説明

物理/化学量測定装置

【課題】検出信号のデジタル信号への変換が容易で低コスト、省スペースを実現しつつ、検出安定性や検出精度に優れた、静電容量センサに代表される物理/化学量測定装置を提供する。
【解決手段】発振回路A1として、コンデンサCc及びインダクタLcを並列に接続してなるセンシング回路要素11と、第1抵抗素子R1と、第2抵抗素子R2と、第3抵抗素子R3とをこの順に環状に直列接続し、前記センシング回路要素11と第3抵抗素子R3との間の接続配線を回路コモンに接続し、前記第3抵抗素子R3と第2抵抗素子R2との間の接続配線を差動増幅器A1の一方の入力端子に接続し、前記センシング回路要素11と第1抵抗素子R1との間の接続配線を差動増幅器A1の他方の入力端子に接続し、前記第1抵抗素子R1と第2抵抗素子R2との間の接続配線を差動増幅器A1の出力端子に接続するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサの容量変化等を利用して測定対象物の物理量乃至化学量を測定する物理/化学量測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンデンサの容量変化を利用して測定対象物の物理量乃至化学量を測定するものとして、特許文献1に示すような赤外分析形コンデンサマイクロフォン検出回路や、キャパシタンスマノメータ等にみられるブリッジ方式静電容量検出回路などが知られている。これらは全て微小静電容量の変化を微小電圧に変換する回路でいずれの製品も検出信号を増幅→整流→AD変換し、ディジタル信号としている。
【特許文献1】特開平11−287833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような信号処理であることからディジタル信号に変換するまでの回路規模が大きくなることに加え、例えば前者のものでは高い電圧源や光変調が必要となったり、後者のものでは交流電圧源が必要となったりするなど、部品点数、部品コスト、回路スペース等の点で向上を図ることが難しい。
【0004】
本発明は、かかる課題を鑑み、かつ静電容量センサ等の信号処理に本質的に求められている内容を鋭意検討してはじめてなされたものである。すなわち、
1)静電容量センサの信号処理においては、静電容量の絶対値は求められておらず、静電容量に相関のある電気信号が求められている。
2)用いられているセンシング用のコンデンサは、ほとんど平行平板形センサであり、また、誘電体は真空か気体がほとんどで損失のないタイプのものである。
3)交流電気回路におけるキャパシタンス、インダクタンスを用いた共振(直列、並列)現象が現れる周波数やこのような共振現象を利用した発振回路での発振周波数は、いずれも1/(2×π×√(L×C))で表現される。これらの回路ではインダクタンス値の絶対値が不明でも安定であれば、出力信号としての周波数は上記式からキャパシタンス値と相関のある電気信号となる。共振現象及び発振現象を利用した静電容量信号処理回路を検討すると、共振現象を利用したものは、交流信号源が必要になり回路規模が大きく、センサ用としては適当でない。発振現象を利用する場合、必要な電源を供給するだけで自発的に発振現象が生じることから、回路の入出力信号は、電源入力と出力信号だけの簡潔なものとなり得る。
【0005】
そして、このような検討を踏まえてなされた本発明の主たる目的は、検出信号のデジタル信号への変換が容易で低コスト、省スペースを実現しつつ、検出安定性や検出精度に優れた、静電容量センサに代表される物理/化学量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る物理/化学量測定装置は、測定対象物の物理量又は化学量に応じて発振周波数が変動する発振回路と、該発振回路から出力される信号の周波数又はその変動を検知する検知回路と、を具備してなり、前記発振回路が以下(1)〜(6)の要件を満たすものであることを特徴とする。
(1)コンデンサ及びインダクタを並列に接続してなるセンシング回路要素と、第1抵抗素子と、第2抵抗素子と、第3抵抗素子と、差動増幅器とを具備している。
(2)前記センシング回路要素と、第1抵抗素子と、第2抵抗素子と、第3抵抗素子とがこの順に環状に直列接続してある。
(3)前記センシング回路要素と第3抵抗素子との間の接続配線は、回路コモンに接続してある。
(4)前記第3抵抗素子と第2抵抗素子との間の接続配線は、差動増幅器の一方の入力端子に接続してある。
(5)前記センシング回路要素と第1抵抗素子との間の接続配線は、差動増幅器の他方の入力端子に接続してある。
(6)前記第1抵抗素子と第2抵抗素子との間の接続配線は、差動増幅器の出力端子に接続してある。
【0007】
このようなものであれば、測定対象物の物理量又は化学量に応じて生じる、コンデンサの容量変化又はインダクタのインダクタンス変化を、発振回路の周波数又はその変動として検知することができる。
【0008】
参照回路との差分計測によるより精度の高い測定を可能とするには、特性が等しい一対の発振回路を設け、一方の発振回路のセンシング回路要素を測定対象物の影響下におき得るように構成しているものが好ましい。このとき、各センシング回路要素の一端が回路コモンに接続されていて同電位となるので、発振回路を複数化しても、相互のセンシング回路要素間での電気的な干渉を排除でき、精度のよい測定に資することが可能となる。また、同様の理由から回路電源の複雑化や部品点数の増大を招くことなく、各発振回路に共通の電源を用いることが容易にできる。
【0009】
前記差分計測における簡易な検知回路の一例としては、他方の発振回路から出力される信号であるリファレンス信号をn分周(nは2以上の整数)する分周回路と、一方の発振回路から出力される信号である測定信号を通過させるものであってn分周されたリファレンス信号によって開閉されるゲート回路と、ゲート回路が所定回数開いている間に該ゲート回路を通過した測定信号のパルス数を計数する計数回路と、を具備したものを挙げることができる。
このようなものであれば、AD変換器などの高価な回路を必要とせず、ゲートICやカウンタICなどの廉価で簡単な素子のみで構成することが可能なので、低コスト化や省スペース化を促進できる。
【発明の効果】
【0010】
上記構成の本発明によれば、発振回路が、コンデンサ、抵抗素子など、せいぜい数個の簡単な素子と作動増幅器から構成でき、その差動増幅器にしても、発振理論から言って増幅度の安定は必要ないため、高速差動デジタルインタフェースレシーバなど、ローコストなものを用いることができる。また、検知回路も周波数の計測をすればよいことから、AD変換器などの高価な素子を必要とせず、ゲート素子や計数回路など、やはり廉価で簡単な素子で構成できる。したがって、全体として大幅な低コスト化、省スペース化を実現できる。さらに、共振周波数によってはセンシング回路要素のコンデンサやインダクタをプリントパターンで実現することができ、専用の素子を使用することなく更に低コスト化や小型化を促進できる。
【0011】
また、センシング回路要素が回路コモンに接続されているので、この部分のインピーダンスが低くなるうえ、この部分を用い測定に影響の出ない方法でシールドすることなども容易に可能であることから、大気中、液中に拘わらず、電気的ノイズに対して強い構成にできる。
【0012】
さらに、前述したように、特に測定対象物が溶液であって、一方を検出用、他方を参照用とした2つの発振回路を用いて差分測定する場合には、センサ本体となるセンシング回路要素の一端が発振回路のコモンに接続されていることから、相互のセンシング回路要素間での電気的な干渉を排除でき、2つの発振回路を同一環境下においた差分測定が容易にできる。したがって、温度影響などの外乱を排除した、精度良い測定が容易にできるようになる
【0013】
本発明にかかる測定装置をマルチチャンネル化する場合にも、同様のことが言える。つまり、センシング回路要素の一端が回路コモンに接続されているので、相互干渉が生じ難く、共通の電源を用いることができる。また、各発振回路の切替素子を一素子で構成することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係る物理/化学量測定装置100(図1参照)は、センシング回路要素11に外部から何らかの物理的変化を与えることによって該センシング回路要素11の共振周波数が変化することを利用したものであり、この共振周波数を測定することにより、その変化を与えた原因である物理量や化学量を測定することができるものである。
【0016】
センシング回路要素11は、図1に示すように、インダクタLcと並列にコンデンサCcを接続したものであり、ここでは、インダクタLcの値を固定としてコンデンサCcが、測定対象物からの影響によって容量変化するように構成してある。容量変化は、コンデンサCcの電極間距離の変化によって引き起こされ、逆に言えば、その電極間距離を変動させ得る例えば圧力変化などを共振周波数の変化として測定することができる。そして具体的には、コンデンサマイクロホンなどに適用することが可能である。
【0017】
かかる物理/化学量測定装置100について具体的に説明すると、このものは、図1に示すように、前記センシング回路要素11を有する発振回路1と、その発振回路1の発振周波数を検知する周波数検知回路2とを具備している。
【0018】
発振回路1は、第1抵抗素子R1、第2抵抗素子R2、第3抵抗素子R3、センシング回路要素11及び差動増幅器A1を具備したものであり、差動増幅部A1には、ここでは、ローコストな高速差動デジタルインタフェースレシーバを用いている。なお、差動増幅部A1に発振理論から言って増幅度の安定は必要ないため、前述した高速差動デジタルインタフェースレシーバなど、ローコストなものを用いてもよいし、もちろん、計装アンプやコンパレータなどを用いても構わない。
【0019】
詳述すると、この発振回路1においては、前記第1抵抗素子R1、第2抵抗素子R2、第3抵抗素子R3及びセンシング回路要素11がこの順に環状に直列接続してある。そして、前記センシング回路要素11と第3抵抗素子R3との間の接続配線が回路コモンに、第3抵抗素子R3と第2抵抗素子R2との間の接続配線が差動増幅器A1のマイナス入力端子に、センシング回路要素11と第1抵抗素子R1との間の接続配線が差動増幅器A1のプラス入力端子に、さらに、第1抵抗素子R1と第2抵抗素子R2との間の接続配線が差動増幅器A1の出力端子にそれぞれ接続してある。なお、差動増幅器A1の各入力端子への接続は、コンデンサを介したACカップリングでも構わない。
【0020】
一方、周波数検知回路2は、詳細は図示しないが、例えば、一定周波数で動作するクロック素子を利用したカウンタ回路である。このような構成にしておけば、A/Dコンバータを用いることなく、対象物を測定することができる。またカウンタ回路のゲート時間を可変にしたり、カウンタの段数を増やすことにより、信号のフィルタリングも容易に行える。
【0021】
次に、前記発振回路1について解析した結果を説明する。解析に用いた等価回路は図2に示すとおりである。なお、図2中の波線部分12は、差動増幅器A1の入力部等価回路である。また、ここでは、差動増幅器A1の各入力端子への接続を、コンデンサC1、C2を介して行っている。
【0022】
解析に用いたセンシング回路要素11のコンデンサCcの容量は、コンデンサマイクロフォンを想定し、50pFとした。インダクタLcのインダクタンス値は、共振周波数fを20MHzに近い値(2.25079・10(Hz))となるように1μHとし、その等価抵抗Rcは10Ωとした。この結果、インダクタLcのQは14と低い値になる。その他の各素子の値は以下の通りである。
R1・・・1000(Ω)、R2・・・200(Ω)、R3・・・300(Ω)
RbA、RbB・・・10、CiA、CiB・・・20・10−12(F)
C1、C2・・・20・10−6(F)
【0023】
かかる条件下で解析した結果を図3に示す。周波数特性結果から並列共振点信号eoutAに比べ、差信号eout=eoutA−eoutBのQは高くなっていることがわかる。
【0024】
次に同位相となる周波数fを求め、その周波数における解析を行った。
=2.13・10
時のゲイン(ei=1とした場合のeout)は、
eout(f)=eoutA(f)−eoutB(f
=0.014
位相傾き(差電圧)aは、
a(f)=−0.372
位相傾き(e1a)aaは、
aa(f)=−0.026
となる。
【0025】
この結果から言えば、並列共振点の位相傾きよりも差電圧の位相傾きが10倍以上良くなっている結果が得られた。また、差動増幅器のゲインが、1/0.014≒71.4以上で発振可能となる。
【0026】
なお、eoutBは差動増幅器A1のマイナス入力端子での電圧、eoutAは差動増幅器A1のプラス入力端子での電圧、eiは差動増幅器A1の出力端子での電圧、e1aは第1抵抗素子R1とセンシング回路要素11との接続点における電圧である。
【0027】
しかして、この物理/化学量測定装置100を用いれば、例えばコンデンサマイクロフォンを形成することができ、コンデンサCcにおける静電容量変化を周波数検知回路2で計数値として捉えることができる。
【0028】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではない。
例えば、図4に示すように差分測定やマルチチャンネル測定をすべく、特性の等しい発振回路1、1’を複数(図4では2つ)並列に設けた構成としても構わない。
【0029】
ここでの検知回路2は、他方の発振回路1’から出力される信号であるリファレンス信号をn分周(nは2以上の整数)する分周回路21と、一方の発振回路1から出力される信号である測定信号を通過させるものであってn分周されたリファレンス信号によって開閉されるゲート回路22と、ゲート回路22が所定回数(ここでは1回)開いている間に、該ゲート回路22を通過した測定信号のパルス数を計数する計数回路23と、を具備したものである。
【0030】
このようなものであれば、温度などの外乱で周波数に変動が生じても、その変動は各発振回路に同等に影響するため、キャンセルされ、一方の発振回路1にのみ生じた測定対象物からの影響のみが、周波数変動として計数されることとなる。なお、図4において、前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付している。
【0031】
その他の変形例としては、コンデンサの値を固定として、インダクタのインダクタンス値が、測定対象物からの影響によって変化するように構成しても構わない。
【0032】
しかして、このように構成した各実施形態に係る物理/化学量測定装置100によれば、発振回路1が、コンデンサCc、抵抗素子R1、R2、R3など、せいぜい数個の簡単な素子と作動増幅器A1から構成でき、その差動増幅器A1にしても、発振理論から言って増幅度の安定は必要ないため、高速差動デジタルインタフェースレシーバなど、ローコストなものを用いることができる。また、検知回路2もパルス数の計測をすればよいことから、AD変換器などの高価な素子を必要とせず、ゲート素子22や計数回路23など、やはり廉価で簡単な素子で構成できる。したがって、全体として大幅な低コスト化、省スペース化を実現できる。
【0033】
また、センシング回路要素11の一端が回路コモンに接続されているので、この部分のインピーダンスが低くなるうえ、この部分を用い測定に影響の出ない方法でシールドすることなども容易に可能であることから、大気中、液中に拘わらず、電気的ノイズに対して強い構成にできる。
【0034】
さらに、一方を検出用、他方を参照用とした2つの発振回路を用いて差分測定する場合には、センサ本体となるセンシング回路要素11の一端が発振回路1のコモンに接続されていることから、相互のセンシング回路要素間での電気的な干渉を排除でき、2つの発振回路を同一環境下においた差分測定が容易にできる。したがって、温度影響などの外乱を排除した、精度良い測定が容易にできるようになる
【0035】
マルチチャンネル化する場合にも、同様のことが言える。つまり、センシング回路要素11の一端が回路コモンに接続されているので、相互干渉が生じ難く、共通の電源を用いることができる。また、各発振回路の切替素子を一素子で構成することも可能となる。
【0036】
さらに、共振周波数によってはセンシング回路要素11のコンデンサCcやインダクタLcをプリントパターンで実現することができ、専用の素子を使用することなく更なる低コスト化や小型化を促進できる。
【0037】
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係る物理/化学量測定装置の電気回路図。
【図2】同実施形態における物理/化学量測定装置の部分等価回路図。
【図3】前記等価回路でシミュレーションした結果を示す位相特性及びゲイン特性線図。
【図4】本発明の他の実施形態に係る物理/化学量測定装置の電気回路図。
【符号の説明】
【0039】
100・・・物理/化学量測定装置
1・・・発振回路
Cc・・・コンデンサ
Lc・・・インダクタ
Rc・・・抵抗素子
R1・・・第1抵抗素子
R2・・・第2抵抗素子
R3・・・第3抵抗素子
A1・・・差動増幅器
11・・・センシング回路要素


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の物理量又は化学量に応じて発振周波数が変動する発振回路と、該発振回路から出力される信号の周波数又はその変動を検知する検知回路と、を具備してなり、
前記発振回路が、
コンデンサ及びインダクタを並列に接続してなるセンシング回路要素と、第1抵抗素子と、第2抵抗素子と、第3抵抗素子とをこの順に環状に直列接続し、
前記センシング回路要素と第3抵抗素子との間の接続配線を回路コモンに接続し、
前記第3抵抗素子と第2抵抗素子との間の接続配線を差動増幅器の一方の入力端子に接続し、
前記センシング回路要素と第1抵抗素子との間の接続配線を差動増幅器の他方の入力端子に接続し、
前記第1抵抗素子と第2抵抗素子との間の接続配線を差動増幅器の出力端子に接続したものであることを特徴とする物理/化学量測定装置。
【請求項2】
特性が等しい一対の発振回路を具備してなり、一方の発振回路におけるセンシング回路要素を測定対象物の影響下におき得るように構成している請求項1記載の物理/化学量測定装置。
【請求項3】
前記検知回路が、
他方の発振回路から出力される信号であるリファレンス信号をn分周(nは2以上の整数)する分周回路と、
一方の発振回路から出力される信号である測定信号を通過させるものであってn分周されたリファレンス信号によって開閉されるゲート回路と、
ゲート回路が所定回数開いている間に、該ゲート回路を通過した測定信号のパルス数を計数する計数回路と、を具備したものである請求項2記載の物理/化学量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−162522(P2009−162522A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339740(P2007−339740)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】