特性可変ファイバグレーティング
【課題】 本発明の課題は、小型であり、かつ、作製が容易であって、効率よく分散量を変化させることができ、さらに、動作中心波長が温度によって変化することなく分散量が可変できる特性可変ファイバグレーティングを提供することにある。
【解決手段】 光ファイバブラッググレーティング1と、この光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置された繊維状部材2とを備え、繊維状部材2は、負の熱膨張係数を有し、温度上昇により収縮して光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に圧縮力を作用させるとともに、グレーティング部3における長手方向について異なる収縮作用量を有している。
【解決手段】 光ファイバブラッググレーティング1と、この光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置された繊維状部材2とを備え、繊維状部材2は、負の熱膨張係数を有し、温度上昇により収縮して光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に圧縮力を作用させるとともに、グレーティング部3における長手方向について異なる収縮作用量を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信において外部共振器や分散補償器などとして使用されるグレーティング特性を変化させることができるようになされた特性可変ファイバグレーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバブラッググレーティング(FBG)は、光ファイバの長さ方向に周期的な屈折率変化を有する部分を作製することで、特定波長の光を反射させる特性を持たせた光学素子品である。従来、このような光ファイバブラッググレーティングは、レーザダイオード光源の波長安定化用の外部共振器や光合分波器(OADM)、光スイッチ、光フィルタ、分散補償器などとして使用され、光通信においては欠かせない光学素子の一つである。
【0003】
このような光ファイバブラッググレーティングは、ゲルマニウム(Ge)が添加された石英からなる光ファイバの石英部に紫外線を照射することにより、照射部分の屈折率を上昇させることによって作製されている。すなわち、この光ファイバブラッググレーティングは、光ファイバの被覆樹脂を除去して石英部を露出させ、この石英部の側面より、周期的な強度分布を有する紫外光を照射することにより作製される。
【0004】
このようにして作製された光ファイバブラッググレーティングにおいては、屈折率が変化した部分がこの光ファイバの長手方向について周期的に形成されている。このように屈折率が変化した部分が周期的に形成された光ファイバにおいては、入射光のうちの特定の波長の光を反射したり、あるいは、入射光のうちの特定の波長の光を光ファイバの外へ放射するという特性が得られる。したがって、このような特性を有する光ファイバブラッググレーティングは、波長選択フィルタなどとしても用いることができる。
【0005】
なお、このような光ファイバブラッググレーティングを作製するために用いられる紫外光の光源としては、フッ化クリプトン(KrF)エキシマレーザや、アルゴンイオン(Ar2+)レーザの第2高調波などの波長260nm以下の紫外光レーザが用いられる。また、この紫外光に周期的な強度分布を与えるためには、周期的な溝が形成された位相マスクと呼ばれる石英基板に該紫外光を透過させることが行われている。
【0006】
ここで、光ファイバブラッググレーティングにおける反射波長λBは、グレーティング周期Λと実効屈折率neffを用いて、以下の(式1)のように示すことができる。
【0007】
λB=2neffΛ ・・・・・・・・・・・・(式1)
この光ファイバブラッググレーティングは、通常、温度上昇により、中心反射波長が長波側に変動する特性を有している。これは、温度上昇により、正の線膨張を有する光ファイバが膨張し、(式1)における周期Λが大きくなり、結果として反射波長λBが大きくなるためである。さらに、温度上昇による実効屈折率の変化も中心波長特性に影響を与える。例えば、光ファイバ材料が石英である場合、屈折率の温度依存性は約1×10−5[1/℃]であり、温度上昇により反射波長λBが大きくなる。これらの二つの特性がそれぞれ作用した結果として光ファイバグレーティングの温度特性は決まる。
【0008】
従来、温度変化による反射波長変動を補償した温度補償型のファイバブラッググレーティングが提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、負の膨張係数を持つ材料を光ファイバブラッググレーティングの周囲に配置したファイバブラッググレーティングが提案されている。このファイバブラッググレーティングにおいては、温度上昇による光ファイバの膨張と、温度上昇による光ファイバブラッググレーティングの周囲に配置された材料の収縮とを釣り合わせることにより、光ファイバブラッググレーティングにおける反射波長変動を抑制し、温度補償を達成することができる。
【0009】
また、特許文献3に記載されているように、負の膨張特性を有する液晶高分子ポリマ(LCP:Liquid Crystal Polymer)を光ファイバブラッググレーティングの周囲に配置して構成したファイバブラッググレーティングが提案されている。このファイバブラッググレーティングにおいては、温度上昇による光ファイバの膨張が、液晶高分子ポリマの収縮によって抑制され、温度補償が達成される。
【0010】
ところで、この光ファイバブラッググレーティングの一つとして、屈折率が変化した部分の周期が光ファイバの長手方向について変化しているチャープファイバグレーティング(CFG)がある。チャープファイバグレーティングは、広帯域フィルタなどに幅広く利用されており、特に、光ファイバの伝送路で蓄積した波長分散を補償する分散補償ファイバグレーティング(DCFG)への応用が注目されている。
【0011】
図11は、分散補償ファイバグレーティングの動作原理を示す側面図である。
【0012】
図11に示すように、サーキュレータ101を経て分散補償ファイバグレーティング(DCFG)102に入射された光は、グレーティング部103で反射される。分散補償ファイバグレーティング102においては、グレーティング部103において屈折率が変化した部分の周期が光ファイバの長手方向で変化しているので、波長によって反射位置が異ることとなる。そのため、この分散補償ファイバグレーティング102からの反射光は、波長により異なる光路長を経て、分散補償ファイバグレーティング102から出射される。この反射光をサーキュレータ101において取り出すと、この反射光には、波長毎に時間差が生じている。このような波長による時間差を波長分散と呼び、通常、〔ps/nm〕を単位として表される。
【0013】
一般の光通信に用いられるシングルモードファイバは、波長1550nmにおいて、光ファイバ長1kmあたり、約17ps/nmの波長分散を持つ。このような波長分散が大きくなると、光ファイバ中を伝送される光パルス形状が劣化してしまうため、情報が伝達できなくなってしまう虞れがある。
【0014】
そのため、伝送路の光ファイバによって生じる波長分散のちょうど逆の波長分散を持つ分散補償ファイバグレーティング102を用いることにより、伝送路で蓄積された波長分散を補償することが可能となり、光通信システムの特性の大幅な改善を図ることができる。
【0015】
ところで、伝送路の波長分散は、温度などの環境変化により変化する。そのため、日中と夜間のような時間帯や季節の違いによって、必要となる補償量は異なるものとなる。そのため、従来、分散補償ファイバグレーティングにおいては、伝送路の温度変化などについて、全ての状況下において波長分散を完全に補償することができないという問題があった。
【0016】
そこで、分散特性を必要に応じて変化させられるようになされた可変構造を有する分散補償ファイバグレーティングが提案されている。分散補償ファイバグレーティングにおける分散特性を変えるためには、反射光の波長の長手方向依存性を制御する必要がある。反射光の波長の長手方向依存性を制御するための構成としては、いわゆる「熱分布方式」及び「歪み分布方式」が提案されている。
【0017】
「熱分布方式」は、グレーティング部の長手方向について熱分布を持たせることにより、反射波長を変化させるようにしたものである。この「熱分布方式」においては、光ファイバの長手方向に沿って、正確な温度分布を生じさせることが要求される。点熱源によっては、温度分布を所望の状態にするのが困難であるため、分布型の熱源を用いることが必要になる。この「熱分布方式」の分散補償ファイバグレーティングとして、分散補償ファイバグレーティングに金薄膜を蒸着し、分散補償ファイバグレーティング全体の温度を調整するようにしたものが提案されている。
【0018】
一方、「歪み分布方式」は、グレーティング部の長手方向に沿って、異なる歪みを生じさせることにより、反射波長を変化させるようにしたものである。
【特許文献1】特開平11−160554号公報
【特許文献2】特開2000−321442公報
【特許文献3】国際公開第097/14983号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前述のように分散補償ファイバグレーティングとして使用される従来のファイバブラッググレーティングにおいては、以下に述べるような、いくつかの解決すべき課題がある。
【0020】
すなわち、伝送路によって生じる波長分散は、使用される光ファイバの種類や長さによって変化する。そのため、波長分散の完全な補償を行うためには、伝送路ごとに個別に分散補償ファイバグレーティングを設計する必要がある。
【0021】
通常、分散補償ファイバグレーティングは、位相マスクを用いて作製されるが、異なる仕様の分散補償ファイバグレーティングを作製するためには、異なる位相マスクが必要となる。この位相マスクは、作製が困難で高価であるため、分散補償ファイバグレーティングの仕様ごとに異なる位相マスクを用意しなければならないことは、分散補償ファイバグレーティングの価格が高くなってしまう原因の一つであった。
【0022】
また、分散特性を必要に応じて変化させる「熱分布方式」の分散補償ファイバグレーティングにおいては、金属膜を蒸着させるための装置が高価であり、製造コストが高いという問題がある。また、この方式の分散補償ファイバグレーティングにおいては、グレーティング部の長手方向について、蒸着膜厚を正確に変化させる必要があるため、蒸着工程において複雑な制御が要求され、作製が困難である。さらに、この方式の分散補償ファイバグレーティングにおいては、蒸着された金属膜に電極を取り付ける必要があるなど、構成が複雑であり、製造工程において緻密な作業が要求される。そのため、この分散補償ファイバグレーティングは、製造工程における歩留まりが悪く、結果として、極めて高価なものになってしまう。
【0023】
また、「熱分布方式」の分散補償ファイバグレーティングにおいては、グレーティング部に熱をかけることにより、分散補償ファイバグレーティングの中心波長自体が長波長側にシフトしてしまう。すなわち、この分散補償ファイバグレーティングにおいては、「波長多重通信」で必要とされるような、ある特定の波長に動作波長を固定した状態で分散特性を変化させることが困難である。
【0024】
そして、「歪み分布方式」の分散補償ファイバグレーティングにおいては、長手方向について連続的に歪みを変化させることは困難であり、大きな分散変化量を得ることが困難であった。
【0025】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的としては、小型であり、かつ、作製が容易であって、効率よく分散量を変化させることができ、さらに、望ましくは動作中心波長が温度によって変化することなく分散量が可変できる特性可変ファイバグレーティングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1記載の本発明は、周期的に屈折率が変化したグレーティング構造が形成されている光ファイバからなる光ファイバブラッググレーティングと、この光ファイバブラッググレーティングの周囲に配置された繊維状部材とを備え、前記繊維状部材は、温度上昇により繊維長手方向に収縮し、温度下降により繊維長手方向に膨張する負の線膨張特性を有し、この温度上昇による繊維の収縮、温度下降による繊維の膨張により、前記光ファイバブラッググレーティングに対し、この光ファイバブラッググレーティングの長手方向の圧縮力あるいは伸長力を作用させる構造を有し、前記繊維部材の膨張あるいは収縮によって光ファイバへ与える圧縮力あるいは伸長力の作用量がこの光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部における長手方向について異なることを特徴とするものである。
【0027】
請求項2記載の本発明は、請求項1記載の発明において、繊維状部材を構成する繊維の本数が、光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部の長手方向について異なることを特徴とするものである。
【0028】
請求項3記載の本発明は、請求項1乃至請求項2のいずれか一に記載の発明において、繊維状部材を構成する繊維の繊維長手方向の線膨張係数が−6.0×10−6乃至−15.0×10−6〔1/°C〕であることを特徴とするものである。
【0029】
請求項4記載の本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の発明において、繊維状部材は、高分子量ポリエチレンからなることを特徴とするものである。
【0030】
請求項5記載の本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の発明において、繊維状部材は、ポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維であることを特徴とするものである。
【0031】
請求項6記載の本発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の発明において、繊維状部材をなす繊維同士間及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティングとの間の空隙は、樹脂材料により充填されていることを特徴とするものである。
【0032】
請求項7記載の本発明は、請求項6記載の発明において、樹脂材料は、使用温度範囲におけるヤング率が500MPa以下の材料であることを特徴とするものである。
【0033】
請求項8記載の本発明は、請求項1乃至請求項7のいずれか一に記載の発明において、使用温度範囲内における温度変化について、ファイバブラッググレーティングの両端側における反射波長の変化方向が互いに逆方向であることを特徴とするものである。
【0034】
請求項9記載の本発明は、請求項1乃至請求項8のいずれか一に記載の発明において、ファイバブラッググレーティングの温度を調整する温度調整機構を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0035】
請求項1記載の本発明によれば、繊維状部材は、温度上昇により収縮することにより、光ファイバブラッググレーティングに対し、この光ファイバブラッググレーティングの長手方向の圧縮力を作用させるとともに、この光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部における長手方向について光ファイバに対して異なる収縮作用量を有しているので、効率よく分散量を変化させることができる。同時に、繊維状部材は、温度下降により膨張することにより、光ファイバブラッググレーティングに対し、この光ファイバブラッググレーティングの長手方向の伸長力を作用させるとともに、この光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部における長手方向について光ファイバに対して異なる伸長作用量を有しているので、効率よく分散量を変化させることができる。そして、この特性可変ファイバグレーティングは、作製が容易であり、安価に作製することが可能である。
【0036】
請求項2記載の本発明によれば、繊維状部材を構成する繊維の本数が光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部の長手方向について異なることにより、この繊維状部材の光ファイバに対する収縮および伸長作用量が、グレーティング部における長手方向について異なることとなる。
【0037】
請求項3記載の本発明によれば、光ファイバ部材が石英であり、繊維状部材の長手方向の線膨張係数が−6.0×10−6乃至−15.0×10−6〔1/°C〕であることにより、光ファイバの長手方向に十分大きな圧縮・収縮作用を及ぼすことが可能となるため、効率よく分散量を変化させることができる。
【0038】
請求項4記載の本発明によれば、繊維状部材が、高分子量ポリエチレンからなるので、効率よく分散量を変化させることができる。
【0039】
請求項5記載の本発明によれば、繊維状部材は、ポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維であるので、効率よく分散量を変化させることができる。
【0040】
請求項6記載の本発明によれば、繊維状部材をなす繊維同士間及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティングとの間の空隙が樹脂材料により充填されているので、繊維状部材が光ファイバブラッググレーティングに対して確実に圧縮力あるいは伸張力を作用させることができ、効率よく分散量を変化させることができる。
【0041】
請求項7記載の本発明によれば、樹脂材料は、使用温度範囲におけるヤング率が500MPa以下の材料であるので、樹脂材料の歪みが光ファイバに応力を生じさせることがなく、光ファイバブラッググレーティングの特性劣化を招来することがない。
【0042】
請求項8記載の本発明によれば、使用温度範囲内における温度変化について、ファイバブラッググレーティングの両端側における反射波長の変化方向が互いに逆方向であるので、動作中心波長の温度による変化を抑制し、分散量を可変することができる。
【0043】
請求項9記載の本発明によれば、ファイバブラッググレーティングの温度を調整する温度調整機構を備えているので、効率よく分散量を変化させることができる。
【0044】
すなわち、本発明は、小型であり、かつ、作製が容易であって、効率よく分散量を変化させることができ、さらに、動作中心波長の温度による変化を抑制しつつ、分散量が可変できる特性可変ファイバグレーティングを提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0046】
本発明は、長手方向に負の熱膨張係数を有する繊維状部材をグレーティング構造を有する光ファイバの周囲に配置することにより、分散量が可変の分散補償ファイバグレーティング(DCFG)として使用できる特性可変ファイバグレーティングを構成するものである。
【0047】
図1は、本発明に係る特性可変ファイバグレーティングの構成を示す縦断面図及び横断面図である。
【0048】
この特性可変ファイバグレーティングは、図1に示すように、チャープファイバグレーティング(CFG)である光ファイバブラッググレーティング(FBG)1として作製された光ファイバの周囲に、負の熱膨張特性を有する繊維状部材2が配置されて構成されている。チャープファイバグレーティングは、前述したように、屈折率が変化した部分の周期が光ファイバの長手方向について変化している光ファイバブラッググレーティングである。
【0049】
この光ファイバブラッググレーティング1は、ゲルマニウム(Ge)が添加された石英からなる光ファイバの石英部に周期的な強度分布を有する紫外線を照射することにより、光ファイバの長手方向について周期的な所定箇所の屈折率を上昇させることによって作製されている。すなわち、この光ファイバブラッググレーティング1は、光ファイバの被覆樹脂を除去して石英部を露出させた状態で、この石英部の側面より、周期的な強度分布を有する紫外光を照射することにより作製されている。この光ファイバブラッググレーティング1においては、入射光のうちの特定の波長の光を反射したり、あるいは、入射光のうちの特定の波長の光を光ファイバの外へ放射するという特性が得られる。
【0050】
繊維状部材2は、温度上昇により、この繊維状部材2をなす繊維の長手方向に収縮する負の熱膨張特性を有している。この繊維状部材2は、図1に示すように、少なくとも光ファイバブラッググレーティング1において屈折率が上昇されているグレーティング部3の周囲に配置されている。
【0051】
ここで、分散補償ファイバグレーティング(DCFG)の動作原理を以下に示す。
【0052】
光ファイバブラッググレーテイングは、通常、温度上昇により、反射中心波長が長波側に変動する特性を有している。これは、温度上昇により、正の熱膨張係数を有する光ファイバが膨張し、前述の(式1)(λB=2neffΛ)における周期Λが大きくなる作用と、温度上昇により実効屈折率neffが大きくなる作用の、結果として、反射波長λBが大きくなるためである。グレーティング周期が光ファイバの長手方向に徐々に変化するチャープファイバグレーティングにおいても、温度上昇により、反射中心波長がシフトする。
【0053】
図2は、チャープファイバグレーティングにおいて温度上昇により反射中心波長が変化する様子を示すグラフである。
【0054】
この図2においては、実線が温度上昇前、点線が温度上昇後の特性を示しており、(a)は反射特性を示し、(b)は反射帯域内における群遅延時間特性を示している。
【0055】
チャープファイバグレーティングを分散補償器として使用する場合には、図2中の(b)に示す群遅延時間の波長依存性を利用する。すなわち、図2中の(b)に示した特性の傾きが、分散補償器で補償できる波長分散量となる。この図2からもわかるように、通常のチャープファイバグレーティングにおいては、温度上昇によって反射中心波長全体が長波長側にシフトしてしまい、その結果、分散量は変化せず、可変分散補償器とすることはできない。
【0056】
図3は、チャープファイバグレーティングにおける反射中心波長の変動の温度依存性が長手方向について変化している場合の反射中心波長の変化を示すグラフである。
【0057】
一方、チャープファイバグレーティングにおける反射中心波長の変動の温度依存性が、チャープファイバグレーティングの長手方向について変化している場合には、図3中の(a)及び(c)に示すように、温度変化により反射帯域幅が変化し、それに伴い、図3中の(b)及び(d)に示すように、群遅延時間の波長依存性(グラフの傾き)、すなわち、波長分散が変化するので、可変分散補償器として使用することができる。
【0058】
(c)及び(d)には、CFG反射波長の短波側が短波側へ、長波側が長波側ヘと逆方向に変動する場合を示す。
【0059】
図3中の(a)及び(b)には、チャープファイバグレーティングにおける反射波長の短波長側及び長波長側がともに温度上昇によって長波長側に変動するが、その変動量が異なる場合を示している。図3中の(c)及び(d)には、チャープファイバグレーティングにおける反射波長の短波長側が温度上昇によって短波長側に変動し、長波長側が温度上昇によって長波長側に変動する場合を示している。これらいずれの場合においても、温度変化により、分散量が変化する。しかし、反射波長の短波長側が温度上昇によって短波長側に変動し長波長側が温度上昇によって長波長側に変動する場合のほうが、温度変化による反射中心波長の変動が抑えられる点で、反射波長の短波長側及び長波長側がともに温度上昇によって長波長側に変動する場合よりも好ましい。
【0060】
このようなチャープファイバグレーティングを分散量可変の分散補償器として動作させる場合に必要な特性を踏まえつつ、以下、負の熱膨張係数を有する繊維状部材を備えた分散量可変の分散補償器について述べる。
【0061】
グレーティング部の反射中心波長λBは、前述したように、温度上昇により、長波長側に変動する。この光ファイバブラッググレーティングにおける反射中心波長の変動の温度依存性を変化させるには、光ファイバの線膨張係数を光ファイバの長手方向に沿って変化させればよい。
【0062】
本発明に係る特性可変ファイバグレーティングにおいては、図1に示すように、グレーティング構造を有する光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置された長手方向に負の熱膨張係数を有する繊維状部材2の膨張及び収縮にしたがって、光ファイバブラッググレーティング1が膨張及び収縮される。
【0063】
この特性可変ファイバグレーティングにおいては、温度上昇による繊維状部材2の収縮が、光ファイバブラッググレーティング1に対する圧縮応力として作用し、正の熱膨張係数を有する光ファイバブラッググレーティング1の熱膨張を抑制する。このように、光ファイバブラッググレーティング1の熱膨張が抑制されることによって、この光ファイバブラッググレーティング1の温度特性を変化させることができる。
【0064】
そして、この特性可変ファイバグレーティングにおいては、光ファイバブラッググレーティング1の膨張及び収縮率は、グレーティング部3の長手方向に沿って変化している。これは、繊維状部材2が光ファイバブラッググレーティング1に与える圧縮応力がグレーティング部3の長手方向に沿って変化することによるもので、この作用により特性可変ファイバグレーティングは、可変分散補償器として使用することができる。
【0065】
ここで、図1に示すように、光ファイバブラッググレーティング1の周囲に負の熱膨張係数を有する繊維状部材2が配置され、この繊維状部材2の収縮による圧縮応力が全て光ファイバブラッググレーティング1に伝わる構造であると仮定する。光ファイバブラッググレーティング1の断面積をSf、ヤング率をEf、繊維状部材2をなす繊維の断面積の合計をSn、ヤング率をEnと定義すると、力の釣り合いについて、下記の(式2)が成立する。
【0066】
SfEfuf+SnEnun=0 ・・・・・・・・・・・・(式2)
この(式2)において、uf及びunは、それぞれ光ファイバブラッググレーティング1及び繊維状部材2の平衡点からの変位量である。すなわち、光ファイバブラッググレーティング1の変位量ufがグレーティング部3において光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に沿って変化しているように設計することにより、分散量可変の分散補償ファイバグレーティングが構成される。ここで、材料のヤング率Ef、Enを光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に沿って変化させることは困難であるため、光ファイバブラッググレーティング1の断面積Sf、または、繊維の断面積の合計Snを光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に沿って変化させておくことにより、所望の特性が実現できる。
【0067】
また、図3中の(c)及び(d)に示したように、反射波長の短波長側が温度上昇によって短波長側に変動するために、繊維状部材2に必要な負の熱膨張係数は、使用する光ファイバブラッググレーティング1の材質にもよるが、通信用として広く用いられている石英系光ファイバを用いる場合には、−6.0〜−15.0×10−6〔1/°C〕程度となる。すなわち、繊維状部材2の熱膨張係数は、−6.0〜−15.0×10−6〔1/°C〕の範囲であることが望ましい。
【0068】
この特性可変ファイバグレーティングにおいては、光ファイバブラッググレーティング1の周囲に直接繊維状部材2を配置し、この繊維状部材2の収縮を利用しているため、この繊維状部材2を含めた外径は、1mm以下とすることが可能であり、小型化が可能である。
【0069】
図4は、繊維状部材2をなす繊維の本数がグレーティング部3の長手方向に沿って変化している構成を示す縦断面図及び横断面図である。
【0070】
本発明に係る特性可変ファイバグレーティングは、図4に示すように、光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置した負の熱膨張係数を有する繊維状部材2をなす繊維の本数(断面積の合計)がグレーティング部3の長手方向に沿って変化しているようにすることが望ましい。
【0071】
この特性可変ファイバグレーティングにおいては、グレーティング部3の周囲における繊維状部材2の断面積を、光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に沿って容易に変化させることが可能であり、温度変化による分散量可変の分散補償ファイバグレーティングを容易に作製することができる。
【0072】
すなわち、繊維状部材2を所望の特性となるように円錐状に切断することにより、数百本から数千本の繊維からなるものとして光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置するようにすれば、光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に沿って連続的に繊維の断面積の合計を変化させることができる。
【0073】
このような繊維状部材2の切断は、光ファイバブラッググレーティング1の断面積を連続的に変化させることに比較して容易であり、また、再現性良く行うことができるので、製造費用を安くすることができ、しかも、特性の安定化を図り不良率を低減させることができる。
【0074】
そして、繊維状部材2をなす材料としては、結晶化度が85%以上の超高分子量ポリエチレンが好ましい。この超高分子量ポリエチレンは、負の熱膨張特性を有する繊維状部材の中でも、負の熱膨張係数が大きい。高分子量ポリエチレンは結晶化度を大きくすることで負膨張特性を大きくでき、高分子量ポリエチレンの結晶化度を85%以上にすることで、繊維方向の膨張係数は約−10×10−6〔1/°C〕程度と特に大きな負膨張特性を有する。この様に、高分子量ポリエチレンは石英系光ファイバからなる光ファイバブラッググレーティング1について温度補償を行うのに十分な特性を有している。
【0075】
繊維状部材2をこのような高分子量ポリエチレンにより作製した場合、負の熱膨張係数が大きいため、少ない繊維量で十分な温度補償を行うことが可能となり、この繊維状部材2を含めた特性可変ファイバグレーティングの外径を1mm以下にすることができる。また、高分子量ポリエチレンは、耐衝撃性や耐光性、耐薬品性にも優れることから、繊維状部材2が光ファイバブラッググレーティング1を保護する役割を果たすこともでき、光学素子用途に好適な特性可変ファイバグレーティングを構成することができる。
【0076】
ここで、高分子量ポリエチレンとしては、例えば、東洋紡績株式会社製の「ダイニーマ」(商標名)を使用することができる。
【0077】
さらに、繊維状部材2をなす材料としては、ポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維を使用することが望ましい。このポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維も、負の熱膨張係数が−6.0×10−6〔1/°C〕程度と大きく、光ファイバブラッググレーティング1について温度補償を行うに十分な特性を有している。
【0078】
このポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維は、分解温度が650°C程度と高温であるため、特に高温下で使用する特性可変ファイバグレーティングにおいて使用すると好適である。
【0079】
ポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維としては、東洋紡績株式会社製の「ザイロン」(商標名)を使用することができる。
【0080】
図5は、本発明に係る特性可変ファイバグレーティングであって、繊維状部材2をなす繊維同士及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を樹脂材料5で充填した構成を示す縦断面図である。
【0081】
この特性可変ファイバグレーティングにおいては、図5中の(a)及び(b)に示すように、負の熱膨張特性を有する繊維状部材2をなす各繊維4同士及びこれら繊維4と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を、樹脂材料5によって充填している。
【0082】
このように、各繊維4同士及び繊維4と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を樹脂材料5により充填することにより、温度上昇時における繊維状部材2の収縮を、光ファイバブラッググレーティング1に対して圧縮応力として確実に伝達することが可能となる。
【0083】
すなわち、樹脂材料5による充填がない場合においては、繊維状部材2が温度上昇によって収縮すると、この繊維状部材2と光ファイバブラッググレーティング1との間の静止摩擦力により、光ファイバブラッググレーティング1に対する応力が生ずる。ここで、繊維状部材2と光ファイバブラッググレーティング1との間の静止摩擦力が十分でない場合には、繊維状部材2が収縮しても、これら繊維状部材2及び光ファイバブラッググレーティング1間の界面において滑りが生じ、光ファイバブラッググレーティング1に対する圧縮応力が十分に得られない場合がある。そして、各繊維4同士及び繊維4と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を樹脂材料5により充填した場合には、樹脂材料5と繊維4との間及び樹脂材料5と光ファイバブラッググレーティング1との間の静止摩擦力が増大し、圧縮応力が光ファイバブラッググレーティング1に確実に伝えられる。
【0084】
したがって、樹脂材料5として、繊維4及び光ファイバブラッググレーティング1との間の密着力の高い材料を選ぶことにより、繊維状部材2の収縮、あるいは、膨張によって、繊維状部材2及び光ファイバブラッググレーティング1間の滑りを生じさせることなく、確実に、光ファイバブラッググレーティング1に対する圧縮応力、あるいは、伸長応力を生じさせることができる。
【0085】
なお、図5中の(a)には、繊維状部材2をなす繊維の本数が連続的に変化する領域にのみ樹脂材料5を使用した場合を示し、(b)には、繊維状部材2をなす繊維の量に関係なく、樹脂材料5を均一に光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置した場合を示している。どちらの場合においても、温度変化時において光ファイバブラッググレーティング1に生じる応力は、連続的に変化するため、分散量可変の分散補償ファイバグレーティングとして使用することができる。
【0086】
この樹脂材料5としては、熱硬化型樹脂材料、紫外線硬化型樹脂材料、湿度硬化型樹脂材料など、ほとんどの樹脂材料を使用することができる。この樹脂材料5としては、硬化収縮率が小さいものが、硬化時に光ファイバブラッググレーティング1に対して余分な応力が生じさせないために望ましい。この樹脂材料5の硬化収縮率としては、例えば、5%以下であることが望ましい。
【0087】
そして、この樹脂材料5としては、地中、海底、空中などにおける使用温度範囲(例えば、−20°C乃至80°C)でのヤング率が、500MPa以下である材料が望ましい。樹脂材料5のヤング率が500MPa以下であることにより、温度上昇時における繊維状部材2の収縮と樹脂材料5の膨張とによって生じる歪み応力を緩和することができ、光ファイバブラッググレーティング1の特性を安定させることができる。
【0088】
すなわち、この特性可変ファイバグレーティングにおいては、温度変化により光ファイバブラッググレーティング1、繊維状部材2及び樹脂材料5が変位して応力が発生した場合について、光ファイバブラッググレーティング1の断面積をSf、ヤング率をEf、繊維状部材2をなす繊維の断面積の合計をSn、ヤング率をEn、樹脂材料5の断面積合計をSr、ヤング率をErと定義すると、力の釣り合いについて、下記の(式3)が成立する。
【0089】
SfEfuf+SnEnun+SrErur=0 ・・・・・・・・・・・・(式3)
この(式3)において、uf、un、urは、それぞれ光ファイバブラッググレーティング1、繊維状部材2及び樹脂材料5の平衡点からの変位量である。すなわち、光ファイバブラッググレーティング1の変位量ufが、光ファイバブラッググレーティング1の熱膨張による変位を打ち消すように、Sf、Ef、Sn、En、Sr、Erを設計することで、温度補償構造が実現される。
【0090】
ここで、光ファイバブラッググレーティング1の構造パラメータであるSf、Efは、使用する光ファイバによって一意に決まる。例えば、石英ガラスからなる直径125μmの光ファイバを用いる場合においては、Sf=1.23×10−2〔mm2〕、Ef=73〔GPa〕である。
【0091】
また、繊維状部材2についての定数であるSn、Enも、使用する繊維状部材2の材料と光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置する繊維の本数によって正確に決めることができる。例えば、「ダイニーマ」(商標名)のヤング率は、そのグレードにもよるが、En≒100〔GPa〕程度であり、面積Snも、繊維の本数を、例えば、2000本と決めることにより、一意に決定することができるので、製造上のばらつきはほとんどない。
【0092】
一方、樹脂材料5の断面積Srは、光ファイバブラッググレーティング1の周囲に充填する樹脂材料の量によって変化してしまうため、製造工程において正確に制御することが困難である。そのため、製造工程における樹脂材料5の断面積Srのばらつきが温度補償特性に与える影響を極力少なくする必要がある。ここで(式3)より、樹脂材料5の断面積Srとヤング率Erとは互いに乗算される関係にあるため、断面積Srのばらつきが変位量urに与える影響を小さくするには、樹脂材料5のヤング率Erを小さくすれば良い。
【0093】
すなわち、樹脂材料5として、ヤング率Erが極力小さい材料を使用することにより、製造工程上におけるばらつきを抑制することができる。樹脂材料5の断面積Srのばらつきによる温度補償特性ヘの影響がほぼ無視できるようになるヤング率Erのレベルとしては、繊維状部材2及び光ファイバブラッググレーティング1のヤング率の高々1%以下にしておくことが望ましい。
【0094】
ここで、光ファイバの主材料である石英ガラスのヤング率は73〔GPa〕であるので、その1%は730〔MPa〕となる。したがって、樹脂材料5としては、通常使用する温度範囲(例えば、−20°C乃至80°C)において、約500〔MPa〕以下のヤング率を有する材料(例えば、−20°Cにおいて500〔MPa〕、80°Cにおいて10〔MPa〕)を用いることにより、安定した特性が得られる。
【0095】
さらに、樹脂材料5として、ヤング率が500〔MPa〕以下の材料を使用することによって、樹脂材料の硬化時の歪みが光ファイバブラッググレーティング1に与える影響を小さくできる。この場合には、液晶高分子を用いた従来の特性可変ファイバグレーティングにおいて必要であった緩衝層が不要となるので、構造が簡単で安価に作製することができる特性可変ファイバグレーティングを構成することができる。
【0096】
また、樹脂材料5のヤング率を500〔MPa〕以下とすることにより、この樹脂材料5を繊維状部材2及び光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置した後において、この光ファイバブラッググレーティング1を曲げることが可能となり、モジュールに組み込む場合などにおいて有利となり、モジュールの小型化も可能となる。すなわち、樹脂材料5が柔らかい材料からなることにより、特性可変ファイバグレーティング全体を曲げても光ファイバブラッググレーティング1に大きな応力が掛かることがなく、特性悪化を招来することがない。
【0097】
また、本発明に係る特性可変ファイバグレーティングは、使用温度範囲内において温度が変化したときに、光ファイバブラッググレーティング1の両端における反射波長の変化方向が、互いに逆になっているようにすることが望ましい。
【0098】
光ファイバブラッググレーティング1の両端における反射波長の変化方向が互いに逆になっていることにより、この特性可変ファイバグレーティングに温度変化を与えて分散量を変化させたとき、図3中の(c)及び(d)に示したように、反射波長の短波長側が温度上昇によって短波長側に変動し、長波長側が温度上昇によって長波長側に変動するという挙動を示し、反射中心波長の変動を抑制することが可能となる。
【0099】
そして、反射中心波長の変動が抑えられることにより、波長多重通信方式などにおける使用に際して、隣の通信波長へ影響を与えることを抑制でき、分散量可変の分散補償ファイバグレーティングとして望ましい特性を実現することができる。
【0100】
このような特性を実現するには、繊維状部材2が大きな負の熱膨張係数を有している必要があり、例えば、光ファイバとして石英を用いる場合には、繊維状部材2が長手方向に−8.0×10−6〔1/°C〕程度の負の熱膨張係数を有している必要がある。このような繊維状部材2としては、前述したように、高分子量ポリエチレン(例えば、東洋紡績株式会社製「ダイニーマ」(商標名))等が挙げられる。
【0101】
〔実施例1〕
この実施例1においては、グレーティング部3の周囲に配置する繊維状部材2をなす繊維の本数を変化させたときの、光ファイバブラッググレーティング1の反射中心波長の温度依存性の変化を確認した。
【0102】
光ファイバブラッググレーティング1は、一般の光通信において広く用いられている直径125μmの石英製光ファイバに位相マスク法でグレーティング部3を作製したものを使用した。
【0103】
また、長手方向に負の熱膨張係数を有する繊維状部材2としては、ポリエチレン(東洋紡績株式会社製「ダイニーマ」(商標名))を使用した。使用したポリエチレン繊維は、フィラメント1本が1.2dtexである。
【0104】
この繊維状部材2を光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置した後、樹脂材料5として紫外線硬化型樹脂を繊維状部材2に浸透させ、この繊維状部材2をなす繊維間及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を紫外線硬化型樹脂で充填し、さらに、紫外線を照射してこの紫外線硬化型樹脂を硬化させた。使用した紫外線硬化型樹脂の室温でのヤング率は、50〔MPa〕であった。
【0105】
その後、光ファイバブラッググレーティング1の温度を、0°Cから60°Cまで変化させ、中心反射波長の変動特性を線形近似することにより、1°Cあたりの波長変化量を求めた。
【0106】
図6は、実施例1において、横軸を繊維本数として温度特性変化を示すグラフである。
【0107】
図6に示すように、繊維状部材2をなす繊維の本数が増えるにしたがって、光ファイバブラッググレーティング1の温度特性が変化し、2000本程度、つまり2400dtexにおいて、ほぼ温度無依存にできることがわかった。すなわち、このような温度特性の変化を利用することにより、光ファイバブラッググレーティング1の温度依存性を長手方向について変化させることができることが確認できた。
【0108】
〔実施例2〕
この実施例2においては、位相マスク法を用いて、長さ90mm、チャープ率0.07nm/cmのチャープファイバグレーティングを作製し、このチャープファイバグレーティングの周囲に、負の熱膨張係数を有する繊維状部材2を、前記図4に示すように、連続的に構成繊維の本数を変化させて配置した。
【0109】
繊維状部材2としては、ポリエチレン(東洋紡績株式会社製「ダイニーマ」(商標名))を使用した。
【0110】
グレーティング部3の一端側においては、繊維本数を2300本、つまり2760dtexとし、他端側に向けて徐々に減らしていき、最終的には0本となるようにした。この実施例においては、繊維本数が2300本の側をチャープ周期の短波長側とした。また、繊維本数の変化は、前記実施例1の結果に基づいて、ファイバブラッググレーティング1の長手方向について、温度特性変化が線形となるように設計した。
【0111】
そして、樹脂材料5として紫外線硬化型樹脂を繊維状部材2に浸透させ、この繊維状部材2をなす繊維間及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を紫外線硬化型樹脂で充填し、さらに、紫外線を照射してこの紫外線硬化型樹脂を硬化させた。使用した紫外線硬化型樹脂の室温でのヤング率は、50〔MPa〕であった。
【0112】
その後、光ファイバブラッググレーティング1の温度を、0°Cから60°Cまで変化させ、グレーティング部3における反射強度スペクトル及び群遅延特性を測定した。
【0113】
図7は、実施例2において、横軸を反射波長として反射強度スペクトル及び群遅延特性の変化を示すグラフである。
【0114】
図7中の(a)に示す反射スペクトル及び図7中の(b)に示す群遅延特性からわかるように、グレーティング部3の周囲の繊維本数が2300本である短波長側においては、温度が変化しても波長変動がほとんどないのに対し、繊維本数が0本である長波長側においては、温度上昇により波長が長波側に変化し、結果として、反射帯域と群遅延時間の傾き、すなわち、波長分散が変化している。
【0115】
この実施例により、波長分散は600nm/ps乃至1000nm/psの範囲で変化し、400nm/psの変化量が得られ、実用上十分な波長分散の可変範囲が得られることが確認された。
【0116】
また、この実施例においては、短波長側の反射波長の変化がほとんどないため、反射中心波長の変動も小さく抑えられている。例えば、この実施例においては、使用波長を1550.4nmに設定することにより、全ての温度範囲で使用することが可能となる。
【0117】
なお、ここで、使用波長を1550.4nmに設定することの根拠は、以下の通りである。すなわち、図7中の(a)及び(b)に示すように、温度を0°Cから60°Cまで変化させた場合には、光ファイバブラッググレーティング1の帯域が変化してしまい、0°Cにおいて最も帯域が狭くなる。ここで、仮に、使用波長が1551nmであった場合には、60°C及び30°Cにおいては光ファイバブラッググレーティング1の帯域内に入るが、0°Cにおいては帯域外となってしまう。そして、1550.4nmの波長の光を光ファイバブラッググレーティング1に入射させた場合には、0°Cから60°Cの温度範囲において、すべて光ファイバブラッググレーティング1の帯域内に入る。したがって、この実施例においては、使用波長を1550.4nmに設定することが望ましい。ただし、光ファイバブラッググレーティング1の特性が異なれば、使用波長も異なるものとなる。
【0118】
〔実施例3〕
この実施例3においては、位相マスク法を用いて、長さ90mm、チャープ率0.07nm/cmのチャープファイバグレーティングを作製し、このチャープファイバグレーティングの周囲に、負の熱膨張係数を有する繊維状部材2を、前記図4に示すように、連続的に構成繊維の本数を変化させて配置した。
【0119】
繊維状部材2としては、ポリエチレン(東洋紡績株式会社製「ダイニーマ」(商標名))を使用した。
【0120】
グレーティング部3の一端側においては、繊維本数を2300本、つまり2760dtexとし、他端側に向けて徐々に減らしていき、最終的には0本となるようにした。この実施例においては、繊維本数が2300本の側をチャープ周期の長波長側とした。また、繊維本数の変化は、前記実施例1の結果に基づいて、ファイバブラッググレーティング1の長手方向について、温度特性変化が線形となるように設計した。
【0121】
そして、樹脂材料5として紫外線硬化型樹脂を繊維状部材2に浸透させ、この繊維状部材2をなす繊維間及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を紫外線硬化型樹脂で充填し、さらに、紫外線を照射してこの紫外線硬化型樹脂を硬化させた。使用した紫外線硬化型樹脂の室温でのヤング率は、800〔MPa〕であった。
【0122】
その後、光ファイバブラッググレーティング1の温度を、0°Cから60°Cまで変化させ、グレーティング部3における反射強度スペクトル及び群遅延特性を測定した。
【0123】
図8は、実施例3において、横軸を反射波長として反射強度スペクトル及び群遅延特性の変化を示すグラフである。
【0124】
図8中の(a)に示す反射スペクトル及び図8中の(b)に示す群遅延特性からわかるように、グレーティング部3の周囲の繊維本数が2300本である長波長側においては、温度が変化しても波長変動がほとんどないのに対し、繊維本数が0本である短波長側においては、温度上昇により波長が長波側に変化し、結果として、反射帯域と群遅延時間の傾き、すなわち、波長分散が変化している。
【0125】
この実施例においては、前記実施例2に比較して、反射スペクトルの乱れが大きくなっている。これは、使用した紫外線硬化型樹脂のヤング率が800〔MPa〕であり、この紫外線硬化型樹脂が硬化するとき、及び、温度変化時に紫外線硬化型樹脂に生じた歪みが光ファイバブラッググレーティング1に応力を生じさせたためであると考えられる。
【0126】
この実施例により、十分な波長分散の変化量が得られ、実用上十分な波長分散の可変範囲が得られることが確認された。しかし、紫外線硬化型樹脂のヤング率が高いと歪みが大きくなるため、紫外線硬化型樹脂のヤング率は、800〔MPa〕以下、望ましくは、500〔MPa〕以下とすべきことが確認された。
【0127】
〔温度調整機構を有する構成〕
そして、本発明に係る特性可変ファイバグレーティングは、温度を調整するための温度調整機構と組合わせて使用することとしてもよい。
【0128】
温度調整機構と組合わせて使用することにより、分散量可変の分散補償ファイバグレーティングにおける分散量を所望の値に変化させ、また、その所望の値で固定することが可能となる。
【0129】
温度調整機構は、分散量可変の分散補償ファイバグレーティングの温度を測定する機能を有し、その測定温度と設定温度との差を縮めるようにフィードバックをかける機能を有するか、または、最適な分散量からの乖離を測定する機能を有し、この乖離量を縮めるようにフィードバックをかける機能を有している。
【0130】
図9は、温度調整機構と組合わせた特性可変ファイバグレーティングの第1の構成を示す側面図である。
【0131】
この実施例においては、伝送路で波長分散が蓄積された信号光は、サーキュレータ6を経て、温度調整部7に設置された分散補償ファイバグレーティングとなる光ファイバブラッググレーティング1に入射される。この光ファイバブラッググレーティング1で反射された光は、サーキュレータ6において分離され、受光部8に受光され、電気信号に変換される。
【0132】
受光部8からの出力は、分散量解析部9に送られ、残留分散量が解析される。分散量解析部9は、解析した残留分散量の値に基づいて、温度制御部10に信号を送る。温度制御部10は、残留分散量が小さくなるように、温度調整部7により光ファイバブラッググレーティング1の温度を変化させ、分散量を調整する。
【0133】
なお、この実施例においては、受光部8及び分散量解析部9は、光信号の受信部の機能も兼ねている。
【0134】
図10は、温度調整機構と組合わせた特性可変ファイバグレーティングの第2の構成を示す側面図である。
【0135】
この実施例においては、伝送路で波長分散が蓄積された信号光は、サーキュレータ6を経て、温度調整部7に設置された分散補償ファイバグレーティングとなる光ファイバブラッググレーティング1に入射される。この光ファイバブラッググレーティング1で反射された光は、サーキュレータ6において分離され、さらに、光カプラ11において分岐され、受光部8に受光され、電気信号に変換される。
【0136】
受光部8からの出力は、分散量解析部9に送られ、残留分散量が解析される。分散量解析部9は、解析した残留分散量の値に基づいて、温度制御部10に信号を送る。温度制御部10は、残留分散量が小さくなるように、温度調整部7により光ファイバブラッググレーティング1の温度を変化させ、分散量を調整する。
【0137】
この実施例においては、受光部8及び分散量解析部9が光信号の受信部の機能を兼ねておらず、図示しない光信号の受信部は、光カプラ11において分岐されなかった光成分を受光して、光信号を受信する。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明に係る特性可変ファイバグレーティングの構成を示す縦断面図及び横断面図である。
【図2】チャープファイバグレーティングにおいて温度上昇により反射中心波長が変化する様子を示すグラフである。
【図3】チャープファイバグレーティングにおける反射中心波長の変動の温度依存性が長手方向について変化している場合の反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図4】上記特性可変ファイバグレーティングにおいて、繊維状部材をなす繊維の本数がグレーティング部の長手方向に沿って変化している構成を示す縦断面図及び横断面図である。
【図5】上記特性可変ファイバグレーティングにおいて、繊維状部材をなす繊維同士及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティングとの間の空隙を樹脂材料で充填した構成を示す縦断面図である。
【図6】実施例1において、横軸を繊維本数として温度特性変化を示すグラフである。
【図7】実施例2において、横軸を反射波長として反射強度スペクトル及び群遅延特性の変化を示すグラフである。
【図8】実施例3において、横軸を反射波長として反射強度スペクトル及び群遅延特性の変化を示すグラフである。
【図9】温度調整機構と組合わせた特性可変ファイバグレーティングの第1の構成を示す側面図である。
【図10】温度調整機構と組合わせた特性可変ファイバグレーティングの第2の構成を示す側面図である。
【図11】分散補償ファイバグレーティングの動作原理を示す側面図である。
【符号の説明】
【0139】
1 光ファイバブラッググレーティング
2 繊維状部材
3 グレーティング部
4 繊維
5 樹脂材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信において外部共振器や分散補償器などとして使用されるグレーティング特性を変化させることができるようになされた特性可変ファイバグレーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバブラッググレーティング(FBG)は、光ファイバの長さ方向に周期的な屈折率変化を有する部分を作製することで、特定波長の光を反射させる特性を持たせた光学素子品である。従来、このような光ファイバブラッググレーティングは、レーザダイオード光源の波長安定化用の外部共振器や光合分波器(OADM)、光スイッチ、光フィルタ、分散補償器などとして使用され、光通信においては欠かせない光学素子の一つである。
【0003】
このような光ファイバブラッググレーティングは、ゲルマニウム(Ge)が添加された石英からなる光ファイバの石英部に紫外線を照射することにより、照射部分の屈折率を上昇させることによって作製されている。すなわち、この光ファイバブラッググレーティングは、光ファイバの被覆樹脂を除去して石英部を露出させ、この石英部の側面より、周期的な強度分布を有する紫外光を照射することにより作製される。
【0004】
このようにして作製された光ファイバブラッググレーティングにおいては、屈折率が変化した部分がこの光ファイバの長手方向について周期的に形成されている。このように屈折率が変化した部分が周期的に形成された光ファイバにおいては、入射光のうちの特定の波長の光を反射したり、あるいは、入射光のうちの特定の波長の光を光ファイバの外へ放射するという特性が得られる。したがって、このような特性を有する光ファイバブラッググレーティングは、波長選択フィルタなどとしても用いることができる。
【0005】
なお、このような光ファイバブラッググレーティングを作製するために用いられる紫外光の光源としては、フッ化クリプトン(KrF)エキシマレーザや、アルゴンイオン(Ar2+)レーザの第2高調波などの波長260nm以下の紫外光レーザが用いられる。また、この紫外光に周期的な強度分布を与えるためには、周期的な溝が形成された位相マスクと呼ばれる石英基板に該紫外光を透過させることが行われている。
【0006】
ここで、光ファイバブラッググレーティングにおける反射波長λBは、グレーティング周期Λと実効屈折率neffを用いて、以下の(式1)のように示すことができる。
【0007】
λB=2neffΛ ・・・・・・・・・・・・(式1)
この光ファイバブラッググレーティングは、通常、温度上昇により、中心反射波長が長波側に変動する特性を有している。これは、温度上昇により、正の線膨張を有する光ファイバが膨張し、(式1)における周期Λが大きくなり、結果として反射波長λBが大きくなるためである。さらに、温度上昇による実効屈折率の変化も中心波長特性に影響を与える。例えば、光ファイバ材料が石英である場合、屈折率の温度依存性は約1×10−5[1/℃]であり、温度上昇により反射波長λBが大きくなる。これらの二つの特性がそれぞれ作用した結果として光ファイバグレーティングの温度特性は決まる。
【0008】
従来、温度変化による反射波長変動を補償した温度補償型のファイバブラッググレーティングが提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、負の膨張係数を持つ材料を光ファイバブラッググレーティングの周囲に配置したファイバブラッググレーティングが提案されている。このファイバブラッググレーティングにおいては、温度上昇による光ファイバの膨張と、温度上昇による光ファイバブラッググレーティングの周囲に配置された材料の収縮とを釣り合わせることにより、光ファイバブラッググレーティングにおける反射波長変動を抑制し、温度補償を達成することができる。
【0009】
また、特許文献3に記載されているように、負の膨張特性を有する液晶高分子ポリマ(LCP:Liquid Crystal Polymer)を光ファイバブラッググレーティングの周囲に配置して構成したファイバブラッググレーティングが提案されている。このファイバブラッググレーティングにおいては、温度上昇による光ファイバの膨張が、液晶高分子ポリマの収縮によって抑制され、温度補償が達成される。
【0010】
ところで、この光ファイバブラッググレーティングの一つとして、屈折率が変化した部分の周期が光ファイバの長手方向について変化しているチャープファイバグレーティング(CFG)がある。チャープファイバグレーティングは、広帯域フィルタなどに幅広く利用されており、特に、光ファイバの伝送路で蓄積した波長分散を補償する分散補償ファイバグレーティング(DCFG)への応用が注目されている。
【0011】
図11は、分散補償ファイバグレーティングの動作原理を示す側面図である。
【0012】
図11に示すように、サーキュレータ101を経て分散補償ファイバグレーティング(DCFG)102に入射された光は、グレーティング部103で反射される。分散補償ファイバグレーティング102においては、グレーティング部103において屈折率が変化した部分の周期が光ファイバの長手方向で変化しているので、波長によって反射位置が異ることとなる。そのため、この分散補償ファイバグレーティング102からの反射光は、波長により異なる光路長を経て、分散補償ファイバグレーティング102から出射される。この反射光をサーキュレータ101において取り出すと、この反射光には、波長毎に時間差が生じている。このような波長による時間差を波長分散と呼び、通常、〔ps/nm〕を単位として表される。
【0013】
一般の光通信に用いられるシングルモードファイバは、波長1550nmにおいて、光ファイバ長1kmあたり、約17ps/nmの波長分散を持つ。このような波長分散が大きくなると、光ファイバ中を伝送される光パルス形状が劣化してしまうため、情報が伝達できなくなってしまう虞れがある。
【0014】
そのため、伝送路の光ファイバによって生じる波長分散のちょうど逆の波長分散を持つ分散補償ファイバグレーティング102を用いることにより、伝送路で蓄積された波長分散を補償することが可能となり、光通信システムの特性の大幅な改善を図ることができる。
【0015】
ところで、伝送路の波長分散は、温度などの環境変化により変化する。そのため、日中と夜間のような時間帯や季節の違いによって、必要となる補償量は異なるものとなる。そのため、従来、分散補償ファイバグレーティングにおいては、伝送路の温度変化などについて、全ての状況下において波長分散を完全に補償することができないという問題があった。
【0016】
そこで、分散特性を必要に応じて変化させられるようになされた可変構造を有する分散補償ファイバグレーティングが提案されている。分散補償ファイバグレーティングにおける分散特性を変えるためには、反射光の波長の長手方向依存性を制御する必要がある。反射光の波長の長手方向依存性を制御するための構成としては、いわゆる「熱分布方式」及び「歪み分布方式」が提案されている。
【0017】
「熱分布方式」は、グレーティング部の長手方向について熱分布を持たせることにより、反射波長を変化させるようにしたものである。この「熱分布方式」においては、光ファイバの長手方向に沿って、正確な温度分布を生じさせることが要求される。点熱源によっては、温度分布を所望の状態にするのが困難であるため、分布型の熱源を用いることが必要になる。この「熱分布方式」の分散補償ファイバグレーティングとして、分散補償ファイバグレーティングに金薄膜を蒸着し、分散補償ファイバグレーティング全体の温度を調整するようにしたものが提案されている。
【0018】
一方、「歪み分布方式」は、グレーティング部の長手方向に沿って、異なる歪みを生じさせることにより、反射波長を変化させるようにしたものである。
【特許文献1】特開平11−160554号公報
【特許文献2】特開2000−321442公報
【特許文献3】国際公開第097/14983号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前述のように分散補償ファイバグレーティングとして使用される従来のファイバブラッググレーティングにおいては、以下に述べるような、いくつかの解決すべき課題がある。
【0020】
すなわち、伝送路によって生じる波長分散は、使用される光ファイバの種類や長さによって変化する。そのため、波長分散の完全な補償を行うためには、伝送路ごとに個別に分散補償ファイバグレーティングを設計する必要がある。
【0021】
通常、分散補償ファイバグレーティングは、位相マスクを用いて作製されるが、異なる仕様の分散補償ファイバグレーティングを作製するためには、異なる位相マスクが必要となる。この位相マスクは、作製が困難で高価であるため、分散補償ファイバグレーティングの仕様ごとに異なる位相マスクを用意しなければならないことは、分散補償ファイバグレーティングの価格が高くなってしまう原因の一つであった。
【0022】
また、分散特性を必要に応じて変化させる「熱分布方式」の分散補償ファイバグレーティングにおいては、金属膜を蒸着させるための装置が高価であり、製造コストが高いという問題がある。また、この方式の分散補償ファイバグレーティングにおいては、グレーティング部の長手方向について、蒸着膜厚を正確に変化させる必要があるため、蒸着工程において複雑な制御が要求され、作製が困難である。さらに、この方式の分散補償ファイバグレーティングにおいては、蒸着された金属膜に電極を取り付ける必要があるなど、構成が複雑であり、製造工程において緻密な作業が要求される。そのため、この分散補償ファイバグレーティングは、製造工程における歩留まりが悪く、結果として、極めて高価なものになってしまう。
【0023】
また、「熱分布方式」の分散補償ファイバグレーティングにおいては、グレーティング部に熱をかけることにより、分散補償ファイバグレーティングの中心波長自体が長波長側にシフトしてしまう。すなわち、この分散補償ファイバグレーティングにおいては、「波長多重通信」で必要とされるような、ある特定の波長に動作波長を固定した状態で分散特性を変化させることが困難である。
【0024】
そして、「歪み分布方式」の分散補償ファイバグレーティングにおいては、長手方向について連続的に歪みを変化させることは困難であり、大きな分散変化量を得ることが困難であった。
【0025】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的としては、小型であり、かつ、作製が容易であって、効率よく分散量を変化させることができ、さらに、望ましくは動作中心波長が温度によって変化することなく分散量が可変できる特性可変ファイバグレーティングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1記載の本発明は、周期的に屈折率が変化したグレーティング構造が形成されている光ファイバからなる光ファイバブラッググレーティングと、この光ファイバブラッググレーティングの周囲に配置された繊維状部材とを備え、前記繊維状部材は、温度上昇により繊維長手方向に収縮し、温度下降により繊維長手方向に膨張する負の線膨張特性を有し、この温度上昇による繊維の収縮、温度下降による繊維の膨張により、前記光ファイバブラッググレーティングに対し、この光ファイバブラッググレーティングの長手方向の圧縮力あるいは伸長力を作用させる構造を有し、前記繊維部材の膨張あるいは収縮によって光ファイバへ与える圧縮力あるいは伸長力の作用量がこの光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部における長手方向について異なることを特徴とするものである。
【0027】
請求項2記載の本発明は、請求項1記載の発明において、繊維状部材を構成する繊維の本数が、光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部の長手方向について異なることを特徴とするものである。
【0028】
請求項3記載の本発明は、請求項1乃至請求項2のいずれか一に記載の発明において、繊維状部材を構成する繊維の繊維長手方向の線膨張係数が−6.0×10−6乃至−15.0×10−6〔1/°C〕であることを特徴とするものである。
【0029】
請求項4記載の本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の発明において、繊維状部材は、高分子量ポリエチレンからなることを特徴とするものである。
【0030】
請求項5記載の本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の発明において、繊維状部材は、ポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維であることを特徴とするものである。
【0031】
請求項6記載の本発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の発明において、繊維状部材をなす繊維同士間及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティングとの間の空隙は、樹脂材料により充填されていることを特徴とするものである。
【0032】
請求項7記載の本発明は、請求項6記載の発明において、樹脂材料は、使用温度範囲におけるヤング率が500MPa以下の材料であることを特徴とするものである。
【0033】
請求項8記載の本発明は、請求項1乃至請求項7のいずれか一に記載の発明において、使用温度範囲内における温度変化について、ファイバブラッググレーティングの両端側における反射波長の変化方向が互いに逆方向であることを特徴とするものである。
【0034】
請求項9記載の本発明は、請求項1乃至請求項8のいずれか一に記載の発明において、ファイバブラッググレーティングの温度を調整する温度調整機構を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0035】
請求項1記載の本発明によれば、繊維状部材は、温度上昇により収縮することにより、光ファイバブラッググレーティングに対し、この光ファイバブラッググレーティングの長手方向の圧縮力を作用させるとともに、この光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部における長手方向について光ファイバに対して異なる収縮作用量を有しているので、効率よく分散量を変化させることができる。同時に、繊維状部材は、温度下降により膨張することにより、光ファイバブラッググレーティングに対し、この光ファイバブラッググレーティングの長手方向の伸長力を作用させるとともに、この光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部における長手方向について光ファイバに対して異なる伸長作用量を有しているので、効率よく分散量を変化させることができる。そして、この特性可変ファイバグレーティングは、作製が容易であり、安価に作製することが可能である。
【0036】
請求項2記載の本発明によれば、繊維状部材を構成する繊維の本数が光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部の長手方向について異なることにより、この繊維状部材の光ファイバに対する収縮および伸長作用量が、グレーティング部における長手方向について異なることとなる。
【0037】
請求項3記載の本発明によれば、光ファイバ部材が石英であり、繊維状部材の長手方向の線膨張係数が−6.0×10−6乃至−15.0×10−6〔1/°C〕であることにより、光ファイバの長手方向に十分大きな圧縮・収縮作用を及ぼすことが可能となるため、効率よく分散量を変化させることができる。
【0038】
請求項4記載の本発明によれば、繊維状部材が、高分子量ポリエチレンからなるので、効率よく分散量を変化させることができる。
【0039】
請求項5記載の本発明によれば、繊維状部材は、ポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維であるので、効率よく分散量を変化させることができる。
【0040】
請求項6記載の本発明によれば、繊維状部材をなす繊維同士間及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティングとの間の空隙が樹脂材料により充填されているので、繊維状部材が光ファイバブラッググレーティングに対して確実に圧縮力あるいは伸張力を作用させることができ、効率よく分散量を変化させることができる。
【0041】
請求項7記載の本発明によれば、樹脂材料は、使用温度範囲におけるヤング率が500MPa以下の材料であるので、樹脂材料の歪みが光ファイバに応力を生じさせることがなく、光ファイバブラッググレーティングの特性劣化を招来することがない。
【0042】
請求項8記載の本発明によれば、使用温度範囲内における温度変化について、ファイバブラッググレーティングの両端側における反射波長の変化方向が互いに逆方向であるので、動作中心波長の温度による変化を抑制し、分散量を可変することができる。
【0043】
請求項9記載の本発明によれば、ファイバブラッググレーティングの温度を調整する温度調整機構を備えているので、効率よく分散量を変化させることができる。
【0044】
すなわち、本発明は、小型であり、かつ、作製が容易であって、効率よく分散量を変化させることができ、さらに、動作中心波長の温度による変化を抑制しつつ、分散量が可変できる特性可変ファイバグレーティングを提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0046】
本発明は、長手方向に負の熱膨張係数を有する繊維状部材をグレーティング構造を有する光ファイバの周囲に配置することにより、分散量が可変の分散補償ファイバグレーティング(DCFG)として使用できる特性可変ファイバグレーティングを構成するものである。
【0047】
図1は、本発明に係る特性可変ファイバグレーティングの構成を示す縦断面図及び横断面図である。
【0048】
この特性可変ファイバグレーティングは、図1に示すように、チャープファイバグレーティング(CFG)である光ファイバブラッググレーティング(FBG)1として作製された光ファイバの周囲に、負の熱膨張特性を有する繊維状部材2が配置されて構成されている。チャープファイバグレーティングは、前述したように、屈折率が変化した部分の周期が光ファイバの長手方向について変化している光ファイバブラッググレーティングである。
【0049】
この光ファイバブラッググレーティング1は、ゲルマニウム(Ge)が添加された石英からなる光ファイバの石英部に周期的な強度分布を有する紫外線を照射することにより、光ファイバの長手方向について周期的な所定箇所の屈折率を上昇させることによって作製されている。すなわち、この光ファイバブラッググレーティング1は、光ファイバの被覆樹脂を除去して石英部を露出させた状態で、この石英部の側面より、周期的な強度分布を有する紫外光を照射することにより作製されている。この光ファイバブラッググレーティング1においては、入射光のうちの特定の波長の光を反射したり、あるいは、入射光のうちの特定の波長の光を光ファイバの外へ放射するという特性が得られる。
【0050】
繊維状部材2は、温度上昇により、この繊維状部材2をなす繊維の長手方向に収縮する負の熱膨張特性を有している。この繊維状部材2は、図1に示すように、少なくとも光ファイバブラッググレーティング1において屈折率が上昇されているグレーティング部3の周囲に配置されている。
【0051】
ここで、分散補償ファイバグレーティング(DCFG)の動作原理を以下に示す。
【0052】
光ファイバブラッググレーテイングは、通常、温度上昇により、反射中心波長が長波側に変動する特性を有している。これは、温度上昇により、正の熱膨張係数を有する光ファイバが膨張し、前述の(式1)(λB=2neffΛ)における周期Λが大きくなる作用と、温度上昇により実効屈折率neffが大きくなる作用の、結果として、反射波長λBが大きくなるためである。グレーティング周期が光ファイバの長手方向に徐々に変化するチャープファイバグレーティングにおいても、温度上昇により、反射中心波長がシフトする。
【0053】
図2は、チャープファイバグレーティングにおいて温度上昇により反射中心波長が変化する様子を示すグラフである。
【0054】
この図2においては、実線が温度上昇前、点線が温度上昇後の特性を示しており、(a)は反射特性を示し、(b)は反射帯域内における群遅延時間特性を示している。
【0055】
チャープファイバグレーティングを分散補償器として使用する場合には、図2中の(b)に示す群遅延時間の波長依存性を利用する。すなわち、図2中の(b)に示した特性の傾きが、分散補償器で補償できる波長分散量となる。この図2からもわかるように、通常のチャープファイバグレーティングにおいては、温度上昇によって反射中心波長全体が長波長側にシフトしてしまい、その結果、分散量は変化せず、可変分散補償器とすることはできない。
【0056】
図3は、チャープファイバグレーティングにおける反射中心波長の変動の温度依存性が長手方向について変化している場合の反射中心波長の変化を示すグラフである。
【0057】
一方、チャープファイバグレーティングにおける反射中心波長の変動の温度依存性が、チャープファイバグレーティングの長手方向について変化している場合には、図3中の(a)及び(c)に示すように、温度変化により反射帯域幅が変化し、それに伴い、図3中の(b)及び(d)に示すように、群遅延時間の波長依存性(グラフの傾き)、すなわち、波長分散が変化するので、可変分散補償器として使用することができる。
【0058】
(c)及び(d)には、CFG反射波長の短波側が短波側へ、長波側が長波側ヘと逆方向に変動する場合を示す。
【0059】
図3中の(a)及び(b)には、チャープファイバグレーティングにおける反射波長の短波長側及び長波長側がともに温度上昇によって長波長側に変動するが、その変動量が異なる場合を示している。図3中の(c)及び(d)には、チャープファイバグレーティングにおける反射波長の短波長側が温度上昇によって短波長側に変動し、長波長側が温度上昇によって長波長側に変動する場合を示している。これらいずれの場合においても、温度変化により、分散量が変化する。しかし、反射波長の短波長側が温度上昇によって短波長側に変動し長波長側が温度上昇によって長波長側に変動する場合のほうが、温度変化による反射中心波長の変動が抑えられる点で、反射波長の短波長側及び長波長側がともに温度上昇によって長波長側に変動する場合よりも好ましい。
【0060】
このようなチャープファイバグレーティングを分散量可変の分散補償器として動作させる場合に必要な特性を踏まえつつ、以下、負の熱膨張係数を有する繊維状部材を備えた分散量可変の分散補償器について述べる。
【0061】
グレーティング部の反射中心波長λBは、前述したように、温度上昇により、長波長側に変動する。この光ファイバブラッググレーティングにおける反射中心波長の変動の温度依存性を変化させるには、光ファイバの線膨張係数を光ファイバの長手方向に沿って変化させればよい。
【0062】
本発明に係る特性可変ファイバグレーティングにおいては、図1に示すように、グレーティング構造を有する光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置された長手方向に負の熱膨張係数を有する繊維状部材2の膨張及び収縮にしたがって、光ファイバブラッググレーティング1が膨張及び収縮される。
【0063】
この特性可変ファイバグレーティングにおいては、温度上昇による繊維状部材2の収縮が、光ファイバブラッググレーティング1に対する圧縮応力として作用し、正の熱膨張係数を有する光ファイバブラッググレーティング1の熱膨張を抑制する。このように、光ファイバブラッググレーティング1の熱膨張が抑制されることによって、この光ファイバブラッググレーティング1の温度特性を変化させることができる。
【0064】
そして、この特性可変ファイバグレーティングにおいては、光ファイバブラッググレーティング1の膨張及び収縮率は、グレーティング部3の長手方向に沿って変化している。これは、繊維状部材2が光ファイバブラッググレーティング1に与える圧縮応力がグレーティング部3の長手方向に沿って変化することによるもので、この作用により特性可変ファイバグレーティングは、可変分散補償器として使用することができる。
【0065】
ここで、図1に示すように、光ファイバブラッググレーティング1の周囲に負の熱膨張係数を有する繊維状部材2が配置され、この繊維状部材2の収縮による圧縮応力が全て光ファイバブラッググレーティング1に伝わる構造であると仮定する。光ファイバブラッググレーティング1の断面積をSf、ヤング率をEf、繊維状部材2をなす繊維の断面積の合計をSn、ヤング率をEnと定義すると、力の釣り合いについて、下記の(式2)が成立する。
【0066】
SfEfuf+SnEnun=0 ・・・・・・・・・・・・(式2)
この(式2)において、uf及びunは、それぞれ光ファイバブラッググレーティング1及び繊維状部材2の平衡点からの変位量である。すなわち、光ファイバブラッググレーティング1の変位量ufがグレーティング部3において光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に沿って変化しているように設計することにより、分散量可変の分散補償ファイバグレーティングが構成される。ここで、材料のヤング率Ef、Enを光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に沿って変化させることは困難であるため、光ファイバブラッググレーティング1の断面積Sf、または、繊維の断面積の合計Snを光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に沿って変化させておくことにより、所望の特性が実現できる。
【0067】
また、図3中の(c)及び(d)に示したように、反射波長の短波長側が温度上昇によって短波長側に変動するために、繊維状部材2に必要な負の熱膨張係数は、使用する光ファイバブラッググレーティング1の材質にもよるが、通信用として広く用いられている石英系光ファイバを用いる場合には、−6.0〜−15.0×10−6〔1/°C〕程度となる。すなわち、繊維状部材2の熱膨張係数は、−6.0〜−15.0×10−6〔1/°C〕の範囲であることが望ましい。
【0068】
この特性可変ファイバグレーティングにおいては、光ファイバブラッググレーティング1の周囲に直接繊維状部材2を配置し、この繊維状部材2の収縮を利用しているため、この繊維状部材2を含めた外径は、1mm以下とすることが可能であり、小型化が可能である。
【0069】
図4は、繊維状部材2をなす繊維の本数がグレーティング部3の長手方向に沿って変化している構成を示す縦断面図及び横断面図である。
【0070】
本発明に係る特性可変ファイバグレーティングは、図4に示すように、光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置した負の熱膨張係数を有する繊維状部材2をなす繊維の本数(断面積の合計)がグレーティング部3の長手方向に沿って変化しているようにすることが望ましい。
【0071】
この特性可変ファイバグレーティングにおいては、グレーティング部3の周囲における繊維状部材2の断面積を、光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に沿って容易に変化させることが可能であり、温度変化による分散量可変の分散補償ファイバグレーティングを容易に作製することができる。
【0072】
すなわち、繊維状部材2を所望の特性となるように円錐状に切断することにより、数百本から数千本の繊維からなるものとして光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置するようにすれば、光ファイバブラッググレーティング1の長手方向に沿って連続的に繊維の断面積の合計を変化させることができる。
【0073】
このような繊維状部材2の切断は、光ファイバブラッググレーティング1の断面積を連続的に変化させることに比較して容易であり、また、再現性良く行うことができるので、製造費用を安くすることができ、しかも、特性の安定化を図り不良率を低減させることができる。
【0074】
そして、繊維状部材2をなす材料としては、結晶化度が85%以上の超高分子量ポリエチレンが好ましい。この超高分子量ポリエチレンは、負の熱膨張特性を有する繊維状部材の中でも、負の熱膨張係数が大きい。高分子量ポリエチレンは結晶化度を大きくすることで負膨張特性を大きくでき、高分子量ポリエチレンの結晶化度を85%以上にすることで、繊維方向の膨張係数は約−10×10−6〔1/°C〕程度と特に大きな負膨張特性を有する。この様に、高分子量ポリエチレンは石英系光ファイバからなる光ファイバブラッググレーティング1について温度補償を行うのに十分な特性を有している。
【0075】
繊維状部材2をこのような高分子量ポリエチレンにより作製した場合、負の熱膨張係数が大きいため、少ない繊維量で十分な温度補償を行うことが可能となり、この繊維状部材2を含めた特性可変ファイバグレーティングの外径を1mm以下にすることができる。また、高分子量ポリエチレンは、耐衝撃性や耐光性、耐薬品性にも優れることから、繊維状部材2が光ファイバブラッググレーティング1を保護する役割を果たすこともでき、光学素子用途に好適な特性可変ファイバグレーティングを構成することができる。
【0076】
ここで、高分子量ポリエチレンとしては、例えば、東洋紡績株式会社製の「ダイニーマ」(商標名)を使用することができる。
【0077】
さらに、繊維状部材2をなす材料としては、ポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維を使用することが望ましい。このポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維も、負の熱膨張係数が−6.0×10−6〔1/°C〕程度と大きく、光ファイバブラッググレーティング1について温度補償を行うに十分な特性を有している。
【0078】
このポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維は、分解温度が650°C程度と高温であるため、特に高温下で使用する特性可変ファイバグレーティングにおいて使用すると好適である。
【0079】
ポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維としては、東洋紡績株式会社製の「ザイロン」(商標名)を使用することができる。
【0080】
図5は、本発明に係る特性可変ファイバグレーティングであって、繊維状部材2をなす繊維同士及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を樹脂材料5で充填した構成を示す縦断面図である。
【0081】
この特性可変ファイバグレーティングにおいては、図5中の(a)及び(b)に示すように、負の熱膨張特性を有する繊維状部材2をなす各繊維4同士及びこれら繊維4と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を、樹脂材料5によって充填している。
【0082】
このように、各繊維4同士及び繊維4と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を樹脂材料5により充填することにより、温度上昇時における繊維状部材2の収縮を、光ファイバブラッググレーティング1に対して圧縮応力として確実に伝達することが可能となる。
【0083】
すなわち、樹脂材料5による充填がない場合においては、繊維状部材2が温度上昇によって収縮すると、この繊維状部材2と光ファイバブラッググレーティング1との間の静止摩擦力により、光ファイバブラッググレーティング1に対する応力が生ずる。ここで、繊維状部材2と光ファイバブラッググレーティング1との間の静止摩擦力が十分でない場合には、繊維状部材2が収縮しても、これら繊維状部材2及び光ファイバブラッググレーティング1間の界面において滑りが生じ、光ファイバブラッググレーティング1に対する圧縮応力が十分に得られない場合がある。そして、各繊維4同士及び繊維4と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を樹脂材料5により充填した場合には、樹脂材料5と繊維4との間及び樹脂材料5と光ファイバブラッググレーティング1との間の静止摩擦力が増大し、圧縮応力が光ファイバブラッググレーティング1に確実に伝えられる。
【0084】
したがって、樹脂材料5として、繊維4及び光ファイバブラッググレーティング1との間の密着力の高い材料を選ぶことにより、繊維状部材2の収縮、あるいは、膨張によって、繊維状部材2及び光ファイバブラッググレーティング1間の滑りを生じさせることなく、確実に、光ファイバブラッググレーティング1に対する圧縮応力、あるいは、伸長応力を生じさせることができる。
【0085】
なお、図5中の(a)には、繊維状部材2をなす繊維の本数が連続的に変化する領域にのみ樹脂材料5を使用した場合を示し、(b)には、繊維状部材2をなす繊維の量に関係なく、樹脂材料5を均一に光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置した場合を示している。どちらの場合においても、温度変化時において光ファイバブラッググレーティング1に生じる応力は、連続的に変化するため、分散量可変の分散補償ファイバグレーティングとして使用することができる。
【0086】
この樹脂材料5としては、熱硬化型樹脂材料、紫外線硬化型樹脂材料、湿度硬化型樹脂材料など、ほとんどの樹脂材料を使用することができる。この樹脂材料5としては、硬化収縮率が小さいものが、硬化時に光ファイバブラッググレーティング1に対して余分な応力が生じさせないために望ましい。この樹脂材料5の硬化収縮率としては、例えば、5%以下であることが望ましい。
【0087】
そして、この樹脂材料5としては、地中、海底、空中などにおける使用温度範囲(例えば、−20°C乃至80°C)でのヤング率が、500MPa以下である材料が望ましい。樹脂材料5のヤング率が500MPa以下であることにより、温度上昇時における繊維状部材2の収縮と樹脂材料5の膨張とによって生じる歪み応力を緩和することができ、光ファイバブラッググレーティング1の特性を安定させることができる。
【0088】
すなわち、この特性可変ファイバグレーティングにおいては、温度変化により光ファイバブラッググレーティング1、繊維状部材2及び樹脂材料5が変位して応力が発生した場合について、光ファイバブラッググレーティング1の断面積をSf、ヤング率をEf、繊維状部材2をなす繊維の断面積の合計をSn、ヤング率をEn、樹脂材料5の断面積合計をSr、ヤング率をErと定義すると、力の釣り合いについて、下記の(式3)が成立する。
【0089】
SfEfuf+SnEnun+SrErur=0 ・・・・・・・・・・・・(式3)
この(式3)において、uf、un、urは、それぞれ光ファイバブラッググレーティング1、繊維状部材2及び樹脂材料5の平衡点からの変位量である。すなわち、光ファイバブラッググレーティング1の変位量ufが、光ファイバブラッググレーティング1の熱膨張による変位を打ち消すように、Sf、Ef、Sn、En、Sr、Erを設計することで、温度補償構造が実現される。
【0090】
ここで、光ファイバブラッググレーティング1の構造パラメータであるSf、Efは、使用する光ファイバによって一意に決まる。例えば、石英ガラスからなる直径125μmの光ファイバを用いる場合においては、Sf=1.23×10−2〔mm2〕、Ef=73〔GPa〕である。
【0091】
また、繊維状部材2についての定数であるSn、Enも、使用する繊維状部材2の材料と光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置する繊維の本数によって正確に決めることができる。例えば、「ダイニーマ」(商標名)のヤング率は、そのグレードにもよるが、En≒100〔GPa〕程度であり、面積Snも、繊維の本数を、例えば、2000本と決めることにより、一意に決定することができるので、製造上のばらつきはほとんどない。
【0092】
一方、樹脂材料5の断面積Srは、光ファイバブラッググレーティング1の周囲に充填する樹脂材料の量によって変化してしまうため、製造工程において正確に制御することが困難である。そのため、製造工程における樹脂材料5の断面積Srのばらつきが温度補償特性に与える影響を極力少なくする必要がある。ここで(式3)より、樹脂材料5の断面積Srとヤング率Erとは互いに乗算される関係にあるため、断面積Srのばらつきが変位量urに与える影響を小さくするには、樹脂材料5のヤング率Erを小さくすれば良い。
【0093】
すなわち、樹脂材料5として、ヤング率Erが極力小さい材料を使用することにより、製造工程上におけるばらつきを抑制することができる。樹脂材料5の断面積Srのばらつきによる温度補償特性ヘの影響がほぼ無視できるようになるヤング率Erのレベルとしては、繊維状部材2及び光ファイバブラッググレーティング1のヤング率の高々1%以下にしておくことが望ましい。
【0094】
ここで、光ファイバの主材料である石英ガラスのヤング率は73〔GPa〕であるので、その1%は730〔MPa〕となる。したがって、樹脂材料5としては、通常使用する温度範囲(例えば、−20°C乃至80°C)において、約500〔MPa〕以下のヤング率を有する材料(例えば、−20°Cにおいて500〔MPa〕、80°Cにおいて10〔MPa〕)を用いることにより、安定した特性が得られる。
【0095】
さらに、樹脂材料5として、ヤング率が500〔MPa〕以下の材料を使用することによって、樹脂材料の硬化時の歪みが光ファイバブラッググレーティング1に与える影響を小さくできる。この場合には、液晶高分子を用いた従来の特性可変ファイバグレーティングにおいて必要であった緩衝層が不要となるので、構造が簡単で安価に作製することができる特性可変ファイバグレーティングを構成することができる。
【0096】
また、樹脂材料5のヤング率を500〔MPa〕以下とすることにより、この樹脂材料5を繊維状部材2及び光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置した後において、この光ファイバブラッググレーティング1を曲げることが可能となり、モジュールに組み込む場合などにおいて有利となり、モジュールの小型化も可能となる。すなわち、樹脂材料5が柔らかい材料からなることにより、特性可変ファイバグレーティング全体を曲げても光ファイバブラッググレーティング1に大きな応力が掛かることがなく、特性悪化を招来することがない。
【0097】
また、本発明に係る特性可変ファイバグレーティングは、使用温度範囲内において温度が変化したときに、光ファイバブラッググレーティング1の両端における反射波長の変化方向が、互いに逆になっているようにすることが望ましい。
【0098】
光ファイバブラッググレーティング1の両端における反射波長の変化方向が互いに逆になっていることにより、この特性可変ファイバグレーティングに温度変化を与えて分散量を変化させたとき、図3中の(c)及び(d)に示したように、反射波長の短波長側が温度上昇によって短波長側に変動し、長波長側が温度上昇によって長波長側に変動するという挙動を示し、反射中心波長の変動を抑制することが可能となる。
【0099】
そして、反射中心波長の変動が抑えられることにより、波長多重通信方式などにおける使用に際して、隣の通信波長へ影響を与えることを抑制でき、分散量可変の分散補償ファイバグレーティングとして望ましい特性を実現することができる。
【0100】
このような特性を実現するには、繊維状部材2が大きな負の熱膨張係数を有している必要があり、例えば、光ファイバとして石英を用いる場合には、繊維状部材2が長手方向に−8.0×10−6〔1/°C〕程度の負の熱膨張係数を有している必要がある。このような繊維状部材2としては、前述したように、高分子量ポリエチレン(例えば、東洋紡績株式会社製「ダイニーマ」(商標名))等が挙げられる。
【0101】
〔実施例1〕
この実施例1においては、グレーティング部3の周囲に配置する繊維状部材2をなす繊維の本数を変化させたときの、光ファイバブラッググレーティング1の反射中心波長の温度依存性の変化を確認した。
【0102】
光ファイバブラッググレーティング1は、一般の光通信において広く用いられている直径125μmの石英製光ファイバに位相マスク法でグレーティング部3を作製したものを使用した。
【0103】
また、長手方向に負の熱膨張係数を有する繊維状部材2としては、ポリエチレン(東洋紡績株式会社製「ダイニーマ」(商標名))を使用した。使用したポリエチレン繊維は、フィラメント1本が1.2dtexである。
【0104】
この繊維状部材2を光ファイバブラッググレーティング1の周囲に配置した後、樹脂材料5として紫外線硬化型樹脂を繊維状部材2に浸透させ、この繊維状部材2をなす繊維間及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を紫外線硬化型樹脂で充填し、さらに、紫外線を照射してこの紫外線硬化型樹脂を硬化させた。使用した紫外線硬化型樹脂の室温でのヤング率は、50〔MPa〕であった。
【0105】
その後、光ファイバブラッググレーティング1の温度を、0°Cから60°Cまで変化させ、中心反射波長の変動特性を線形近似することにより、1°Cあたりの波長変化量を求めた。
【0106】
図6は、実施例1において、横軸を繊維本数として温度特性変化を示すグラフである。
【0107】
図6に示すように、繊維状部材2をなす繊維の本数が増えるにしたがって、光ファイバブラッググレーティング1の温度特性が変化し、2000本程度、つまり2400dtexにおいて、ほぼ温度無依存にできることがわかった。すなわち、このような温度特性の変化を利用することにより、光ファイバブラッググレーティング1の温度依存性を長手方向について変化させることができることが確認できた。
【0108】
〔実施例2〕
この実施例2においては、位相マスク法を用いて、長さ90mm、チャープ率0.07nm/cmのチャープファイバグレーティングを作製し、このチャープファイバグレーティングの周囲に、負の熱膨張係数を有する繊維状部材2を、前記図4に示すように、連続的に構成繊維の本数を変化させて配置した。
【0109】
繊維状部材2としては、ポリエチレン(東洋紡績株式会社製「ダイニーマ」(商標名))を使用した。
【0110】
グレーティング部3の一端側においては、繊維本数を2300本、つまり2760dtexとし、他端側に向けて徐々に減らしていき、最終的には0本となるようにした。この実施例においては、繊維本数が2300本の側をチャープ周期の短波長側とした。また、繊維本数の変化は、前記実施例1の結果に基づいて、ファイバブラッググレーティング1の長手方向について、温度特性変化が線形となるように設計した。
【0111】
そして、樹脂材料5として紫外線硬化型樹脂を繊維状部材2に浸透させ、この繊維状部材2をなす繊維間及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を紫外線硬化型樹脂で充填し、さらに、紫外線を照射してこの紫外線硬化型樹脂を硬化させた。使用した紫外線硬化型樹脂の室温でのヤング率は、50〔MPa〕であった。
【0112】
その後、光ファイバブラッググレーティング1の温度を、0°Cから60°Cまで変化させ、グレーティング部3における反射強度スペクトル及び群遅延特性を測定した。
【0113】
図7は、実施例2において、横軸を反射波長として反射強度スペクトル及び群遅延特性の変化を示すグラフである。
【0114】
図7中の(a)に示す反射スペクトル及び図7中の(b)に示す群遅延特性からわかるように、グレーティング部3の周囲の繊維本数が2300本である短波長側においては、温度が変化しても波長変動がほとんどないのに対し、繊維本数が0本である長波長側においては、温度上昇により波長が長波側に変化し、結果として、反射帯域と群遅延時間の傾き、すなわち、波長分散が変化している。
【0115】
この実施例により、波長分散は600nm/ps乃至1000nm/psの範囲で変化し、400nm/psの変化量が得られ、実用上十分な波長分散の可変範囲が得られることが確認された。
【0116】
また、この実施例においては、短波長側の反射波長の変化がほとんどないため、反射中心波長の変動も小さく抑えられている。例えば、この実施例においては、使用波長を1550.4nmに設定することにより、全ての温度範囲で使用することが可能となる。
【0117】
なお、ここで、使用波長を1550.4nmに設定することの根拠は、以下の通りである。すなわち、図7中の(a)及び(b)に示すように、温度を0°Cから60°Cまで変化させた場合には、光ファイバブラッググレーティング1の帯域が変化してしまい、0°Cにおいて最も帯域が狭くなる。ここで、仮に、使用波長が1551nmであった場合には、60°C及び30°Cにおいては光ファイバブラッググレーティング1の帯域内に入るが、0°Cにおいては帯域外となってしまう。そして、1550.4nmの波長の光を光ファイバブラッググレーティング1に入射させた場合には、0°Cから60°Cの温度範囲において、すべて光ファイバブラッググレーティング1の帯域内に入る。したがって、この実施例においては、使用波長を1550.4nmに設定することが望ましい。ただし、光ファイバブラッググレーティング1の特性が異なれば、使用波長も異なるものとなる。
【0118】
〔実施例3〕
この実施例3においては、位相マスク法を用いて、長さ90mm、チャープ率0.07nm/cmのチャープファイバグレーティングを作製し、このチャープファイバグレーティングの周囲に、負の熱膨張係数を有する繊維状部材2を、前記図4に示すように、連続的に構成繊維の本数を変化させて配置した。
【0119】
繊維状部材2としては、ポリエチレン(東洋紡績株式会社製「ダイニーマ」(商標名))を使用した。
【0120】
グレーティング部3の一端側においては、繊維本数を2300本、つまり2760dtexとし、他端側に向けて徐々に減らしていき、最終的には0本となるようにした。この実施例においては、繊維本数が2300本の側をチャープ周期の長波長側とした。また、繊維本数の変化は、前記実施例1の結果に基づいて、ファイバブラッググレーティング1の長手方向について、温度特性変化が線形となるように設計した。
【0121】
そして、樹脂材料5として紫外線硬化型樹脂を繊維状部材2に浸透させ、この繊維状部材2をなす繊維間及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティング1との間の空隙を紫外線硬化型樹脂で充填し、さらに、紫外線を照射してこの紫外線硬化型樹脂を硬化させた。使用した紫外線硬化型樹脂の室温でのヤング率は、800〔MPa〕であった。
【0122】
その後、光ファイバブラッググレーティング1の温度を、0°Cから60°Cまで変化させ、グレーティング部3における反射強度スペクトル及び群遅延特性を測定した。
【0123】
図8は、実施例3において、横軸を反射波長として反射強度スペクトル及び群遅延特性の変化を示すグラフである。
【0124】
図8中の(a)に示す反射スペクトル及び図8中の(b)に示す群遅延特性からわかるように、グレーティング部3の周囲の繊維本数が2300本である長波長側においては、温度が変化しても波長変動がほとんどないのに対し、繊維本数が0本である短波長側においては、温度上昇により波長が長波側に変化し、結果として、反射帯域と群遅延時間の傾き、すなわち、波長分散が変化している。
【0125】
この実施例においては、前記実施例2に比較して、反射スペクトルの乱れが大きくなっている。これは、使用した紫外線硬化型樹脂のヤング率が800〔MPa〕であり、この紫外線硬化型樹脂が硬化するとき、及び、温度変化時に紫外線硬化型樹脂に生じた歪みが光ファイバブラッググレーティング1に応力を生じさせたためであると考えられる。
【0126】
この実施例により、十分な波長分散の変化量が得られ、実用上十分な波長分散の可変範囲が得られることが確認された。しかし、紫外線硬化型樹脂のヤング率が高いと歪みが大きくなるため、紫外線硬化型樹脂のヤング率は、800〔MPa〕以下、望ましくは、500〔MPa〕以下とすべきことが確認された。
【0127】
〔温度調整機構を有する構成〕
そして、本発明に係る特性可変ファイバグレーティングは、温度を調整するための温度調整機構と組合わせて使用することとしてもよい。
【0128】
温度調整機構と組合わせて使用することにより、分散量可変の分散補償ファイバグレーティングにおける分散量を所望の値に変化させ、また、その所望の値で固定することが可能となる。
【0129】
温度調整機構は、分散量可変の分散補償ファイバグレーティングの温度を測定する機能を有し、その測定温度と設定温度との差を縮めるようにフィードバックをかける機能を有するか、または、最適な分散量からの乖離を測定する機能を有し、この乖離量を縮めるようにフィードバックをかける機能を有している。
【0130】
図9は、温度調整機構と組合わせた特性可変ファイバグレーティングの第1の構成を示す側面図である。
【0131】
この実施例においては、伝送路で波長分散が蓄積された信号光は、サーキュレータ6を経て、温度調整部7に設置された分散補償ファイバグレーティングとなる光ファイバブラッググレーティング1に入射される。この光ファイバブラッググレーティング1で反射された光は、サーキュレータ6において分離され、受光部8に受光され、電気信号に変換される。
【0132】
受光部8からの出力は、分散量解析部9に送られ、残留分散量が解析される。分散量解析部9は、解析した残留分散量の値に基づいて、温度制御部10に信号を送る。温度制御部10は、残留分散量が小さくなるように、温度調整部7により光ファイバブラッググレーティング1の温度を変化させ、分散量を調整する。
【0133】
なお、この実施例においては、受光部8及び分散量解析部9は、光信号の受信部の機能も兼ねている。
【0134】
図10は、温度調整機構と組合わせた特性可変ファイバグレーティングの第2の構成を示す側面図である。
【0135】
この実施例においては、伝送路で波長分散が蓄積された信号光は、サーキュレータ6を経て、温度調整部7に設置された分散補償ファイバグレーティングとなる光ファイバブラッググレーティング1に入射される。この光ファイバブラッググレーティング1で反射された光は、サーキュレータ6において分離され、さらに、光カプラ11において分岐され、受光部8に受光され、電気信号に変換される。
【0136】
受光部8からの出力は、分散量解析部9に送られ、残留分散量が解析される。分散量解析部9は、解析した残留分散量の値に基づいて、温度制御部10に信号を送る。温度制御部10は、残留分散量が小さくなるように、温度調整部7により光ファイバブラッググレーティング1の温度を変化させ、分散量を調整する。
【0137】
この実施例においては、受光部8及び分散量解析部9が光信号の受信部の機能を兼ねておらず、図示しない光信号の受信部は、光カプラ11において分岐されなかった光成分を受光して、光信号を受信する。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明に係る特性可変ファイバグレーティングの構成を示す縦断面図及び横断面図である。
【図2】チャープファイバグレーティングにおいて温度上昇により反射中心波長が変化する様子を示すグラフである。
【図3】チャープファイバグレーティングにおける反射中心波長の変動の温度依存性が長手方向について変化している場合の反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図4】上記特性可変ファイバグレーティングにおいて、繊維状部材をなす繊維の本数がグレーティング部の長手方向に沿って変化している構成を示す縦断面図及び横断面図である。
【図5】上記特性可変ファイバグレーティングにおいて、繊維状部材をなす繊維同士及びこれら繊維と光ファイバブラッググレーティングとの間の空隙を樹脂材料で充填した構成を示す縦断面図である。
【図6】実施例1において、横軸を繊維本数として温度特性変化を示すグラフである。
【図7】実施例2において、横軸を反射波長として反射強度スペクトル及び群遅延特性の変化を示すグラフである。
【図8】実施例3において、横軸を反射波長として反射強度スペクトル及び群遅延特性の変化を示すグラフである。
【図9】温度調整機構と組合わせた特性可変ファイバグレーティングの第1の構成を示す側面図である。
【図10】温度調整機構と組合わせた特性可変ファイバグレーティングの第2の構成を示す側面図である。
【図11】分散補償ファイバグレーティングの動作原理を示す側面図である。
【符号の説明】
【0139】
1 光ファイバブラッググレーティング
2 繊維状部材
3 グレーティング部
4 繊維
5 樹脂材料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に屈折率が変化したグレーティング構造が形成されている光ファイバからなる光ファイバブラッググレーティングと、
前記光ファイバブラッググレーティングの周囲に配置された繊維状部材とを備え、
前記繊維状部材は、温度上昇により繊維長手方向に収縮し、温度下降により繊維長手方向に膨張する負の線膨張特性を有し、この温度上昇による繊維の収縮、温度下降による繊維の膨張により、前記光ファイバブラッググレーティングに対し、この光ファイバブラッググレーティングの長手方向の圧縮力あるいは伸長力を作用させる構造を有し、この光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部における前記繊維部材の膨張あるいは収縮によって光ファイバへ与える圧縮力あるいは伸長力の作用量が光ファイバの長手方向について異なることを特徴とする特性可変ファイバグレーティング。
【請求項2】
前記繊維状部材を構成する繊維の本数が、光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部の長手方向について異なることを特徴とする請求項1記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項3】
前記光ファイバブラッググレーティングが形成されている光ファイバ部材が石英であり、前記繊維状部材の繊維長手方向の線膨張係数が−6.0×10−6乃至−15.0×10−6〔1/°C〕であることを特徴とする請求項1あるいは2いずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項4】
前記繊維状部材は、高分子量ポリエチレンからなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項5】
前記繊維状部材は、ポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項6】
前記繊維状部材をなす繊維同士間及びこれら繊維と前記光ファイバブラッググレーティングとの間の空隙は、樹脂材料により充填されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項7】
前記樹脂材料は、使用温度範囲におけるヤング率が500MPa以下の材料であることを特徴とする請求項6記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項8】
使用温度範囲内における温度変化について、前記ファイバブラッググレーティングの両端側における反射波長の変化方向が互いに逆方向であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項9】
前記ファイバブラッググレーティングの温度を調整する温度調整機構を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項1】
周期的に屈折率が変化したグレーティング構造が形成されている光ファイバからなる光ファイバブラッググレーティングと、
前記光ファイバブラッググレーティングの周囲に配置された繊維状部材とを備え、
前記繊維状部材は、温度上昇により繊維長手方向に収縮し、温度下降により繊維長手方向に膨張する負の線膨張特性を有し、この温度上昇による繊維の収縮、温度下降による繊維の膨張により、前記光ファイバブラッググレーティングに対し、この光ファイバブラッググレーティングの長手方向の圧縮力あるいは伸長力を作用させる構造を有し、この光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部における前記繊維部材の膨張あるいは収縮によって光ファイバへ与える圧縮力あるいは伸長力の作用量が光ファイバの長手方向について異なることを特徴とする特性可変ファイバグレーティング。
【請求項2】
前記繊維状部材を構成する繊維の本数が、光ファイバブラッググレーティングのグレーティング部の長手方向について異なることを特徴とする請求項1記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項3】
前記光ファイバブラッググレーティングが形成されている光ファイバ部材が石英であり、前記繊維状部材の繊維長手方向の線膨張係数が−6.0×10−6乃至−15.0×10−6〔1/°C〕であることを特徴とする請求項1あるいは2いずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項4】
前記繊維状部材は、高分子量ポリエチレンからなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項5】
前記繊維状部材は、ポリパラフェニレンべンゾビスオキサゾール繊維であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項6】
前記繊維状部材をなす繊維同士間及びこれら繊維と前記光ファイバブラッググレーティングとの間の空隙は、樹脂材料により充填されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項7】
前記樹脂材料は、使用温度範囲におけるヤング率が500MPa以下の材料であることを特徴とする請求項6記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項8】
使用温度範囲内における温度変化について、前記ファイバブラッググレーティングの両端側における反射波長の変化方向が互いに逆方向であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【請求項9】
前記ファイバブラッググレーティングの温度を調整する温度調整機構を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一に記載の特性可変ファイバグレーティング。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−78649(P2006−78649A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260923(P2004−260923)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]