説明

物理量センサおよび物理量計測方法

【課題】物体の変位や速度を高い分解能で計測し、計測に要する時間を短縮する。
【解決手段】物理量センサは、物体10にレーザ光を放射する半導体レーザ1と、半導体レーザ1を動作させるレーザドライバ4と、半導体レーザ1から放射されたレーザ光と物体10からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出するフォトダイオード2および電流−電圧変換増幅部5と、電流−電圧変換増幅部5の出力信号に含まれる干渉波形の周期を計測する信号抽出部7と、信号抽出部7で計測された干渉波形の周期を、その直前と直後のうち少なくとも一方において計測された干渉波形の周期の移動平均値と比較することにより、干渉波形の周期を補正し、補正した個々の周期に基づいて物体10の変位と速度のうち少なくとも一方を算出する演算部8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザから放射したレーザ光と物体からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉の情報から、物体の変位や速度を計測する物理量センサおよび物理量計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave )レーダやタイムオブフライトタイプのセンサなどの、干渉原理を利用した変位(速度)測定手法においては、ビートや干渉縞の周波数を基に測定対象の変位や速度を算出する際、一般的にFFT(Fast Fourier Transform)などの信号処理や干渉縞の計数処理などが用いられる。しかし、FFTによって高分解能を実現するためには、長いサンプリング時間と高いサンプリング周期のデータが必要で、莫大な処理時間を要するという問題点がある。また、干渉縞の計数処理においては、半波長未満の変位を測定するためにセンサを物理的に振動させたり、干渉縞の振幅の解析を行ったりする必要があり、測定対象の周期運動である振動しか計測することができないという問題点があり、さらに干渉縞の計数処理に時間がかかるという問題点があった。
【0003】
一方、発明者は、半導体レーザの自己結合効果を用いた波長変調型のレーザ計測器を提案した(特許文献1参照)。このレーザ計測器の構成を図24に示す。図24のレーザ計測器は、物体210にレーザ光を放射する半導体レーザ201と、半導体レーザ201の光出力を電気信号に変換するフォトダイオード202と、半導体レーザ201からの光を集光して物体210に照射すると共に、物体210からの戻り光を集光して半導体レーザ201に入射させるレンズ203と、半導体レーザ201に発振波長が連続的に増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に減少する第2の発振期間とを交互に繰り返させるレーザドライバ204と、フォトダイオード202の出力電流を電圧に変換して増幅する電流−電圧変換増幅器205と、電流−電圧変換増幅器205の出力電圧を2回微分する信号抽出回路206と、信号抽出回路206の出力電圧に含まれるMHPの数を数える計数回路207と、物体210との距離及び物体210の速度を算出する演算装置208と、演算装置208の算出結果を表示する表示装置209とを有する。
【0004】
レーザドライバ204は、時間に関して一定の変化率で増減を繰り返す三角波駆動電流を注入電流として半導体レーザ201に供給する。これにより、半導体レーザ201は、発振波長が一定の変化率で連続的に増加する第1の発振期間と発振波長が一定の変化率で連続的に減少する第2の発振期間とを交互に繰り返すように駆動される。図25は、半導体レーザ201の発振波長の時間変化を示す図である。図25において、P1は第1の発振期間、P2は第2の発振期間、λaは各期間における発振波長の最小値、λbは各期間における発振波長の最大値、Ttは三角波の周期である。
【0005】
半導体レーザ201から出射したレーザ光は、レンズ203によって集光され、物体210に入射する。物体210で反射された光は、レンズ203によって集光され、半導体レーザ201に入射する。フォトダイオード202は、半導体レーザ201の光出力を電流に変換する。電流−電圧変換増幅器205は、フォトダイオード202の出力電流を電圧に変換して増幅し、信号抽出回路206は、電流−電圧変換増幅器205の出力電圧を2回微分する。計数回路207は、信号抽出回路206の出力電圧に含まれるモードホップパルス(MHP)の数を第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々について数える。演算装置208は、半導体レーザ201の最小発振波長λaと最大発振波長λbと第1の発振期間P1におけるMHPの数と第2の発振期間P2におけるMHPの数に基づいて、物体210との距離及び物体210の速度を算出する。このような自己結合型のレーザ計測器によれば、半導体レーザ201の半波長程度の分解能の変位計測と、半導体レーザ201の波長変調量に反比例した分解能の距離計測とを行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−313080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自己結合型のレーザ計測器によれば、従来のFMCWレーダやタイムオブフライトタイプのセンサなどに比べて、測定対象の変位や速度を高い分解能で計測することができる。しかしながら、自己結合型のレーザ計測器では、FFTと同じように変位や速度の算出にある程度の計測時間(特許文献1の例では、半導体レーザの発振波長変調の搬送波の半周期)が必要となるため、速度の変化が速い測定対象の計測においては計測誤差を生じるという問題点があった。また、信号処理においてMHPの数を数える必要があるため、半導体レーザの半波長未満の分解能を実現することが難しいという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、物体の変位や速度を高い分解能で計測することができ、計測に要する時間を短縮することができる物理量センサおよび物理量計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の物理量センサは、測定対象にレーザ光を放射する半導体レーザと、発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように前記半導体レーザを動作させる発振波長変調手段と、前記半導体レーザから放射されたレーザ光と前記測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手段と、この検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手段と、この信号抽出手段の計測結果を記憶する記憶手段と、この記憶手段に記憶された1つの干渉波形の周期を補正対象の干渉波形の周期としたとき、この補正対象の干渉波形の周期に対して、その直前と直後のうち少なくとも一方において計測され前記記憶手段に記憶された干渉波形の周期の移動平均値を算出する移動平均値算出手段と、前記補正対象の干渉波形の周期と前記移動平均値とを比較することにより前記補正対象の干渉波形の周期を補正し、この補正の結果に従って前記記憶手段に記憶された周期を更新する周期補正手段と、この周期補正手段で補正された個々の周期の基準周期に対する変化量に基づいて、前記測定対象の変位と速度のうち少なくとも一方を算出する物理量算出手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記物理量算出手段は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、前記基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記周期補正手段で補正された周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位と速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記移動平均値算出手段は、前記補正対象の干渉波形の周期の直前に計測され前記記憶手段に記憶された所定数の干渉波形の周期の移動平均値と前記補正対象の干渉波形の周期の直後に計測され前記記憶手段に記憶された所定数の干渉波形の周期の移動平均値とを算出し、前記周期補正手段は、前記移動平均値算出手段が算出した2つの移動平均値のうち小さい方をT1、大きい方をT2とし、Tx=T1+α・(T2−T1)としたとき(0≦α≦1)、前記補正対象の干渉波形の周期が前記Txの所定数k倍未満の場合は(kは1未満の正の値)、この補正対象の干渉波形の周期と次に計測された干渉波形の周期とを合わせた周期を補正後の干渉波形の周期とし、周期を合わせた波形を1つの波形とし、前記補正対象の干渉波形の周期が前記Txの(m−0.5)倍以上で且つ前記Txの(m+0.5)倍未満の場合は(mは2以上の自然数)、前記補正対象の干渉波形の周期をm等分した周期をそれぞれ補正後の周期とし、補正後の周期の波形がm個あるものとすることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の物理量センサの1構成例において、前記物理量算出手段は、前記測定対象が静止しているときの前記干渉波形の周期または前記補正の直前に計測された所定数の干渉波形の周期の平均を前記基準周期とすることを特徴とするものである。
また、本発明の物理量センサの1構成例は、さらに、前記検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手段と、この計数手段によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手段の計数結果とから前記測定対象との距離を算出する距離算出手段と、この距離算出手段が算出した距離から前記干渉波形の周期を求める周期算出手段とを備え、前記物理量算出手段は、前記周期算出手段が求めた周期を前記基準周期とすることを特徴とするものである。
また、本発明の物理量センサの1構成例は、さらに、前記検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手段と、前記干渉波形の数の平均値を算出することにより前記半導体レーザと前記測定対象との平均距離に比例した干渉波形の数である距離比例個数を求める距離比例個数算出手段と、前記距離比例個数から前記干渉波形の周期を算出する周期算出手段とを備え、前記物理量算出手段は、前記周期算出手段が求めた周期を前記基準周期とすることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の物理量計測方法は、発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように半導体レーザを動作させる発振手順と、前記半導体レーザから放射されたレーザ光と測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手順と、この検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手順と、この信号抽出手順の計測結果を記憶手段に記憶させる記憶手順と、前記記憶手段に記憶された1つの干渉波形の周期を補正対象の干渉波形の周期としたとき、この補正対象の干渉波形の周期に対して、その直前と直後のうち少なくとも一方において計測され前記記憶手段に記憶された干渉波形の周期の移動平均値を算出する移動平均値算出手順と、前記補正対象の干渉波形の周期と前記移動平均値とを比較することにより前記補正対象の干渉波形の周期を補正し、この補正の結果に従って前記記憶手段に記憶された周期を更新する周期補正手順と、この周期補正手順で補正された個々の周期の基準周期に対する変化量に基づいて、前記測定対象の変位と速度のうち少なくとも一方を算出する物理量算出手順とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、個々の干渉波形の周期に基づいて算出を行うことにより、測定対象の変位や速度を従来よりも高い分解能で計測することができる。また、従来の自己結合型のレーザ計測器では、搬送波の半周期の計測時間がかかるのに対して、本発明では、1つ1つの干渉波形の周期から測定対象の変位や速度を求めることができるので、計測に要する時間を大幅に短縮することができ、速度の変化が速い測定対象にも対応することができる。さらに、本発明では、信号抽出手段で計測された補正対象の干渉波形の周期を、その直前と直後のうち少なくとも一方において計測された干渉波形の周期の移動平均値と比較することにより、干渉波形の周期の誤差を補正することができるので、変位や速度の計測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における電流−電圧変換増幅部の出力電圧波形およびフィルタ部の出力電圧波形を模式的に示す波形図である。
【図3】モードホップパルスについて説明するための図である。
【図4】半導体レーザの発振波長とフォトダイオードの出力波形との関係を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における信号抽出部の構成例を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態における信号抽出部の動作を説明するための図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態における演算部の構成例を示すブロック図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態における周期補正部の動作を説明するための図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態における信号抽出部の計測結果の補正原理を説明するための図である。
【図10】モードホップパルスの周期の度数分布を示す図である。
【図11】2倍の周期になったモードホップパルスの周期の度数分布を示す図である。
【図12】計数時に欠落したモードホップパルスのうち2分割されたモードホップパルスの周期の度数分布を示す図である。
【図13】計数時に欠落したモードホップパルスのうち2分割されたモードホップパルスの周期の度数分布を示す図である。
【図14】物体が等速運動している場合の物体との距離の変化を示す図である。
【図15】物体が等速運動している場合のモードホップパルスの周期の度数分布を示す図である。
【図16】物体の速度が変化している場合の物体との距離の変化および物体の速度の変化を示す図である。
【図17】物体の速度が変化している場合のモードホップパルスの周期の度数分布を示す図である。
【図18】本発明の第3の実施の形態における演算部の構成例を示すブロック図である。
【図19】本発明の第4の実施の形態における演算部の構成例を示すブロック図である。
【図20】本発明の第4の実施の形態における計数部の計数結果の時間変化の1例を示す図である。
【図21】本発明の第4の実施の形態における計数部の計数結果の時間変化の他の例を示す図である。
【図22】本発明の第5の実施の形態における半導体レーザの発振波長の時間変化の他の例を示す図である。
【図23】本発明の第6の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
【図24】従来のレーザ計測器の構成を示すブロック図である。
【図25】図24のレーザ計測器における半導体レーザの発振波長の時間変化の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図である。
図1の物理量センサは、測定対象の物体10にレーザ光を放射する半導体レーザ1と、半導体レーザ1の光出力を電気信号に変換するフォトダイオード2と、半導体レーザ1からの光を集光して放射すると共に、物体10からの戻り光を集光して半導体レーザ1に入射させるレンズ3と、半導体レーザ1を駆動する発振波長変調手段となるレーザドライバ4と、フォトダイオード2の出力電流を電圧に変換して増幅する電流−電圧変換増幅部5と、電流−電圧変換増幅部5の出力電圧から搬送波を除去するフィルタ部6と、フィルタ部6の出力電圧に含まれる自己結合信号であるモードホップパルス(以下、MHPとする)の周期を計測する信号抽出部7と、信号抽出部7が計測した個々の周期に基づいて物体10の変位や速度を算出する演算部8と、演算部8の算出結果を表示する表示部9とを有する。
【0016】
フォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5とは、検出手段を構成している。以下、説明容易にするために、半導体レーザ1には、モードホッピング現象を持たない型(VCSEL型、DFBレーザ型)のものが用いられているものと想定する。
【0017】
レーザドライバ4は、時間に関して一定の変化率で増減を繰り返す三角波駆動電流を注入電流として半導体レーザ1に供給する。これにより、半導体レーザ1は、注入電流の大きさに比例して発振波長が一定の変化率で連続的に増加する第1の発振期間P1と発振波長が一定の変化率で連続的に減少する第2の発振期間P2とを交互に繰り返すように駆動される。このときの半導体レーザ1の発振波長の時間変化は、図25に示したとおりである。本実施の形態では、半導体レーザ1の発振波長の変化速度が一定であることが必要である。
【0018】
半導体レーザ1から出射したレーザ光は、レンズ3によって集光され、物体10に入射する。物体10で反射された光は、レンズ3によって集光され、半導体レーザ1に入射する。ただし、レンズ3による集光は必須ではない。フォトダイオード2は、半導体レーザ1の内部又はその近傍に配置され、半導体レーザ1の光出力を電流に変換する。電流−電圧変換増幅部5は、フォトダイオード2の出力電流を電圧に変換して増幅する。
【0019】
フィルタ部6は、変調波から重畳信号を抽出する機能を有するものである。図2(A)は電流−電圧変換増幅部5の出力電圧波形を模式的に示す図、図2(B)はフィルタ部6の出力電圧波形を模式的に示す図である。これらの図は、フォトダイオード2の出力に相当する図2(A)の波形(変調波)から、図2の半導体レーザ1の発振波形(搬送波)を除去して、図2(B)のMHP波形(干渉波形)を抽出する過程を表している。
【0020】
次に、信号抽出部7は、フィルタ部6の出力電圧に含まれるMHPの周期をMHPが発生する度に計測する。ここで、自己結合信号であるMHPについて説明する。図3に示すように、ミラー層1013から物体10までの距離をL、レーザの発振波長をλとすると、以下の共振条件を満足するとき、物体10からの戻り光と半導体レーザ1の光共振器内のレーザ光は強め合い、レーザ出力がわずかに増加する。
L=qλ/2 ・・・(1)
式(1)において、qは整数である。この現象は、物体10からの散乱光が極めて微弱であっても、半導体レーザ1の共振器内の見かけの反射率が増加することにより、増幅作用が生じ、十分観測できる。
【0021】
図4は、半導体レーザ1の発振波長をある一定の割合で変化させたときの発振波長とフォトダイオード2の出力波形との関係を示す図である。式(1)に示したL=qλ/2を満足したときに、戻り光と光共振器内のレーザ光の位相差が0°(同位相)になって、戻り光と光共振器内のレーザ光とが最も強め合い、L=qλ/2+λ/4のときに、位相差が180°(逆位相)になって、戻り光と光共振器内のレーザ光とが最も弱め合う。そのため、半導体レーザ1の発振波長を変化させていくと、レーザ出力が強くなるところと弱くなるところとが交互に繰り返し現れ、このときのレーザ出力をフォトダイオード2で検出すると、図4に示すように一定周期の階段状の波形が得られる。このような波形は一般的には干渉縞と呼ばれる。この階段状の波形、すなわち干渉縞の1つ1つがMHPである。前記のとおり、ある一定時間において半導体レーザ1の発振波長を変化させた場合、測定距離に比例してMHPの数は変化する。
【0022】
図5は信号抽出部7の構成例を示すブロック図である。信号抽出部7は、2値化部70と、周期測定部71とから構成される。
図6(A)〜図6(D)は信号抽出部7の動作を説明するための図であり、図6(A)はフィルタ部6の出力電圧の波形、すなわちMHPの波形を模式的に示す図、図6(B)は図6(A)に対応する2値化部70の出力を示す図、図6(C)は信号抽出部7に入力されるサンプリングクロックCLKを示す図、図6(D)は図6(B)に対応する周期測定部71の測定結果を示す図である。
【0023】
まず、信号抽出部7の2値化部70は、図6(A)に示すフィルタ部6の出力電圧がハイレベル(H)かローレベル(L)かを判定して、図6(B)のような判定結果を出力する。このとき、2値化部70は、フィルタ部6の出力電圧が上昇してしきい値TH1以上になったときにハイレベルと判定し、フィルタ部6の出力電圧が下降してしきい値TH2(TH2<TH1)以下になったときにローレベルと判定することにより、フィルタ部6の出力を2値化する。
【0024】
周期測定部71は、2値化部70の出力の立ち上がりエッジの周期(すなわち、MHPの周期)を立ち上がりエッジが発生する度に測定する。このとき、周期測定部71は、図6(C)に示すサンプリングクロックCLKの周期を1単位としてMHPの周期を測定する。図6(D)の例では、周期測定部71は、MHPの周期としてTα,Tβ,Tγを順次測定している。図6(C)、図6(D)から明らかなように、周期Tα,Tβ,Tγの大きさは、それぞれ5[samplings]、4[samplings]、2[samplings]である。サンプリングクロックCLKの周波数は、MHPの取り得る最高周波数に対して十分に高いものとする。
【0025】
次に、演算部8は、信号抽出部7の計測結果に基づいて、1つ1つのMHPの周期の変化から物体10の変位と速度を算出する。図7は演算部8の構成例を示すブロック図である。演算部8は、記憶部80と、移動平均値算出部81と、周期補正部82と、物理量算出部83とから構成される。
【0026】
記憶部80は、信号抽出部7の計測結果を記憶する。移動平均値算出部81は、記憶部80に記憶された、現時刻より前の時刻に計測されたMHPの周期を補正対象のMHPの周期としたとき、この補正対象のMHPの周期の直前に計測された所定数のMHPの周期と補正対象のMHPの周期の直後に計測された所定数のMHPの周期との移動平均値Taveを算出する。ここで、補正対象のMHPの周期をTi、補正対象のMHPの前後からそれぞれ所定数k個のMHPの周期を算出に用いるとすると、移動平均値Taveは次式のようになる。
【0027】
【数1】

【0028】
移動平均値算出部81は、信号抽出部7から新たな計測結果が出力され記憶部80に格納される度に、移動平均値算出済みの現在の補正対象の周期よりも1回新しい計測結果を新たな補正対象の周期として、移動平均値Taveの算出処理を行う。
周期補正部82は、移動平均値算出部81が算出した移動平均値Taveと補正対象のMHPの周期Tとを比較することにより、補正対象のMHPの周期Tを補正する。図8(A)〜図8(F)は周期補正部82の動作を説明するための図である。
【0029】
周期補正部82は、図8(A)に示すように補正対象のMHPの周期Tが0.5Tave未満の場合、図8(B)に示すように補正対象のMHPの周期Tと次に計測されたMHPの周期Tnextとを合わせた周期を補正後のMHPの周期T’とする。
周期補正部82は、補正対象のMHPの周期Tが0.5Tave以上1.5Tave未満の場合、補正対象のMHPの周期Tを補正しない。
【0030】
また、周期補正部82は、図8(C)に示すように補正対象のMHPの周期Tが1.5Tave以上2.5Tave未満の場合、図8(D)に示すように補正対象のMHPの周期Tを2等分した周期をそれぞれ補正後の周期T1’,T2’とする。
また、周期補正部82は、図8(E)に示すように補正対象のMHPの周期Tが2.5Tave以上3.5Tave未満の場合、図8(F)に示すように補正対象のMHPの周期Tを3等分した周期をそれぞれ補正後の周期T1’,T2’,T3’とする。3.5Tave以上についても同様である。すなわち、周期補正部82は、補正対象のMHPの周期Tが(m−0.5)Tave以上で(m+0.5)Tave未満の場合(mは2以上の自然数)、補正対象のMHPの周期Tをm等分した周期をそれぞれ補正後の周期とする。
【0031】
周期補正部82は、記憶部80に記憶されている信号抽出部7の計測結果を、補正結果に従って更新する。したがって、図8(A)、図8(B)に示した例の場合には、信号抽出部7の2つの計測結果が1つに合成されることになり、図8(C)、図8(D)に示した例の場合には、信号抽出部7の1つの計測結果が2つに分割されることになる。また、補正対象のMHPの周期よりも前に計測されたMHPの周期は、周期補正部82によって既に補正されていることになる。周期補正部82は、以上のような補正処理を信号抽出部7から計測結果が出力される度に行う。
【0032】
図9は信号抽出部7の計測結果の補正原理を説明するための図であり、フィルタ部6の出力電圧の波形、すなわちMHPの波形を模式的に示す図である。ただし、説明を簡単にするため、ここでの原理は物体10が静止している場合もしくは物体10の振動の中心が変化しない場合を説明しており、補正対象のMHPの周期の比較対象として移動平均値Taveの代わりに、基準周期T0を用いている。基準周期T0は、物体10が静止していたときのMHPの周期、算出された距離におけるMHPの周期、もしくは周期補正部82による周期補正の直前に計測された一定数のMHPの周期の移動平均値のいずれかである。物体10の振動の中心が変化する場合の周期補正の原理については後述する。
【0033】
MHPの周期は物体10との距離によって異なるが、物体10との距離が不変であれば、MHPは同じ周期で出現する。しかし、ノイズのために、MHPの波形には欠落が生じたり、信号として数えるべきでない波形が生じたりして、MHPの周期に誤差が生じる。
信号の欠落が生じると、欠落が生じた箇所でのMHPの周期Twは、本来の周期のおよそ2倍になる。つまり、MHPの周期が基準周期T0のおよそ2倍以上の場合には、信号に欠落が生じていると判断できる。そこで、周期Twを2等分することで、信号の欠落を補正することができる。
【0034】
また、ノイズをカウントした箇所でのMHPの周期Tsは、本来の周期のおよそ0.5倍になる。つまり、MHPの周期が基準周期T0のおよそ0.5倍未満の場合には、信号を過剰に数えていると判断できる。そこで、周期Tsと次に計測される周期Tnextとを加算することで、誤って数えたノイズを補正することができる。
【0035】
以上が、MHPの周期補正の基本原理である。次に、信号に欠落が生じたと見なす周期Twを決めるためのしきい値を基準周期T0(実際に用いるのは移動平均値Tave)の2倍の値とせずに、1.5倍とする理由について説明する。半導体レーザ1の発振波長変化が線形である場合、MHPの周期は基準周期T0を中心にして正規分布する(図10)。
【0036】
ここで、MHPの波形に欠落が生じた場合を考える。MHPの強度が小さいために計測時に欠落が生じた場合のMHPの周期は、本来のMHPの周期がT0を中心とした正規分布であるために、平均値が2T0、標準偏差2σの正規分布(図11のf)になる。j[%]のMHPが欠落したときに、第1の発振期間P1または第2の発振期間P2のいずれかにおいて信号抽出部7がMHPの数を数えた結果、MHPの数がNであったとすると、この欠落によって周期が2倍になったMHPの周期の度数はNw(=j[%]・N)である。また、計測時の欠落によって減少した後のおおよそT0の周期の度数は、図11に示すgであり、図11のhに示す度数の減少分は2Nw(=2j[%])である。したがって、第1の発振期間P1または第2の発振期間P2のいずれかにおいて、MHPの欠落が生じなかった場合の本来のMHPの数N’は以下の式で表すことができる。
N’=N+j[%]=N+Nw ・・・(3)
【0037】
次に、MHPの周期の計測結果を補正するためのしきい値について考える。ここで、計測時の欠落によって周期が2倍になったMHPの周期の度数Nwのうちノイズによってp[%]が2分割された場合を仮定する。欠落したMHPのうち2分割されたMHPの周期の度数は、Nw’(=j・p[%]・N)である。再度2分割されたMHPの周期の度数分布は、図12のようになる。Nwとみなす周期のしきい値を1.5T0にすると、周期が0.5T0以下のMHPの周期の度数は0.5Nw’(=0.5p[%]・Nw)、周期が0.5T0から1.5T0までのMHPの周期の度数はNw’(=p[%]・Nw)、周期が1.5T0以上のMHPの周期の度数は0.5Nw’(=0.5p[%]・Nw)となる。
【0038】
よって、全てのMHPの周期の度数分布は図13のようになり、上記のTsに対応する周期の度数Nsのしきい値を0.5T0、上記のTwに対応する周期の度数Nwのしきい値を1.5T0にすると、計数結果Nは以下の式で表すことができる。
N=(N’−2Nw)+(Nw−Nw’)+2Nw’=N’−Nw+Nw’
・・・(4)
【0039】
式(4)より、補正された結果は以下のようになり、計数時にMHPの欠落が生じなかった場合の本来のMHPの数N’が算出されることが分かる。
N−0.5Nw’+(0.5Nw’+(Nw−Nw’))
=(N−Nw+Nw’)+(0.5Nw’+(Nw−Nw’))
=N’ ・・・(5)
【0040】
以上のことから、度数Nwを求める際の周期のしきい値を基準周期T0の1.5倍とすれば、計数結果Nを補正できることが分かる。MHPの周期Tと計数結果Nとは、三角波の半周期あたりのサンプリングクロック数をMとすると、T=M/Nの関係にあり、Mは一定値であるから、信号に欠落が生じたと見なす周期Twを決めるためのしきい値は、計数結果Nの場合と同様に、基準周期T0の1.5倍とすればよいことが分かる。
【0041】
次に、物理量算出部83は、周期補正部82によって補正されたMHPの個々の周期の基準周期T0に対する変化から物体10の変位と速度を算出する。前記のとおり、基準周期T0は、物体10が静止していたときのMHPの周期、算出された距離におけるMHPの周期、もしくは周期補正部82による周期補正の直前に計測された一定数のMHPの周期の移動平均値のいずれかである。サンプリングクロックの周波数をfad[Hz]、基準周期をT0[samplings]、半導体レーザ1の発振平均波長をλ[m]とし、補正後のMHPの周期が基準周期T0からn[samplings]長くなったとすると、この補正後のMHPの周期における物体10の変位D[m]は次式のようになる。
D=n×λ/(2×T0) ・・・(6)
【0042】
補正後のMHPの周期が基準周期T0からn[samplings]短くなった場合には、式(6)の周期変化量nの符号を負にすればよい。半導体レーザ1の発振波長が増加する第1の発振期間P1において、変位Dが正の場合、物体10の移動方向は半導体レーザ1から遠ざかる方向であり、変位Dが負の場合、物体10の移動方向は半導体レーザ1に接近する方向である。また、発振波長が減少する第2の発振期間P2において、変位Dが正の場合、物体10の移動方向は半導体レーザ1に接近する方向であり、変位Dが負の場合、物体10の移動方向は半導体レーザ1から遠ざかる方向である。
【0043】
また、補正後のMHPの周期は(T0+n)/fadなので、この補正後のMHPの周期における物体10の速度V[m/s]は次式のようになる。
V=n×λ/(2×T0)×fad/(T0+n) ・・・(7)
【0044】
物理量算出部83は、式(6)により物体10の変位Dを算出することができ、式(7)により物体10の速度Vを算出することができる。例えばサンプリングクロックの周波数fadを16[MHz]、基準周期T0を160[samplings]、半導体レーザ1の平均波長を850[nm]とし、補正後のMHPの周期が基準周期T0から1[samplings]長くなったとすると、このMHPの周期における物体10の変位Dは5.31[nm]、速度Vは1.05[mm/s]と計算できる。物理量算出部83は、以上のような算出処理を補正されたMHPの各周期に対して行う。
表示部9は、物理量算出部83の算出結果を表示する。
【0045】
ここで、半導体レーザ1の発振波長変調の搬送波(三角波)の半周期あたりの、物体10との距離に関係するMHPの数をNlとする。物体10の最大速度の絶対値を搬送波1周期あたりの変位に直したときにλ/2×Naとすると、搬送波半周期あたりのMHPの数は、Nl±Naとなる。搬送波1周期あたりの変位がλ/2×Nbの速度で動いているとき、搬送波半周期あたりのMHPの数はNl+Nbになるので、この数に対応するMHPの周期が観測される。物体10の変位Dや速度Vを求めるには、個々のMHPの周期から搬送波半周期あたりのMHPの数を逆算し、このMHPの数から物体10の変位Dや速度Vを算出すればよい。上記の式(6)、式(7)は、このような導出原理に基づくものである。
【0046】
特許文献1に開示された自己結合型のレーザ計測器では、物体の変位と速度の分解能は半導体レーザの半波長λ/2程度である。これに対して、本実施の形態では、変位Dと速度Vの分解能はλ/2×n/T0なので、半波長λ/2未満の分解能を実現することができ、従来よりも高分解能の計測を実現することができる。
【0047】
以上のように、本実施の形態では、物体10の変位Dや速度Vを従来よりも高い分解能で計測することができる。また、特許文献1に開示された自己結合型のレーザ計測器では、搬送波の半周期の計測時間がかかるのに対して、本実施の形態では、1つ1つのMHPの周期から物体10の変位Dや速度Vを求めることができるので、計測に要する時間を大幅に短縮することができ、速度の変化が速い物体10にも対応することができる。さらに、本実施の形態では、MHPの周期の誤差を補正することができるので、変位Dや速度Vの計測精度を向上させることができる。
【0048】
なお、個々のMHPの周期は、物体10が静止していても正規分布でばらつきがあるため、算出した変位に対して移動平均などの処理を施すとよい。
また、本実施の形態では、物体10の変位と速度の両方を計測しているが、どちらか一方だけを計測してもよいことは言うまでもない。
【0049】
また、本実施の形態では、基準周期T0を物体10が静止している状態でのMHPの周期としたが、これに限るものではなく、演算部8は、周期補正の直前に計測された一定数のMHPの周期の移動平均値を基準周期T0としてもよい。この方法によれば、静止させることができない物体10の場合であっても、基準周期T0を求めることができる。
【0050】
次に、物体10の振動の中心が変化する場合の周期補正の原理について説明する。MHPの周波数は、物体10との距離に比例した周波数(このときの周期が基準周期T0)と物体10の速度に比例する周波数との和で表すことができる。物体10がある状態でMHPの周期がTの場合、個々のMHPの周期の確率分布はノイズなどによってばらつきが生じ、Tを中心とした概ね正規分布になる。よって、物体10が静止している場合、個々のMHPの周期の確率分布も基準周期T0を中心とした正規分布になり、静止している期間のMHPの周期の度数分布は、図10に示したように基準周期T0を中心とした正規分布になる。
【0051】
ここで、図14に示すように物体10が等速運動している場合を考える。自己結合型のレーザセンサでは、物体10の速度の変化によるMHPの周波数の変化割合と比較すると、物体10との距離の変化によるMHPの周期の変化は非常に小さい。このため、個々のMHPの周期の確率分布は、図14のA点でもB点でも、物体10との平均距離に相当するT0から速度の大きさの分だけ周期が変化した値Tを中心とした正規分布になるため、A点からB点の期間のMHPの周期の度数分布も、Tを中心とした正規分布になる(図15)。
【0052】
次に、図16(A)、図16(B)に示すように物体10の速度が変化している場合を考える。ここでは、簡略化するために、折れ線運動を考える。すなわち、物体10との距離Lを期間Aにおける距離LAと期間Bにおける距離LBに簡略化し、同様に物体10の速度Vを期間Aにおける速度VAと期間Bにおける速度VBに簡略化する。このように物体10の運動を簡略化すると、MHPの周期の度数分布は図17のようになる。図17においてTAは期間Aにおける物体10の平均速度に対応するMHPの周期、TBは期間Bにおける物体10の平均速度に対応するMHPの周期である。
【0053】
物体10の速度変化がなだらかに変化しているとしたら、図16(A)、図16(B)の時刻tでの物体10の速度は速度VAとVBとの間にあるので、MHPの周期も周期TAとTBとの間にある。このときのMHPの周期をTXとすると、信号に欠落が生じて2つのMHPが1つになった場合のMHPの周期の確率分布は、2TXを中心とした正規分布になると考えられる。また、周期TXのMHPがノイズで2分割された場合のMHPの2つの確率分布は、0.5TXを軸にした対称の形になる。したがって、TAからTBの間の値と考えられるTXの周期補正を考える場合、基準周期T0の代わりに、TAとTBの移動平均値Taveを基準として周期補正を行うことが妥当である。以上が、物体10の振動の中心が変化する場合のMHPの周期補正の原理である。
【0054】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、補正対象のMHPの周期の比較対象として移動平均値Taveを用いる代わりに、補正対象のMHPの周期の直前に計測された所定数のMHPの周期の移動平均値TAと補正対象のMHPの周期の直後に計測された所定数のMHPの周期の移動平均値TBとを用いるものである。本実施の形態においても物理量センサの構成は第1の実施の形態と同様であるので、図1、図7の符号を用いて説明する。
【0055】
本実施の形態の移動平均値算出部81は、記憶部80に記憶された、現時刻より前の時刻に計測されたMHPの周期を補正対象のMHPの周期としたとき、この補正対象のMHPの周期の直前に計測された所定数のMHPの周期の移動平均値TAと補正対象のMHPの周期の直後に計測された所定数のMHPの周期の移動平均値TBとを算出する。移動平均値算出部81は、信号抽出部7から新たな計測結果が出力され記憶部80に格納される度に、移動平均値算出済みの現在の補正対象の周期よりも1回新しい計測結果を新たな補正対象の周期として、移動平均値TA,TBの算出処理を行う。
【0056】
周期補正部82は、移動平均値算出部81が算出した移動平均値TA,TBと補正対象のMHPの周期とを比較することにより、補正対象のMHPの周期を補正する。すなわち、周期補正部82は、TA<TBで、補正対象のMHPの周期が0.5TA未満の場合、図8(A)、図8(B)の場合と同様に補正対象のMHPの周期と次に計測されたMHPの周期とを合わせた周期を補正後のMHPの周期とする。周期補正部82は、TA<TBで、補正対象のMHPの周期が0.5TA以上1.5TB未満の場合、補正対象のMHPの周期を補正しない。周期補正部82は、TA<TBで、補正対象のMHPの周期が(m−0.5)TB以上で(m+0.5)TB未満の場合(mは2以上の自然数)、図8(C)、図8(D)、図8(E)、図8(F)の場合と同様に補正対象のMHPの周期をm等分した周期をそれぞれ補正後の周期とする。
【0057】
また、周期補正部82は、TA>TBで、補正対象のMHPの周期が0.5TB未満の場合、補正対象のMHPの周期と次に計測されたMHPの周期とを合わせた周期を補正後のMHPの周期とする。周期補正部82は、TA>TBで、補正対象のMHPの周期が0.5TB以上1.5TA未満の場合、補正対象のMHPの周期を補正しない。周期補正部82は、TA>TBで、補正対象のMHPの周期が(m−0.5)TA以上で(m+0.5)TA未満の場合、補正対象のMHPの周期をm等分した周期をそれぞれ補正後の周期とする。
【0058】
第1の実施の形態と同様に、周期補正部82は、記憶部80に記憶されている信号抽出部7の計測結果を、補正結果に従って更新する。補正対象のMHPの周期よりも前に計測されたMHPの周期は、周期補正部82によって既に補正されていることになる。つまり、移動平均値算出部81が算出する移動平均値TAは、補正済みの計測結果から算出されることになる。周期補正部82は、以上のような補正処理を信号抽出部7から新たな計測結果が出力され記憶部80に格納される度に行う。
【0059】
移動平均値算出部81と周期補正部82以外の動作は、第1の実施の形態と同じである。こうして、本実施の形態では、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
なお、第1の実施の形態と第2の実施の形態とを統一した思想で表現すると、周期補正部82の動作は以下のようになる。すなわち、周期補正部82は、移動平均値算出部81が算出した2つの移動平均値のうち小さい方をT1、大きい方をT2とし、Tx=T1+α・(T2−T1)としたとき(0≦α≦1)、補正対象のMHPの周期がk・Tx未満の場合は(kは1未満の正の値)、補正対象のMHPの周期と次に計測されたMHPの周期とを合わせた周期を補正後のMHPの周期とし、周期を合わせた波形を1つの波形とする。また、周期補正部82は、補正対象のMHPの周期が(m−0.5)・Tx以上で(m+0.5)・Tx未満の場合は(mは2以上の自然数)、補正対象のMHPの周期をm等分した周期をそれぞれ補正後の周期とし、補正後の周期の波形がm個あるものとする。
【0060】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は基準周期T0の他の求め方を説明するものである。図18は本発明の第3の実施の形態に係る演算部8の構成例を示すブロック図である。演算部8は、記憶部80と、移動平均値算出部81と、周期補正部82と、物理量算出部83と、計数部84と、距離算出部85と、周期算出部86とから構成される。物理量センサの全体の構成は第1、第2の実施の形態と同じでよいが、半導体レーザ1の発振波長の変化速度が一定で、かつ発振波長の最大値λbおよび発振波長の最小値λaがそれぞれ一定で、それらの差λb−λaも一定である必要がある。
【0061】
計数部84は、フィルタ部6の出力に含まれるMHPの数を第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々について数える。計数部84は、論理ゲートからなるカウンタを利用するものでもよいし、FFT(Fast Fourier Transform)を利用してMHPの周波数(すなわち単位時間あたりのMHPの数)を計測するものでもよい。
【0062】
次に、距離算出部85は、半導体レーザ1の最小発振波長λaと最大発振波長λbと計数部84が数えたMHPの数に基づいて、物体10との距離を算出する。本実施の形態では、物体10の状態を所定の条件を満たす微小変位状態、あるいは微小変位状態よりも動きが大きい変位状態のいずれかであるとする。発振期間P1と発振期間P2の1期間あたりの物体10の平均変位をVとしたとき、微小変位状態とは(λb−λa)/λb>V/Lbを満たす状態であり(ただし、Lbは時刻tのときの距離)、変位状態とは(λb−λa)/λb≦V/Lbを満たす状態である。
【0063】
まず、距離算出部85は、現時刻tにおける距離の候補値Lα(t),Lβ(t)と速度の候補値Vα(t),Vβ(t)を次式のように算出する。
Lα(t)=λa×λb×(MHP(t−1)+MHP(t))
/{4×(λb−λa)} ・・・(8)
Lβ(t)=λa×λb×(|MHP(t−1)−MHP(t)|)
/{4×(λb−λa)} ・・・(9)
Vα(t)=(MHP(t−1)−MHP(t))×λb/4 ・・・(10)
Vβ(t)=(MHP(t−1)+MHP(t))×λb/4 ・・・(11)
【0064】
式(8)〜式(11)において、MHP(t)は現時刻tにおいて算出されたMHPの数、MHP(t−1)はMHP(t)の1回前に算出されたMHPの数である。例えば、MHP(t)が第1の発振期間P1の計数結果であるとすれば、MHP(t−1)は第2の発振期間P2の計数結果であり、逆にMHP(t)が第2の発振期間P2の計数結果であるとすれば、MHP(t−1)は第1の発振期間P1の計数結果である。
【0065】
候補値Lα(t),Vα(t)は物体10が微小変位状態にあると仮定して計算した値であり、候補値Lβ(t),Vβ(t)は物体10が変位状態にあると仮定して計算した値である。距離算出部85は、式(8)〜式(11)の計算を計数部84によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
【0066】
続いて、距離算出部85は、微小変位状態と変位状態の各々について、現時刻tにおける距離の候補値と、直前の時刻における距離の候補値との差である履歴変位を次式のように算出する。なお、式(12)、式(13)では、現時刻tの1回前に算出された距離の候補値をLα(t−1),Lβ(t−1)としている。
Vcalα(t)=Lα(t)−Lα(t−1) ・・・(12)
Vcalβ(t)=Lβ(t)−Lβ(t−1) ・・・(13)
【0067】
履歴変位Vcalα(t)は物体10が微小変位状態にあると仮定して計算した値であり、履歴変位Vcalβ(t)は物体10が変位状態にあると仮定して計算した値である。距離算出部85は、式(12)〜式(13)の計算を計数部84によってMHPの数が測定される時刻毎に行う。なお、式(10)〜式(13)においては、物体10が本実施の形態の物理量センサに近づく方向を正の速度、遠ざかる方向を負の速度と定めている。
次に、距離算出部85は、式(8)〜式(13)の算出結果を用いて、物体10の状態を判定する。
【0068】
特許文献1に記載されているように、距離算出部85は、物体10が微小変位状態にあると仮定して計算した履歴変位Vcalα(t)の符号が一定で、かつ物体10が微小変位状態にあると仮定して計算した速度の候補値Vα(t)と履歴変位Vcalα(t)の絶対値の平均値とが等しい場合、物体10が微小変位状態で等速度運動していると判定する。
【0069】
また、特許文献1に記載されているように、距離算出部85は、物体10が変位状態にあると仮定して計算した履歴変位Vcalβ(t)の符号が一定で、かつ物体10が変位状態にあると仮定して計算した速度の候補値Vβ(t)と履歴変位Vcalβ(t)の絶対値の平均値とが等しい場合、物体10が変位状態で等速度運動していると判定する。
【0070】
また、特許文献1に記載されているように、距離算出部85は、物体10が微小変位状態にあると仮定して計算した履歴変位Vcalα(t)の符号がMHPの数が測定される時刻毎に反転し、かつ物体10が微小変位状態にあると仮定して計算した速度の候補値Vα(t)と履歴変位Vcalα(t)の絶対値の平均値とが一致しない場合、物体10が微小変位状態で等速度運動以外の運動をしていると判定する。
【0071】
なお、速度の候補値Vβ(t)に着目すると、Vβ(t)の絶対値は定数となり、この値は半導体レーザ1の波長変化率(λb−λa)/λbと等しい。そこで、距離算出部85は、物体10が変位状態にあると仮定して計算した速度の候補値Vβ(t)の絶対値が波長変化率と等しく、かつ物体10が微小変位状態にあると仮定して計算した速度の候補値Vα(t)と履歴変位Vcalα(t)の絶対値の平均値とが一致しない場合、物体10が微小変位状態で等速度運動以外の運動をしていると判定してもよい。
【0072】
また、特許文献1に記載されているように、距離算出部85は、物体10が変位状態にあると仮定して計算した履歴変位Vcalβ(t)の符号がMHPの数が測定される時刻毎に反転し、かつ物体10が変位状態にあると仮定して計算した速度の候補値Vβ(t)と履歴変位Vcalβ(t)の絶対値の平均値とが一致しない場合、物体10が変位状態で等速度運動以外の運動をしていると判定する。
【0073】
なお、速度の候補値Vα(t)に着目すると、Vα(t)の絶対値は定数となり、この値は半導体レーザ1の波長変化率(λb−λa)/λbと等しい。したがって、距離算出部85は、物体10が微小変位状態にあると仮定して計算した速度の候補値Vα(t)の絶対値が波長変化率と等しく、かつ物体10が変位状態にあると仮定して計算した速度の候補値Vβ(t)と履歴変位Vcalβ(t)の絶対値の平均値とが一致しない場合、物体10が変位状態で等速度運動以外の運動をしていると判定してもよい。
【0074】
距離算出部85は、上記の判定結果に基づいて物体10との距離を確定する。すなわち、距離算出部85は、物体10が微小変位状態で等速度運動していると判定された場合、距離の候補値Lα(t)を物体10との距離とし、物体10が変位状態で等速度運動していると判定された場合、距離の候補値Lβ(t)を物体10との距離とする。
【0075】
また、距離算出部85は、物体10が微小変位状態で等速度運動以外の運動をしていると判定された場合、距離の候補値Lα(t)を物体10との距離とする。ただし、実際の距離は、距離の候補値Lα(t)の平均値となる。また、距離算出部85は、物体10が変位状態で等速度運動以外の運動をしていると判定された場合、距離の候補値Lβ(t)を物体10との距離とする。ただし、実際の距離は、距離の候補値Lβ(t)の平均値となる。
【0076】
次に、周期算出部86は、距離算出部85が算出した距離からMHPの周期を求め、この周期を基準周期T0として物理量算出部83に設定する。MHPの周波数は測定距離に比例し、MHPの周期は測定距離に反比例する。そこで、MHPの周期と距離との関係を予め求めて周期算出部86のデータベース(不図示)に登録しておけば、周期算出部86は、距離算出部85によって算出された距離に対応するMHPの周期をデータベースから取得することにより、MHPの周期を求めることができる。あるいは、MHPの周期と距離との関係を示す数式を予め求めて設定しておけば、周期算出部86は、距離算出部85によって算出された距離を数式に代入することにより、MHPの周期を算出することができる。
【0077】
記憶部80、移動平均値算出部81、周期補正部82および物理量算出部83の動作は、第1、第2の実施の形態で説明したとおりである。
本実施の形態によれば、静止させることができない物体10の場合であっても、基準周期T0を求めることができる。
【0078】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、基準周期T0の他の求め方を説明するものである。図19は本発明の第4の実施の形態に係る演算部8の構成例を示すブロック図である。演算部8は、記憶部80と、移動平均値算出部81と、周期補正部82と、物理量算出部83と、フィルタ部6の出力電圧に含まれるMHPの数を数える計数部87と、計数部87の計数結果等を記憶する記憶部88と、計数部87の計数結果の平均値を算出することにより、半導体レーザ1と物体10との平均距離に比例したMHPの数(以下、距離比例個数とする)NLを求める距離比例個数算出部89と、計数部87の1回前の計数結果とこの計数結果よりも過去の計数結果を用いて算出された距離比例個数NLの2倍数との大小関係に応じて計数部87の最新の計数結果に正負の符号を付与する符号付与部90と、距離比例個数NLからMHPの周期を算出する周期算出部91とから構成される。物理量センサの全体の構成は第1、第2の実施の形態と同じでよい。
【0079】
計数部87は、フィルタ部6の出力に含まれるMHPの数を第1の発振期間P1と第2の発振期間P2の各々について数える。計数部87は、論理ゲートからなるカウンタを利用するものでもよいし、FFTを利用してMHPの周波数(すなわち単位時間あたりのMHPの数)を計測するものでもよい。計数部87の計数結果は、記憶部88に格納される。
【0080】
距離比例個数算出部89は、計数部87の計数結果から距離比例個数NLを求める。図20は距離比例個数算出部89の動作を説明するための図であり、計数部87の計数結果の時間変化を示す図である。図20において、Nuは第1の発振期間P1の計数結果、Ndは第2の発振期間P2の計数結果である。
【0081】
物体10の距離変化率が半導体レーザ1の発振波長変化率よりも小さく、物体10が単振動している場合、計数結果Nuの時間変化と計数結果Ndの時間変化は、図20に示すように互いの位相差が180度の正弦波形となる。特許文献1では、このときの物体10の状態を微小変位状態としている。
【0082】
図25から明らかなように、第1の発振期間P1と第2の発振期間P2は交互に訪れるので、計数結果Nuと計数結果Ndも交互に現れる。計数結果Nu,Ndは、距離比例個数NLと物体10の変位に比例したMHPの数(以下、変位比例個数とする)NVとの和もしくは差である。距離比例個数NLは、図20に示した正弦波形の平均値に相当する。また、計数結果NuまたはNdと距離比例個数NLとの差が、変位比例個数NVに相当する。
【0083】
距離比例個数算出部89は、次式に示すように現時刻tの2回前までに計測された偶数回分の計数結果の平均値を算出することにより、距離比例個数NLを算出する。
NL={N(t−2)+N(t−3)}/2 ・・・(14)
【0084】
式(14)において、N(t−2)は現時刻tの2回前に計測されたMHPの数Nであることを表し、N(t−3)は現時刻tの3回前に計測されたMHPの数Nであることを表している。現時刻tの計数結果N(t)が第1の発振期間P1の計数結果Nuであれば、2回前の計数結果N(t−2)も第1の発振期間P1の計数結果Nuであり、3回前の計数結果N(t−3)は第2の発振期間P2の計数結果Ndである。反対に、現時刻tの計数結果N(t)が第2の発振期間P2の計数結果Ndであれば、2回前の計数結果N(t−2)も第2の発振期間P2の計数結果Ndであり、3回前の計数結果N(t−3)は第1の発振期間P1の計数結果Nuである。
【0085】
式(14)は2回分の計数結果で距離比例個数NLを求める場合の式であるが、2m(mは正の整数)回の計数結果を用いる場合、距離比例個数算出部89は、次式のように距離比例個数NLを算出する。
NL={N(t−2m−1)+N(t−2m)+・・・+N(t−2)}/2m
・・・(15)
【0086】
ただし、式(14)、式(15)は物体10との距離及び物体10の速度の計測開始初期に用いる式で、途中からは式(14)の代わりに後述する符号付き計数結果を用いる次式により距離比例個数NLを算出する。
NL={N’(t−2)+N’(t−3)}/2 ・・・(16)
N’(t−2)は2回前の計数結果N(t−2)に後述する符号付与処理を施した後の符号付き計数結果、N’(t−3)は3回前の計数結果N(t−3)に符号付与処理を施した後の符号付き計数結果である。式(16)が使用されるのは、現時刻tの計数結果N(t)がMHPの数の計測開始から7回目の計数結果になったとき以降である。
【0087】
また、計測開始初期に式(15)を用いる場合には、途中からは式(15)の代わりに符号付き計数結果を用いる次式により距離比例個数NLを算出する。
NL={N’(t−2m−1)+N’(t−2m)+・・・+N’(t−2)}/2m
・・・(17)
式(17)が使用されるのは、現時刻tの計数結果N(t)がMHPの数の計測開始から(2m×2+3)回目の計数結果になったとき以降である。
【0088】
距離比例個数NLは、記憶部88に格納される。距離比例個数算出部89は、以上のような距離比例個数NLの算出処理を、計数部87によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
なお、距離比例個数NLの算出に用いる計数結果が十分に多いときは、奇数回分の計数結果で距離比例個数NLを算出してもよい。
【0089】
次に、符号付与部90は、現時刻tの1回前に計測された計数結果N(t−1)と距離比例個数NLの2倍数2NLとの大小関係に応じて計数部87の計数結果N(t)に正負の符号を付与する。符号付与部90は、具体的には以下の式を実行する。
If N(t−1)≧2NL Then N’(t)→−N(t) ・・・(18)
If N(t−1)<2NL Then N’(t)→+N(t) ・・・(19)
【0090】
図21は符号付与部90の動作を説明するための図であり、計数部87の計数結果の時間変化を示す図である。物体10の距離変化率が半導体レーザ1の発振波長変化率よりも大きい場合、計数結果Nuの時間変化は、図21の170で示す負側の波形が正側に折り返された形になり、同様に計数結果Ndの時間変化は、図21の171で示す負側の波形が正側に折り返された形になる。特許文献1では、この計数結果の折り返しが生じている部分における物体10の状態を変位状態としている。一方、計数結果の折り返しが生じていない部分における物体10の状態は、上記の微小変位状態である。
【0091】
変位状態を含む振動における物体10の物理量を求めるためには、物体10が変位状態であるか微小変位状態であるかを判定し、物体10が変位状態である場合には、正側に折り返されている計数結果が図21の170,171で示した軌跡を描くように補正する必要がある。式(18)、式(19)は、物体10が変位状態であるか微小変位状態であるかを判定するための式である。図21において計数結果の折り返しが生じている変位状態では、N(t−1)≧2NLが成立する。したがって、式(18)に示すように、N(t−1)≧2NLが成立する場合には、計数部87の現時刻tの計数結果N(t)に負の符号を与えたものを符号付き計数結果N’(t)とする。
【0092】
一方、図20および図21において計数結果の折り返しが生じていない微小変位状態では、N(t−1)<2NLが成立する。したがって、式(19)に示すように、N(t−1)<2NLが成立する場合には、計数部87の現時刻tの計数結果N(t)に正の符号を与えたものを符号付き計数結果N’(t)とする。
【0093】
符号付き計数結果N’(t)は、記憶部88に格納される。符号付与部90は、以上のような符号付与処理を、計数部87によってMHPの数が測定される時刻毎(発振期間毎)に行う。
なお、式(18)の成立条件をN(t−1)>2NLにして、式(19)の成立条件をN(t−1)≦2NLにしてもよい。
【0094】
次に、周期算出部91は、距離比例個数NLからMHPの周期Tを次式のように算出する。
T=C/(2×f×NL) ・・・(20)
ここで、fは三角波の周波数、Cは光速である。周期算出部91は、式(20)によって算出した周期を基準周期T0として物理量算出部83に設定する。
【0095】
記憶部80、移動平均値算出部81、周期補正部82および物理量算出部83の動作は、第1、第2の実施の形態で説明したとおりである。
本実施の形態によれば、静止させることができない物体10の場合であっても、基準周期T0を求めることができる。
【0096】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。第1〜第4の実施の形態では、半導体レーザ1を三角波状に発振させていたが、これに限るものではなく、図22に示すように半導体レーザ1を鋸波状に発振させてもよい。すなわち、本実施の形態では、第1の発振期間P1または第2の発振期間P2のいずれか一方が繰り返し存在するように半導体レーザ1を動作させればよい。ただし、第3の実施の形態については、半導体レーザ1を三角波状に発振させる必要がある。
【0097】
本実施の形態のように半導体レーザ1を鋸波状に発振させる場合においても、半導体レーザ1の発振波長の変化速度が一定であることが必要である。第1の発振期間P1または第2の発振期間P2における動作は、三角波発振の場合と同様である。図22に示すように第1の発振期間P1のみが繰り返し存在する鋸波状の発振の場合は第1の発振期間P1の処理を繰り返し行えばよく、第2の発振期間P2のみが繰り返し存在する鋸波状の発振の場合は第2の発振期間P2の処理を繰り返し行えばよいことは言うまでもない。
【0098】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。第1〜第5の実施の形態では、MHP波形を含む電気信号を検出する検出手段としてフォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5とを用いたが、フォトダイオードを使用することなくMHP波形を抽出することも可能である。図23は本発明の第6の実施の形態に係る物理量センサの構成を示すブロック図であり、図1と同様の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の物理量センサは、第1の実施の形態のフォトダイオード2と電流−電圧変換増幅部5の代わりに、検出手段として電圧検出部12を用いるものである。
【0099】
電圧検出部12は、半導体レーザ1の端子間電圧、すなわちアノード−カソード間電圧を検出して増幅する。半導体レーザ1から放射されたレーザ光と物体10からの戻り光とによって干渉が生じるとき、半導体レーザ1の端子間電圧には、MHP波形が現れる。したがって、半導体レーザ1の端子間電圧からMHP波形を抽出することが可能である。
【0100】
フィルタ部6は、電圧検出部12の出力電圧から搬送波を除去する。物理量センサのその他の構成は、第1の実施の形態と同じである。
こうして、本実施の形態では、フォトダイオードを使用することなくMHP波形を抽出することができ、第1の実施の形態と比較して物理量センサの部品を削減することができ、物理量センサのコストを低減することができる。また、本実施の形態では、フォトダイオードを使用しないので、外乱光による影響を除去することができる。
【0101】
なお、第1〜第6の実施の形態において少なくとも信号抽出部7と演算部8とは、例えばCPU、メモリおよびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、メモリに格納されたプログラムに従って第1〜第6の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、半導体レーザから放射したレーザ光と物体からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉の情報から、物体の物理量を計測する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1…半導体レーザ、2…フォトダイオード、3…レンズ、4…レーザドライバ、5…電流−電圧変換増幅部、6…フィルタ部、7…信号抽出部、8…演算部、9…表示部、10…物体、12…電圧検出部、70…2値化部、71…周期測定部、80,88…記憶部、81…移動平均値算出部、82…周期補正部、83…物理量算出部、84,87…計数部、85…距離算出部、86,91…周期算出部、89…距離比例個数算出部、90…符号付与部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象にレーザ光を放射する半導体レーザと、
発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように前記半導体レーザを動作させる発振波長変調手段と、
前記半導体レーザから放射されたレーザ光と前記測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手段と、
この検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手段と、
この信号抽出手段の計測結果を記憶する記憶手段と、
この記憶手段に記憶された1つの干渉波形の周期を補正対象の干渉波形の周期としたとき、この補正対象の干渉波形の周期に対して、その直前と直後のうち少なくとも一方において計測され前記記憶手段に記憶された干渉波形の周期の移動平均値を算出する移動平均値算出手段と、
前記補正対象の干渉波形の周期と前記移動平均値とを比較することにより前記補正対象の干渉波形の周期を補正し、この補正の結果に従って前記記憶手段に記憶された周期を更新する周期補正手段と、
この周期補正手段で補正された個々の周期の基準周期に対する変化量に基づいて、前記測定対象の変位と速度のうち少なくとも一方を算出する物理量算出手段とを備えることを特徴とする物理量センサ。
【請求項2】
請求項1記載の物理量センサにおいて、
前記物理量算出手段は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、前記基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記周期補正手段で補正された周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位と速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とする物理量センサ。
【請求項3】
請求項1または2記載の物理量センサにおいて、
前記移動平均値算出手段は、前記補正対象の干渉波形の周期の直前に計測され前記記憶手段に記憶された所定数の干渉波形の周期の移動平均値と前記補正対象の干渉波形の周期の直後に計測され前記記憶手段に記憶された所定数の干渉波形の周期の移動平均値とを算出し、
前記周期補正手段は、前記移動平均値算出手段が算出した2つの移動平均値のうち小さい方をT1、大きい方をT2とし、Tx=T1+α・(T2−T1)としたとき(0≦α≦1)、前記補正対象の干渉波形の周期が前記Txの所定数k倍未満の場合は(kは1未満の正の値)、この補正対象の干渉波形の周期と次に計測された干渉波形の周期とを合わせた周期を補正後の干渉波形の周期とし、周期を合わせた波形を1つの波形とし、前記補正対象の干渉波形の周期が前記Txの(m−0.5)倍以上で且つ前記Txの(m+0.5)倍未満の場合は(mは2以上の自然数)、前記補正対象の干渉波形の周期をm等分した周期をそれぞれ補正後の周期とし、補正後の周期の波形がm個あるものとすることを特徴とする物理量センサ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の物理量センサにおいて、
前記物理量算出手段は、前記測定対象が静止しているときの前記干渉波形の周期または前記補正の直前に計測された所定数の干渉波形の周期の平均を前記基準周期とすることを特徴とする物理量センサ。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の物理量センサにおいて、
さらに、前記検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手段と、
この計数手段によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手段の計数結果とから前記測定対象との距離を算出する距離算出手段と、
この距離算出手段が算出した距離から前記干渉波形の周期を求める周期算出手段とを備え、
前記物理量算出手段は、前記周期算出手段が求めた周期を前記基準周期とすることを特徴とする物理量センサ。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の物理量センサにおいて、
さらに、前記検出手段の出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手段と、
前記干渉波形の数の平均値を算出することにより前記半導体レーザと前記測定対象との平均距離に比例した干渉波形の数である距離比例個数を求める距離比例個数算出手段と、
前記距離比例個数から前記干渉波形の周期を算出する周期算出手段とを備え、
前記物理量算出手段は、前記周期算出手段が求めた周期を前記基準周期とすることを特徴とする物理量センサ。
【請求項7】
発振波長が連続的に単調増加する第1の発振期間と発振波長が連続的に単調減少する第2の発振期間のうち少なくとも一方が繰り返し存在するように半導体レーザを動作させる発振手順と、
前記半導体レーザから放射されたレーザ光と測定対象からの戻り光との自己結合効果によって生じる干渉波形を含む電気信号を検出する検出手順と、
この検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の周期を干渉波形が入力される度に計測する信号抽出手順と、
この信号抽出手順の計測結果を記憶手段に記憶させる記憶手順と、
前記記憶手段に記憶された1つの干渉波形の周期を補正対象の干渉波形の周期としたとき、この補正対象の干渉波形の周期に対して、その直前と直後のうち少なくとも一方において計測され前記記憶手段に記憶された干渉波形の周期の移動平均値を算出する移動平均値算出手順と、
前記補正対象の干渉波形の周期と前記移動平均値とを比較することにより前記補正対象の干渉波形の周期を補正し、この補正の結果に従って前記記憶手段に記憶された周期を更新する周期補正手順と、
この周期補正手順で補正された個々の周期の基準周期に対する変化量に基づいて、前記測定対象の変位と速度のうち少なくとも一方を算出する物理量算出手順とを備えることを特徴とする物理量計測方法。
【請求項8】
請求項7記載の物理量計測方法において、
前記物理量算出手順は、前記干渉波形の周期を計測するサンプリングクロックの周波数と、前記基準周期と、前記半導体レーザの平均波長と、前記周期補正手順で補正された周期の前記基準周期に対する変化量とから、前記測定対象の変位と速度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とする物理量計測方法。
【請求項9】
請求項7または8記載の物理量計測方法において、
前記移動平均値算出手順は、前記補正対象の干渉波形の周期の直前に計測され前記記憶手段に記憶された所定数の干渉波形の周期の移動平均値と前記補正対象の干渉波形の周期の直後に計測され前記記憶手段に記憶された所定数の干渉波形の周期の移動平均値とを算出し、
前記周期補正手順は、前記移動平均値算出手順で算出した2つの移動平均値のうち小さい方をT1、大きい方をT2とし、Tx=T1+α・(T2−T1)としたとき(0≦α≦1)、前記補正対象の干渉波形の周期が前記Txの所定数k倍未満の場合は(kは1未満の正の値)、この補正対象の干渉波形の周期と次に計測された干渉波形の周期とを合わせた周期を補正後の干渉波形の周期とし、周期を合わせた波形を1つの波形とし、前記補正対象の干渉波形の周期が前記Txの(m−0.5)倍以上で且つ前記Txの(m+0.5)倍未満の場合は(mは2以上の自然数)、前記補正対象の干渉波形の周期をm等分した周期をそれぞれ補正後の周期とし、補正後の周期の波形がm個あるものとすることを特徴とする物理量計測方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか1項に記載の物理量計測方法において、
前記物理量算出手順は、前記測定対象が静止しているときの前記干渉波形の周期または前記補正の直前に計測された所定数の干渉波形の周期の平均を前記基準周期とすることを特徴とする物理量計測方法。
【請求項11】
請求項7乃至9のいずれか1項に記載の物理量計測方法において、
さらに、前記検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手順と、
この計数手順によって干渉波形の数を数える期間における最小発振波長と最大発振波長と前記計数手順の計数結果とから前記測定対象との距離を算出する距離算出手順と、
この距離算出手順で算出した距離から前記干渉波形の周期を求める周期算出手順とを備え、
前記物理量算出手順は、前記周期算出手順で求めた周期を前記基準周期とすることを特徴とする物理量計測方法。
【請求項12】
請求項7乃至9のいずれか1項に記載の物理量計測方法において、
さらに、前記検出手順で得られた出力信号に含まれる前記干渉波形の数を、前記第1の発振期間と前記第2の発振期間の各々について数える計数手順と、
前記干渉波形の数の平均値を算出することにより前記半導体レーザと前記測定対象との平均距離に比例した干渉波形の数である距離比例個数を求める距離比例個数算出手順と、
前記距離比例個数から前記干渉波形の周期を算出する周期算出手順とを備え、
前記物理量算出手順は、前記周期算出手順で求めた周期を前記基準周期とすることを特徴とする物理量計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−160138(P2010−160138A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273572(P2009−273572)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】