説明

燃焼触媒機能付与した高温高耐食性被膜及びセラミックスヒータ

【課題】セラミックスヒータの高温耐食性被覆表面での燃料の安定燃焼温度を、例えば、従来の1500℃から1300℃程度にまで低下させ、腐食速度を更に抑制し、且つ、腐食を更に長時間に亘り抑制することを可能とする新規高温高耐食性被膜及びこの被膜で被覆されたセラミックスヒータ等を提供する。
【解決手段】燃焼触媒機能が付与された高温耐食性被膜であって、希土類シリケート層のシリコンサイトをマンガンで一部置換した複酸化物層、希土類シリケート層とガンマアルミネート層もしくは希土類マンガナイト層とから構成される多層被膜、又は希土類シリケート相とガンマアルミネート相もしくは希土類マンガナイト相とから構成される複合相被膜からなる高温高耐食性被膜、及びこの高温高耐食性被膜を被覆したセラミックスヒータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温高耐食性燃焼触媒被膜を有するセラミックスヒータに関するものであり、更に詳しくは、本発明は、例えば、自動車エンジン用のグロープラグ、その発熱体としてのセラミックスヒータ、及びこのセラミックスヒータが有する高温高耐食性被膜、或いはガスコンロやガスストーブ用のグロープラグ、その発熱体としてのセラミックスヒータ、及びこのセラミックスヒータが有する高温高耐食性被膜など、化石燃料ガスの着火の際に、始動補助装置の、最も高温となり、水蒸気やアルカリの腐食性ガスに曝される着火位置付近の部位に好適に使用することが可能な、高温高耐食性で燃焼触媒機能を有する被膜及びその被膜を有するセラミックグロープラグ、セラミックスヒータに関するものである。
【0002】
本発明は、例えば、自動車エンジン用グロープラグを長時間使用する場合において、従来、その材料が、燃料の燃焼により生じる水蒸気や燃料中に含まれる微量のアルカリ成分などの腐食性ガスにより、使用時間とともに損耗するため、高温での耐食性が優れている材料が求められていたことを踏まえて開発されたものであって、1000℃を超える高温域で且つ水蒸気やアルカリなどの腐食環境下で、長時間の使用でも損耗を抑制し、且つ着火点を下げ、不完全燃焼を防止するための工夫として、被膜に燃焼触媒機能を付与した、新規の高耐食性被膜及びその被膜を有するセラミックグロープラグ、セラミックスヒータを提供するものである。本発明は、窒化ケイ素質セラミックスの表面に、燃焼触媒機能を有する高温高耐食性被膜を成膜したセラミックスヒータを提供し、当技術分野における新技術・新産業の創出に資するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、自動車用、ガスコンロやガスストーブ用のグロープラグは、金属性のプラグが用いられていたが、急速に燃料を暖める目的で、近年では絶縁性セラミックスの中に金属線材を埋めたプラグが用いられるようになった。グロープラグは、急速に1000℃以上の高温まで加熱する必要があることから、絶縁性セラミックス材料としては、耐熱衝撃性に優れる窒化ケイ素質のグロープラグが開発され、実用化されている。グロープラグを窒化ケイ素質とすることで、急速加熱が実現し、冬季におけるディーゼルエンジン車のエンジン始動がスムーズとなった。このように、従来、窒化ケイ素質のグロープラグは、燃料の急速加熱の観点からその有用性は認められるものの、従来の窒化ケイ素質のグロープラグでは、曝される環境、すなわち、1000℃以上の高温で燃料が燃焼して生じる水蒸気や燃料中に含まれるアルカリにより、激しく酸化及び腐食され、耐用年数が短くなるという問題点を有している。
【0004】
更に、ディーゼルエンジン車では、排ガス規制の強化により燃料の不完全燃焼を抑制する技術が求められており、この問題を解決する手段として、グロープラグの先端を主燃焼室に突き出して配置する直接噴射式のエンジンが提案され実用化されている。この場合、グロープラグの先端は、燃焼場、すなわち、1300℃以上の高温で燃焼により生じる水蒸気及び燃料中に含まれるアルカリ成分などの腐食性ガスに曝されることになる。このディーゼルエンジン燃焼場においては、シリコン基の非酸化物セラミックスは酸化され、水蒸気により酸化被膜が腐食・損耗すること、及びアルカリが存在するとその水蒸気腐食が指数関数的に加速されることは良く知られた現象であり、グロープラグの耐用年数が腐食による損耗で短くなるという問題を有している。
【0005】
燃料の不完全燃焼を完全に抑制するには、急速加熱により高温まで加熱する必要があるが、腐食による損耗は、温度が上昇すると激しさをますことが知られており、1500℃以上の高温で腐食を抑制する機能が求められていた。更に、排ガス規制の強化により、燃料の不完全燃焼を抑制する技術において、燃料着火後もグロープラグを連続的に加熱して未燃成分の完全燃焼を達成するための技術として、アフターグローと呼ばれる方式が提案されている。この場合、グロープラグは長時間腐食環境下に曝されることとなり、長時間安定に腐食を抑制する技術が強く求められている。
【0006】
高温の燃焼場においては、水蒸気による窒化ケイ素の腐食が高温気流により加速されることがよく知られており、高温気流により加速される腐食性ガスによる減肉を抑制する技術が求められていた。高温で腐食を抑制する被膜技術としては、窒化ケイ素の焼結助剤を制御することにより酸化後のシリカ被膜の組成を制御する技術や、希土類シリケート被膜を成膜する技術が提案されている(特許文献1〜6)。
【0007】
しかしながら、1500℃における窒化ケイ素の、水蒸気及びアルカリ存在中における損耗は激しく、従来の成膜技術で形成される耐食性被膜では長時間の使用に耐えられないことが、例えば、ガスタービン条件下で実証されており公知である。ディーゼルエンジン或いは天然ガス燃焼エンジンの燃焼場は、エロージョン効果が無視できるため、ガスタービン条件よりも腐食条件は緩やかではあるが、同様の腐食による損耗が生じることは容易に予測される。したがって、これらの問題を抜本的に解決する手段としては、高温耐食性被膜に燃焼触媒機能を付与して、不完全燃焼を防止するのに必要な温度を、従来の温度よりも低下させることが必須であるが、このような技術は、現在のところ提案されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平9−178183号公報
【特許文献2】特開2001−146492号公報
【特許文献3】特開平11−257659号公報
【特許文献4】特開平10−300086号公報
【特許文献5】特開平8−273806号公報
【特許文献6】特開平8−264266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術における諸問題を抜本的に解決することを可能とする、燃焼触媒機能を持つ新しい高温高耐食性被膜を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、高温において耐食性を有する希土類シリケートの一部をマンガンで置換させ得ることを見出し、更に、マンガンで置換することにより、高温で相が安定化し、燃焼触媒機能を安定に発現する効果を発見した。更に、マンガンが一部置換した希土類シリケート相と希土類マンガナイト相が高温で安定に共存し得ることを見出し、耐食性被膜としての希土類シリケート層の上に希土類マンガナイトやマンガンアルミネートを多層成膜することにより、燃焼触媒機能を有する高温高耐食性多層被膜の作製に成功した。また、マンガンが一部置換した希土類シリケート相と希土類マンガナイト相或いはマンガンアルミネート相が高温で安定に共存し得ることから、2相の複合化によっても燃焼触媒機能を有する高耐食性被膜を窒化ケイ素の上に成膜することが可能となり、燃焼触媒機能を耐腐食性層に付与することで、燃料の安定燃焼温度を、従来の1500℃から1300℃程度にまで低下させることが可能となり、燃焼温度を低く抑制することにより、ヒータの腐食速度を従来品の1/100にまで抑制する技術を開発し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、燃焼触媒機能を高温耐食性被膜に付与することにより、高温腐食環境下においても腐食を抑制すると共に、不完全燃焼を防止する温度を1300℃程度までに低下させることにより腐食の進行を更に抑制することができる、燃焼触媒機能を付与した高温高耐食性被膜、及びそれを有するセラミックグロープラグ、セラミックスヒータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)燃焼触媒機能が付与された高温高耐食性被膜であって、(1)希土類シリケート層のシリコンサイトをマンガンで一部置換した複酸化物層、(2)希土類シリケート層とマンガンアルミネート層もしくは希土類マンガナイト層から構成される多層被膜、又は(3)希土類シリケート相とマンガンアルミネート相もしくは希土類マンガナイト相から構成される複合相被膜より構成されることを特徴とする高温高耐食性被膜。
(2)希土類マンガナイト層をトップコート層とする多層被膜であって、第一層目の希土類シリケート層は、希土類が、イットリウム、イッテルビウム及びルテチウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とシリコンの原子比が1:1となるLnSi2O(Lnは希土類元素)の組成を有し、第二層の希土類マンガナイト層は、希土類が、ランタン、ネオジム、サマリウム及びユーロピウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とマンガンの原子比が1:1となるLnMnO(Lnは希土類元素)の組成を有することを特徴とする、前記(1)に記載の高温高耐食性被膜。
(3)希土類シリケート相と希土類マンガナイト相の複合相被膜であって、希土類シリケート相は、希土類が、イットリウム、イッテルビウム及びルテチウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とシリコンの原子比が1:1となるLnSi(Lnは希土類元素)の組成を有し、希土類マンガナイト相は、希土類が、ランタン、ネオジム、サマリウム及びユーロピウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とマンガンの原子比が1:1となるLnMnO(Lnは希土類元素)の組成を有することを特徴とする、前記(1)に記載の高温高耐食性被膜。
(4)マンガンアルミネート層をトップコート層とする多層被膜であって、第一層目の希土類シリケート層は、希土類が、イットリウム、イッテルビウム及びルテチウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とシリコンの原子比が1:1となるLnSi(Lnは希土類元素)の組成を有し、第二層のマンガンアルミネート層は、アルミサイトにマンガンを1〜5%置換した組成を有することを特徴とする、前記(1)に記載の高温高耐食性被膜。
(5)希土類シリケート相とマンガンアルミネート相の複合相被膜であって、希土類シリケート相は、希土類が、イットリウム、イッテルビウム及びルテチウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とシリコンの原子比が1:1となるLnSi(Lnは希土類元素)の組成を有し、マンガンアルミネート相は、アルミサイトにマンガンを1〜5%置換した組成を有することを特徴とする、前記(1)に記載の高温高耐食性被膜。
(6)高温耐食性被膜に燃焼触媒機能を付与することで、燃焼場における腐食を抑制し、燃料の安定燃焼温度を1300℃まで低下させ得るセラミックスヒータであって、窒化ケイ素質セラミックスの表面に、前記(1)から(5)のいずれかに記載の燃焼触媒機能が付与された高温高耐食性被膜を被覆したことを特徴とするセラミックスヒータ。
(7)燃焼触媒機能が付与された高温高耐食性被膜が、希土類シリケート層のシリコンサイトをマンガンで一部置換した複酸化物層であることを特徴とする、前記(6)に記載のセラミックスヒータ。
(8)燃焼触媒機能が付与された高温高耐食性被膜が、希土類シリケート層とマンガンアルミネート層もしくは希土類マンガナイト層から構成される多層被膜であることを特徴とする、前記(6)に記載のセラミックスヒータ。
(9)燃焼触媒機能が付与された高温高耐食性被膜が、希土類シリケート相とマンガンアルミネート相もしくは希土類マンガナイト相から構成される複合相被膜であることを特徴とする、前記(6)に記載のセラミックスヒータ。
(10)前記(6)から(9)のいずれかに記載の高温高耐食性被膜を被覆したセラミックスヒータを構成要素として用いたことを特徴とするセラミックグロープラグ。
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、セラミックスヒータ基材を被覆している高温耐腐食性被膜において、燃焼触媒機能を付与することにより、燃料の安定燃焼温度を、例えば1300℃程度まで低下させて、腐食速度を更に抑制し、且つ、腐食を更に長時間に亘り抑制した高温高耐食性被膜とすることを特徴としている。本発明では、ヒータ基材となる、窒化ケイ素の上に、希土類シリケート高耐食性被膜を母体とし、希土類マンガナイト層もしくはマンガンアルミネート層を成膜した多層構造、希土類シリケート相と希土類マンガナイト相もしくはマンガンアルミネート相を複合化させた複合相被膜、又は希土類シリケートのシリコンサイトが一部マンガンで置換された層を成膜し、母材に、更なる耐腐食性及び燃焼触媒機能を付与する。
【0013】
上記ヒータ基材は、燃料等の着火、引火ないし点火のため、高温にして用いるセラミックス、例えば、グロープラグのセラミックスグローに用いるセラミックスであって、窒化ケイ素(Si)で形成される。そして、本発明で燃焼触媒機能を付与する対象となる高温耐食性被膜は、上記ヒータ基材に高温耐食性を付与するために上記ヒータ基材を被覆している被膜で、燃料等の着火、引火ないし点火の際に、燃焼場となる被膜であって、窒化ケイ素と熱膨張係数が極めて近く、耐酸化性が高い希土類シリケートで形成される。
【0014】
そして、高温耐食性被膜に燃焼触媒機能を付与する手段としては、希土類シリケートの一部をマンガンで置換する手段、マンガンが一部置換した希土類シリケート相と希土類マンガナイト相やマンガンアルミネート相を複合化して複合相被膜にする手段、希土類シリケート層の上に希土類マンガナイトやマンガンアルミネートを多層成膜する手段、希土類シリケート相と希土類マンガナイト相やマンガンアルミネート相を複合化して複合相被膜にする手段などが挙げられる。このような手段により、高温耐食性被膜は、燃焼触媒機能に基づかない耐食性の向上とともに、燃焼触媒機能に基づいて燃料などの安定燃焼温度が1300℃程度まで低下し、この安定燃焼温度の低下により耐食速度の低下及びその持続性の向上が齎され、高温高耐食性被膜とされる。
【0015】
本発明では、窒化ケイ素基材の、酸化及び腐食を抑制することを目的としているので、上記の高温高耐食性被膜は緻密でなければならない。本発明で、高温耐食性被膜としての緻密な希土類シリケート層を窒化ケイ素の上に形成させるためには、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、CVD法、ゾルゲル法、反応焼結法或いはディッピング法などの成膜法を採用することが可能である。
【0016】
希土類マンガナイト層をトップコート層とする多層被膜の場合には、第一層目の希土類シリケート層を、厚さ1ミクロンから100ミクロンの膜厚となるように、上記成膜法で緻密な層に形成させた後、第二層目の希土類マンガナイト層を、厚さ1ミクロンから100ミクロンの膜厚で、ディップコート法或いは反応焼結法で成膜することが可能である。希土類シリケート相と希土類マンガナイト相の複合相被膜とする場合には、予め目的の組成となる混合粉末スラリーを作製し、ディップコート法で成膜することが可能である。
【0017】
希土類シリケート層とマンガンアルミネート層の多層被膜とする場合には、第一層目の希土類シリケート層を、厚さ1ミクロンから100ミクロンの膜厚となるように、上記成膜法で緻密な層に形成させた後、第二層目の希土類マンガンアルミネート層を、厚さ1ミクロンから100ミクロンの膜厚で、ディップコート法或いは反応焼結法で成膜することが可能である。希土類シリケート相とアルミネート相の複合相被膜とする場合には、予め目的の組成となる混合粉末スラリーを作製し、ディップコート法で成膜することが可能である。
【0018】
希土類シリケートのシリコンサイトを一部マンガンに置換させる場合には、予め上記成膜法にて成膜した緻密な希土類シリケート被膜を、マンガン酸化物と接触させて加熱処理する方法、或いは予め目的の組成となる混合粉末スラリーを作製し、ディップコート法で成膜する方法が可能である。
【0019】
図1に、本発明の、希土類シリケートのシリコンサイトをマンガンで一部置換した複酸化物層より構成される燃焼触媒機能を有する高耐食性被膜を有するセラミックス構造体の断面の模式図を示す。窒化ケイ素セラミックスの上に、直接LnSi−xMn(Ln=Y,Yb,Lu)の緻密な層が形成され、膜厚は1ミクロンから100ミクロンである。被膜は耐食性を保持する必要があるため、緻密でなければならないが、100ミクロンを超えると、緻密な層を形成させる場合、基材と被膜材料の僅かな熱膨張係数差のため被膜が容易に破損或いはクラックが発生し易くなる。したがって、本発明では、緻密な被膜の厚さは100ミクロン以下が要求される。また、緻密な層が1ミクロン未満であると、緻密層を拡散により伝わって移動する水蒸気分子により基材が比較的短期間で酸化するなどの不具合が生じる。1300℃以上の温度で、ヒーター或いはプラグの寿命を実用化レベルで長くするためには、少なくとも1ミクロン以上の被膜が必要となる。
【0020】
図2に、本発明の、希土類シリケート層とガンマアルミネート層或いは希土類マンガナイト層とから構成される多層被膜を有する構造体の断面の模式図を示す。また、図3に、本発明の、希土類シリケート相とガンマアルミネート相或いは希土類マンガナイト相との複合化により構成される複合相被膜を有する構造体の断面の模式図を示す。図2及び図3において、膜厚を1ミクロンから100ミクロンとした理由は、図1における場合と同様である。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明は、セラミックスヒータの高温耐食性被膜において、燃焼触媒機能を付与することにより、燃料の安定燃焼温度を、例えば、1300℃程度まで低下させて、腐食速度を更に抑制し、且つ、腐食を更に長時間に亘り抑制したことを特徴とするものであり、本発明により、1)燃焼触媒機能を付与した高温高耐食性被膜を有する窒化ケイ素質のセラミックスヒータを提供することができる、2)高温高耐食性被膜を設けることにより、高温の燃焼場におけるヒータの腐食を高度に抑制することができる、3)高耐食性被膜に燃焼触媒機能を付与したことにより、不完全燃焼を防止するための温度を、1300℃程度までに低下させることができ、使用温度を低下させることにより腐食性ガスによるヒータの腐食速度を、従来品の少なくとも1/100まで抑制することができる、4)希土類シリケートのシリカサイトの一部がマンガンで置換されることにより、多層構造の被膜を成膜する場合においても、良好な密着性を保つことができる、5)希土類シリケートのシリカサイトへのマンガン固溶には固溶限が存在するため、希土類シリケート相と希土類マンガナイト相或いはマンガンアルミネート相が高温で安定に共存し得るので、2相が複合化した被膜の作製が可能となる、6)希土類シリケートに置換するマンガンサイトのみでも燃焼触媒効果が発現する、7)エンジンにおけるアフターグローにも最適である、という効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例などによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(1)窒化ケイ素セラミックスのLuSi層による被覆
先ず、窒化ケイ素セラミックスを、大気中、1000℃で48時間加熱処理を行なった。この加熱処理により、窒化ケイ素の表面にはアモルファスシリカ層が形成された。次に、アモルファス層を有する窒化ケイ素セラミックスを、ルテチア(Lu)粉末に埋め、6気圧のアルゴン雰囲気下、1500℃で4時間加熱処理を行なうことで、アモルファスシリカとルテチア粉末を完全に反応させ、アモルファスシリカ層をLuSi被膜に変化させた。得られたLuSi被膜は、厚さ4ミクロンの膜厚であった。
【0024】
(2)LuSi層をLnMnO層により被覆した多層被膜の作製
酸化マンガン(Mn)と酸化ランタン(La)をモル比で1:1になるように秤量し、混合した後、大気中、1350℃で4時間仮焼してLaMnO粉末を得、この粉末に、重量比で1%のポリビニルアルコールを添加して、スラリーを作製した。このスラリーを、上記の緻密なLuSi層を表面に形成させた窒化ケイ素にディップコートし、100℃で1日乾燥させた後、大気中、1400℃で10時間加熱処理を行ない、多層被膜を有する窒化ケイ素質セラミックスヒータ試料を作製した。得られたLnMnO被膜は、厚さ50ミクロンの膜厚であった。
【0025】
(3)試料の表面及び断面の観察
このようにして作製した試料の表面及び断面を観察した。図4に、この試料の表面の光学写真(上)及び断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(下)を示す。図4から、本実施例で作製した試料において、表面には全くクラックの発生が観察されず、また、緻密で密着性の良い被膜が形成されていることが分かる。
【0026】
(4)多層被膜の高温高耐食性の評価
このようにして作製した、燃焼触媒機能を付与した高温高耐食性多層被膜を有する窒化ケイ素質セラミックスヒータ試料(実施例)及びこの多層被膜を有しない窒化ケイ素質セラミックスヒータ試料(比較例)について、燃焼場における腐食試験を、燃焼触媒が有効に作動する温度の1300℃で行なった。
【0027】
実証試験は、上記各試料を炉に入れ、化石燃料の燃焼場に発生する主な腐食性ガス種である水蒸気中で行なった。すなわち、雰囲気を空気と水蒸気の混合ガスとし、水蒸気の投入量は、実際の燃焼場とほぼ同じ組成になるように、空気と水蒸気の体積比を7:3とした。200℃/時間で1300℃まで昇温し、1300℃に達した後、上記の空気と水蒸気の混合ガスを炉内に導入した。目的の温度に達した後に混合ガスを導入したのは、低温における水蒸気による腐食の効果を排除するためである。空気と水蒸気の上記混合ガスは、グロープラグがエンジン内で曝される条件を模擬して、空気と水蒸気の体積比が7:3、170ml/minの流速で炉内に導入した。100時間の試験後、直ちに混合ガスの導入を停止し、室温まで大気中にて冷却した。
【0028】
試験前後の重量変化を、表面積で割り、更に試験時間である100時間で割ることにより、腐食速度を求めた。図5に、腐食試験結果を示す。被膜のない試料部材、すなわち、従来品である窒化ケイ素質セラミックスの腐食速度と比較して、本発明の被膜を設けることで、腐食速度が1/100にまで抑制できることが、この試験により実証された。すなわち、本発明品は、従来品と比較して、図5に示すように、高温高耐食性被膜を設けることで、腐食速度を抑制し、且つ、耐食性被膜に燃焼触媒機能を付与することで燃料を安定に燃焼させる温度を1300℃までに低下させることにより、更に腐食速度を抑制することができ、従来品の少なくとも1/100にまで腐食速度を抑制することができるセラミックスヒータを提供することができることが分かった(図7)。
【実施例2】
【0029】
(1)希土類シリケートへのマンガン置換
出発物質として、高純度の酸化ルテチウム(Lu)、酸化マンガン(Mn)、シリカ(SiO)を用いた。Lu、Mn及びSiOの各粉末を、一般式がLuSi2−xMnで、xがそれぞれ0.0(比較例)、0.1(実施例)、0.2(実施例)、0.4(実施例)、1.0(比較例)及び1.5(比較例)となるように混合し、混合粉末を加圧成形した後、1400℃で100時間、大気中で反応焼結させた。
【0030】
(2)希土類シリケートへのマンガン置換効果の実証
得られた試料の、マンガン含有量と相変化の関係を、X線回折法で測定した。図4に、X線回折結果を示す。x=0.0の場合、粒界相としてシリカ相が生じる分LuSiO相が生成することは公知であったが、本測定の結果でも、x=0.0(比較例)の場合に、第二相としてLuSiOの存在が検出された。高温における水蒸気腐食の場合、粒界シリカの存在が問題になっている。しかし、x=0.1及び0.2の材料では、LuSiO相の存在は全く確認されなかった。すなわち、マンガンを置換固溶させることで、LuSi2−xMn相が高温において安定化されることが確認された。x=0.4の材料では、ほぼLuSi2−xMnとなるが、ルテチウムマンガナイト相(LuMnO)が若干生成し始める。ルテチウムマンガナイトは、ペロブスカイト構造をとらないため、燃焼触媒機能を発現することができない。比較例として図示していないが、x=1.0及びx=1.5と、xが大きくなるに連れ、ルテチウムマンガナイト相に帰属するピークが大きくなることも確認した。したがって、希土類シリケートへのマンガン固溶は、x=0.4以下、すなわち全シリコンサイトの20%以下と制限する必要があり、また、x=0.1以上、すなわち全シリコンサイトの5%以上としなければならない。
【0031】
(3)マンガン置換をした希土類シリケート層被膜を有する窒化ケイ素質セラミックスの作製
Lu、Mn及びSiOの各粉末を、一般式がLuSi2−xMnで、xが0.2となるように秤量し、ポリビニルブチラールを1重量パーセント添加して、エタノール中でボールミル混合を行なった。得られたスラリーを窒化ケイ素に塗布し、100℃で1日乾燥させた後、大気中1400℃で焼成して、LuSi1.8Mn0.2被覆を有する窒化ケイ素構造体を作製した。これは、マンガン置換をした希土類シリケート層の、厚さ50ミクロンである被膜を有する窒化ケイ素質セラミックスである。
【0032】
(4)マンガン置換をした希土類シリケート被膜の高温高耐食性評価
このようにして作製した燃焼触媒機能を付与した高温高耐食性被膜を有する窒化ケイ素質セラミックスの燃焼場における腐食試験を、燃焼触媒が有効に作動する温度の1300℃で、被膜を有する材料(実施例)と被膜を有しない材料(比較例)について、実施例1と同様にして行なった。その結果、耐食性被膜を有しない窒化ケイ素は、酸化により、0.0012g/cmのオーダーで重量が増加したが、被膜を有する試料では、酸化による重量の増加を0.000011g/cmのオーダーに抑えることができた。すなわち、被膜を有する試料の酸化による重量増加率は、被膜を有しない試料の少なくとも1/100となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上詳述したように、本発明は、燃焼触媒機能を付与した高温高耐食性被膜及びセラミックスヒータに係るものであり、セラミックスヒータの高温耐食性被膜において、燃焼触媒機能を付与することにより、燃料の安定燃焼温度を、例えば、1300℃程度まで低下させて、腐食速度を更に抑制し、且つ、腐食を更に長時間に亘り抑制した高温高耐食性被膜及びそれで被覆したセラミックスヒータ、セラミックグロープラグを提供することを可能とする。本発明は、例えば、自動車エンジン用グロープラグ、ガスコンロやガスストーブ用グロープラグにおけるセラミックスヒータの耐用年数を大幅に長くすることを可能にするものであり、自動車或いは暖房器具、調理器具などの加熱機器の分野において、高温高耐食性に優れたセラミックスヒータを提供することを可能にするものとして、多大な貢献をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】シリコンサイトをマンガンで置換した被膜を有するセラミックス構造体を示す模式図である。
【図2】多層被膜を有するセラミックス構造体を示す模式図である。
【図3】複合相被膜を有するセラミックス構造体を示す模式図である。
【図4】実施例1で作製した多層被膜を有するセラミックス構造体の、表面の光学写真(上)と断面のSEM写真(下)である。
【図5】図4のセラミックス構造体における腐食試験結果を示す図である。
【図6】シリコンサイトをマンガンで置換した場合の相安定性を示すX線回折図である。
【図7】従来品と本発明の比較を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼触媒機能が付与された高温高耐食性被膜であって、(1)希土類シリケート層のシリコンサイトをマンガンで一部置換した複酸化物層、(2)希土類シリケート層とマンガンアルミネート層もしくは希土類マンガナイト層から構成される多層被膜、又は(3)希土類シリケート相とマンガンアルミネート相もしくは希土類マンガナイト相から構成される複合相被膜より構成されることを特徴とする高温高耐食性被膜。
【請求項2】
希土類マンガナイト層をトップコート層とする多層被膜であって、第一層目の希土類シリケート層は、希土類が、イットリウム、イッテルビウム及びルテチウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とシリコンの原子比が1:1となるLnSi(Lnは希土類元素)の組成を有し、第二層の希土類マンガナイト層は、希土類が、ランタン、ネオジム、サマリウム及びユーロピウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とマンガンの原子比が1:1となるLnMnO(Lnは希土類元素)の組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の高温高耐食性被膜。
【請求項3】
希土類シリケート相と希土類マンガナイト相の複合相被膜であって、希土類シリケート相は、希土類が、イットリウム、イッテルビウム及びルテチウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とシリコンの原子比が1:1となるLnSi(Lnは希土類元素)の組成を有し、希土類マンガナイト相は、希土類が、ランタン、ネオジム、サマリウム及びユーロピウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とマンガンの原子比が1:1となるLnMnO(Lnは希土類元素)の組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の高温高耐食性被膜。
【請求項4】
マンガンアルミネート層をトップコート層とする多層被膜であって、第一層目の希土類シリケート層は、希土類が、イットリウム、イッテルビウム及びルテチウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とシリコンの原子比が1:1となるLnSi(Lnは希土類元素)の組成を有し、第二層のマンガンアルミネート層は、アルミサイトにマンガンを1〜5%置換した組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の高温高耐食性被膜。
【請求項5】
希土類シリケート相とマンガンアルミネート相の複合相被膜であって、希土類シリケート相は、希土類が、イットリウム、イッテルビウム及びルテチウムのうちの一種又は二種以上からなり、希土類とシリコンの原子比が1:1となるLnSi(Lnは希土類元素)の組成を有し、マンガンアルミネート相は、アルミサイトにマンガンを1〜5%置換した組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の高温高耐食性被膜。
【請求項6】
高温耐食性被膜に燃焼触媒機能を付与することで、燃焼場における腐食を抑制し、燃料の安定燃焼温度を1300℃まで低下させ得るセラミックスヒータであって、窒化ケイ素質セラミックスの表面に、請求項1から5のいずれかに記載の燃焼触媒機能が付与された高温高耐食性被膜を被覆したことを特徴とするセラミックスヒータ。
【請求項7】
燃焼触媒機能が付与された高温高耐食性被膜が、希土類シリケート層のシリコンサイトをマンガンで一部置換した複酸化物層であることを特徴とする、請求項6に記載のセラミックスヒータ。
【請求項8】
燃焼触媒機能が付与された高温高耐食性被膜が、希土類シリケート層とマンガンアルミネート層もしくは希土類マンガナイト層から構成される多層被膜であることを特徴とする、請求項6に記載のセラミックスヒータ。
【請求項9】
燃焼触媒機能が付与された高温高耐食性被膜が、希土類シリケート相とマンガンアルミネート相もしくは希土類マンガナイト相から構成される複合相被膜であることを特徴とする、請求項6に記載のセラミックスヒータ。
【請求項10】
請求項6から9のいずれかに記載の高温高耐食性被膜を被覆したセラミックスヒータを構成要素として用いたことを特徴とするセラミックグロープラグ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−2968(P2006−2968A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177811(P2004−177811)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】