説明

物理蒸着法で被覆した切削工具

【課題】本発明は、超硬合金の表面に備わる金属機械加工のために改良された性質、及び前記基材の表面上に硬質の耐摩耗性の被膜を有する切削工具を開示する。
【解決手段】前記被膜は物理蒸着法(PVD)によって堆積される。前記被膜は、アルミナ(Al23)と組み合わされた金属窒化物からなる。前記被膜は、薄層で多層の構造からなる。このインサートは、すくい面及び逃げ面のそれぞれの上に種々の外側層を備えるためにさらに処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属機械加工のために改良された諸性質を備え、超硬合金の基材と前記基材表面に硬質で耐摩耗性の被膜とを有する切削工具に関する。この被膜は、物理蒸着法(PVD)で堆積される。この被膜は、アルミナ(Al23)と組み合わされた金属窒化物からなる。この被膜は、層上の多層の構造からなる。性能を最適化するために、このインサートは、すくい面及び逃げ面のそれぞれに種々の外側層を備えるためにさらに処理される。
【背景技術】
【0002】
金属の切屑を成形する機械加工用の最近の高生産性の工具は、優れた摩耗諸性質を備えた信頼性のある工具が要求される。1960年後期からは、工具寿命は工具の表面に適切な被膜を添付することにより著しく改良できることが既知である。摩耗適用のための最初の被膜は、化学蒸着法(CVD)によって作られ、且つこの技術はまだ広範囲に使用されている。物理蒸着法(PVD)は1980年代中期に導入され、且つその後さらにTiNまたはTi(C、N)のような安定な金属化合物の単一層から改良され、(Ti、Al)Nのような準安定化合物またはAl23のような非準安定化合物を含んでいる多層構成物及び多層被膜を含む必要がある。
【0003】
900℃未満の蒸着温度を使用する超硬合金切削工具状のアルミナのRFスパッタリングは、Shinzato et.al, Thin Sol. Films, 97 (1982) 333 - 337に開示される。摩耗の防止のためアルミナのPVD被膜の使用は、Knotek et.al, Surf. Coat. Techn., 59 (1993) 14 -20に開示され、このアルミナは、耐摩耗性の炭窒化物層上の最外層として堆積される。このアルミナ層は、付着摩耗を最小にすること、及び化学摩耗に対するバリヤーとして作用するということが言える。米国特許第5,879,823号は、1層または2層の外側積層としてPVDアルミナで被覆した工具材料を開示し、この非酸化物層は、例えばTiAlが含まれている。この工具はTiNの外側層を含んでも良い。このAl23は、アルファ、カッパ、シータ、ガンマまたは非晶質タイプでも良い。この酸化物の多形体が400組織または440組織のガンマタイプであるアルミナ被覆工具が、米国特許第6,210,726号に開示される。米国特許第5,310,607号は、5%以下のCr含有量のPVD蒸着したアルミナを開示する。20GPaの硬さ及びアルファ相の結晶構造が、20%以上のCr含有量で判明した。Crの無添加は、5GPaの硬さを有する非晶質アルミナが与えられる。
【0004】
極最近の被覆工具は、裸眼で使用及び未使用の切刃の識別を容易にするために、金色のTiNの頂部層を有する。TiNは必ずしも望ましい頂部層でなく、特に切屑がTiN層に付着しやすい場合は望ましくない。被膜の部分的な吹き付け加工がヨーロッパ特許第1193328A号に開示され、摩耗を検知するための目的を備えると同時に、下層の被膜のためになる性質を維持する。すくい面上の摩耗は、実際はほとんど化学的であり、化学的に安定な化合物を必要とするのに対して、逃げ面上の摩耗は、実際はほとんど機械的であり、比較的硬い耐付着性の化合物を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、多層の被膜を備えた改良された切削工具の組成物を提供することである。
【0006】
さらに、本発明の目的は、救い面及び逃げ面のそれぞれの上の種々の外側層という考えを用いて、PVD被覆切削工具の性能をさらに改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
PVDによる工程において好ましく製造された被膜は、基材の次の(Ti、Al)N−化合物、(Ti、Al)N層の頂部上のアルミナ層、(Ti、Al)Nとアルミナとのさらに少なくとも二つの交互の層、及びZrNの最外層からなる。このZrN層は、好ましくはブラスト加工またはブラシ加工の後処理において、すくい面上から取除かれる。すくい面上からのZrNの完全な除去のために、幾つかの繰返しブラシ加工またはブラスト加工がほとんど必要である。不完全な除去は、ZrN残留物の切屑への局部的溶着をもたらし、工具寿命を減少する。頂部ZrN層の付着を減少させるために、亜化学量論的なZrN1-xの中間層が、このZrN層の下のアルミナ層上に堆積される。この亜化学量論的なZrN1-xは、強度が低下され且つ頂部ZrN層の除去を促進する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明にしたがい、切刃を規定するために、上面(すくい面)、対面、及び前記上面と対面と交差する少なくとも一つの逃げ面を有し、且つ超硬合金及び硬質層系を含んで成る切削工具インサートを提供する。超硬合金は、86〜90wt%のWCと1〜2wt%の(Ta、Nb)Cと8〜13wt%のCo、好ましくは88〜89wt%のWCと1.2〜1.8wt%の(Ta、Nb)Cと10〜11wt%のCoとの組成を有する。硬質層系は、3〜30μmの合計厚みを有し、且つ
− 1〜5μm好ましくは2〜4μmの厚みの(Ti、Al)Nの第1の層、
− 1〜4μm好ましくは1〜2μmの厚みのアルミナ層好ましくはγアルミナ、
− 0.5μm以下好ましくは0.1〜0.3μmの厚みで、N≧2である((T i、Al)N+アルミナ)*Nの多層、
− 好ましくは薄くて好ましくは0.1μm以下であり、好ましくはx=0.01 〜0.1の亜化学量論的なZrN1-xの層、及び
− 1μm以下好ましくは0.1〜0.6μmの厚みで、前記すくい面上及び切刃 線上で欠落するZrN層、
を含み、且つ
前記(Ti、Al)Nの層は、60/40<Al/Ti<70/30、最も好ましくはAl/Ti=67/33の原子組成を好ましくは有する。
【0009】
また、本発明は、切刃を規定するために、上面(すくい面)と、対面と、前記上面と対面と交差する少なくとも一つの逃げ面とを有する被覆した切削工具のインサートの製造する方法であり、次の工程:すなわち、
86〜90wt%のWCと1〜2wt%の(Ta、Nb)Cと8〜13wt%のCo、好ましくは88〜89wt%のWCと1.2〜1.8wt%の(Ta、Nb)Cと10〜11wt%のCoの組成を有する超硬合金の基材を備える工程、
物理蒸着法を用いて3〜30μmの合計厚みを有する硬質層系を、前記超硬合金の基材に堆積する工程、且つ前記硬質層系が、
− 1〜5μm好ましくは2〜4μmの厚みの(Ti、Al)Nの第1の層、
− 1〜4μm好ましくは1〜2μmの厚みのアルミナ層好ましくはγアルミナ、
− 0.5μm以下好ましくは0.1〜0.3μmの厚みで、N≧2である((T i、Al)N+アルミナ)*Nの多層、
− 好ましくは薄くて好ましくは0.1μm以下であり、好ましくはx=0.01 〜0.1の亜化学量論的なZrN1-xの層、及び
− 1μm以下好ましくは0.1〜0.6μmの厚みを有する最外層のZrN層、
を含んで成り、且つ前記(Ti、Al)Nの層は、好ましくは60/40<A l/Ti<70/30、最も好ましくはAl/Ti=67/33の原子組成を 有し、且つ
前記ZrNの層を、後処理好ましくはブラシ加工またはブラスト加工によって前記すくい面上及び前記切刃線上から除去する工程、
を含んで成る。
【0010】
実施例1
88wt%のWCと1.5wt%の(Ta、Nb)Cと10.5wt%のCoの組成を有する超硬合金インサート、ADMT160608Rが、次の順序に従い一つの処理において物理蒸着技術(PCV)で被覆された。
バージョンA:堆積層(Ti0.33Al0.67N−Al23−Ti0.33Al0.67
−Al23−Ti0.33Al0.67N−Al23
バージョンB:堆積層(Ti0.33Al0.67N−Al23
バージョンC:Ti0.33Al0.67N層
【0011】
このインサートは、乾式の肩部フライス加工用途において試験をした。
加工部材:マルテンサイトステンレス鋼、X90CrMoV18(1.4112)
切削速度:140M/min
工具寿命基準:製造された部品の個数
表1. 端部フライス加工後の製造された工具寿命の個数
被膜 Ti0.33Al0.67N Ti0.33Al0.67N 3×(Ti0.33Al
−Al23 0.67N−Al23
工具寿命 3 4 7
部品数
この結果が、端部フライス加工における工具寿命に及ぼす層厚み増加の効果を示す。
【0012】
実施例2
88wt%のWCと1.5wt%の(Ta、Nb)Cと10.5wt%のCoの組成を有する超硬合金インサート、ADMT160608Rが、次の順序に従い一つの処理において物理蒸着技術(PCV)で被覆された。すなわち、
3μmの(Ti、Al)N(Al/Ti、67/33%)、1.5μmのナノ結晶質のγアルミナ、0.2μmの(Ti、Al)N(Al/Ti、67/33%)、0.2μmのナノ結晶質のγアルミナ、0.1μmの(Ti、Al)N(Al/Ti、67/33%)、0.1μmのナノ結晶質のγアルミナである。
【0013】
このZrNの頂部層は、湿潤吹き付け処理においてアルミナを用いて、すくい面上に吹き付け処理が施された。
吹き付け処理及び非吹き付け処理を施した双方のインサートが、Ti合金(靭性値、1400N/mm2)を端部フライス加工するために用いられた。
最大逃げ面摩耗は、890mmの切削距離後に測定され、次の結果が得られた。
表2. 端部フライス加工後の摩耗(mm)
非処理 すくい面上を取除いたZrN
最大逃げ面摩耗 0.40〜0.45 0.15〜0.23
最大半径摩耗 0.23〜0.3 0.10〜0.13
頂部すくい面上のZrNの取り除きが、かなり低い摩耗をもたらすことを明確に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃を規定するために、上面(すくい面)と、対面と、前記上面と対面と交差する少なくとも一つの逃げ面とを有し、物理蒸着法で被覆した超硬合金のインサートであって、
前記超硬合金は、86〜90wt%のWCと1〜2wt%の(Ta、Nb)Cと8〜13wt%のCo、好ましくは88〜89wt%のWCと1.2〜1.8wt%の(Ta、Nb)Cと10〜11wt%のCo、の組成を有し、
前記超硬合金は、
− 1〜5μm好ましくは2〜4μmの厚みの(Ti、Al)Nの第1の層、
− 1〜4μm好ましくは1〜2μmの厚みのアルミナ層好ましくはγアルミナ、
− 0.5μm以下好ましくは0.1〜0.3μmの厚みで、N≧2である((T i、Al)N+アルミナ)*Nの多層、及び
− 1μm以下好ましくは0.1〜0.6μmの厚みで、前記すくい面上及び切刃 線上で欠落するZrN層、
を含む3〜30μmの合計厚みを有する硬質層系で被覆され、且つ
前記(Ti、Al)Nの層は、60/40<Al/Ti<70/30、最も好ましくはAl/Ti=67/33の原子組成を好ましく有する、
ことを特徴とする物理蒸着法で被覆した超硬合金のインサート。
【請求項2】
前記ZrNの頂部層の下の、薄くて好ましくは0.1μm以下であり、好ましくはx=0.01〜0.1の亜化学量論的なZrN1-xの層を特徴とする請求項1に記載の切削工具インサート。
【請求項3】
切刃を規定するために、上面(すくい面)と、対面と、前記上面と対面と交差する少なくとも一つの逃げ面とを有する被覆した切削工具のインサートの製造する方法であって、
次の工程、
86〜90wt%のWCと1〜2wt%の(Ta、Nb)Cと8〜13wt%のCo、好ましくは88〜89wt%のWCと1.2〜1.8wt%の(Ta、Nb)Cと10〜11wt%のCoの組成を有する超硬合金の基材を備える工程、
物理蒸着法を用いて3〜30μmの合計厚みを有する硬質層系を、前記超硬合金の基材に堆積する工程、且つ前記硬質層系が、
− 1〜5μm好ましくは2〜4μmの厚みの(Ti、Al)Nの第1の層、
− 1〜4μm好ましくは1〜2μmの厚みのアルミナ層好ましくはγアルミナ、
− 0.5μm以下好ましくは0.1〜0.3μmの厚みで、N≧2である((T i、Al)N+アルミナ)*Nの多層、及び
− 1μm以下好ましくは0.1〜0.6μmの厚みを有する最外層のZrN層、
を含んで成り、且つ前記(Ti、Al)Nの層は、60/40<Al/Ti< 70/30、最も好ましくはAl/Ti=67/33の原子組成を好ましく有 すること、及び、
前記ZrNの層を、後処理好ましくはブラシ加工またはブラスト加工によって前記すくい面上及び前記切刃線上から除去する工程、
を特徴とする超硬合金のインサートの製造する方法。
【請求項4】
前記((Ti、Al)N+アルミナ)*Nの多層の頂部に、薄くて好ましくは0.1μm以下であり、好ましくはx=0.01〜0.1の亜化学量論的なZrN1-xの層を堆積する工程を特徴とする請求項3に記載の製造する方法。

【公開番号】特開2007−75990(P2007−75990A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−244004(P2006−244004)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】