説明

物体認証システム及び物体認証方法

本発明は、文書を形成する媒質に吸収させたまたは埋め込んだナノ粒子の利用に基づいた文書の同定および照合システムならびに同定および照合する方法に関する。それによって、各々独自の特性を有する、異なるナノ粒子を組み合わせることによって、ナノ粒子の異なる光反射率特性を使用して、高性能の偽造特定を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔本発明の目的〕
本発明は、文書、または、紙幣、装置もしくは消費財のような他の任意の紙支持体(paper supports)、または、流体(liquids)のような他の支持体(supports)を同定する方法及びシステムに関する。
【0002】
本発明の目的は、埋め込まれたナノ粒子もしくは物体の被膜を形成するナノ粒子で構成される多数のマーカーを同定または照合する方法およびシステムに関する。
【0003】
〔本発明の背景〕
誘電体核及び金属殻から成るナノ粒子を与える従前の使用法において、世界の種々の研究グループは、腫瘍細胞を熱によって切除するための薬剤に上記ナノ粒子を使用していた。US2002103517-A1およびUS6530944-B2、並びに、いくつかの大衆的な科学文献により表されているように、ナノ粒子が腫瘍内に注入され、その粒子が吸収および回析される波長を有する近赤外線領域(NIR)のレーザーが外部から照射される。ナノ粒子は熱せられ、結果として腫瘍組織は温度の上昇により死滅する。
【0004】
UNIV RICE WILLIAM MARSHが保持する米国特許US6344272-B1に開示されているように、或る種のナノ粒子は、断熱塗料を得るために、塗料の充填材としても特許を取得されている。
【0005】
光音響断層撮影を用いた医用画像の中で対比剤として使われることで注目されているナノ粒子のプラズモン光学共鳴特性もまたよく知られており、US2002187347-A1およびUS7144627-B2のような様々な文献に上述の特性の使用が開示されている。それらの特性はまた、US2004214001-A1およびUS7371457-B2では、光学活性センサーを活性化させるためにも使用されている。
【0006】
他の類似の応用物もまた、ナノ粒子の光学活性弁としての使用を想定している。この使用は、「Optically controlled valves for microfluidicd devices(Sershen,S.R.,Ng,M.A.,Halas,N.J.,Beebe,D.,West,J.L. Advanced Materials, 17(2005):1366-1368)」のような文献に表されている。
【0007】
現在では、光学ラベリングを目的として使用される他の無機ナノ粒子が存在する。しかしながら、それらの無機ナノ粒子は、例えばカーボンナノチューブのような炭素分子および量子ドット(伝導帯電子、価電子帯ギャップおよび励起子(CdSe、CdS、CdTeなどの伝導帯電子および価電子帯ギャップの結合ペア)の3つの空間方向の運動を制限する半導体ナノ構造)に基づく(例えば、Evident Technologies,Inc.(著作権))。上記物質は近赤外線領域内の単一波長を放射する。
【0008】
特許発明US20070165209には、文書または銀行券の偽造を防ぐため、文書または銀行券に防護ラベルまたは識別子を適用する方法および装置が開示されている。上記識別子は、ナノラベルの形態を有していてもよく、ラマン活性の金属ナノ粒子(Raman-active metal nanoparticles)でもよい。
【0009】
とりわけ、金のナノ粒子は、所定の波長のレーザーにより活性化された場合、自身の粒子のサイズの1000倍に及ぶエリアを熱してもよい。上記特性は前述の通り、試験管内および生体内における(in vitro and in vivo)腫瘍の光熱切除に使用されている。これらのナノ粒子は、誘電体核(二酸化珪素)、及び、金または他の貴金属から成る殻(すなわち銀、白金、銅)によって形成される。核を形成する物質と殻を形成する物質との間の相対的な大きさを変更することにより、上記金の共鳴プラズモン(最適な光減衰の波長)の特性を変化させることができ、それらに近赤外線領域(NIR)内の光の吸収を引き起こさせる。800nmから1200nmの間の近赤外線領域において、組織は入射ビームの光を吸収せず透過することから、この近赤外線領域は生物医学的応用に関して興味深いものである。これが、いわゆる「水の窓(water window)」である。そのため、上述の波長領域の任意のレーザーを組織に照射したとしても、組織の温度は上昇しない。しかしながら、この組織に金/二酸化珪素のナノ粒子を浸透させた場合、そのエリアにレーザー照射を行うと、高熱による細胞死が起こる。或る研究者は、赤外線放射の吸収に関して、種々のナノ粒子の幾何学的配列および形状/厚みの影響を研究しているが、常に光療法および光熱切除での生物医学的使用の観点からの研究である。
【0010】
〔本発明の説明〕
近赤外線領域(NIR)において特徴的な放射光吸光パターンを有するナノ粒子の利用に基づいて、文書、銀行券、紙幣、高級品のラベルの同定などの、様々な物体の認証システムを提案する。この目的を達成するため、金属層の厚みおよび誘電体核の大きさの関数として変化し得る吸光パターンを示す、二酸化珪素で作られた誘電体核で構成され、金の層で覆われた混成ナノ粒子が合成された。所定の大きさの組合せは、所定の波長(例えば808nm)において規定された吸収を示すが、スペクトルの他の領域においては吸収されない。
【0011】
さらに、「水の窓」と呼ばれる、上記スペクトルのその領域では、いくつかの物質が光を吸収する。すなわち、上記スペクトルのこの領域(800nmから1200nmの間)以下では、光は発色団を伝達する物質により吸収され、この領域以上では、水を包含する物質により吸収される。例えば、私たちが自分の皮膚に、この800nmから1200nmの領域の波長を持つ放射レーザーを当てたとしても、前述の通り、私たちの皮膚および骨はその波長光を吸収せず、透過する。前節で説明した通り、これが医学的応用において大変興味深いことは明白である。そして、この理由により、多くの研究は、ナノ粒子が放射ターゲットとしてふるまう様々な生物医学的シナリオ(細胞ラベリング、高熱処理など)に用いられるこの種のナノ粒子を改良するために行われてきた。
【0012】
本発明の目的の応用は、明らかに異なる。ナノ粒子はこのNIR領域では吸収し、所定の波長では排他的に吸収するため、本発明では、誘電体核および金属殻から成るナノ粒子は、上述のナノ粒子が組み込まれた物体を認証するために使用される。これらの粒子は高性能であり、粒子の製造は多くの調査研究所、そしてもちろん偽造者の見解を超えており、それにもかかわらず、これらの粒子は低コストで製造化でき、粒子のサイズが肉眼および光学顕微鏡でさえ見えないナノメートルサイズであり、粒子は物質の本質的な特性を変化させず、粒子は容易に読み取れる特性(適用できる場合、磁気測定によって所定の波長における追加的な光吸収)に基づいた認証手段を与え、粒子は紙ベースの物質(例えば、セルロース、コットン、リネン等)、繊維織物およびポリマーに容易に導入でき、粒子は液体に分散させ、インクとして使用してもよく、通常固定された吸収特性で動作する他のナノ粒子に基づくシステムとは違って、本発明において示されるシステムは、光の吸収構成に関して高い柔軟性を示し、使用するナノ粒子の特性に応じて無数の吸光パターンが可能であることから、本発明の実践的な意義と利点は明らかである。
【0013】
本発明の目的の第1の実施形態は、これらのナノ粒子の組合せを利用し、独特で排他的な光学ラベル(および、ナノ粒子が磁気ナノ粒子と結合させて使用する場合、適用可能であれば磁気ラベル)を得て、上記ナノ粒子をラベルされた、または、埋め込まれた品物を複製することを不可能にすることを提案する。本発明で開示する、誘電体核および金属殻で構成されているナノ粒子は、ナノ粒子が近赤外線領域で吸収し、かつ、所定の波長において排他的に吸収するという事象に基づく物体の認証に使用されるため、この適用は既知のものとは明らかに異なる。
【0014】
本発明の目的の他の実施形態はまた、多数の種別のナノ粒子の可能な組合せを利用し、独特で排他的な光学ラベル(または、適用可能であれば磁気ラベルもしくは結合されたラベル)を得て、上記ナノ粒子をラベルされた、または、埋め込まれた品物を複製することを実用的に不可能にすることを提案し、独特で排他的な光学的痕跡を得るための核のサイズと殻のサイズとの比率を提案し、紙幣の偽造を防ぐだけではなく、装置および高付加価値消費財等の偽造も防ぐ。
【0015】
〔図面の説明〕
上記説明を完全にするため、また、本発明についてのより深い理解を与えるため、好ましい実用的な実施形態に従って、上述の説明の必須部分として図面一式は添付される。次からの図では実例を示しており、発明の範囲を限定するものではない。
【0016】
図1は、ナノ粒子合成のTEM画像を示す。
【0017】
図2は、核サイズが50nmの二酸化珪素/金のナノ粒子の吸光グラフと、826nmでの吸収最大とを示す。
【0018】
図3は、核サイズが100nmの二酸化珪素/金のナノ粒子の吸光グラフと、713nmでの吸収最大とを示す。
【0019】
〔本発明の好ましい実施形態〕
図面に照らして、本発明の好ましい実施形態の工程を以下で説明する。
【0020】
本発明の目的の実施形態によると、共鳴プラズモンの異なる吸収特性を得るため、相対的な大きさが異なる2つのタイプの二酸化珪素/金のナノ粒子が合成される。このために、古典的な湿式化学技術を使用して物質が合成される。ストーバー法によって二酸化珪素から作られた誘電体核にはゾル‐ゲル技術が使用され、Oldenburgらが提唱する方法に従って金の殻を得るために、シーディング(seeding)および二次成長が使用される。
【0021】
このように、アミノ基で機能化された二酸化珪素を含むナノ粒子を得て、金前駆物質(塩化金酸(chloroauric acid))での連続再成長ステップに続く物質の層形成成長される(別途用意された)金の粒子で表面上に異種結晶化が達成される。
【0022】
ここで得られたナノ粒子は以下の手段で特性が表される。
‐ナノ粒子のサイズを測定するための透過型電子顕微鏡検査。誘電体核と金の殻を識別するために、デュアルビーム装置(NovaTM 200 NanoLab)を使用した。
‐電子回折を行い、非結晶二酸化珪素核を囲む金の殻の結晶の性質を確認するための高解像度透過型電子顕微鏡検査。このため、TEI Instruments社製のHRTEM装置を使用した。
‐合成された物質の特定の表面エリアを決定するための、Micromeritis社製の窒素吸着装置を用いた窒素の吸着/脱着。
‐Malvern Zeta Sizer 2000装置を用いた、異なる媒質の中で異なるpHで分散しているナノ粒子の流体力学的サイズを決定するための光子相関分光法。
‐誘電体核上に金の殻を成長させる前の表面上のアミノ基の量を決定するための熱重量分析。
‐物質の基本的な組成を決定するための原子吸収放出分析分光法(ICP)。
‐ナノ粒子の表面を構成する成分の原子番号および発見した結合を決定するためのX線分光法(XPS)。
‐物質と物質の被覆物および官能基と間の相互作用、並びに、結合を決定するための接触室(DRIFT)内でのフーリエ変換赤外線分光法(FTIR)。
‐吸光率を評価し、合成されたナノ粒子が800nmから1200nmの近赤外線領域の光を吸収または散乱するか否かを判定するためのUV-VIS-NIR分光法。
‐光が存在するおよび光がない標準的な保管状態(standard storage conditions)下における、合成物の複製および時間をかけて形成されたナノ粒子の不変性の検討。
【0023】
図1は、合成されたナノ粒子の形態を示す。
【0024】
図2および図3は、核のサイズと殻のサイズとの比率を変えることにより、各ナノ粒子の特性を示す近赤外線領域における吸光スペクトルがどのように得られるかを示す。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ナノ粒子合成のTEM画像を示す図である。
【図2】核サイズが50nmの二酸化珪素/金のナノ粒子の吸光グラフと、826nmでの吸収最大とを示す図である。
【図3】核サイズが100nmの二酸化珪素/金のナノ粒子の吸光グラフと、713nmでの吸収最大とを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体核および金属殻から構成されるナノ粒子および近赤外線領域の光源を備える物体を認証する方法であって、
ゾル‐ゲル技術によって上記誘電体核を合成し、シーディングおよび2次成長によって金属殻を合成するステップと、
アミノ基で機能化して、別々に合成された金のナノ粒子と上記核との間に共有結合を生成するステップと、
金前駆物質での再成長によって金の層を成長させて上記金属殻を規定し、それによってナノ粒子を作るステップと、
以下の操作で、先のステップで得られたナノ粒子の特性を表すステップと、
透過電子顕微鏡によって上記ナノ粒子の大きさを決定するステップと、
電子回折を利用する高解像度透過電子顕微鏡によって、上記金属殻の結晶の性質を確認するステップと、
窒素吸着および脱着によって、合成された物質の特定の表面エリアを決定するステップと、
光子相関分光によって、異なる媒質の中で分散している上記ナノ粒子の流体力学的大きさを測定するステップと、
熱重量分析によって、上記誘電体核上に上記金属殻を成長させる前の上記表面上のアミノ基の量を測定するステップと、
原子吸収放出分析分光によって、上記物質の基本的な組成を決定するステップと、
X線分光によって、上記ナノ粒子の表面を構成する成分の原子番号および発見した結合を測定するステップと、
接触室内でのフーリエ変換赤外線分光によって、上記結合、並びに、上記物質と当該物質の被覆物および官能基との間の相互作用を決定するステップと、
UV-VIS-NIR分光によって、吸光率を評価するステップと、
認証される物体に上記粒子を添加するステップと、
所定の波長の光を照射するステップと、
上記ナノ粒子によって上記所定の波長の光の吸収を照合し、その結果として、認証される上記物体を認証するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記金前駆物質は塩化金酸であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記誘電体核は無機酸化物であり、上記金属殻は金、銀、白金および銅の何れかの金属から作られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記核の上記無機酸化物は、二酸化珪素または二酸化チタンであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記核および上記金属殻が異なる寸法であり、かつ、当該核および当該金属殻を作る上記物質が異なる性質であるナノ粒子の組合せを含む特定の吸収パターンを規定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
上記ナノ粒子の上記核は、多孔性であり、孔内への第三の種の収容に適合されることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
偽造に対する追加のセキュリティ成分として働く磁気ナノ粒子を添加するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
上記ナノ粒子は、直鎖または多次元マトリクスを形成することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
上記ナノ粒子は、微小の球体、微小の線状、微小の棒状、4面体および立方体のいずれかから選択された形状を有することを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
紙幣を認証するための請求項1から9の何れか1項に記載の方法の使用。
【請求項11】
文書を認証するための請求項1から9の何れか1項に記載の方法の使用。
【請求項12】
香料のような流体を認証するための請求項1から9の何れか1項に記載の方法の使用。
【請求項13】
装置を認証するための請求項1から9の何れか1項に記載の方法の使用。
【請求項14】
高付加価値消費財(例えば衣服、靴、アクセサリー等)を認証するための請求項1から9の何れか1項に記載の方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−508842(P2013−508842A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534728(P2012−534728)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際出願番号】PCT/ES2010/000415
【国際公開番号】WO2011/061359
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(512102346)ウニヴェルシダッド デ サラゴサ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE ZARAGOZA
【住所又は居所原語表記】C/Pedro Cerbuna,12,50009 Zaragoza,SPAIN
【Fターム(参考)】