部20は、各冷媒温度計測部76a,76bのそれぞれの計測値の差から燃料電池10の運転温度を検出する。また、制御部20は、検出した燃料電池10の運転温度に基づき、冷媒循環用ポンプ75の回転数を制御して、燃料電池10の運転温度を調整する。
【0042】
燃料電池システム100は、さらに、燃料電池車両の車両情報を取得するための、外気温センサ101や、車速センサ102を備える。外気温センサ101は、燃料電池車両外部の気温を検出し、制御部20に送信する。車速センサ102は、燃料電池車両の現在の速度を検出し、制御部20に送信する。制御部20は、これらのセンサから得られた情報を適宜、燃料電池10の出力制御のために利用する。
【0043】
図2は、燃料電池システム100の電気的構成を示す概略図である。燃料電池システム100は、二次電池81と、DC/DCコンバータ82と、DC/ACインバータ83とを備える。また、燃料電池システム100は、セル電圧計測部91と、電流計測部92と、インピーダンス計測部93と、SOC検出部94とを備える。
【0044】
燃料電池10は、直流配線DCLを介してDC/ACインバータ83に接続されており、DC/ACインバータ83は、燃料電池車両の駆動力源であるモータ200に接続されている。二次電池81は、DC/DCコンバータ82を介して、直流配線DCLに接続されている。
【0045】
二次電池81は、燃料電池10とともに電力供給源として機能する。二次電池81は、例えばリチウムイオン電池で構成することができる。制御部20は、DC/DCコンバータ82を制御することにより、燃料電池10の電流・電圧と、二次電池81の充放電とを制御し、直流配線DCLの電圧レベルを可変に調整する。
【0046】
二次電池81には、SOC検出部94が接続されている。SOC検出部94は、二次電池81の充電状態であるSOC(State of Charge)を検出し、制御部20に送信する。ここで、二次電池81のSOCとは、二次電池81の充電容量に対する二次電池81の充電残量(蓄電量)の比率を意味する。SOC検出部94は、二次電池81の温度や電力、電流を計測することにより、二次電池81のSOCを検出する。
【0047】
制御部20は、SOC検出部94の検出値に基づき、二次電池81のSOCが所定の範囲内に収まるように、二次電池81の充放電を制御する。具体的には、制御部20は、SOC検出部94から取得した二次電池81のSOCが予め設定された下限値より低い場合には、燃料電池10の出力する電力によって、二次電池81を充電する。また、二次電池81のSOCが予め設定された上限値より高い場合には、二次電池81に放電させる。
【0048】
DC/ACインバータ83は、燃料電池10と二次電池81とから得られた直流電力を交流電力へと変換し、モータ200に供給する。そして、モータ200によって回生電力が発生する場合には、DC/ACインバータ83が、その回生電力を直流電力に変換する。直流電力に変換された回生電力は、DC/DCコンバータ82を介して二次電池81に蓄電される。
【0049】
セル電圧計測部91は、燃料電池10の各発電体11と接続されており、各発電体11の電圧(セル電圧)を計測する。セル電圧計測部91は、その計測結果を制御部20に送信する。なお、セル電圧計測部91は、計測したセル電圧のうち、最も低いセル電圧のみを制御部20に送信するものとしても良い。
【0050】
電流計測部92は、直流配線DCLに接続されており、燃料電池10の出力する電流値を計測し、制御部20に送信する。制御部20は、セル電圧と電流の実測値と目標値(制御値)との間に差が生じている場合には、その差が収束されるように、それらの制御値を修正する、いわゆるフィードバック制御を実行する。
【0051】
インピーダンス計測部93は、燃料電池10に接続されており、燃料電池10に交流電流を印加することにより、燃料電池10全体のインピーダンスを測定し、制御部20へと送信する。制御部20は、インピーダンス計測部93の計測結果に基づき、燃料電池10の電解質膜の湿潤状態を管理する。開閉スイッチ95は、直流配線DCLに設けられており、制御部20の指令に基づき、燃料電池10および二次電池81と、モータ200との間の電気的接続を制御する。
【0052】
図3は、燃料電池システム100の制御部20によるシステム制御の制御手順を示すフローチャートである。制御部20は、燃料電池システム100が起動すると、運転者からの燃料電池車両に対する駆動要求に基づいて燃料電池10に発電させる通常運転の実行を開始する(ステップS10)。通常運転の実行時における燃料電池10の出力制御についての詳細は後述する。
【0053】
制御部20は、通常運転の実行中に、所定の周期で、燃料電池10の運転温度を検出し、燃料電池10が高温状態であるか否かを判定する(ステップS20)。ここで、本明細書において、「高温状態」とは、燃料電池10の運転温度が予め設定された閾値(例えば、約80℃程度)より高くなっている状態を意味する。制御部20は、燃料電池10が高温状態ではなかった場合には、通常運転の制御(ステップS10)を再開する。
【0054】
ここで、後述するように、燃料電池では、高温状態での運転が継続されると、電極に担持された触媒の性能が劣化し、発電性能が低下してしまう場合がある。そこで、本実施例の燃料電池システム100では、燃料電池10が高温状態であった場合には、制御部20は、後述する一時的電圧低下処理を実行する性能回復運転を開始し、燃料電池10の触媒の性能劣化を抑制する(ステップS30)。なお、この性能回復運転は、燃料電池10が高温状態にある間には、ステップS10の通常運転を経つつ、周期的に繰り返し実行されることになる。性能回復運転における具体的な制御手順については後述する。
【0055】
図4は、通常運転の実行時における燃料電池システム100の出力制御を説明するための説明図である。図4には、燃料電池10のI−V特性を示すグラフGI-Vと、I−P特性を示すグラフGI-Pとを、左右の縦軸をそれぞれ電圧と電力とし、横軸を電流として示してある。通常、燃料電池のI−V特性は、電流の増加に従って下降する横S字状の曲線グラフとして表される。また、燃料電池のI−P特性は、上に凸の曲線グラフとして表される。
【0056】
制御部20は、燃料電池10についてのI−V特性およびI−P特性を表す情報を、燃料電池10の制御用情報として予め記憶している。なお、燃料電池10のI−V特性およびI−P特性は、燃料電池10の運転温度など、その運転条件に応じて変化するため、制御部20は、それらの運転条件ごとの制御用情報を有していることが好ましい。
【0057】
制御部20は、燃料電池10のI−P特性に基づいて、要求電力Ptに対して燃料電池10が出力すべき目標電流Itを取得する。そして、制御部20は、燃料電池10のI−V特性に基づいて、目標電流Itを出力するための燃料電池10の目標電圧Vtを取得する。制御部20は、DC/DCコンバータ82に直流配線DCLの電圧を目標電圧Vtに設定させることにより、燃料電池10および二次電池81に要求電力Ptを出力させる。
【0058】
ここで、本実施例の燃料電池システム100では、高温状態での運転の継続により、燃料電池10の触媒性能の劣化が生じることを抑制するために、性能回復運転(図3のステップS30)において、以下に説明する一時的電圧低下処理を実行する。以下では、高温状態での運転の継続による燃料電池の触媒性能の劣化を説明した上で、本実施例の燃料電池システム100が実行する一時的電圧低下処理の具体的な処理内容を説明する。
【0059】
図5(A),(B)は、高温状態における触媒性能の劣化を説明するための説明図である。図5(A),(B)にはそれぞれ、燃料電池内部の電解質膜1の表面に形成されたカソード電極2の一部を模式的に図示してある。なお、図5(A),(B)では、説明の便宜のために、紙面上側ほど電位が高いものとして図示してある。また、図5(A)は、通常運転が実行されているときのカソード電極2の状態を例示しており、図5(B)は、高温状態におけるカソード電極2の状態を例示している。
【0060】
カソード電極2では、導電性粒子3pに触媒3cを担持させた触媒担持粒子3が、多孔質に配列された状態で、電解質膜1と同じ、あるいは、類似の固体電解質であるアイオノマー4に包含されている。通常運転の実行時には、電解質膜1を介してアノード側から伝導してきたプロトン(H+)は、アイオノマー4中の水分によって形成された経路を経て、電位の高い領域まで十分に到達することができる(図5(A))。
【0061】
これに対して、高温状態のカソード電極2では、電位の高い領域ほど乾燥し、破線で図示した乾燥領域DAが形成されてしまう場合がある(図5(B))。この乾燥領域DAでは、水分が少なくプロトンの移動が制限されてしまうことになる。そのため、カソード電極2の電位の高い領域へプロトンが到達することが抑制され、乾燥領域DAにおける電位が低下せず、乾燥領域DAに存在する触媒3cの表面には酸化被膜OLが形成されやすくなる。触媒3c表面に酸化被膜OLが形成されると、カソード電極2における触媒性能が低下してしまい、燃料電池の発電性能の低下の原因となる。
【0062】
ここで、通常運転の実行時は、通常、高温状態のときより、燃料電池10の電圧が低く、電流が高い状態であるため、燃料電池反応によって生成される水分量も多い。そのため、通常運転の実行時には、燃料電池反応における生成水分によって、カソード電極2で生成された被毒物質を排出することができ、触媒3cの外表面に被毒物質が吸着することが抑制される。また、通常運転の実行時であれば、触媒3cの表面に酸化被膜OLが形成されてしまっている場合であっても、上述したように、プロトンが高電位の領域にある触媒3cまで十分に行き渡るため、酸化被膜OLを還元反応により消失させることが可能である。
【0063】
このように、高温状態の運転時における触媒性能の劣化は、主に、燃料電池内部における水分量の不足による、プロトンの移動経路の減少と、被毒物質の排出性の低下とによって引き起こされる。そこで、本実施例の燃料電池システム100では、高温状態となったときに、性能回復運転において、一時的電圧低下処理を実行する。本実施例の一時的電圧低下処理では、燃料電池10の電圧を一時的に低下させることによって、燃料電池10の電流を一時的に増大させ、燃料電池10における生成水量を増加させることができる。従って、カソード電極2における乾燥領域DAが低減され、高電位領域へのプロトンの移動経路を確保することができるとともに、カソード電極2に生成された被毒物質の排出を促進させることができる。
【0064】
図6は、一時的電圧低下処理の処理内容を説明するための説明図である。図6には、一時的電圧低下処理が実行されたときの燃料電池10の電圧変化の一例を、縦軸を電圧とし、横軸を時間とするグラフにより示してある。一時的電圧低下処理では、制御部20は、以下のように燃料電池10の電圧を制御する。制御部20は、DC/DCコンバータ82を制御して、燃料電池10の電圧を元の電圧VoからVcまで低下させ、一定の期間thだけ、低下後の電圧Vcを維持する。
【0065】
以後、本明細書では、この一時的電圧低下処理における元の電圧Voと低下後の電圧Vcとの差Vdを「電圧低下量Vd」と呼ぶ。また、一時的電圧低下処理において低下後の電圧Vcが保持される期間thを「電圧低下期間th」と呼ぶ。
【0066】
電圧低下期間thの経過後、制御部20は、燃料電池10の電圧を復帰させる。なお、一時的電圧低下処理が実行されている電圧低下期間thの間において、燃料電池10の出力する電力が要求電力に対して不足する場合にはその不足分は二次電池81の電力によって補償される。ところで、図6に示されているように、復帰後の燃料電池10の電圧は、元の電圧Voよりも高い電圧Vrとなる。この理由を以下に説明する。
【0067】
図7(A),(B)は、一時的電圧低下処理による燃料電池の発電特性の変化を説明するための説明図である。図7(A)は、燃料電池の電流の時間変化を示すグラフであり、が、図7(B)は、燃料電池の電圧の時間変化を示すグラフである。図7(A),(B)のグラフは実験により得られたものであり、横軸の時間軸を互いに対応させてある。
【0068】
この実験では、時刻t1〜t2の間に、燃料電池の電流を、I1からI2に増大させ、I2で保持した後、再びI1まで低下させた(図7(A))。このとき、燃料電池の電圧は、電流の増大に伴って、V1からV2まで低下したが、電流を元の電流値I1に復帰させたとき(時刻t2)には、元の電圧V1よりも高い電圧V3となり、その後もV1より高い電圧がしばらく維持された(図7(B))。
【0069】
このように、一時的に電流を増大させた後に、燃料電池の電流と電圧とが対応しなくなったのは、電流を一時的に増大させたことによって、燃料電池の発電特性が変化したためである。より具体的には、電流の増大によって、燃料電池内部の水分が増加し、触媒の酸化被膜の減少や、被毒物質の排出などが促進され、燃料電池の発電性能が回復・向上したためである。
【0070】
本実施例の燃料電池システム100では、一時的電圧低下処理において、図7(A)で示したのと同様に、電流を一時的に増大させている。そのため、一時的電圧低下処理において、電圧を回復させたときには、燃料電池10の発電性能が向上されている分だけ、燃料電池10は、同じ電力を出力している場合であっても、元の電圧Voよりも高い電圧Vrとなる(図6)。なお、この発電性能の向上は、一時的なものであるため、燃料電池10の電圧は、時間の経過とともに次第に低下する。
【0071】
ここで、図3で説明したとおり、燃料電池10が高温状態にある間は、燃料電池システム100では、通常運転と性能回復運転とが周期的に交互に繰り返し実行されることになる。即ち、燃料電池10が高温状態にある間には、上記の一時的電圧低下処理が一定周期で繰り返し実行されることになる。上述したとおり、一時的電圧低下処理は、その実行の度に、燃料電池10の発電特性の一時的な向上効果を得ることができる。従って、一時的電圧低下処理が繰り返し周期的に実行されている間には、触媒性能の劣化が抑制されるだけでなく、その一時的な発電性能の向上効果を繰り返し得ることができ、発電効率がその分だけ向上する。そのため、燃料電池10の運転温度の上昇を抑制することができる。
【0072】
図8は、上記の一時的電圧低下処理が実行される性能回復運転の制御手順を示すフローチャートである。前記したとおり、この性能回復運転は、燃料電池10が高温状態である間に定期的に繰り返し実行される(図3)。ステップS100では、制御部20は、燃料電池10が高温状態に入ったことが検出された後の累積時間、即ち、燃料電池が高温状態に曝された累積時間td(以下、「高温曝露時間td」と呼ぶ)を取得する。
【0073】
ここで、高温曝露時間tdは、初めて燃料電池10の高温状態が検出されたとき、即ち、性能回復運転の1回目の実行のときに計測が開始されることになる。従って、1回目の性能回復運転の実行の際には、ステップS100において、高温曝露時間tdは予め設定された初期値に設定されるものとしても良い。なお、高温曝露時間tdは、燃料電池10が高温状態から回復し、所定の期間が経過した後にリセットされるものとしても良い。
【0074】
ステップS110では、制御部20は、ステップS100で取得した高温曝露時間tdに基づいて、電圧低下期間thを決定する。ところで、燃料電池は、一般に、高温状態に曝された時間が長いほどその性能が低下してしまう可能性が高い。これに対し、本発明の発明者は、実験により、電圧低下期間thを長くするほど、高温状態により低下した燃料電池の性能が回復する度合いが向上することを見出した。そして、その電圧低下期間thには、性能回復の度合いの向上が見込めなくなる上限があることを見出した。そこで、本実施例の燃料電池システム100では、制御部20は、予め準備された、以下に説明する高温曝露時間tdと電圧低下期間thとの関係を用いて、一時的電圧低下処理における電圧低下期間thを、その上限、あるいは、その上限に近い値となるように設定する。
【0075】
図9は、本発明の発明者の実験により得られたグラフであり、横軸を、高温曝露時間とし、縦軸を電圧低下期間の上限とするグラフである。本発明の発明者は、高温曝露時間を変えた燃料電池ごとに、一時的電圧低下処理を、その電圧低下期間を変えて実行し、燃料電池のI−V特性に所望の回復がみられなくなった電圧低下期間を、その上限として計測した。この実験により、高温曝露時間と、電圧低下期間の上限との間の関係は、高温曝露時間が長いほど、その電圧低下期間の上限が大きくなる、上に凸の曲線カーブを描くグラフとして得ることができた。
【0076】
本実施例の燃料電池システム100では、制御部20が、上記の関係を表したマップを予め記憶しており、そのマップを用いて、高温曝露時間tdに応じた電圧低下期間thを取得する。これによって、燃料電池システム100では、性能回復の効率が低くなるような長い電圧低下期間thによって一時的電圧低下処理が実行されることを抑制する。
【0077】
ここで、本実施例の燃料電池システム100では、一時的電圧低下処理は、高温状態が継続されている間に、周期的に繰り返し実行され、その一時的電圧低下処理の実行中に燃料電池10の出力電力が不足する場合には、二次電池81の電力によって補償される。しかし、二次電池81の蓄電量には限りがあり、二次電池81の蓄電量によっては、一時的電圧低下処理を繰り返し実行することが困難になる可能性がある。そこで、本実施例の燃料電池システム100では、一時的電圧低下処理の実行の際に二次電池81の蓄電量が不足する可能性がある場合には、一時的電圧低下処理の処理条件を変更することにより、その実行を確保する。具体的には、以下の通りである。
【0078】
ステップS120では、制御部20は、ステップS110において設定された電圧低下期間thの間、電圧を予め設定された電圧低下量Vdに低下させた場合に不足する電力量の予測値、即ち、二次電池81が補償する電力量の予測値EPを算出する。なお、ステップS120において、予測値EPが0以下であった場合、即ち、二次電池81による補償が不要であった場合には、以下に説明するステップS130〜S150の処理を省略し、一時的電圧低下処理(ステップS160)を実行するものとしても良い。
【0079】
ステップS130では、制御部20は、SOC検出部94によって、現在の二次電池81におけるSOCを検出する。ステップS140では、制御部20は、二次電池81によってステップS110において算出された予測値EPの表す不足電力量を、二次電池81の現在のSOCで補償することが可能か否かを判定する。具体的には、制御部20は、二次電池81が補償する電力量の予測値EPと、二次電池81の現在のSOCに基づいて得られる、二次電池81が現在出力可能な電力量ESとを比較して、電力量ESが予測値EPより十分に大きいか否かを判定する。あるいは、制御部20は、例えば、二次電池81が出力可能な電力量ESが、予測値EPに基づいて設定される閾値より大きいか否かを判定するものとしても良い。なお、この判定処理では、一時的電力低下処理が繰り返し実行される場合であっても、二次電池81の出力が確保されるように、後続する一時的電力低下処理において二次電池81が補償する電力量を加味するものとしても良い。
【0080】
ステップS140において、二次電池81の現在のSOCでは不足電力の補償が困難であると判定した場合には、制御部20は、二次電池81の現在のSOCで一時的電圧低下処理が実行可能になるように、電圧低下期間thの補正を実行する(ステップS150)。即ち、制御部20は、電圧低下期間thの値を、二次電池81が現在出力可能な電力量ESに応じて小さくする補正を実行し、補正後の電圧低下期間thcを取得する。例えば、制御部20は、以下の数式(1)を用いて、電圧低下期間thの補正を実行するものとしても良い。
補正後の電圧低下期間thc=(ES/(α×EP))×th …(1)
ここで、αは1以上の任意の実数である。なお、このステップS140においても、一時的電力低下処理が繰り返し実行される場合であっても二次電池81の出力が確保されるように、後続する一時的電力低下処理において二次電池81が補償する電力量を加味して補正を実行するものとしても良い。
【0081】
ステップS160では、制御部20は、ステップS110において取得された電圧低下期間th、または、補正後の電圧低下期間thcの間、燃料電池10の電圧をVdだけ低下させる。その後、制御部20は、通常運転を再開するが、前記したとおり、燃料電池10の高温状態が継続されている間は、この性能回復運転が周期的に繰り返し実行されることになる。
【0082】
図10は、性能回復運転が繰り返し実行されている間における燃料電池10の電圧変化の一例を示すグラフである。この例では、一時的電圧低下処理が、一定周期Tの間隔の各時刻tn,tn+1,tn+2,tn+3,tn+4(nは任意の自然数)において実行されている。そして、第1〜第4の時刻tn〜tn+3の一時的電圧低下処理では、高温曝露時間tdに応じた電圧低下期間thで実行されているため、低電圧で保持されている期間が、次第に長くなっている。そして、第5の時刻tn+4における一時的電圧低下処理では、二次電池81の蓄電量が不足して補正された電圧低下期間thcによって実行されている。そのため、第5の時刻tn+4における一時的電圧低下処理では、1つ前の第4の時刻tn+3における一時的電圧低下処理より、低電圧に保持される期間が短くなっている。
【0083】
以上のように、本実施例の燃料電池システム100であれば、燃料電池10が高温状態であるときに、一時的電圧低下処理が実行され、触媒性能の劣化が抑制される。また、本実施例の燃料電池システム100では、一時的電圧低下処理の処理条件である電圧低下期間thは、燃料電池10の運転状態を示す要素の一つである高温曝露時間tdに応じて設定された後に、二次電池81の蓄電量に基づいて変更される。より具体的には、二次電池81の蓄電量に十分な余裕がある場合には、電圧低下期間thは、高温状態が継続された時間に対して、燃料電池10の性能回復に有効な上限の値(これ以下の値であれば、効果が得られる値)に設定される。そして、電圧低下期間thは、二次電池81の蓄電量が、一時的電圧低下処理において不足する可能性が高いときには短く補正される。従って、二次電池81の出力が確保される範囲内で、燃料電池10の触媒性能を劣化を抑制するための運転を効率的に実行することができる。
【0084】
B.第2実施例:
図11は本発明の第2実施例としての性能回復運転の制御手順を示すフローチャートである。図11は、ステップS150に換えてステップS151の処理が設けられている点以外は、図8とほぼ同じである。なお、この第2実施例における燃料電池システムの構成は、第1実施例で説明したものと同様である(図1,図2)。また、第2実施例の燃料電池システムにおいて制御部20が実行するシステム制御は、第1実施例で説明したのと同様である(図3)。
【0085】
第2実施例の燃料電池システムでは、一時的電圧低下処理の実行の際に、二次電池81の蓄電量が不足してしまう可能性がある場合には、一時的電圧低下処理が実行可能なように、電圧低下量Vdを変更する補正処理を実行する(ステップS151)。即ち、制御部20は、電圧低下量Vdの値を、二次電池81が現在出力可能な電力量ESに応じて小さくする補正を実行する。例えば、制御部20は、以下の数式(2)を用いて、電圧低下量Vdの補正を実行するものとしても良い。
補正後の電圧低下量Vdc=(ES/(α×EP))×Vd …(2)
ここで、αは1以上の任意の実数である。なお、電圧低下量Vdのは、一時的電圧低下処理の繰り返しの実行が確保されるように補正されることが好ましい。
【0086】
図12は、第2実施例の一時的電圧低下処理が繰り返し実行されている間における燃料電池10の電圧変化の一例を示すグラフである。この例では、一時的電圧低下処理が、一定周期T間隔の各時刻tn,tn+1,tn+2,tn+3(nは任意の自然数)において実行されている。そして、各時刻tn〜tn+3の一時的電圧低下処理では、高温曝露時間tdに応じた電圧低下期間thで実行されており、低電圧で保持される期間が、次第に長くなっている。しかし、第4の時刻tn+3における一時的電圧低下処理では、二次電池81の蓄電量が不足したために補正後の電圧低下量Vdcによって実行されており、電圧の低下幅が縮小されている。
【0087】
以上のように、第2実施例の燃料電池システムでは、二次電池81の蓄電量に十分な余裕がある場合には、電圧低下期間thが、高温状態が継続された時間に対して、燃料電池10の性能回復の効果が得られる上限の値で設定される。そして、二次電池81のSOCに基づいて得られる蓄電量が、一時的電圧低下処理において不足する可能性があるときには、二次電池81の放電する電力量が不足しないように、電圧低下量Vdを小さくして、一時的電圧低下処理の実行が確保される。従って、燃料電池10の高温状態が継続されているときに、一時的電圧低下処理を効果的かつ効率的に実行することができる。
【0088】
C.第3実施例:
図13は本発明の第3実施例としての性能回復運転の制御手順を示すフローチャートである。図13は、ステップS100,S110に換えてステップS101,S111が設けられている点以外は、図8と同じである。なお、この第3実施例における燃料電池システムの構成は、第1実施例で説明したものと同様である(図1,図2)。また、第3実施例の燃料電池システムにおいて制御部20が実行するシステム制御の手順は、第1実施例で説明したのと同様である(図3)。
【0089】
第3実施例の燃料電池システムでは、一時的電圧低下処理の実行が開始されると、制御部20は、ステップS101において、燃料電池10の現在の電流とセル電圧とを検出する。ここで、第3実施例の燃料電池システムでは、制御部20は、燃料電池10の現在のセル電圧に対して、電圧低下期間thを決定するためのマップを、燃料電池10の電流値ごとに予め記憶している。ステップS111では、制御部20は、燃料電池10の電流の検出値に対応するマップを読み出し、そのマップを用いて、燃料電池10のセル電圧の検出値に対する電圧低下期間thを取得する。
【0090】
図14は、ステップS111で用いられるマップの一例を、横軸をセル電圧とし、縦軸を電圧低下期間とするグラフとして示した説明図である。このマップは、本発明の発明者が行った実験の実験結果に基づいて設定されたものである。このマップでは、セル電圧VcがV1以下のときには、電圧低下期間thが最も高いthmaxが取得されるように設定されている。そして、セル電圧VcがV1より大きい場合には、セル電圧Vcが高いほど、電圧低下期間thが短くなるように設定されている。なお、セル電圧VcがV1より大きい領域では、セル電圧Vcと電圧低下期間thとの関係は、下に凸の曲線カーブを描くように設定されている。
【0091】
ここで、燃料電池では、一般に、ある電流値に対するセル電圧の値が低いほど、I−V特性やI−P特性で表される燃料電池の発電特性が低下している可能性が高く、燃料電池の発電性能が低下している可能性が高い。前記したとおり、このマップは、燃料電池10の電流値ごとに準備されており、燃料電池10の発電特性の変化に応じて電圧低下期間thを取得できるマップであると解釈することができる。なお、図14に示されたマップで取得される電圧低下期間thは、一時的電圧低下処理において、それ以上の期間で低電圧を保持しても、所望の性能回復の度合いの向上が見込めなくなる、電圧低下期間の上限である。
【0092】
第3実施例の燃料電池システムであれば、燃料電池10の現在の運転状態を示す燃料電池10の発電特性に応じて電圧低下期間thが設定される。そして、二次電池81の蓄電量が十分である場合には、その電圧低下期間thで、一時的電圧低下処理が実行され、二次電池81の蓄電量が不十分な場合には、電圧低下期間thを縮小する補正をして、一時的電圧回復処理の実行が確保される。このように、第3実施例の燃料電池システムであれば、燃料電池10の発電特性に応じた性能回復運転を、二次電池81の蓄電量で許容される範囲内において、より高い効果が得られるように実行できる。
【0093】
D.第4実施例:
図15は、本発明の第4実施例としての性能回復運転の制御手順を示すフローチャートである。図15は、ステップS125が追加されている点と、ステップS120,S140,S160に換えてステップS121,S141,S161が設けられている点以外は、図8とほぼ同じである。なお、第4実施例の燃料電池システムの構成は、第1実施例と同様であり(図1,図2)、制御部20によるシステム制御の制御手順は、第1実施例で説明したのと同様である(図3)。
【0094】
第4実施例の燃料電池システムでは、一時的電圧低下処理を、燃料電池車両の停止中、即ち、モータ200への電力の供給が停止されている、燃料電池10の待機状態、いわゆるアイドリング状態のときに実行する。そして、一時的電圧低下処理において燃料電池10が出力する電力は、二次電池81に充電される。具体的には、一時的電圧低下処理は、以下のように実行される。
【0095】
制御部20は、通常運転の実行時に、燃料電池10が高温状態であることを検出した場合には、第1実施例で説明したのと同様な処理によって、高温曝露時間tdに応じた電圧低下期間thを取得する(ステップS100,S110)。そして、その電圧低下期間thと、初期値として設定されている電圧低下量Vdとを用いて、一時的電圧低下処理を実行した場合に、二次電池81へ充電されるであろう電力量の予測値EPを算出する(ステップS121)。
【0096】
ステップS125では、制御部20は、モータ200への電力の供給が停止されており、燃料電池10が待機状態であるか否かを判定する。制御部20は、燃料電池10が待機状態ではない場合には、性能回復運転から通常運転の制御に復帰する。一方、制御部20は、燃料電池10が待機状態であるときには、二次電池81のSOCを検出する(ステップS130)。
【0097】
そして、制御部20は、二次電池81のSOCに基づき、一時的電圧低下処理を実行可能であるか否かを判定する(ステップS141)。具体的には、ステップS121で算出した予測値EPに相当する電力量を二次電池81に充電可能であるか否かを判定する。ステップS141において、二次電池81に充電のための十分な空き容量がないと判定した場合には、制御部20は、第1実施例で説明したのと同様に、電圧低下期間thを補正する(ステップS150)。そして、補正後の電圧低下期間thcを用いて、一時的電圧低下処理を実行する。
【0098】
一方、ステップS141において、二次電池81に十分な空き容量があると判定した場合には、制御部20は、ステップS110で設定された電圧低下期間thによって、一時的電圧低下処理を実行する(ステップS161)。なお、ステップS161では、燃料電池10の出力する電力は、二次電池81に蓄電される。
【0099】
以上のように、第4実施例の燃料電池システムによれば、燃料電池車両の停止時などにおいて、燃料電池10が高温状態である場合には、燃料電池10の触媒性能を回復するための処理が実行される。従って、燃料電池車両のアイドリング中などの時間を有効に活用して、燃料電池10の性能劣化を抑制することができる。また、二次電池81のSOCに応じて、一時的電圧低下処理の処理条件が変更され、一時的電圧低下処理において燃料電池10が出力する電力を確実に蓄電することができるため、燃料電池車両におけるエネルギーの浪費が抑制される。
【0100】
E.第5実施例:
図16は、本発明の第5実施例としての燃料電池システム100Aの電気的構成を示す概略図である。図16は燃料電池10に短絡回路110が接続されている点と、二次電池81と燃料電池10との間に開閉スイッチ96が設けられている点以外は、図2とほぼ同じである。なお、第5実施例の燃料電池システム100Aの他の構成は、第1実施例と同様である(図1)。また、第5実施例の燃料電池システム100Aでは、制御部20は、第1実施例と同様に、高温状態が検出されるまでは通常運転を継続的に実行し、高温状態が検出された後には、高温状態が継続されている間、性能回復運転を定期的に繰り返し実行する(図3)。
【0101】
第5実施例の燃料電池システム100Aには、直流配線DCLに、燃料電池10と二次電池81との間の電気的接続を切断可能なように、開閉スイッチ96が設けられている。制御部20は、この開閉スイッチ96の開閉動作を制御する。また、第5実施例の燃料電池システム100Aには、燃料電池10のアノードとカソードとを短絡させることが可能な短絡回路110が設けられている。
【0102】
短絡回路110は、燃料電池10の2つの電極を接続する配線111と、可変抵抗112と、開閉スイッチ113とを備えている。可変抵抗112と開閉スイッチ113とはそれぞれ配線111に設けられている。制御部20は、この短絡回路110の開閉スイッチ113の開閉と、可変抵抗112の抵抗とを制御する。
【0103】
制御部20は、開閉スイッチ96によって燃料電池10と二次電池81との電気的接続が切断された状態において、燃料電池10の電圧を、可変抵抗112の抵抗を調整することにより任意に低下させることが可能である。第5実施例の燃料電池システム100Aでは、以下に説明する性能回復運転において、この短絡回路110を用いた一時的電圧低下処理を実行する。
【0104】
図17は、第5実施例の燃料電池システム100Aにおいて実行される性能回復運転における制御手順を示すフローチャートである。図17は、ステップS150に換えてステップS162が設けられている点以外は、図15とほぼ同じである。第5実施例の性能回復運転では、第5実施例で説明したのと同様に、燃料電池車両の停止中に、一時的電圧低下処理を実行し、その際の燃料電池10の出力を二次電池81に充電する。ただし、以下に説明する点において、第5実施例の性能回復運転とは異なる。
【0105】
第5実施例の性能回復運転では、一時的電圧低下処理の実行開始前に、二次電池81の充電可能な空き容量が十分でないと判定した場合には、短絡回路110によって一時的電圧低下処理を実行する(ステップS162)。具体的には、制御部20は、開閉スイッチ96を開き、燃料電池10と二次電池81との間の電気的接続を切断するとともに、短絡回路110の開閉スイッチ113を閉じて、燃料電池10のアノードとカソードとを短絡させる。
【0106】
このとき、燃料電池10への反応ガスの供給は継続されているが、アノードとカソードの短絡により、燃料電池10の電圧が低下することになる。制御部20は、電圧低下期間thの間、燃料電池10の電圧を電圧低下量Vdだけ低下させる。なお、制御部20は、可変抵抗112の抵抗値を調整することにより、燃料電池10の電圧低下量を調整することができる。即ち、第5実施例の燃料電池システムでは、短絡回路110を利用することにより、二次電池81への充電を行うことなく、一時的電圧低下処理を実行することが可能である。
【0107】
以上のように、第5実施例の燃料電池システム100Aであれば、二次電池81の充電可能な空き容量が十分でない場合であっても、電圧低下期間thを補正することなく、電圧低下の方法を変更して一時的電圧低下処理が実行される。従って、高温状態に曝された燃料電池10の確実な性能回復が可能である。
【0108】
E−1.第5実施例の他の構成例:
図18は、第5実施例の他の構成例としての性能回復運転の制御手順を示すフローチャートである。図18は、ステップS121,S130,S141,S161の処理が省略され、ステップS125の判定処理の後にステップS162が設けられている点以外は、図17とほぼ同じである。この構成例では、燃料電池システムの構成は、上述した第5実施例の燃料電池システム100Aと同じである(図16)。また、制御部20によるシステム制御の制御手順は、以下に説明する性能回復運転の制御手順が異なる点以外は、第5実施例で説明した制御手順とほぼ同じである。
【0109】
この構成例では、性能回復運転において、二次電池81のSOCに関わらず、短絡回路110によって電圧を低下させる一時的電圧低下処理を実行する。即ち、ステップS125において、燃料電池10が待機中であると判定された場合には、制御部20は、そのまま、短絡回路110によって、燃料電池10のアノードとカソードとを短絡させて、燃料電池10の電圧を一時的に低下させる(ステップS162)。このように、この構成例であれば、二次電池81のSOCに関わらず、燃料電池10の性能回復のための処理を実行することが可能である。
【0110】
F.第6実施例:
図19は、本発明の第6実施例としての燃料電池システム100Bの構成を示す概略図である。図19は、バイパスガス流路部120が設けられている点以外は、図1とほぼ同じである。なお、第6実施例の燃料電池システム100Bの他の構成は、第1実施例と同様である(図1)。また、第6実施例の燃料電池システム100Bでは、制御部20は、第1実施例と同様に、高温状態が検出されるまでは通常運転を継続的に実行し、高温状態が検出された後には、高温状態が継続されている間、性能回復運転を定期的に繰り返し実行する(図3)。
【0111】
第6実施例の燃料電池システム100Bには、カソードガス供給部30と、アノードガス供給部50とを接続するバイパスガス流路部120が設けられている。第6実施例の燃料電池システム100Bでは、バイパスガス流路部120によって、アノードガスを燃料電池10のカソード側にバイパスさせることが可能である。
【0112】
バイパスガス流路部120は、バイパス配管121と、開閉弁122と、調圧弁123とを備えている。バイパス配管121は、一端がアノードガス配管51の水素供給装置55より下流側に接続され、他端が、カソードガス配管31の加湿部35の下流側に接続されている。開閉弁122は、バイパス配管121のアノードガス供給部50側に設けられ、調圧弁123は、バイパス配管121のカソードガス供給部30側に設けられている。制御部20は、開閉弁122と調圧弁123とを制御し、カソードガス供給部30へとバイパスされるアノードガスの流量を調整する。
【0113】
第6実施例の燃料電池システム100Bでは、以下に説明する性能回復運転において、このバイパスガス流路部120を用いた一時的電圧低下処理を実行する。なお、バイパスガス流路部120は、以下に説明する一時的電圧低下処理の実行時以外は、開閉弁122が閉じられた状態である。
【0114】
図20は、第6実施例の燃料電池システム100Bにおいて実行される性能回復運転における制御手順を示すフローチャートである。図20は、ステップS162に換えてステップS163が設けられている点以外は、図17とほぼ同じである。即ち、第6実施例の性能回復運転は、二次電池81の空き容量が不十分な場合に実行される一時的電圧低下処理の内容が異なる点以外は、第5実施例の性能回復運転とほぼ同じである。
【0115】
第6実施例の燃料電池システム100Bでは、二次電池81の空き容量が不十分な場合には、制御部20は、バイパスガス流路部120の開閉弁122を、電圧低下期間thの間だけ、一時的に開く。なお、制御部20は、このときに、電圧低下量Vdに応じて、調圧弁123の開度も調整する。
【0116】
開閉弁122の開放により、アノードガス配管51のアノードガスの一部がカソードガス配管31へと流入し、燃料電池10のカソード側にアノードガスが導入される。これによって、燃料電池10の電圧を低下させることができるとともに、カソード側に導入されたアノードガスとカソードガスとの反応により、燃料電池10の内部の水分量を増大させることができる。従って、燃料電池10における触媒性能の回復が可能である。
【0117】
このように、第6実施例の燃料電池システム100Bであれば、二次電池81の空き容量が十分でない場合であっても、一時的電圧低下処理が、電圧低下期間thを補正することなく、電圧低下の方法を変えて実行される。従って、高温状態に曝された燃料電池10の確実な性能回復が可能である。
【0118】
F−1.第6実施例の他の構成例:
図21は、第6実施例の他の構成例としての性能回復運転の制御手順を示すフローチャートである。図21は、ステップS162に換えてステップS163が設けられている点以外は、図18とほぼ同じである。この構成例における燃料電池システムの構成は、上述した第6実施例の燃料電池システム100Bと同じである(図19)。また、制御部20によるシステム制御の制御手順は、以下に説明する性能回復運転の制御手順が異なる点以外は、第6実施例で説明した制御手順とほぼ同じである。
【0119】
この構成例では、性能回復運転において、二次電池81のSOCに関わらず、バイパスガス流路部120を用いて一時的電圧低下処理を実行する。即ち、制御部20は、ステップS125において、燃料電池10が待機中であると判定した場合には、バイパスガス流路部120によって、アノードガスを燃料電池10のカソード側へとバイパスさせる一時的電圧低下処理を実行する(ステップS163)。このように、この構成例であれば、二次電池81のSOCに関わらず、燃料電池10の性能回復のための処理を確実に実行することができる。
【0120】
G.第7実施例:
図22は、本発明の第7実施例としての燃料電池システム100Cの電気的構成を示す概略図である。図22は、短絡回路110に換えて電圧印加部130が設けられている点以外は、図16とほぼ同じである。なお、第7実施例の燃料電池システム100Cの他の構成は、第1実施例と同様である(図1)。また、第7実施例の燃料電池システム100Cでは、制御部20は、第1実施例と同様に、高温状態が検出されるまでは通常運転を継続的に実行し、高温状態が検出された後には、高温状態が継続されている間、性能回復運転を周期的に繰り返し実行する(図3)。
【0121】
第7実施例の燃料電池システム100Cには、制御部20の指令により、燃料電池10に対して電圧を印加する電圧印加部130が設けられている。電圧印加部130は、電源装置131と、配線132と、開閉スイッチ133とを備える。
【0122】
電源装置131は、直流電源装置であり、カソード側をマイナスとし、アノード側をプラスとして、配線132を介して燃料電池10に接続されている。開閉スイッチ133は、配線132に設けられている。制御部20は、開閉スイッチ133の開閉を制御して、燃料電池10と電源装置131との間の電気的接続のON/OFFを切り替える。第7実施例の燃料電池システム100Cでは、以下に説明する性能回復運転において、この電圧印加部130を用いた一時的電圧低下処理を実行する。
【0123】
図23は、第7実施例の燃料電池システム100Cにおいて実行される性能回復運転における制御手順を示すフローチャートである。図23は、ステップS163に換えてステップS170〜S172が設けられている点以外は、図20とほぼ同じである。即ち、第7実施例の性能回復運転は、二次電池81の充電容量が不十分な場合に実行される一時的電圧低下処理の内容が異なる点以外は、第5実施例や第6実施例の性能回復運転とほぼ同じである。第7実施例の燃料電池システム100Cでは、二次電池81の空き容量が不十分な場合には、以下の手順により、一時的電圧低下処理を実行する。
【0124】
制御部20は、カソードガス供給部30と、アノードガス供給部50とに、反応ガスの供給を停止させる(ステップS170)。そして、電圧印加部130の開閉スイッチ133を閉じて、燃料電池10と電源装置131とを接続させ、電圧低下期間thの間、燃料電池10にカソード側をマイナスとし、アノード側をプラスとする電圧を印加する(ステップS171)。なお、この印加電圧は、電圧低下量Vdに応じて設定される。そして、制御部20は、電圧低下期間thが経過したときに、電圧印加部130と燃料電池10との間の電気的接続を切断し、燃料電池10への反応ガスの供給を再開させる(ステップS172)。
【0125】
ここで、通常、燃料電池では反応ガスの供給が停止されると、燃料電池10に残留している反応ガスの消費とともに緩やかな電圧降下が生じる。第7実施例の燃料電池システムでは、反応ガスの供給を停止された燃料電池10に、電源装置131によって電圧を印加することにより、燃料電池10のアノード側のプロトンをカソード側へと誘導し(水素ポンプ)、その電圧降下の速度を促進させている。この反応ガスの供給停止後の電圧降下を利用した一時的電圧低下処理においても、一時的に燃料電池10における生成水量を増大させることができ、燃料電池10の触媒性能の回復が可能である。
【0126】
以上のように、第7実施例の燃料電池システムであれば、二次電池81のSOCが不足する場合であっても、一時的電圧低下処理が、電圧低下の方法を変更して実行される。
【0127】
G−1:第7実施例の他の構成例:
図24は、第7実施例の他の構成例としての性能回復運転の制御手順を示すフローチャートである。図24は、ステップS163に換えてステップS170〜S172が設けられている点以外は、図21とほぼ同じである。この構成例では、燃料電池システムの構成は、上述した第7実施例の燃料電池システム100Cと同じである(図19)。また、制御部20によるシステム制御の制御手順は、以下に説明する性能回復運転の制御手順が異なる点以外は、第7実施例で説明した制御手順とほぼ同じである。
【0128】
この構成例では、性能回復運転において、二次電池81のSOCに関わらず、電圧印加部130を用いた一時的電圧低下処理を実行する。即ち、ステップS125において、燃料電池10が待機中であると判定された場合には、制御部20は、電圧低下期間thの間、燃料電池10への反応ガスの供給を一時的に停止させる(ステップS170)。そして、電圧印加部130によって燃料電池10に電圧を印可し、燃料電池10の電圧を所定の値まで一時的に低下させ(ステップS171)、所定の期間、その低電圧状態を保持した後に、反応ガスの供給を再開させ(ステップS172)、電圧を復帰させる。この構成例であれば、二次電池81のSOCに関わらず、燃料電池10の性能回復のための一時的電圧低下処理が確実に実行される。
【0129】
H.第8実施例:
図25は、本発明の第8実施例の燃料電池システムの制御部20によるシステム制御の制御手順を示すフローチャートである。図25は、ステップS20とステップS30との間にステップS21,S25が設けられている点と、ステップS30の後にステップS40が追加されている点以外は、図3とほぼ同じである。なお、第8実施例の燃料電池システムの構成は第1実施例の燃料電池システム100とほぼ同じである(図1,図2)。
【0130】
第8実施例の燃料電池システムでは、燃料電池10が高温状態で運転されていた履歴がある場合には、燃料電池車両の停止時など、燃料電池10が待機している状態のときに、高温状態の運転で劣化した燃料電池10の性能を回復するための性能回復運転を実行する。具体的には、以下の通りである。
【0131】
第8実施例の燃料電池システムでは、制御部20は、通常運転実行時に燃料電池10の運転温度が第1の温度(例えば、約90℃)より高い高温状態にあることを検出した場合であっても、そのまま通常運転の制御を継続する(ステップS20,S21)。そして、ステップS21において継続している通常運転の制御を実行している間に、燃料電池10の運転温度が、第2の温度(例えば、約60℃程度)よりも低下したことが検出されたときに、性能回復運転を開始する(ステップS30)。
【0132】
図26は、第8実施例の燃料電池システムにおいて実行される性能回復運転における制御手順を示すフローチャートである。図26は、ステップS100が省略されている点と、ステップS110に換えてステップS111が設けられている点以外は、図8とほぼ同じである。性能回復運転が開始されると、制御部20は、一時的電圧低下処理の処理条件(電圧低下期間thや電圧低下量Vd)を予め設定された値(初期値)に設定する(ステップS111)。
【0133】
そして、ステップS120〜S150では、第1実施例で説明したのと同様に、現在の二次電池81のSOCに基づいて、電圧低下期間thの補正の必要性を判定し、必要があれば、電圧低下期間thを、二次電池81の蓄電量に応じて補正する。ステップS160では、ステップS111で設定された電圧低下期間th、または、ステップS150で補正された電圧低下期間thcによって、一時的電圧低下処理を実行する。
【0134】
制御部20は、性能回復運転の実行後、燃料電池10の性能が回復しているか否かを判定する(図25のステップS40)。具体的には、例えば、燃料電池10の電圧と電流とを検出し、燃料電池の発電特性(I−V特性およびI−P特性)が、現在の運転温度における許容範囲内の特性を示しているか否かを判定する。制御部20は、燃料電池10の性能が回復していないと判定されている間は、一時的電圧低下処理が周期的に繰り返されるように、性能回復運転を繰り返し実行する。一方、燃料電池10の性能が回復していると判定された場合には、通常運転に復帰する(ステップS10)。
【0135】
以上のように、第8実施例の燃料電池システムでは、高温状態の運転において低下した燃料電池10の触媒性能を、燃料電池10の運転温度が低下した後の一時的電圧低下処理によって回復させる。燃料電池10の運転温度が低下した状態であれば、燃料電池10の内部の湿潤状態が改善されている可能性が高い。そして、そうした湿潤状態が改善された状態のときに、一時的電圧低下処理を実行すれば、カソード電極2内に蓄積された被毒物質を、より確実に排出させることができる。また、酸化被膜が生成されてしまった触媒3pにまでプロトンを確実に到達させることができる。従って、より効果的に燃料電池10の触媒性能を回復させることが可能である。
【0136】
なお、上記の説明では、ステップS111において、電圧低下期間thを所定の初期値に設定していたが、電圧低下期間thは、第1実施例と同様に、高温状態の継続された累積時間である高温曝露時間tdに応じて設定されるものとしても良い(図9)。あるいは、第3実施例で説明したように、燃料電池10の現在のI−V特性に応じて電圧低下期間thが設定されるものとしても良い(図14)。さらに、一時的電圧低下処理を実行するときの燃料電池10の運転温度が低いほど、電圧低下量Vdを低減させて、一時的電圧低下処理を実行するものとしても良い。
【0137】
I.第9実施例:
図27は、本発明の第9実施例としての燃料電池システムにおいて制御部20が実行するシステム制御の制御手順を示すフローチャートである。図27は、ステップS21に換えてステップS22が設けられている点と、ステップS30に換えてステップS27,S31,S32が設けられている点以外は、図25とほぼ同じである。なお、第9実施例の燃料電池システムの構成は第8実施例の燃料電池システムとほぼ同じである(図1,図2)。第9実施例の燃料電池システムでは、高温状態が検出された後、燃料電池10の運転状態や、二次電池81の充電状態に基づいて、処理内容を変えた一時的電圧低下処理が実行される。具体的には、以下の通りである。
【0138】
第9実施例の燃料電池システムでは、燃料電池10が高温状態にある間、第1の性能回復運転を繰り返し実行する(ステップS22,S25)。この第1の性能回復運転では、第1〜第3実施例で説明した性能回復運転のいずれか一つと同様な運転制御が実行される(図8,図11,図13)。なお、この第1の性能回復運転では、二次電池81の現在の蓄電量によっては、処理条件が変更された上で、一時的電圧低下処理が実行される。
【0139】
第1の性能回復運転が繰り返されている間に、燃料電池10の運転温度が所定の温度より低下した場合には、制御部20は、現在の燃料電池10における発電状態の劣化を検出する(ステップS26)。具体的には、第9実施例の燃料電池システムでは、ステップS26において、例えば、燃料電池10のアノードガスの圧力損失の規定以上の低下を検出することにより、燃料電池10における発電状態の劣化を検出する。
【0140】
図28(A)〜(C)は、燃料電池10におけるアノードガスの圧力損失の低下原因を説明するための模式図である。図28(A)〜(C)にはそれぞれ、紙面下段側に、燃料電池10の膜電極接合体15を面に沿った方向に見たときの模式図が、紙面上側をカソード側とし、紙面下側をアノード側として図示してある。そして、紙面上段側に、電流密度分布の一例を示すグラフを、紙面下段側に図示された膜電極接合体15の紙面左右方向の位置に対応させて図示してある。
【0141】
ここで、燃料電池10では、反応ガスが膜電極接合体15を挟んで互いに対向する方向に流れている(矢印CF,AF)。図28(A)〜(C)では、紙面左側がカソードガスの上流側(アノードガスの下流側)として図示してある。さらに、図28(A)〜(C)では、膜電極接合体15における水分の循環を、破線矢印WFによって模式的に示してあり、膜電極接合体15において乾燥状態にある部位については破線DAで示してある。
【0142】
図28(A)は、通常運転が実行される運転温度(約60℃〜80℃程度)のときの燃料電池10における理想的な電流密度分布と、水分の循環状態の一例を示している。この状態のときには、カソードガスの上流側(紙面左側)ほど電流密度が高い状態であり、水分の循環系路が膜電極接合体15の全体にわたって形成される。
【0143】
図28(B)は、高温状態での運転がなされた後の燃料電池10における電流密度分布と水分の循環状態の一例を示している。この状態では、高温運転により、カソードガスの上流側において膜電極接合体15が乾燥状態となり、水分の循環経路は、カソードガスの下流側に偏った領域に形成される。ただし、膜電極接合体15のアノード側では、アノードガスの流れによって、その下流側へと水分がわずかに移動する。この状態では、カソードガスの上流側における触媒の性能が劣化し始め、電流密度分布も、カソードガスの下流側に偏ってしまう。
【0144】
図28(C)は、図28(B)の状態から、さらに、高温運転が継続されたときの燃料電池10における電流密度分布と水分の循環状態の一例を示している。この状態では、カソードガスの下流側はほぼ乾燥してしまい、アノード側においても、アノードガスの下流側への水分の移動も見られなくなっている。そして、カソードガスの下流側に偏った領域に電流が集中している。
【0145】
ここで、図28(B)や図28(C)の状態のときには、アノードガスの多くは、その上流側の領域(紙面右側の領域)で消費されることになる。そのため、これらの状態のときのアノードガスの流路では、その圧力損失が低下することになる。
【0146】
ステップS26(図27)では、制御部20は、アノードガス供給部50の圧力計測部56の計測値と、アノードガス循環排出部60の圧力計測部67の計測値とから、燃料電池10のアノード側の圧力損失を検出し、予め規定された閾値と比較する。そして、検出された圧力損失が許容範囲内であった場合には、通常運転(ステップS10)へと復帰する。
【0147】
一方、検出された圧力損失が規定以上に高く、燃料電池10の発電状態が劣化していると判定した場合には、制御部20は、ステップS27の処理を実行する。ステップS27では、制御部20は、燃料電池10のI−V特性およびI−P特性を、現在の燃料電池10の電流と電圧の検出値に基づいて検出し、燃料電池10の現在の出力電力を維持したまま燃料電池10の電圧を低下することができるか否かを判定する。
【0148】
図29は、ステップS27における燃料電池10のI−V特性およびI−P特性に基づく判定処理を説明するための説明図である。図29には、図4で説明したのと同様な燃料電池10のI−V特性およびI−P特性を示すグラフの一例を図示してある。図4で説明したとおり、通常運転では、燃料電池10のI−V特性およびI−P特性に基づき、要求出力Ptを出力するための燃料電池10の電圧Vtと電流Itと決定する。
【0149】
ここで、燃料電池10のI−V特性およびI−P特性は、燃料電池10の運転温度に応じて変化する。燃料電池10の運転温度が、通常温度(約60℃〜約80℃)であれば、図29に示すように、燃料電池10のI−P特性を示す曲線グラフには、その頂点の電流値より高い電流値を示す領域(以下、「高電流領域」と呼ぶ)が存在する。
【0150】
一方、燃料電池10が高温状態(運転温度が約90℃以上程度)にあるときには、燃料電池10のI−P特性を示す曲線には、高電流領域がほとんど存在しなくなる可能性が高い。なお、通常運転では、I−P特性を示す曲線グラフの頂点の電流値より低い側(紙面左側)の電流の領域(以下、「低電流領域」と呼ぶ)において燃料電池10の出力が制御される。
【0151】
燃料電池10のI−P特性を示すグラフにおいて、高電流領域が存在する場合には、要求出力Ptに対する電流値として、通常運転において用いられるItとともに、Itより高い電流値であるIthighが存在する。そして、要求出力Ptに対する電圧値として、通常運転において用いられるVtとともに、Vtよりも低い電圧値であるVtlowが存在する。
【0152】
制御部20は、ステップS27(図27)において、現在の燃料電池10の発電特性(I−V特性およびI−P特性)に基づき、要求出力Ptに対して、電圧Vtlowでの出力が可能であると判定した場合には、第2の性能回復運転を実行する(ステップS31)。この第2の性能回復運転では、燃料電池10に要求出力Ptを出力させつつ、一時的に電圧を高電流領域側の電圧Vtlowまで低下させる一時的電圧低下処理を実行する。
【0153】
一方、制御部20は、ステップS27において、現在の燃料電池10のI−V特性およびI−P特性に基づき、要求出力Ptに対する電圧Vtlowが存在しないと判定した場合には、第3の性能回復運転を実行する(ステップS32)。この第3の性能回復運転は、第8実施例において実行されていた性能回復運転と同様な制御手順(図26)によって実行される。即ち、まず、一時的電圧低下処理の処理条件が初期値に設定される。そして、二次電池81の蓄電量が十分であれば、その設定された電圧低下期間で、一時的電圧低下処理が実行され、二次電池81の蓄電量が十分ない場合には、補正された電圧低下期間で、一時的電圧低下処理が実行される。
【0154】
なお、第9実施例の燃料電池システムでは、第2の性能回復運転(ステップS31)、または、第3の性能回復運転(ステップS32)の実行後に、再び、ステップS26の発電状態の劣化判定処理が実行される。即ち、第9実施例の燃料電池システムでは、アノードガスの圧力損失が許容範囲となるまでの間、第2の性能回復運転、または、第3の性能回復運転のいずれかの運転において、一時的電圧低下処理が、所定の周期で実行されることになる。
【0155】
以上のように、第9実施例の燃料電池システムであれば、燃料電池10が高温状態にあるときには、第1の性能回復運転が実行され、燃料電池10の触媒性能の劣化が抑制される。そして、第1の性能回復運転の繰り返されている間には、燃料電池10の発電が一時的に向上した状態での効率的な運転が可能となるため、燃料電池10の更なる昇温が回避される。また、第9実施例の燃料電池システムであれば、高温状態での運転によって、燃料電池10の発電状態が劣化していることが検出された場合には、第2または第3の性能回復運転が実行され、その発電状態の劣化の解消が図られる。特に、第2の性能回復運転では、燃料電池10の出力を維持することにより、二次電池81による電力の補償を省略できるため、より効率的に、燃料電池10の性能回復を図ることが可能である。
【0156】
J.第10実施例:
図30は、本発明の第10実施例としての燃料電池システムにおいて制御部20が実行するシステム制御の制御手順を示すフローチャートである。図30は、ステップS31に換えてステップS33が設けられている点以外は、図27とほぼ同じである。なお、第10実施例の燃料電池システムの構成は第9実施例の燃料電池システムとほぼ同じである(図1,図2)。第10実施例の燃料電池システムでは、以下に説明するストイキ比の変更を伴う性能回復運転(ステップS33)が実行される点以外は、第9実施例の燃料電池システムと同様なシステム制御が実行される。
【0157】
図31は、ステップS33において実行されるストイキ比の変更を伴う性能回復運転の制御手順を示すフローチャートである。この性能回復運転は、燃料電池10が高温状態を経た後に、燃料電池10において発電状態の劣化が検出され、さらに、燃料電池10のI−V特性およびI−P特性に基づき、燃料電池10の出力を維持して電圧低下が可能であると判定されたときに実行される。
【0158】
ステップS200では、制御部20は、カソードガス供給部30を制御して、燃料電池10におけるストイキ比を低下させる処理を実行する。ここで、「ストイキ比」とは、燃料電池の発電量に対して理論的に必要なカソードガスの量(カソードガスの理論的消費量)に対する実際のカソードガスの供給量の比を意味する。ステップS200では、制御部20は、カソードガス供給部30に、カソードガスの供給量を低下させる。このように、燃料電池10におけるストイキ比を低下させることにより、燃料電池10のI−V特性およびI−P特性を変化させることが可能である。
【0159】
図32は、ストイキ比の低下による燃料電池10のI−V特性およびI−P特性の変化を説明するための説明図である。図32には、燃料電池10のI−V特性およびI−P特性を示すグラフの一例が図示されている。なお、図32では、ストイキ比変更前の燃料電池10のI−V特性およびI−P特性を示すグラフPGI-V,PGI-Pを破線で図示し、ストイキ比変更後の燃料電池10のI−V特性およびI−P特性を示すグラフGI-V,GI-Pを実線で図示してある。
【0160】
一般に、燃料電池では、ストイキ比を低下させると、その発電特性は低下する。即ち、I−V特性を示すグラフは、全体的に下降し、I−P特性を示すグラフは、その頂点の位置が下降するとともに、より高い電流の領域側へとシフトし、全体として、よりなだらかな曲線へと変化する。
【0161】
ここで、図32の例では、ストイキ比変更前においては、I−V特性およびI−P特性のグラフPGI-V,PGI-Pに基づき、要求出力Ptに対する電圧として第1と第2の電圧Vt,Vtlow(Vt>Vtlow)が取得できる。そして、ストイキ比変更後においては、I−V特性およびI−P特性のグラフGI-V,GI-Pに基づき、同じ要求出力Ptに対する電圧として、前述の第1と第2の電圧Vt,Vtlowよりも低い第3と第4の電圧Vt1,Vt2(Vt1>Vt2)が取得できる。
【0162】
このように、ストイキ比を低下させることにより、燃料電池10において、ストイキ比の変更前と同じ要求出力Ptに対して、より低い電圧値を設定できる場合がある。第10実施例の燃料電池システムでは、ステップS210において、ストイキ比の変更後の燃料電池10のI−V特性およびI−P特性において、現在の要求出力に対して、図32の電圧Vt2に相当する、高電流領域側における電圧が設定できるが否かを判定する。
【0163】
高電流領域側における電圧が設定できる場合には、制御部20は、その電圧まで一時的に電圧を低下させる一時的電圧低下処理を実行する(ステップS220)。一方、制御部20は、高電流領域側における電圧が設定できなかった場合には、図32の電圧Vt1に相当する低電流領域側における電圧まで一時的に電圧を低下させる一時的電圧低下処理を実行する(ステップS225)。
【0164】
制御部20は、ステップS220またはステップS225の一時的電圧低下処理を実行した後、燃料電池10のストイキ比をステップS200を実行する前のストイキ比まで復帰させる(ステップS230)。なお、この性能回復運転では、ステップS220またはステップS225の一時的電圧低下処理を、ストイキ比を復帰させる前に、所定の周期で、所定の期間、繰り返し実行するものとしても良い。これによって、一回のストイキ比の変更で、複数回、一時的電圧低下処理を繰り返すことができるため、より効率的である。
【0165】
このように、第10実施例の燃料電池システムによれば、第9実施例の燃料電池システムと同様に、燃料電池10が高温状態にあるときには、第1の性能回復運転によって、燃料電池10の触媒性能の劣化が抑制されつつ、燃料電池10の更なる昇温が回避される。また、第10実施例の燃料電池システムであれば、高温状態での運転によって、燃料電池10の発電状態の劣化が検出された場合には、ストイキ比の変更を伴う性能回復運転、または、第3の性能回復運転が実行され、その発電状態の劣化の解消が図られる。特に、ストイキ比の変更を伴う性能回復運転では、ストイキ比を低下させることにより、燃料電池10の出力電力を維持したままの一時的電圧低下処理において、より電圧の低下幅を拡大させることができる。従って、より効率的に、燃料電池10の性能回復を図ることが可能である。
K.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0166】
K1.変形例1:
上記の各実施例では、燃料電池システムが燃料電池車両に搭載されていた。しかし、各実施例の燃料電池システムは、燃料電池車両に搭載されていなくとも良い。燃料電池システムは、外部からの要求に応じた電力を供給する電力供給源として、他の装置やシステム等に搭載されるものとしても良い。
【0167】
K2.変形例2:
上記実施例では、燃料電池10が高温状態であるときや、高温状態から所定の運転温度より低い運転温度に低下した状態のときに、一時的電圧低下処理が実行されていた。しかし、一時的電圧低下処理は、高温状態が検出された後であれば、他のタイミングで実行されても良い。このように、燃料電池10の運転温度の変化に基づいて、一時的電圧低下処理を実行することにより、より効果的に、高温状態に曝されたことによる燃料電池10の性能低下を抑制できる。
【0168】
K3.変形例3:
上記実施例では、一時的電圧低下処理を実行した場合に、二次電池81が蓄電、または、放電する電力量の予測値EPを取得して、その予測値EPと、現在の二次電池の81の充電状態(蓄電量や空き容量)とに基づいて、一時的電圧低下処理の処理条件や、燃料電池10の電圧の低下手段などの処理内容を変更していた。しかし、上述の予測値EPは取得しなくとも良く、一時的電圧低下処理の処理内容は、二次電池81の充電状態と、燃料電池10の運転状態とに基づいて変更されれば良い。
【0169】
なお、「一時的電圧低下処理の処理条件」としては、上記の電圧低下期間thや、電圧低下量Vdなどの他に、低下後の電圧値や、一時的電圧低下処理の実行周期などが含まれるものとしても良い。また、「燃料電池10の運転状態」としては、上述の高温曝露時間tdの他に、燃料電池10の現在の発電特性や、燃料電池10の現在のインピーダンス・セル抵抗、燃料電池10における反応ガスの圧力損失などの要素が含まれるものとしても良い。
【0170】
K4.変形例4:
上記の各実施例では、電圧低下期間thや電圧低下量tdの設定のために、予め準備されたマップを用いていた。しかし、電圧低下期間thや電圧低下量tdは、マップを用いることなく設定されるものとしても良い。電圧低下期間thや電圧低下量tdは、予め設定された初期値や、数式を用いて設定されるものとして良い。また、電圧低下期間thや電圧低下量tdは、予め準備された高温曝露時間tdや、その他の燃料電池10の運転条件との関係に基づいて設定されるものとしても良い。
【0171】
K5.変形例5:
上記実施例では、燃料電池10が高温状態になったときや、燃料電池10が高温状態になった後に通常の運転温度になったときに、性能回復運転を実行していた。しかし、性能回復運転は、燃料電池10の発電性能の低下が検出されたときに実行されるものとしても良い。
【0172】
K6.変形例6:
上記実施例では、制御部20が、一時的電圧低下処理において不足する電力を、二次電池81の現在のSOCで補償することが可能か否かを判定し、可能でないと判定したときに、一時的電圧低下処理の処理条件を補正していた。しかし、前記の判定処理の際に、補正によっても一時的電圧低下処理の実行が困難であると判定されたときには、性能回復運転を強制的に終了するものとしても良い。具体的には、例えば、一時的電圧低下処理において二次電池81に放電、または、蓄電させる電力量の予測値EPと、二次電池81の出力可能な電力量、または、二次電池81の空き容量との差が所定の閾値より大きいときに、性能回復運転を強制的に終了するものとしても良い。
【0173】
K7.変形例7:
上記第9実施例では、ステップS26(図27)において、アノードガスの圧力損失を検出することによって、燃料電池10の発電状態の劣化の有無を判定していた。しかし、ステップS26では、他の要素によって、燃料電池10の発電状態の劣化の有無を判定するものとしても良い。例えば、燃料電池10における電流密度分布を検出して、その電流密度分布から燃料電池10における発電状態の劣化を検出するものとしても良い。
【0174】
K8.変形例8:
上記実施例では、所定の場合に、一時的電圧低下処理の処理条件として、電圧低下期間th、または、電圧低下量vdを補正していた。しかし、一時的電圧低下処理の処理条件の補正においては、電圧低下期間thと、電圧低下量vdの両方が補正されるものとして良いし、他の処理条件が補正されるものとしても良い。
【符号の説明】
【0175】
1…電解質膜
2…カソード電極
3…触媒担持粒子
3c…触媒
3p…導電性粒子
4…アイオノマー
10…燃料電池
11…発電体
15…膜電極接合体
20…制御部
30…カソードガス供給部
31…カソードガス配管
32…エアコンプレッサ
33…エアフロメータ
34…開閉弁
35…加湿部
40…カソードガス排出部
41…カソード排ガス配管
43…調圧弁
44…圧力計測部
50…アノードガス供給部
51…アノードガス配管
52…水素タンク
53…開閉弁
54…レギュレータ
55…水素供給装置
56…圧力計測部
60…アノードガス循環排出部
61…アノード排ガス配管
62…気液分離部
63…アノードガス循環配管
64…水素循環用ポンプ
65…アノード排水配管
66…排水弁
67…圧力計測部
70…冷媒供給部
71…冷媒用配管
71a…上流側配管
71b…下流側配管
71c…バイパス配管
72…ラジエータ
73…三方弁
75…冷媒循環用ポンプ
76a,76b…冷媒温度計測部
81…二次電池
82…DC/DCコンバータ
83…DC/ACインバータ
91…セル電圧計測部
92…電流計測部
93…インピーダンス計測部
94…SOC検出部
95…開閉スイッチ
96…開閉スイッチ
100,100A〜100C…燃料電池システム
101…外気温センサ
102…車速センサ
110…短絡回路
111…配線
112…可変抵抗
113…開閉スイッチ
120…バイパスガス流路部
121…バイパス配管
122…開閉弁
123…調圧弁
130…電圧印加部
131…電源装置
132…配線
133…開閉スイッチ
200…モータ
DA…乾燥領域
DCL…直流配線
OL…酸化被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
電力供給源である燃料電池と、
前記燃料電池とともに電力供給源として機能する二次電池と、
前記燃料電池の運転温度を含む前記燃料電池の運転状態を検出する運転状態検出部と、
前記二次電池の充電状態を検出する充電状態検出部と、
前記燃料電池の出力を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の運転温度が所定の第1の温度より高い高温状態を検出した後に、前記燃料電池の電圧を一時的に低下させて、前記燃料電池における生成水を増加させる一時的電圧低下処理を実行し、
前記制御部は、前記二次電池の充電状態と、前記燃料電池の運転状態に基づき、前記一時的電圧低下処理の処理内容を変更する、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記一時的電圧低下処理を実行する前に、
前記燃料電池の運転状態として検出された、前記燃料電池が前記高温状態である間の累積時間、または、前記燃料電池の電流と電圧とで特定される発電特性、に応じて、前記一時的電圧低下処理において電圧を低下させる期間である電圧低下期間の設定値を設定し、
前記電圧低下期間の設定値と、予め設定された前記一時的電圧低下処理において電圧を低下させる量である電圧低下量の設定値と、を用いて、前記一時的電圧低下処理を実行した場合に、前記二次電池が蓄電、または、放電する電力量の予測値を取得し、
前記予測値と、前記二次電池の充電状態に基づいて取得した前記二次電池の蓄電量と、に基づいて、前記一時的電圧低下処理の処理条件、または、前記一時的電圧低下処理において前記燃料電池の電圧を低下させる方法を変更する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池システムであって、
前記一時的電圧低下処理は、電圧の低下の際に、前記燃料電池の発電特性に応じた電流の増大を伴い、
前記制御部は、外部負荷の要求に応じた電力を供給しつつ、前記一時的電圧低下処理を実行する場合には、
前記一時的電圧低下処理を実行した場合に前記二次電池が放電する電力量の予測値と、前記二次電池が放電可能な電力量とに基づいて、前記一時的電圧低下処理を実行したときに、前記二次電池の放電する電力量が不足しないように、前記電圧低下期間の設定値、または、前記電圧低下量の設定値の少なくとも一方を変更して、前記一時的電圧低下処理を実行する、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記燃料電池が前記高温状態となった後に、前記燃料電池の運転温度が前記第1の温度よりも低い第2の温度より低くなった高温解消状態を検出した場合に、前記一時的電圧低下処理を実行する、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記一時的電圧低下処理を実行した後に、さらに、
前記燃料電池の運転状態として、前記燃料電池の電流と電圧とを検出し、
前記燃料電池の電流と電圧とで特定される前記燃料電池の発電特性に基づいて、前記燃料電池が出力中の電力を維持しつつ、前記燃料電池の電圧を、検出された前記電圧より低い第2の電圧に、一時的に低下させて、前記燃料電池の電流を増大させる出力一定電圧低下処理を実行する、燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記燃料電池に対する反応ガスの供給量を制御し、
前記制御部は、反応ガスのストイキ比を低下させた後に、前記出力一定電圧低下処理を実行する、燃料電池システム。
【請求項7】
請求項2〜5のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記燃料電池が前記高温状態であり、かつ、前記燃料電池の電力を外部負荷に供給していない状態である、高温待機状態の間に、前記一時的電圧低下処理を実行する場合には、
前記一時的電圧低下処理を実行した場合に前記前記二次電池が蓄電する電力量の予測値と、前記二次電池の蓄電量から取得した前記二次電池の空き容量と、に基づいて、前記一時的電圧低下処理の処理条件、または、前記一時的電圧低下処理において前記燃料電池の電圧を低下させる方法を変更する、燃料電池システム。
【請求項8】
請求項7記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記高温待機状態の間に、前記一時的電圧低下処理を実行する場合には、
前記一時的電圧低下処理を実行したときに、前記二次電池の空き容量が不足しないように、前記電圧低下期間の設定値、または、前記電圧低下量の設定値の少なくとも一方を変更して、前記一時的電圧低下処理を実行する、燃料電池システム。
【請求項9】
請求項7記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池のアノードとカソードとを短絡させて、前記燃料電池の電圧を低下させる短絡回路を備え、
前記制御部は、前記高温待機状態の間に、前記一時的電圧低下処理として、
(i)前記燃料電池の電圧を一時的に低下させることにより、電流を一時的に増大させるとともに、前記燃料電池が出力する電力を、前記二次電池に蓄電させる第1の電圧低下処理と、
(ii)前記短絡回路によって、前記燃料電池の電圧を一時的に低下させる第2の電圧低下処理と、
のいずれか一方を実行し、
前記制御部は、前記予測値と、前記二次電池の空き容量とに基づき、前記第1または第2の電圧低下処理のいずれか一方を選択して実行する、燃料電池システム。
【請求項10】
請求項7記載の燃料電池システムであって、さらに、
アノードガスを前記燃料電池のカソード側にバイパス可能なガス供給部を備え、
前記制御部は、前記高温待機状態の間に、前記一時的電圧低下処理として、
(i)前記燃料電池の電圧を一時的に低下させることにより、電流を一時的に増大させるとともに、前記燃料電池が出力する電力を、前記二次電池に蓄電させる第1の電圧低下処理と、
(iii)前記ガス供給部によって、前記アノードガスを前記燃料電池のカソード側にバイパスさせることによって、前記燃料電池の電圧を一時的に低下させる第3の電圧低下処理と、
のいずれか一方を実行し、
前記制御部は、前記予測値と、前記二次電池の空き容量とに基づき、前記第1または第3の電圧低下処理のいずれか一方を選択して実行する、燃料電池システム。
【請求項11】
請求項7記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池に、カソード側をプラスとし、アノード側をマイナスとする電圧を印加可能な外部電源を備え、
前記制御部は、前記高温待機状態の間に、前記一時的電圧低下処理として、
(i)前記燃料電池の電圧を一時的に低下させることにより、電流を一時的に増大させるとともに、前記燃料電池が出力する電力を、前記二次電池に蓄電させる第1の電圧低下処理と、
(iv)前記燃料電池に反応ガスの供給を停止させた状態で、前記外部電源によって、前記燃料電池に電圧を印加させて、前記燃料電池の電圧を低下させた後に、前記反応ガスの供給を再開させて、前記燃料電池の電圧を回復させる第4の電圧低下処理と、
のいずれか一方を実行し、
前記制御部は、前記予測値と、前記二次電池の空き容量とに基づき、前記第1または第4の電圧低下処理のいずれか一方を選択して実行する、燃料電池システム。
【請求項12】
電力供給源である燃料電池と、前記燃料電池とともに電力供給源として機能する二次電池とを備える燃料電池システムの制御方法であって、
(a)前記燃料電池の運転温度を検出する工程と、
(b)前記燃料電池の運転温度が所定の温度より高い高温状態を検出した後に、前記燃料電池の電圧を一時的に低下させることにより、前記燃料電池における生成水を増加させる一時的電圧低下処理を実行する工程と、
を備え、
前記工程(b)は、前記一時的電圧低下処理を実行する前に、前記二次電池の充電状態と、前記燃料電池の運転状態とに基づいて、前記一時的電圧低下処理の処理内容を変更する工程を含む、制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate


【公開番号】特開2013−101844(P2013−101844A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245119(P2011−245119)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】