説明

物理量測定装置付転がり軸受ユニット

【課題】複数本の絶縁導線を備えたケーブルを限られた空間に配設可能とし、且つ、これら各絶縁導線の耐久性を十分に確保できる構造を実現する。
【解決手段】複数のセンサを包埋支持したセンサホルダ6aに、上記各絶縁導線を扁平に組み合わせたフラットケーブル20の基端部を接続する。ナックル28に固定した固定ブラケット22を境として、上記各絶縁導線を、円形ケーブル21に束ねる。狭い空間では上記フラットケーブル20によりこれら各絶縁導線を取り出す。又、屈曲方向が一定でない、上記ナックル28と車体との間は、曲げの自由度が高い円形ケーブル21とする事により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係る物理量測定装置付転がり軸受ユニットは、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持すると共に、この車輪に加わる荷重の大きさを測定して、車両の安定運行の確保に利用する。測定対象である物理量は、上述の様に荷重が最も一般的であるが、この荷重に基づく外輪とハブとの間の相対変位量、或いは、これら外輪とハブとの中心軸同士の傾斜角度等を測定する事もできる。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型等の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更には、電子制御式ビークルスタビリティコントロールシステム(ESC)等の車両用走行安定化装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定化装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等を表す信号が必要になる。そして、より高度の制御を行う為には、車輪を介して上記転がり軸受ユニットに加わる荷重(例えばラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)の大きさを知る事が好ましい場合がある。
【0003】
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、特殊なエンコーダを使用して、転がり軸受ユニットに加わる荷重の大きさを測定する発明が記載されている。図8〜9は、この特許文献1に記載された構造ではないが、この特許文献1に記載された構造と同じ荷重の測定原理を採用している、物理量測定装置付転がり軸受ユニットに関する従来構造の第1例を示している。この従来構造の第1例は、使用時にも回転しない外輪1の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転するハブ2を、複数個の転動体3、3を介して、回転自在に支持している。これら各転動体3、3には、互いに逆向きの接触角と共に、予圧を付与している。尚、図示の例では、これら各転動体3、3として玉を使用しているが、重量が嵩む自動車用の軸受ユニットの場合には、玉に代えて円すいころを使用する場合もある。
【0004】
又、上記ハブ2の軸方向内端部(軸方向に関して「内」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向中央側を言い、図1、2、4、7、8、10、12の右側。反対に、自動車への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図1、2、4、7、8、10、12の左側を、軸方向に関して「外」と言う。本明細書全体で同じ。)には、円筒状のエンコーダ4を、上記ハブ2と同心に支持固定している。又、上記外輪1の軸方向内端開口を塞ぐ、金属板製で有底円筒状のカバー5の内側に、合成樹脂製のセンサホルダ6を介して、1対のセンサ7a、7bを支持固定している。そして、この状態で、これら両センサ7a、7bの検出部を、上記エンコーダ4の被検出面である外周面に近接対向させている。
【0005】
このうちのエンコーダ4は、磁性金属板製である。このエンコーダ4の先半部(軸方向内半部)には、透孔8、8と柱部9、9とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。これら各透孔8、8と各柱部9、9との境界は、上記被検出面の軸方向(幅方向)に対し同じ角度だけ傾斜させると共に、この軸方向に対する傾斜方向を、上記被検出面の軸方向中間部を境に互いに逆方向としている。従って、上記各透孔8、8と上記各柱部9、9とは、軸方向中間部が円周方向に関して最も突出した「く」字形となっている。そして、上記境界の傾斜方向が互いに異なる、上記被検出面の軸方向外半部と軸方向内半部とのうち、軸方向外半部を第一特性変化部10とし、軸方向内半部を第二特性変化部11としている。
【0006】
又、上記センサホルダ6は、上記カバー5の径方向内側の奥端部に保持固定されており、この奥端部に存在する円板部12と、この円板部12の外周縁部分から軸方向外方に延出する円筒部13とを備える。そして、この円筒部13内に、上記両センサ7a、7bを包埋支持している。これら両センサ7a、7bはそれぞれ、永久磁石と、検出部を構成する、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子とから成る。そして、これら両センサ7a、7bのうち、一方のセンサ7aの検出部を上記第一特性変化部10に、他方のセンサ7bの検出部を上記第二特性変化部11に、それぞれ近接対向させている。上記外輪1と上記ハブ2との間にアキシアル荷重が作用しておらず、これら外輪1とハブ2とがアキシアル方向に相対変位していない、中立状態で、上記各透孔8、8及び柱部9、9の軸方向中間部で円周方向に関して最も突出した部分が、上記両センサ7a、7bの検出部同士の間の丁度中央位置に存在する様に、各部材の軸方向の設置位置を規制している。同じ状態で、上記両センサ7a、7bの検出部と、上記エンコーダ4の外周面の特性変化の位相との関係が所定通りになる様に、上記両センサ7a、7bの円周方向の設置位置を規制している。
【0007】
上述の様に構成する物理量測定装置付転がり軸受ユニットの場合、上記中立状態では、上記両センサ7a、7bの検出部は、上記エンコーダ4の外周面のうちで、上記最も突出した部分から軸方向に同じだけずれた部分に対向する。この為、上記両センサ7a、7bの出力信号同士の間の位相差は、上記所定の関係により定まる値となる。これに対し、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用し、これら外輪1とハブ2とがアキシアル方向に相対変位した場合には、上記両センサ7a、7bの検出部は、上記エンコーダ4の外周面のうちで、上記アキシアル荷重の作用方向(上記相対変位の方向)に応じた方向に、このアキシアル荷重(相対変位)の大きさに応じた分だけずれた部分に対向する。この結果、上記両センサ7a、7bの出力信号同士の間の位相差は、上記アキシアル荷重の作用方向に応じた方向に、このアキシアル荷重の大きさに応じた分だけずれる。従って、この位相差に基づいて、上記外輪1とハブ2とのアキシアル方向の相対変位の向き及び大きさ、並びに、これら外輪1とハブ2との間に作用しているアキシアル荷重の作用方向及び大きさを求められる。尚、上記位相差(位相差比=位相差/1周期)に基づいて上記アキシアル方向の相対変位及び荷重を算出する処理は、図示しない演算器により行う。この為、この演算器のメモリ中には、予め理論計算や実験により調べておいた、上記位相差(比)と、上記アキシアル方向の相対変位又は荷重との関係を表す、式やマップを記憶させておく。
【0008】
尚、上述した従来構造の第1例の場合には、エンコーダの被検出面にその検出部を対向させるセンサの数を、2個としている。これに対し、図示は省略するが、特許文献2〜3及び特願2006−345849には、当該センサの数を3個以上とする事で、多自由度の変位或いは外力を求められる構造が記載されている。
【0009】
次に、図10〜11は、物理量測定装置付転がり軸受ユニットに関する、従来構造の第2例を示している。この従来構造の第2例の場合、ハブ2の軸方向内端部に外嵌固定した、磁性金属板製で円筒状のエンコーダ4aの先半部に、スリット状の透孔8a、8aと柱部9a、9aとを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。これら各透孔8a、8aと各柱部9a、9aとの境界はそれぞれ、上記エンコーダ4aの軸方向に対し同方向に同じ角度だけ傾斜した、直線状である。又、外輪1の軸方向内端部にカバー5及びセンサホルダ6を介して支持した1対のセンサ7a、7bの検出部を、上記被検出面の上下2個所位置に近接対向させている。
【0010】
自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、上記外輪1と上記ハブ2との間に加わるアキシアル荷重は、このハブ2に結合固定した車輪を構成するタイヤの外周面と路面との接地面から入力される。この接地面は、上記外輪1及びハブ2の回転中心よりも径方向外方に存在する為、上記アキシアル荷重はこれら外輪1とハブ2との間に、純アキシアル荷重としてではなく、これら外輪1及びハブ2の中心軸と上記接地面の中心とを含む(鉛直方向の)仮想平面内での、モーメントを伴って加わる。この様なモーメントが上記外輪1と上記ハブ2との間に加わると、このハブ2の中心軸がこの外輪1の中心軸に対して傾く。これに伴い、上記エンコーダ4aの上端部が軸方向に関して何れかの方向に、同じく下端部がこれと逆方向に、それぞれ変位する。この結果、上記エンコーダ4aの外周面の上下両端部にそれぞれの検出部を近接対向させた、上記両センサ7a、7bの出力信号の位相が、それぞれ中立位置に対して、逆方向にずれる。即ち、これら両センサ7a、7bの出力信号同士の間の位相差が、上記アキシアル荷重の作用方向及び大きさに応じて変化する。従って、これら両センサ7a、7bの出力信号同士の間の位相差に基づいて、上記アキシアル荷重の作用方向及び大きさを求められる。
【0011】
上述の様な物理量測定装置付転がり軸受ユニットを、自動車の車輪に加わる各方向の荷重を測定する為に利用する場合、上記各センサ7a、7bの信号を取り出したり、これら各センサ7a、7bに電力を供給する為のケーブル14の損傷防止に就いて十分に考慮する必要がある。特に、例えば特許文献4に記載された様な、自動車の駆動輪(FF車の前輪、FR車の後輪、4WD車の全輪)に関する状態量を求める為の物理量測定装置付転がり軸受ユニットの場合、ケーブルと等速ジョイントの外輪とを隣接した状態で配置する場合が多くなる。この様な場合に、これらケーブルと外輪とが擦れ合うと、このケーブルが損傷し、上記車輪に加わる各方向の荷重等を測定できなくなる。
【0012】
一方、上述の様な物理量測定装置付転がり軸受ユニットの場合、複数のセンサに電力を供給したり、これら各センサの出力信号を取り出す為のケーブルを構成する絶縁導線の数が多くなる。例えば、前記特許文献2〜3及び特願2006−345849に記載された様な、3個以上のセンサを使用して多自由度の変位或いは外力を求められる構造の場合、上記絶縁導線の数が10本乃至はそれ以上になる。この様な多数本の絶縁導線を束ねて、一般的な、断面円形のケーブルを構成した場合、このケーブルの直径が大きく(太く)なり、このケーブルを大きな曲率(小さな曲率半径)で曲げる事が難しくなるだけでなく、このケーブルを狭い隙間から取り出す事も難しくなる。この為従来は、図12に示す様に、ケーブル14aの外部被覆15を除去して各絶縁導線16、16を露出させ、これら各絶縁導線16、16を曲げながら、転がり軸受ユニットの外輪1と等速ジョイントの外輪17との間の隙間18から取り出す事が考えられている。
【0013】
但し、この様な構造を採用した場合、上記各絶縁導線16、16の信頼性及び耐久性の確保が難しくなる。即ち、これら各絶縁導線16、16は、銅線等の導体を高分子材料製の絶縁材により覆ったもので、必ずしも耐候性や屈曲耐久性が十分でない。上記ケーブル14aは、この様な絶縁導線16、16を外部被膜15により覆う事で、上記耐候性(紫外線や温度変化等、外部環境に曝される事による劣化しにくさ)及び屈曲耐久性(曲げの繰り返しに伴う絶縁層等の劣化のしにくさ)を確保している。要するに、上記ケーブル14aの外部被覆15を除去して上記各絶縁導線16、16を露出させた場合には、これら各絶縁導線16、16の耐候性や屈曲耐久性が不十分になり、長期間に亙って物理量測定装置付転がり軸受ユニットにより車輪に加わる外力等を求める事が難しくなる。
【0014】
【特許文献1】特開2006−317420号公報
【特許文献2】特開2006−322928号公報
【特許文献3】特開2007−93580号公報
【特許文献4】特開2007−178201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、多数本の絶縁導線を備えたケーブルを限られた空間に配設可能とし、且つ、これら各絶縁導線の耐久性(耐候性、屈曲耐久性等)を十分に確保できる荷重測定装置付転がり軸受ユニットを実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の物理量測定装置付転がり軸受ユニットは、転がり軸受ユニットと、物理量測定装置とを備える。
このうちの転がり軸受ユニットは、内周面に複列の外輪軌道を有し、使用時にも回転しない外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、使用時に回転するハブと、これら両内輪軌道と上記両外輪軌道との間に、両列毎にそれぞれ複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備える。
又、上記物理量測定装置は、エンコーダと、複数のセンサと、演算器とを備える。
このうちのエンコーダは、上記ハブの一部に支持固定され、このハブと同心に設けた被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させると共に、この被検出面の特性が円周方向に関して変化する位相を、この被検出面の幅方向の少なくとも一部でこの幅方向に応じて連続的に変化させている。
又、上記各センサは、検出部を上記被検出面に対向させた状態で、上記外輪若しくはこの外輪に対し固定された部材の一部に支持され、上記被検出面の特性変化に対応して出力信号を変化させる。
更に、上記演算器は、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間の物理量を算出する機能を有する。
【0017】
特に、本発明の物理量測定装置付転がり軸受ユニットに於いては、上記各センサの出力信号を取り出す為の(更にはこれら各センサに電力を供給する為の)ケーブルのうちの少なくとも上記各センサ側部分を、フラットケーブルとしている。
このフラットケーブルとは、それぞれが上記各センサの出力信号を取り出す為の複数本の絶縁導線を、これら各絶縁導線の径方向に関して互いに直列に配置した状態でこれら各絶縁導線全体を単一の外部被覆により覆って、全体を帯状としたものである。
【0018】
上述の様な本発明の物理量測定装置付転がり軸受ユニットを実施する場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、上記外輪の端部に、例えば金属板製のカバーを支持固定する。又、上記各センサを、合成樹脂製のセンサホルダに包埋した状態で、上記カバー内に支持する。そして、上記フラットケーブルの基端部を、上記センサホルダからこのカバーの径方向に導出する。
この様な請求項2に記載した物理量測定装置付転がり軸受ユニットを実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、上記フラットケーブルの先端部を、上記外輪を支持固定する為の部材に対し支持固定自在な、合成樹脂製の固定ブラケットに包埋支持する。そして、この固定ブラケットを境として複数本の絶縁導線の束ね方を異ならせ、この固定ブラケットよりもセンサホルダから遠い側のケーブルの断面形状を円形とする。
【発明の効果】
【0019】
上述の様な本発明の物理量測定装置付転がり軸受ユニットによれば、多数本の絶縁導線を備えたケーブルを限られた空間に配設可能とし、且つ、これら各絶縁導線の耐久性(耐候性、屈曲耐久性等)を十分に確保できる。
即ち、各センサの出力信号を取り出す為の各絶縁導線を集合させて成るケーブルのうちの少なくともこれら各センサ側部分をフラットケーブルとしている為、このケーブルを限られた空間に配設できる。
又、上記各絶縁導線は、上記フラットケーブルを構成する外部被膜により覆われて外部環境に曝される事はないし、過度な曲げ応力が加えられる事もないので、上記各絶縁導線の耐久性を十分に確保できる。
特に、請求項2、3に記載した発明によれば、上記限られた空間への上記ケーブルの配設作業の容易化と、この限られた空間から取り出したケーブルを他の部分に迄延長する場合に、この延長部分に加わる有害な力の抑制とを、高次元で両立させられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1〜7は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例の物理量測定装置付転がり軸受ユニットの特徴は、車輪(特に駆動輪)を懸架装置に対し回転自在に支持する為の転がり軸受ユニットを構成する外輪1とハブ2との間の物理量に関する測定値を表す信号を送るケーブルの構造にある。この物理量を求める為の構造を含め、このケーブルの構造以外の点に関しては、前述した特許文献1〜4に記載された構造を含め、従来から知られている構造と同様であるから、重複する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0021】
本例の場合、駆動輪支持用の転がり軸受ユニットを構成する外輪1の軸方向内端部に、円環状のカバー5aを嵌合固定している。又、このカバー5a内に、複数のセンサを包埋支持した、合成樹脂製で円環状のセンサホルダ6aを保持固定している。そして、このセンサホルダ6aから複合ケーブル19を、図1〜5に示す様に、上記外輪1の径方向に導出している。この複合ケーブル19は、フラットケーブル20と円形ケーブル21とを、固定ブラケット22部分で連続させて成る。これらフラットケーブル20と円形ケーブル21とは、それぞれ複数本(図示の例では10本)の絶縁導線16、16を束ねて成るものであるが、上記フラットケーブル20を構成する各絶縁導線16、16と、上記円形ケーブル21を構成する各絶縁導線とは、互いに連続したものである。即ち、上記複合ケーブル19は、上記各絶縁導線16、16の配列状態を、上記固定ブラケット22の内部で変更する事により、この固定ブラケット22の片側(図1〜5の上側)部分を上記フラットケーブル20とし、他側(図1〜5の下側)部分を上記円形ケーブル21としている。
【0022】
上記各絶縁導線16、16は、上記各センサの出力信号を取り出したり、これら各センサにそれぞれが必要とする電力を供給する為のもので、図6に示す様に、それぞれが、銅線等の導体23を、ビニル等の高分子材料製の絶縁材24により覆って成る。この様な上記各絶縁導線16、16は、必要な本数(図示の例では10本)を集合させて、上記フラットケーブル20と上記円形ケーブル21とから成る、上記複合ケーブル19としている。
【0023】
このうちのフラットケーブル20は、上記各絶縁導線16、16を、これら各絶縁導線16、16の径方向に関して互いに直列に配置した状態で、これら各絶縁導線16、16全体を単一の外部被覆15aにより覆って、全体を帯状としたものである。即ち、上記フラットケーブル20部分で上記各絶縁導線16、16は、このフラットケーブル20を直線状に延ばしたと仮定した場合に、それぞれの中心軸が同一平面上に位置すると共に、外周面の径方向反対側同士が突き合わされた状態に配列されている。又、上記外部被膜15aは、ゴム、ビニル等の絶縁層の外周面を、耐候性を有する表面層で覆って成る。この様なフラットケーブル20は、所定方向(図1、2、4、6の左右方向、図3、5の表裏方向)の厚さが小さく、この所定方向の曲げ剛性が特に低い代わりに、他方向の曲げ剛性が高い。
【0024】
一方、上記円形ケーブル21は、上記各絶縁導線16、16(図6参照)をほぼ断面円形に撚り合わせたものを外部被覆15により覆ったもので、前述の図12に示したケーブル14aと同様のものである。この様な円形ケーブル21の外径は、上記フラットケーブル20の所定方向の厚さよりも大きい。又、この円形ケーブル21の曲げ剛性は、何れの方向に関してもほぼ同じであり、上記フラットケーブル20の所定方向の曲げ剛性よりも高いが、この所定方向と異なる方向の曲げ剛性よりは低い。
【0025】
更に、前記固定ブラケット22は、合成樹脂の射出成形により造られたもので、主部25と、この主部25から両側方に突出したフランジ部26、26とを備える。そして、このうちの主部25の内部に、上記各絶縁導線16、16の中間部である、上記フラットケーブル20と上記円形ケーブル21との間部分を包埋支持している。又、これらフラットケーブル20及び円形ケーブル21の外部被覆15a、15の一端部も、上記主部25内に包埋されている。但し、これら両外部被覆15a、15の長さ方向の端縁同士は、互いに離れている。更に、上記両フランジ部26、26にはそれぞれ通孔27、27を形成して、上記固定ブラケット22をナックル28に固定する為のボルト29(図1参照)を挿通自在としている。
【0026】
上述の様な複合ケーブル19は、上記フラットケーブル20の基端部を前記センサホルダ6aから、このセンサホルダ6a及び前記カバー5aの径方向に導出する状態で、このセンサホルダ6aと組み合わせている。組み合わせた状態で、上記各絶縁導線16、16の導体23、23を、上記センサホルダ6a内に設けた複数のセンサに接続し、上記フラットケーブル20の外部被覆15aの他端部を、このセンサホルダ6aを構成する合成樹脂中に包埋している。上記フラットケーブル20の基端部で上記センサホルダ6aの外周面から引き出す部分の厚さ寸法は小さいので、この引き出し部の為のスペースが嵩む事はなく、上記フラットケーブル20を設ける為に上記カバー5aの一部に設ける切り欠き部32の大きさも小さくて済む。尚、図1〜2に示す様に、上記フラットケーブル20を上記センサホルダ6a及び上記カバー5aの径方向に導出した状態で、このフラットケーブル20は、これらセンサホルダ6a及びカバー5aの中心軸に対し直交する仮想平面上に位置する。
【0027】
上述の様な物理量測定装置付転がり軸受ユニットを上記ナックル28に組み付けるには、図7に矢印αで示す様に、上記フラットケーブル20の基端部を上記センサホルダ6aの外周面近傍部分で折り曲げる。そして、このフラットケーブル20を含む上記複合ケーブル19を、上記ナックル28の支持孔30に挿通する。上記矢印α方向に関する、上記フラットケーブル20の曲げ剛性は低い為、このフラットケーブル20を上述の様に折り曲げて上記支持孔30に挿通する作業は、容易に行なえる。この様にして、上記フラットケーブル20をこの支持孔30に挿通した後、前記外輪1の外周面に設けた固定側フランジ31の軸方向内側面を上記ナックル28の軸方向外側面に突き当てる。そして、この固定側フランジ31をこのナックル28に、図示しないボルトにより結合固定する。
【0028】
次いで、上記フラットケーブル20を上記矢印αと逆方向に戻し、上記複合ケーブル19の中間部で、このフラットケーブル20と前記円形ケーブル21との連続部に設けた前記固定ブラケット22を、上記ナックル28の側面に、ボルト29により支持固定する。この際、図1に示す様に、上記フラットケーブル20を少し弛ませておく。更に、上記円形ケーブル21の他端部に設けたプラグ(図示省略)を、車体側に設けたコネクタに接続し、上記各センサの出力信号を、この車体側に設けた演算器に伝達自在とする。この状態で、上記外輪1と前記ハブ2との間に加わる、アキシアル、ラジアル各荷重やモーメント等の、各種物理量を測定可能になる。上記ナックル28と上記車体とは、自動車の走行に伴って相対変位するが、上記円形ケーブル21は、各方向に撓む事で、この相対変位を吸収する。又、この円形ケーブル21の表面は、丈夫な前記外部被膜15により覆われているので、走行に伴う飛び石により破損しにくく、紫外線等により劣化する事も少ない。
【0029】
上述の様な本例の物理量測定装置付転がり軸受ユニットによれば、多数本の前記絶縁導線16、16を備えた複合ケーブル19を限られた空間に配設可能とし、且つ、これら各絶縁導線16、16の耐久性(耐候性、屈曲耐久性等)を十分に確保できる。即ち、上記各センサの出力信号を取り出す為の上記各絶縁導線16、16を集合させて成る上記複合ケーブル19のうち、上記各センサを包埋支持した、前記センサホルダ6a側部分を、扁平なフラットケーブル20としている為、このセンサホルダ6aから上記複合ケーブル19の基端部を取り出す部分のスペースが小さくて済む。又、上記各絶縁導線16、16は、上記フラットケーブル20及び上記円形ケーブル21を構成する外部被膜15a、15により覆われて外部環境に曝される事はないし、何れのケーブル20、21に関しても過度な曲げ応力が加えられる事もないので、上記各絶縁導線16、16の耐久性を十分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の1例を、ナックルに組み付けてナックルのみを切断した状態で示す側面図。
【図2】同じく、ナックルに組み付ける以前の状態で示す側面図。
【図3】図2の右方から見た図。
【図4】カバーとセンサホルダと複合ケーブルとを取り出して図2と同方向から見た図。
【図5】図4の右方から見た図。
【図6】図4の拡大A−A断面図。
【図7】ナックルに組み付ける際の状態を、ナックルのみを切断した状態で示す側面図。
【図8】従来構造の第1例を示す断面図。
【図9】エンコーダの被検出部を径方向から見た図。
【図10】従来構造の第2例を示す断面図。
【図11】エンコーダの被検出部を径方向から見た図。
【図12】従来構造の第3例を示す断面図。
【符号の説明】
【0031】
1 外輪
2 ハブ
3 転動体
4、4a エンコーダ
5、5a カバー
6、6a センサホルダ
7a、7b センサ
8、8a 透孔
9、9a 柱部
10 第一特性変化部
11 第二特性変化部
12 円板部
13 円筒部
14、14a ケーブル
15、15a 外部被覆
16 絶縁導線
17 外輪
18 隙間
19 複合ケーブル
20 フラットケーブル
21 円形ケーブル
22 固定ブラケット
23 導体
24 絶縁材
25 主部
26 フランジ部
27 通孔
28 ナックル
29 ボルト
30 支持孔
31 固定側フランジ
32 切り欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受ユニットと、物理量測定装置とを備え、
このうちの転がり軸受ユニットは、内周面に複列の外輪軌道を有し、使用時にも回転しない外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、使用時に回転するハブと、これら両内輪軌道と上記両外輪軌道との間に、両列毎にそれぞれ複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備えたものであり、
上記物理量測定装置は、エンコーダと、複数のセンサと、演算器とを備え、
このうちのエンコーダは、上記ハブの一部に支持固定され、このハブと同心に設けた被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させると共に、この被検出面の特性が円周方向に関して変化する位相を、この被検出面の幅方向の少なくとも一部でこの幅方向に応じて連続的に変化させたものであり、
上記各センサは、検出部を上記被検出面に対向させた状態で、上記外輪若しくはこの外輪に対し固定された部材の一部に支持され、上記被検出面の特性変化に対応して出力信号を変化させるものであり、
上記演算器は、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間の物理量を算出する機能を有するものである物理量測定装置付転がり軸受ユニットに於いて、
上記各センサの出力信号を取り出す為のケーブルのうちの少なくとも上記各センサ側部分を、それぞれがこれら各センサの出力信号を取り出す為の複数本の絶縁導線を、これら各絶縁導線の径方向に関して互いに直列に配置した状態でこれら各絶縁導線全体を単一の外部被覆により覆って全体を帯状とした、フラットケーブルとした事を特徴とする物理量測定装置付転がり軸受ユニット。
【請求項2】
外輪の端部にカバーが支持固定されており、各センサが、合成樹脂製のセンサホルダに包埋された状態でこのカバー内に支持されており、フラットケーブルの基端部がこのセンサホルダからこのカバーの径方向に導出されている、請求項1に記載した物理量測定装置付転がり軸受ユニット。
【請求項3】
フラットケーブルの先端部を、外輪を支持固定する為の部材に対し支持固定自在な、合成樹脂製の固定ブラケットに包埋支持しており、この固定ブラケットを境として複数本の絶縁導線の束ね方を異ならせ、この固定ブラケットよりもセンサホルダから遠い側のケーブルの断面形状を円形としている、請求項2に記載した物理量測定装置付転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−186396(P2009−186396A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28563(P2008−28563)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】