説明

物体上にコーティングを堆積させるPVD法及びそれから製造された被覆物体

本発明は、コーティング及び基材を含み、該基材上にPVD堆積法を用いてコーティングが堆積された被覆物体の製造方法に関する。コーティングは、周期律表の第IVb族、第Vb族、第VIb族、ならびに、Al、Y及びSiから選ばれる1種以上の元素の窒化物、炭化物、酸化物、ホウ素化物又はそれらの混合物を含む。堆積方法は、活性ターゲットを維持しながら、基材バイアス電圧を変化させる少なくとも1つのシーケンスを含み、ここで、基材バイアス電圧を変化させるシーケンスはサブシーケンスSi;−第一の基材バイアス電圧Biにて10秒間〜60分間の堆積時間Tiの間堆積させ、その後、10秒間〜40分間の傾斜時間Riの間堆積させながら、基材バイアス電圧を徐々に第二の基材バイアス電圧Bi+1(│Bi−Bi+1│≧10V)に変化させることを含み、ここで、サブシーケンスSiをi=nとなるまで繰り返し、ここで、i=0,1,2,...nであり、n≧2であり、各新規のサブシーケンスは前のサブシーケンスが終わるときに使用されていたのと同一の基材バイアス電圧で堆積を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPVD法を用いた被覆物体の製造方法に関する。PVD法は基材バイアス電圧を変化させるシーケンスを含む。本発明は、また、本方法により製造される被覆物体にも関する。
【背景技術】
【0002】
PVDコーティング、特に、切削工具上でのPVDコーティングは当該技術分野においてよく知られている。最も一般的に知られているPVD技術はアーク蒸着及びマグネトロンスパッタリングである。コーティング組成によって、基材バイアス電圧を変化させることが当該技術分野において知られている。異なるターゲット組成は異なる基材バイアス電圧を要求することがある。
基材バイアス電圧を変化させる別のPVD堆積技術は基材バイアス電圧を高周波で変化させるユニ−及びバイ−ポーラパルス技術である。
US2007/0275179A1はMX/LX/MX/LX層状構造を有する非周期多層コーティングの堆積を開示している。製造されるコーティングは少なくとも1つの電気絶縁層を含む。このコーティングはパルス時間がμsの範囲であるバイポーラパルスデュアルマグネトロンスパッタリング(BPDMS)により堆積される。
PVDコーティングを改良するための基材バイアス電圧の変化も試験されている。
US2007/0218242はコーティング内で圧縮応力に変化を有するPVDコーティングを開示している。圧縮応力の変化は基材バイアス電圧を変化させることにより得られる。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、改良された耐摩耗性を有するコーティングを得ることである。
しかしながら、改良された耐摩耗性及び増加した工具寿命に対する益々の要求を満たすために、PVDコーティングの特性をさらに改良することが常に求められている。
本発明の目的は、増加した工具寿命を有するコーティングを得ることである。
今回、特定のパターンで基材バイアス電圧を変化させるシーケンスを適用することによりPVDコーティングを堆積させることで上記の目的が満たされることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】図1a〜1eは基材バイアス電圧が様々なパターンで変化されている本発明の様々な実施形態を示す。
【図2】図2は走査型電子顕微鏡で見られるように示している本発明の一実施形態の模式図である。図2はインナー層(2)により予備被覆された基材(1)、本発明により堆積されたコーティング(3)及びアウター層(5)を示す。基材バイアスを変化させるシーケンス(4)を含む本発明に係るコーティングは層状外観を有する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明はPVD堆積方法を用いた、コーティング、及び、コーティングを堆積させる基材を含む被覆物体を製造する方法に関する。コーティングは、周期律表の第IVb族、第Vb族、第VIb族、ならびに、Al、Y及びSiから選ばれる1種以上の元素の窒化物、炭化物、酸化物、ホウ素化物又はそれらの混合物を含む。堆積方法は、活性ターゲットを維持しながら、基材バイアス電圧を変化させる少なくとも1つのシーケンスを含み、ここで、基材バイアス電圧を変化させるシーケンスはサブシーケンスSi
−第一の基材バイアス電圧Biにて10秒間〜60分間の堆積時間Tiの間堆積させ、その後、10秒間〜40分間の傾斜時間Riの間堆積させながら、基材バイアス電圧を徐々に第二の基材バイアス電圧Bi+1(│Bi−Bi+1│≧10V)に変化させることを含み、ここで、サブシーケンスSiをi=nとなるまで繰り返し、ここで、i=0,1,2,...nであり、n≧2であり、各新規のサブシーケンスは前のサブシーケンスが終わるときに使用されていたのと同一の基材バイアス電圧で堆積を開始する。
値nは適切には2≦n≦1000であり、好ましくは6≦n≦100であり、そして最も好ましくは10≦n≦20である。
基材バイアス電圧Bi=1、Bi=2などは適切には−10〜−300Vであり、好ましくは−20〜−200Vである。
絶対値での第一の基材バイアス電圧と第二の基材バイアス電圧との差異である│Bi+1−Bi│は好ましくは≧40Vであり、より好ましくは≧70Vであるが、≦290Vである。
堆積時間Tiは好ましくは30秒間〜30分間であり、より好ましくは1〜15分間である。
傾斜時間Riは好ましくは20秒間〜20分間であり、より好ましくは30秒間〜10分間である。
基材バイアス電圧を徐々に変化させるとは、本明細書中において、連続的又は増分的のいずれかでそれが変化されうることを意味する。
本発明に係る堆積プロセスの間に、活性ターゲットを維持する。そのことは、本明細書中において、基材バイアス電圧を変化させるシーケンス全体にわたって同一のターゲットを用いて堆積を継続することを意味する。
【0006】
本発明の1つの実施形態において、シーケンスは、基材バイアス電圧を変化させる全体のシーケンスにわたって交互に行われる2つの異なるサブシーケンスA及びBを含む。この2つのサブシーケンスは下記のとおりである。
A:基材バイアス電圧B1にて10秒間〜60分間の堆積時間T1の間堆積し、その後、10秒間〜40分間の傾斜時間R1の間、堆積を行いながら、基材バイアス電圧を徐々に基材バイアス電圧B2に変化させる。
B:基材バイアス電圧B2にて10秒間〜60分間の堆積時間T2の間堆積し、その後、10秒間〜40分間の傾斜時間R2の間、堆積を行いながら、基材バイアス電圧を徐々に基材バイアス電圧B1に変化させる。ここで、│B1−B2│≧10Vである。サブシーケンスA及びBは交互に行われる。この実施形態の1つの例を図1aに示す。
本発明のなおも別の実施形態において、基材バイアス電圧を変化させるシーケンスは、第一、第三、第五サブシーケンスなどにおいて、堆積時間Tiで堆積の間の基材バイアス電圧を徐々に増加させ、また、第二、第四、第六サブシーケンスなどにおいて、堆積時間Tiで堆積の間の基材バイアス電圧を徐々に増加させるといったようにサブシーケンスによって積み上げられる。この実施形態の1つの例を図1bに示す。
本発明のなおも別の実施形態において、基材バイアス電圧を変化させるシーケンスは、第一、第三、第五サブシーケンスなどにおいて、堆積時間Tiで堆積の間の基材バイアス電圧を徐々に減少させ、また、第二、第四、第六サブシーケンスなどにおいて、堆積時間Tiで堆積の間の基材バイアス電圧を徐々に減少させるといったようにサブシーケンスによって積み上げられる。この実施形態の1つの例を図1cに示す。
本発明のなおも別の実施形態において、絶対値│Bi−Bi+1│は各シーケンスで増加している。この実施形態の1つの例を図1dに示す。
本発明のなおも別の実施形態において、シーケンスは、基材バイアス電圧、堆積時間及び傾斜時間がランダムに変化されるように作られる。この実施形態の1つの例を図1eに示す。
【0007】
本方法は、一つ以上の上記の実施形態の組み合わせをも含むことができる。本発明により堆積されたコーティングの組成はターゲットの組成及び堆積チャンバー中に存在するプロセスガスによって決定される。本発明により堆積された、すなわち、基材バイアス電圧を変化させる少なくとも1つのシーケンスの間に堆積されたコーティングは、適切には、周期律表の第IVb族、第Vb族、第VIb族、ならびに、Al、Y及びSiから選ばれる1種以上の元素の窒化物、炭化物、酸化物、ホウ素化物又はそれらの混合物である。好ましくは、本発明により堆積されたコーティングは、周期律表の第IVb族、第Vb族、第VIb族、ならびに、Al、Y及びSiから選ばれる1種以上の元素の窒化物であり、より好ましくは、Ti、Al、Cr、Si及びYのうちの1種以上の窒化物である。
本発明の1つの実施形態において、本発明により堆積されたコーティングは(Ti,Al)Nであり、好ましくは(Ti1-xAlx)N(式中、xは適切には0.2〜0.9であり、好ましくは0.4〜0.8であり、最も好ましくは0.5〜0.7である)の組成を有する。
本発明の別の実施形態において、本発明により堆積されたコーティングは(Ti,Al,Cr)Nであり、好ましくは(Al1-x-yTixCry)N(式中、xは0.05〜0.25であり、好ましくは0.10〜0.20であり、そしてyは0.05〜0.30であり、好ましくはyは0.10〜0.25であり、そして0.30<x+y<0.70である)の組成を有する。
本発明のなおも別の実施形態において、本発明により堆積されたコーティングは(Ti、Al,Cr,Si)Nである。
本発明に係る方法はカソードアーク蒸着、マグネトロンスパッタリング、高出力パルスマグネトロンスパッタリング(HPPMS)、イオンプレーティングなどのすべての一般的なPVD技術に、好ましくはカソードアーク蒸着又はマグネトロンスパッタリングに応用されうる。基材バイアス電圧以外のプロセスパラメータは基材上にPVDコーティングを堆積するために当該技術において慣用されたものであり、特定の堆積装置、コーティング組成などによる。通常、堆積温度は100℃〜900℃である。
【0008】
堆積の間の存在するプロセスガスの圧力は、通常、0.1〜10Paである。プロセスガスは目的とするコーティング組成によって、O2、N2、Ar、C22、CH4又はケイ素含有ガス、たとえば、トリメチルシランのうちの1種以上であることができる。
本発明に適切な基材は好ましくは切削工具、たとえば、切削工具インサート又は円形工具、たとえば、ドリル、エンドミル、タップなどである。基材は好ましくは超硬合金、サーメット、セラミック、立方晶系窒化ホウ素、多結晶ダイアモンド又は高速度鋼のいずれかから作られ、より好ましくは超硬合金から作られている。
本発明の1つの実施形態において、基材は基材に対する良好な付着性を確保するために基材上に直接的に堆積されたインナー層により予備被覆されていてよく、そのインナー層は純粋金属及び/又は窒化物を含み、好ましくはCr、Ti、CrN又はTiNを含み、その層は0.005〜0.5μmであり、好ましくは0.02〜0.2μmであり、そして残りのコーティングと同一のコーティングプロセスで堆積される。
本発明の1つの実施形態において、方法は、基材バイアス電圧を変化させるシーケンスを用いない、すなわち、従来の堆積条件での他のPVD層の堆積をさらに含むことができる。これらの追加の堆積シーケンスは基材バイアス電圧を変化させるシーケンスの前又は後のいずれで行ってもよい。これらの追加の堆積シーケンスは残りの堆積工程と同一の堆積装置内で行う。
本発明の1つの実施形態において、方法は各シーケンスの間に活性ターゲットを取り替える本発明に係る1つ以上の追加のシーケンスをさらに含むことができ、すなわち、基材バイアス電圧を変化させるシーケンスの間には活性ターゲットを変えないが、新たなシーケンスを開始するならば、活性ターゲットを変えることができる。
【0009】
合計コーティング厚は0.5〜20μmであり、好ましくは0.5〜8μmであり、そして最も好ましくは1〜6μmである。
本明細書中に示されるすべての厚さはターゲットから見たときの直線で合理的に平坦な表面上で行った測定値を指す。堆積の間にスティック上に取り付けられるインサートでは、厚さはターゲットに直接的に面する側の中央で測定されることを意味する。ドリル及びエンドミルなどの表面のような不規則表面では、本明細書中に示される厚さは合理的に平坦な表面、又は比較的に大きな曲率を有しかつ縁又は角からいくらかの距離を離れた表面で測定された厚さを指す。たとえば、ドリルでは、測定は周囲で行い、そしてエンドミルでは、測定は側面で行う。
本発明の1つの実施形態において、方法は、処理後工程をさらに含む。処理後工程は、たとえば、ブラッシング、ブラスティング、ショットピーニングなどであることができる。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、基材バイアス電圧を変化させるシーケンスは下記のとおりである。
a)−120〜−80V、好ましくは−110〜−90Vの基材バイアス電圧で2〜10分間、好ましくは4〜8分間堆積する、
b)30秒間〜4分間、好ましくは1〜3分間、基材バイアス電圧を−220〜−180V、好ましくは−210〜−190Vに増加する、
c)−220〜−180V、好ましくは−210〜−190Vの基材バイアス電圧で2〜10分間、好ましくは4〜8分間堆積する、
d)30秒間〜4分間、好ましくは1〜3分間、基材バイアス電圧を−120〜−80V、好ましくは−110〜−90Vに減少する。
ここで、所望のコーティング厚に到達するまで工程a)〜d)を繰り返す。
本発明のさらに別の実施形態において、基材バイアス電圧を変化させるシーケンスは下記のとおりである。
a)−90〜−60V、好ましくは−80〜−70Vの基材バイアス電圧で2〜10分間、好ましくは4〜8分間堆積する、
b)30秒間〜4分間、好ましくは1〜3分間、基材バイアス電圧を−170〜−130V、好ましくは−160〜−140Vに増加する、
c)−170〜−130V、好ましくは−160〜−140Vの基材バイアス電圧で2〜10分間、好ましくは4〜8分間堆積する、
d)30秒間〜4分間、好ましくは1〜3分間、基材バイアス電圧を−90〜−60V、好ましくは−80〜−70Vに減少する。
ここで、所望のコーティング厚に到達するまで工程a)〜d)を繰り返す。
本発明は、また、上記の方法により製造された被覆物体にも関する。
バイアスを変化させるシーケンスは層状構造として現れ、それは走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたときに見ることができる。
【実施例】
【0011】
例1
幾何形状R216.34−10050−BC22Pを有する超硬合金エンドミルを、Ti0.33Al0.67ターゲットを用いてPVDアーク蒸着により被覆した。基材を最初にエッチングプロセスに付し、その後、約0.050μmの厚さのTiの初期層の堆積を行った。
その後、(Ti、Al)Nコーティングの堆積が起こった。コーティングを600℃の温度で1.0PaのN2圧で堆積させた。基材バイアス電圧を下記のシーケンスにより変化させた。
a)−100Vで6分間堆積、
b)2分間の間に、基材バイアス電圧を−200Vに増加、
c)−200Vで6分間堆積、
d)2分間の間に、基材バイアス電圧を−100Vに減少。
コーティングが2.8μmの側面でのコーティング厚となるまで工程a)〜d)を繰り返した。
ここで、このエンドミルを発明1と呼ぶ。
【0012】
例2
例1と同一の幾何形状及び組成の超硬合金エンドミルを、Ti0.33Al0.67ターゲットを用いてPVDアーク蒸着により被覆した。基材を最初にエッチングプロセスに付し、その後、約0.050μmの厚さのTiの初期層の堆積を行った。その後、(Ti、Al)Nコーティングの堆積が起こった。コーティングを600℃の温度で1.0PaのN2圧で、100Vの一定の基材バイアス電圧で、最終コーティング厚が3.8μmとなるまで堆積させた。ここで、例2によるエンドミルを対照1と呼ぶ。
【0013】
例3
例1及び2によるエンドミルを、下記の切削条件でスチールの半仕上げ切削操作にて試験した。
材料: SS2244
定量化: ミル加工長さ
c= 300m/分
p= 10mm
e= 1mm
z= 0.1mm/歯
注: 冷媒
工具寿命基準 Vb/Vbmax≧0.15/0.20
例1及び2と同一の超硬合金エンドミル(組成及び幾何形状)の第三のバリアントである比較1も対照として含めた。比較1はEDSにより分析して均一なAl65Ti35N層により、側面の厚さが3.2μmで外部供給者により堆積されたものである。各バリアントで3個のエンドミルを試験し、表1中の結果は3個の平均を示している。
【0014】
【表1】

【0015】
表1は本発明により被覆されたエンドミルである発明1が従来技術、すなわち、対照1及び比較1よりも相当に長い工具寿命を有することを明確に示している。
【0016】
例4
例1及び2によるエンドミルを下記の切削条件でステンレススチールの半仕上げ切削操作で試験した。
材料: 316Ti
定量化: 200mのミル加工長さでの最大摩耗
c= 105m/分
p= 10mm
e= 1mm
z= 0.071mm/歯
注: 冷媒
例1及び2と同一の超硬合金エンドミル(組成及び幾何形状)の第三のバリアントである比較1も対照として含めた。比較1はEDSにより分析して均一なAl65Ti35N層により、側面の厚さが3.2μmで外部供給者により堆積されたものである。各バリアントで2個のエンドミルを試験し、表2中の結果は2個の平均を示している。
【0017】
【表2】

【0018】
表2は本発明により被覆されたエンドミルである発明1が従来技術、すなわち、対照1及び比較1よりも相当に良好な耐摩耗性、すなわち、より低い最大摩耗を有することを明確に示している。
【0019】
例5
幾何形状266RG−16MM01A150Mのねじ切りインサートを例1に記載した方法によりコーティング厚2.3μmまで被覆し、そして例2に記載した方法によりコーティング厚2.1μmまで被覆した。ここで、これらを発明2及び対照2と呼ぶ。それらをインターミッテントねじ切り用途において下記のとおりに試験した。
材料 SS2541
定量化 ねじ山数
c= 110m/分
通過数 8
ねじ山長さ=25mm
工具寿命基準 Vb/Vbmax≧0.15mm
各バリアントの2個のインサートを試験し、表3の結果は2個の平均を示す。
【0020】
【表3】

【0021】
表3は本発明により被覆されたねじ切りインサートである発明2は従来技術のインサート、すなわち、対照2よりも長い工具寿命を有することを明確に示している。
【0022】
例6
幾何形状R166.OG−16VM01−002を有する超硬合金ねじ切りインサートをTi0.30Al0.70ターゲット及びCr30Al70ターゲットによりPVDアーク蒸着を用いて被覆した。基材を最初にエッチングプロセスに付し、その後、約0.10μmの厚さのTiNの初期層の堆積を行った。
その後、(Ti、Cr,Al)Nコーティングの堆積が起こった。コーティングを600℃の温度で1.0PaのN2圧で堆積させた。3回転の基材に、サブレイヤの厚さが0.2nm〜30nmであるTiAlNとAlCrNの交互の層を生じた。基材バイアス電圧を下記のシーケンスにより変化させた。
a)−75Vで6分間堆積、
b)2分間の間に、基材バイアス電圧を−150Vに増加、
c)−150Vで6分間堆積、
d)2分間の間に、基材バイアス電圧を−75Vに減少。
コーティングが2.2μmの側面でのコーティング厚となるまで工程a)〜d)を繰り返した。堆積サイクルを約0.2μmのTiNカラー層で終わりとした。ここで、このねじ切りインサートを発明3と呼ぶ。
【0023】
例7
幾何形状R166.OG−16VM01−002を有する超硬合金ねじ切りインサートを、イオンプレーティング法を用いて450℃にてTiNにより堆積した。ここで、このねじ切りインサートを対照3と呼ぶ。
【0024】
例8
例6及び7のねじ切りインサート、ならびに、同一の幾何形状を有するが、例1により堆積されたねじ切りインサート(ここで、発明4と呼ぶ)を下記のとおりのねじ切り操作にて試験した。
材料: 316Ti
定量化: ねじ山数
c= 90m/分
通過数 14
ねじ山長さ= 30mm
工具寿命基準 Vb/Vbmax≧0.15mm
各バリアントの2個のねじ切りインサートを試験し、表4の結果は2個の平均を示す。
【0025】
【表4】

【0026】
表4は本発明により被覆されたねじ切りインサートである発明1及び2は従来技術のインサート、すなわち、対照3よりも相当に長い工具寿命を有することを明確に示している。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図1d】

【図1e】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、及び、該基材上に、PVD堆積法を用いて、周期律表の第IVb族、第Vb族、第VIb族、ならびに、Al、Y及びSiから選ばれる1種以上の元素の窒化物、炭化物、酸化物、ホウ素化物又はそれらの混合物を含むコーティングである堆積物を提供することを含む被覆物体の製造方法において、
堆積方法は、活性ターゲットを維持しながら、基材バイアス電圧を変化させる少なくとも1つのシーケンスを含み、ここで、基材バイアス電圧を変化させるシーケンスはサブシーケンスSi
−第一の基材バイアス電圧Biにて10秒間〜60分間の堆積時間Tiの間堆積させ、その後、10秒間〜40分間の傾斜時間Riの間堆積させながら、基材バイアス電圧を徐々に第二の基材バイアス電圧Bi+1(│Bi−Bi+1│≧10V)に変化させることを含み、ここで、サブシーケンスSiをi=nとなるまで繰り返し、ここで、i=0,1,2,...nであり、n≧2であり、各新規のサブシーケンスは前のサブシーケンスが終わるときに使用されていたのと同一の基材バイアス電圧で堆積を開始することを特徴とする、方法。
【請求項2】
│Bi+1−Bi│≧40Vであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
│Bi+1−Bi│≧70Vであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
2≦n≦1000であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記基材バイアス電圧Biは−10〜−300Vであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記堆積時間Tiは30秒間〜30分間であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記傾斜時間Riは20秒間〜20分間であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記基材バイアス電圧を変化させる前記少なくとも1つのシーケンスの間に堆積されるコーティングは、周期律表の第IVb族、第Vb族、第VIb族、ならびに、Al、Y及びSiから選ばれる1種以上の元素の窒化物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記基材バイアス電圧を変化させる前記少なくとも1つのシーケンスの間に堆積されるコーティングは(Ti,Al)Nであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記基材バイアス電圧を変化させる前記少なくとも1つのシーケンスの間に堆積されるコーティングは(Ti,Al,Cr)Nであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティングは処理後工程にさらに付されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記物体は切削工具であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法により製造される被覆物体。
【請求項14】
前記物体は切削工具であることを特徴とする、請求項12に記載の被覆物体。

【図2】
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【公表番号】特表2013−505358(P2013−505358A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529713(P2012−529713)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050989
【国際公開番号】WO2011/034492
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(507226695)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (34)
【Fターム(参考)】