説明

物体検知装置

【課題】物体を迅速かつ精度良く検知する。
【解決手段】物体検知装置10は、車両(自車両P)の左前部および右前部に配置されて車両(自車両P)の前方領域全体を1回で走査可能な広角の右レーダ11Rおよび左レーダ11Lと、処理装置12とを備える。右レーダ11Rは、車両(自車両P)から前後方向前方に所定距離だけ離れた位置に存在する所定の先行車両Qに対して、右レーダ11Rの検出領域ARの左端と先行車両Qの後部左端QLとが一致するようにして配置されている。また、左レーダ11Lは、車両(自車両P)から前後方向前方に所定距離だけ離れた位置に存在する所定の先行車両Qに対して、左レーダ11Lの検出領域ALの右端と先行車両Qの後部右端QRとが一致するようにして配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両の前方領域全体を広範囲に検知するために、前方に向けて電磁波を発信する2つのレーダ装置を車両の左右の前部に設け、さらに、各レーダ装置の前方側に傾斜した半透過板を配置した装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置は、前方領域のうち前方側を半透過板を透過した透過波により検知し、前方領域のうち側方側を半透過板で反射された反射波により検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−57406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術に係る装置においては、半透過板の配置や、透過波と反射波とのパワー比の設定などに起因して装置構成が複雑になるという問題が生じる。
また、遠距離に存在する物体を所望の精度で検出するためには、細かく分割された角度領域を細いビーム幅の電磁波によって走査する必要が生じる。しかしながら、このような走査設定で近距離に存在する物体に対して走査を実行すると、必要とされる走査角度範囲が広くなり、走査に要する時間が嵩み、物体を迅速に検知することができないという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、物体を迅速かつ精度良く検知することが可能な物体検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の第1態様に係る物体検知装置は、自車両の左前部および右前部に配置されて、前記自車両の前方領域全体を1回で走査可能な広角のレーダ装置(例えば、実施の形態での右レーダ11Rおよび左レーダ11Lおよび処理装置12)を備える物体検知装置であって、前記レーダ装置は、前記前方領域に電磁波を発信し、該電磁波の反射波を受信することによって、前記自車両の左右方向における前記反射波の反射位置を検出可能であり、前記左前部の前記レーダ装置の検出領域右端は、前記自車両から前方に所定距離だけ離れた先行車両の後部右端を検出可能、かつ、前記右前部の前記レーダ装置の検出領域左端は、前記先行車両の後部左端を検出可能である。
【0007】
さらに、本発明の第2態様に係る物体検知装置では、前記所定距離は、前記レーダ装置で検出すべき前方物体の設定距離である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1態様に係る物体検知装置によれば、自車両から前方に所定距離だけ離れた先行車両を検知対象として、左前部および右前部のレーダ装置の検出領域の重複する領域で先行車両を検出することにより、1回の走査で検出可能な角度範囲を増大させつつ、所望の検出精度を確保することができる。
【0009】
つまり、レーダ装置の検出領域右端周辺および検出領域左端周辺で検出領域中央部に比べて検出精度が低下する場合であっても、2つのレーダ装置の検出領域に重複する領域を形成することで所望の検出精度を確保することができる。そして、少なくとも自車両から前方に所定距離だけ離れた先行車両が重複する領域内に収まるように設定しつつ、左前部および右前部の2つのレーダ装置の検出領域を自車両の前方側から側方側にずらして設定することにより、検出可能な角度範囲を前方側から側方側に拡大させることができる。
これにより、自車両の前方領域全体における広範囲の検出領域に対して、走査に要する時間が嵩むことを防止し、迅速に物体を検知可能とし、さらに、所望の検出精度を容易に確保することができる。
【0010】
本発明の第2態様に係る物体検知装置によれば、例えば先行車両に対する追従走行時の目標最小車間距離などの設定距離を、レーダ装置の検出領域を設定するための所定距離とすることで、自車両の安全走行制御などで必要とされる所望の物体検出精度を確保しつつ広範囲の角度範囲を検出可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る物体検知装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る自車両Pおよび先行車両Qの相対位置と右レーダおよび左レーダの検出領域の例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る物体検知装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の物体検知装置の一実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
この実施の形態による物体検知装置10は、例えば内燃機関(図示略)の駆動力をトランスミッション(図示略)を介して駆動輪(図示略)に伝達する車両に搭載され、図1に示すように、車両の右前部および左前部に配置された右レーダ11Rおよび左レーダ11Lと、処理装置12と、スロットルアクチュエータ13と、ブレーキアクチュエータ14と、ステアリングアクチュエータ15と、報知装置16とを備えて構成されている。
【0013】
右レーダ11Rおよび左レーダ11Lは、例えば測角および測距にモノパルス方式(例えば、位相モノパルス方式)を用いるレーダ装置であって、車両の前方領域全体を1回で走査可能な広角の角度検知範囲を有している。
右レーダ11Rおよび左レーダ11Lは、車両の前方領域に電磁波の発信信号を発信し、この電磁波が外部の物体(例えば、他車両や構造物や路面など)によって反射されることで生じた反射波の反射信号を受信する。そして、発信信号および反射信号に係る信号を処理装置12に出力する。
【0014】
そして、例えば図2に示すように、右レーダ11Rは、車両(自車両P)から前後方向前方に所定距離だけ離れた位置に存在する所定の先行車両Qに対して、右レーダ11Rの検出領域ARの左端と先行車両Qの後部左端QLとが一致するようにして配置されている。また、左レーダ11Lは、車両(自車両P)から前後方向前方に所定距離だけ離れた位置に存在する所定の先行車両Qに対して、左レーダ11Lの検出領域ALの右端と先行車両Qの後部右端QRとが一致するようにして配置されている。
これにより、車両(自車両P)から前後方向前方に所定距離だけ離れた位置に存在する所定の先行車両Qの後部は、右レーダ11Rの検出領域ARと左レーダ11Lの検出領域ALとが重なり合う重複検出領域ARL内に含まれるように設定されている。
【0015】
右レーダ11Rおよび左レーダ11Lの検出領域AR,ALを設定するための所定距離L、つまり自車両Pと重複検出領域ARL内に含まれる先行車両Qとの間の所定距離Lは、例えば先行車両Qに対する追従走行時の目標最小車間距離(例えば、3.5mなど)などである。
また、所定の先行車両Qは、例えば自動走行制御や追従走行制御などの各種の走行制御時に想定される標準的な所定車幅W(例えば、1.8mなど)を有する車両などである。
【0016】
そして、右レーダ11Rおよび左レーダ11Lの中心軸は車両(自車両P)の前後方向から左右方向に傾斜角θだけ傾けて配置されており、この傾斜角θは、例えば、所定距離Lと、所定車幅Wと、右レーダ11Rと左レーダ11Lとの間の距離RLと、右レーダ11Rおよび左レーダ11Lの各検知方位角±αとに基づき設定される。
例えば、所定距離L(=3.5m)および所定車幅W(=1.8m)および距離RL(=1.5m)において、各検知方位角±α(=±80°,±70°,±60°)に対しては、各傾斜角θ(=55°,45°,35°)となる。
【0017】
処理装置12は、例えば、2つの反射点検出部21R,21Lと、反射点分類部22と、物体位置検知部23と、物体位置判定部24と、物体検知部25と、車両制御部26とを備えて構成されている。
【0018】
各反射点検出部21R,21Lは、各右レーダ11Rおよび左レーダ11Lから出力される信号に基づき、反射波の反射位置(反射点)を検出し、各反射点の角度(少なくとも方位角と、高低角など)および距離を検出する。各反射点は、例えば、各右レーダ11Rおよび左レーダ11Lの検出領域AR,AL内において各右レーダ11Rおよび左レーダ11Lからの距離が最短距離となる反射点である。
【0019】
反射点分類部22は、各反射点検出部21R,21Lにより検出された各反射点が同一物体上に存在するか否かを判定する。この判定は、例えば、各反射点の前後方向距離(つまり、車両(自車両P)の前後方向における右レーダ11Rから反射点までの距離および左レーダ11Lから反射点までの距離)が一致するか否かなどの判定である。
【0020】
物体位置検知部23は、反射点分類部22による判定結果で各反射点が同一物体上に存在する場合に、三角法などの重ね合わせの処理によって、この物体の位置を検知する。
物体位置判定部24は、物体位置検知部23により検知された物体の位置が車両(自車両P)の走行路前方の位置であるか否かを判定する。
【0021】
物体検知部25は、物体位置判定部24による判定結果に基づき、車両(自車両P)の走行路前方の位置に検知された物体が、車両(自車両P)から前後方向前方に所定距離だけ離れた位置に存在する所定の先行車両Qを含む所定の物体であるか否かを判定する。
また、物体検知部25は、右レーダ11Rまたは左レーダ11Lのみで反射点が検出された場合には、例えば、車両(自車両P)の前方領域の側方側に物体が存在すると判定する。
【0022】
車両制御部26は、物体検知部25から出力される判定結果の信号に基づき、例えば車両(自車両P)の走行路前方に存在する先行車両Qに対する追従走行や、車両(自車両P)の走行路前方に存在する他車両に対する衝突の回避や衝突時の衝撃の軽減などを行なうようにして、車両(自車両P)の走行状態を制御する制御信号を出力する。この制御信号は、例えば、トランスミッション(T/M)の変速動作を制御する制御信号およびスロットルアクチュエータ13により内燃機関の駆動力を制御する制御信号およびブレーキアクチュエータ14により減速を制御する制御信号およびステアリングアクチュエータ15により転舵を制御する制御信号などである。
また、車両制御部26は、物体検知部25から出力される判定結果の信号に基づき、例えば車両(自車両P)の運転者に各種の情報を報知するようにして、報知装置16を制御する制御信号を出力する。
【0023】
なお、報知装置16は、例えば、触覚的伝達装置と、視覚的伝達装置と、聴覚的伝達装置とを備えて構成されている。
触覚的伝達装置は、例えばシートベルト装置や操舵制御装置などであって、車両制御部26から出力される制御信号に応じて、例えばシートベルトに所定の張力を発生させて自車両の乗員が触覚的に知覚可能な締め付け力を作用させたり、例えばステアリングホイールに自車両の運転者が触覚的に知覚可能な振動(ステアリング振動)を発生させる。
視覚的伝達装置は、例えば表示装置などであって、車両制御部26から入力される制御信号に応じて、例えば表示装置に所定の情報を表示したり、所定の灯体を点滅させる。
聴覚的伝達装置は、例えばスピーカなどであって、車両制御部26から入力される制御信号に応じて所定の音や音声などを出力する。
【0024】
この実施形態による物体検知装置10は上記構成を備えており、次に、この物体検知装置10の動作について説明する。
【0025】
先ず、例えば図3に示すステップS01においては、各右レーダ11Rおよび左レーダ11Lから出力される信号に基づき、各右レーダ11Rおよび左レーダ11Lの検出領域内の物体で反射された反射波の反射位置(反射点)を検出する。
次に、ステップS02においては、例えば右レーダ11Rおよび左レーダ11Lにより反射点が検出されか否かを判定することによって、車両(自車両P)の前方領域に存在する物体が右レーダ11Rおよび左レーダ11Lにより検知されたか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、ステップS03に進む。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、後述するステップS05に進む。
【0026】
次に、ステップS03においては、例えば左レーダ11Lのみにより反射点が検出されか否かを判定することによって、車両(自車両P)の前方領域に存在する物体が左レーダ11Lのみにより検知されたか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、ステップS04に進む。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、後述するステップS09に進む。
次に、ステップS04においては、例えば右レーダ11Rのみにより反射点が検出されか否かを判定することによって、車両(自車両P)の前方領域に存在する物体が左レーダ11Rのみにより検知されたか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、エンドに進む。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、後述するステップS09に進む。
【0027】
また、ステップS05においては、各反射点が存在する物体の位置を検出する。
次に、ステップS06においては、各反射点が存在する物体の位置が車両(自車両P)の走行路前方の位置であるか否かを判定する。
この判定結果が「YES」の場合には、ステップS07に進み、このステップS07においては、各反射点が存在する物体は車両(自車両P)の走行路前方に存在する先行車両Qなどの物体であると判断して、ステップS09に進む。
一方、この判定結果が「NO」の場合には、ステップS08に進み、このステップS08においては、各反射点が存在する物体は車両(自車両P)の走行路前方に存在しないと判断して、ステップS09に進む。
そして、ステップS09においては、右レーダ11Rおよび左レーダ11Lで反射点が検出された物体、あるいは、右レーダ11Rまたは左レーダ11Lのみで反射点が検出された物体に対して、例えば追従走行や衝突の回避や衝突時の衝撃の軽減などを行なうようにして、車両の走行状態を制御する制御信号を出力し、エンドに進む。
【0028】
上述したように、本発明の実施形態による物体検知装置10によれば、車両(自車両P)から前方に所定距離だけ離れた先行車両Qを検知対象として、右レーダ11Rおよび左レーダ11Lの検出領域AR,ALの重複検出領域ARL内で先行車両Qを検出することにより、検出可能な角度範囲を増大させつつ、所望の検出精度を確保することができる。
【0029】
つまり、各レーダ11R,11Lの検出領域右端周辺および検出領域左端周辺で検出領域中央部に比べて検出精度が低下する場合であっても、重複検出領域ARLを設けることで所望の検出精度を確保することができる。そして、少なくとも車両(自車両P)から前方に所定距離だけ離れた所定の先行車両Qが重複検出領域ARL内に収まるように設定しつつ、右レーダ11Rおよび左レーダ11Lの各検出領域AR,ALを車両(自車両P)の前方側から側方側にずらして設定することにより、検出可能な角度範囲を前方側から側方側に拡大させることができる。
【0030】
しかも、広角の角度検知範囲を有する右レーダ11Rおよび左レーダ11Lにより、車両(自車両P)の前方領域における広範囲の検出領域に対して、走査に要する時間が嵩むことを防止し、車両(自車両P)から近距離に存在する物体を迅速に検知可能とし、さらに、所望の検出精度を容易に確保することができる。
さらに、例えば細かく分割された角度領域を細いビーム幅の電磁波によって走査するレーダ装置に比べて、広角の角度検知範囲を有する右レーダ11Rおよび左レーダ11Lは、2台であっても、より安価であり、装置構成に要する費用を削減することができる。
【0031】
さらに、例えば先行車両Qに対する追従走行時の目標最小車間距離などの設定距離を、各レーダ11R,11Lの検出領域AR,ALを設定するための所定距離Lとすることで、車両(自車両P)の安全走行制御などで必要とされる所望の物体検出精度を確保しつつ広範囲の角度範囲を検出可能にすることができる。
【0032】
なお、上述した実施の形態において、右レーダ11Rおよび左レーダ11Lは測角および測距にモノパルス方式(例えば、位相モノパルス方式)を用いるレーダ装置であるとしたが、これに限定されず、測角に他の方式を用いるレーダ装置であってもよい。また、測距にパルス方式以外の他の方式、例えばFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数変調連続波)方式などを用いるレーダ装置であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 物体検知装置
11R 右レーダ(レーダ装置)
11L 左レーダ(レーダ装置)
12 処理装置(レーダ装置)
21R,21L 反射点検出部
22 反射点分類部
23 物体位置検知部
24 物体位置判定部
25 物体検知部
26 車両制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の左前部および右前部に配置されて、前記自車両の前方領域全体を1回で走査可能な広角のレーダ装置を備える物体検知装置であって、
前記レーダ装置は、前記前方領域に電磁波を発信し、該電磁波の反射波を受信することによって、前記自車両の左右方向における前記反射波の反射位置を検出可能であり、
前記左前部の前記レーダ装置の検出領域右端は、前記自車両から前方に所定距離だけ離れた先行車両の後部右端を検出可能、かつ、前記右前部の前記レーダ装置の検出領域左端は、前記先行車両の後部左端を検出可能であることを特徴とする物体検知装置。
【請求項2】
前記所定距離は、前記レーダ装置で検出すべき前方物体の設定距離であることを特徴とする請求項1に記載の物体検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−247762(P2011−247762A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121599(P2010−121599)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】