説明

燃料電池用の燃料組成物およびそれを利用したガス発生装置

水または他の反応可能な液体の固体水素化ホウ素燃料との反応において、液体反応物および/または添加物がゲル形態(14)に変換される。固体金属水素化物および触媒は単一の固体部材(26)として形成される。単一の固体水素化物/触媒部材はゲル(14)中に挿入されて水素を生成する反応を開始し、ゲルから引き抜かれて反応を停止または遅延させる。そのような燃料生成処方を採用する自己調整型のガス発生装置(10、40)は自動的にその反応速度を制御してガス発生装置の内部圧力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
この発明は燃料電池用の新しい燃料組成物に向けられており、より具体的には、燃料電池において利用される水素を生成する新しい燃料組成物に向けられている。
【0002】
水素発生技術において知られている試みは、化学金属水素化物、例えば水素化ホウ素ナトリウムと、液体、例えば水またはメタノールとの間の反応速度を制御することである。反応が遅すぎるときには、燃料電池は電気を生成するのに足る十分な水素を伴わない。反応が速過ぎるときには、過剰な水素ガスが燃料サプライを加圧する。
【0003】
従来、化学金属水素化物において水素を生成する反応速度を制御するために、水性の金属水素化物および水を含有する反応室部中へ触媒を導入して反応を開始させ、または上記反応室部から触媒を取り除いて反応を中止させており、これについては特許文献1(米国特許第6,939,529号明細書)、および特許文献2(米国特許第3,459,510号明細書)、ならびに、特許文献3(米国特許公開第US2005/0158595号)に開示されている。この手法は、どれだけ多くの触媒および水性燃料を相互作用させるかを制御し、または、触媒と燃料との間の接触期間を制御することにより反応速度を調整する。
【0004】
反応速度を制御する他の方法は、均一サイズの粉末の金属水素化物を安定した速度で水の中に添加して水素の発生を制御することであり、これは特許文献4(米国特許公開第US2004/0184987号)に検討されている。他の方法は水および水性の金属水素化物溶液の投入速度を制御して反応速度を制御することである。
【0005】
しかしながら、反応速度を制御する他の方法が依然として要望されている。
【特許文献1】米国特許第6,939,529号明細書
【特許文献2】米国特許第3,459,510号明細書
【特許文献3】米国特許公開第US2005/0158595号
【特許文献4】米国特許公開第US2004/0184987号
【発明の開示】
【0006】
この発明の一側面は、燃料電池において使用される、酸化反応を通じて水素を生成することができる燃料組成物に向けられている。燃料組成物は、ゲル反応物、化学金属水素化物反応物、および触媒を含む。
【0007】
この発明の他の側面は、ゲル反応物、化学金属水素化物反応物、および触媒を含む燃料組成物とともに使用されるように適合化されたガス発生装置に向けられている。このガス発生装置は、ゲル反応物を含有する室部を有し、固体反応物はバイアス状態のプラットフォームに位置決めされ、この固体反応物はゲル反応物に対して相対的に移動可能である。ゲル反応物はプラットフォームから離間されて圧縮室部を形成する。ゲル反応物および金属水素化物反応物の間の反応により生成されたガスが圧縮室部の内部で圧力を形成する。圧力が予め定められた圧力より大きいときに固体反応物がゲル反応物から離れるように移動させられる。圧力が上記予め定められた圧力より小さいときに固体反応物がゲル反応物の方向に移動させられる
【0008】
この発明の他の側面は、酸化反応を通じて水素を生成できるガス発生装置に向けられている。ガス発生装置は、液状反応物および化学金属水素化物を含有する。ガス発生装置は、水素吸収性合金/金属を有し過剰な水素を吸収する。
【0009】
この発明の先の特徴および他の特徴ならびに利点は添付図面に図説されるこの発明の以下の説明から理解できる。添付図面は明細書の一部を形成し、この発明の原理を説明し、当業者がこの発明を利用可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
水素を生成するための金属水素化物反応物および液体反応物の間の概略的な反応は知られている。1例において、水素化ホウ素ナトリウムおよび水の間の反応は以下のとおりである。
NaBH+2HO→(触媒)→4(H)+(NaBO
【0011】
適切な触媒は、プラチナ、ルテニウムおよびルテニウム塩(RuCl)、その他の金属およびその塩を含む。ホウ酸ナトリウム(NaBO)副産物もこの反応により生成される。燃料電池において利用される水素化ホウ素ナトリウムは米国特許第3,459,510号明細書で検討されており、その内容は参照してここに組み入れる。
【0012】
添付図面に図示され以下に詳細に検討されるように、この発明は、化学金属水素化物燃料、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)と水とから水素を放出するのを制御し最大化する方法および組成物に向けられている。この発明は、また、化学金属水素化物燃料および水の反応からの水素燃料の放出を最大化させる自己調整装置に向けられている。
【0013】
化学金属水素化物燃料を用いる水素発生装置は本出願人による2003年10月6日出願の米国特許出願第10/679,756号、2005年2月25日出願の米国特許出願第11/067,167号、2005年2月25日出願の米国特許出願第11/066,573号、2005年6月13日出願の米国仮特許出願第60/689,538号、および2005年6月13日出願の米国仮特許出願第60/689,539号に開示されている。これらの内容は参照してここに組み入れる。
【0014】
ふさわしい化学金属水素化物燃料は、これに限定されないが、元素周期表のIA−IVAグループの元素の水素化物や混合物、例えば、アルカリ、アルカリ金属水素化物またはそれらの混合物を含む。他の化合物、例えば、アルカリ金属アルミニウム水素化物(アラネート)やアルカリ金属水素化ホウ素を使用してもよい。金属水素化物のより具体的な例は、これに限定されないが、リチウム水素化物、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素リチウム、ナトリウム水素化物、水素化ホウ素ナトリウム、水素化カリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化マグネシウム、水素化ホウ素マグネシウム、水素化カルシウム、そしてこれらについての塩または誘導体を含む。好ましい水素化物は、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素マグネシウム、水素化ホウ素リチウム、および水素化ホウ素カリウムであり、より好ましくは、NaBHおよび/またはMg(BHである。
【0015】
水以外の液体、例えば、メタノールや他のアルコールも化学金属水素化物と反応させるために採用できる。
【0016】
固体形態で、NaBHは典型的には粉末または顆粒の形態、または圧縮された粒状の固体形態であり、これは、水なしでは容易に加水分解されず、それゆえに、無水水素化ホウ素の使用により燃料サプライまたはガス発生装置の保管寿命が改善される。しかしながら、水性NaBHのような水素担持燃料の水性形態は、安定化剤が存在しないならば、容易に加水分解する。例示的な安定化剤は、これに限定されないが、金属および金属水素化物、例えばアルカリ金属水素化物、具体的には、KOHおよび/またはNaOHであってよい。このような安定化剤は米国特許第6,683,025号明細書で説明されており、その内容は参照してここに取り入れる。
【0017】
固体形態の水素担持燃料は、一般的に、液体形態より好ましい。一般的に、固体燃料は、液体燃料よりも有利であると考えられる。なぜなら、水性燃料は固体燃料より比例してエネルギが少なく、そして液体燃料は固体燃料よりも典型的には不安定であるからである。
【0018】
固体形態のNaBH(ペレット、顆粒、粉末、塊状、その他)に関連する問題の1つは、水による水素化ホウ素の酸化の間、メタホウ酸(BO)副産物が固体の表面に表れることがあるという点である。酸化反応が続くと、メタホウ酸または他の形態のホウ酸が水素化ホウ素の固体の表面にスキンまたは殻を形成する傾向があり、これが水素化ホウ素−水の酸化反応を邪魔することがある。さらに、メタホウ酸および他の形態のホウ酸イオンが水の分子を各々吸収して、そのいくつかと反応して他のキレート結合し、これにより金属水素化物の酸化反応に、理想的な化学量論上の反応より多くの水を必要となることがある。また、水が、ホウ酸スキンを通過し、ホウ酸酸化副産物によりキレートされることなく、また反応することなく、下側の水素化ホウ素に到達しなければならないと考えられる。メタホウ酸および他のホウ酸イオンが水素化ホウ素と較べて水と反応しにくいとしても、ホウ酸スキンはホウ酸−水の反応/キレートの反応を速度制約的にする。
【0019】
さらに、NaBHおよび水の間の反応は、一旦開始すると、制御が困難なことが多く、例えば、水素の発生が不均一になり、新鮮な反応物が結合されるときに水素発生が急上昇することがある。新鮮は反応物が反応した後にガスがあまりに急激に生成されると、ガスが燃料サプライまたは水素発生器を過圧縮して燃料サプライを損傷することがある。さらに、高圧力が燃料電池に伝達されると、その高圧力が燃料電池をも損傷することがある。
【0020】
この発明によれば、水または他の反応可能な液体の固体ホウ素水素化物の反応を以下のように修正できる。すなわち、液体反応物および/または添加物をゲル形態に変換し、固体金属水素化物および触媒を単一の固体部材となし、単一の金属水素化物/触媒部材をゲルに投入して水素を発生させる反応を開始させ、そして、固体金属水素化物/触媒をゲルから引き上げて反応を停止または遅延させる。この発明の他の側面は、自動的に反応速度を制御してガス発生装置の内部圧力を制御する自動調整ガス発生装置に関する。
【0021】
1実施例において、液体反応物はゲルへと変形され、反応に要するまで、液体分子が可逆的にマトリックスに包囲される。このようにして液体成分が自由に流れて勝手に反応しない。非水溶性であるが、水膨潤性の、液体を吸収可能なポリマーがこの発明で使用される。非水溶性、水膨潤性の材料が水に加えられるとき、非水溶性、水膨潤性化合物と水とが十分強く結合して水を保持するが、その結合は、他の反応、すなわち、水およびNaBHの間の反応が水を必要とするときに水を引き渡すのに十分なほど弱い。好ましい非水溶性、水膨潤性材料は、幼児用おむつ製品に広く使用されているナトリウムポリアクリレートや、ポリアクリルアミド、その他を含む。適切な非水溶性、水膨潤性材料は米国特許第6,998,367B2号明細書に説明されており、これはすでに参照した。これらの文献に検討されている非水溶性、水膨潤性ポリマーは参照してここに組み入れる。
【0022】
1実施例において、ナトリウムポリアクリレートおよびビス−アクリルアミドのコポリマーが用いられ、ここで、2つのナトリウムポリアクリレート鎖がビス−アクリルアミドにより結合されて貨車のレールに似たものとなる。このポリマーは水素結合により水分子を吸収できる多くのサイトを含む。なんらかの特定の理論に拘泥するものではないが、本発明者は、触媒、例えばルテニウム塩の存在下では、水素結合は、NaBHが結合した水と反応する傾向より弱く、水素結合が水分子を離してNaBHと反応すると考えている。さらに、活性剤、すなわち、反応の触媒を準備させる材料も含んでよい。選択された粒状の触媒とともに使用するものとして当業界で知られている任意の活性剤をこの発明において使用してよい。
【0023】
他の適切な非水溶性、水膨潤性のポリマーは米国特許第6,998,377B2号明細書に開示されており、その内容は参照してここに組み入れる。この発明の吸収性ポリマーは少なくとも1つのヒドロゲル形成吸収性ポリマー(ヒドロゲル形成ポリマーとも呼ばれる)を含む。適切なヒドロゲル形成ポリマーは液体を吸収可能な種々の非水溶性、水膨潤性ポリマーを含む。
【0024】
この発明に使用できるヒドロゲル形成用の吸収性ポリマーの寸法、形状および/または形態は幅色広い範囲で変更できる。これらポリマーは、最小寸法に対する最大寸法の比が大きくなく(例えば、顆粒、粉体、粒子間凝集、粒子間架橋凝集、その他)、ファイバー、シート、フィルム、発泡体、フレーク、その他の形態であってよい。ヒドロゲル形成用の吸収性ポリマーは1または複数の添加物、例えば、粉末状のシリカ、ゼオライト、活性炭素、分子篩、界面活性剤、のり、バインダ、その他を低レベルで有する混合物を含んでもよい。混合物中の成分は、ヒドロゲル形成ポリマー成分および非ヒドロゲル形成ポリマー添加物が容易に物理的に分離できないように物理的および/または化学的に関連付けられる。ヒドロゲル形成用の吸収性ポリマーは基本的には非多孔性(すなわち内部に孔を有しない)のものでも、実質的な内部の孔を有するものでもよい。
【0025】
アクリルアミドをベースにしたゲルもこの発明に使用して好適である。とくに適切なものは、2−(アクリロイルオキシル)エチル酸ホスフェート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2,2’−ビス(アクリルアミド)酢酸、3−(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリルアミドメチルプロパンジメチルアンモニウムクロライド、アクリレート、アクリロニトリル、アクリル酸、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エチレングリコール、ジメタクリレート、エチレングリコールモノメタクリレート、メタクリルアミド、メチルアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−[2[[5−(ジメチルアミノ)1−ナフタレン]スルホニル]アミノ[エチル]−2−アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド塩酸塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、ナトリウム2−(2−カルボキシベンゼオイルオキシ)エチルメタクリレート、ナトリウムアクリレート、ナトリウムアリルアセテート、ナトリウムメタクリレート、ナトリウムスチレンスルホネート、ナトリウムビニルアセテート、トリアリルアミン、トリメチル(N−アクリロイル−3−アミノプロピル)アンモニウムクロライド、トリフェニルメタン−ロイコ誘導体、ビニル末端ポリメチルシロキサン、N−(2−エトキシエチル)アクリルアミド、N−3−(メトキシプロピル)アクリルアミド、N−3−(エトキシプロピル)アクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、およびN−(テトラヒドロフルフリル)アクリルアミドである。
【0026】
N−イソプロピルアクリルアミドをベースにしたゲルも適切である。これらは、N−イソプロピルアクリルアミド、2−(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホンアクリレート、アクリル酸、アクリルアミドアルキルメタクリレート、ビス(4−ジメチルアミノ)フェニル)(4−ビニルフェニル)メチルロイコシアニド、コンカナバリンA(concanavalin A)(レシチン)、ヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メタクリル酸、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、n−ブチルメタクリレート、ポリ(テトラフルオロエチレン)ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ナトリウムアクリレート、ナトリウムメタクリレート、ナトリウムビニルスルホネート、およびビニル末端ポリエチルシロキサンを含んでよい。
【0027】
N,N’−ジメチルアクリルアミドをベースにしたゲルも適切である。これらは、N,N’−ジエチルアクリルアミド、メチルアクリルアモドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリロキシ琥珀酸イミドエステル、N−ter−ブチルアクリルアミド、およびナトリウムメタクリレートを含んでよい。
【0028】
アクリレートをベースにしたゲルも適切である。これらは、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アクリルアミド、トリアリルアミン、アクリレート、アクリルアミド、メチルメタクリレート、ジビニルベンゼン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリ(オキシテトラメチレンジメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリレート)、およびポリエチレングリコールメタクリレートを含んでよい。
【0029】
種々のモノマーをベースにしたゲルも適切である。これらは、アクリル酸、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、コラーゲン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ポリ[4−6−デカンジエン−1,10−ジオールビス(n−ブトキシカルボニルメチルウレタン)]、ポリ[ビス(アミノエトキシ)エトキシ]ホスファゼン]、ポリ[ビス[メトキシエトキシ)ホスファゼン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンオキシド、ポリ(エチレン−ジメチルシロキサン−エチレンオキシド)、ポリ(N−アクリロピロリジン)、ポリ[n,n−ジメチル−N−[(メタクリロイルオキシエチル]−N−(3−スルホプロピル)アンモニウムベタイン]、ポリメタクリル酸、ポリメタクリロイルジペプチド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール−ビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、フラン−修正ポリ(n−アセチルエチレンイミン)、およびマレインイミド−修正ポリ(n−アセチルエチレンイミン)を含んでよい。
【0030】
米国特許明細書第4,555,344号明細書、および同第4,828,710号明細書、ならびに欧州特許出願第EP648,521A2号に開示されているゲルも適切であり、これらは参照してここに組み入れる。
【0031】
触媒は単一の固体の塊中でNaBHと組み合わされることが好ましい。なぜならば、いつつかの触媒、例えばルテニウム塩はゲルの形成に影響を与えるかもしないからである。固体の塊がゲルト接触するようになると、触媒(複数でもよい)またはNaBHあるいは双方の存在が原因で、水が水素結合から開放され、NaBHと反応して水素およびナトリウムホウ酸塩、NaBOを生成する。他の要素、例えば環境要素もゲル形成および/または物質が崩壊せずにゲル形態に止まる能力に影響を与える。これらの要素は温度、圧力、およびpHを含む。
【0032】
37グラムの蒸留水を、おむつ製品から取得した1グラムのナトリウムポリアクリレートに加えて水ゲルを形成した。この水ゲルは透過性の外見を有する。90%のNaBHおよび10%のRuClの固体ペレット(重量%)を形成して固体燃料を作成した。これは黒色である。ゲルの量および固体ペレットの量を選択して水反応物およびNaBH反応物のモル比が約6:1になるようにした。固体ペレットをゲルに挿入すると安定した水素の生成が観測された。
【0033】
固体ペレットのほとんどすべて、またはすべてが反応して水素を生成し、その際、固体燃料/触媒が、反応の間、ゲルに接触して残っているかどうか、また、燃料/触媒の固体がゲルに断続的に接触するかどうか、すなわち、燃料/触媒の固体が循環的にゲルに接触し、かつ離脱するかどうかに関係なく、表皮または殻の形成の兆候が容易に識別されない。さらに、固体ペレットの一部はRuClのために黒色であり、これが透過性の水ゲルを通じて分散するのが観測された。
【0034】
先に説明したように、慣用的な反応では、NaBOの副産物が固体燃料の塊の表面に表皮または殻を形成してNaBOの表皮により包囲されたいくらかの固体燃料が反応を阻止されることがある。いずれの特定の理論に拘泥しないが、この発明では、生成された水素がゲル反応物および固体燃料反応物の間のインターフェースを透過し、この透過作用により表皮または殻の生成が阻止され得る。さらに、NaBOも結合またはキレート作用のために水に引きつけられるので、ここでもいずれの特定の理論に拘泥しないが、NaBOの副産物の水への引力も、水と非水溶性、水膨潤性の化合物、すなわちナトリウムポリアクリレートとの間の水素結合より大きい。このため、表皮または殻の形成に代わって、NaBOの副産物が反応対象のゲルから離れて水を求め、このため、NaBOの副産物が表皮および殻を形成する蓋然性が小さい。反応の間、いつらかの黒色固体燃料が透過性ゲル中へしみ入ることが観測されたことは、これを裏付ける。
【0035】
この発明の他の側面において、水がゲル状態から離れる率は、水がNaBHおよびNaBOと反応する率と平衡しており、これら反応に供給されるのに十分で、必要なだけの量の水が利用可能である。水がゲル状態から離れる率は、ゲルに対して利用可能な触媒および/またはNaBHの量、触媒および/またはNaBHがゲルから水を抜き出す能力、ゲル生成化合物の選択、および触媒の選択、その他により決定され得る。
【0036】
この発明の他の側面によれば、ガス発生装置10が提供されて、上述のとおりゲル反応物およびNaBH/触媒の塊から水素を生成する。ゲル中の水を可逆的に固定または包囲することの利点は、水が液体状態でないので、このゲルを使用するカートリッジ、燃料サプライ、または水素発生装置が反転位置で、または任意の配向で動作可能であるという点である。
【0037】
図1に示すように、ガス発生装置10は、ゲル室部12を有し、このゲル室部12が上述し、参照番号14で示す水ゲル組成物を含有する。ゲル14は、一側で、スクリーン16およびオプションのフィルタ18により封入され、他側で、スクリーン20により封入される。スクリーン20は、どのようなタイプのスクリーン、フィルタ、または当業界で知られている気体透過性液体非透過性材料であってよく、壁部22によって保持されている。これは図1Aにより詳細に示される。壁部22はバルブ24を保持し、このバルブ24はこの実施例では好ましくはカモノハシバルブである。カモノハシ24は固体燃料26を収容する寸法および形状を有し、この固体燃料26は上述のとおり好ましくは金属水素化物燃料、例えば水素化ホウ素ナトリウム、および触媒、例えばルテニウム塩を有する。固体燃料26は可動シールピストン28に結合され、このピストン28がバネ30によりゲル燃料14の方向にバイアスされる。
【0038】
固体燃料26がゲル燃料14に接触するようになると、水素ガスが生成されてスクリーン16およびオプションのフィルタ16を介してバルブ32へと浸透する。バルブ32が開成せれていると、ガスが発生装置10の外に搬送されて燃料電池(図示しない)に至り、電気に変換される。生成ガスの一部は反対側のスクリーン20を通じて浸透して、生成ガスにより生じた圧力が室部34に伝わる。ピストン28はシール部材36によりシールされるので、室部34内の圧力は、ピストン28の他側に配された室部37内の圧力から隔離され、このため、室部34内の圧力はピストン28に作用しバネ30からの力により対抗される。スクリーン20はゲル室部12内の圧力を室部34と等しくする。ゲル室部12において反応が起こり、ゲル室部12内の圧力が予め定められた閾値より大きくなると、圧力がピストン28に作用してピストン28をバネ30に抗して押し、固体燃料26をゲル貯留器12から引き抜く。ゲル室部12内の圧力が閾値を下回ると、バネ30が室部34内の圧力に打ち勝ち、固体燃料26をゲル貯留器12へと挿入または再挿入する。室部34内の圧力およいバネ30のバランスに従い、固体燃料棒26はゲル貯留器12へ完全に挿入され、部分的に挿入され、またはゲル貯留器12から完全に引き抜かれる。バルブ32が閉成されると、圧力が閾値を上回り、固体燃料26が完全に引き抜かれることになる。したがって、ガス発生装置はガス発生装置10の内部圧力に応じて自動調整する。
【0039】
カモノハシ24は、図1に示す方位で組付けられる場合に、引き抜かれるときに、有利なことに、固体燃料26からいくらかのまたはほとんどのゲル燃料を取り去り、固体燃料を抜き取った後の残留反応を最小化する。代替的には、図1Bに示すようにカモノハシ24をワイパー38に置き換えてもよい。スクリーン20は排気口または他の任意の圧力連通機構に置き換えてもよい。2つのスクリーン20しか示さないけれども、任意数の圧力連通機構を採用してよい。
【0040】
ユーザが最初に使用する前に、室部34が不活性ガスにより加圧されて固体燃料をゲル燃料14から分離するようにしてよく、あるいは、ユーザがタブまたは類似の手段によりピストン28を開放するまで、固体燃料26をゲル燃料14から離すような位置にピストン28を保持してよい。バルブ32が開成されて生成ガスを開放すると、使用したガスの体積に応じて、ガス発生装置10がその内部圧力を自己調整して予め定められたレベルにし、この点は先に説明した。ガスの使用料が小さく内部圧力が高いときには、ガス発生装置10は反応を遅らせ、または停止させ、あるいは、ガスの使用料が大きく内部圧力が低いときには、目一杯に反応を許容する。この予め定められた圧力レベルはバネ30のバネ定数を選択することにより設定できる。当業者に容易に理解されるように、バネ30は螺旋バネに限定されず、他の機構的なバネ、例えば、ねじりバネ、加圧ガス、ブタンまたはプロパンのような液化炭化水素を含んでよい。さらにバネ30により実現される復帰力はそれに代えてガスの生成自体により実現されてよく、この点は米国特許公開第US2005/0266281A1号に詳細に説明され、その内容は参照してここに組み入れる。
【0041】
この発明の水ゲル組成物14とともに使用するのに適した他のガス発生装置40が図2に示される。ガス発生装置40と図1〜図1Bのガス発生装置10との1つの相違は、発生ガスが圧力室部34から生成され、または燃料電池へと搬送され、その圧力が固体燃料26に作用して固体燃料を水ゲル14に接触させるようになし、あるいは、水ゲル14から固体燃料を引き離すようになす点である。また、固体燃料26は水ゲル14と接触するようになる1または複数の突起を有してよい。図1および図1Bに示す固体燃料も水ゲル14に接触するようになる複数の点を有してよい。
【0042】
ガス発生装置10と同様に、固体燃料26はバネ30によりバイアスされ、圧力室部34は、ピストン28およびシール部材36によって当該ピストン28の後方の室部37からシールされ、室部34の圧力がバネ30とバランスするようになっている。圧力室部34内の圧力が予め定められたレベルを超えると、固体燃料26がバネ30に抗して押されて固体燃料を水ゲル14から引き離してガスの生成を減少または停止させて室部34内にさらに圧力が形成されるのを最小化または停止させる。バルブ32が開成されると、生成ガスが室部34から燃料電池へと搬送され、室部34の圧力が低下し、これにより、バネが固体燃料26を押して水ゲル14に接触させて、さらなるガスを生成させる。生成ガスの需要が変化するとき、室部34内の圧力も変化し、この圧力とバネ30からの力との間の相互作用により固体燃料26および水ゲル14の間の接触量が制御されガスの生成をガスの需要に合致させる。バルブ32が閉成されると、室部34の圧力が増大して予め定められた閾値量を超え固体燃料を水ゲル14から離す。
【0043】
ガス発生装置40において、水ゲル14はスクリーン42に含まれ、このスクリーン42は固体燃料26の突起が出入りできる寸法および形状を有する。ゲルは粘りけがあり、表面張力が大きいので、スクリーン42はゲル室部12内に水ゲル14を包含できる。
【0044】
代替的な実施例において、メタノールゲルを水ゲルに代えて採用してよい。メタノールゲルは周知であり食料仕出し業界で食料を温める可燃燃料として広く採用されてきた。
【0045】
圧力室部34には逃がしバルブ35を設け過剰に生成されたガスをガス発生装置10、40から開放してもよい。代替的には、水素貯蔵要素44を、ガス発生装置10、40の室部34内および/または他の位置、例えばフィルタ18内またはガス発生装置10のバルブ32の近傍に配置して過剰な水素を吸収させてよい。
【0046】
水素貯蔵要素44は、これに限定されないが、粉末金属または粉末金属合金を含み、これは水素吸収金属/合金として知られている。これら金属または金属合金は高圧下で水素を吸収して金属水素化物、例えば米国特許第4,600,525号、および同第4,036,944号明細書に開示されているものを生成し、その内容は参照してここに組み入れる。水素吸収性金属44は固体金属水素化物燃料14(例えば水素化ホウ素ナトリウム)とは、水またはメタノールと反応して水素を生成しないという点で異なる。
【0047】
水素吸収性金属44は高圧下で発熱反応のもと水素を吸収して金属水素化物を形成し、また低圧力下で吸熱反応のもと水素を開放する。このため、水素吸収性金属/合金は、例えば製造または充電設備で水素を吸収し、例えば燃料電池へ電気変換のために水素を排出するという循環を経る。水素吸収性金属の例は、典型的には粉末形態であり、ランタンペンタニッケル(LaNi。lanthanum pentanickle)を含む。いくつかの適切な水素吸収性金属/合金はSolid−H(商標)金属水素化物としてHydrogen Component,Inc.から入手できる。Solid−H(商標)金属水素化物はいくつかのグレードで入手できる。すべてのグレードの製品は室温またはこれに近い温度、1−10気圧、2−3気圧、および8−12気圧の圧力(1気圧は14.7psi)で水素を吸収する。2−3気圧すなわち30−45psiで水素を吸収できる合金のグレードが好ましい。なぜならば、これは、発生装置10、40において水素の吸収が好ましい圧力の範囲であるからである。
【0048】
吸収された水素は吸収されたままで良く、また低い圧力で熱を加えて開放されてもよい。例えば、熱を、水素化ホウ素ナトリウムの水との反応における発熱反応により供給してよい。
【0049】
他の水素吸収材料はNaAlH(ナトリウムアラネート)、PdH0.6、LaNi、ZrV5.5、FeTiH、MgNiH、およびTiV、またはそのブレンドを含む。他の水素吸収性合金は、ウェブサイトhttp://hydpark.ca.sandia.govに見いだすことができ、これは、Sandia National LaboratoriesによりInternational Energy Agency(IEA) Hydrogen Agreement Task 12の一部として管理されており、Sandrock,G.およびThomas,G.により「The IEA/DOE/SNL On−line Hydride Databases」、Appl. Phys.A72、153−55(2001)に検討されている。
【0050】
この発明の種々の実施例を先に説明したが、これらは説明および事例の目的でのみ提示されていることに留意されたい。当業者にはこの発明の趣旨および範囲を逸脱することなしに形態または詳細において種々に変更がなし得ることは明らかである。したがって、この発明の範囲は、上述の事例的な実施例に制約を受けず、添付の特許請求の範囲およびその均等物に従ってのみ規定される。さらに、上述の実施例の各々の特徴、および参照した文献の各々の特徴は、他のいずれの実施例の特徴と組み合わせて採用できることに留意されたい。上述したすべての特許、特許出願公報は参照してここに組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明に従う水素ガス発生装置の断面図である。
【図1A】図1の水素ガス発生装置内で使用される支持壁の正面図である。
【図1B】図1の水素ガス発生装置の変形例の断面図である。
【図2】この発明に従う他の水素ガス発生装置の断面図である。
【図2A】図2の水素ガス発生装置内で使用されるスクリーンの斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
10 ガス発生装置
12 ゲル室部
14 ゲル燃料
16 スクリーン
18 フィルタ
20 スクリーン
22 壁部
24 バルブ
26 固体燃料
28 ピストン
30 バネ
32 バルブ
34 圧力室部
35 逃がしバルブ
36 シール部材
37 室部
38 ワイパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用に化学反応を通じて水素を生成できる燃料組成物であって、ゲル反応物、化学金属水素化物反応物、および触媒を有する燃料組成物。
【請求項2】
上記ゲル反応物は、水、および非水溶性、水膨潤性ポリマーを有する請求項1記載の燃料組成物。
【請求項3】
上記水の分子が上記非水溶性、水膨潤性ポリマーに水素結合によって結合される請求項2記載の燃料組成物。
【請求項4】
上記非水溶性、水膨潤性ポリマーはナトリウムポリアクリレートを有する請求項2記載の燃料組成物。
【請求項5】
上記非水溶性、水膨潤性ポリマーはポリアクリルアミドを有する請求項2記載の燃料組成物。
【請求項6】
上記化学金属水素化物反応物は水素化ホウ素ナトリウムを有する請求項1記載の燃料組成物。
【請求項7】
上記触媒はルテニウム塩を有する液体請求項1記載の燃料組成物。
【請求項8】
上記触媒は上記化学金属水素化物に混合または配合されて固体反応物を形成する請求項1記載の組成物。
【請求項9】
請求項8の燃料組成物とともに使用されるように適合化されたガス発生装置において、
上記ガス発生装置は、上記ゲル反応物を含有する室部を有し、上記固体反応物はバイアス状態のプラットフォームに位置決めされ、上記固体反応物は上記ゲル反応物に対して相対的に移動可能であり、上記ゲル反応物は上記プラットフォームから離間されて圧縮室部を形成し、上記ゲル反応物および上記金属水素化物反応物の間の反応により生成されたガスが上記圧縮室部の内部で圧力を形成し、上記圧力が予め定められた圧力より大きいときに上記固体反応物が上記ゲル反応物から離れるように移動させられ、かつ上記圧力が上記予め定められた圧力より小さいときに上記固体反応物が上記ゲル反応物の方向に移動させられるガス発生装置。
【請求項10】
上記生成されたガスが上記圧縮室部から燃料電池に搬送される請求項9記載のガス発生装置。
【請求項11】
上記生成されたガスが、上記圧縮室部から離間した位置にある上記ガス発生装置から燃料電池に搬送される請求項9記載のガス発生装置。
【請求項12】
水素吸収性合金または金属をさらに有して過剰な水素を吸収する請求項9記載のガス発生装置。
【請求項13】
酸化反応を通じて水素を発生させることができるガス発生装置であって、液状反応物および化学金属水素化物を含有し、上記ガス発生装置は水素吸収性合金または金属を有し過剰な水素を吸収するガス発生装置。

【図1】
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【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図2A】
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【公表番号】特表2009−530772(P2009−530772A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500450(P2009−500450)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/006384
【国際公開番号】WO2007/109036
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(501436665)ソシエテ ビック (73)
【氏名又は名称原語表記】SOCIETE BIC
【Fターム(参考)】