説明

燃料電池発電システム及び水素製造装置

【課題】燃料に常温で液体のシクロヘキサンを用い、簡単な構成で高純度の水素及びベンゼンを生成し、これらを燃料電池に供給してシクロヘキサンを再生成し、外部から燃料を供給しない閉サイクルの燃料電池発電システム、及び高純度の水素が得られる水素製造装置を提供する。
【解決手段】燃料電池発電システム10は、シクロヘキサンを保管している燃料容器11と、シクロヘキサンから水素及びベンゼンに富んだ液体を生成する水素生成手段を設ける水素分離容器14と、生成された水素及びベンゼンに富んだ液体を分離する水素分離手段と、水素がアノード極15aに供給されると共にベンゼンに富んだ液体がカソード極15bに供給される燃料電池15とを備えた閉サイクル形である。そして、水素生成手段は、対向配置する電極12a、12bを有する水素発生部15と、電極12a、12b間にパルス電圧を印加するパルスパワー電源13とにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池発電システム及び水素製造装置に係り、特にシクロヘキサンをパルスパワーで分解して得た水素を使用する閉サイクル形の燃料電池発電システム及びパルスパワーを用いた水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、よく知られているように水素が供給されるアノード極と酸素が供給されるカソード極と電解質とを備えており、水素と酸素を反応させて電気エネルギを得るものである。燃料電池自体は発電効率も良好でしかも炭酸ガス(CO)の排出がないため、地球の環境面から注目されており、次第に活用されてきている。
【0003】
燃料電池で発電させるには、多量の水素を継続的に必要とする。このため、通常燃料電池ではこの近傍に改質装置や燃料供給系統を備えており、天然ガスやメタノール等の燃料から水素を得るようにしている。しかし、改質装置や燃料供給系統の設備を備えるとなると、燃料電池全体が大型化することになる。
【0004】
それ故、燃料電池に多量の水素を、別の供給系統から供給せずに発電できるようにすることが検討されており、例えば特許文献1に記載されている如く水素を閉鎖系で繰り返し使用し得、新たに水素を供給せずに連続的に発電できる燃料電池システムが提案されている。この特許文献1の燃料電池システムは、被脱水素化合物を脱水素して脱水素化合物及び水素を生成するため、脱水素触媒を有する脱水素反応器を用い、脱水素反応器で生成した脱水素化合物及び水素を水素分離器で分離している。
【0005】
そして、分離した水素を燃料電池のアノード極に供給、また脱水素化合物を燃料電池のカソード極に供給して発電させると共に、排気熱を活用した脱水素化合物水素化反応によって、脱水素化合物及び水素から被脱水素化合物を再生成することにより、水素を閉鎖サイクルで繰り返し使用するようにしている。
【0006】
上記の燃料電池システムでは、被脱水素化合物にシクロヘキサンやイソプロパノ−ルを用いている。つまり、シクロヘキサン(C12)を脱水素してベンゼン(C)及び水素を生成、及びベンゼン水素化反応によりシクロヘキサンを再生成する場合と、イソプロパノ−ル(CO)を脱水素してアセトン(CO)及び水素を生成、及びアセトン水素化反応によりイソプロパノ−ルを再生成する場合とがある。
【0007】
また、燃料電池に使用する水素を供給するため、例えば特許文献2には水素化芳香族化合物から多量の水素を取り出す方法が提案されている。この特許文献2の水素の取り出し方法は、貯蔵タンクに収納した常温で液体であるシクロヘキサン等の水素化芳香族化合物を用いている。
【0008】
そして、脱水素触媒を充填した触媒反応装置に水素化芳香族化合物を供給し、触媒反応装置の内部を液相状態に保持しながら、脱水素触媒の存在下で外部に設けた加熱器よって加熱し、水素ガスを生成する。生成した水素ガスは、水素分離膜の如き水素分離手段を用いて、未反応の水素化芳香族化合物や脱水素生成物から分離して取り出し、燃料電池に供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−208430号公報
【特許文献2】特開2006−265065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した特許文献1の如き燃料電池発電システムでは、水素を燃料電池の閉サイクルで繰り返し使用できる利点がある。しかし、被脱水素化合物としてシクロヘキサン等を用い、これを脱水素反応器中の脱水素触媒で反応させて水素を発生させるものであるから、高純度の水素の製造及び分離する設備が高価となる。しかも、触媒反応を良好にするため所定温度に加温せねばならず、燃料電池発電システム全体を経済的に製作できなくなるという問題があった。
【0011】
また、特許文献2に記載の如き水素を取り出し方法により、燃料電池に使用する水素を製造して取り出す方法の場合も触媒反応装置を用いている。そして、脱水素触媒が存在する触媒反応装置の内部を液相状態に保持すると共に、外部に設けた加熱器よって脱水素触媒を加熱し、シクロヘキサン等の水素化芳香族化合物から水素ガスを生成するものであるから、同様に設備全体の構造を簡単に構成できず、経済的に製作できないという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、燃料に常温で液体のシクロヘキサンを用い、簡単な構成で高純度の水素及びベンゼンを生成し、これらを燃料電池に供給してシクロヘキサンを再生成し、外部から燃料を供給しない閉サイクル形の燃料電池発電システムを提供することにある。
【0013】
また、本発明の別の目的は、燃料に常温で液体のシクロヘキサンを用い、高価な触媒を使用することなく簡単に高純度の水素が得られる水素製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、燃料容器から供給されるシクロヘキサンから水素及びベンゼンに富んだ液体を生成する水素生成手段と、前記水素生成手段からの水素及びベンゼンに富んだ液体を分離する水素分離手段と、前記水素分離手段で分離した水素がアノード極に供給されると共にベンゼンに富んだ液体がカソード極に供給される燃料電池とを備えた閉サイクル形の燃料電池発電システムとする際に、前記水素生成手段は、対向配置する電極を有する水素発生部と、前記電極間にパルス電圧を供給するパルスパワー電源とにより構成したことを特徴としている。
【0015】
また、本発明の水素製造装置は、シクロヘキサンを収容する燃料容器と、対向配置する電極を有する水素発生部が設けられ、かつ前記水素発生部で前記燃料容器より供給されるシクロヘキサンから水素及びベンゼンに富んだ液体を生成分離する水素分離容器と、前記水素発生部の電極間にパルス電圧を印加するパルスパワー電源と、前記水素分離容器にて分離した水素を回収する水素回収容器と、ベンゼンに富んだ液体を回収する回収容器とにより構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明のような燃料電池発電システムとすれば、パルスパワー電源に連なる電極を備える水素発生部で、シクロヘキサンから生成する高純度の水素及びベンゼンを燃料電池に供給し、燃料電池においてシクロヘキサンを再生成して再循環できる。また、加温せねばならない触媒を使用することなく水素を発生させることができるため、外部から燃料を供給する必要がなく、しかも排熱量の少ない閉サイクルのシステムとすることができる。
【0017】
また本発明の如く水素製造装置を構成すれば、高価な触媒を使用せずにシクロヘキサンから、パルスパワーにより高純度の水素及びベンゼンを簡単に生成できるし、従来に比べて装置全体を経済的に製作することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の燃料電池発電システムの一実施例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の水素製造装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図3】(a)から(f)はそれぞれ水素の製造に使用する電極配置の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の燃料電池発電システムは、燃料容器から供給されるシクロヘキサンから水素及びベンゼンに富んだ液体を生成する水素生成手段と、前記水素生成手段からの水素及びベンゼンに富んだ液体を分離する水素分離手段と、前記水素分離手段で分離した水素がアノード極に供給されると共にベンゼンに富んだ液体がカソード極に供給される燃料電池とを備えた閉サイクル形である。そして、水素生成手段は、対向配置する電極を有する水素発生部と、前記電極間にパルス電圧を供給するパルスパワー電源とにより構成している。
【0020】
また、本発明の水素製造装置は、対向配置する電極を有する水素発生部が設けられた水素分離容器を用いており、パルスパワー電源から電極間に印加するパルス電圧により、シクロヘキサンから水素及びベンゼンに富んだ液体を生成している。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明の燃料電池発電システム及び水素製造装置について図1から図3を用いて説明する。図1に示す閉サイクルの再生形である本発明の燃料電池発電システム10では、水素発生用の燃料として常温で液体のシクロヘキサン(C12)を用いており、このシクロヘキサンは燃料容器11に貯蔵している。
【0022】
燃料容器11に保管したシクロヘキサンは、バルブV1と液体ポンプP1を有する供給系統を経由して、水素生成手段として使用する水素発生部12に送られる。水素発生部12には、後述するような電極12a及び12bを有しており、高価な触媒は全く使用しない構造である。
【0023】
水素発生部12の電極12a及び12bは、パルスパワー電源13と接続されて所定のパルス電圧が印加される。このパルスパワーを利用し、水素発生部12において、シクロヘキサンはC12→3H+Cの如く、水素と分解されなかったシクロヘキサンを含むベンゼンに富んだ液体とを生成する。そして、生成した水素とベンゼンに富んだ液体は、水素分離手段として用いた水素分離容器14において気液分離された状態で保管される。なお、図1の例では水素分離容器14の一部に水素発生部12を設けたものであるが、独立させて設置することもできる。
【0024】
パルスパワー電源13に連なる水素発生部12の電極12a及び12bは、図3(a)から(f)に例示するものが使用できる。即ち、図3(a)に示す同軸に配置する棒状電極と円筒電極の組み合せ、同(b)に示す同軸配置電極の並列配置する組み合せ、同(c)に示す棒状電極と円筒電極の組み合せ、同(d)に示す双方とも棒状電極の組み合せ、同(e)に示す棒状電極と平板電極の組み合せ、同(f)に示す剣山状電極と平板電極の組み合せ等が使用できる。
【0025】
水素分離容器14中の水素は、バルブV2を有する供給系統から燃料電池15のアノード極15a側に供給され、また水素分離容器14中のベンゼンに富んだ液体は、バルブV3と液体ポンプP2を有する供給系統から燃料電池15のカソード極15b側に供給する。なお、水素は供給系統中に一時保管容器(図示せず)を設けて保管させ、この一時保管容器から燃料電池15に供給させることもできる。
【0026】
燃料電池15では、水素とベンゼンに富んだ液体とを用いて電気を発生させて外部負荷16に供給すると共に、C+6H+6e→C12の如くシクロヘキサンを再生成している。このシクロヘキサンは、燃料容器11に再循環させて水素発生用燃料として再活用している。
【0027】
上記した閉サイクル形の燃料電池発電システムのように、対向配置する電極を有する水素発生部と、前記電極間にパルス電圧を供給するパルスパワー電源とにより水素生成手段を構成して用いると、次のような利点がある。即ち、水素生成手段を使用して常温で液体のシクロヘキサンから、水素と常温で液体のベンゼンに富んだ液体を生成すると、従来の触媒を用いる反応器のように、加熱器を準備して触媒を所定温度まで加熱する必要がなくなる。このため、水素生成時に温度上昇を伴うことがないから排熱量が著しく少なくなり、高純度の水素を生成して燃料電池に使用できる。
【0028】
本発明の燃料電池発電システムは常時運転も可能であって、当然のことながら電力需要の少ない時間帯に水素を生成して分離しておき、電力需要の高い時間帯や停電時に貯蔵しておいた水素を用いて燃料電池で発電させることもできる。なお、パルスパワー電源13には、通常の電力ばかりでなく、夜間電力や自然エネルギによる電力を活用することもできる。
【実施例2】
【0029】
次に、図2に示す本発明の水素製造装置20について説明する。処理対象のシクロヘキサンは、燃料容器21に収容され、燃料容器21はバルブVAを介在させた供給系統により、リーク用のバルブVBを設けた水素分離容器24に連なっている。
【0030】
水素分離容器24には、供給されるシクロヘキサンの液中に存在させる対向配置の電極を有する水素発生部22が設けられている。水素発生部22の対向配置の電極は、上述と同様に図3(a)から(f)等の組み合わせから選択して用いられ、この電極間にパルス電圧を印加するパルスパワー電源23を接続している。
【0031】
この水素発生部22において、電極間に印加されたパルスパワーは、液体のシクロヘキサンを分解時に水素発生部22内の温度上昇に殆ど影響を与えず、分解反応は常温で促進されて、液体のシクロヘキサンから水素及び未分解のシクロヘキサンを含むベンゼンに富んだ液体を生成することができる。
【0032】
水素分離容器24で生成されて気液分離された水素は、バルブVCを介在させて連なっている水素回収容器25に回収保管される。また、ベンゼンに富んだ液体は、バルブVEを介在させて連なる回収容器26に回収保管され、必要時に燃料電池等に供給する。水素回収容器25には、バルブVD及び真空ポンプVPを有する排気系統が設けられている。
【0033】
上記のように構成した水素製造装置20では、シクロヘキサンから水素及びベンゼンに富む液体の生成に、対向配置の電極を有する水素発生部22を用いており、高価な触媒を使用しないから装置全体を経済的に製作できるし、パルスパワーにより高純度の水素及びベンゼンを簡単に生成できる。
【0034】
続いて、上記した水素製造装置20の運転手順について説明する。まず、製造系統中のバルブVAを閉、バルブVBを閉、バルブVCを開、バルブVDを開、バルブVEを開の状態にしてから、真空ポンプVPを駆動し、水素分離容器24と水素回収容器25と回収容器26内を真空引きする。
【0035】
その後、バルブVE、バルブVC、バルブVDを順に閉じてから、バルブVAを開き、所定量のシクロヘキサンを水素分離容器24に導入して少なくとも水素発生部22の電極間を液体で満たした後、バルブVAを閉じる。なお、必要に応じて、燃料容器21にシクロヘキサンを別の保管容器(図示せず)から補給する。
【0036】
水素発生部22の電極間には、パルスパワー電源23からパルス電圧を印加し、液体のシクロヘキサンをパルスパワーで分解し、気体の水素と液体のベンゼンを生成する。気液分離された水素は、水素分解容器24に一定量が溜まった後、バルブVCを開いて水素回収容器25に水素を回収する。水素の回収が終了した後、バルブVCを閉じてからバルブVBとバルブVEを開き、水素分離容器24内のベンゼンに富んだ液体を別の回収容器26に回収する。
【符号の説明】
【0037】
10…燃料電池発電システム、11、21…燃料容器、12、22…水素発生部、12a、12b…電極、13、23…パルスパワー電源、14、24…水素分離容器、15…燃料電池、20…水素製造装置、25…水素回収容器、26…回収容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料容器から供給されるシクロヘキサンから水素及びベンゼンに富んだ液体を生成する水素生成手段と、前記水素生成手段からの水素及びベンゼンに富んだ液体を分離する水素分離手段と、前記水素分離手段で分離した水素がアノード極に供給されると共にベンゼンに富んだ液体がカソード極に供給される燃料電池とを備えた閉サイクル形の燃料電池発電システムにおいて、前記水素生成手段は、対向配置する電極を有する水素発生部と、前記電極間にパルス電圧を供給するパルスパワー電源とにより構成したことを特徴とする燃料電池発電システム。
【請求項2】
シクロヘキサンを収容する燃料容器と、対向配置する電極を有する水素発生部が設けられ、かつ前記水素発生部で前記燃料容器より供給されるシクロヘキサンから水素及びベンゼンに富んだ液体を生成分離する水素分離容器と、前記水素発生部の電極間にパルス電圧を印加するパルスパワー電源と、前記水素分離容器にて分離した水素を回収する水素回収容器と、ベンゼンに富んだ液体を回収する回収容器とにより構成したことを特徴とする水素製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−119050(P2011−119050A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273208(P2009−273208)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】