説明

燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池スタック

【課題】Ti基材へのAu層の密着性に優れ、燃料電池作動環境下でも耐食性や耐久性が高く、導電性も確保した燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池スタックを提供する。
【解決手段】Ti基材の表面にAu層が形成されてなる燃料電池用セパレータ材料であって、90℃で硫酸濃度0.5g/Lの水溶液に1週間浸漬後、Ti基材からAu層を貫通する酸化チタンが、断面長さ1μm当り5個未満である燃料電池用セパレータ材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ti圧延板等のTi基材の表面にAu又はAu合金(Auを含む層)が形成された燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型の燃料電池用セパレータとして、従来はカーボン板にガス流通路を形成したものが使用されていたが、材料コストや加工コストが大きいという問題がある。一方、カーボン板の代わりに金属板を用いる場合、高温で酸化性の雰囲気に曝されるために腐食や溶出が問題となる。このようなことから、Ti板表面にAu,Ru、Rh、Pd、Os、Ir及びPt等から選ばれる貴金属とAuとの合金をスパッタ成膜して導電部分を形成する技術が知られている(特許文献1)。さらに、特許文献1には、Ti表面に上記貴金属の酸化物を成膜することが記載されている。
一方、Ti圧延板の酸化被膜の上にAu膜を形成する燃料電池用セパレータが知られている(特許文献2)。
【0003】
又、固体高分子型燃料電池において、アノードに供給する燃料ガスとして、取扱いが容易なメタノールを使用するダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC(direct methanol fuel cell))も開発されている。DMFCは、メタノールから直接エネルギー(電気)を取り出すことができるため、改質器などが不要で燃料電池の小型化に対応でき、携帯機器の電源としても有望視されている。
DMFCの構造としては、以下の2つが提案されている。まず第1の構造は、単セル(固体高分子型電解質膜を燃料極と酸素極で挟み込んだ膜電極接合体(以下、MEAという)を積層した積層型(アクティブ型)構造である。第2の構造は、単セルを平面方向に複数個配置した平面型(パッシブ型)構造である。これらの構造は、いずれも単セルを複数個直列に繋いだもの(以下、スタックという)であるが、このうち、パッシブ型構造は、燃料ガス(燃料液体)や空気などをセル内に供給するための能動的な燃料移送手段を必要としないため、更なる燃料電池の小型化が有望視されている。
【0004】
ところで、燃料電池用セパレータは、電気伝導性を有し、各単セルを電気的に接続し、各単セルで発生したエネルギー(電気)を集電すると共に、各単セルへ供給する燃料ガス(燃料液体)や空気(酸素)の流路が形成されている。このセパレータは、インターコネクタ、バイポーラプレート、集電体とも称される。
そして、DMFC用集電体に要求される条件は、水素ガスを用いる固体高分子型燃料電池用セパレータと比較すると多い。すなわち、通常の固体高分子型燃料電池用セパレータに要求される硫酸水溶液への耐食性に加え、燃料であるメタノール水溶液への耐食性、及び蟻酸水溶液への耐食性が必要である。蟻酸は、アノード触媒上でメタノールから水素イオンが生成する際に発生する副生成物である。
このようにDMFC作動環境下では、従来の固体高分子型燃料電池用セパレータに用いる材料をそのまま適用できるとは限らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−297777号公報
【特許文献2】特開2004−185998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したようにチタン基材にAuを成膜したセパレータ材料が既に報告されているが、チタン基材にAuを成膜する際には、密着性の観点でチタン基材表面の酸化層が薄いほうがよい。又、コストの点からAuを含む層は数10nm以下程度に薄い方が望ましい。
しかしながら、Auを含む層の厚みが数10nmレベルに薄くなると被膜欠陥(ピンホール等)が生じやすくなり、耐食性が低下するという問題がある。又、このような微細な皮膜欠陥はTEMレベルの分析を用いても観察するのは難しい。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、Ti基材へのAu層の密着性に優れ、燃料電池作動環境下でも耐食性や耐久性が高く、導電性も確保した燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池スタックの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池用セパレータ材料は、Ti基材の表面にAu層が形成されてなり、90℃で硫酸濃度0.5g/Lの水溶液に1週間浸漬後、前記Ti基材から前記Au層又は前記Au合金層を貫通する酸化チタンが、断面長さ1μm当り5個未満である。
【0009】
前記Ti基材と、前記Au層との間に、Oが20質量%以上50質量%以下含まれる酸化層が5nm以下の厚みで形成され、又は前記酸化層が形成されていないことが好ましい。
前記Au層において,Au50質量%以上の領域の厚みが1〜20nmであることが好ましい。
【0010】
本発明の燃料電池用セパレータ材料は、固体高分子形燃料電池又はダイレクトメタノール型固体高分子形燃料電池に好適に用いられる。
本発明の燃料電池スタックは、前記燃料電池用セパレータ材料を用いたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Ti基材へのAu層の密着性に優れ、燃料電池作動環境下でも耐食性や耐久性が高く、導電性も確保した燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池スタックが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態にかかるセパレータの構造を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る平面型燃料電池スタックの断面図である。
【図3】耐食性試験後の、燃料電池用セパレータ材料の断面のBF−STEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る燃料電池用セパレータ材料について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%(質量%)を示すものとする。
又、本発明において「燃料電池用セパレータ」とは、電気伝導性を有し、各単セルを電気的に接続し、各単セルで発生したエネルギー(電気)を集電すると共に、各単セルへ供給する燃料ガス(燃料液体)や空気(酸素)の流路が形成されたものをいう。セパレータは、インターコネクタ、バイポーラプレート、集電体とも称される。
従って、燃料電池用セパレータとして、板状の基材表面に凹凸状の流路を設けたセパレータの他、上記したパッシブ型DMFC用セパレータのように板状の基材表面にガスやメタノールの流路孔が開口したセパレータを含む。
【0014】
本発明の燃料電池用セパレータ材料は、Ti基材の表面にAu層が形成されてなる。
<Ti基材>
燃料電池用セパレータ材料には耐食性と導電性が要求され、基材には耐食性が求められる。このため基材として耐食性が良好なチタンを用い、好ましくはチタンの圧延板を用いる。
Ti基材の材質はチタンであれば特に制限されない。又、Ti基材は無垢のチタン材であってもよいが、Tiと異なる基材表面に厚み10nm以上のTi被膜を形成した複合材料も含む。Tiと異なる基材としてはステンレス鋼やアルミニウムが挙げられ、これらの表面にTiを被覆することにより、チタンと比べて耐食性の低いステンレス鋼やアルミニウムの耐食性を向上させることができる。但し、耐食性向上効果はTiを10nm以上被覆しないと得られない。
Ti基材の形状も特に制限されないが、セパレータ形状にプレス成形することを考えると、厚みが10μm以上の板材であることが好ましい。
【0015】
本発明においては、燃料電池用セパレータ材料の最表面にAu層が形成されていれば、Ti基材とAu層との間に各種の層が介在していてもよい。
具体的には、チタン基材上に直接Au層が形成されていてもよく、又、Au層の密着性を確保するため、基材とAu層との間に,後述する中間層が介装されていてもよいが、特には、チタン基材上に直接Au層が形成される場合に本発明を適用するのが有効である。なお、チタン基材上に直接Au層が形成される場合には、チタン基材表面の酸化層(以下、原始酸化層)が薄い状態である必要がある。具体的には原始酸化層が6nm未満、より好ましく4μm未満である。原始酸化層が6nm以上の場合、チタン基材上に直接Au層を均一に形成することが困難となる傾向にあるからである。原始酸化層を薄くする又は除去する方法は特には限定されないが、フッ酸による酸洗が一般的である。
【0016】
<Au層>
Au層は、Ti基材表面に形成されて高い導電性を確保するものである。導電性を確保する点から、Au層において、Au50質量%以上の領域の厚みが1〜20nmであることが好ましい。ここで、本発明においては、Au層の厚みが薄いため、「Au層」といっても最表面から下地のTi圧延板までの深さが完全にAu100%であることはない。そのため、上記したように、Au層においても「Au50質量%以上の領域の厚み」を規定する必要がある。
Au層において、Au50質量%以上の領域の厚みが1nm未満であると、得られたセパレータ材料の導電性や耐食性が劣り、20nmを超えるとコストアップになる場合がある。Au層の厚みは、より好ましくは2nm以上、さらには好ましくは4nm以上である。Au層の厚みは、XPS分析の際、SiO換算での走査距離の実寸である。
【0017】
なお、Au層において、Au50質量%以上の領域の厚みを20nm以下としても、被膜欠陥(ピンホール)を少なくする方法としては、Ti基材表面にAuをスパッタする条件を適切に設定することが挙げられる。
スパッタ時のアルゴン圧力やスパッタ出力が高いと、スパッタ粒子とアルゴン分子の衝突が多くなるために均一な皮膜構造が得られ難く、被膜欠陥(ピンホール)が生じやすい。従って、アルゴン圧力やスパッタ出力を適正な範囲にすることで欠陥の少ないAu層を成膜することができる。例えば、アルゴン圧力0.2〜0.5Pa、スパッタ出力50〜75Wとすることが望ましい。
【0018】
Au層の濃度と厚みは、XPS分析の深さ(Depth)プロファイルによりAu, Ti,O,Cの濃度分析をすることにより算出することができる。
【0019】
<耐食性試験>
以上のようにして得られた燃料電池用セパレータ材料を、90℃で硫酸濃度0.5g/Lの水溶液に1週間浸漬後、厚み方向の断面試料を作製し、この断面を観察したとき、Ti基材からAu層を貫通する酸化チタンが、断面長さ1μm当り5個未満である。Au層を貫通する酸化チタンは、Au層又はAu合金層の被膜欠陥の存在を示すと考えられ、被膜欠陥から上記水溶液が浸透し、Ti基材表面の酸化膜を成長させ、上記した被膜欠陥を突き破って表出する。
そして、Au層を貫通する酸化チタンの個数と、燃料電池用セパレータ材料の不良(接触抵抗の増加)には相関があることが判明している。Au層を貫通する酸化チタンが5個を超える場合には、燃料電池用セパレータ材料の接触抵抗が増加し、燃料電池用セパレータ材料を電池に組んだ際、連続発電試験後の出力電圧が低下する傾向がある。
Au層の被膜欠陥は、TEM(透過型電子顕微鏡)レベルの分析機器でも判別できないが、上記水溶液中の加速試験を利用することにより簡単に判別することができる。Au層を貫通する酸化チタンが断面長さ1μm当り5個未満であれば、発電特性が良好となる燃料電池用セパレータ材料が短時間で判断できる。
図3は、上記水溶液中で耐食性試験後の、燃料電池用セパレータ材料(実施例2)の断面のBF−STEM像を示す。又この断面をEDXでマッピングして判明した組成を、図3上に記載している。酸化チタンがAu層を貫通することがわかる。
<酸化層>
Au層の密着性を確保するためには、Ti基材表面に形成される酸化層(原始酸化層)が薄いほうが望ましい。Oが20質量%以上50質量%以下含まれる領域を酸化層としたとき、酸化層が5nm以下の厚みで形成され、又は前記酸化層が形成されていないことが好ましい。
Oを20質量%以上含まれる領域を酸化層とした理由は、酸化層のO(酸素)濃度が20質量%未満であると、燃料電池の連続発電試験を行った場合にチタン基材が脆化して燃料電池用セパレータ材料としての耐久性が劣化するためである。
一方、酸化層中のO(酸素)濃度が50質量%以上になると、Ti基材上にAu層が均一に成膜されているように見えても、密着性が劣り、実際に燃料電池として動作中にAu層が剥がれることがある。
又、酸化層の厚みが5nmを超えると、得られた燃料電池用セパレータ材料の接触抵抗が増大し、導電性が低下する。
酸化層のOの濃度、及び酸化層の厚みは、XPS(X線光電子分光)分析の深さ(Depth)プロファイルにより、Au, Ti,O,Cの濃度分析することにより算出することができる。
【0020】
ここで、酸化層のOの濃度や厚みは、Ti基材に形成された原始酸化層や、Ti基材上にTi皮膜をさらに成膜することにより制御できる。
【0021】
<中間金属層>
通常、Ti基材は表面に酸化層を有しており、酸化され難いAu層をTi表面に直接形成させるのは難しい。そこでTi基材表面の酸化層を除去することにより、Au層を成膜することができる。
ただし、Ti基材表面の酸化層を除去すると、Au層が数nm程度に薄いと、この薄い皮膜に不可避的に欠陥が生じ、実際の使用時にこの欠陥の耐食性が劣り、燃料電池の性能を劣化させる可能性がある。従って、Ti基材表面の酸化層を除去した場合、Au層の厚みを厚くするか、Au層の欠陥を少なくするようなスパッタ条件を選択する必要がある。
【0022】
Au層とTi基材との間に,Al、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Sn、Bi、及びTiからなる群より選択される1種類以上の元素からなる第1成分を含む中間金属層が介在しても良く、これら中間金属層が存在すると、Au層の密着性を向上させることができる。第1成分として選択される上記金属は、a)酸素と結合しやすい、b)Auと合金を形成する、c)水素を吸収し難い、という性質を有しており、中間金属層を形成してAu層とTi圧延板との密着性を向上させる。
上記金属は電位-pH図からAuより易酸化性であり、また水素を吸収しにくい。また第1成分は単一の元素から成っていてもよく、複数の元素から成っていてもよいが、耐食性、導電性及び耐久性の観点からCr、Moが好ましい。
但し、上記したように、Auスパッタ時のアルゴン圧力やスパッタ出力を適正な範囲にすることで被膜欠陥(ピンホール)の少ないAu層を成膜することができる。従って、このようなAu層をTi基材に直接(上記中間金属層を介在させずに)形成させることが、生産性の点からも好ましい。
【0023】
<燃料電池用セパレータ材料の製造>
燃料電池用セパレータ材料は、例えば以下のように製造することができる。まず、Ti基材表面の原始酸化層(Ti基材に最初から形成されている酸化層)が4nm程度の厚みを有するかを確認し、原始酸化層の厚みが厚ければ、Ti基材をスパッタ前にフッ酸によって酸洗処理すればよく、原始酸化層の厚みを好ましくは6nm未満、より好ましくは4nm未満とする。
次に、必要に応じ、Ti基材表面のクリーニング及び原始酸化層の調整を目的として逆スパッタ(イオンエッチング)を行う。逆スパッタは、例えばRF100W程度の出力で、アルゴン圧力0.2Pa程度としてアルゴンガスをTi基材に照射して行うことができる。
そして、Au層を形成するためのAuターゲットを用いたスパッタにより、Au層をTi基材の上に成膜する。
【0024】
<燃料電池用セパレータ>
次に、本発明の燃料電池用セパレータ材料を用いた燃料電池用セパレータについて説明する。燃料電池用セパレータは、上記した燃料電池用セパレータ材料を所定形状に加工してなり、燃料ガス(水素)又は燃料液体(メタノール)、空気(酸素)、冷却水等を流すための反応ガス流路又は反応液体流路(溝や開口)が形成されている。
【0025】
<積層型(アクティブ型)燃料電池用セパレータ>
図6は、積層型(アクティブ型)燃料電池の単セルの断面図を示す。なお、図6では後述するセパレータ10の外側にそれぞれ集電板140A,140Bが配置されているが、通常、この単セルを積層してスタックを構成した場合、スタックの両端にのみ一対の集電板が配置される。
そして、セパレータ10は電気伝導性を有し、後述するMEAに接して集電作用を有し、各単セルを電気的に接続する機能を有する。又、後述するように、セパレータ10には燃料ガスや空気(酸素)の流路となる溝が形成されている。
【0026】
図6において、固体高分子電解質膜20の両側にそれぞれアノード電極40とカソード電極60とが積層されて膜電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)80が構成されている。又、アノード電極40とカソード電極60の表面には、それぞれアノード側ガス拡散膜90A、カソード側ガス拡散膜90Bがそれぞれ積層されている。本発明において膜電極接合体という場合、ガス拡散膜90A、90Bを含んだ積層体としてもよい。又、例えばアノード電極40やカソード電極60の表面にガス拡散層が形成されている等の場合は、固体高分子電解質膜20、アノード電極40、カソード電極60の積層体を膜電極接合体と称してもよい。
【0027】
MEA80の両側には、ガス拡散膜90A、90Bにそれぞれ対向するようにセパレータ10が配置され、セパレータ10がMEA80を挟持している。MEA80側のセパレータ10表面には流路10Lが形成され、後述するガスケット12、流路10L、及びガス拡散膜90A(又は90B)で囲まれた内部空間20内をガスが出入可能になっている。
そして、アノード電極40側の内部空間20には燃料ガス(水素等)が流れ、カソード電極60側の内部空間20に酸化性ガス(酸素、空気等)が流れることにより、電気化学反応が生じるようになっている。
【0028】
アノード電極40とガス拡散膜90Aの周縁の外側は、これらの積層厚みとほぼ同じ厚みの枠状のシール部材31で囲まれている。又、シール部材31とセパレータ10の周縁との間には、セパレータに接して略枠状のガスケット12が介装され、ガスケット12が流路10Lを囲むようになっている。さらに、セパレータ10の外面(MEA80側と反対側の面)にはセパレータ10に接して集電板140A(又は140B)が積層され、集電板140A(又は140B)とセパレータ10の周縁との間に略枠状のシール部材32が介装されている。
シール部材31及びガスケット12は、燃料ガス又は酸化ガスがセル外に漏れるのを防止するシールを形成する。又、単セルを複数積層してスタックにした場合、セパレータ10の外面と集電板140A(又は140B)との間の空間21には空間20と異なるガス(空間20に酸化性ガスが流れる場合、空間21には水素が流れる)が流れる。従って、シール部材32もセル外にガスが漏れるのを防止する部材として使われる。
【0029】
そして、MEA80(及びガス拡散膜90A、90B)、セパレータ10、ガスケット12、集電板140A、140Bを含んで燃料電池セルが構成され、複数の燃料電池セルを積層して燃料電池スタックが構成される。
【0030】
図6に示す積層型(アクティブ型)燃料電池は、上記した水素を燃料として用いる燃料電池のほか、メタノールを燃料として用いるDMFCにも適用することができる。
【0031】
<平面型(パッシブ型)燃料電池用セパレータ>
図9は、平面型(パッシブ型)燃料電池の単セルの断面図を示す。なお、図6では後述するセパレータ10の外側にそれぞれ集電板140A,140Bが配置されているが、通常、この単セルを積層してスタックを構成した場合、スタックの両端にのみ一対の集電板が配置される。
なお,図9において、MEA80の構成は図6の燃料電池と同一であるので同一符号を付して説明を省略する(図9では、ガス拡散膜90A、90Bの記載を省略しているが、ガス拡散膜90A、90Bを有していてもよい)。
【0032】
図9において、セパレータ100は電気伝導性を有し、MEAに接して集電作用を有し、各単セルを電気的に接続する機能を有する。又、後述するように、セパレータ100には燃料液体や空気(酸素)の流路となる孔が形成されている。
セパレータ100は、断面がクランク形状になるよう、長尺平板状の基材の中央付近に段部100sを形成してなり、段部100sを介して上方に位置する上側片100bと、段部100sを介して下方に位置する下側片100aとを有する。段部100sはセパレータ100の長手方向に垂直な方向に延びている。
そして、複数のセパレータ100を長手方向に並べ、隣接するセパレータ100の下側片100aと上側片100bとの間に空間を形成させ、この空間にMEA80を介装する。2つのセパレータ100でMEA80が挟まれた構造体が単セル300となる。このようにして、複数のMEA80がセパレータ100を介して直列に接続されたスタックが構成される。
【0033】
図9に示す平面型(パッシブ型)燃料電池は、上記したメタノールを燃料として用いるDMFCのほか、水素を燃料として用いる燃料電池にも適用することができる。又、平面型(パッシブ型)燃料電池用セパレータの開口部の形状や個数は限定されず、開口部として上記した孔の他、スリットとしてもよく、セパレータ全体が網状であってもよい。
【0034】
<燃料電池用スタック>
本発明の燃料電池用スタックは、本発明の燃料電池用セパレータ材料を用いてなる。
燃料電池用スタックは、1対の電極で電解質を挟み込んだセルを複数個直列に接続したものであり、各セルの間に燃料電池用セパレータが介装されて燃料ガスや空気を遮断する。燃料ガス(H2)が接触する電極が燃料極(アノード)であり、空気(O2) が接触する電極が空気極(カソード)である。
燃料電池用スタックの構成例は、既に図6及び図9で説明した通りであるが、これに限定されない。
【実施例】
【0035】
<試料の作製>
Ti基材として、厚み100μmの工業用純チタン材(JIS1種)を用いた。
次に、Ti基材の表面に、スパッタ法を用いて所定の目標厚みとなるようにAuを成膜した。ターゲットには純Auを用いた。
なお、Tiのスパッタの前に、原始酸化層の厚みを調整するためのふっ酸による酸洗処理をした後、基材表面のクリーニングを目的として逆スパッタ(イオンエッチング)を出力RF100W アルゴン圧力0.2Paの条件で行った。
【0036】
目標厚みは以下のように定めた。まず、予め銅箔材にスパッタでAuを成膜し、蛍光X線膜厚計(Seiko Instruments製SEA5100、コリメータ0.1mmΦ)で実際の厚みを測定し、このスパッタ条件におけるスパッタレート(nm/min)把握した。そして、把握したスパッタレートに基づき各条件でスパッタを行った。
スパッタは、株式会社アルバック製のスパッタ装置を用い、電極間距離150mm、真空度1.0×10−5Paの条件で行った。
【0037】
<層構造の測定>
得られた試料は、XPS(X線光電子分光)分析の深さ(Depth)プロファイルによりAu, Ti,O,Cを濃度分析することにより、層構造を測定した。XPS装置としては、アルバック・ファイ株式会社製5600MCを用い、到達真空度:6.5×10−8Pa、励起源:単色化AlK、出力:300W、検出面積:800μmΦ、入射角:45度、取り出し角:45度、中和銃なしとし、以下のスパッタ条件で、測定した。
イオン種:Ar+
加速電圧:3kV
掃引領域:3mm×3mm
レート:3.7nm/min(SiO2換算)
なお、XPSによる濃度検出は、指定元素の合計100質量%として、各元素の濃度(質量%)を分析した。又、XPS分析で厚み方向に1nmの距離とはXPS分析によるチャート(図2)の横軸の距離(SiO2換算での距離)である。
【0038】
各試料について以下の評価を行った。
A.密着性
各試料の最表層のAu層に1mm間隔で碁盤の目を罫書いた後、粘着性テープをはり付け、さらに各試験片を180°曲げて元の状態に戻し、曲げ部のテープを急速にかつ強く引き剥がす剥離試験を行った。
剥離が全くない場合を○とし、一部でも剥離があると目視で認められた場合を×とした。
【0039】
B.接触抵抗
接触抵抗の測定は、試料全面に荷重を加える方法で行った。まず、40×50mmの板状の試料の片側にそれぞれカーボンペーパーを積層し、さらにその両側にそれぞれCu/Ni/Au板を積層した。Cu/Ni/Au板は厚み10mmの銅板に1.0μm厚のNi下地めっきをし、Ni層の上に0.5μmのAuめっきした材料であり、Cu/Ni/Au板のAuめっき面が試料やカーボンペーパーに接するように配置した。
さらに、Cu/Ni/Au板の外側にそれぞれテフロン(登録商標)板を配置し、各テフロン(登録商標)板の外側からロードセルで圧縮方向に10kg/cmの荷重を加えた。この状態で、2枚のCu/Ni/Au板の間に電流密度100mA/cmの定電流を流した時、Cu/Ni/Au板間の電気抵抗を4端子法で測定した。
又、接触抵抗は、以下の条件により硫酸水溶液中に試料を浸漬した耐食試験の前後でそれぞれ測定した。
硫酸水溶液(浴温90℃、濃度0.5g/L、液量350mL)、浸漬時間168時間[1週間]
【0040】
C.Au層を貫通する酸化チタンの数の測定
耐食性試験後にAu層を貫通する酸化チタンは、BF−STEMで試料を断面観察し、その部分をEDXマッピングすること(分析元素:Au,Ti,O,C)で測定した。図3は、上記した接触抵抗測定時の耐食性試験後の燃料電池用セパレータ材料(実施例2)の断面のBF−STEM像であり、この部分をEDXマッピング分析すると、図3に記載した構造になっていることが確認できた。図3によれば、酸化チタンがAu層を貫通して形成されたことがわかる。
なお測定に用いたSTEMは、日立製作所のHD−2000STEMであり、加速電圧200kV、倍率9万倍の条件で、1つのセパレータ材に対して3視野任意の場所をそれぞれライン測定した。
【0041】
D.連続発電試験
上記各セパレータ材料から所定形状のセパレータを作製し、このセパレータを所定の燃料電池(PEFC)に組込み、2000時間(電流密度:0.5A/cm、セル温度:80℃、水素ガス流量:220SCCM、水素ガスバブラー温度:80℃、空気流量:1080SCCM、空気バブラー温度:80℃)の連続発電試験を行って、電池電圧の変化を評価した。2000時間発電試験をしても電圧変化がないものを良好とした。
【0042】
燃料電池用セパレータに求められる代表的な特性は、低接触抵抗(10mΩ・cm以下)、使用環境での耐食性(耐食試験後も低接触抵抗で、有害なイオンの溶出がないこと。基材がチタンの場合の溶出量は≦0.01mg/L)、連続発電試験で電池電圧が変化しないことである。
得られた結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から明らかなように、Au層を貫通する酸化チタンの数が4個/μm未満である実施例1〜3の場合、密着性に優れ、接触抵抗が低く、又、燃料電池に組み込んだときの連続発電試験が良好な結果となった。
なお、実施例1の試料の断面をXPSで分析したところ、Auが50質量%以上含まれる領域が厚み方向に1nm以上存在した。又、Au層とTi基材との間には、Oが20質量%以上で50質量%未満の領域が5nm以下存在した。
【0045】
一方、Ti基材の酸洗処理をせず、チタン基材へ直接Auを成膜した比較例1の場合、原始酸化層が6nm以上と厚いため、Au層が均一に成膜されずに密着性が劣ったと共に、密着性以外の評価測定が行なえなかった。
【0046】
Au層を貫通する酸化チタンの数が5個/μm以上である比較例2〜4の場合、燃料電池に組み込んだときの連続発電試験で電池電圧が上昇し、実用上問題が生じた。
なお、比較例2、3の場合、Auスパッタ時のアルゴン圧力が0.5Paを超えたため、Auの被膜欠陥(ピンホール)が生じ、連続発電試験の評価が劣ったと考えられる。
又、比較例2、3の場合、Auスパッタ時のスパッタ出力が75Wを超えたため、Auの被膜欠陥(ピンホール)が生じ、連続発電試験の評価が劣ったと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti基材の表面にAu層が形成されてなる燃料電池用セパレータ材料であって、
90℃で硫酸濃度0.5g/Lの水溶液に1週間浸漬後、前記Ti基材から前記Au層又は前記Au合金層を貫通する酸化チタンが、断面長さ1μm当り5個未満である燃料電池用セパレータ材料。
【請求項2】
前記Ti基材と、前記Au層との間に、Oが20質量%以上50質量%以下含まれる酸化層が5nm以下の厚みで形成され、又は前記酸化層が形成されていない請求項1に記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項3】
前記Au層において,Au50質量%以上の領域の厚みが1〜20nmである請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項4】
固体高分子形燃料電池に用いられる請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項5】
ダイレクトメタノール型固体高分子形燃料電池に用いられる請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料を用いた燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−238565(P2010−238565A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85953(P2009−85953)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】