説明

状態検出システム及びそれに用いる親機並びに機器及び反射器

【課題】 マイクロ波を利用したドップラーセンサを用いつつ、子機側の回路規模が小さく簡単で、子機はキャリア周波数の発振が不要で、子機同士が干渉しない状態検出システムを提供すること
【解決手段】 複数の子機2とその子機に関する状態を検出する親機1とを備える。子機は、アンテナ23と、ベースバンド信号発生器21と、ベースバンド信号発生器によって発生されたベースバンド信号に基づき、アンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変器22とを備え、ベースバンド信号発生器の周波数を子機ごとに異なせる。親機は、マイクロ波ドップラーセンサ10と、マイクロ波ドップラーセンサから出力されるIF信号を増幅するアンプ11と、そのアンプの出力を子機ごとに異なる周波数に基づいて周波数別の信号に弁別する複数のバンドパスフィルタ13と、IF検波回路14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドップラーセンサを用いた状態検出システム及びそれに用いる親機並びに機器及び反射器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波又はミリ波を用いてドップラーセンサを利用し、移動体の速度を求めたり、移動体の存在の有無,移動方向及び相対距離の変化の有無等を監視し、所定の条件に合致した場合に報知を行う移動体検知・報知システムが知られている(特許文献1)。
【0003】
しかし、一般的なドップラーセンサでは、複数の物体がそれぞれ移動する場合、それぞれの物体の移動を個別に検知するのが困難である。そこで、特許文献2に示すように、物体による反射波を複数の受信部で受信し、複数の受信部の受信状況に基づき演算によって複数の物体の移動を検出する方法が知られている。
【0004】
また、移動体の速度を測定するドップラーセンサ装置等(親機等)の試験・評価を行う際には、検出・測定対象の移動体の速度に相当するテスト信号を発生させるために当該速度で移動する反射物が必要となる。しかし、実際に作業台上で反射物を動かすことは困難、且つ危険であるという問題がある。
【0005】
そこで、例えば回転するドラムに送信装置から電波を照射し、ドラム表面から反射する電波を受信装置で受信してドラム表面の周速度の変化によるドップラー効果を得るドップラー効果発生装置が考案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2005−182256号公報
【特許文献2】特開2002−372577号公報
【特許文献3】特開平7−270521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示された発明のように複数の受信部を設けると、回路規模が大きくなりドップラーセンサの構成が複雑になるという問題がある。また、子機1つ1つのマイクロ波/ミリ波等の電波の周波数をそれぞれ異なるものとし、親機でこれらを受信する構成とすることもできるが、このようにすると子機の回路規模が大きくなり、大きさ、消費電力、コスト等の面で不利となる。さらに、子機と親機との間でキャリア周波数の同調が必要となるとともに、子機の発した信号同士が干渉する可能性がある。また子機にマイクロ波/ミリ波等の電波の発信器が必要となるので技術適合申請が必要となる。
【0007】
また、特許文献3に開示された発明では、回転などの機械的な動作に基づいてテスト信号を生成しているため、正確な速度や安定した反射レベルを確保することが困難である。また、特に、高速に実際に作業台上で反射物を動かすのは困難であり、高速で移動する物体に関するテスト信号を発生させることは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、マイクロ波やミリ波などの電波を利用したドップラーセンサを用いつつ、子機側の回路規模が小さく簡単で、消費電力が少なく、小型化が可能で、子機同士のキャリア周波数の同調が不要となり、子機同士が干渉せず、子機の技術適合申請も不要となる状態検出システム及び子機並びに電子機器、及び移動体の速度を検出する装置に対して、移動体の速度に相当するテスト信号を発生することのできる機器(反射器)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明に係る状態検出システムは、(1)複数の子機と前記複数の子機に関する状態を検出する親機とを備える状態検出システムである。そして、前記子機は、アンテナと、ベースバンド信号を発生する信号発生手段と、前記信号発生手段によって発生されたベースバンド信号に基づき、前記アンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変手段と、を備え、各子機の前記信号発生手段は、子機ごとに異なる周波数のベースバンド信号を発生するようにし、前記親機は、所定周波数の/ミリ波等の電波を生成する局部発振器と、前記電波を放射する送信アンテナと、前記送信アンテナから放射された電波の反射波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナから受信した電波を前記局部発振器から出力される電波と混合する混合手段と、前記混合手段の出力を前記子機ごとに異なる周波数に基づいて周波数別の信号に弁別する弁別手段と、前記弁別手段によって弁別された前記周波数別の信号に基づき前記子機に関する状態を検出する状態検出手段とを備えるようにした。
【0010】
(1)の状態検出システムによれば、親機は、局部発振器で生成された所定周波数のマイクロ波/ミリ波等の電波を送信アンテナから放射し、子機は、信号発生手段によって発生されたベースバンド信号に基づきインピーダンス可変手段が子機のアンテナに対するインピーダンスを可変する。その結果、親機から送信された電波に対して、子機のインピーダンス可変手段においてインピーダンス不整合により変調の掛かった反射が発生する。すなわち、反射波の振幅がベースバンド信号に基づいて変化することとなる(振幅変調がかかる)。
【0011】
親機は、送信アンテナから放射された電波の反射波を受信アンテナから受信し、受信した電波と局部発振器から出力される電波を混合手段で混合する。ここで、混合手段から得られる信号すなわち、ベースバンド信号は、反射の振幅及び位相の両方が関係した信号である。各子機の信号発生手段、子機ごとに異なる周波数を発生するため、親機の混合手段から得られるベースバンド信号の周波数は、子機ごとのインピーダンス可変周波数に相当する。そこで親機は、弁別手段で、混合手段の出力を子機ごとに異なる周波数に基づいて周波数別の信号に弁別する。そして、親機は、状態検出手段にて、弁別手段によって弁別された周波数別の信号に基づき子機に関する状態を検出する。
【0012】
さらに(1)に記載の状態検出システムによれば、子機には、マイクロ波/ミリ波等の電波の発振器が不要となり、技術適合申請が不要となる。また、親機から照射された反射波を利用するため、子機と親機との間でキャリア周波数の同調も不要となり、各子機の信号発生手段により発生される周波数が異なるので子機にて反射された信号同士が干渉する可能性がない。また子機の回路規模を小さくすることができ、大きさ、消費電力、コスト等の面で有利になる。また、親機も子機ごとに合わせた複数の受信部を設ける必要がなく、回路規模を小さくすることができ、大きさ、消費電力、コスト等の面で有利になる。
【0013】
親機は例えばドップラーセンサを用いて構成することができる。また、子機のインピーダンス可変手段は例えば検波ダイオードを用いて構成することができる。このような構成によれば、検波器の検波ダイオードにベースバンド信号が印加され、検波ダイオードの動作インピーダンスが変化するため、ドップラーセンサからマイクロ波/ミリ波等の電波を受けるとインピーダンス不整合に応じて反射レベルが変化する。よって、反射波となるマイクロ波/ミリ波等の電波に対して、容易に、たとえば振幅変調をかけることができる。ドップラーセンサは、この反射波を受信することで、局部発振器からの信号と受信波との乗算によりドップラー信号を得ることができる。
【0014】
この乗算された出力は、反射波の振幅及び位相に起因されたレベルである。反射波が振幅変調されている場合、このドップラーセンサ出力は、反射波のレベル変動に応じた振幅の検波信号を出力する。また、仮に反射波のレベルが一定であっても、位相が変化した場合も検波信号の変化として現れる。ここでいう位相とは、局部発振器の位相に対する受信波の位相のことで、親機と子機の相対距離に依存する。ここで、無変調反射波における局部発振信号、反射信号、及び、ドップラーセンサ出力の関係を図1に、この状態における相対距離の変化量対ドップラーセンサの出力レベルを図2に、また、変調反射波における反射信号、ドップラーセンサの局部発振信号ベクトル、及びドップラーセンサ出力の関係を図3に、この状態における各相対距離での変調信号の時間対ドップラーセンサ出力レベルを図4に、この状態における相対距離対ドップラーセンサ出力の振幅波形を図5に、ACアンプを通した波形を図6に示す。変調の掛かっていない反射波の場合、ドップラーセンサ出力が直流であるため、ゆっくりとした距離の変化や微小な距離の変化を検出するのはドリフト等の問題により困難である。これに対し、反射波に変調が掛かっている場合は、ドップラーセンサ出力が交流であるため、直流及びドリフト成分をカットする高利得のACアンプが利用できる、ドリフトの影響がないといった面で有利である。また、検出回路においても対象の周波数以外を除去する狭帯域フィルタを用いることで、対象としない子機からのベースバンド信号を除去するだけでなく、S/N向上により更に微少なレベルでも検出できる。
【0015】
(2)また、別の解決手段としては、複数の子機と前記複数の子機の状態を監視する親機とを備える状態検出システムであって、前記子機は、アンテナと、ベースバンド信号を発生する信号発生手段と、前記信号発生手段によって発生されたベースバンド信号に基づき、前記アンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変手段と、を備え、各子機の前記信号発生手段は、子機ごとに異なる周波数のベースバンド信号を発生するようにし、さらに、前記親機は、所定周波数のマイクロ波/ミリ波等の電波を生成する局部発振器と、前記電波を放射する送信アンテナと、前記送信アンテナから放射された電波の反射波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナから受信した電波を前記局部発振器から出力される電波と混合する第1混合手段と、前記受信アンテナから受信した電波を前記局部発振器から出力される電波と混合する第2混合手段と、前記第1混合手段及び前記第2混合手段の出力を前記異なる周波数に基づいて周波数別の信号にそれぞれ弁別する弁別手段と、前記弁別手段によって弁別された前記周波数別のベースバンド信号に基づき前記子機に関する状態を検出する状態検出手段と、を備え、前記第1の混合手段と前記第2の混合手段とは所定の距離、離れた位置に配置するようにした。
【0016】
すなわち、本発明では、子機ごとに異なる周波数に基づいて周波数別の信号に弁別するのであるが、混合手段の出力は、子機の位置に応じた位相変調と、子機のインピーダンス可変手段によって作られた振幅変調された反射波との双方の影響により、子機と親機の位置関係によっては、混合手段の出力信号が得られない(直流信号のみとなってしまう)位置が存在する。図6の節の部分(図中、b′,b″,d′,d″)がこの位置に相当する。この位置を以下、デッドゾーンと称する。そこで、こうしたデッドゾーンをなくすため、(2)の発明のように、親機に2つの混合手段を設け、その2つの混合手段は、所定の距離だけ離れた位置に配置するとよい。
【0017】
特に、この所定の距離は、(3)の発明のように、親機の発するマイクロ波/ミリ波等の電波の波長の8分の1とするとよい。このようにすれば、一方の混合手段の出力と他方の混合手段の出力とは90度位相の異なる信号となるので、一方の出力が直流信号となる場合であっても、他方からは確実に交流信号が出力されることとなる。
【0018】
さらに、(4)前記弁別手段は、前記第1混合手段の出力を前記異なる周波数に基づいて周波数別の信号に弁別する第1弁別手段と、前記第2混合手段の出力を前記異なる周波数に基づいて周波数別の信号に弁別する第2弁別手段とを備え、前記状態検出手段は、前記状態検出手段は、前記第1弁別手段と前記第2弁別手段によって弁別された同一周波数帯の2つの信号を比較してレベルの高い信号に基づいてその同一周波数帯に対応する前記子機に関する状態を検出するように構成すると良い。係る構成を採ると、デッドゾーンをなくして、より正確な状態を検出することができる。
【0019】
そして、状態検出手段は、例えば、子機の移動の有無や、子機と親機の間にある物体の移動の有無などを状態として検出するように構成することができる。例えば、(5)の発明のように、状態検出手段は、弁別手段によって出力された周波数別の信号のレベル変化があった場合に、当該周波数に対応する信号発生手段を持つ子機に関する状態変化があったと判定するとよい。
【0020】
(6)また、弁別手段は、例えば、FFT、相関器、複数のBPFの少なくともいずれか1つで構成して、弁別をするようにするとよい。特に、子機の数が数個程度と少ない場合には、複数のBPFで構成すると安価に構成できる。
【0021】
(7)そして、子機の電源は電池とするとよい。本発明の子機は、従来に比べ回路規模が小さく消費電力が小さいため、電源を電池とすることが可能となる。
【0022】
(8)本発明の子機(電子機器)は、複数の子機と前記複数の子機の状態を監視する親機とを備える状態検出システムにおける子機であって、アンテナと、ベースバンド信号を発生する信号発生手段と、前記信号発生手段によって発生されたベースバンド信号に基づき、前記アンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変手段と、を備え、前記信号発生手段は、前記状態検出システムを構成する他の子機と異なる周波数のベースバンド信号を発生するものとした。
【0023】
(9)本発明の電子機器は、上記の(1)〜(6)のいずれかに記載の状態検出システムにおける親機の構成を備えるものとした。
【0024】
(10)本発明の反射器は、アンテナと、ベースバンド信号を発生する信号発生手段と、前記ベースバンド信号の周波数を設定する設定手段と、前記信号発生手段によって発生されたベースバンド信号に基づき前記アンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変手段と、を備えるものである。
【0025】
親機における局部発振器、混合手段、アンテナなどは、既存のドップラーセンサを用いて構成することができる。また、従来、このようなドップラーセンサを用いて、物体の移動速度を計測する機器がある。こうした機器を設計・製造等する際には、これらの機器が正しい速度を計測しているかをテストする必要がある。従来は、実際に物体を所定の速度で移動させて移動速度を計測していたが、正確な速度や安定した反射レベルを確保することが困難であった。また、特に、高速に実際に作業台等で反射物(測定対象物)を動かすのは困難であった。
【0026】
そこで、上記の状態検出システムにおける子機の構成を用いることによりこの問題を解決できる。例えば、(10)に示す反射器を、ドップラーセンサを用いた速度測定装置のテスト信号発生装置として用いるとよい。このようにすれば、測定対象物を動かさなくても、移動速度に相当する混合手段の出力信号を得ることができるのである。すなわち、このように簡単な構成の反射器で、ドップラーセンサに対し任意の周波数の擬似ドップラー信号を発生させることが出来る。特に、高速で移動する物体に関するテスト信号を発生させることも容易にでき、また、正確な速度の反射波を得ることができる。また、安定した反射レベルを確保することもできる。たとえば、小さく簡単、且つ安全な構成で、数百km/hに相当するテスト信号をも容易に発生できる。
【0027】
*各請求項に記載の発明の関係
請求項8,9に記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の状態検出システムの一部をなすものである。換言すると、請求項8に記載の発明と請求項9に記載の発明を組み合わせることで、請求項1乃至7のいずれかに記載の状態検出システムが構成される。更に、請求項10に記載の発明は、本発明の状態検出システムを構成する1つの子機と同じ構成を採る。換言すると、本発明の子機は、反射器となり、上記のテスト信号を発生させる機器として用いることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、マイクロ波やミリ波などの電波を利用したドップラーセンサを用いつつ、子機側の回路規模が小さく簡単で、消費電力が少なく、小型化が可能で、子機同士のキャリア周波数は全て同じでありながら、変調のベースバンド周波数が異なるため、それぞれの子機を個別に認識できて、子機の技術適合申請も不要となる。また、子機の構成を備えた機器は、速度測定装置等における測定対象の移動体の速度に相当するテスト信号を発生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図7は、本発明に係る状態検出システムの好適な一実施形態を示している。図7(a)に示すように、この状態検出システムは、親機1と複数の子機2とからなるシステムである。親機1は、マイクロ波ドップラーセンサを備え、所定周波数のマイクロ波を放射し、その反射波を受信する機能を備える。複数の子機2は、親機1から放射されたマイクロ波を反射する機能を備え、子機2から親機1へ反射される反射波の変調周波数が、各子機2ごとに異ならせるようにしている。これにより、親機1は、混合手段により得られるベースバンド信号の周波数の相違から、どの子機からの反射波かを弁別できる。親機1,子機2の具体的な構成は以下の通りである。
【0030】
親機1は、マイクロ波ドップラーセンサ10と、マイクロ波ドップラーセンサ10のIF出力を増幅するアンプ11と、アンプ11の出力に並列に接続された複数のバンドパスフィルタ12と、各バンドパスフィルタ12の出力に接続されたIF検波回路13と、を備えている。これら複数のバンドバスフィルタ12と、IF検波器13とにより、弁別回路が構成される。
【0031】
親機1のマイクロ波ドップラーセンサ10は、具体的には、図7(b)に示すように、周波数が24.15GHzのマイクロ波を生成する局部発振器10aと、局部発振器10aで生成されたマイクロ波を放射する送信アンテナ10bと、送信アンテナ10bから放射されたマイクロ波の反射波を受信する受信アンテナ10cと、受信アンテナ10cにて受信したマイクロ波を局部発振器10aから出力されるマイクロ波と混合する混合手段であるミキサ10dと、を備える。このミキサ10dで混合されたIF信号が、アンプ11に与えられる。
【0032】
複数のバンドパスフィルタ12は、通過帯域を異ならせている。これにより、アンプ11から出力される増幅されたIF信号は、周波数帯域ごとに分離される。つまり、複数の子機2からの反射波に掛けられている変調の周波数は、各子機2ごとに異なるように設定されているため、このIF信号の周波数も、各子機ごとに異なる。このことは、他の子機においても同様のことが言える。そこで、個々のバンドパスフィルタ12(BPF(x))の通過帯域を、対応する子機(x)からの反射波に基づくIF信号は通過させるとともに、対応する子機(x)以外の全ての子機からの反射波に基づくIF信号は通過させないように設定した。
【0033】
IF検波回路13は、各バンドパスフィルタ12を通過した信号を検波して検出信号を出力する。よって、BPF(x)に接続されたIF検波回路13の出力端子には、子機(x)からの反射波に基づく信号が出力されることになる。
【0034】
一方、図7(c)に示すように、子機2は、アンテナ23と、ベースバンド信号を発生する信号発生手段たるベースバンド信号発生器(発振器(OSC))21と、アンテナ23に接続され、ベースバンド信号発生器21で生成したベースバンド信号を入力して、アンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変器22とを備える。インピーダンス可変器22は、例えば、検波ダイオードやFETを用いることができる。このインピーダンス可変器22とアンテナ23とにより、検波器24が構成される。なお、図示省略するが、子機2の各部への電源は、太陽電池およびボタン電池を用いてもよいし、乾電池や蓄電池を用いてもよい。
【0035】
各子機2のベースバンド信号発生器21は、それぞれ図7(a)に示すようにOSC(1)〜OSC(n)の異なる周波数のベースバンド信号を発生するように設定されている。各子機2は、ベースバンド信号発生器21によって発生されたベースバンド信号に基づきインピーダンス可変手段が子機のアンテナに対するインピーダンスを可変する。その結果、親機1から送信されたマイクロ波に対して、子機2のインピーダンス可変器22においてインピーダンス不整合により反射が発生する。すなわち、反射波の振幅がベースバンド信号発生器21で発生されたベースバンド信号に基づいて変化する(振幅変調がかかる)こととなる。
【0036】
親機1は、ドップラーセンサ10の送信アンテナ10bから放射されたマイクロ波の反射波を受信アンテナ10cから受信し、受信したマイクロ波と局部発振器10aから出力されるマイクロ波をミキサ10dで混合する。ここで、ミキサ10dから得られる信号は、反射波の振幅及び位相の両方が関係した信号である。そして各子機2のベースバンド信号発生器21は、子機2ごとに異なる周波数のベースバンド信号を発生するため、親機1で生成されるIF信号の周波数は、子機2ごとに相違する。更に、図7の構成において、ドップラーセンサ10のIF出力端に出力される復調波のレベルは、ドップラーセンサ10と検波器24間の相対距離の微小な変化(数mmオーダー)により大きく変化する。
【0037】
そこで親機1は、IF出力信号を複数のバンドパスフィルタ12で各子機2に基づく信号ごとに弁別し、それぞれの信号レベルの変化を個別に監視することにより、複数の子機2の中から個別に移動を検知することができる。つまり、子機が移動したか否か等の状態を監視することができる。
【0038】
親機1は、IF検波回路13から出力される各検出信号のレベルが所定値以上変化した場合に、各子機2に対応する検出信号ごとに異なる警報を音声と映像で出力する警報機を有する(図示しない)。例えば、子機(1)に関する検出信号レベルに所定値以上の変化があった場合、「子機(1)に異常が発生しました」といった音声と映像での警報を出力する(他の子機も同様)。
【0039】
例えば、子機(1)をドアや窓に貼り付け、子機(2)を絵画の裏側に貼り付け、子機(3)をパーソナルコンピュータ等の情報機器の上におき、子機(4)を機器の後ろに置く。そして、親機1は、子機(1)に関する検出信号レベルに所定値以上の変化があった場合、「扉に異常が発生しました」といった警報を出力し、子機(2)に関する検出信号レベルに所定値以上の変化があった場合、「絵画に異常が発生しました」といった警報を出力し、子機(3)に関する検出信号レベルに所定値以上の変化があった場合、「PCに異常が発生しました」といった警報を出力し、子機(4)に関する検出信号レベルに所定値以上の変化があった場合、「機器に異常が発生しました」といった警報を出力する。また、この子機は、金庫、貯金箱、宝石箱等の貴重品を入れたものその他各種のものに取り付けても良い。
【0040】
このように、1つの親機1と、電波のキャリア周波数のための発振器を持たない反射器である複数の子機2とによって、子機2の個別の移動を検知することができる。すなわち、子機2ごとの個別の移動を監視する個別移動監視装置としてこの状態検知システムを利用することができる。
【0041】
親機1は、図7に示した複数のバンドパスフィルタ12と、IF検出回路13から構成される弁別回路に代えて、図8に示すようにFFT14を用いる構成とすることができる。子機の数が数個程度の場合には、図7に示すように複数のバンドパスフィルタ等で構成される弁別回路がコスト面で有利となるが、子機2の数が多数の場合には、図8に示すようにFFT14を用いて弁別するとよい。弁別回路をFFT14とすることで、多チャンネル化,且つSN比の改善(高感度化)が図れる。
【0042】
また、図7に示した複数のバンドパスフィルタ12とIF検出回路13とから構成される弁別回路に代えて、バンドパスフィルタ12及びIF検出回路13の部分を、相関器としてもよい。すなわち、図7(a)のBPF(1)及びDETの部分を子機(1)のベースバンド信号との相関をとる相関器(1)として、BPF(2)及びDETの部分を子機(2)のベースバンド信号との相関をとる相関器(2)とし、……BPF(n)及びDETの部分を子機(n)のベースバンド信号との相関をとる相関器(n)とする。相関器は、例えば積和演算器などで構成することができる。また、子機2の変調信号を矩形波とすることで相関器の相関波形も矩形波とすることが可能となる。これにより、相関演算に乗算が不要となるため、能力の低いプロセッサでも使用可能となる。
【0043】
更に、弁別回路では、子機2ごとに異なるベースバンド信号の周波数に基づいて周波数別の信号に弁別するのであるが、ミキサの出力は、子機2の位置に応じた位相変調と、子機2のインピーダンス可変器によって作られた振幅変調された反射波との双方の影響により、子機2と親機1の位置関係によっては、ミキサの出力信号が得られない(直流信号のみとなってしまう)位置(デッドゾーン)が存在する(図5の節の部分)。
【0044】
そこで、親機1は、図9(a)のように2出力マイクロ波ドップラーセンサを利用した構成にするとなおよい。2出力マイクロ波ドップラーセンサは、図10(b)に示すように、周波数が24.15GHzのマイクロ波を生成する局部発振器10aと、局部発振器10aで生成されたマイクロ波を放射する送信アンテナ10bと、送信アンテナ10bから放射されたマイクロ波の反射波を受信する受信アンテナ10cと、受信アンテナ10cから受信したマイクロ波を局部発振器10aから出力されるマイクロ波と混合する第1ミキサ10dと、受信アンテナ10cから受信したマイクロ波を局部発振器から出力されるマイクロ波と混合する第2ミキサ10eとを備え、第1ミキサ10dと第2ミキサ10eとは、λ/8に相当する距離だけ離れた位置に設置している。
【0045】
このドップラーセンサ10の2つの出力IF1,IF2は、それぞれIFアンプ11a,11bにて増幅後に第1弁別回路16aと、第2弁別回路16bとに入力するようにする。第1弁別回路16aと第2弁別回路16bとは、同一の構成をとる。そして、各弁別回路は、図7(a)に示した複数のバンドパスフィルタ12とIF検波回路13を備えた弁別回路と同様の構成を採る。
【0046】
そして、第1弁別回路16aと第2弁別回路16bとによってそれぞれ弁別された同一周波数帯の2つの信号を比較してレベルの高い信号に基づいて子機に関する状態を検出する検出器を備える。すなわち、第1検出回路16aの子機(1)についての出力信号と第2検出回路16bの子機(1)についての出力信号とを入力し、レベルの高いほうの信号に基づいて子機(1)に関する状態を検出する。子機(2)・・・子機(n)についても同様の回路を設けてそれぞれの子機に関する状態を検出する。
【0047】
このようにすることで、一方のミキサの出力と他方のミキサの出力とは90度位相が異なる信号となることから、一方の出力が直流信号のみとなる場合であっても、他方は確実に交流信号が出力されることとなり、出力レベルの高いほうの信号に基づいて状態を判定するため、デッドゾーンの影響を排除することができる。
【0048】
本実施形態の子機は、ドップラーセンサを用いた速度測定装置用のテスト信号発生装置として用いることができる。すなわち、従来から、ドップラーセンサを用いて高速移動物体の移動速度を計測する高速移動物体センサ装置が存在する。こうした装置を設計・製造等する際には、これらの機器が正しい速度を計測しているかをテストする必要がある。従来は、実際に物体を所定の速度で移動させて移動速度を計測していたが、正確な速度や安定した反射レベルを確保することが困難であった。また、特に、高速に実際に作業台等で反射物(測定対象物)を動かすのは困難であり、さらには、高速で移動する物体に関するテスト信号を発生させることは困難であった。
【0049】
そこで、図10に示すように、高速移動物体センサ装置30に対して、図7(c)に示した子機2を対向させて設置するとよい。すなわち、子機2は、アンテナと、ベースバンド信号を発生するベースバンド信号発生器と、ベースバンド信号発生器によって発生されたベースバンド信号に基づきアンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変器とを備える。このような構成の子機を、ドップラーセンサを用いた速度測定装置のテスト信号発生装置として用いることができる。
【0050】
このようにすれば、測定対象物を、動かさなくても、移動速度に相当するミキサの出力信号を得ることができるのである。すなわち、このように簡単な構成の反射器で、ドップラーセンサに対し任意の周波数の擬似ドップラー信号を発生させることが出来る。特に、高速で移動する物体に関するテスト信号を発生させることも容易にでき、また、正確な速度の反射波を得ることができる。また、安定した反射レベルを確保することもできる。たとえば、小さく簡単、且つ安全な構成で、数百km/hに相当するテスト信号をも容易に発生できる。
【0051】
上述した各実施形態では、マイクロ波を用いた例を説明したが、本発明はこれに限ることはなく、ミリ波その他の周波数帯を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】無変調反射波における局部発振信号、反射信号、及び、ドップラーセンサ出力の関係を示す図である。
【図2】図1の状態における相対距離の変化量対ドップラーセンサの出力レベルを示す図である。
【図3】変調反射波における局部発振信号、反射信号、及びドップラーセンサ出力の関係を示す図である。
【図4】図3の状態における各相対距離での変調信号の時間対ドップラーセンサ出力レベルを示す図である。
【図5】図3の状態における相対距離対ドップラーセンサ出力の振幅波形を示す図である。
【図6】ACアンプを通した波形を示す図である。
【図7】本発明の好適な一実施形態を示す図である。
【図8】本実施形態の変形例を示す図である。
【図9】本実施形態の変形例を示す図である。
【図10】別の利用形態を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 親機
2 子機
10 マイクロ波ドップラーセンサ
11 アンプ
12 バンドパスフィルタ
13 IF検波回路
21 ベースバンド信号発生器
22 インピーダンス可変器
23 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の子機と前記複数の子機に関する状態を検出する親機とを備える状態検出システムであって、
前記子機は、
アンテナと、
ベースバンド信号を発生する信号発生手段と、
前記信号発生手段によって発生されたベースバンド信号に基づき、前記アンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変手段と、
を備え、
各子機の前記信号発生手段は、子機ごとに異なる周波数のベースバンド信号を発生し、
前記親機は、
所定周波数のマイクロ波/ミリ波等の電波を生成する局部発振器と、
前記電波を放射する送信アンテナと、
前記送信アンテナから放射された電波の反射波を受信する受信アンテナと、
前記受信アンテナから受信した電波を前記局部発振器から出力される電波を混合する混合手段と、
前記混合手段の出力を前記子機ごとに異なる周波数に基づいて周波数別の信号に弁別する弁別手段と、
前記弁別手段によって弁別された前記周波数別の信号に基づき前記子機に関する状態を検出する状態検出手段と、
を備えることを特徴とする状態検出システム。
【請求項2】
複数の子機と前記複数の子機の状態を監視する親機とを備える状態検出システムであって、
前記子機は、
アンテナと、
ベースバンド信号を発生する信号発生手段と、
前記信号発生手段によって発生されたベースバンド信号に基づき、前記アンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変手段と、
を備え、
各子機の前記信号発生手段は、子機ごとに異なる周波数のベースバンド信号を発生し、
前記親機は、
所定周波数のマイクロ波/ミリ波等の電波を生成する局部発振器と、
前記電波を放射する送信アンテナと、
前記送信アンテナから放射された電波の反射波を受信する受信アンテナと、
前記受信アンテナから受信した電波を前記局部発振器から出力される電波と混合する第1混合手段と、
前記受信アンテナから受信した電波を前記局部発振器から出力される電波と混合する第2混合手段と、
前記第1混合手段及び前記第2混合手段の出力を前記異なる周波数に基づいて周波数別の信号にそれぞれ弁別する弁別手段と、
前記弁別手段によって弁別された前記周波数別の信号に基づき前記子機に関する状態を検出する状態検出手段と、
を備え、
前記第1の混合手段と前記第2の混合手段とは所定の距離、離れた位置に配置すること、
を特徴とする状態検出システム。
【請求項3】
前記所定の距離は、前記所定周波数の電波の波長の8分の1に相当する距離とすることを特徴とする請求項2に記載の状態検出システム。
【請求項4】
前記弁別手段は、前記第1混合手段の出力を前記異なる周波数に基づいて周波数別の信号に弁別する第1弁別手段と、前記第2混合手段の出力を前記異なる周波数に基づいて周波数別の信号に弁別する第2弁別手段とを備え、
前記状態検出手段は、前記第1弁別手段と前記第2弁別手段によって弁別された同一周波数帯の2つの信号を比較してレベルの高い信号に基づいてその同一周波数帯に対応する前記子機に関する状態を検出すること
を特徴とする請求項2または3に記載の状態検出システム。
【請求項5】
前記状態検出手段は、前記弁別手段によって出力された前記周波数別の信号のレベル変化があった場合に、当該周波数に対応する信号発生手段を持つ子機に関する状態変化があったと判定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の状態検出システム。
【請求項6】
前記弁別手段は、FFT、相関器、複数のBPFの少なくともいずれか1つで構成すること
を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の状態検出システム。
【請求項7】
前記子機の電源は電池であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の状態検出システム。
【請求項8】
複数の子機と前記複数の子機の状態を監視する親機とを備える状態検出システムにおける子機であって、
アンテナと、
ベースバンド信号を発生する信号発生手段と、
前記信号発生手段によって発生されたベースバンド信号に基づき、前記アンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変手段と、
を備え、
前記信号発生手段は、前記状態検出システムを構成する他の子機と異なる周波数のベースバンド信号を発生するものであることを特徴とする子機。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の状態検出システムにおける親機の構成を備える電子機器。
【請求項10】
アンテナと、
ベースバンド信号を発生する信号発生手段と、
前記信号の周波数を設定する設定手段と、
前記信号発生手段によって発生されたベースバンド信号に基づき前記アンテナに対するインピーダンスを可変するインピーダンス可変手段と、
を備える反射器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−298611(P2008−298611A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145483(P2007−145483)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(391001848)株式会社ユピテル (238)
【Fターム(参考)】